○○が机に向かい、何かを書いている。
「やっぱり……思い出せねぇ……」
○○は、リンたちと適当観に来てから始まりの主を撃退するまでの、最近起きた出来事を日記帳にまとめていた。
「リンと適当観に来て、讃頌会のやつらをどうにかして……」
「それから、柚葉やアリスたちと事件を解決して……」
そこで、ペンを持つ手が止まる。
思い出せない。
ほんの少し前の出来事のはずなのに、○○の頭の中では記憶にモヤがかかったようになっていた。
「クソッ……!!」
苛立ちのまま、○○は握ったペンを日記帳に押しつけ、ぐちゃぐちゃと線を走らせる。
「不幸中の幸いなのは……まだ人の名前は覚えられてるってことだな」
「このことは、あいつらにはバレないようにしなきゃな……!」
そんな時だった。
外から足音と話し声が聞こえてくる。
どうやら、瞬光が虚狩りとしての初任務を終えて帰ってきたらしい。
○○は声をかけようと、何も片付けないまま部屋を出た。
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「ふぅ……よし、今のところ異常なし……」
「瞬光、おかえり! 初任務お疲れ様――」
初任務を終えて帰ってきた瞬光に労いの言葉をかけていた、その時だった。
ふと、部屋の中から不思議な気配を感じる。
「なんだ、この気配……?」
俺はひとまずみんなを呼んでこようと、部屋の外へ出ようとした。
その時、瞬光に呼び止められ、腕を引っ張られる。
「しーっ……静かに!」
そう言う瞬光の顔は、少し不安そうだった。
「もしかして、任務で何かあったのか?」
「ううん、任務はちゃんとうまくいったわ。でも、ちょっと変なことが起きてて――」
瞬光がそう話していると、ふと青冥剣から女性の声が聞こえてきた。
「青冥剣から……声が……?」
「えっ、○○にも聞こえるの!? 雅先輩にも聞こえなかったのに……」
「『剣を執る心とは』って、はっきり聞こえる」
「こんなこと、今まで一度もなかったのよ。青冥剣にまた異変が起きたなら、師匠に見てもらおうと考えてたんだけど……」
「でも、すごく気になることを言ってるのに気づいて……!」
そう言われて、俺も青冥剣に耳を傾ける。
『秘境の奥にて答えを得る……青冥剣の「根源」とは……』
「確かに……すごく気になるな……!」
「どれくらい信じていいのかもわからないけど……もし本当にそんな『秘境』があって、青冥剣の『根源』を知れるなら……」
瞬光は青冥剣を見つめる。
「青冥剣の代償をどうにかする方法が見つかるかもしれないな!」
そう言うと、瞬光の顔に笑顔が浮かんだ。
「うん! みんなが頑張ってくれてたことだけど……ワタシも、自分なりにできることをやってみたいの!」
「それじゃあ、師匠はまだいないけど、伝言を残して探しに行くか! その『秘境』ってやつを」
「○○、待って!」
瞬光が俺を見る。
「リンやアキラから聞いたわ。この前の戦いからずっと調子が悪そうで、浮かない顔をしてるって。だから、あなたは外で師匠を待ってて!」
「身体は大丈夫だ。それに、青冥剣のことで瞬光一人に行かせるわけにはいかないだろ?」
「そんなこと言われたら、断れないじゃない……!」
瞬光は少し困ったように笑う。
「それじゃあ、身体の調子が悪かったらすぐ言うこと!」
「お互いにな!」
そうして俺たちはラマニアンホロウへ入り、青冥剣の力を使って『秘境』の中へと入っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
秘境に入った瞬間、妙な閉塞感に襲われる。
どうやらここは、剣主以外はそう簡単に出入りできる場所ではないらしい。
「瞬光、身体に異常はない?」
「ありがと。大丈夫。なんだか不思議なところだけど、進んでみましょ」
そう言って、俺たちは『秘境』の中を進んでいく。
すると――
目の前にホロウが現れた。
「『秘境』にもホロウが!」
「とりあえず、ぶっ倒そう!!」
俺たちは現れたホロウを倒し、さらに先へ進んでいく。
やがて、目の前に本堂のような場所が現れた。
その奥から、声が聞こえてくる。
「ここにワタシたち以外に誰かいるのかな? 行ってみましょ!」
そう言って本堂の中へ入っていく。
そこで俺たちを待っていたのは――
瞬光にとっては見知った人物。
そして俺にとっては、見たことがあるような人物だった。
「儀降師匠?」
「なんでこんなところに……!」
「やぁ、瞬光。○○。ここに来たんだね」
そこにいた儀降は、穏やかな笑みを浮かべていた。
「ここは青冥秘境。いわゆる、剣の世界なんだ」
「それと……私は儀降だけど、儀降じゃない」
「どういうこと?」
「話すと長くなるから割愛するけど……簡単に言えば、元の儀降から切り離された記憶と、剣主だった部分かな」
「切り離された部分……?」
そう聞かれると、儀降は俺の方を見る。
「誰かさんのおかげで、本来なら死んでしまうはずだった私が生き残った。でも、すべてをそのまま復活させられるわけじゃない」
「その時に零れ落ちた、記憶のようなものだよ」
「悪い……全然、記憶にない……!」
「そうかい?」
儀降は少しだけ寂しそうに笑う。
「それより話を戻そう。この『秘境』には、無数に散らばっている剣のほかに、他とは違う三本の剣がある」
「それを集めて私のところに持ってきてくれれば、青冥剣の秘密も明らかになる」
「他に何かヒントとかないのか?」
「語っても、語り漏らしてしまうものがあるからね」
「さあ、まずは行動あるのみだ」
儀降にそう言われ、俺と瞬光は秘境内を巡ることになった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
秘境の中には、潘や福福にそっくりな姿をした者たちもいた。
その姿を見て、俺も瞬光も驚かされる。
そして――
瞬光の兄、
もっとも、本人そのものではない。
青冥剣の力によって生まれ、その記憶と人格を受け継いだ存在らしい。
秘境の中で、瞬光と釈淵は互いの本音を語り合った。
長い間二人の間にあったわだかまりも、少しは溶けたのではないかと思う。
そして、釈淵との勝負を終え、三本の剣を集めた瞬光の前に――
もう一人の瞬光のような姿をした、青冥剣の意思が現れた。
「何か出てきた……!」
「それこそが、青冥剣が見せようとしていた秘密……」
「助けになるといいね」
「心の準備はできてる……どんな答えでも受け止めるよ」
瞬光と俺は、その意思から話を聞く。
話を要約すると――
各地に残された多くの剣士たちの意思や記憶に触れ、人々の記憶に残ることで、青冥剣の代償を緩和できるらしい。
「代償を完全になくすことはできないのか?」
俺がそう尋ねると、青冥剣の意思は一言だけ残した。
『終結への道は、扉の向こうにある』
意味深な言葉を残し、青冥剣の意思は消えてしまった。
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青冥剣の意思から話を聞いた俺たちは、ひとまず秘境を出て適当観へ戻ることにした。
帰る途中、瞬光と話し合い、秘境での出来事はあまりにも不可思議だったため、二人だけの秘密にすることにした。
「やっと帰ってこれた……!」
瞬光が大きく息を吐く。
「まるで、不思議な夢を見てたみたい」
「おかえり、瞬光!」
「うん……! ただいま、○○!」
瞬光は笑顔を浮かべる。
「ありがとう。またすごい旅が一緒にできたわ」
「アナタがいてくれたら、どんなことにだって立ち向かえる勇気が湧いてくるみたい!」
そう言って、瞬光は俺に笑いかけた。
「でも……結局、代償を抑える明確な方法は見つからなかったな……」
「ううん! 大丈夫!」
瞬光は首を横に振る。
「今回の旅で得られたものは、それ以上のものだから!」
「青冥剣の代償は治せるってわかっただけでも、十分よ!」
「次に秘境へ行った時は、もっと秘密をしゃべらせるんだから!」
そう言って、瞬光はもう一度笑ってみせた。
「その時は、絶対あなたも一緒よ! ○○!」
「――ああ……! そうだな……!」
「約束よ!」
そんな話をしていると、奥の方からみんなが出てきて、瞬光を出迎えた。
「みんな、ただいま!」
「また次の任務が入っちゃうかもしれないけど、今日はみんなでご飯を食べながら、あったことを話したいな!」
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食事が終わり、俺は自分の部屋へ戻った。
今日起きたことを忘れないように、日記帳へ出来事を書き記そうと机に向かう。
しかし――
棚や引き出しを探しても、日記帳が見つからない。
「……あれ?」
焦りながら部屋の中を探していると、後ろから声が聞こえた。
「お前さん、これを探しているのか?」
振り返る。
そこには、日記帳を手にした儀玄が立っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ワタシは金木犀のケーキを持って、笑いながら○○の部屋へ向かっていた。
「今日の旅もすごかったな……!」
今日出会った人たちのことを思い出しながら、歩いていく。
(剣士の意思や記憶のほかに……みんなの記憶に残ることが大事……)
「少なくとも、○○はワタシのことを忘れるはずないものね!」
○○。
あなたが覚えていてくれれば、アタシはいくらだって頑張れる。
そんなことを考えているうちに、瞬光は○○の部屋へたどり着いた。
ドアの前に立つ。
すると、中から話し声が聞こえてきた。
(これは……○○と師匠? こんな時間に?)
悪いことだとは思いながらも、気になって耳を澄ます。
「お前さん……いつからだ?」
「いつから記憶がなくなっている?」
…………えっ?
瞬光の手から、ケーキが落ちた。
ぐしゃっ。
嫌な音が廊下に響く。
それでも、ワタシにはそんなことを気にする余裕なんてなかった。
「……っ! 誰だ!?」
中から師匠がこちらへ歩いてくる足音が聞こえる。
ワタシは足が震えて、動けずにいた。
やがて、ドアが開く。
「瞬光……! お前さん、なんで……!」
師匠がワタシの姿を確認する。
「し、師匠……」
声が震える。
「○○の記憶がなくなってるって……何……?」
「……ひとまず、中に入れ」
師匠はワタシを部屋の中へ招き入れた。
「さて、○○」
師匠が○○を見る。
「話が途切れてしまったが……説明してもらおう」
「そ、そうだよ……○○」
ワタシは必死に声を絞り出す。
「記憶がなくなってるなんて……じょ、冗談だよね?」
嘘であってほしい。
そう願うワタシの思いを無視するように――
「ああ」
○○は答えた。
「記憶がなくなってきてる」
その言葉を聞いた瞬間。
ワタシの目の前が、真っ暗になった……。
もうちょっとだけ続きます!
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