「百合って聞くと間に挟みたくなるよねw」「分かる〜w」 作:超かぐや姫!沼から抜け出せない人
改めて、ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回そこそこシリアスな場面が多くて全然特殊文字活用できなかったので悔しいです…!もっとギャグに走りたいけど原作からしてそれが許されないのだ。
かぐやちゃんたちと月見ヤチヨのコラボライブが明けた翌日。
夏休みも残り二日となったが、まだ今日までは夏期講習があるため学生の身分の俺たちは勉強しにいかなければならない。まぁ俺は進学か就職かまだ決めてないんだが。どっちになってもいいようにということでね。
かぐやちゃんは朝からなんかでかい魚の調理をしている。白甘鯛? とかいうやつ。聞いたこともないが、かぐやちゃんの料理なら何が出てきても間違いはないだろう。夕飯が楽しみである。
「じゃあ、私たち出るから。夢魔も行くでしょ?」
「うん。あ、でもウチはもうちょい化粧整えてから行くからー。なんか化粧ノリ悪くてー」
「分かった。なら先行ってるね」
「いってらー」
彩葉ちゃんが玄関から出ていくのを洗面所から見送り、俺は化粧しているフリをやめた。もう十何年も女の体で、化粧もとっくに慣れているのにこんなに時間がかかるわけもない。
では何故わざわざ彩葉ちゃんと出ていく時間をズラしたのか。今からかぐやちゃんに聞くことを彩葉ちゃんに聞かれたくなかったからだ。
真剣な表情で魚を捌いているかぐやちゃんを驚かせないようにわざと足音を立てて近づき、声をかける。
「かぐやちゃん」
「んー?」
顔をこちらに向けずに魚と向き合っているかぐやちゃんの声色はいつも通りのように感じる。だが、違う。昨日の夜、コラボライブを終えてからかぐやちゃんの様子がおかしいことは確かだった。今も若干だが、声が硬い。俺の淫魔イヤーを舐めるなよ。
とはいえ、それは彩葉ちゃんも気づいているだろう。昨日の夜は特にあからさまだったし。でも、彩葉ちゃんは踏み込めなかったのかもな。あの子はこういうとき、少しだけ臆病だから。
ならば俺が先に聞こう。その方が、かぐやちゃんも言いやすいかもしれないしな。
「もしかして、月に帰っちゃう感じ?」
「!」
かぐやちゃんが一瞬だけ硬直する。当たりか。当たって欲しくはなかったかな。
魚が綺麗に三枚に卸されたところでかぐやちゃんは包丁を一旦置き、俺の方に向き直った。
「夢魔、鋭いね。やっぱ分かっちゃう?」
「ま、昨日はだいぶ様子がおかしかったからねー。それに…」
俺はリビングを軽く見回した。そこには、こちらに向かって会釈する灯籠頭の異形の姿があった。昨日は一回帰ったってのに、朝になったらまた居た。多分、悪い奴らではない。竿役じゃないみたいだしな。淫魔センサーもそういう方向には反応してない。
「かぐやちゃんの関係者でしょ? この人たち」
「え、夢魔にも見えてるの?」
「まーウチはちょっと特殊だからー。彩葉ちゃんには見えてないだろうから安心していいよ」
「そっか…」
俺は魂が見えるからな。普通の人はスマコンつけなきゃ、もしくは付けても見えないのかもしれないが…昨日一回認識した俺は既にスマコンなしでも見えるようになってしまった。近くにいる奴ら限定ではあるが。
手を振ってやるとオジャマシテイマスと返ってくる。こいつら実は結構フランクだよな。
「付き人的な?」
「んにゃ、どっちかってーと
「同僚…元々のお仕事は何をされていたんで?」
「簡単に言えばシステムエンジニアかなー!」
「おおー見かけによらず…って言いたいけど、かぐやちゃんそういうのは得意だしあんま意外ではないかなー」
「えへー」
破天荒で天真爛漫な現代版ギャルかぐや姫の正体は、月から来たエンジニアでしたー、なんて分かるわけあるかい。
というかSEだったってことより、ちゃんとお仕事できてたってことの方が驚きだよ。めっちゃ失礼だけどさ。
「まぁともかく、かぐや、お仕事放り出してきちゃったから。強制送還的な?」
「そっか。かぐやちゃんが言うんならきっと、絶対帰らないといけない感じなんだろうねー」
「……うん」
「マジかー」
かぐやちゃんが少しだけ俯いて言った。
そっか。…そっかぁぁぁぁ…。帰らないといけないかー…。マジか……。
それはちょっと、いやかなり、だいぶ、めちゃくちゃショックだよ……
だってもう百合完成してたじゃん? かぐいろ出来てたじゃん? あんなにいい雰囲気で、プロポーズまでして、あとは俺が挟まるだけだったのに。なんで? そういう別離的なのは要らないから…。
てかあの灯籠頭ども、悪い奴じゃないって思ってたけど百合を引き裂くなら悪い奴じゃん。許さんぞ。
思わず異形どもを睨みつけると、なんか少しワタワタしてる。その姿で焦ってんじゃねーよ、ちょっと面白いじゃねーかクソが。
「ごめんね、夢魔」
「謝んないでよー。仕方ないことなんでしょ?」
「うん。…夢魔、泣かないで?」
「え…」
かぐやちゃんが側にあったキッチンペーパーを一枚取って俺の目の付近に当ててくる。かぐやちゃんの手がちょっと魚臭い。でも確かに肌から水分が拭われている感覚がある。
そうか。
俺は、泣いてたか。
自覚すると、堰を切ったようにボロボロと涙が溢れてくる。百合がおじゃんになって悲しいから…ってのもあるけど。
これはもっと純粋に、かぐやちゃんがいなくなるのが寂しいんだ。
俺にとってかぐやちゃんは、いつか彩葉ちゃんと百合の花を咲かせ、そして喰らう存在だった。でもそれだけじゃなくなっていた。
赤ん坊の時から見ている子で、同時に仲のいい友達で、ちょっと手のかかる
いつの間にか、俺の中でもかぐやちゃんは結構大きい存在になっていたみたいだ。
何というか…こんなことで泣けるなんて、サキュバスの体に転生して人の心はあんまり無くなったと思っていたけど、やっぱり俺もまだまだ中身は人外に成りきれていなかった。
そうして声も上げられずに静かに泣いている俺の背中を、かぐやちゃんは泣き止むまでずっとさすってくれていたのだった。
「お化粧崩れちゃったなー」
「泣いてる夢魔も可愛かったよ?」
「もー」
時間にすれば僅かに五分ほどだろうが、多分この人生で一番泣いていたと思う。生まれた時から大人の思考だったからか、こんなにしっかり泣くというのはほとんど無かったんじゃないか。
「彩葉ちゃんにはこのこと…」
「ん。まだ言ってない。なんか、タイミング見つからなくて。一番大好きだから…余計に? みたいな?」
「そっか。でも、早めに言うんだよ?」
「うん、分かってる」
彩葉ちゃんも、知ったらきっと悲しむ。かぐやちゃんにもそれが分かってるから直ぐには言い出せなかったんだろう。
でも、いなくなるのが避けられないのなら、早めに言うべきだ。彩葉ちゃんがかぐやちゃんにとって一番大切な存在だと言うのなら、尚更。
…まだ悲しいし、実際にかぐやちゃんが居なくなったらもっと悲しいと思う。でも、一旦泣いたことで少しだけ冷静になれた。ちょっとは思考もスッキリしたしな。
「かぐやちゃん、帰るのは避けられないんだよね?」
「…うん。お仕事溜まってるからさ」
一応確認。これで前言撤回とかされたらかぐやちゃんのこと引っぱたいちゃうかもだけど、そんなことはなかった。
で、かぐやちゃんが帰らなきゃいけないのは、仕事を途中で放り出してきたから。それならばと、一つ思ったことがある。
「ならさー」
「?」
「お仕事終わったら、また地球に来てよー」
「!」
別に今回の月への帰省を今生の別れにする必要なんてない。仕事が残ってるなら、片付ければいい。そんで引き継ぎして有給でも取って、またこっちにくればいい。
仕事程度で百合を引き裂けると思うなよ……! 俺はまだまだ諦めてないからな…かぐいろの間に挟まることを、百合を堕とすことを……!!!
「頑張って早くお仕事終わらせて、何にも心配することが無くなったら…今度こそ、たくさんこっちで遊ぼ?」
「…! うん、うん!! そっか、そうだよね! かぐや頑張るから! 絶対お仕事終わらせてまた地球に来る!!」
「その意気だよー」
そうそう、かぐやちゃんはやっぱこのくらい勢いがないとね。しょんぼり顔は似合わないよ。その太陽のような魂と同じくらい、キラキラ輝く笑顔であって欲しいもんだ。
しかし、また少しだけかぐやちゃんの顔が曇る。
「あ、でも…」
「なに?」
「もし、お仕事終わるのが遅くなって、彩葉も夢魔もみんないなくなってたら…」
え、待って仕事ってそんなに残ってんの? 俺らまだ十代だし、普通に行ったら寿命で死ぬまでにあと数十年はかかるが。できれば早く来て彩葉ちゃんと百合百合してほしい。
別に百合に年齢制限はないけど、あんまりよぼよぼになってからだとその後に俺が楽しめる時間が…
「うーん…かぐやちゃんは天才だし、そんなことは無いと思うけどなー」
「もしも、だよ」
もしみんな居なくなってたら、か。無いとは思うが…せっかく頑張って仕事終わらせて、地球に来たら全員この世にいませんでしたとか言ったらかぐやちゃんが可哀想すぎる。
でもま、その時は。
「もしまた地球に来て、誰も知ってる人がいなかったら…」
「うん…」
「そのときは、ウチのこと呼んでよー」
「え?」
俺が迎えに行くかな。どうせこの体は人外なんだ。寿命という概念も多分ないだろう。実際もう成長も老化も止まってそうな感じしてるし。最近は何食っても体重が一ミリも増えない。
みんな居なくなってたら百合は成立しないが…それがなくても、かぐやちゃんは大事な俺の友達だ。最後まで待ってるさ。
「かぐやちゃんがどこにいても、ウチが迎えに行ってあげるからさー」
「本当? 嘘じゃ無いよね? 約束だよ?」
本当本当。俺、嘘つかない。ごめん嘘。
いやいや、いくら俺がサキュバスでも常識くらいはあるって。流石にこんな場面でふざけないっす。
約束するよ。
「もちろん。指切りでもする?」
「やるやる!!」
「はい、ゆびきった」
「ゆびきった!!」
俺とかぐやちゃんの小指がきゅっと絡まり、離れる。
テンションも高く、でも少しだけ寂しそうにそれを見ていたかぐやちゃんがぽつりと呟いた。
「夢魔」
「ん?」
「彩葉のこと、よろしくね」
「どうかなー。心配なら、かぐやちゃんが自分で見に来るべきだねー」
「あはは、確かにそうかも!」
そんなことを言って笑っているが…かぐやちゃんは、もう帰って来られないかもしれないとか思っているのだろう。顔見ればわかるよ。家族みたいなもんだしな。
でも、少なくとも俺は本気だよ。かぐやちゃんがさっさと仕事終わらせて帰ってきて百合を完成させてくれると思ってるし、もし終わらなくて、そして地球に来たときに誰もいなくなってても…本当に俺が迎えに行く。
彩葉ちゃんだって絶対に諦めない。あの子はあの子にできる方法でかぐやちゃんを迎えに行くと思うよ。そもそも、帰らせないように引き止めようとするかもな。
だからかぐやちゃんも、諦めないでくれよ。
さて俺も改めて化粧して、夏期講習に向かわなければ。彩葉ちゃんに遅れるって連絡も入れないと。まぁ別に遅刻したところで何かあるわけじゃないが。成績は結構いいし、でも彩葉ちゃんみたいにトップレベルの大学を目指しているというわけでもない。
とはいえ勉強せずに成績を保てるわけもないので、ちゃんと出席するに越したことはないけど。
「だれか、たすけて…」
「…? かぐやちゃん、なんか言った?」
「え? 配信用の動画確認してた」
「そのせいか。あ、そうだ」
何か聞こえたような気がしてかぐやちゃんに確認したが、特に何も言ってないようだった。淫魔イヤーの性能が高いのはいいけど、雑音まで拾うのは考えものだな。
と、かぐやちゃんの方を見て月人が視界に入ったことで、ついでに聞きたいことがあったを思い出したので確認しておくことにした。
「そういえば、昨日はそこの月人以外にもなんか黒い触手みたいなのが来てたけど、あれもかぐやちゃんのお仲間ー?」
「知らん…何それ…。怖…」
「いや知らんのかーい笑」
ちなみに、月人曰くなんかのバグ的な存在で触れられると魂を侵食してくるらしい。
クソほど危険物で笑ったよね。どうもかぐやちゃん関連ではあるが、月では存在できないタイプの怪異のようだ。つまり、かぐやちゃんが月に帰るまであの触手からかぐやちゃんを守らなければいけないらしい。
もしかしてこの世界の原作ってタワーディフェンスゲームだったりする???
夏休み最終日。
彩葉とかぐやを二人で花火大会に行かせることに成功した芦花と真実は、夢魔を誘って芦花の家に集まっていた。
「付き合わせちゃってごめんね、夢魔」
「昨日は乗ってくれて助かったよ〜」
「ああうん、それはいいんだけどー……まさか本当に課題が終わってないとは思わなかったよー」
夢魔は必死の形相で課題を消化しつつ謝ってくる二人に苦笑しながら言う。
昨日、芦花と真実が課題が終わっていないから二人で花火大会に行けと彩葉たちに言ったとき、芦花からアイコンタクトをされた夢魔が話を合わせたのだ。
ただ、夢魔はそれを口実だと考えていたのだが、芦花と真実が本当に課題を放置していたのを見て逆に驚いていた。なので今日は二人の課題を横から見つつ、わからないところがあったときに教える先生役となっている。
「いやいや、これは彩葉に嘘だとバレないようにわざと課題を残してたという高等テクニックで…」
「こんなに残してる必要はないっしょー?」
「あはは…ぐうの音も出ないね…」
「夢魔は見た目に反してちゃんとしてるよねー。終わってるんでしょ? もう」
「あったりまえだよー」
夢魔はアイスコーヒーを啜りながら、真実の言葉に若干呆れている。真実には真面目と言われたが、大抵の高校生は夏休みの課題を最終日まで放置しておかない。
多少残っていることはあるかもしれないが、真実たちのように半分も残っているということは少ないはずだ。実際ここにいない彩葉はとっくの昔に課題を終わらせて余った時間を受験勉強に当てている。
「遊んでばっかりいると大変になるって休み前に言ったのにー」
「それを夢魔から言われると違和感半端ないよね」
「ちなみに夢魔はいつくらいに終わったの?」
「ウチ? 課題内容自体は休み前に殆ど分かってたし、夏休み始まって三日くらいで全部終わってたよー」
「真面目ギャルめ…」
「あは、失礼しちゃうよね」
あっけらかんと言う夢魔に、真実が見当違いな恨み言をこぼす。夢魔は前世で真実たちと同じようなことを経験して苦労しているので、今世ではそうならないように行動しているだけだった。
「終わったー…」
「私ももう少しかな」
「がんばー」
とはいえ、早朝から集まってもう夕方である。時折休憩を挟みつつ八時間以上も課題をやり続けていればゴールも見えてくるというもの。テストの合計点数で毎回学年五位以内には入っている、勉強ができる
一足先に課題を終わらせてテーブルの上に出されたお菓子をつついていた真実が、自身のスマホを確認して少し焦ったように勉強道具を片付け始めた。
「あ、ごめん、私もう帰るねー。門限近いから」
「お疲れさま」
「おつー。駅まで送る?」
「駅近いし、まだ明るいから大丈夫。じゃね〜」
大量の課題を鞄に詰めた真実は夢魔の提案を辞退し、最後に一つお菓子を掴んで足早に帰っていった。
それに手を振って見送った夢魔は、相変わらず課題と向き合っている芦花の隣に座った。
「で」
「で…って?」
「ウチに何か話があるんじゃないのー?」
「!」
夢魔の言葉にぴたりと芦花の動きが止まる。夢魔の視線は芦花の手元の課題に行っていた。真実は気づいていなかったが、芦花のやっている部分は課題の範囲をすでに超えている。
それでも課題が終わっていないと言っていた芦花を見て、真実が帰るのを待っていたのではないかと夢魔は考えた。
「夢魔、鋭いって言われない?」
「まーね。昨日かぐやちゃんにも言われた」
「やっぱり」
芦花は自信満々な夢魔にクスリと笑ったが、直ぐに引っ込めて真剣な表情になる。
「…ねぇ、夢魔。最近、彩葉とかぐやちゃん、どんな感じ?」
「…!」
伺うような芦花の言葉。それに込められた意味に気づかないほど、夢魔は鈍感ではなかった。つまり、芦花も最近のかぐやと彩葉の心の接近を察していたのだ。
「どんな感じ、ね。すっごく仲良くなってるよ」
「恋人ってくらい?」
「! …ギリそこまで行かないくらいかな。でも、正直秒読みだと思う」
「そっか…」
芦花が重いため息をつく。夢魔にはそれに付随する感情がサキュバスのセンサーで見えていた。そして芦花の内心が、自分にとって都合の悪い方向に進んでいることを確信する。
芦花は元々繊細な性格であり、自分の想いを全面に出すようなことはしない。想い人が別の友人と幸せそうにしているのを見たらどうするかなど明らかだった。
「彩葉ちゃんのこと諦めようとか、思ってる?」
「あのライブで楽しそうに歌う彩葉とかぐやちゃんを見てたら…もう、彩葉の隣は埋まっちゃったんだな…って」
「…芦花はそれでいいの?」
「うん。元々、告白とかそういうつもりはなかったけどね。それに…」
私じゃ彩葉のこと、かぐやちゃんよりも幸せにできないや。
そう言ってこらえるように笑う芦花は、とても儚く、しかし見惚れるほど綺麗だった。
夢魔はそんな芦花の頭を引き寄せ、優しく抱きしめた。されるがままの芦花を、ふわりと甘い香りが包む。慈しむように頭を撫でられ、芦花の視界がじわりと滲んだ。
「芦花」
「うん」
「よく頑張ったね。辛かったろーに」
「…うん」
「よしよし。芦花がずっと彩葉ちゃんを気にかけてたの、ウチは知ってるからさー」
「ふ、ぅ、ぐすっ…」
夢魔の労わる言葉に芦花の思考は溶けていき、ますます涙が止まらなくなる。
相槌が嗚咽へ変わるのに、嗚咽が幼児のような泣き声へと変わるのに、時間はかからなかった。
「服濡らしてごめん…」
「気にすんなってー。こういうときくらい迷惑かけてよ、友達なんだし」
「ありがと…」
顔を赤くして謝る芦花に、夢魔はけらけらと笑う。芦花は恥ずかしがっているが、夢魔は悲しいときに泣くのは恥じるようなことではないと思っている。自身も直近で泣いた経験があるので尚更だった。
泣いて気分をリセットできたからか、芦花の表情は幾分かマシになっている。声にもハリが戻ってきていた。
夢魔の目論見通りに。
夢魔が芦花の頭を胸に抱えたまま、耳元に口を寄せて誘うように囁く。
「ね、芦花。彩葉ちゃんのこと諦めたって言うけどさ。彩葉ちゃんへの気持ちを忘れるとか、別方向に気を逸らすとか、しなくていいと思うよ?」
「え?」
ここにいたのが真実なら、芦花を誘って気分転換に遊びに行くとか、あるいは彩葉に近づけるようなことはしなかったかもしれない。
しかし、芦花が相談してしまったのは夢魔。百合に挟まろうとする邪悪なサキュバスである。
そしてこの強欲な淫魔は、この期に及んで彩葉と芦花をくっつけることを諦めていなかった。
「で、でも、彩葉はかぐやちゃんと…」
「別にかぐやちゃんから彩葉ちゃんを奪うとか、そんなことは言わないよー?」
「じゃあ、どういう…?」
「今まで通りでいいんだよー。彩葉ちゃんも芦花の気持ちには気づいてないし、ギクシャクすることもないじゃん?」
「それはそうだけど…」
夢魔は芦花の結論を先送りにしようとしていた。芦花は彩葉を諦めると言っているが、何かの拍子で彩葉が芦花の気持ちに気づくかもしれないし、彩葉がどういう判断をするかはそのときにならなければ分からない。
もしかぐやと付き合っていたとしても、だ。むしろ既に女の子と付き合っていることで彩葉のハードルが下がっている可能性すら考えられた。
そして夢魔の勘は言っている。百合ハーレムの王の素質を持つ彩葉なら、芦花のこともまとめて幸せにしてくれると。
「そもそも、簡単に切り替えられないっしょ?」
「まぁ、ね。…でも、その、彩葉がかぐやちゃんと幸せそうに過ごしてるのを見たら、辛くなりそうで…」
「あー…」
芦花の言葉に夢魔は考え込む。夢魔自身恋愛経験がほとんどない上に、中身は
だからこそ、軽率に判断してしまう。その結果自分に何かしらの影響がないかなど、考えもしない。
「じゃ、そんときはまたウチがぎゅーってしてあげる!」
「!」
「それじゃダメ?」
「…撫でるのも追加で」
「いいよー。たくさん甘やかしてあげるー」
先ほど芦花を慰めたときのことを思い出し、それをそのまま芦花に提案することにした。さりげない芦花の条件追加にも、それが百合の維持に繋がるのならと二つ返事で請け負った。
「…それなら、もう少しだけ諦めずに頑張ってみようかな」
「その意気だー。ウチも応援するからさー」
「じゃあ、心折れたときはよろしくね」
「もち。芦花のこと癒してあげるよー」
芦花の彩葉への想いを引き止められたことで、夢魔は安堵してとても上機嫌になっていた。
芦花を慰める前と後で、芦花が夢魔を見る目に変化があったことには、終ぞ気づかなかった夢魔だった。
そういえば書き忘れてましたがオリ主くんちゃんはタレ目です。