「百合って聞くと間に挟みたくなるよねw」「分かる〜w」 作:超かぐや姫!沼から抜け出せない人
そして、遅れてすみませんでした。バトル書きたいとか言いつつ実際に書いてみるとむずいわ長くなるわで…この話もこの倍くらいの分量になったのを半減させました。もう二度とバトルパートはないと思うのでご安心ください。
帝アキラが初めてそのプレイヤーと対戦したときは、相手の圧倒的な技巧を前にして完封された。
見たこともないプレイヤーがランキングを駆け上がってきていると聞き、最初は試す気持ちもあった。
しかし、最初に当たらせた雷が一方的に倒されたときに油断できない相手だと気づかされた。自身もタイマンで挑んだが、本気でかかるも全ての攻撃をいなされて、出来た隙を突かれて敗北。そのまま試合にも負けてしまった。
そのシーズン中、件の相手、
最初に負けたことは偶然ではなく、UMA2は圧倒的な強さを持っていた。黒鬼は三人で固定チームを組んで戦っていて、UMA2は残り二人がランダムに選出されるいわゆる野良パーティーで戦っていたというのに、UMA2を相手にしたときの戦績はボロボロだった。
全く勝てないという訳ではなかったが、勝てた試合もUMA2を撃破して勝利したのではなく、UMA2の居ない側のレーンで優勢を取っての勝利だった。
UMA2を撃破できた試合はたったの一度だけで、それも今より操作が拙かった乃依が、手元が狂ってウルトを明後日の方向に撃ったのが偶々直撃して倒せたものだった。
最初はワクワクした。この世界にはまだこんなにも強いプレイヤーがいたのかと。それもいつか上回ってやると。
次は、真剣に勝ち筋を考えるようになった。ランクマッチではUMA2だけと当たるわけではないが、それでも当たる回数の多い彼女の対策をすることは無駄ではないから。内心では勝手にライバル認定していたくらいだった。
考えた策がいくつも打ち破られた頃、その強さに怒りを覚えると同時に尊敬するようになった。どれほど経験を積み重ねればその読みの域に達することができるのかと。
しかし……UMA2と戦っていく内に、帝はある事実に気づいた。
攻防でUMA2に近づくたび、帝がUMA2に撃破されるたび。UMA2の表情から次の手を読み取ろうとして。愕然とした。
(なんでお前は……そんなつまらなそうな目をしてんだよ)
ツクヨミのアバターはとてもよく出来ていた。顔のトレース機能をONにしていた場合、表情だけで相手がどう思っているのか正確に分かってしまうほどだった。
自分はこんなにも楽しいのに。この
そんな帝とは対照的に、UMA2の目は試合を重ねるたびに段々と冷めていく。詰まらなそうになっていく。それが分かってしまう。
帝が最後にUMA2と戦ったとき、UMA2はどこか諦めたような顔で笑っていた。
帝はその顔を少しでも晴らしたくて、このゲームを楽しんで欲しくて、全力で戦った。間違いなく過去一番の実力を発揮したと断言できた。それでも、結局その試合には勝てず……
その数十分後、UMA2は掛けられていたチートの嫌疑を自ら事実とし、チーターの汚名と共にこの
一部の馬鹿どもやアンチはチートがバレて逃げたのだと騒いでいたが、帝を含む上位プレイヤーはUMA2がそんなもの使っていなかったと知っていた。そもそも、UMA2の強さは火力や速度などではなく、異常なまでの読みの鋭さだ。一体どういうチートを使えば、リアルタイムで戦っている人間の行動を読めるというのか。
UMA2は誰も自分に勝つことが出来ないと悟ってしまい、このゲームを辞めたのだ。酷い傲慢だが、その強さを最も肌で感じていた帝はその理由で間違いないだろうと踏んでいた。
悔しかった。
自分など歯牙にも掛けられていなかったということだ。もっと帝が強ければ、UMA2が失望することはなかったかもしれない。
帝はUMA2にこのゲームを諦めて欲しくなかった。KASSENはまだサービスが始まったばかり。セオリーや環境もまだまだ変化していくはずだ。このシーズンの結果だけで辞めるなんて勿体無いと、UMA2に教えたかった。それが叶うことはなかったが。
「てか、なんで帝ちゃんはそこまであの女に拘るわけー? ちょっと、いやだいぶキモいよ」
「うっせ」
乃依に半分冗談、半分本気で揶揄われ、雑に返す。しかし、帝もUMA2に拘る明確な理由は持ち合わせていなかった。UMA2は確かにこれまでに見た最強のプレイヤーであり、非常に印象的だ。ライバル視もしていた。
ただ、いちプレイヤーであることも確かで、ほぼ引退が確定となった今、そこまで気にする意味はなかった。
(強いて言うなら……)
至近距離で戦っているUMA2の、何も面白くなさそうで、どこか辛そうで、でも何かを期待していた目が。
昔一緒にゲームした、そして毎回完膚なきまでに負かされていた妹の親友の目に似ていたから気になった、なんて。
「…わりぃ、やっぱキモいかもしれん」
「でしょー?」
流石に仲間たちには言えなかった帝だった。
『初戦を制したのは黒鬼! 本気になったプロチームはやはり強い!! さて、UMA2陣営が巻き返すのか、それとも黒鬼がこのまま押し切るのか! 注目の二戦目、開始です!!!』
(大体想定通りだ。俺がタイマンで勝てれば一番良かったが…それが難しいことは分かってる)
先ほどと同じく帝アキラはトップレーンを選択した。ただし、今回は乃依も連れている。ボトムレーンは雷一人で、かぐやいろPを相手に防衛戦を頼んでいた。雷の持つ武器は動きが速くない代わりに耐久寄りのため、妨害に徹すれば二人を相手に時間を稼ぎつつ生き残ることも決して不可能ではない。
一戦目と同じように二人をボトムレーンに行かせれば試合に勝つことはできるだろう。しかし、帝の目的は、UMA2を倒した上で勝つこと。そのためにはあらゆる手を打つつもりだった。
一戦目を本気で取りに行ったのは、UMA2に後がないとプレッシャーをかけるため。心理戦だって立派な戦略だ。
また、UMA2は以前から単独での戦闘を好む。今回もUMA2が単独で出てくると踏んだ帝は、そこを乃依と二人で叩くことで勝ちを掴もうとしていた。
帝の予想は大体正しかった。UMA2は再び単独でトップレーンに来たからだ。しかし、全てが予想通りなわけではなかった。
『こ、これは! トライデント!! UMA2側はトライデントを選択ぅー!! トップレーンにUMA2、ボトムレーンにいろP、ミドルレーンにかぐやがそれぞれ向かったー!』
「何?」
「俺らなんて二人相手でも勝てるって見られてんねー」
「あんにゃろう…」
残機が一つになってしまったかぐやを守るためという意味もあるだろう。しかし、彩葉にタイマンでトッププロである雷を倒す実力はない。つまりUMA2側の勝ち筋は、UMA2がトップレーンに来た二人を突破することだけだ。
相手がUMA2以外なら、二人側に向かったプレイヤーが何とか一人で耐えて、その間にタイマンのプレイヤーが櫓を取り、すぐさまミドルレーンのプレイヤーが天守を落とす博打作戦に出たという可能性もあった。
しかし、相手は
『ボトムレーンでは先に到着したいろPがミニオン狩りに移行。雷は落ち着いて道中のミニオンを狩っていますね』
『両者とも、一戦目と同様牛鬼出現までは攻めっ気を出さずにいる感じですかね? ミドルレーンはかぐやが悠々と一人旅。そして場面変わりましてトップレーン! お互いミニオンを狩っていたが、とうとう櫓下の門で激突だぁー!!』
虎バイクに乗って乃依と並走していた帝アキラの視界に、サカバン神輿に乗ったUMA2の姿が見えてきた。右手に持った黒い扇子で顔をあおいでいる。その余裕綽々な姿に、勝っているはずの帝が焚き付けられたかのように吼えた。
「舐めた真似してくれんじゃねーか、UMA2!!」
「あは、怖い顔ー。そんなに怒んないでよー」
牙を見せて怒りの表情を作る帝とは対照的に、UMA2はいつも通りの笑顔だった。この戦いを落とせばそのまま負けだというのに、焦りは一切見られない。
表情は同じだが、衣装はKASSEN仕様に変わっている。
十二単だった衣装は、丈が短くなってより際どくなっていた。足元まで広がっていた布は膝上まで切り取られ、袖も一部しか残っていない。
一見さらに卑猥になっただけのように見えるが、元の衣装よりもヒットボックスが小さくなっている歴とした戦闘仕様である。腰元まで伸びていた桃色の髪も後ろに団子で纏められ、煌びやかな櫛で飾られていた。
UMA2がサカバン神輿から飛び降り、両手にそれぞれ持った扇子をバッと広げる。扇子は開いたノートパソコンほどの大きさで、縁には鋭い刃がずらりと並んでいた。
「乃依!」
「分かってるって」
帝の掛け声と同時に乃依が鈍足スキルの乗った矢を連射する。威力もそれなりにあるが、何より当たったら移動速度が大きく低下する
帝は乃依の射線を遮らないようにしながら移動し、自身も金棒から剣を引き抜いて、接近しつつ持ち手の銃からから銃撃を繰り出す。
「あは、無駄だよー」
二方向から繰り出される遠距離攻撃。この時点で普通のプレイヤーなら対処が追いつかなくなってしまうが、UMA2は両手の扇子で丁寧に攻撃を弾いていく。そして弾くだけでなく、走って乃依の方に近づいて行った。
「(UMA2の扇子型武器は紙の部分に防御判定がある! それでも普通なら防御に手一杯になるが…)乃依、回避体勢!!」
「はいはい!」
帝の忠告の直後、UMA2が一瞬だけ体を深く沈めて乃依と帝の射線から逃れた。そしてUMA2が右手を振りかぶり、次の矢がくる前に扇子から複数の風の球を生み出し、乃依目掛けて飛ばした。
「そんなおっそい球当たんないって」
「それはどうかな〜?」
「油断禁物だ、来るぞ!」
「へ? うわっと!」
弾速の遅い風の球の後ろから、ワイヤー付きの刃がいくつも飛び出してきた。UMA2が扇子についていた刃を飛ばしてきたのだ。射撃を辞めて弓を円月刃に変形させた乃依が慌てて刃を弾こうとする。
しかし、UMA2のコントロールによって刃は乃依の直前で急停止し、そのままワイヤーに引かれて戻っていく。乃依は円月刃を空振りして体勢を崩した。だが乃依もプロゲーマー、立ち止まらずに転がるようにその場から退避する。
にも関わらず、乃依の目の前には先に撃たれた風の球が殺到していた。
(あ、これは死んだかも)
「あっぶねぇ!」
「んぐぇ」
あわや直撃というところで帝の救援が間に合った。帝が乃依を抱えて脱出し、追い討ちで飛んできたワイヤー刃を銃撃して弾き返す。
「くそ、回避位置まで読んで風弾撃ってきやがったな…!」
「ごめん、油断した」
「切り替えてけ。しかし風弾で良かったぜ。近づかれたら終わりだ、俺でも止められねぇ」
「うん…」
「まだまだ始まったばっかだよー」
「来たぞ! 構えろ乃依!」
再び帝たちに向けて風弾が飛ばされてきた。遅い代わりにそれなりの威力を持ち、同時に三つまで生成できる風弾に対処するため、帝は武器をリーチのある金棒型へと変形させて打ち散らした。
「ぴえ〜ん…」
「く…」
乃依がワイヤー刃に絡め取られ、そのまま落とされる。前段階で帝を追い詰めたUMA2がわざと乃依のフォローを入れられるように隙を作り、反射的に矢を打ってしまった乃依が硬直するのを見越して刃を飛ばしたのだ。
(産廃武器でよくやるぜ本当に…)
帝と乃依を同時に相手した上で乃依を落としたUMA2だが、使用している武器はどちらかというと産廃寄りである。性能が低すぎるというわけではなく、むしろ性能自体は高めなのだが、常人には扱えないタイプの武器なのだ。
UMA2の扇子型武器は、帝の持つ金棒型武器と同じように万能型の武器である。扇子本体の刃による近接攻撃、その刃をワイヤーで飛ばすことによる中距離攻撃、扇子を振りかぶることで生成される風弾による遠距離攻撃と、多彩な攻撃手段を持つ。
更には広がった扇子の紙の部分には盾と同じ効果があり、遠距離攻撃によるダメージを大幅軽減することができる。
ここだけ聞くとただの高性能武器なのだが、そこはバランス調整がしっかりしている神戦である。もちろんただの最強武器のわけがない。
まず、扇子自体が大きいので片手で振るには重く、何も考えずに扱うと大振りになって攻撃の隙が大きい。開いた状態で振り回すには、空気抵抗が少ないように動かさないと速く振れず威力が出ない。連撃を繰り出すには、自然と回転しながら横向きにした扇を振ることになるが、どうしてもワンパターンになりがちなので意識して緩急をつけないとすぐに反撃を喰らうことになる。
ワイヤー刃は扇子の縁に並んだ十枚の刃を飛ばせる攻撃であり、速度が速く威力もそれなりにある。しかし枚数を選んで飛ばすということはできないので、飛ばすときは全ての刃が外れる。もちろん刃が外れた扇子は攻撃性能がなくなるし、ワイヤーは絡まると暫く使えなくなる。ワイヤーを操作するスキルなんてものはないので手動で操る必要もある。
遠距離攻撃である風弾は、一度に複数出せて威力も中々だが、弾速が遅すぎて歩いて避けられるレベルなので、当てるには他の攻撃と組み合わせてかつ未来予知レベルの偏差撃ちが必須である。他にも扇子の紙部分は確かに盾になるが、防御判定が紙の部分にしかないので攻撃が骨組みに当たるとすり抜けて直撃するなど、とにかく超上級者向けの武器だ。
総合すると、『高いプレイヤースキルを持ち、猛練習を積み、その上で極まった読みができないとまともに扱えない武器』である。プレイヤーからの評価も散々だ。
だが、その必要な要素を全てを兼ね備えたプレイヤーが扱うと、途端に対処不能の化け物となる。
帝はその化け物筆頭であるUMA2を睨みつけ、逆に顔を曇らせることになった。
UMA2がまた詰まらなそうな顔をしていることに気づいたのだ。だが、それだけではない。どこか寂しそうに見えた。
(なんだよ、その顔…)
乃依が落ちたことでUMA2の対処がより難しくなる。牛鬼を盾にしながら妨害しているが、おそらく乃依の復帰は間に合わない。帝一人でUMA2を抑えることが難しい以上、二戦目は取られてしまうだろう。
結果が見えてしまったからか。対戦中だというのに、つい帝はUMA2に問いを投げかけてしまった。
「ずっと聞きたいことがあったんだよ」
帝が牛鬼の攻撃を避けながらUMA2を銃撃しつつ口にする。
「お前、なんでいつも詰まらなそうなんだ。俺と戦うのは、そんなに面白くないか?」
時間稼ぎの面もある。しかし、本当に聞きたいことでもあった。
UMA2がランクマッチに来なくなったのは、UMA2にとって他のプレイヤーが弱すぎるから。そう考えていたのだが、先ほどのUMA2の表情を見た帝は断言できなくなってしまっていた。
そんな帝に、UMA2はワイヤー刃を飛ばしながら答える。
「…逆に聞くけどさ」
いや、答えたのではない。UMA2は質問に質問で返した。
「帝アキラは、絶対に負けないゲームやってて楽しいと思う?」
「なに…?」
怪訝そうな表情になった帝を見て、UMA2は攻撃を止める。
牛鬼が高いダメージを与えてきているUMA2に攻撃するが、UMA2はそれを適当にあしらって続けた。
「ウチさ。オンライン対戦ゲームって結構好きなんだよー」
帝が聞く姿勢になったのを確認し、UMA2は内部通信で話し始めた。それは、UMA2が誰にも言ったことがない過去の話だった。
「ウチ実は、すっっっっ…ごい趣味が悪くてさー。でも、それを実際にやるとなると難しいし、そもそも自分じゃほぼ上手くいかないことが確定してるしで…とにかく、好きだけど一度も出来なかったんだ。で、そういう現実世界が、結構ストレスだったんだー」
舞うように牛鬼の攻撃を回避し、逆に振り下ろされた右の爪を扇子で切り落とす。戦いながらもUMA2は話し続けている。
「でも、ゲームの世界ならそんなことどうでもいいじゃん? みんな相手に勝つために必死になって、頑張って努力してー、勝って喜んで、負けて悔しくて……リアルでどうにもならない感情をそうやって発散するのが、好きだった。なのに…」
片腕を失い、それでも健気に飛びかかってくる牛鬼に向かってUMA2が風弾を両方の扇子から生み出す。それが全て直撃した牛鬼は、体力を全損させて赤い花びらへと変わっていった。
「なのに、あるとき突然ウチは負け知らずになったんだー。身体は前までと比べ物にならないくらい思い通りに動いて、操作ミスなんて絶対しない。その上、相手のやりたいことが大体分かるようになって、攻撃タイミングとか、大まかな作戦とか、相対しただけで察しちゃうの」
UMA2は自嘲するように笑った。
「なーんにも、面白くなくなっちゃった」
UMA2の独白の最中、櫓が占拠可能になる。それを見た帝がウルトで駆け出そうとしたが、その瞬間、UMA2のウルトが先打ちされる。
扇子型武器のウルトは、広範囲の強風。当たればその場から動けなくなってしまう。一瞬でも早くウルトを使えれば超加速で出し抜けた帝だったが、まるで思考を読まれたかのような完璧なタイミングで撃たれたUMA2のウルトによって無効化させられてしまった。
「勝つための努力とか、今までのゲームの経験とか……そういうの全部意味なくなってさー。でも手加減するのもそれはそれで相手に失礼だし、本気でやるから勝っちゃうの」
ウルトの効果時間が終わり、動けるようになった帝めがけて大量のワイヤー刃が飛んでくる。帝は銃撃と剣身によって迎撃するが、飛んでくる十枚の刃を撃ち落とした後に、体勢を崩した所へ正確に飛んできた風弾を回避することができなかった。
「そんなチート女が、本気で頑張って努力して、自分の時間を全部ぶち込んでのめり込んでる人たちと一緒にゲームするとか……だめでしょ、常識的に考えて笑」
転がって一つは避けたものの、その回避先まで読まれて置かれていた残り二つの風弾が帝に直撃する。既に削られていた帝の体力では耐えられなかった。
「だから、もう辞めたの」
赤い花びらとなって消えていく帝の前で、UMA2が櫓を占拠する。
「ありがとう、帝アキラ。でもウチは大丈夫だからさー。最近は人生楽しいしね。だから気にしないでー」
そう言って笑うUMA2の表情は、本当に気にしていなさそうで……でもやはり、少しだけ寂しそうだった。
そして帝のリスポーン待機時間中に、自陣の天守が破壊された。
『決着ぅー! 櫓占拠と同時、天守へと先に辿り着いていたかぐやが、乃依の妨害をものともせずに天守を破壊したぁー!! これで両者一本ずつ取った形、勝利の女神はどちらに微笑むのかー!?』
残機を減らし、桃から復活した帝のところに雷と乃依が集まってくる。しかし二人は帝の表情を見て、楽しそうに笑った。
「励ましは…要らなそうだねー」
「ああ、そのようだ」
帝は好戦的に笑っていた。その顔に、諦めの色など欠片も見られない。
「いちいちへこたれねーよ、前だって散々負けてたしな。で…やっぱUMA2のやつ、予想通りっぽいぜ」
「えー、マジー? めんどー…」
「だが、俺たちがやるしかないだろう」
帝の言葉に露骨に顔を顰める乃依と、いつも通り冷静に答える雷。それぞれ反応は異なるが、嫌がっているわけではないことが分かるくらいには帝も二人のことを知っていた。
「さて、次がラストだ。打ち合わせ通り頼んだ、雷、乃依」
「全く人使いが荒いんだから」
「任せろ」
「あの諦観女に目にもの見せてやろうぜ」
帝が握り拳を作って前に差し出した。雷と乃依も続き、いつものように三人で拳を合わせる。
来たる最終戦に向け、黒鬼は改めて気合いを入れ直していた。
「よっしゃーこれで互角! あとは最後を決めるだけー!!」
「なんで何もしてないかぐやが仕切ってんのよ…」
「いーじゃん別にー! かぐやだって一戦目は頑張ったし、さっきも天守落としたし!」
よしよし、これで五分まで戻したな。俺は男が相手なら無敵だからな…申し訳ないけど、例え二人相手でもそれは同じ。
VRゲームでも対面すればある程度思考が読めるし、その状態で負けるわけもない。
さっきは帝と乃依が来ると踏んでトップレーンに行ったが正解だった。で、次の黒鬼の動きだが…
「帝アキラはウチを倒して勝ちたいって思ってるっぽいから、次も二人でこっちに来ると思うんだよねー」
「もし私たちの方に二人来たらどうするの?」
「マップ見て帝アキラがそっちに行ってたら、引き返してウチと彩葉ちゃんが交代。乃依と雷の二人ならかぐやちゃんと二人で相手しててー」
「え、でもかぐやたち、さっき負けちゃったよ?」
「今回は彩葉ちゃんもウルト使っていいからー。それなら時間稼げるっしょ?」
一戦目は、二戦目に彩葉ちゃんの方に二人向かったとき、ウルトを即切りできるように温存してもらった。万が一、道中のミニオンをガン無視して櫓までこられたらウルト溜めが間に合わないしね。
最終戦はその必要はない。二戦目は俺が二人を倒すまで彩葉ちゃんに頑張って耐えてもらったしな。ウルトも温存してたみたいだし。
彩葉ちゃんのウルトは防御型だ。なんか譜面みたいな形のバリアを張る。範囲も結構広くて、自分たちを守ることもできるし、道を塞ぐこともできる。まぁ発生源が自分だから遠くには張れないんだが。
「帝アキラが一人で来るならウチ一人で倒せるし、そんなに時間もかからないと思うからー」
「トッププロの帝アキラにそんなこと言えるの、多分夢魔くらいだと思うよ…」
「まぁねー。んじゃ、れっつご〜」
事実だし。黒鬼に一人でも女性がいたらもっと苦戦してたと思うけどね。残念ながら黒鬼は三人とも男性である。三人がかりで来られても頑張ればどうにかできそう。
まぁともかく、帝アキラがどっちに行くかによって俺も動き方を変えようと思っていたのだが…これはこれは。
『な、なんと〜!? 黒鬼、この局面でトライデントを選択ぅぅぅ!!! トップレーンに帝、ボトムレーンに雷、ミドルレーンに乃依がそれぞれ向かって行ったあああ!!!』
流石にそれは予想外だったな?
さっきの二戦目で帝&乃依の組み合わせで俺に勝てなかったし、次は帝&雷の組み合わせで来ると踏んでたんだが。まさかまた帝が一人で来るとはね。
当たり前だけど、無策で来るとも思えない。さて何を仕掛けてくるかな?
「懲りないねぇ、帝アキラ。こんだけやられといて、まだウチに一人で勝つつもりなのかなー?」
「さて、どうかな。やってみりゃ分かるさ!」
早速こっちに銃撃しながら駆け出してくる帝を迎撃する。牛鬼出現を待たないってことは、牛鬼が出る直前に俺を倒してゆっくり櫓を取ろうってか? 俺が逃げに徹したらどうするつもりなんだか。別に逃げないけど。
しかし…こうして対面しても、帝が何かしてくるような雰囲気はない。なんかあるってことは分かるんだが、具体的なものまでは読めない。
え、ついに無心になる方法でも編み出した? それともなんも考えてないだけ?
「シィッ!」
「おっと」
金棒スキルによる地面の破壊。分かっていたので事前にジャンプして回避。続いて銃撃してくるので扇子の紙部分で防御。紙部分にしか防御判定はないが、この体の動体視力なら合わせるのもそこまで難しくない。
チラッと地面を確認して転けなそうな部分に着地。着地地点に帝が走り込んできているので扇子を交差させてガード。そのまま受け流して隙ができたところに風弾、避けたばかりで不安定な体勢の帝に斬撃をお見舞い。帝が吹っ飛ばされながら銃撃してくるので再びガード。
さて、このままじゃこれまでの二の舞になるってことは帝も分かってるだろうけど…?
「大口叩いといてこんなもんかー?」
「まだ決着は着いてねーんだから、そう焦んなよ!!」
何かあるな。けど、帝はこれ以上びっくりギミックとかなさそうだし……なるほど?
「ミドルレーンの乃依か〜!」
ミドルレーンの方角が微かに光るのが見えた。あれはウルト発動の光!
流石に距離がありすぎて分からなかった。帝が何も仕掛けてこないってことは他の誰かがやるに決まってるよな! ボトムレーンの雷からこっちに届く攻撃は無いし、あるとしたらミドルレーンにいる乃依のウルトによる狙撃!!
帝から何も読めなかったのは、乃依に作戦を任せてたからか! そりゃ知らなきゃこっちも分からんわな。
「はっ、やっぱこっちの考えがある程度分かるみてーだな!」
「けど来るって分かってればウチも避けられ…!? 違う!? こっちじゃない!」
超長距離の狙撃を警戒して…こっちに飛んでこない! ということは、狙われたのは…
「彩葉ちゃん! 乃依の狙撃! ウルトで防御!!」
『了解!』
『うおー彩葉ナイス!』
内部通信で彩葉ちゃんに防御をお願いし、直後にかぐやちゃんの歓声が聞こえる。間に合ったか。
で、指示している間にも近づいてきていた帝が俺に殴りかかってきた。隙と見たのかもしれんが、悪いな。ちゃんと見てるし、むしろわざと作った隙なんだわ。
「そこだ!」
「残念はずれ。隙ありっ!」
帝の大振りなスキル攻撃を受け流しスキルで回避し、そのまま後ろに回り込む。
金棒を振り終わって隙だらけの帝に、両手に持った扇子で近接斬撃スキルを発動して斬りかかり──疑問が浮かんだ。
(あれ…隙だと判断したのに、なんでウルトを切らなかった?)
乃依のウルトが発動したとき、俺は帝の思考を大まかに読み取った。乃依のウルトに合わせて、俺に隙が見えたらスキルで突っ込む。それが分かっていたから俺は受け流しスキルで反撃しようとした。
だが、よく考えればおかしい。隙ができると分かっているなら、帝は確実に俺を倒すため、迷わずウルトを切っていたはずだ。序盤ミニオン狩りしていたから溜まってないはずはないし。
なら、何故…
その疑問の答えが出る前に、俺の攻撃スキルが帝の背中に当たる。
瞬間、帝の背中が光って見覚えのある模様が浮き上がった。これは…!?
「雷のウルト…!?」
「なんだ、雷のやつそんなもん仕掛けてたのか。だが、これで終わりだ…!」
俺の扇子が帝の背中に当たった瞬間、帝の背中に仕掛けられた雷のウルト、高威力設置式魔法が爆発する。
敵か敵の攻撃が接触しないと発動しないという使い勝手の悪いウルトだが、威力は高く、何より当たると数秒のスタンが入る。
爆発攻撃は味方にも影響があるが、衝撃はともかくダメージは大幅軽減される。この場合は、俺だけ大ダメージを喰らってスタンした形だな。
そしてそれを見逃す帝ではない。帝も大きく吹き飛ばされたが即座に体勢を立て直し、ウルトで加速して俺に接近してくる。
システム的に数秒動けない状態で、ダメ押しの超加速。流石に死んだな。
「…帝アキラ自身が作戦を知らないとはねー」
「まぁな。後半の作戦は雷と乃依に任せたんだよ」
振りかぶられた金棒が俺の体を貫く。扇子型武器は万能型だが、盾で防ぐことを前提にしている分、体力は低めに設定されている。
それに、超加速は発動すれば牛鬼も一瞬で倒せるようなウルトだ。耐えられるわけがない。
てか、その言い方ってことは、俺がある程度心を読めることにも気づいてたのね。
「まさか読心の対策をされるとはねー」
「俺たちも半信半疑だったけどな」
帝が剣を引き抜き、一瞬にして俺の体をバラバラにする。そしてちょうど牛鬼が出現した。
時間まで計算し尽くされてたか。
『帝に仕掛けられた雷のウルトが炸裂ー!! 一体いつの間に仕掛けたのか!? そしてUMA2が落ちた隙をついて、帝が牛鬼を最短撃破! そのまま櫓を占拠したああああ!!!』
『UMA2側の天守の目の前には既に乃依が構えていますね。UMA2の復帰は…間に合わない!』
降ってきた桃の中から復活するも、その横を乃依の矢が飛んでいく。あと二秒早く復帰できたら弾けたかもだが…流石に通り過ぎた矢には追いつけない。
『け、決着ー!!! 鮮やか! これぞ黒鬼!! 離れていても三位一体、素晴らしいコンビネーションによってUMA2を破ったぁぁぁ!!!』
完敗だな。
「ようやくアンタにやり返せたな」
「お
試合終了後、会場に集まった黒鬼やかぐやちゃんのファンが帰っていく中。帝が俺のところに寄ってきた。
うわ、クソムカつくドヤ顔。中身が朝日さんだと分かっていても腹立つ。
後ろの雷を見習えよ。いつも通りの鉄面皮だぞ。乃依は…いない。帰ったなこれは。
「うわ、何その顔ー。一回勝ったくらいでさー」
「一回だろうが、勝ちは勝ちだ。それも、お前を倒した上でな」
あれ、前に参加したランクマッチでは一回も死んだことなかったっけ。いや乃依のウルトで一回死んだな。でもそのくらいか。まぁあれは事故みたいなもんだし。
そう考えると、SENGOKUやってて初めてちゃんと倒されたのかな?
「んー…」
「なんだ?」
「いや。なーんか久しぶりに、ゲームで悔しいって思ったなーって」
「! そうか」
この体になってからは初めてゲームで負けて悔しいって思ったかもしれない。おい、ムカつくから嬉しそうな顔しないでくれません? 追い討ちかよ。
「なぁ、
「なに…うぇっ!?」
え!? ちょ、ちょっと待って? いつバレた!? 見た目、いや俺のアバター姿は人間の姿の俺とは全然違うし! じゃあ声? 朝日さんと最後に会ったのいつだと思ってんだよ小学生の時だぞ流石にその時とは変わってるだろ! そういえばさっき彩葉ちゃんとかかぐやちゃんが俺の名前呼んでたけどでもゆまなんて名前いくらでもいるしそもそもユーザーネームからそう呼んでくるファンも結構多いしあれじゃあたまたま名前呼びに聞こえただけで俺の勘違いという可能性もけどそれでもちゃん付けにはしないだろ普通はキザ男か
「楽しかったか?」
「──」
その声に、一瞬で我に返った。
いつの日か、彩葉ちゃんと一緒に遊んだ頃と同じ、優しげな声色。妹と同じく俺の噂を気にせず、でも俺を下卑た視線で見ることもなかった珍しい男の人。
帝アキラの姿の奥に、朝日さんが透けて見えた。
そして伝わってくる感情で分かった。なんでトッププロが俺みたいな引退チート女を気にかけていたのか。
そっか…心配してくれてたのか。
全く、朝日さんは優しすぎるな。こんな読心でズルしてるようなプレイヤーなんて放置でいいのに。
「…そうですね。今日は、久しぶりに楽しくゲームできましたよー。ありがとうございます、朝日さん」
「今更畏まらなくてもいいっつうの」
「そう? じゃあこのままでー」
敬語苦手だから助かります。
朝日さんから俺にフレンド申請が送られてくる。それを承認すると、朝日さんはフレンドチャットに帝アキラの顔を模したスタンプだけ送ってきて、そのまま踵を返した。
「じゃ、俺落ちるから。夢魔ちゃんも、たまにはランクマ来てくれよな。作戦次第じゃやりようはあるって、今回で分かったろ?」
言うだけ言って、朝日さんが破片となって散る。ログアウトしたようだ。いつの間にか雷もいなくなっている。
「…もしかして、それを証明するためだけに今回のエキシビションマッチを吹っかけてきたの?」
なんというか…器用そうに見えて不器用な人だな。別にかぐやちゃんとの勝負をやらなくたって、朝日さんから言われれば一回くらいは勝負したよ。まぁ、そういうことじゃないんだろうが。
ただ…そうだな。
今度、彩葉ちゃんが引っ越しするときに会えるだろうし。真実ちゃんに相談して、良さげな菓子折りでも持ってくかな。
なお、ログアウトしたら彩葉ちゃんが合鍵使ってまで部屋に駆け込んできて、最後何を話したか根掘り葉掘り聞かれた。おもろ。
でも口説かれなかったかとか住所聞かれなかったかだとか、もう少しお兄ちゃんのこと信用してあげな? 流石に朝日さんが可哀想だよ……
そろそろネタ切れなので話をたたみに行きます!てかここまで続いてるのが割と奇跡なので…20話は行かないと思います。
今後も不定期ですがよろしくお願いします。