幸育 作:Ruukka
女を食い散らかす父親と男を食い物にする母親。
俺の両親は中々にパンチの効いた人物だった。
父親との思い出はあんまりない。たまに高い店で一緒に食事をするくらいで、家の中で姿を見たことは一度もないな。まあ不思議なことじゃない。夫婦仲が良くなかったというわけではないが、そもそも夫婦ですらなかったのだから。
父は政治家。母は高級ソープランドの人。後にキャバ嬢に転身して、現在は経営側に回っている。人を見る目も経営センスもピカイチのようで、ホストクラブなんかも手がけている。ちゃんと儲かっている。
父は最近も活躍中だ。この前テレビで中身のない話をしていたが、もしかしたら女のことでも考えていたのかもしれない。
父は以前、中坊だった俺に教えてくれた。
『おい
政治家になって金を集めれば、好きな女を何人でも囲えるのだと。その話を聞いた時、俺は辟易とした。
実にろくでもない話だと。こいつぁ人間のクズだ女の敵だと憤りもした。その上で誓った。
将来、複数の女性を囲うことができるようになったら、父のようにポイ捨てするのはやめようと。囲うなら最後まで愛さなくてはならない。それならオッケーであると、俺の倫理観が言っていた。
『稼ぐ方法なんていくらでもあるのよ。キャバやホストは簡単だからやってるだけ。別の事情に手を出してるのは、締め付けが厳しくなった時のためよ。未来のことは分からないんだし、法律が変わって一気に稼げなくなるってこともあるかもしれない。ていうか間違いなくそういう時代が来るわ。だから、リスクヘッジはしておかないと』
母のような人間にもなるまいと思った。キャバ嬢を格安ソープに売り飛ばすような行いはアウトだ。売れないホストを恫喝するのもダメだ。実にろくでもない。いつだったか見た号泣お兄さんはホント可哀想だった。
『リスクヘッジって言うなら、俺は
『それじゃ試しにホストクラブの運営でもしてみる? 卒業までやってみてもいいわよ。一店舗くらい潰れても痛くも痒くもないし』
『やるやる。やってみる』
ついでにホストってやつも経験させてもらった。
最初のうちは楽しかったが、後になってやるんじゃなかったと後悔したな。嫉妬した先輩にビルから突き落とされかけて、マジで死ぬところだった。お薬やってる人って怖いね。急に見境なくなるんだもん。
『おまわりさん、あの人です! ラリってます!』
『君は?』
『このお店のオーナーの息子です。母が家事しないんで呼びに来ました』
そんなわけで、俺は中坊にして早くも夜の世界というやつを知った。
グレーゾーンとブラックを行ったり来たりする世界は刺激的で、とても勉強になったよ。
あの経験はきちんと記憶しておこうと思う。
将来、稼ぐための手段のひとつとして。夢は無難に安定した生活を望む。異性を何人も養うことができれば、とりあえずオッケー。高望みはしない。
▦
何事も目標がないと面白くない。
高校に入学するにあたって、俺は自分へのミッションを設定した。
卒業までに、末永く付き合えそうな女子を三人ゲットする。これ最低限。学生時代の彼女って特別感あるし、今しか出来ないって意味で三人は欲しい。
それが長期目標なわけだが、一年以内にとか数ヶ月以内にとか、そういう中短期目標は保留とした。
入学した学校がかなり怪しいところだったので、もう少し情報が増えてから考えたいと思ったのだ。
なにせ入学と同時に新入生全員に10万円のプレゼントだ。もれなく全員に大金が配られたのだが、その時点で普通の学校ではない。超名門であることを考慮しても異常すぎる待遇だ。
もしかしたら過酷な競走とかが始まるかもしれないし、そうなれば戦略が必要になる。駒が欲しい状況になる可能性もあるので、その場合は女子を何人か囲いこもうと思っている。
なんで女子限定なのかって? 理由は簡単だ。ハニートラップに興味があるからだよ。一回やってみたいと思ってたんだ、そういうの。
「どうだいライトボーイ。授業が終わったら私と語り合わないか。美しい夕日が見えるスポットを見つけたのだが、本日の予定はいかがかな?」
ゾワッと鳥肌が立った。
五月上旬の良く晴れた日のこと。
昼下がりのプールサイドで、俺は女子ではなくムキムキの男子に口説かれていた。どうしてこんなことになってしまったのか、屈強な肉体を持つオールバックに、一緒に夕日を見ようと誘われている。純粋に気色が悪い。
「悪い。予定はいっぱいなんだ。ところでライトボーイと呼ぶのをやめろ。ほんとやめて純粋に嫌だ」
「フッ……それなら、夕食をとりながら語り明かすというのはいかがかね?」
いかがかね、と言われても「嫌だ」としか言えない。いくら自信満々な表情で言われてもダメだ。髪をかきあげて白い歯を見せるのをやめろ。
彼の名は
ことあるごとに俺と語り合おうとする、筋肉ムキムキのブーメランパンツだ。ブーメランパンツはプールの時だけだ。なぜに語り合おうとするのかは不明。
「夕食は一人でゆっくり食べたいんだ。大体、何を語り明かすっていうんだよ」
「決まっているだろう。王とはどのようにあるべきか、互いの意見をぶつけ合うのだよ」
「高円寺は王様みたいだと思うよ。顔からしてキングだ。そしてキングなら庶民を少しは労わってくれ。少し風邪気味なんだよ」
少し興味をひかれるテーマだが、朝まで語り明かすのは嫌だ。俺はできるだけ悲しいオーラを出しつつ、高円寺の誘いを断った。
「そういうことなら仕方がない。しかし、そうなると妙だねぇ。体調が悪い人間に水泳で負けたなど、おかしな話もあるものだ」
高円寺は不敵な笑みを浮かべている。クロールのデットヒートで負けたのを根に持っているようだ。本気でやれっていうからやったのに、そういう態度はどうかと思う。あんまめんどくさいこと言ってると、次から勝負を控えるぞ。
高円寺との出会いはバスの中だった。
ヘッドフォンの音漏れがうるさかったから注意して、無視されたから強奪したらバトルになり、入学式に遅刻する羽目になった。バスの中でバトルするわけにはいかなかったので、一度下車してから腕相撲や100m走の勝負をしたのだ。
「とにかく語り合わないから、この話はこれで終わりで。授業も終わりだぞ。さっさと着替えようよ」
「ならば、教室に戻った後はカードゲームに興ずるとしよう。新たなトラップカードを手に入れたから、是非とも試してみたくてねぇ」
おい、
「ちなみに、どんなトラップカードを手に入れたんだよ?」
「全てを闇に葬る一撃、サンダーボルトさ。れっきとしたトラップカードだ。カードの色もそうだし、トラップカードと印字されているからねぇ」
「それトラップカードじゃねーよ。誰かが改造したやつだろ。使ったら反則負けにするからな」
「もちろん想定済みさ。妙に高かったからねぇ」
「わかってて購入して使おうとしてたのか……タチが悪いぞ半裸の王様」
「おや、半裸なのはお互い様だと思うがねぇ」
「うるさいよ胸を張るな怖いから」
教室に戻った後は高円寺とカードゲームをして、普通に授業を受けて放課後になった。
何か知らんが、日常の中に女子があんまり出てこない。どうしてこうなったと嘆きつつ、このままじゃいかんと危機感を覚えた。