特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
生まれたときから、ワタシには記憶があった。明らかに、王女として、ではない。他の誰かのものであると断言できるものだ。
魔力の使い方。火の魔法の使い方。剣の扱い方。
問題なのはワタシが何者であったか、わからないことだ。
戦う手段だけを知っている。おそらく大人に近いか、同等の思考回路がある。
そして、力を振るったときに、いいようのない快感がある。力を振るうことへの強い欲求がある。
前世。生まれ変わり。神話における概念であるが、ワタシはナニカの生まれ変わりらしい。そう結論付けるのが一番納得ができた。
普通は生まれ変わる前とか全部覚えてるものではないのか。中途半端なのは神のいたずらか。
慣れている口調はあまりにも周りと違いすぎて、ろくに使えない。以前勢いで使ってしまったときはかなり怪訝な目を向けられた。
得体のしれないものを見たような、困惑、恐怖、そんな感じの目。
ワタシは城では異物。そんな気がしてならなかった。ワタシ自身も中にある記憶が、欲求が、気色が悪いと感じることがあった。
吐き出したい。
壊したい。
思い切り魔法を、力を振るって、慣れた喋り方で、好き勝手したい。
我慢すればするほど大きく膨らんでいく欲望。
だから城から出た。
襲われても良い状況を作って。そして襲われた。
気持ちが良かった。相手が弱すぎて話にならなかったが、その分、優越感があった。
あぁ、なんて清々しい気分なのだろうと体が打ち震えた。同時に、これは卑しい性根なのではないかと、王女としてあるまじき姿なのだと、非難する心も、あった気がする。
興奮でぐちゃぐちゃでよくわからなかった。
誰にも見せられない。こんな、野蛮なワタシ。
――――のはずだったのだが。
そいつは生きていた。
ゾクゾクした。
魔法を見せ付けた途端、震え上がって怯えていた暗殺者の中で、唯一。涼しい顔で傍観していたやつ。
少しも、怖がっていなかった。どころか魔法を斬った。
こいつ、ワタシを殺せるのではないか? 全力でやったらどうなるのか?
そんな思考がよぎるが、相手は降参して、全力で戦ってくれそうにない。
七影の書。
それで彼は強くなったという。
「……ワタシがその七影の書を読破したとしたらどう思う」
「ちょっと見てみたい気がしますね。どんなもんか」
ワタシの渇望。それとは別種の欲がそいつにはあるようだった。全力で戦いたくないくせに、強くなったワタシは見てみたい、と。
ワタシはこう思った。
得体の知れないワタシの欲望を、こやつを使えば怪しまれずに解消できるのではないか。いつか、ワタシ自身、欲望に呑まれてしまったら、こやつなら止めてくれるのではないか。
攻略者。ヤツ――ロマのセンス。
それでヤツが頑なに言わないことに確信ができた。
――こやつ、七影の書を「攻略」したな?
「――なぁ、ロマ」
「なんですかい」
未だに読破にたどり着けない七影の書。それを押したり引いたりしながら、ロマに問う。
「もしワタシが、自分の意思と関係なく、周りを襲うようになったらどうする?」
「……まぁ、止められそうなら止めますね。無理なら逃げます」
口では化け物だと言うくせに、軽々と「止める」の選択肢を出してくる。
なんだか、ほっとする。
不思議なやつだ。全然強そうには見えぬのに。
「ていうか、そんな心配するんだったら、暴れないでください王女サマ」
こちらを見るその瞳に敬意も恐れも何もない。
それがたまらなく――嬉しかった。