「記憶がなくなってきてる」
俺の言葉を聞いた瞬光が、床にへたり込む。
「――瞬光っ……!?」
儀玄がへたり込んだ瞬光の肩を支える。
「瞬光、大丈夫か……? もう部屋に戻れ……」
儀玄がそう言うと、瞬光は小さく首を振る。
「……ううん、大丈夫。ワタシにも聞かせてほしいの……!」
そう言って、瞬光はゆっくりと立ち上がる。
「○○、教えて……? いつからなの?」
そう聞かれて、俺は思い出しながら話し始める。
「元々、昔の記憶が曖昧なところはあった」
「最初に違和感を感じたのは、ポート・エルビスでブリンガーの事件を解決した時だったと思う」
「俺の中の記憶と、みんなから聞いた話に結構ずれがあったんだ」
「その時は、何かの間違いだろうと思ってた」
「でも、それから事件を解決するごとに、色んな記憶にモヤみたいなのがかかってさ」
「特にこの前の始まりの主の時はひどくて……」
「正直、もう何を覚えていて、何を覚えてないかなんて全然わからないんだ」
「――そんな……! げ、原因はわかるの!? もしかしたら青冥剣の副作用みたいに、どうにかできるかも……」
瞬光が、何かにすがるように俺に聞いてくる。
「残念ながら――」
俺がそう言いかけた時、儀玄の声が俺の言葉を遮った。
「その原因に……心当たりならある……」
「――ほんとっ!? 原因がわかればなんとかなるかも!」
瞬光は顔を上げ、嬉しそうに話す。
「お前さん、雲嶽山に来てから、私に『昔会ったことがあるか?』と聞かれたことを覚えているか?」
「……残念ながら」
「そうか……。実は私たちは、あの時より前に会っているんだ。11年前の『旧都陥落』の時にな」
「姉様……前宗主儀降が青冥剣を使い、消えそうになった時に、お前さんが現れて不思議な力を使い、姉様を救ってくれた」
「あんな力、ましてやあの青冥剣の代償ですら何とかしてしまうほどのものだ。普通に考えて、常識を超越した力とも言っていい」
儀玄が顔を険しくする。
「○○、お前さん、その力、本当になんの反動もなく使えているのか?」
俺は答えることができなかった。
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「○○、お前さん、その力、本当になんの反動もなく使えているのか?」
師匠の言葉が、ワタシの耳に呪いのように残る。
あのおまじないを使うと記憶を失うの……?
それじゃあ、あの時から○○はワタシのせいで……?
「……うっ!」
胃の底から、不快な感覚が込み上げてくる。
足ががくがくと震え、前に倒れるように崩れる。
「瞬光!」
師匠がワタシを呼ぶ声が聞こえる。
ワタシは床に倒れそうになり、目をつぶる。
ぼすっ……
安心する柔らかさと、匂いに包まれる。
○○がワタシを受け止めていた。
その瞬間、ワタシは涙があふれ出す。
「○○……っ! ……ごめんねっ、ワタシのせいで……」
ワタシは○○に謝る。
つらいのは○○のはずなのに、ワタシは涙が止まってくれない。
「瞬光、瞬光、泣かないで――」
○○はワタシの顔を手で優しく包み、涙をぬぐってくれる。
その優しさに、また涙が止まらなくなった。
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「……ごめんなさい、○○、師匠」
瞬光が泣き止み、落ち着いたため、話の続きをすることになった。
「……瞬光、大丈夫か? やっぱり部屋に戻ったほうが……」
「……大丈夫。もう取り乱さないから、ワタシにも受け止めさせて」
そう言って、俺は改めて話し出す。
「儀玄が言ってることは、半分あってて半分間違いだよ」
「確かにあれは、身体に負担がかかる。でも、多分記憶がなくなる直接的な原因じゃないと思う」
「そうか……しかし、それだと原因が……」
儀玄が難しそうな顔で考え始める。
「わからないことを考えてもしょうがないだろ? 幸い、人の名前とかの記憶はなくなってないし」
それに……と、言葉を続ける。
「もし、この力を使った反動で記憶がなくなるとしても、俺は使うのをやめないよ」
そう言って、俺は瞬光の方を向く。
「瞬光が俺たちやみんなのために青冥剣を使ってくれたのと一緒だ」
「そこに、俺が救えるものがあるなら――『俺は迷わない』。ちょっとくさかったかな」
そう言って、俺は笑う。
「……なにそれ」
瞬光はまた涙目になりながら、笑ってくれた。
儀玄も少し笑った後、言葉を続ける。
「○○、私はこの件を姉様と一緒に調べてみよう。だからもう少し待っていろ。必ず何か見つけてみせる」
「ああ、頼んだ! 頼りにしてるよ、師匠!」
「当たり前だ。私はお前さんたちの師匠だからな」
「わ、ワタシも任務の合間に色々調べてみる! ワタシはあなたの姉弟子だから!」
「ありがとうな、瞬光」
「そう言えばなんだけど……」
そう言って、俺は言葉を続ける。
「リンとアキラには、このこと黙っていてほしい。今度、自分で話そうと思うから」
そう言うと、二人は了承してくれた。
「それじゃあ、そろそろ解散しよう! もうこんな時間だからな!」
そう言って二人を見送ってから、俺はふぅ……と息を吐いてベッドに腰掛ける。
今日の夜、二人に話したことを思い出しながら考える。
「まだ、色々言ってないことはあるけど、これ以上心配かけるわけにもいかないしな」
俺は部屋にある鏡を見ながら、
「○○、お前、何者なんだ……?」
そう鏡に問いかける。
帰ってくるのは、沈黙だけだった。
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「……○○……?」
僕を呼ぶ声が聞こえる。
「○○!」
「うわっ!!」
僕は驚いて、机から落ちて後ろに倒れる。
「いてっ!」
周りを見ると、瞬光と師匠が椅子に座っていた。
「○○、大丈夫!?!?」
「お前さん、何をやっているんだ」
瞬光の心配そうな目と、師匠の呆れたような目が同時に突き刺さる。
「ごめん! ぼーっとしてた」
「大丈夫なら早く座れ。瞬光の作った料理が冷めるだろう」
そう言われて、僕は急いで席に着く。
「瞬光の料理はどれもおいしいね」
「ふむ、腕を上げたな、瞬光」
「二人ともありがとう。やっぱり、食べてほしい人がいるとおいしくなるのかな?」
そう言って、瞬光は顔を赤くしながら僕の方を見てくる。
そうしていると、師匠が咳払いをして話し出す。
「そういえば、○○。リンたちがなんだか用事があるから、そろそろ戻ってきてほしいと言っていたな」
「結構な期間こっちにいましたからね。そろそろ戻らないと」
そう言っていると、瞬光が悲しそうな顔をする。
「○○、もう帰っちゃうの?」
「瞬光、お前さんも次の任務の詳細が来ていただろう」
そう言われると、瞬光は「あっ!」と思い出したかのように、自分の部屋へ向かった。
二人きりになり、師匠がしゃべり出す。
「○○、適当観に来てどうだった?」
「とっても楽しかったですし、すごいためになりました」
「皆さん優しくて、まるで家みたいな感じで!」
「……ふっ、家みたいな感じか」
師匠はそう言って笑うと、
「○○、ここはお前の家だと思え。何かあれば、いつでも帰ってこい」
「はい!」
師匠は僕の返事を聞いて笑った後、思い出したかのように話す。
「そういえば、お前さん、瞬光とキスしたらしいな」
瞬間、空気が凍った。
「げほっ、げほっ!! なんでそのこと知って……!」
「私はお前たちの師匠だ。弟子のことなんて、手に取るようにわかるさ」
そう言いながら、師匠は僕に近づいてくる。
「○○、立て」
そう言われて立ち上がる。
ただならぬ空気に、怒られると思った僕は本能的に目をつぶる。
すると胸倉を引っ張られ、直後、唇に柔らかい感触と、チュッというリップ音がする。
「……えっ?」
「ふむっ、これはなかなか」
驚いて目を開けると、師匠が少し顔を赤くしながら、キスの感想をつぶやいていた。
「なんで……??」
「なに、私だって宗主である前に一人の女だ、嫉妬くらいするさ」
「それってどういう――」
「あああ!! し、師匠、何して!!」
僕の言葉を遮って、少し離れたところから瞬光の声が聞こえる。
「なに、別にお前さんのものというわけでもないだろう?」
「そ、そうだけど!!」
僕のことを置き去りにして、師匠と弟子の喧嘩はもう少し続いていた。
とりあえず少しずつ主人公の設定を出せたらなって思ってます!
それと少しだけ序盤の文章を改稿しました!
主人公の心情描写を少し足したくらいで、話の流れや設定自体は変わってないので読み直さなくても大丈夫です!
感想等お待ちしてます!!