記憶のない僕と、みんなが知ってる俺   作:からあげマヨネーズ

16 / 16
第15話 俺が消えた場所

「昔の僕に何があったのか」

 

「ちゃんと知りたい」

 

僕はそう言って、ホロウに入る準備を始める。

 

隣ではリンとアキラも立ち上がっていた。

 

「○○だけだと心配だから、私たちも行く」

 

「ああ、その方が安全だ」

 

「でも、ホロウの中は危険が――」

 

そう言いかけると、リンがグイッと顔を近づけてくる。

 

「一緒に行かないと、○○絶対無理するでしょ!!」

 

「……はい」

 

そうして僕とリン、そしてイアスに入ったアキラは、記録に残っていた場所へ向かった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ここなの?」

 

僕たちは記録に残っていた場所へやって来た。

 

昔の僕の、最後の記録が残っていた場所だ。

 

「記録が正しければ、昔の君はここに来ているはずだ。何か思い出すかい?」

 

アキラがデータを確認しながら聞いてくる。

 

「うーん……? 全然覚えてないな……」

 

辺りを見回してみても、僕の記憶に引っかかるものは何もなかった。

 

横を見ると、リンが心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。

 

「○○、大丈夫? 無理に思い出そうとしなくてもいいからね?」

 

「ありがとう、リン。大丈夫だよ」

 

「私はその『大丈夫』が一番信用できないの!!」

 

リンがプンスコと頬を膨らませる。

 

「だから本当に無茶だけはしないで……!」

 

「……ありがとう」

 

僕はリンの頭を軽く撫でる。

 

「…………」

 

するとアキラがゴホンッと咳払いをした。

 

「とりあえず、進んでみようか」

 

「そ、そうだね!」

 

僕たちはホロウの奥へと進んでいった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ホロウを進んでいくと、目の前に分かれ道が現れた。

 

「え~、分かれ道~?」

 

リンが左右を見ながら呟く。

 

「○○、お兄ちゃん。どっちか分かる?」

 

「記録が少し古くて、この先までは分からないな」

 

「そっか。○○は?」

 

「僕?」

 

僕も左右の道を見る。

 

「…………」

 

左。

 

右。

 

なぜか右の道を見た瞬間、妙な感覚がした。

 

「……右、かも?」

 

「何か思い出したの?」

 

リンが聞いてくる。

 

「いや、何にも……」

 

もう一度右の道を見る。

 

「でも、なんとなくこっちな気がするんだ」

 

僕の言葉を聞いて、アキラが少し考える。

 

「……なんとなく、か」

 

「そうしたら右へ行ってみよう。他に手掛かりもないからね」

 

「うん!」

 

僕たちは右の道へ進んでいった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

しばらく道を進むと、激しい戦闘の跡が残っていた。

 

それも一か所だけじゃない。

 

壁。

 

床。

 

さらにその先にも。

 

いたるところに戦闘痕が残されている。

 

「……これは」

 

「ここでかなり激しい戦闘があったみたいだ……」

 

「これを僕が……?」

 

僕は壁に残された傷に触れながら呟く。

 

「まだ確証はないけど、時期はかなり近い」

 

アキラの言葉を聞いて、もう一度周囲を見渡す。

 

「……でも、僕がやったにしては範囲が広すぎない?」

 

「確かに……○○一人が戦ってたにしても、こんなに移動する必要あるのかな……?」

 

「一度ではなく、何度も戦っていたのかもしれないね」

 

「一人で……何度も……」

 

僕がそう呟くと、リンが僕の袖をギュッと握りしめた。

 

「…………」

 

そんなリンに、僕は笑いかけることしかできなかった。

 

少し先へ進むと――。

 

「あっ!」

 

リンが何かを見つけた。

 

「何かあるよ!」

 

壁際には、ボロボロになった端末が落ちていた。

 

リンがそれを拾い上げる。

 

「これ、まだ動くかな?」

 

「どうだろ?」

 

リンが端末を操作すると――。

 

ピッ。

 

液晶に小さく光が灯った。

 

「ついた!」

 

それをアキラが受け取り、何やら操作を始める。

 

しばらくすると――。

 

「少しなら復元できそうだ」

 

「ほんとに!?」

 

僕とリンも液晶を覗き込む。

 

画面には大量の数字や文字が映し出されていた。

 

「なにこれ……?」

 

「暗号……?」

 

「いや、これは……」

 

アキラの声が少し険しくなる。

 

「戦闘時間」

 

「負傷回数」

 

「回復までの時間」

 

「身体反応……」

 

「…………」

 

「これは、普通の戦闘記録じゃない」

 

「どういうこと?」

 

「記録されているのは戦闘内容じゃない」

 

アキラが画面を見ながら続ける。

 

「○○。君の身体の状態が記録されている」

 

「僕の……?」

 

「戦っている時間や負傷の程度。それから、回復するまでにどれくらいかかったか」

 

「そんなものまで?」

 

リンも画面を覗き込む。

 

「なんで○○のこと、こんなに細かく……」

 

「…………」

 

僕は画面に表示されている文字を見る。

 

「これ……僕の記録なの?」

 

「おそらく」

 

「…………」

 

背中がぞわっとする。

 

僕は仕事を受けてここに来たはずだ。

 

なのに――。

 

「なんで僕……観察されてるの……?」

 

誰も答えなかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

僕たちはさらに端末を調べる。

 

「○○」

 

「どうしたの?」

 

「通信記録が残ってる」

 

「通信……?」

 

「データの状態はボロボロだけど、何とか一部は復旧できた」

 

「聞いてみよう!」

 

アキラが再生ボタンを押す。

 

ザザッ……。

 

激しいノイズが流れる。

 

その中から、機械的な声が聞こえてきた。

 

『――対象の計測を継続』

 

「…………」

 

『対象の回復を確認。負荷はさらに増大』

 

僕たちは言葉を失う。

 

すると機械音声に混じって、別の声が聞こえてきた。

 

『想像以上だよ!!』

 

その声を聞いた瞬間――。

 

ズキッ――!

 

「っ!?」

 

頭の奥に激しい痛みが走った。

 

「○○!?」

 

リンの声が遠くなる。

 

視界が歪む。

 

そして――。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

『ハァ……ハァ……!』

 

荒い呼吸が耳の奥で響いている。

 

誰かが走っていた。

 

いや、違う。

 

これは――俺だ。

 

俺が、必死に走っている。

 

服はところどころ破れ、身体中に鋭い痛みが走っていた。

足を動かすたびに傷が疼く。それでも、立ち止まることだけはできない。

 

後ろから、何かが追ってきている。

 

『クソッ……!』

 

前方に影が揺らめいた。

 

次の瞬間、進路を塞ぐようにエーテリアスが姿を現す。

 

『またかよ……!』

 

悪態をつきながら剣を構える。

 

考えている暇なんてない。

 

斬る。

 

倒す。

 

その向こうから、また現れる。

 

倒す。

 

さらに次が来る。

 

『いつまで湧いてくるんだよ……!』

 

息を吸っても、肺に空気が入ってこないような感覚がする。

 

身体が重い。

 

腕も、足も、もう止まってしまいそうだった。

 

それでも動く。

 

止まればどうなるのか、本能が理解しているかのように。

 

そのときだった。

 

どこからともなく、声が聞こえてくる。

 

『……まだ動けるんだね?』

 

『…………!』

 

背筋に冷たいものが走る。

 

俺は足を止め、声のした方向を睨みつけた。

 

姿は見えない。

 

けれど、その声には聞き覚えがあった。

 

『……妖怪』

 

『テメェ……!』

 

俺が吐き捨てると、どこからか楽しそうな笑い声が返ってくる。

 

まるで、俺が苦しんでいる姿そのものを楽しんでいるような声だった。

 

『まだまだ面白いものが見られそうだよ!』

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「○○!!」

 

「っ!?」

 

呼び声と同時に、意識が一気に引き戻される。

 

目を開けると、すぐ目の前にリンの顔があった。

 

「リン……?」

 

「大丈夫!? 急にぼーっとして!」

 

リンは今にも泣きそうなほど心配そうな顔で、僕の顔を覗き込んでいる。

 

「だ、大丈夫……」

 

いつものようにそう答えかけて、途中で口を閉じた。

 

……まただ。

 

また僕は、何も考えずに「大丈夫」と言おうとした。

 

さっきリンに怒られたばかりなのに。

 

「……いや」

 

僕は額に手を当てる。

 

夢から覚めたはずなのに、頭の奥には鈍い痛みが残っていた。

 

「ちょっと頭痛い」

 

「もう!」

 

リンは怒ったような声を上げながらも、すぐに僕の肩へ手を回した。

 

「だから無理しないでって言ったでしょ!」

 

「ごめん……」

 

そのまま支えられていると、アキラも心配そうにこちらを見る。

 

「少し休もう。今の状態で無理に進む必要はないよ」

 

「……うん」

 

僕は二人に促され、近くの安全そうな場所に腰を下ろした。

 

少し呼吸を整えていると、リンがそっと隣にしゃがみ込む。

 

「……今の」

 

リンは僕の様子を窺いながら、慎重に言葉を選ぶ。

 

「何か見えたの?」

 

僕は少しだけ迷ったあと、頷いた。

 

「昔の僕が、ここにいた」

 

さっき見た光景を思い出す。

 

息を切らしながら走っていた俺。

 

傷だらけの身体。

 

何度倒しても現れるエーテリアス。

 

「ずっと走ってて……何かと戦ってた」

 

「ずっと……?」

 

リンの表情がわずかに曇る。

 

僕は続けようとして、一度口を閉じた。

 

あの声。

 

あの名前。

 

どうしてか、それを口にすることに少しだけ抵抗があった。

 

それでも、黙っているわけにはいかない。

 

「それで……」

 

僕はゆっくりと口を開く。

 

「『妖怪』って呼んでた」

 

その瞬間。

 

リンとアキラの表情が変わった。

 

二人ともすぐには言葉を返さず、短い沈黙が落ちる。

 

「じゃあ……」

 

リンが端末へ視線を向ける。

 

「この記録って、妖怪が残したものなのかな?」

 

「まだ断定はできない」

 

アキラはそう答えながら、端末を操作し始めた。

 

画面の上をいくつものデータが流れていく。

 

僕もその隣から画面を覗き込む。

 

戦闘時間。

 

負傷。

 

回復。

 

身体反応。

 

それだけじゃない。

 

脈拍やエーテル反応らしき数値まで、細かく記録されている。

 

まるで――。

 

昔の僕がここで戦っていた間、その一挙手一投足を誰かがずっと見ていたかのように。

 

「……これ」

 

嫌な予感を覚えながら、僕は画面を指差す。

 

「どれくらい続いてるの?」

 

アキラの指が止まった。

 

一瞬、答えるのを躊躇したようにも見えた。

 

「……かなり長い」

 

「どれくらい?」

 

僕がもう一度尋ねると、アキラは表示された記録を見つめる。

 

「少なくとも数時間」

 

「数時間……?」

 

隣でリンが息を呑んだ。

 

「そんなにずっと……?」

 

彼女の顔から、さっきまで残っていた血の気が引いていく。

 

僕も、何も言えなかった。

 

昔の僕はここで――。

 

何時間も戦って。

 

傷ついて。

 

それでも動き続けていた。

 

そして、その全部を。

 

誰かに見られていた。

 

何のために。

 

どうして。

 

僕は画面に並ぶ無機質な数字を見つめる。

 

「……なんで?」

 

気づけば、そんな言葉が口から漏れていた。

 

「なんで僕なんだよ……」

 

けれど、当然のように画面は何も答えてくれない。

 

なぜ僕をここへ呼んだのか。

 

なぜ身体を調べていたのか。

 

妖怪は、昔の僕について何を知っていたのか。

 

肝心なことは、何一つ残されていなかった。

 

「理由についての記録は残っていないみたいだ」

 

アキラが静かに告げる。

 

「そっか……」

 

結局、ここまで来て分かったことは一つだけ。

 

昔の僕は、この場所で誰かに観察されていた。

 

それだけだった。

 

「○○」

 

「ん?」

 

アキラが端末を見たまま僕を呼ぶ。

 

その声には、さっきまでとは少し違う硬さがあった。

 

「もう一つ、気になることがある」

 

嫌な予感がした。

 

「なに?」

 

「この記録が終わった時間なんだけど」

 

アキラが画面を切り替え、日付と時刻を表示する。

 

「君の行動記録が、ほとんど残らなくなる時期と一致している」

 

「…………え?」

 

僕は思わず画面へ顔を近づけた。

 

日記はここで終わった。

 

移動記録も、ここで途切れている。

 

そして、この観測記録も――。

 

ここで終わっていた。

 

そのあと。

 

僕は全部忘れた。

 

そう考えた途端、喉の奥がひどく乾く。

 

「……じゃあ」

 

声が少し震えた。

 

「僕が全部忘れたのって……」

 

一度言葉を切る。

 

考えたくない。

 

けれど、ここまで揃ってしまえば嫌でもその可能性が浮かんでくる。

 

「ここで何かあったから?」

 

「可能性はある」

 

アキラはすぐに肯定も否定もしなかった。

 

「でも、まだこれだけじゃ、何が原因だったのかまでは分からない」

 

「……うん」

 

そうだ。

 

まだ何も分かっていない。

 

この場所で何が起きたのか。

 

妖怪が何をしたのか。

 

昔の僕が、最後に何を見たのか。

 

それでも一つだけ。

 

昔の僕に何かが起きた場所は――。

 

ここなのかもしれない。

 

僕はもう一度、端末へ視線を戻した。

 

画面の一番下。

 

膨大な記録の最後に、短い文字だけが残されている。

 

『観測終了』

 

「…………」

 

その四文字が、妙に冷たく見えた。

 

戦いが終わった、ではない。

 

逃げ切った、でもない。

 

ただ――観測が終わった。

 

僕はその文字を見つめたまま、小さく呟く。

 

「……妖怪」

 




感想等お待ちしております!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ゼンゼロキャラとイチャイチャ純愛したり激重感情を向けられるお話(作者:dark9486)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

最近ゼンゼロのssとかを見てて脳にエンドルフィン(ネタ)が分泌されたので書き始めました。▼普通の純愛だったりヤンデレや共依存だったり同陣営CPとか色々書いていく次第です▼あとNL固定ですので百合とか薔薇はありません。主は男ながら腐ってるので(ゲイではない)そういうのも大好きですが苦手な方もいると思いますのでそういうのは書くつもりはないのでご了承下さい


総合評価:337/評価:8/連載:9話/更新日時:2026年09月21日(月) 22:53 小説情報

色んな人の脳を焼きすぎて重い感情を向けられてる余命僅かなホロウレイダーの終活(作者:如月トッポ)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

ただただカッコいい技、カッコいい武器に脳を焼かれ、それらを求め戦闘をしまくっていた厨二病の一般ホロウレイダーピーポーのオリ主君。▼だが武器の代償故に寿命が尽きそうになり……▼「そろそろ寿命尽きるんよな~」▼「………は?」▼てな感じでどこぞのプロキシのおかげもあり色んな人との繋がりがあるので終活を……、▼と思っていたが、カッコいい技で助けられたり、なんらかで脳…


総合評価:1304/評価:7.28/連載:8話/更新日時:2026年09月18日(金) 22:45 小説情報

起きたら超絶美少女が嫁になっていた件(作者:理 想 な ん か ね ぇ よ)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼タイトルのまんまです▼深夜テンションで書いたから続くかは未定▼記憶喪失のオリ主が死ぬほどゼンゼロキャラを曇らせていた話▼追記、リメイクします


総合評価:1871/評価:7.97/未完:6話/更新日時:2026年08月31日(月) 22:22 小説情報

偽・虚狩り〜ホロウレイダー堕ちをかました元治安官〜(作者:初楼)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

治安官がアルゴスホロウ内で違法な人体実験の被験者を救出してTOPSの連中に喧嘩を売って雲隠れ。▼厄介な連中に目をつけられたので、見事ホロウレイダー堕ちを決めたのだった。▼曇らせもあるかもしれない。▼


総合評価:966/評価:8.06/連載:15話/更新日時:2026年09月21日(月) 12:23 小説情報

デメリットのある武器しか使えないホロウレイダー(作者:オムライスα)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼――死んでも、終わらない。▼少年の名は、トワ。▼彼は呪われた普通の人間だった。▼これまで十度の輪廻転生を繰り返し、そのすべての人生の記憶を持っている。戦士として戦ったこともあれば、戦いとは無縁の平穏な人生を送ったこともある。▼そして、それぞれの人生で一つずつ手に入れた十本の武器。▼ロンギヌスの槍、天逆鉾、妖刀村雨丸、ミョルニル、トライデント、ケラウノス、天…


総合評価:455/評価:7.5/連載:5話/更新日時:2026年08月17日(月) 18:31 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>