新エリー都 スロノス区
衛非地区 適当観
今、僕はとあることを確かめるために適当観へとやって来ている。
確認したいのは――僕が使える、あの力についてだ。
人の傷や苦痛を和らげる、不思議な力。
妄想エンジェルのみんなを助けた時にも使ったけど、その後は身体に強い疲労が残り、胸の鼓動も妙に速くなっていた。
リンとアキラには「あまり使わないように」と言われたけど……。
そもそも、この力が何なのか。
少しくらい手掛かりが欲しい。
そんなことを考えながら歩いていると――
「あっ! お弟子君!!」
「あっ、福姐さん! ご無沙汰してます!」
「今日はどうしたんですか?」
「師匠にちょっと用事があって……!」
「お師匠様なら、お部屋に瞬光ちゃんと一緒にいると思いますよ!」
「一緒に行きましょう!」
福姐さんと一緒に師匠の部屋へ向かう。
部屋の前に着くと、福姐さんはそのままドアを開けた。
「お師匠様~! 瞬光ちゃん! お弟子君が来ま――」
そこで福姐さんの動きが止まった。
「……?」
「どうしたんですか、福姐さ――」
不思議に思い、横から部屋を覗き込む。
そして――僕も固まった。
部屋の中にいたのは、
妄想エンジェルのコスプレをしている師匠と瞬光だった。
「おい瞬光、これは……やばくないか……?」
「大丈夫! 師匠きれいだから似合ってるよ!」
「おい福福、ノックくらい――」
師匠がこちらを向く。
そして僕と目が合った。
「…………」
「…………」
瞬光の顔も徐々に赤くなっていく。
僕は静かに一歩下がった。
「……ここは邪気がやばいですね……」
「では!」
何も見なかったことにして立ち去ろうとした、その瞬間。
「待て」
恐る恐る振り返る。
顔を真っ赤にした瞬光が拳を握っている。
隣では師匠も妙に真剣な表情で構えていた。
「邪崇滅殺!!!」
「ちょっ――!?」
最後に見たのは、顔を真っ赤にした瞬光とマジな顔をした師匠だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「まったくお前さん、女性の部屋に入る前にはノックくらいするだろう? 師匠は心配だぞ」
「そ、そうだよ○○! さすがにノックしないのは恥ずかしいよ!」
「ふぁい……ふいませんでひた……」
僕はボコボコにされた。
「いや……ドアを開けたの福姐さんじゃ……」
「何か言ったか?」
「何でもありません」
これ以上言うのはやめておこう。
師匠と瞬光はいつもの服に着替え、僕の前の椅子に座っている。
ちなみに福姐さんは、いつの間にか姿を消していた。
逃げたな……。
「それで?」
師匠が腕を組みながら僕を見る。
「お前さんは、わざわざ何をしに来たんだ?」
「昔の僕のことで、ちょっと聞きたいことがあってさ」
そう言った瞬間、二人の表情が変わった。
「昔のお前さんのこと?」
「も、もしかして何か思い出したとか!?」
瞬光が少し嬉しそうに聞いてくる。
「ごめん。記憶の方は全然……」
「あっ……」
一瞬曇った瞬光の表情に、少し胸が痛む。
「ううん、謝らないで! つらいのは○○なんだから」
「ありがとう」
師匠が改めて尋ねる。
「それで? 何を聞きたいんだ?」
「昔の僕って――他の人を治すような力、使ってました?」
その瞬間。
二人の表情が固まった。
瞬光に至っては、少し泣きそうな顔をしている。
「あ、あれ? なんか変なこと聞いちゃいました?」
「……使っていた」
師匠が静かに答える。
「以前のお前さんも、その力を使っていた」
「やっぱり……!」
今の僕だけが突然使えるようになった力じゃない。
それが分かっただけでも、少し安心する。
「その力について、昔の僕は何か言ってました?」
「何か、とは?」
「例えば……使った後、身体がすごくだるくなるとか」
妄想エンジェルのみんなを助けた時のことを思い出す。
「胸が変な感じになるとか……負担がすごいとか?」
ガタンッ!!
師匠が勢いよく立ち上がった。
「お前さん、それを使ったのか!?」
「○○っ!? 身体は大丈夫!?」
瞬光も同時に立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待って!」
勢いに押されながら、自分の胸に手を当てる。
「使った時は少し胸がバクバクしたり、身体が疲れたりしたけど……今は特に異常ないよ?」
僕の言葉を聞き、二人は揃って息を吐いた。
「……あまり驚かせるな」
「もう……! 本当に驚かせないでよ……」
「ご、ごめん……」
でも、二人の反応ではっきりした。
やっぱりこの力には何かある。
「それで……以前の僕は、その力について何か言ってました?」
師匠は少し考えた後、口を開いた。
「以前のお前さんも、その能力を使った後は辛そうにしていた」
「辛そうに?」
「ああ。平気だと笑ってはいたが、息が乱れていた時もあったし、胸元を押さえている姿も見た」
「……胸を?」
反射的に自分の胸へ手を当てる。
あの時と同じだ。
「ワタシが青冥剣の反動で苦しんでた時も、○○が楽にしてくれたんだよ?」
瞬光も言葉を続ける。
「でも、その後の○○はすごく疲れてた」
「……そうだったんだ」
師匠は腕を組む。
「お前さんのその力は、はっきり言って異常だ。青冥剣の影響すら和らげる。普通の治療能力とは思えん」
「それに――」
師匠の声が少し低くなる。
「以前のお前さんが段々と記憶を失っていった時、一度聞いたことがある」
「何を?」
「その力の副作用ではないのか、とな」
一瞬、息が止まる。
「記憶が……この力の?」
「ああ。だがお前さんは否定した」
「否定した?」
「『直接的な原因ではない』とな」
「直接的な……原因じゃない……」
その言葉を小さく繰り返す。
なら、まったく関係がないのか。
それとも――何か別の形で関係しているのか。
「ただし」
師匠が僕を見る。
「少なくとも、使った後に疲労や胸の異常を感じている以上、身体に負荷が掛かっているのは確かだろう」
「極力使わない方がいい」
隣から瞬光も真剣な顔で僕を見る。
「ワタシからもお願い、○○」
「これ以上、その力を簡単に使わないって約束して?」
少し迷った後、僕は頷く。
「リンとアキラにも同じこと言われたよ」
「うん。極力使わない」
「約束!」
そう答えると、瞬光はようやく少し笑った。
「……絶対だからね?」
「うん」
師匠も僅かに表情を緩める。
「まったく……お前さんは以前から変わらんな」
「え?」
「いや、何でもない」
気になるけど、師匠はそれ以上話すつもりはないらしい。
「でもなぁ……」
僕は椅子にもたれかかる。
「結局、この力について何にもヒントがないのか……」
以前から使えた。
使った後は体調が悪くなっていた。
記憶喪失の直接的な原因ではない。
分かったのはそれくらいだ。
そう思っていると――
「……そういえば」
師匠が呟いた。
「ん?」
「以前のお前さんは日記をつけていた」
「日記?」
思わず身体を起こす。
「ああ。記憶がおかしくなり始めてから、忘れないようにな」
「あっ!」
瞬光も思い出したように声を上げる。
「その日記なら、○○の部屋の机にあるはずだよ!」
「本当!?」
「うん! 確か一番下の引き出しだったと思う!」
日記。
以前の僕自身が残した記録。
それなら、何か手掛かりがあるかもしれない。
「ありがとう! ちょっと読んでみるよ!」
僕は勢いよく立ち上がる。
「……ああ」
「気をつけてね、○○」
「日記読むだけだよ?」
思わず笑いながら、僕は部屋を出た。
「師匠……」
遠ざかる僕の背中を見ながら、瞬光が小さく呟く。
「今度は……大丈夫だよね?」
師匠はしばらく黙った後、静かに答えた。
「あやつを信じるしかあるまい」
二人のそんな会話に、僕は気づかなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
自分の部屋へ戻った僕は、机の前に座った。
「確か……一番下の引き出しって言ってたよね」
上から順番に開けていく。
筆記用具。
使った覚えのない小物。
古い紙。
「これじゃない……」
最後に、一番下の引き出しへ手を掛ける。
少しだけ手が止まった。
ここを開けたら。
今の僕が知らない自分のことを知ることになる。
「……何怖がってんだよ」
知りたくてここまで来たんだ。
僕はゆっくりと引き出しを開ける。
その奥に――
一冊の古びた日記帳が置かれていた。
「……これか」
手に取った瞬間。
何故か胸の奥がざわついた。
懐かしいような。
少し怖いような。
「以前の……僕の日記」
この中に。
今の僕が知らない『僕』がいる。
数秒迷ってから。
僕はゆっくりと、日記の表紙を開いた。
日記には何が書いてあるんでしょうかね??
感想等お待ちしてます!