ウホッ良いヴィラン。ヤらないか。 作:お前達も執筆をヤらないか
恐怖が限界突破した瞬間、絵筆の『個性』が暴走領域へと踏み込んだ。巨大な光のゲートが爆発的に展開し、黒いモヤを力任せに押し払う。
「エマージェンシー! 全員出撃ザコ!」
「総員、緊急対応ザコォ!」
「危ないからみんなは下がるザコよ!」
右肩に『01』と刻まれた角付きのザコソルジャーが、生徒たちに後退を促す。
ゲートからは濁流のようにザコソルジャーたちが溢れ出し、施設の電源設備から力任せにエネルギーをバイパスさせてゲートを維持。数百を思わせる高密度で空間を埋め尽くしていった。
『ザコザコザコザコザコザコザコザコザコザコザコザコザコザコザコザコザコザコザコ!!』
「わわっ! 何これ!?」
「何が起きてるの!?」
圧倒的な数の暴力にクラスメイトが息をのむ中、阿部が静かに前へと歩み出た。
「さて……俺も行ってくるかな。相澤さんが限界だ」
遠目に見える相澤は、なんとか戦えているようであるが数の力に徐々に押されているように見える。
「阿部さん、その力はダメザコ! 男子の心に一生の傷が残るザコよ!」
ザコソルジャー01が必死に止めるが、阿部は静かに首を振った。
「このままじゃ相澤さんが死ぬ。問答をしている猶予はないな」
「……そこまで言うなら仕方ないザコ。絵筆、大丈夫ザコ?」
限界まで恐怖に怯えながらも、絵筆は必死に頷いた。
「レッドを呼ぶザコ! 13号先生、皆をお願いするザコ!」
阿部と絵筆は、倒れ込む相澤のもとへと駆け出した。
相澤は周囲のヴィランの多くを相手にして数名を行動不能にしていたものの、やはり倒し切れてはおらず片腕を壊され、脳みそむき出しの巨大なヴィランに殴り飛ばされた瞬間が目に入った。
「うっ……。 レッドさん」
絵筆は恐怖で吐き戻しそうになりながらも本を開いて頼み、小さなゲートが現れると緑のザコソルジャーとは異なり、背格好は同じだが全身赤一色で染め上げられ最初から角があるソルジャーが現れた。
何も言わずレッド・ザコソルジャーは体制を少し低くし動いたと思った直後、相澤先生を担ぎ絵筆の横に担ぎながら佇んでいた。
「……舘紙か。 退避しろと言ったはずだ」
相澤先生は危険だと言うも、恐怖に震えながら必死に相手を見据えている絵筆、そして次々と光のゲートからザコソルジャーが出現する姿に、彼女が逃げるのではなく戦おうと覚悟を決めている事を理解した。
「なんだ? 学生と、用務員か? 雑魚がいくら湧こうが関係ない、とっとと片付けろ」
体中に手のアクセサリーを付けた男は首を傾げながら、イレイザーヘッドを囲んでいた配下のヴィランたちに身振りで命令を下す。
「ちょいとギリギリだったな。 それじゃ、絵筆の事頼むよ」
阿部は4歩ほど前に出た。何もなかった空間に腰掛けるような姿勢をとると、その背後と周囲に不気味な気配を纏った公衆トイレとベンチが突如として現れる。阿部はゆっくりとベンチに腰かけると、ツナギのフロントファスナーを掴み、静かに下ろしていった。
「やらないか」
その声が響いた瞬間、周囲にいた男ヴィランたちの動きがピタリと止まった。
意識とは無関係に、彼らの腰から下が勝手に公衆トイレに向かって列をなし歩みを進め始める。個性を使おうと抵抗を試みるも、指先一つまともに力が入らない。
「なっ……なんだこれ!? 体が勝手に……!?」
「やめろ! 行きたくない! 離せ!!」
先頭にいた男ヴィランが悲鳴を上げながら強制的に公衆トイレの男子入口の向こうへと引きずり込まれた。
「アッーーーーーーー!!」
直後、USJ内に野太くも甲高い、男としての尊厳を叩き割られた絶叫が木霊する。
続いて二人目、三人目の男ヴィランが意思に反して列を作り、吸い込まれるように中へ入っていく。その度に響き渡る惨叫と謎の気配。
「アッーーーーー!!」
「ひぁっ……! 助け……アッーーーーー!?」
たった数分の間に、前衛にいた荒くれ者のヴィランたちが次々と「理解」させられる声が響き渡り続ける。
「な……なんだあいつは!? 何なんだあの能力は!?」
手のアクセサリーを全身につけた男――死柄木弔は、目の前で起きている理解不能かつ悍ましい光景に激しく首をかきむしった。配下たちが物理的なダメージではなく、精神と尊厳を根本から破壊されて脱落していく。しかも、よく見れば列の後ろの方にいるヴィランだけでなく、自分自身の足すらも微かに阿部のいる方向へ向かってピクピクと震え始めている。
「クソが……! 不快だ! わけのわからないゴミが!! 脳無! そいつを殺せ!! ぐちゃぐちゃにすり潰せ!!」
死柄木の金切り声のような命令を受け、脳みそを剥き出しにした異形の怪物「脳無」が地響きを立てて飛び出した。
オールマイトを殺すためだけに作られた超腕力と超再生を持つ殺戮兵器。それが空気を切り裂く拳を振り上げ、ベンチに座る阿部へと肉薄する。
「おいおい、ハッスルするのなら“あっち”でな」
だが、阿部は動じなかった。
脳無の殺気漲る拳が届く直前、阿部はいつの間にか脳無の真横に立ち、自然な動作でそのゴツゴツとした巨大な手に自身の手を重ね――「恋人繋ぎ」を完成させていた。
「ガっ……!? ギ……!?」
衝撃吸収も超再生も関係なかった。
行動強制のロジックに縛られた脳無は、阿部に手を引かれるまま素直に足を進め、二人で公衆トイレの中へと入っていく。
「脳無!? なにをやっているんだ脳無!! 殺せと言っただろ!!」
死柄木が叫ぶ。しかし、その叫びを打ち消すように――
「ア”ッ”ーーーーーーー!!!」
これまでの男ヴィランたちとは比べ物にならない、凶暴な獣が悲鳴を上げたかのような恐ろしい叫びがUSJ全体に轟いた。
わずか5秒後。公衆トイレの扉が開き、上半身裸になった阿部が満足げな表情で姿を現した。ベンチにゆったりと背を預け、舌で軽く唇を舐める。
「実に良い締りだった。やはり言葉ではなく、体で繋がり合わなきゃな」
「……は? オールマイト用の……俺の脳無が……?」
死柄木は絶句した。そして、ベンチに腰掛けた阿部の粘着質な視線が、ゆっくりと自分の方へと向けられたのを感じた瞬間――死柄木の全身に、生まれて初めて味わう本能的な戦慄が走った。
「ヒッ……!? く、黒霧!! 撤退だ!! 今すぐここから出せ!!」
「と、トムラ!? しかし――」
「いいから早くしろ!! あいつに近付くな!! 殺されるよりヤバい!!」
尊厳の危機を察知した死柄木は、プライドもオールマイト殺害の目的も投げ打ち、半狂乱になって叫んだ。続いて視線を向けられた黒霧もまた、言葉を失うほどの脅威を感じ取り、すぐさま死柄木を濃密な黒い靄で覆い隠す。
「出直しだ……! 覚えてろ……絶対に殺してやる……!」
黒い霧とともにヴィラン連合の首謀者はUSJから完全に消失した。
某所・ヴィラン連合の隠れ家。
黒霧のワープ能力によって、死柄木たちは命からがら拠点へと逃げ戻ることに成功していた。
「話が違うぞ先生! あんな妙でクソヤバい奴がいるなんて聞いてない!!」
バーカウンターに倒れ込み、血が出るほどに首筋をかきむしりながら怒鳴り散らす死柄木弔。
その声を、音声だけのモニター越しに聞こえる「先生」と呼ばれた男は静かに、まるでカウンセリングでもするかのように穏やかなトーンで受け止めていた。
「……なるほど。つまり、用務員と思われる男の不可解な『個性』によって、全員が行動を制限され無力化された……と。不測の事態に対する見通しが甘かったとも言えるね」
死柄木が荒い息を吐きながら少し落ち着くと、傍らに立つ黒霧が詳細な補足説明を静かに付け加える。
「補足いたします。相手は物理的な破壊や殺傷を行ったわけではありません。前線にいた男性ヴィランたちが意思に反して列を作り、謎の空間へと引きずり込まれ……結果として精神的・肉体的な喪失感から戦意を完全に喪失いたしました。……対オールマイト用に調整した脳無さえも、同じ手順で無力化されております」
「すまないね、弔。しかし、そのような規格外の個性を秘めた人物が雄英の職員にいたとはね」
モニターの奥の男は、焦る様子もなく思案するように言葉を紡ぐ。失敗は成功に至るための過程に過ぎない。邪魔な障害現れたのなら、対処方法や準備をまた一つずつ積み上げればよいだけのこと。
「博士。該当する個性のデータや、似た症例の記録はあるかい?」
「……うーむ、個性のデータベースを検索させましたが、男を行動強制・精神破壊するような類似データは存在しませんな。再度深く調べてみますが……」
ドクターと呼ばれた老人の声が困惑混じりに響く。雄英内部には生徒の一人を協力者として潜り込ませているものの、あくまで一般生徒。職員や用務員の詳細な個人情報まで追うのは難しく、ボロが出るリスクがあった。
「ただ……ひとつ気になる点がございます」
黒霧がふと、記憶を反芻するように思い返す。
「被害を受けたのは、例外なく『男性』のみでした。あの場には女性の生徒や女性ヴィランも何名かおりましたが、あの男が視線を向け、手を出したのは我々男性ヴィランと男型の脳無だけです」
「ほう……男性のみ、かね」
モニターの男の雰囲気が、わずかに鋭さを増した。
「対オールマイト用脳無を回収できなかったのは大痛手じゃぞ。あれには相当な手間暇とコストが掛かっておる。同じものを用意するにはまた年単位の時間がかかるわい」
ドクターが悔しそうに唸るが、先生は優しく死柄木に語りかける。
「残念だが仕方がないさ。また別の手段を用意しよう。悔やむ必要はないよ弔、今回だって決して無駄ではなかった。君の精鋭を、これから時間をかけてじっくり集めればいい。僕らはまだ自由に動けない、だからこそ君という『恐怖のシンボル』が必要なんだ。次こそは、君という存在を世界に知らしめよう」
「あいつ……あのツナギの男……絶対許さねぇ……!」
死柄木は恐怖と屈辱に体を震わせながら、モニターに映る先生の言葉にしがみつくように深々と頷いた。
悪の芽は、失敗を糧にしながら着々と大樹への成長を始めていた。
事件収束後、雄英高校・会議室。
教諭陣と警察関係者が集まり、USJ襲撃事件の分析が行われていた。ロボットでもあるザコソルジャーから提供された完璧な映像・音声データはあるものの、敵の性格などの推測は迅速に進んでいる。
「思い通りにいかないと露骨に子供のように苛立つ精神性。自己中心的なテロリストだな」
「ワープの個性持ちも登録データには存在しません」
深刻な討議が進む中、根津校長がどこか遠い目をして切り出した。
「……さて、かならず話さなくてはならないのだが」
画面が切り替えられ、阿部高和の情報が映し出される。
「彼いわく『ノンケでも喰っちまう』そうでね。行動強制は服を脱ぐまでで、その後は極限の快楽によるお互いの理解……つまり合意の上の愛営だそうだ。その結果、彼らは自発的に掘り掘られを繰り返し……」
「校長、もうそれ以上は勘弁してください……!」
男性教師たちは思わず己の尻を庇い、ガタガタと震え上がった。悪党とはいえ、男としての尊厳を完全に破壊されたヴィランたちに同情せざるを得ない。
それも“お互いに合意して掘って掘られ”と、それが裏社会にでも流れてしまえば一生嗤い者として生きる事になるだろう。
「体育祭も近いが、阿部高和を公の場に出すわけにはいかないね。男子生徒を守るためにもだ」
「もちろんです……! しかし、問題はそれだけではありません」
画面が切り替わり、絵筆のゲートから無制限に湧き出し、USJを埋め尽くしたザコソルジャーたちの映像が映し出された。
「最大展開数は500と聞いていましたが……」
「確実に超えている。現場には少なくとも800以上が存在していた」
「彼らは見事な連携で生徒を守り、通信室の奪還まで完遂しました」
「ザコ『ソルジャー』……まさに軍隊としての高度な戦術組織だな」
「彼女がヒーローを目指してくれて本当によかった……」
「館紙さんのメンタルケアとカウンセリングを強化しましょう。あの『数』がもし悪に転じれば、社会が崩壊しかねない」
圧倒的な力と、あまりにも凶悪な守護者。雄英高校は、この心優しき少女と彼女の『仲間たち』を慎重に育んでいく決意を固めるのだった。
次の投稿は時間が空きます。そして当分の阿部さんの食い荒らし出番はありません。
いや、阿部さんをね?全国放送の体育祭で出すわけにはいかんでしょ!?!?
ザコソルジャー+αに頑張ってもらいます。