入学式までの1週間で、ギリはこの世界について調べていた。と言ってもISのことについてではなく、単純に時代や地理的なことであったが。
人類が宇宙に出ていないことから察してはいたが、やはり西暦だった。しかし、過去にISなどという兵器があったという話は聞いたこともない。
ここは異世界、あるいは平行世界の過去ということなのだろう。
ついにIS学園の入学式の日がやってきた。男であるために他人からの注目を集めてしまい、ギリはあまり良い気持ちはしなかったが、入学式は無事何事もなく終了した。
式が終わり案内されたのは1年1組の教室。
「皆さん、入学おめでとう!私は担任の山田真耶です!」
そう言って手のひらの上の空間にホログラムのように自身のプロフィールを映す。
こんな技術は宇宙世紀にはなかった。やはりこの世界も一部の技術には目を見張るものがある、とギリは考える。
『.....................................』
誰も返事をしない。その様子におっかなびっくりといった様子で色々話すがやはりなんの反応も得られず、そのまま生徒たちの自己紹介へと移った。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします!」
ギリは姓が「アスピス」なので、すぐに自己紹介をする番が来た。
ギリは周囲から好奇と期待の眼差しを向けられていることを感じ取ったが、気にせず立ち上がり自己紹介をする。
「俺はギリ・ガデューカ・アスピスだ。ギリシャからやってきた。これからよろしく頼む。以上だ。」
ギリは千冬から予め伝えられていた自分の偽造された身分に合わせて適当に自己紹介をし、そのまま座った。
「あの人が2人目の男性IS操縦者だよね?」
「身長高くない?」
「同じ16歳とは思えないよね〜。」
「結構イケメンじゃないの〜」
多少クラスがざわめき始めたが、程なくして収まり次の人の自己紹介が始まる。
織斑一夏は、聞いていた2人目の男性IS搭乗者が同じクラスだったことを再確認し、いくらかの安堵を覚えた。
しかし、それと同時に大きな緊張に苛まれていた。大量の女子たちからの目線、そして同じ男が自己紹介をスムーズに終えたことで自分の中で上がってしまったハードルに。
(箒...!)
思わず幼馴染の篠ノ之箒に助けを求めるような目線を送るも逸らされてしまう。
(それが6年ぶりに再会した幼馴染への態度か...!?)
そんなことを考えているうちに一夏の番になっていた。
この学園唯一の同性である一夏にはギリも興味を示し、注目する。
「織斑くん!織斑一夏くん!」
「あ...は、はい!」
呼ばれても気づいていなかった一夏の様子にクラスのみんなが笑っている。
山田先生はなぜだか申し訳なさそうに自己紹介を頼んできた。
「あの〜、大声出しちゃってごめんなさい。でも、『あ』から始まって今『お』なんだよね。自己紹介してくれるかな?ダメかな?」
「いや...そんなに謝らなくても...」
そう言ってとりあえず立ち上がる。
「織斑一夏です。よろしくお願いします。」
そこで止まり、周りからの視線に気づいた一夏、一瞬何か言うべきか迷うが意を決して口を動かす。
「以上です!」
そこで終わらせた一夏の頭に対して鉄拳制裁が下る。
おおよそ人間同士の衝突とは思えない音を出して拳を振り下ろしたのは...
「げっ!千冬姉!」
さらにもう1発。
「学校では織斑先生だ。」
そして山田先生に代わって教卓の前に立つと、自己紹介を始めた。
「諸君!私が担任の織斑千冬だ!君達新人を1年で使い物にするのが仕事だ。」
『キャアアアア!!!!』
女子生徒達の甲高い悲鳴のような歓声が響いた。
ギリと一夏は思わず耳を塞ぐ。
「千冬様!本物の千冬様よ!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に入ったんです!」
教室はもはや動物園状態だ。
織斑千冬がこんなにも人気者であるとは知らなかったギリは困惑している。
「毎年よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ...私のクラスにだけ集中させているのか...?」
千冬は呆れたようにそう呟く。
一通り歓声が止まったあと、千冬は一夏に向き直る。
「...で、挨拶もまともにできんのか?お前は...」
「いや、千冬姉、俺は」
「織斑先生と呼べ。」
そう言われ今度は顔面を机に押し付けられる。
一夏が千冬の弟だとわかるとまたクラスがざわつき始める。
「静かに!」
騒然としていたクラスだったが、千冬の一声で静まり返り、再び自己紹介を再開した。
その後、再開した自己紹介タイムも何の問題もなく終了した。
そして千冬が話し始める。
「諸君らには半年間でISの基礎知識を覚えてもらう。そして実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか?いいなら返事をしろ!良くなくても返事をしろ!」
『はいっ!!』
そして山田先生がISとIS学園について話しそれで話は終わった。
別のクラスからも女子達が男性IS操縦者を一目見ようと集まってくる。
一夏はもう早速嫌になり始めていた。
「おい」
ギリは死んだ魚の目をしている一夏に話しかけた。
「ああ、確かギリ...だっけ?同じ男がひとりでもいてくれて助かったよ。よろしくな!」
「お前は一夏だったな。よろしく頼む。織斑千冬の弟なんだってな?やつはそんなに有名なのか?話し始めた途端に周りの奴らの高音が頭に響いて死ぬかと思ったぞ。」
「えぇ!?お前千冬姉のこと知らないのか!?って思ったが、そういえばギリシャから来たって言ってたな。まあ、あの人はIS操縦者の元日本代表なんだよ。
って言うか日本語上手いなお前。」
(だからってあそこまで興奮するかよ...)
と、若干引いていたギリだったがもう突っ込むのを辞め話を続けた。
「当然だ。俺はなんだってでき...」
「.....ちょっといいか。」
「え?」「誰だ?」
「篠ノ之箒だ。一夏を借りていくぞ。」
そう言うとこちらの返事を待たずに一夏を連れて行ってしまった。
ギリは1人になってしまったため、次々と女子生徒に囲まれ、地獄の質問攻めを予鈴までされる羽目になった。
授業が始まったが、基本的に参考書全体を理解していたギリにはさして難しい内容ではなかった。
が、この男にとっては違った。そう、織斑一夏である。
「では、ここまでで質問がある人〜?」
(ここら辺の単語はいったいどういう意味なんだ!?まさか全部覚えないといけないのか...?)
そう考えながら教科書を凝視し、冷や汗をかいていた。
「織斑くん、何かありますか?」
「あっ!ええっと...」
「質問があったら聞いてくださいね?何せ私は先生ですから!」
そう言われた一夏は深刻そうに手を上げ質問をする。
ついに聞いてくれると山田先生は嬉しそうに指名する。
「ほとんど全部分かりませぇん...」
「えっえぇ!?全部ですか!?今の段階で分からないって人はどれくらいいますか?」
誰一人として反応を示さない。この時点で理解していないのは一夏だけであった。
そんな様子の一夏に千冬が話しかける。
「織斑、入学前の参考書は読んだか?」
「えー...あの分厚いやつですか?」
「そうだ。必読と書いてあっただろう?」
「あー...間違えて捨てまし...うわぁっ!?」
言い切る前に出席簿で思い切り顔面を叩かれた。
「後で再発行してやるから、1週間以内に覚えろっ!」
「いや...1週間であの厚さはちょっと...!」
「やれと言っている...アスピスは1週間で覚えたぞ。」
「えぇ!?」
「お前も同じ男だろう?できないとは言わせんぞ。」
「はぁ...やります...」
そのまま授業は終わり、休み時間になった。
「なあギリ...お前本当にあの参考書の中身全部覚えたのかよ...」
「中身は理解した。お前が思ってるほど難しい内容でもないぜ?」
「本当かよ...あんなの読むだけでも1週間じゃ足りないってのに...よく理解なんてできるもんだぜ...」
「当然だ。俺はなんだってでき...」
「ちょっと宜しくて?」
「え?」「誰だ?」
「まあ!なんですのそのお返事!?わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」
突然やってきて随分と偉そうな口を利くやつだ、とギリは内心不快感を感じていた。
「悪いな。俺、君が誰だか知らないし。」
「はっ!?わたくしを知らない!?イギリスの代表候補生にして入試首席のこのセシリア・オルコットを!?まさかそこにいるあなたも!?」
突然ギリに対しても質問を投げかけるセシリア。
「俺もお前のことは知らんな。」
「質問いいか?代表候補生って...なんだ?」
真剣な顔をしていた一夏の口から出た思わぬ質問にその場にいた全員が驚きを隠せない。
「あ...あ...あ...」
「あ?」
「信じられませんわ!日本の男性というのは、これほどまでに知識の乏しいものなのかしら!?常識ですわよ?常識っ!」
「で、代表候補生って?」
この質問にセシリアがドヤ顔で笑みを浮かべる。
「国家代表I...」
「お前は少しくらい自分の頭で考えろ。要はその国のIS乗りの代表候補ってことだ。読んで字のごとくだろうがよ...」
「確かに言われてみればそうだな。」
「ちょっと!わたくしの説明を遮らないでくださいます!?」
「フンっ」
ギリに自分がするはずだった説明を奪われ、更に怒りを表すセシリア。
「つまりわたくしはエリートなのですの!エリート!本来ならばわたくしのような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡っ!その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか、それはラッキーだな」
一夏の言葉にむしろアンラッキーだろ...とギリは口に出しかけたがすんでのところで止まる。こんな面倒なだけのやつに時間を割くだけ無駄だろうと考えて。
「バカにしていますの...!?」
「お前が幸運だって言ったんじゃないか...」
「まったくよくこんな人達がIS学園に入れましたわね。世界でたった2人だけのISを操縦できる男性だと聞いていましたが、期待はずれですわね...」
「俺に何かを期待されても...」
「いったい何に対して期待してたんだ。」
勝手に期待され勝手に失望された2人の言葉はセシリアに届かなかった。
「まあでも?わたくしは優秀ですから、あなたたちのような人間にも優しくして差し上げますわよ?分からないことがあれば、まあ...泣いて頼まれたら教えて差し上げても良くってよ?何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
「お前に教えてもらうことなどない。余計なお世話だぜ。」
ギリはセシリアの上から目線な態度に少し棘のある言い方で返す。セシリアが返事をする前に一夏が口を開いた。
「俺も倒したぞ?教官。」
「はぁ!?」
「倒したって言うか...いきなり突っ込んできたのを避けたら壁にぶつかって動かなくなったんだけど。」
だがセシリアは「教官を倒した」という部分しか頭に入らなかったようだ。
「わたくしだけと聞きましたが...」
「女子ではってオチじゃないのか?」
「あなた!あなたも教官を倒したって言うの!?」
セシリアは一夏に近づきまくし立てる。
「え、ええっと...落ち着けよ、な?」
「これが落ち着いていられますか!?あなた!あなたも教官を倒したのですか!?」
「俺は引き分けた。相打ちでシールドエネルギーが0になったからな。」
それを聞いてセシリアがまた口を開こうとしたが、そのタイミングで予鈴がなった。
「この続きは...また改めて!よろしいですわね!?」
そう言ってこちらの返事も聞かずに席へと戻って行った。
そして授業が終わり、放課後。
ギリと一夏は一緒に寮へと戻っていた。後ろから大量の女子が着いてきているが、寮だから仕方の無いことだろう。
「初日からこれじゃ...先が思いやられるな...」
「まったくだ。だがお前は一旦あの参考書に集中した方がいいぜ?また殴られたくなかったらな!」
「うわっ、そうだった...って何笑ってんだよ...こっちは地獄だぜ」
そんなことを話してるうちに一夏が自分の部屋に着いたのでその場で別れた。
背後から一夏の悲鳴のような声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう...多分。
ギリはそのまままっすぐ自分の一人部屋へと戻っていくのであった。
ギリのキャラが結構難しい...現時点でキャラ崩壊してるような気がしてきた...
何か違和感や間違いがあったら指摘していただけると助かります。
今後の方針としては基本ISのアニメ準拠であまり変化させずに進めていく予定です。
先の展開が完全に変わるような改変は自分には手に余りますので...
まああくまで予定ですから、気が変わることもあるかもしれません。
追記:ギリが1番初めに自己紹介をしていましたが、相川という苗字のキャラがいたため修正しました。