天災三兄妹のデンドロ日和   作:貴司崎

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第五話 森の中の死闘+α

 □■<ノズ森林>

 

『GAAAAAAA!!!』

「流石に速いねッ!」

 

 王都周辺の初心者狩場の一つと呼ばれている筈の<ノズ森林>だったが、今そこで起きているのは“初心者の戦い”と呼ぶには余りにも逸脱した激闘だった。

 一方は目を血走らせながら高速で爪牙を振るうのは獲物の血を啜る亜竜級の狂虎【ブラッディ・デミドラグタイガー】であり、その攻撃をギリギリで回避しながら大剣を振るって反撃するのは【戦士(ファイター)】である<マスター>ミカ・ウィステリアである。

 

『GURUAA!!!』

「速いし重いしでソロでやるにはクッソキツいね!」

 

 ただし、その戦いは未だに下級職一つ目の【戦士】をカンストもさせていないミカが、ステータス面では遥かに上回る【ブラッディ・デミドラグタイガー】の攻撃を全て回避し、更には相手が回避しきれないタイミングで的確にカウンターを入れてダメージを与えていると言う異常な展開であったが。

<マスター>であるミカは物理ステータス補正に特化した<エンブリオ>によってティアンの【戦士】の倍のステータスは得ているが、それでも【デミドラグタイガー】に勝っているステータスは一切なく特にAGIに関しては各種装備補正込みでも数値上は5倍以上の差が生じているにも関わらずだ。

 

「唯一いい所は守り(END)が薄いからこっちのダメージは通る事だけど、さすがにHPが多いから一発じゃ倒せないか。多分こっちはまともに一撃喰らえば即死だろうね!」

『GAAAAAAAUUU!!!』

 

 確かにSTRの装備補正に特化した義手型アームズ【破壊戦腕 ギガース】、及び高い装備攻撃力と剣の重量に応じて攻撃力に補正が掛かる《過重強化》の装備スキルを有する【グレートソード】を合わせた攻撃力であれば、STRやAGIより低い【デミドラグタイガー】のENDを突破してダメージを与える事は出来る。

 だがそれは一撃当たれば必殺の【デミドラグタイガー】の爪牙を全て躱し、五倍以上のAGI差でも避けられないタイミングのカウンターを相手のHPが尽きるまで続けると言う綱渡りに等しい戦い方で漸く互角の勝負になる程度の優位性だ。

 

「お兄ちゃんやミュウちゃんならもっと上手くやるんだろうけど、私だとカウンターをチマチマ入れるのが精々かな!」

『GUGAAAAA!!!』

 

 ではそれを可能にしているのは<マスター>が有する奇々怪界な<エンブリオ>の固有スキルか? 否、彼女の【ギガース】には武器攻撃が相手の防御スキルを貫通する《神意を砕く巨人の腕(ディバイン・ブレイカー)》と言うスキルがあるが、攻勢特化で防御スキルは持ち合わせていない【デミドラグタイガー】相手には意味がない。

 故にこの異常な戦闘を可能にしているのはミカが有している技術……生まれ持った危険を感じ取る異常な“直感”と、それに振り回されずに活かす為に修練し続けてきた戦闘技術によるものである。

 

『GUGAAAW!!!』

「おっと、焦れて隙が出来たね」

『GAA!?』

 

 数多の才人を輩出して来た“一族”の中でも彼女の実家である加藤家は“戦闘”に関する才能を持つ者達によって作られた家であり、両親が亡くなってから彼女が引き取られた叔父夫婦も“一族”が運営する民間軍事会社に勤める超一流の戦士である。

 そして両親の死に何も出来なかった自分を変える為に彼女は伯父夫婦に自分を鍛える事を頼み込んでおり、その“直感”という異質な才能から自分の身を守る自衛の手段は必要と考えた叔父夫婦はその“直感”を前提とした戦闘技術を指導していた。

 元より武術において相手の先読みは基礎にして奥義であり、“直感”のお陰で攻撃の先読みに関しては完璧に行えた彼女には戦士としても十分な資質があった。そしてその技術は<Infinite Dendrogram>の世界においても5倍のAGI差を覆して攻撃を見切りながらカウンターを打ち込むと言う形で発揮されているのだ。

 

「……っとと、ダメージは与えられてるけどそれだけで倒せる様な手合いじゃなさそうだね。と言うか徐々に傷が治ってない?」

『GUUUU!!!』

 

 今も紙一重で【ブラッディ・デミドラグタイガー】が振り下ろす爪を回避し、同時にガラ空きの胴体に大剣を叩き付けて大きな切り傷を付けた……が、【デミドラグタイガー】はENDこそ低いもののHP・STR・AGIが高めのモンスター故にその程度では致命傷には程遠い。

 そして“ブラッディ”の名詞を持つモンスターは生きたまま獲物の血を吸う、死んだモンスターが光の塵になるこの世界で効率的に栄養を得る為に進化したモンスターであり、それ故に吸血によるHPドレインスキル《血潮吸収(ブラッド・ドレイン)》を始めとした血液に纏わるスキルを習得している。

 

「……やっぱり回復してるし【出血】も少ないね」

『GURURURU……!』

 

 その中でもこの【ブラッディ・デミドラグタイガー】は《血流再生》と言うHP自動回復スキルを有しており、スキルレベルは3なので秒間HPが3回復する程度の些細な効果だが副産物として【出血】を軽減する効果や増血効果もある。

 つまり細かいダメージを積み重ねて状態異常【出血】によるスリップダメージを狙う持久戦は不可能な相手であり、更に傷付けた相手の【出血】を重篤化させるスキルもあるのでむしろ【出血】狙いの持久戦は相手の独壇場と言える。

 

「ひょっとして<マスター>の血を覚えちゃったからこんな所まで獲物を追って来たとかかな? さてこのまま持久戦だと勝ちの目は薄そうだし……」

『GAAAAAU!!!』

 

 幸いミカの“直感”による先読みによって【デミドラグタイガー】の攻撃は当たっておらず【出血】もしていないが、カウンターもダメージは通るとは言え亜竜級のHPを削り切るには何十と攻撃しなければ倒しきれない程度のダメージでしかない。

 このまま持久戦を続ければ生物としての持久力と体力に優れた相手が優位である事がミカにも分かっており、【デミドラグタイガー】もそれが分かっているからこそ反撃を喰らいながらも攻め続けて疲労させてからその喉を食い破り血を吸う機会を伺っていた。

 

「……なるほど、このままなら“そう”なるか。じゃあ“コレ”しかないかな」

『GAAAAA!!!』

 

 そんな結末を感じ取ったミカはカウンターを取り止めて大剣を振り翳し攻勢に出た。このまま持久戦になったら負けるから一か八かの掛けに出て、敵の急所である頭部を狙って傷痍系状態異常で倒す。

 ……そう相手の行動を読んだ【デミドラグタイガー】はその斬撃を急所である頭部から外しながらも敢えて胴部で受け、そのダメージと引き換えにカウンターの爪でミカの脚部を斬り裂いた。

 

「グッ!?」

『GAAAAAW!!!』

 

 AGIに大きく劣る側でも攻撃を当てられるカウンターをAGIで大きく上回る側にされれば流石のミカでも回避しきれず、そして回復能力を持つ故に肉を切らせて骨を断つ戦術も使った事がある【デミドラグタイガー】の反撃は的確にミカの移動能力を奪うだけの傷を負わせていた。

 スキル《出血増加》の効果によって血が吹き出す足を押さえながら膝を突くミカに向けて、【デミドラグタイガー】は大剣に当たらない位置から大口を開けて迫る。手に紋章がある人間(<マスター>)は死んだらモンスターと同じく光の塵になるのは知っており、ゆえに死ぬ前に血を吸い尽くして負わされた傷を癒さねばならない。

 

「……うん、読み通りかな」

『GOGA!?』

 

 ……そんな思考をこれまでの戦いから読んでいたミカは自らを食いちぎろうとする【ブラッディ・デミドラグタイガー】の開いた大口に傷を抑えていた腕を突っ込み、大剣ばかり警戒していた吸血虎は突進に合わせて腕を勢い良く口内に突き込まれる事に反応出来ず思わず嘔吐いてしまう。

 だが、それならこの腕を食いちぎればいいだけと口内の腕を食いちぎろうと牙を突き立てるが、その腕は腕部置換型<エンブリオ>【ギガース】であり、TYPE:アームズ特有の頑丈さは彼女自身のENDを大きく上回っているので亜竜級の牙であってもそう易々とは食いちぎれない。

 

「起動」

『GAGAGAGAAAAA!!!?』

 

 だが、それならと【デミドラグタイガー】は食いちぎれないならSTRと体格差で押し潰せばいいと力を込めるが、それよりも早くミカが口内に突っ込んだ手に持っていた【ジェムー《リトルフレア》】を起動させる。

 このジェムは<マリィの雑貨屋>で買ったマジックアイテムで小規模な炎を炸裂させる下級の火属性魔法が込められており、普通に使っても亜竜級モンスターにはかすり傷を与える程度だが口内で爆発を起こすのであれば話は別である。

 

『GA……GUGAA……!?』

「お願いだからもう少しだけ動いてね【ギガース】!」

 

 口内の喉奥に近い場所で起こされた爆炎は【デミドラグタイガー】に大ダメージを与えつつ呼吸器官を焼き尽くし、その結果【窒息】状態になった吸血虎はフラつきながらどうにか呼吸を確保しようと咳き込みながら嘔吐く。

 そこに爆発で食い付かれた腕を引き剥がしたミカが咬合と爆炎で損耗した【ギガース】を動かして【グレートソード】を両手持ちにし、残った片足で無理矢理に踏み込みながら全力で【デミドラグタイガー】の頸部に大剣を叩き付けた。

 

「どっせい!!!」

『GAA……!?』

 

 そうして振り下ろされた大剣の一撃は【ブラッディ・デミドラグタイガー】の頸部に食い込み、ミカの高いSTRによってそのまま肉と骨を断ち切り吸血虎の斬首を成し遂げたのだった。

 

「よっしゃ仕留めた! これで悲劇は覆され……って【出血】の所為でHPがヤバい!? ポーションポーション!」

 

 自らの“直感”で示された悲劇を明確に自分の力で覆した事に達成感を覚えるミカだったが、足の出血の所為でHPがドンドン減っている事に気付いて慌ててアイテムボックスからポーションを取り出して嚥下する。

 最終的には傷口にもポーションを掛けた上でHPと傷痍系状態異常を持続回復させる薬も使ってどうにか【出血】を治して、その頃には【ブラッディ・デミドラグタイガー】も光の塵となりドロップアイテムである【宝櫃】が残された。

 

「【亜竜血虎の宝櫃】ね。この前倒した亜竜級から出た【宝櫃】からは【適職診断カタログ】が出たけどお金が心許ないから出来れば換金アイテムか何か良い装備でも……ッ!?」

 

 その【宝櫃】をホクホク顔で回収したミカだったが突如自らの“直感”が激しく反応して咄嗟に全力で飛び退くと、その数瞬後に彼女がいた場所に()()()()()()爪が突き刺さった。

 大剣を構え直した彼女が襲撃者を見るとそこには【ブラッディ・デミドラグタイガー】よりも二回りは大きい、血の様な縞模様腕した大虎──純竜級モンスター【ブラッディ・ドラグタイガー】の姿があった。

 

「あーさっきの虎さんのご家族ですか? 或いは番とか……」

『GAAAAAW!!!』

 

 その場の状況と血の残り香から目の前の人間が自分の番であった者を殺したと判断した【ブラッディ・ドラグタイガー】は、殺意を撒き散らしながらミカを噛み砕かんとする。

 それをミカは“直感”で先読みして躱そうとするが先程の戦闘のダメージがあって動きが鈍く、何より亜竜級の【ブラッディ・デミドラグタイガー】とは比べ物にならない速度を大虎の攻撃は躱しきれず大剣を盾にして爪を受け止めつつ技と弾き飛ばされて距離を取る。

 

「うわーせっかく買った【グレートソード(中古品)】が壊れちゃった。……うーん、此処で私が死ぬ感じはしなかったけど、デンドロだと“直感“の精度が下がってるのかな」

『GAAAAA!!!』

 

 そんな事を言いながらも【ブラッディ・ドラグタイガー】による亜音速の爪牙を“直感”で先読みし、学んだ技で武器を盾にして受け流しながら辛うじて凌いでいくミカだったがとてもカウンターを決める余裕などない。

 最も今の彼女の攻撃力では純竜級モンスターのENDを抜けないのでやるだけ無駄だと分かっていたからこそ防御と回避に徹していたが、それも【ドラグタイガー】が攻撃用のアクティブスキルを使い始めた事で武器が破壊されてあっという間に追い込まれれしまう。

 

「あ、やば」

『GAAAAAAAAAAA!!!』

 

 そして武器が壊れて更には先程までの戦いによる疲労で動きが鈍った所に【ドラグタイガー】が襲い掛かり、そのまま爪牙によってミカは瞬時に引き裂かれる……。

 

「……《パラード》」

『GAW!?』

 

 その寸前にミカと【ブラッディ・ドラグタイガー】の間に何者かが割り込み、同時に手に持った細剣(レイピア)を【ドラグタイガー】の爪牙に沿わせて振るい突撃を受け流してしまった。

 純竜級モンスターである【ドラグタイガー】の攻撃を受け流すと言う尋常ではない行動を行った“その人物”は、ごく自然に見える洗練された動作でレイピアを半身で構えながらミカを庇う様に【ドラグタイガー】に向き直った。

 

「大丈夫ですかミカさん、先程会った2人から【ブラッディ・デミドラグタイガー】と<マスター>が戦っていると聞いて様子を見に来たのですが……」

「アイラさん? どうして此処に?」

 

 その人物が面識のある冒険者ギルドの受付嬢アイラ・ローランであると気付いたミカは歓声を上げるが、同時に身に付けているのがいつものギルド制服ではなく彼女の目にも高性能だと分かる“冒険者”の様な装備である事に驚いた。

 ……ミカは知らぬ事だが今アイラが装備しているレイピアは古代伝説級金属(アダマンタイト)製のオーダーメイドであり、身に付けている動き易さを優先したデザインの軽鎧などを含めて彼女が冒険者時代に愛用していた戦闘用の装備である。

 

「少々<ノズ森林>の様子がおかしいと言う情報がありましたので調査をしていました。そしたら王都の方に逃げる<マスター>とティアンの2人組を見掛けて、事情を聞いたら亜竜級モンスターが出たとの事で此処に。しかしこんな所に純竜級まで居るとは」

「亜竜級の方は私が倒したけどそしたらコイツが出た!」

「成る程、大体分かりました。……兎に角こんな王都の近くに居ていいモンスターではありませんし、此処で始末しておきましょう」

『GURURU……!』

 

 当然の様にそう言うアイラであったがそもそも純竜級モはティアン基準だと上級職がパーティーを組んで挑む相手、個体によっては複数パーティーの集団を組んで討伐に乗り出す事もある単独で戦う相手ではないのが常識である。

 仮に単騎戦力として王国内屈指な決闘ランカー達であってもその多くは純竜級と戦うならパーティーを組むのが普通であり、元冒険者であり決闘ランカーであろうと純竜との一対一は通常なら危険だと余人は評するだろう。

 ……最も、それは今では冒険者ギルドの受付嬢である【教導者(ティーチャー)】アイラ・ローランの()()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()を知らない者の話だが。

 

『GAA「遅い」Aa……?』

 

 そんな眼前でのうのうと喋っている人間を始末しようと【ブラッディ・ドラグタイガー】が飛び掛かろうてした瞬間、その眉間に大穴が穿たれ内部の重要臓器である脳を破壊された事で【ドラグタイガー】の意識は断絶した。

 それを後ろから見ていたミカは恐らくアイラが何かの攻撃した事は“直感”で感じ取ったが、その攻撃は自分は愚か純竜級の【ドラグタイガー】にすら見えなかった事に戦慄する。

 

「ふむ、進化したてのレベルが低い個体だったみたいですね。楽に片付きました」

「うへー、何が起こったか全く分からん。アイラさんが()()()()()だとは聞いたけど此処まで強かったんだ」

「まあ、あの“化猫屋敷”には負けましたけどね。30回以上突き殺しても増え続ける相手にはどうしようもなかったですよ」

 

 そう、彼女アイラ・ローランは数年前までは元アルター王国決闘ランキング1位に君臨し、剣士派生細剣士系統超級職(スペリオルジョブ)閃孔剣(フラッシュ・ブレイド)】の座に付く現在でも王国ティアン最強の冒険者なのだ。

 現在は”とある事件”から決闘は引退して冒険者ギルドの受付嬢となり、冒険者としての活動も今の様に偶に行う程度だがその実力も得た超級職も衰えてなどいない。

 

「しかし亜竜級はおろか純竜級モンスターがここまで王都の近くに来るとは、<マスター>の増加による王都周辺の生態系の変動が理由にしてはおかしいですね。……元の縄張りを“何か”に追い出された?」

「あのーアイラさん?」

「おっとすみませんでしたミカさん、大丈夫ですか?……ソロで亜竜級を倒し、純竜級に襲われても生き残るとは流石ですね」

 

 考え事を一旦取り止めたアイラはアイテムボックスから高品質ポーションを取り出して【ドラグタイガー】との戦いで傷だらけのミカに振り掛け、光の塵となった【ドラグタイガー】のドロップアイテムである【宝櫃】を拾い上げる。

 

「さて、この【純竜血虎の宝櫃】ですがとりあえず中身は私とミカさんで山分けになりますね。別に全部渡しても良いんですが救援に入った相手に報酬を渡すのも冒険者間のローカルルールで……」

「いや私ほぼダメージ与えられなかったし貰えないよ!? アイラさんが来なければ確実に死んでたから貢献度で言えば九割九部九厘ぐらいアイラさんが占めてると思うけど!」

「私が来るまで純竜相手に持ち堪えていたミカさんにも十分ドロップアイテムを手にする資格はありますよ。後は救援に来た人が『このモンスター倒したのは俺だからドロップアイテムも俺んな』とか言うと冒険者としての評判が下がるので。……とりあえず開けて中身を見てから分配方法を考えましょうか」

 

 そう言いながらアイラが宝櫃を開けると中には換金アイテムと“天使の様なデザインのブローチ”が入っていた。

 

「このブローチは……」

「【救命のブローチ】ですね、致死ダメージを肩代わりしてくれるアクセサリーです。一定確率で壊れて一度壊れると24時間同じアイテムを再装備は出来ませんが、いざと言う時の命綱として非常に有用で上級冒険者は身につけています。……そうですね、私は換金アイテムを貰いますからミカさんは【ブローチ】でどうでしょう」

「え? 貰いすぎじゃない? この【ブローチ】って凄いアイテムなんでしょ?」

「そうですが、私は【ブローチ】は予備含めて幾つか持っていますので。ちなみに売れば300万リルぐらいします」

「高ッ!?」

 

 この【救命のブローチ】は上級ボスモンスターから低確率ドロップするか高級素材を使って作られるアクセサリーであり、少なくともティアンだけでは上級のボスモンスターの討伐が困難である現在では市場に殆ど流通していないレアアイテムであるのだ。

 まあ並の純竜級なら今の様にソロ討伐出来るアイラにとっては複数個入手出来るアイテムではあるのだが、所持金数万リルでやりくりしてる初心者<マスター>のミカにとっては凄まじいレアアイテムなので【ブローチ】を持つ手がちょっと震えていた。

 

「これを売って壊れた【グレートソード】の補填……いやコレはたぶん持っていた方がいいタイプのアイテムか……?」

「まあドロップアイテムをどうするかはご自由に。私は本格的な<ノズ森林>の調査準備の為に一旦王都に帰る予定ですが、ミカさんはどうしますか?」

「流石にボロボロだから今日はもう帰ります。そう言えば王都の方に逃げてったフォルテスラさん達は大丈夫でした?」

「ええ、私が会ったのは王都の近くでしたからあのまま街の中まで行けたでしょう」

「それは良かった。……本当に此処での悲劇は覆せたんだね、でももっと強くならないと」

 

 そうして<ノズ森林>で起きようとしていた悲劇を覆したミカは充足した気分で森を後にしつつも、間近で見た純竜級と呼ばれるモンスターの力とそれを容易く始末するアイラ(超級職)の戦いを見た事で<Infinite Dendrogram>の世界で訪れる危険を退けるには更なる力が必要だと認識したのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □王都アルテア・魔術師ギルド 【魔術師(メイジ)】レント・ウィステリア

 

「……《ファイアーボール》!」

「おー、ちゃんと動いてる的に当たってますね。ジョブによる補助があるとは言え魔法を動体に当てるのは少し訓練がいるんですが。コレも<マスター>だからですかね」

 

 俺が現在いるのは王都アルテアの専門ギルドの中でも最大規模を誇る魔術師ギルド本部、そこの特殊な結界が張られた魔法訓練場で動き回る的なホムンクルスへメインジョブを【魔術師】にした事で覚えた初級火属性魔法を撃ち込んでいた。

 ジョブクエストを受けに行ったのに何で訓練しているのかと思われるかも知れないが、これは依頼された【<マスター>の魔法能力調査】のクエストの一貫であり、今も俺の隣では依頼主の尖った耳を持つ小柄な銀髪の女性が俺の魔法を見ながら何かのメモを取っていた。

 

「ふむふむ、一通りの属性の魔法を使って貰いましたが<マスター>が凡ゆる属性やジョブに適正があると言うのはほんとうみたいですね。【魔術師】以外にも【司祭(プリースト)】【付与術師(エンチャンター)】【呪術師(ソーサラー)】【魔石職人(ジェム・マイスター)】のジョブにまで就いてくれてありがとうねレントさん」

「まあジョブ枠は余ってたんで。報酬が追加で貰えるなら別に構いませんよメリアさん」

 

 今回のクエストの依頼主は【魔女(ウィッチ)】のメリア・ローランさん、名前から分かる通り冒険者ギルドの受付嬢のアイラさんの妹だそうで、今回のクエストを受けてくれそうなある程度信用出来る<マスター>はいないかと相談されたアイラさんの推薦で俺が選ばれた訳だ。

 まあ今回のクエストで色々魔法を使って欲しいと言われたので【傭兵(マーセナリー)】含めて下級職6つが全部埋めてしまったが、最悪ジョブを取り直せば良いだけだから問題はないだろう。【ルー】の特性的にこの辺りを補うスキルが後々生えそうな気もするし。

 

「報酬に関しては問題ないですよ、何せ今回の<マスター>の魔法能力調査のクエストはかの【大賢者】さまの援助を受けていますからね。『今後も<マスター>が増え続けるならソレについて知る事は必要でしょう』と資金援助してくれましたし! 調査結果を後で渡してくれとも言われましたが」

「【大賢者】様ね、確か王国最強の魔法使いで百年以上も宮廷魔術師を務めてご意見番にもなってる知恵者だとかアイラさんの授業でやってたな」

「まああの方肩書きめっちゃ多いですからね。……しかし、<マスター>は魔法においても万能の資質があるってのは本当の様ですね。ティアンだと魔法が使えても資質によって消費MPとかが同じでも効果が変わったりするんですけど、レントさんのは大体どの資質も同じぐらいの効果というか……」

 

 ゲーム的に考えると個々のプレイヤーのアバターによって就いたジョブの性能が変わるなんて事があればゲームバランスが悪いだろうしな。まあ体格とかで使いやすい技とかは出るだろうが、資質面で<マスター>のアバターは同じになる様に設定されているんだろう。

 その辺りは確かに個々人でジョブ適正や最大レベルが異なるティアンにとっては不自然に映るのかもしれん。むしろ<マスター>のアバターは理論上の最高性能を画一的に量産してるとも取れるか?

 

「私は回復や付与魔法の適正がなくて【賢者(ワイズマン)】に就けなかったのでちょっと羨ましいですね。別に【魔女】のジョブと母さんから引き継いだ私の資質に不満がある訳でもないですけど」

「自分に持っていない他人の才能や能力を見ると羨ましくなるのはよくある事だからな。自分の能力に満足してるのとは別の話だ」

「ですねー。……まあエルフの血が濃いせいで姉さん達より身長が低いのは不満かなぁ」

 

 確かにメリアさんはちょっと長い耳とかエルフっぽいなと思ったが、どうもエルフのクォーターとしてはエルフの血を濃く受け継いだのだとか。アイラさんはエルフ要素少なかったがティアンの多種族との混血だと兄弟姉妹で差異が出る事もあるらしい。

 

「ああ万能の資質を持つ<マスター>なら【賢者】の転職条件を満たすのも簡単そうですけどね。条件で一番キツいのは三大属性に加えて回復や補助の適正も必要な所ですし。レントさんも就いてみます?」

「条件を満たせば就いてみるのも良いかな。自分で魔法を使うのは中々楽しいですし」

「資質以外にもレントさんは魔法使う技術面でも才能あると思いますよ。……本当にこれまで魔法を一度も使ったりした事ないんですかってレベルで使ってますよね?」

「魔法を使ったのは今日が初めてですよ」

 

 まあリアルで霊能力とか超能力とか宇宙人の超科学とかのよく分からんスーパーパワーを使う連中を見た事はあるし、何故か成り行きでそういう連中と戦う羽目になった事が何度かあるけどな。

 ……と言うかなんでそんな超人達と無能力者である俺が戦わねばならないのか。能力の仕組みを見抜いて武器使いながら不意打ちしてどうにか退けるのがやっとなんだぞ。リアルの俺はちょっとした改造人間を倒せるぐらいの普通の人間なのに!

 

「……レントさん? どうしたんですか?」

「ああちょっと昔のトラウマがね。うんやっぱり魔法とか使う相手にはこっちも魔法とかの凄い力を使った方が良いよねって思ってただけです」

「凄い力を使うのは<エンブリオ>を持ってる貴方達<マスター>では? あの【猫神】も化け物じみて強いウチの姉さんを<エンブリオ>の力で倒しちゃったし。レントさんも魔法使うのが今日初めてと思えないぐらい上手いから<マスター>って誰もが凄い力を持ってるんでしょ?」

「<エンブリオ>や万能のジョブ資質は<マスター>なら全員持ってるでしょうけど、それを操る技術とかには個人差はあると思いますよ。……少なくとも中身の才能や技術や人格の個人差はティアンと変わらない程度に差があります」

 

 アバターの基礎性能は同じでもそれを操る人間のプレイヤースキルは個人個人で違うからな。ただこの辺りの事情をこの世界の住民であるティアンに説明するのは面倒ではある。

 

「うーん、つまり“別の世界”に飛ばされてしまう貴方達<マスター>はこの世界と別の世界では使う身体が違うって事かしら。それなら死んでも死なない理由も本体である別世界の身体が無事ならこっちの身体は修復出来るって感じで説明が付く? コアを破壊しないと幾らでも再生するモンスターとか本体と分体がいるタイプのモンスターとかはいるし」

「俺自身<マスター>が何故不死身かの詳しい理由は分からないので何とも言えませんね。ただ<マスター>と一括りに出来ないぐらいには色んな人が<マスター>としてこの世界に来ているとだけ」

「<マスター>は<エンブリオ>の力を得たティアンって説もあったけど、これは<エンブリオ>の力で別の世界から来訪した人達って考えるべきなのかな。……うん、やっぱり伝承で語られるのと本人から直接話を聞くのとはやっぱり違うね」

 

 非常に興味深そうな表情でメモを取ってるメリアさんを見るにどうも彼女は道のモノへの探究心が強いタイプなんだろう。“一族”出身の知人に似た様なヤツが居てそいつに巻き込まれてジャンルが違う騒動で死力を尽くして戦う羽目になった記憶ガガガ……。

 何で南米でアマゾネスプリンセスと駆け落ちして来るんだよ。お陰で俺がアマゾネス親衛隊と戦うことになったんだが、古代インカの秘術とか使って来るんじゃないよ。仮◯ライダー呼んでこいよ。

 

「まったくロリコンといいクソボケといい俺の知り合いはどうしてこう。……とりあえず<マスター>と一口に言っても色んな人がいるので俺を基準にして<マスター>を定義するのは辞めた方が良いですよ」

「それなら他の<マスター>にも依頼を出してみた方が色んな情報が手に入るかな。でも<マスター>の人達がこういったクエストを受けてくれるかな。確かみんなモンスター討伐ばっかり受けてるんでしょ?」

「報酬が良ければ受ける<マスター>も結構いると思いますけど。今の<マスター>なら性能のいい初心者装備やそれなりのリルを報酬にすれば受ける人は多いと思います。後は魔法を使いたい<マスター>も沢山いるでしょうから、好きに魔法を使ってその指導もしてくれるこのクエストは美味しいでしょうし」

 

 魔法の的としてホムンクルスを使わせて貰ったから経験値も入ったし、初心者用の魔法を覚える手段としての魔術師ジョブクエストとかも紹介して貰ったからクエスト内容だけで得られた部分は多かったしな。

 

「……むしろクエスト内容だけでも十分なメリットを得てるので報酬はそこそこでも大丈夫か? 魔法発現用のスクロールまでタダで貰ってホムンクルスから経験値まで得られたから俺にとっては得しかしてないな。今更だけど奮発し過ぎですよね」

「さっきも言ったけど【大賢者】さまから援助を貰ってるし、ホムンクルスもスクロールも余った素材で作った自作品だから大してコストは掛かってないよ。【魔女】は生産も出来る上級職だからね、研究の為ならこのぐらいのコストは安い安い。それよりもこのクエストを受けてくれる<マスター>が他にもいれば紹介してくれない?」

「まあ魔法に興味がある<マスター>で紹介しても大丈夫そうな人がいれば紹介しますよ」

 

 自分のやりたい事の為に必要ならコストを辞さないのは姉妹そっくりではあるなアイラさんとメリアさん、スペックが高いから稼ぎやすいのもあるんだろうけど。

 

「とりあえず今日の依頼はここまでって事で。レベルを上げたり魔法系のジョブクエストを幾らか受ければ解禁される魔法もあるから、出来ればそう言った魔法を覚えた時にまたクエストを受けてほしいな。勿論報酬も出すよ」

「メリアさんは報酬は良さそうなので構いません。クエストを受けるのは俺にとってもメリットが多いので」

「ありがとう! じゃあ報酬ね。初心者でも使える装備とか簡単なマジックアイテムを並べるから欲しい物があったら言ってね。<マスター>が欲しがる物を教えてくれると嬉しい」

 

 そう言ってメリアさんがレベル制限のない初心者魔術師用装備や比較的安価なマジックアイテムを並べたので、俺は最近覚えた《鑑定眼》のスキルで詳細な能力を見ていく。

 ……特定の属性魔法の威力が上がる杖とかMPが固定値で上昇する装備とかが初心者魔術師<マスター>には喜ばれるかな。後はMP回復ポーションとか使い捨てだが魔法効果を発揮するする【ジェム】とかも。

 

「とりあえずこの辺りのアイテムを放出にすれば初心者<マスター>には喜ばれると思うがな。初期資金5000リルだと装備を整えるのも一苦労だと実感したし……ん? この杖は……」

「どうしたの? ……あ、研究用の呪具を間違って出しちゃったね。それの名前は【サクリファイス・ワンド】って言う呪いの武器で、装備者のHPを消費して魔法の威力を上げるんだけど……」

「だけど?」

「HPを強制的に全部使っちゃう仕様だから一回でも装備スキルを使うと装備者は死にます。大昔の捕虜の魔術師に対する懲罰用や特攻用として作られたらしいんだけどね。【導師(グル)】のジョブスキルを参考にしたみたいだけど意図的にセーフティを外しているみたい」

 

 メリアさん曰く、とある筋から研究用として手に入れて色々た調べはしたが流石に装備はしてもスキルは使わなかったとの事。まあ死んだら終わりなティアンが軽々しく使える装備ではないだろうな。

 ……ただ、懲罰用だからか装備制限は合計レベル50以上と軽いな。俺は【ルー】の効果でレベルが上がりやすいから既に合計レベルは50を超えてるから使えはすると。

 

「この【サクリファイス・ワンド】を報酬として貰えませんかね? お高い物なら流石に無理にとは言いませんけど」

「まあ確かにちょっと高かった……じゃなくてコレでいいの? 使ったら死んじゃうんだけど。使うなら《リザレクション》使える【司教(ビショップ)】に待機してもらうとか」

「死んでも死なない<マスター>であれば使い道はありますから。……少なくともこの世界において<マスター>は必要なら自分の命も必要なら二の次に出来ます」

「うーん、<マスター>と普通のティアンとはその辺りも結構価値観の違いがあると。……まあもう装備スキル使わずに出来る研究は終わったから持っていっていいよ。出来れば使用感を聞かせてくれるとありがたいかな」

 

 まあ面白そうなアイテムだから何となく貰ってみたが、こんな使ったら死ぬ装備をポンポン使う訳にはいかないけどな。コレを使うのはよっぽど強い敵を相打ちで始末する時ぐらいだろう。

 だが、いつ何時トラブルに巻き込まれるか分からないから出来る準備はしておかないとな。最も準備してした所でどうしようもない事象は幾らでもあるんだが。




◯妹

(@_@)<現実と違って自分の力で“直感”した悲劇を覆したので満足

(@_@)<悲劇自体が許せないのではなく感じ取った危険に対して何も出来ない自分が嫌なタイプ

(@_@)<とは言え基本善性なので悲劇を嫌悪する感性も持ってる

(@_@)<この後王都に戻ったら助けたフォルテスラとエーリカからお礼を言われた


◯アイラ・ローラン

(@_@)<超強い元冒険者系ギルド受付嬢(元決闘王者)と言う属性モリモリオリキャラ

(@_@)<決闘ランカー引退と冒険者活動縮小からの受付嬢就職の理由はトムに負けての決闘王者陥落とは関係ない

(@_@)<本来のメインジョブの【閃孔剣】は剣による突き技に特化した剣士派生ジョブ【細剣士(フェンサー)】の超級職

(@_@)<ステータスはAGIとDEX特化で速度と技で防御を掻い潜って相手の急所を貫く様に戦う系剣士

(@_@)<代表的なスキルは刀剣での突き攻撃が防御されなかった時にDEXとスキルレベルに応じて相手のENDを下げる《トランスペルセ》

(@_@)<《剣速通し》亜種だが攻撃動作が限定されている分だけ効果倍率は高く、スキルレベルEXの【閃孔剣】ならDEXの300%分ENDを下げる

(@_@)<参加者ティアンのみの決闘では対戦相手の牛鬼人とかを突き技のみで急所をぶち抜いて勝利してたので“閃光”の異名を持っていた

(@_@)<だが速くて急所を貫くだけではトムの増殖分身は破れずに結構粘ったが敗北した模様


◯兄

(@_@)<リアルではジャンル違いトラブルに度々巻き込まれてちょっとトラウマが出来てる

(@_@)<本人は普通を自称してるが無能力無双とまでは行かなくてもジャンル違い連中と戦えるリアル戦闘能力を有している

(@_@)<大体アメコミのスーパーパワー無しヒーローとか特撮で戦闘員を生身で倒すキャラみたいなリアル実力してる

(@_@)<デンドロの魔法に関してもリアルで何度か見たオカルトパワーの使い方を参考に学習中


◯メリア・ローラン

(@_@)<アイラの妹でありローラン三姉妹の三女なクォーターエルフ(長女がアイラで騎士団に務めてる次女がいる)

(@_@)<母であるマリィの血を濃く受け継いでいてレジェンダリア出身の魔女である彼女から知識と技術を教えられている

(@_@)<三姉妹揃って500レベルに到達出来る才能持ちな事もあって王国魔法系ティアンの中でも上位の実力者兼研究者

(@_@)<母のマリィも就いてるメインジョブの【魔女】は魔術師派生で戦闘も生産も出来る汎用魔法系上級職

(@_@)<賢者と比べると回復・補助・聖属性などが使えない代わりに調薬や錬金術などが出来るが個々のスキルは専門職に劣る

(@_@)<父親が王国第一騎士団団長である事もあってローラン三姉妹として王国でも有名でありファンも多い
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