特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです   作:月待 紫雲

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9話 暴れないでください

 生まれたときから、ワタシには記憶があった。明らかに、王女として、ではない。他の誰かのものであると断言できるものだ。

 

 魔力の使い方。火の魔法の使い方。剣の扱い方。

 

 問題なのはワタシが何者であったか、わからないことだ。

 

 戦う手段だけを知っている。おそらく大人に近いか、同等の思考回路がある。

 

 そして、力を振るったときに、いいようのない快感がある。力を振るうことへの強い欲求がある。

 

 前世。生まれ変わり。神話における概念であるが、ワタシはナニカの生まれ変わりらしい。そう結論付けるのが一番納得ができた。

 

 普通は生まれ変わる前とか全部覚えてるものではないのか。中途半端なのは神のいたずらか。

 

 慣れている口調はあまりにも周りと違いすぎて、ろくに使えない。以前勢いで使ってしまったときはかなり怪訝な目を向けられた。

 

 得体のしれないものを見たような、困惑、恐怖、そんな感じの目。

 

 ワタシは城では異物。そんな気がしてならなかった。ワタシ自身も中にある記憶が、欲求が、気色が悪いと感じることがあった。

 

 吐き出したい。

 壊したい。

 

 思い切り魔法を、力を振るって、慣れた喋り方で、好き勝手したい。

 

 我慢すればするほど大きく膨らんでいく欲望。

 

 だから城から出た。

 

 襲われても良い状況を作って。そして襲われた。

 

 気持ちが良かった。相手が弱すぎて話にならなかったが、その分、優越感があった。

 

 あぁ、なんて清々しい気分なのだろうと体が打ち震えた。同時に、これは卑しい性根なのではないかと、王女としてあるまじき姿なのだと、非難する心も、あった気がする。

 

 興奮でぐちゃぐちゃでよくわからなかった。

 

 誰にも見せられない。こんな、野蛮なワタシ。

 

 ――――のはずだったのだが。

 

 そいつは生きていた。

 

 ゾクゾクした。

 魔法を見せ付けた途端、震え上がって怯えていた暗殺者の中で、唯一。涼しい顔で傍観していたやつ。

 少しも、怖がっていなかった。どころか魔法を斬った。

 

 こいつ、ワタシを殺せるのではないか? 全力でやったらどうなるのか?

 

 そんな思考がよぎるが、相手は降参して、全力で戦ってくれそうにない。

 

 七影の書。

 

 それで彼は強くなったという。

 

「……ワタシがその七影の書を読破したとしたらどう思う」

「ちょっと見てみたい気がしますね。どんなもんか」

 

 ワタシの渇望。それとは別種の欲がそいつにはあるようだった。全力で戦いたくないくせに、強くなったワタシは見てみたい、と。

 

 ワタシはこう思った。

 

 得体の知れないワタシの欲望を、こやつを使えば怪しまれずに解消できるのではないか。いつか、ワタシ自身、欲望に呑まれてしまったら、こやつなら止めてくれるのではないか。

 

 攻略者。ヤツ――ロマのセンス。

 

 それでヤツが頑なに言わないことに確信ができた。

 

 ――こやつ、七影の書を「攻略」したな?

 

「――なぁ、ロマ」

「なんですかい」

 

 未だに読破にたどり着けない七影の書。それを押したり引いたりしながら、ロマに問う。

 

「もしワタシが、自分の意思と関係なく、周りを襲うようになったらどうする?」

「……まぁ、止められそうなら止めますね。無理なら逃げます」

 

 口では化け物だと言うくせに、軽々と「止める」の選択肢を出してくる。

 

 なんだか、ほっとする。

 

 不思議なやつだ。全然強そうには見えぬのに。

 

「ていうか、そんな心配するんだったら、暴れないでください王女サマ」

 

 こちらを見るその瞳に敬意も恐れも何もない。

 

 それがたまらなく――嬉しかった。

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