ここでは都市に転移させられ、目の前に人差し指の子方がいた男について語られる 作:ケジメされた人差し指
ユーリ、ソーニャ、クローマー、ドンベクラン、船長、 、ドンパパ辺りくらいで
謝肉祭から渡された生地はいつの間にか現れていた遂行者が回収していった。ついでにメジャーでシャーっと俺の身体も採寸して、『4……2日後には仕上げて持ってきます』と言い残し、駆け足で扉へと姿を消した。
指令に無茶振りされてんだろなぁ、お疲れ様です……と労わりたくなる気持ちと共に、本格的に人差し指に所属するのかぁという実感がひしひしと湧いてきて嫌になる。
「わぁ……良く似合ってますよ! 格好いいなぁ、ここで黒いマントなんて初めて見ますし、気配って言いますか……それも少し薄まってる感じがします」
「ありがとうね。しかし……だいぶ狙ってきてる感あるよなぁ」
そうして手元には同じくシ協会員の肉で紡がれた糸……その生地を彼らが簡素に加工した外套が残った。早速それに肩を通してみると、なるほど……動いた時に出る布の擦れる音や足音に至るまでが小さくなっている。
そして代行者であるソラちゃんからしても、このマントが俺の気配を小さくしてくれているようなので、後日届く筈のスーツも合わせれば隠密はかんぺき〜。前衛のソラちゃん、後ろに隠れて眺める事しか出来ない俺のゴールデンコンビが完成する訳だな。こいつ要る?
ありがたいのは間違いないがこのマントの効果さぁ……着々と俺を第二……第三、いや第四か? の黒沈にしようとするのやめてくれる? というかパチモンが多過ぎるだろ都市のフリー素材か黒い沈黙は。
ローランとリアンとリサンと、ガーネットもだっけ。あのみんなで自分勝手に断ち切れないんだよしてるコラ画像に巻き込まれちまうー! 俺だけクソ雑魚ナメクジだけども……
そういえば時系列的にはリアンが一番最初の黒い沈黙らしき存在になるんだよな。どうしてそんな歪んだ感情リアンに押し付けてるんだよヘルメスほんと怖い。
「俺随分前に言ったことあるんだが、都市では俺はただのロリさ」
「どういうことですか……?」
「別に俺自身が強くなる訳じゃないから気をつけないとな、って自戒」
一旦外したマントを手に取ってピンと張り、ソラちゃんにぼこぼこ殴ってもらったがある程度の剛性も担保されているようでほつれもしていない。勿論EGOの爪で引っ掛けば裂けていただろうし、殴打でも着ている俺には普通に衝撃も来るだろうが良いもん貰ったな。
ただこれが、実質的に人肉人皮のキワモノである事からは目を逸せないところ。俺が都市の中で生きる為に、既に幾らかの人命が犠牲にされてしまった訳だ……悪ぃ、やっぱ辛ぇわ……
「とりあえず部屋に戻る事にするよ。買った散弾の携帯をどうするか、管理とかも考えたいからね」
「わ、わかり……うーん、その……」
少しばかりブルーになりつつも、部屋に持って返って説明書やらを検めようと考えていた所にソラちゃんの煮え切らない返事。当たり障りの無い別れ方のつもりだったけど、ソラちゃん的には何か引っ掛かったかな?
「えっと……ボ、ボクもその、銃を広げるところ、一緒に見せて貰っていいですか? 銃を使う側の立場で見る事は無かったんで、気になるんです」
「ああ、そんな事か。勿論いいよ、ソラちゃんに払って貰ったものでもあるしね」
また無自覚に地雷踏んづけたかと思ったら大した事では無かったので安心。一人でやってたら説明書の文字で読めないとこあるかもだし。喋るのはいいけど読むのはちっと難しいんだな〜、日本語が恋しい。
そういや都市の言語ってどうなってるんだっけ……なんで韓国語が基準なのに英語とか日本語も一応あるんだ?
「使う機会は少ないといいけど、帯同する以上ソラちゃんも仕様知ってた方が何かと安全か。じゃあそのまんま俺の部屋に行くって事で?」
「い、いいんですか? そっ……そうですね、はい、お願いします」
そういう訳で人差し指の廊下を進み、俺の部屋に……なんか目印とか付けといた方がいいんじゃないのかここ。同じような景色がループするせいで何処がどの部屋なのかとかが絶妙に覚えきれない、間違い探しは苦手なんだよ……とリビング(仮)に辿り着けたのでそこから繋がっている俺に割り当てられた部屋へ向かう。
「あっ……」
「ど、どうかしましたか?」
扉のノブに手を掛けたところで気が付いた。これってよくよく考えたら、私室に異性と2人きりって事になるよな? その瞬間汗がぶわぁああってなってェ(千原ジュニア) 昨日から生活し始めたばっかりだし物も無ければ臭いとかもそうないだろうが、こ、こんな事が許されて良いのか。
いいよって言っちゃった手前今更無しとは言えないし……いや待てよ、部屋なんて言っても宿泊してるホテルみたいなもんだ。それに目的はロジックアトリエで買った銃を見る事なんだし、ソラちゃんとしてもそれ以外の意図なんて無いんだから俺が気にし過ぎなだけなんだ。いいね?
「いや、なんでもないよ」
「お、お邪魔します」
実際そんな考えは杞憂! でしかなく、テーブルに広げたシャッガンを男女二人して繁々と眺める不思議な光景が出来上がっていた。構造自体は前の世界のもんとそう変わらん……いやお前散弾銃なんか持った事ねぇから違いもクソもないだろって思われるだろうが、モデルガンの方はあったから……
発射を防ぐインサートやら材質の違いやらを除けばあれらも実銃ほぼそのまんまだし、エアーガンの方でも使った事はあるからな。ただ……都市で作られているが為に意図的な無駄が、重さが、取り回しにくさがある。それだけが億劫だった。
「な、なんだか手馴れてる感じがしますけど、都市に来る前から扱われてたんですか?」
「そういう訳じゃないよ、模造品ならあるんだけどね。構造自体に大差はないからある程度の要領は掴めてるだけさ。下部のカバーをズラして弾丸を入れていって、ガシャっと引いてやると装填出来るから……撃ったらまた繰り返す……そんなもんだね」
「へぇ……ちょっと撃つところも見てみたいですけど、そういう訳にもいかないですよね。た、高いですし……この弾、キャップの色が違うのはどういう違いがあるんですか?」
「スラッグ弾って言ってね。散弾銃でもライフルみたいな単発の弾丸を発射出来るようにしてある弾丸なんだ。散弾は広がる分それぞれの威力が弱いから……例えば中指とか、強化施術で頑丈な身体をしてる人達には散弾は効果が薄そうだけど、この弾丸なら効くって訳さ。それも本人の硬さにはよるだろうけどね」
ソラちゃんなんかは工房で銃口を前にしているのに一切脅威に感じて居なかったが、当たっても効かないから、と防ぐ事が出来るから、では意味が全然違ってくる。効きさえするのなら一先ず何も考えずに捨て置く訳にはいかない脅威にはなるからな。
あのクッソ強いリアン……あの世界線ではリサンかな? が銃を万全に使用出来たLCAウアジェト、ウーちゃまには敗北を喫して致命傷を負い撤退させられたぐらいだ。当然Dが金じゃぶじゃぶ使ってるだろう彼らの装備は、この散弾銃と比較にならない性能ではあるだろうけど。
コアペで遠距離無効がついてるアルガリアなんかにしても、四方八方から同時に撃たれた銃を事も無げに無効化出来るって事はないだろうし、頼りにしてるぞ〜?
「親指の人達も銃を使うとは聞いてますけど、所属によって推進剤にするか発射するものかで違うんですよね……ボ、ボクとしてはわざわざ弾丸なんて名称にして、そのせいで頭から税金掛けられちゃうのに、そうやって使う理由がわ、わかんないんですけど……」
「……確かに」
いやあれはただ単に銃弾のコストが高いって話だったか? でも弾丸一発に掛かるコストなんてたかが知れてるだろうし……これだけの効果を産む弾丸なら税金はこれだけね、って話か。でもそうなると頭としてもこれ別に銃として使う弾丸じゃなくない? って判断する気も……ウゴゴ、そこんとこどうなってるんですかドッグファーザー様。
と撃った後の清掃の項目を読み込んでいる時に扉の叩かれる音。俺ほんとビビりなのでそんくらいでも身体が跳ねそうになる訳だが、リアンかな……俺になんか用事でもあるか? あっいや、そうか……親方達へのアイサツだ。
「入るぞ、アンデルセ……ソラもいたのか」
「あ、リアンさん」
「……部屋で二人きりなんて、随分仲がよくな……」
案の定入ってきたのはリアンシであったが、まぁ貴方は男女が部屋に2人でいる事に思う所もあるよな……って含みを見せたところで俺が肩に掛けているマントを認めると言葉を詰まらせた。
次いで視線が俺の顔へと向き、視線が交差する。うんうん、わかるわかる……リアンシも俺がリアンが気づいた事に気づいただろう。文章としてだいぶおかしいなこれ、でもそうとしか言えない。マジで趣味悪いよヘルメス、これで仕立ててもらうスーツに手袋まで付いてきたらお前もうほんと駄目だからな。
「……ったみたいだな」
「は、はい! 今日はR社の方にお出かけして、アンデルセンさんの為の武器も買ってきたんです。ボク達には縁が無いところですけど、ロ、ロジックアトリエのショットガンで……」
「それは……そう、か。指令が、それをあいつに使わせるのが良いと言ったのか?」
「い、いえ……ボクが考えた事です。アンデルセンさんが使うならまず何が良いのかなとお、思いまして」
リアンの片眉が上がる。お前そういうとこやぞ、いや実際ソラちゃんって第一印象としては自分で考えたり出来ない感あるけども……でもねぇわ、俺なんて会って2日目なんだからお前も本当はそうでもないってくらい知っとけよぉ!
それはそれとしてデアゴスティーニみたいにちょっとずつ黒沈完成してってんの、リアンとしては見せられるの気も悪くなるだろう。でも流石にカドゥケウスみたいなもんまで俺に授けられるとは思わないし、そも扱いきれないから武装面に関してはそんなに心配なされないで。
「……そうか。自分で良く考えて動いたんだな、褒めてやろう」
「え、えへへ……」
「それで、楽しくしてる所悪いがアンデルセンを親方達に紹介しなくちゃいけない。着いてきてくれ」
「わかりました。じゃあソラ……ちゃんはどうする?」
「あ、ボクはもうちょっとこの銃を見ておこうと思います」
要件としては想定していた通り。もう面接なんて二度としたいもんじゃなかったが……他の親方達ってリアン程パーソナルな事情が公開されてないから難しいよな。ヴァレンチーナなんかはアンダーボスと思って接するべきかそうでないか。
降格させられてるのを知っててやってるのは嫌味か? と取られる可能性に、いや自認全然アンボだがお前は敬意も払えないのかと取られる可能性もある。地位は下の者としても、向こうが俺をどれくらいの相手として見るかもわからんし……一番対処難しいよあのDVヒス美人おばさん。
「わかった、見終わったら別に待ったりせず好きに自分の部屋に戻ったりしてもらって構わないからね。じゃあリアンさん、お願いします」
「い、いってらっしゃい」
半分くらい死刑執行に連行される囚人の気分だが、それはそれとしてあの親方達に会えるって考えるとちょっとばかり楽しみなのも事実なのよね。恐らく脳みそがクソになっていると考えられるが……アラヤにはよりょしゅくでもかましてみるかな、安牌だし。
「……」
「そ、そう言えば、アンデルセンさんはここで寝られてたんですよね」
「……すぅ」
「最初は親指の、ヴァレンチーナからだが……お前もあいつの事をよく知ってるようだが……頑張れとだけ言っておこう」
人差し指の廊下を抜け、高級感あるワインレッドのカウチソファーに絢爛なシャンデリア。酒瓶で埋め尽くされた棚がズラリと並ぶ親方の廊下へと世界が切り替わる。これ全部が全部飾りとかじゃなくて本物の酒なんだな。オールドパーだっけ……ああいうの一つでもヴァレンチーナが高い酒って言うくらいだったが、この空間全体に幾らぐらい金掛かってんだろ。
ヴァレンチーナの所には俺一人で行けという事らしく、リアンシから激励を頂いたが……お前からの応援is何? と扉を開けて中に入った所で、言葉の意味を理解すると共に膝が折れそうになる威圧感。
「スーーーッ、ハァァァ……」
反射的に顔を俯かせて視線を地面に固定する。俺が何処の誰で人差し指の何になったかとか、多分ヴァレンチーナには関係ない。部屋に入ってから俺が取る振る舞いの全てに対してしっかりと親指の規則を適応するつもりでいる。
キレている。ガチギレではない、そこまでではないが……あからさまに機嫌が悪い。葉巻を吸って吐き出す息の中からは、煙だけでなく苛立ちと嫌悪が混ざっている事を否が応でも感じさせられたから。
「子方達はまだいいんだよ。チケットが戻って来た時に必要になる手本だし、人差し指の以外には指としての位は無いけど、どいつも下位幹部くらいの力はあるから。ああ勘違いすんなよルチオ、お前はまだ全然だからな」
「そんじょそこらの指の支部なんかよりよっぽど格の高い場所なんだよ、此処は。アンダーボス、神託代行者、長兄、マエストロ、地彗星……それらが手ずから研いでる子方」
「で、お前はなんだ? 外郭から紛れ込んだ蛆虫かなんかが、なんだって蜘蛛の巣の一員なんて言って此処に居ようって?」
「困るんだよ。誰でもかれでもホイホイ入ってくるような、その程度の場所でしかないって事になっちゃ、アタシまでその程度になんだろうが。なぁ、おい、なぁ!」
終わりだ。
アンデルセン
お願い、死なないでアンデルセン! アンタが今ここで倒れたら、阿頼耶識されるソラちゃんはどうなるの? ライフはまだ残ってる、ここで弁解出来ればヴァレンチーナに容認して貰えるんだから!
次回、「アンデルセン、死す」。代行開始。
ソラ
知らないところでアンデルセンが死に掛けている事も知らずにのんびりしている代行者。時間差で今いる場所が交際相手の部屋だと意識し、総てをこの手に……
リアン
此処で死んだらそれまでだろう、指令もそこまで庇えという内容ではないし(拡大解釈)それはそれとして流石に同情もしたので気持ちばかりのエールを送った。優しい。
ヴァレンチーナ
殺すつもりはない。が現代人の肉体を破壊するのに殺意まで必要かと言われれば当然そんなこともなく。リアンから事情を説明された時からだいぶキていた。
ルチオ
苛立つ親方から既に理不尽なグーを喰らっている可哀想な友達。息を殺してヴァレンチーナの横に立っている。