記憶のない僕と、みんなが知ってる俺   作:からあげマヨネーズ

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第12話 僕と『俺』の手掛かり

新エリー都 スロノス区

衛非地区 適当観

 

今、僕はとあることを確かめるために適当観へとやって来ている。

 

確認したいのは――僕が使える、あの力についてだ。

 

人の傷や苦痛を和らげる、不思議な力。

 

妄想エンジェルのみんなを助けた時にも使ったけど、その後は身体に強い疲労が残り、胸の鼓動も妙に速くなっていた。

 

リンとアキラには「あまり使わないように」と言われたけど……。

 

そもそも、この力が何なのか。

 

少しくらい手掛かりが欲しい。

 

そんなことを考えながら歩いていると――

 

「あっ! お弟子君!!」

 

「あっ、福姐さん! ご無沙汰してます!」

 

「今日はどうしたんですか?」

 

「師匠にちょっと用事があって……!」

 

「お師匠様なら、お部屋に瞬光ちゃんと一緒にいると思いますよ!」

 

「一緒に行きましょう!」

 

福姐さんと一緒に師匠の部屋へ向かう。

 

部屋の前に着くと、福姐さんはそのままドアを開けた。

 

「お師匠様~! 瞬光ちゃん! お弟子君が来ま――」

 

そこで福姐さんの動きが止まった。

 

「……?」

 

「どうしたんですか、福姐さ――」

 

不思議に思い、横から部屋を覗き込む。

 

そして――僕も固まった。

 

部屋の中にいたのは、

 

妄想エンジェルのコスプレをしている師匠と瞬光だった。

 

「おい瞬光、これは……やばくないか……?」

 

「大丈夫! 師匠きれいだから似合ってるよ!」

 

「おい福福、ノックくらい――」

 

師匠がこちらを向く。

 

そして僕と目が合った。

 

「…………」

 

「…………」

 

瞬光の顔も徐々に赤くなっていく。

 

僕は静かに一歩下がった。

 

「……ここは邪気がやばいですね……」

 

「では!」

 

何も見なかったことにして立ち去ろうとした、その瞬間。

 

「待て」

 

恐る恐る振り返る。

 

顔を真っ赤にした瞬光が拳を握っている。

 

隣では師匠も妙に真剣な表情で構えていた。

 

「邪崇滅殺!!!」

 

「ちょっ――!?」

 

最後に見たのは、顔を真っ赤にした瞬光とマジな顔をした師匠だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「まったくお前さん、女性の部屋に入る前にはノックくらいするだろう? 師匠は心配だぞ」

 

「そ、そうだよ○○! さすがにノックしないのは恥ずかしいよ!」

 

「ふぁい……ふいませんでひた……」

 

僕はボコボコにされた。

 

「いや……ドアを開けたの福姐さんじゃ……」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもありません」

 

これ以上言うのはやめておこう。

 

師匠と瞬光はいつもの服に着替え、僕の前の椅子に座っている。

 

ちなみに福姐さんは、いつの間にか姿を消していた。

 

逃げたな……。

 

「それで?」

 

師匠が腕を組みながら僕を見る。

 

「お前さんは、わざわざ何をしに来たんだ?」

 

「昔の僕のことで、ちょっと聞きたいことがあってさ」

 

そう言った瞬間、二人の表情が変わった。

 

「昔のお前さんのこと?」

 

「も、もしかして何か思い出したとか!?」

 

瞬光が少し嬉しそうに聞いてくる。

 

「ごめん。記憶の方は全然……」

 

「あっ……」

 

一瞬曇った瞬光の表情に、少し胸が痛む。

 

「ううん、謝らないで! つらいのは○○なんだから」

 

「ありがとう」

 

師匠が改めて尋ねる。

 

「それで? 何を聞きたいんだ?」

 

「昔の僕って――他の人を治すような力、使ってました?」

 

その瞬間。

 

二人の表情が固まった。

 

瞬光に至っては、少し泣きそうな顔をしている。

 

「あ、あれ? なんか変なこと聞いちゃいました?」

 

「……使っていた」

 

師匠が静かに答える。

 

「以前のお前さんも、その力を使っていた」

 

「やっぱり……!」

 

今の僕だけが突然使えるようになった力じゃない。

 

それが分かっただけでも、少し安心する。

 

「その力について、昔の僕は何か言ってました?」

 

「何か、とは?」

 

「例えば……使った後、身体がすごくだるくなるとか」

 

妄想エンジェルのみんなを助けた時のことを思い出す。

 

「胸が変な感じになるとか……負担がすごいとか?」

 

ガタンッ!!

 

師匠が勢いよく立ち上がった。

 

「お前さん、それを使ったのか!?」

 

「○○っ!? 身体は大丈夫!?」

 

瞬光も同時に立ち上がる。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

勢いに押されながら、自分の胸に手を当てる。

 

「使った時は少し胸がバクバクしたり、身体が疲れたりしたけど……今は特に異常ないよ?」

 

僕の言葉を聞き、二人は揃って息を吐いた。

 

「……あまり驚かせるな」

 

「もう……! 本当に驚かせないでよ……」

 

「ご、ごめん……」

 

でも、二人の反応ではっきりした。

 

やっぱりこの力には何かある。

 

「それで……以前の僕は、その力について何か言ってました?」

 

師匠は少し考えた後、口を開いた。

 

「以前のお前さんも、その能力を使った後は辛そうにしていた」

 

「辛そうに?」

 

「ああ。平気だと笑ってはいたが、息が乱れていた時もあったし、胸元を押さえている姿も見た」

 

「……胸を?」

 

反射的に自分の胸へ手を当てる。

 

あの時と同じだ。

 

「ワタシが青冥剣の反動で苦しんでた時も、○○が楽にしてくれたんだよ?」

 

瞬光も言葉を続ける。

 

「でも、その後の○○はすごく疲れてた」

 

「……そうだったんだ」

 

師匠は腕を組む。

 

「お前さんのその力は、はっきり言って異常だ。青冥剣の影響すら和らげる。普通の治療能力とは思えん」

 

「それに――」

 

師匠の声が少し低くなる。

 

「以前のお前さんが段々と記憶を失っていった時、一度聞いたことがある」

 

「何を?」

 

「その力の副作用ではないのか、とな」

 

一瞬、息が止まる。

 

「記憶が……この力の?」

 

「ああ。だがお前さんは否定した」

 

「否定した?」

 

「『直接的な原因ではない』とな」

 

「直接的な……原因じゃない……」

 

その言葉を小さく繰り返す。

 

なら、まったく関係がないのか。

 

それとも――何か別の形で関係しているのか。

 

「ただし」

 

師匠が僕を見る。

 

「少なくとも、使った後に疲労や胸の異常を感じている以上、身体に負荷が掛かっているのは確かだろう」

 

「極力使わない方がいい」

 

隣から瞬光も真剣な顔で僕を見る。

 

「ワタシからもお願い、○○」

 

「これ以上、その力を簡単に使わないって約束して?」

 

少し迷った後、僕は頷く。

 

「リンとアキラにも同じこと言われたよ」

 

「うん。極力使わない」

 

「約束!」

 

そう答えると、瞬光はようやく少し笑った。

 

「……絶対だからね?」

 

「うん」

 

師匠も僅かに表情を緩める。

 

「まったく……お前さんは以前から変わらんな」

 

「え?」

 

「いや、何でもない」

 

気になるけど、師匠はそれ以上話すつもりはないらしい。

 

「でもなぁ……」

 

僕は椅子にもたれかかる。

 

「結局、この力について何にもヒントがないのか……」

 

以前から使えた。

 

使った後は体調が悪くなっていた。

 

記憶喪失の直接的な原因ではない。

 

分かったのはそれくらいだ。

 

そう思っていると――

 

「……そういえば」

 

師匠が呟いた。

 

「ん?」

 

「以前のお前さんは日記をつけていた」

 

「日記?」

 

思わず身体を起こす。

 

「ああ。記憶がおかしくなり始めてから、忘れないようにな」

 

「あっ!」

 

瞬光も思い出したように声を上げる。

 

「その日記なら、○○の部屋の机にあるはずだよ!」

 

「本当!?」

 

「うん! 確か一番下の引き出しだったと思う!」

 

日記。

 

以前の僕自身が残した記録。

 

それなら、何か手掛かりがあるかもしれない。

 

「ありがとう! ちょっと読んでみるよ!」

 

僕は勢いよく立ち上がる。

 

「……ああ」

 

「気をつけてね、○○」

 

「日記読むだけだよ?」

 

思わず笑いながら、僕は部屋を出た。

 

「師匠……」

 

遠ざかる僕の背中を見ながら、瞬光が小さく呟く。

 

「今度は……大丈夫だよね?」

 

師匠はしばらく黙った後、静かに答えた。

 

「あやつを信じるしかあるまい」

 

二人のそんな会話に、僕は気づかなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

自分の部屋へ戻った僕は、机の前に座った。

 

「確か……一番下の引き出しって言ってたよね」

 

上から順番に開けていく。

 

筆記用具。

 

使った覚えのない小物。

 

古い紙。

 

「これじゃない……」

 

最後に、一番下の引き出しへ手を掛ける。

 

少しだけ手が止まった。

 

ここを開けたら。

 

今の僕が知らない自分のことを知ることになる。

 

「……何怖がってんだよ」

 

知りたくてここまで来たんだ。

 

僕はゆっくりと引き出しを開ける。

 

その奥に――

 

一冊の古びた日記帳が置かれていた。

 

「……これか」

 

手に取った瞬間。

 

何故か胸の奥がざわついた。

 

懐かしいような。

 

少し怖いような。

 

「以前の……僕の日記」

 

この中に。

 

今の僕が知らない『僕』がいる。

 

数秒迷ってから。

 

僕はゆっくりと、日記の表紙を開いた。

 




日記には何が書いてあるんでしょうかね??

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