「百合って聞くと間に挟みたくなるよねw」「分かる〜w」 作:超かぐや姫!沼から抜け出せない人
長々と続いてきたこのお話ですが、多分あと二話くらいで終わります。完結までいけるのマジで奇跡です。応援していただいた皆様のおかげです。感想が主食です。本当に感謝しています!
で、今回アホみたいに長いのでご注意ください。分割しようかと思ったのですが、キリのいいところがわからなくなったのでやめました。
かぐやちゃんたちが花火大会から帰ってきてすぐ、かぐやちゃんはSNSでライバーを引退することを発表した。
その情報にファンたちは阿鼻叫喚状態で、撤回を求める声や悲哀の声、果ては陰謀論まで飛び交っていた。かぐやちゃんはその全てを黙殺していた。こういうのは下手に反応してもつけ上がられるだけだしな。
ちなみに俺のSNSもついで感覚で燃やされた。なんでだよ。UMA2全ての元凶説ってなに?? かぐやがUMA2を独り占めしたくて引退するとか、いろPとかぐやがUMA2を巡って喧嘩して引退することになったとか、根も葉もない噂が蔓延っている。
暇だねキミら…。てかもし俺が間に挟まるとしてもかぐやちゃんと彩葉ちゃんを仲違いとかさせないから。百合の間に挟まる男の真価が問われるね。望むところである。まとめて可愛がってやんよ。
かぐやちゃんが引退&卒業ライブを行うのは九月十二日。かぐやちゃんが月に帰ってしまうのもその日。月人たちがツクヨミに迎えに来るらしい。とはいえ現状俺にできることはないので、竿役の排除と精エネルギーの回収に勤しんでいた。
「かぐやちゃんが本当に月のプリンセスだったとは……わかるっ!」
そんなある日のこと、彩葉ちゃんに呼ばれた俺はツクヨミへと集まっていた。
集合場所である屋外ミーティングルームに行ってみれば、俺の他にも芦花や真実ちゃん、それに黒鬼の三人もいて、更にはツクヨミの管理人であるAI、月見ヤチヨまで来ていた。すげーメンツだな…
そして今、彩葉ちゃんからかぐやちゃんの正体が全員に明かされた。まぁ俺は知ってたけど。
帝アキラが顔に手を当てて天を仰ぎ、大げさなリアクションをとっている。いやかぐやちゃんの正体を本当に信じたのなら大げさってほどでもないか。非現実的な話だしな。
「築地生まれじゃなかったんだ」
「海行っても肌真っ白だったもんね」
「電柱から生まれた…わかるっ」
朝日さんさっきから「わかる」としか言ってないけど大丈夫? わかりすぎでしょ。
芦花も真実ちゃんも目を白黒させて驚いている。雷と乃依は…半信半疑といった感じ。当たり前だが。むしろ彩葉ちゃんの話だからと直ぐに信じた他の三人の方がおかしいと言える。
まぁ芦花と真実ちゃんは彩葉ちゃんの親友で、帝アキラ…朝日さんは彩葉ちゃんの実兄。彩葉ちゃんがこんな嘘言う子じゃないって知ってるしな。
「
「ウチは知ってたからー。一緒に住んでるしね」
「それもそっか。でも、よく信じられたね?」
「それはほら…ウチってアレじゃん?」
「ああ…」
芦花が俺に疑問を投げかけてくるが、そこは言葉をぼかして返す。芦花も真実ちゃんも事情を察して納得してくれた。
うん、普段は意識することないかもだけど、俺ってサキュバスなのよね。俺の存在自体が既にかぐやちゃん並みに、いやそれ以上にファンタジーなんよ。だから俺が驚くのもおかしいっていうか…ねぇ?
その間にも彩葉ちゃんが月見ヤチヨにかぐやちゃんを守れないか聞いているが、月見ヤチヨはどこからアクセスしているかも分からないと返した。いくらツクヨミの管理人とはいえ、月とかいうよくわからんところから侵入してくる輩には無力ということか。
…いや、嘘だな。
俺の淫魔センサーが反応している。今の月見ヤチヨの反応は嘘だと。
え、自分で感知しといてなんだが、淫魔センサーってAI相手でも反応すんの? ここにきて新発見だよ。それとも月見ヤチヨが実は人間だったとか?? いやでも魂は無さそうだし……
というかAIも嘘とか言うのか…これがハルシネーションというやつか。
と、とりあえずそれはさておき。月見ヤチヨの発言が嘘なら、本当は月からのアクセスにも対処できるのだろう。しかし俺はそれに突っ込まないことにした。
どういう経緯で月見ヤチヨが嘘をついたのかは分からないが、それをここで開示しなかったということは、何か月見ヤチヨにも事情があるのだろう。ツクヨミ運営としての判断かもしれないしな。何にせよ、このツクヨミではほぼ全能であろう月見ヤチヨは当てにできなくなった。
「相手が現実で手出しできないなら、ツクヨミで追い払えばいいんでしょ?」
対処法が浮かばず暗くなった空気を払拭するように、帝アキラがわざと明るい声を出して提案する。その顔はいつも通り楽しそうで、自信満々だった。兄妹だというのに、彩葉ちゃんの表情とは対照的だ。
帝アキラは言う。ツクヨミに来るなら好都合、ここで叩き潰せばいいと。使者たちが月へ帰りたくなるまで、力づくで。
まぁ、そういう考え方になるよね。多分彩葉ちゃんもそのつもりでこのメンツを集めたんだろう。
プロゲーマーにしてKASSENでトップランカーの黒鬼、時間がなくてやらないだけで実力は準プロレベルの彩葉ちゃん。そして、インチキで最強の俺。
月人が相手でも、そう悪くない結果になるはずだ。少なくとも、彩葉ちゃんはそう考えた。
「…私もやる。何ができるか分からないけど……お願いします」
「よし! じゃあ準備だな、乃依」
「えー、あれー? めんどー」
「リーダーは絶対」
「はいはい」
帝アキラの号令にすぐさま動き始める黒鬼。流石に行動が早い。トッププロチームの連携は伊達じゃないな。
芦花も真実ちゃんもやる気で、普段見ないようないい気迫を出している。彩葉ちゃんの友達として、かぐやちゃんの友達として、できることは全部やりたいという気持ちが伝わってくる。
で、そんな盛り上がってるところ非常に申し訳ないのだが…
「ごめん、彩葉ちゃん。ウチ、その日は出られないんだよー」
「え…」
俺に断られるなんて微塵も考えてなかった、という顔で彩葉ちゃんが固まる。俺も別に断りたかったわけじゃないんだ。本当だったらかぐやちゃんが帰らないように灯籠頭の月人どもをみんなと一緒にぶっ飛ばしたい。
だが、それ以上にやらなければならないことがある。
「この前のコラボライブの日にさ、部屋にやばそうな奴らが来てたんだよね」
「やばそうな奴ら…? 見た記憶ないんだけど…」
そりゃそうだ。一般人には見えないっぽいしな。でも確かに来ていた。あの黒い触手の化け物、とある事情通曰く、『
灯籠頭の月人は、あいつはかぐやちゃん狙いで、触られると魂を侵食されると言っていた。あの一体だけじゃなくてもっといて、まだかぐやちゃんのことを狙っているとも。
かぐやちゃんが月に帰る日に襲撃してくるであろう
それを説明すると、彩葉ちゃんの顔が真っ青になる。うん、かぐやちゃんが帰るとか帰らないとか以前に、かぐやちゃんの命に関わるかもなんだよね。
そして、一体相手に複数で苦戦していた月人たちのことを考えると、アイツらだけに任せることはできない。必然的に、俺が一緒にかぐやちゃんを守るしかないんだ。
他の人が対処しようにも、現実では俺しかあいつらのこと見えないしね。見えても俺以外じゃどうしようもないが。
「まぁそんなわけで…多分、ウチはかぐやちゃんを守るので手一杯になっちゃうと思うんだー」
「で、でも、かぐやが月に帰る日にそれが来るとは限らないんじゃ…」
「それに関しては、間違いない情報を提供されてるから、来ちゃうと思うなー。それにもし来ないとか言われたとしても、万が一のことを考えたらやっぱりウチはKASSENには行けないよ」
そうは言ったものの、月人たちもまだ来るって言ってたし、何より確度の高い
…なんでこの人はそんなことまで知ってるんだろうね。ってかこれで月の関係者だってことがほぼ確定しちゃったよ。だって月人ですら日付までは確定しなかったんだよ? これで月と全く関係ないですとか言われたらそれが一番怖いよ。
もはやYachi8000氏が黒幕でしたとか言われてもなんも驚かない。情報くれてるあたり敵ではないんだろうけどさ。
でもそれはそれとして、こんな大事なことを俺が聞くまで黙ってたYachi8000氏はいつか
ちなみにそれを本人に言ったら『うん。楽しみに待ってるね』とか煽られた。こいつ…舐めてると潰すぞ。俺の淫魔センサーで草の根を掻き分けてでも見つけ出してやるから覚悟しとけよ。
「だから、彩葉ちゃん。かぐやちゃんのこと、月人から守ってあげてね」
「…分かった。夢魔も、かぐやを守って。夢魔自身も怪我しないでね」
「おっけー、任しといて」
彩葉ちゃんが覚悟を決めたように、強い意志を持って俺に防衛を頼んでくる。もちろんだ、かぐやちゃんには指一本触れさせないと約束するよ。彩葉ちゃんもそっちは頼んだよ。
決戦の日まで時間もない。とりあえず、俺は何が起きてもいいように竿役どもを襲撃して精エネルギーを限界まで集めておくことにしよう。
あっさりとやってきた九月十二日。
彩葉ちゃんは午前零時ぴったりにかぐやちゃんがいなくなってしまうのではないかと、かぐやちゃんをキツく抱きしめながら待っていたが…俺はかぐやちゃんがぐっすり寝ていたことからそんなことはないだろうなーと思っていた。実際来なかったし。
いつも通りに過ごし、やってきたライブの時間。
Yachi8000氏から、奴らは屋上に誘導すると言われている。もう関与を隠す気ないよね?? ともかく俺はそれを信じて、マンションの管理人さんに
「かぐやちゃん」
「なに? 夢魔」
配信部屋で鼻歌交じりに準備しているかぐやちゃんに声をかける。俺はこれから屋上でクズどもを迎え撃つが…きっと、彩葉ちゃんたちの勝敗に関わらず、かぐやちゃんは月へと帰ることになるだろう。
彩葉ちゃんが勝ったとしても、ああ見えて責任感の強いかぐやちゃんのことだ。自主的に月に帰ってしまうだろう。つまり、次にかぐやちゃんが地球に来るまでに俺と話せるのは今が最後。
とはいえ、今更そんなに話すこともない。今日までに彩葉ちゃんも交えてベッドの上で(意味深ではなく)たくさん話したからな。
それに、俺はまた会えるって信じてるし。だから、一言だけ言えれば十分だ。
「またね」
「! うん、またね!!」
かぐやちゃんとハイタッチして、俺は部屋を出た。寂しくなんてない。だから、目から液体が流れているのはゴミが入っただけだ。
カンカンと音を立てながら屋上へ続く非常階段を上る。タワマンに相応しい広さの屋上エリアには、すでに灯籠頭の異形達が集まっていた。
ん、見慣れない奴もいるな。なんか金魚と狛犬が混ざったみたいな見た目のやつに、シンバルみたいなのを持ったでかい能面のやつ。灯籠頭が反応してないのを見るに、多分仲間なんだろう。月人って結構おもろい見た目のやつ多いな。
「こんだけ数が揃ってれば楽勝…な訳はないんだろうねー、どうせ」
そんな俺の言葉に呼応するかのように、何もない空間から黒いモヤが複数滲み出てきた。この前のコラボライブのときのように一体というわけではない。今見えているだけで十体、そしてまだまだ出てきそうな気配がしている。
おいおい、前回は灯籠頭複数体で触手一体に押されてたんだぞ? 過剰戦力じゃないですかね…? 全く、なんて無粋な輩どもなんだ。
だが、俺は男に対して特攻&耐性を持つ邪神製サキュバス。何も恐れることなんてない。お前らごとき俺一人で十分なんだよ。転送に月人の力が必要というだけだ。
というか…
「よく考えたら、ウチはお前らのせいでかぐやちゃんの卒業ライブが観られないんだが? どう考えても、それだけで万死に値するよねぇ…!!」
『!?』
サキュバスの身体能力をもってすれば、触手に近づくなど訳もない。本気を出せば百メートルを九秒で走れるんだぞこっちは。全速力で接近し、触手の一体に直接触れる。
本来なら、これだけでも魂を侵食されるのだろう。しかし俺には効かん。残念だったな。
「淫紋付与!」
『?』
「からの…強制絶頂×100!!」
『!?!?』
これも人間相手には使えないコンボの一つ。淫紋をつけた相手を強制的に性的絶頂させる技だが、普通の人間は同じタイミングで何度も性的絶頂できるように体も頭もできていない。試していないが、多分百回じゃなくて五回でも脳に不可逆な損傷を負ってしまうだろう。
感度三千倍ビームでも良かったんだが、あれは結構消費が激しいしな。長期戦を見据えるなら、コストの少ない淫紋コンボの方がいい。できることの幅も広いし。
「月人! ウチが動きを止めるから転送だけやって!!」
『ショウチ イタシマシタ』
言ってる間にも俺は走って淫紋をつけて回る。強制絶頂させるだけなら淫紋付与した相手全員にできるしな。さっさとつけてまわってまとめて処理した方がいい。
だが、それだけじゃ処理が追いつかないかもな。月人たちが転送している間にも、次々と黒い触手が出現している。
「これは、追いつかないかも…っと?」
『……』
淫紋だけでは間に合わなくなり、感度三千倍ビームを遠距離の触手に撃とうとしたとき、能面の月人の一体が動き、シンバルを大槌に変形させて触手を吹っ飛ばした。
同時に金魚みたいな狛犬も上半身がぱっくり裂けて、獣人の上半身と龍の下半身を持つ異形へと変身して触手を攻撃しだした。おい、それができるなら最初からやれ。
「ん? なるほどねー」
『…』
能面の月人の大槌、そして元金魚の月人の四本の剣が黒ずんでいる。どう考えてもあの黒い触手に触れたせいだろう。そう何度も使えないってことか。俺が主体なのは変わりないか。
だが。
「酷使してやるから覚悟しろよー!」
その損耗を考慮してやれるほど優勢ではない。俺も最大限頑張るが、お前らも死なない程度には気張れよ──!
『オマカセ クダサイ』
「お前らも喋るんかーい!!」
どうみても獣みたいな面しといて喋ってんじゃねーよバーカ!! さっきまで無言だったのはなんだったんだよ!!!
「ぜっ、はっ…」
時間にして一時間ほどか。無尽蔵に湧くのではないかと思われていた触手は、主に俺の頑張りによって封殺され、その全てが月人たちの手によって転送されていった。
くっそ疲れたよもう。エネルギーも結構消費したし。あの黒い触手からも精エネルギーが徴収できたのは幸いか。
この戦闘の間に何人もの灯籠頭が戦闘不能になって送還され、能面や金魚の月人も無傷ではなかった。だが、一体も死んでいないはずだ。ちゃんと確認できてはいないけど。
「これで、終わりかなー?」
『ハイ』
黒い触手が出現しなくなり、独り言をつぶやいたら隣にいた灯籠頭が返事をしてきた。お前に言った訳じゃねーよ。でも、そう言うならもう来ないのだろう。
『ユマ サマ』
「ウチの名前知ってたんだー。で、なに」
『アリガトウ ゴザイマシタ』
挨拶だけは一丁前だよなこいつら。そのくせ説明とかはこっちが聞かなかったら一切してくれないんだが。もうちょいこっちに配慮とかないんか??
『ソレデハ』
「はいはい。じゃねー」
『マタ オアイシマショウ』
月人たちが一斉に消えていく。視界を埋めていた異形たちがいなくなったことで、今までのことは全て幻覚だったのではないかとすら思えるが、この疲労感と消費エネルギーは幻覚ではありえないだろう。
「かぐやちゃん…」
そしてもう一つ。
触手を撃退する前までは確実に存在していた太陽のような魂の気配が、今は消えていた。
部屋に戻ると、玄関から繋がるリビングは月明かりのわずかな光で照らされるのみで、静けさに包まれていた。
何故かキッチンの収納が開きっぱなしになっている。それどころか、玄関以外のありとあらゆる扉が開け放たれていた。誰かが、見つからない探し物を求めて荒らしたかのようだった。
淫魔センサーの反応に従い、俺たちの共用の寝室に向かう。
扉を開いた先、特大のベッドの上には、かぐやちゃんのお気に入りのクッションを抱えてうずくまっている彩葉ちゃんの姿があった。
「彩葉ちゃん」
「夢魔…」
ぼんやりとした彩葉ちゃんが、クッションから顔を上げないまま返事をする。分かっていたことではあったが…かぐやちゃんは、月に帰ったか。
いつになく彩葉ちゃんの生気がないが、無理もない。俺にとってですら、かぐやちゃんは大きな存在だったのだ。彩葉ちゃんにとってはどうだったかなど、言うまでも無い。
「夢魔、サキュバスの力でかぐやを…」
「…ごめんね、彩葉ちゃん。淫魔の力はそこまで万能じゃないんだー」
「そう、だよね…」
彩葉ちゃんは一瞬だけクッションから顔を上げ、俺の言葉を聞くなり再び俯いてしまった。俺はそんな彩葉ちゃんに正面から近づき、そっと抱きしめた。
のっそりとこちらを見た彩葉ちゃんと目を合わせる。少し澱んでしまった、それでも宝石よりずっと綺麗な翡翠色の瞳。
「…」
かぐやちゃんが月へと帰り、彩葉ちゃんは今、非常に無防備な状態だ。
心にぽっかりと大きな穴が空いている。はっきり言えば、俺にとってはめちゃくちゃチャンスと言えた。普段は隙のない彩葉ちゃんが、こんなにも落ち込んでいる。
これを利用すれば、今まで俺の築き上げた信用も合わさって、簡単に彩葉ちゃんのことを堕とすことができるだろう。
「ぁ…」
どこか焦点の合っていない瞳を覗き込みながら、俺は左手を彩葉ちゃんの頬に添えた。
か細い声が聞こえる。でも、抵抗はない。それはそうだ。今の彩葉ちゃんは少しでも他人の温度が欲しいはず。
俺という親しい友人からの庇護を、欲求を振り払うことができない脆弱な精神状態。そもそもそんな気力が湧いてないとも言えるか。
俺はされるがままの彩葉ちゃんにゆっくりと顔を近づけていく。そして……
「ばーか」
「いたっ?!」
べちり、と彩葉ちゃんのデコから迫真の音がする。
うーんいい音。我がサキュバスハンドは性技もデコピンの腕も超一流、隙はないのだ。
「なーにそのまま受け入れようとしてんのー」
「え…」
全く、俺も見くびられたものだな。
傷心のところに漬け込むなど、百合の間に挟まる男の風上にも置けない。
俺の目指す真の『百合の間に挟まる男』とは、完全な状態の百合すらも堕とせる至高の存在なんだよ!! 百合の片方が欠落した状態で堕とすとか、勝手に難易度を下げないでもらえませんか???
てかそもそもかぐやちゃんがいないんじゃ百合成立してないし。百合の間に挟まってねーじゃん。俺のアイデンティティーに関わってくる話なんだが。
「一回失敗したくらいで、諦めないでよー」
「…!」
「彩葉ちゃんは、かぐやちゃんのこと大好きなんでしょ? なのに、帰るのを防げなかったから、それで終わり?」
あえて挑発するように彩葉ちゃんを煽る。
消沈するのはいい。でも、それで俺みたいなのをそのまま受け入れようとするなど言語道断だ。彩葉ちゃんのかぐやちゃんに対する気持ちはそんなもんだったのか? そんな訳ないだろう。一番近くで見てきた俺がよく知っている。
酒寄彩葉が、かぐやちゃんが大好きな女の子が、百合ハーレムの王になる女が、諦めがいいはずがない。
「…そんなわけ、ない! これで終われるわけない!!」
「なんだ、分かってんじゃん」
俺に向かって彩葉ちゃんが叫ぶ。そうだ、それでいい。落ち込んでもいい。休んでもいい。でも、止まるんじゃねぇぞ。
かぐやちゃんに諦めるなと言っておいて、こっちが諦めるなんてあっていいはずがない。
「さっき淫魔の力は万能じゃないとは言ったけど…ウチも、これから色々とできることがないか試してみるよー」
「夢魔…ありがとう」
「うん。彩葉ちゃんも、体を壊さない程度に頑張ってよね。多分、彩葉ちゃんが何もしなかったら、ウチが何しても意味ないと思うんだー」
「そっか…そうだよね」
俺一人でできることは限られている。俺はただの同居人だったしな。それこそ、せいぜいサポートくらいだろう。
でも彩葉ちゃんには、かぐやちゃんと一番近かった君なら、俺以上にできることがあるはずだ。
頑張れ彩葉ちゃん! そしてあわよくばかぐやちゃんをさっさと取り戻して百合を築いてくれ…!!!
「だから、今日はもう寝よ? 明日も学校だしさ」
「うん…そうだね、分かった。おやすみ、夢魔」
「おやすみ、彩葉ちゃん」
彩葉ちゃんも疲れていたようで、一緒に横になると俺の胸に顔を埋めながらすぐに寝息を立ててしまった。俺もサキュバスの能力でリラックス効果のあるいい香りを発生させてた甲斐があった。あ、歯磨き…ま、まぁ一回くらい平気やろ多分。
「さて…」
彩葉ちゃんを起こさないようにそっと引き剥がし、俺はベッドから降りてリビングへと向かった。
俺にできるのは、せいぜいサポートくらい。それはさっき考えた通りだ。
でも、どこまでサポートできるかは俺の手腕によるだろう。百合の間に挟まるためならなんでもするさ。それが百合の間に挟まる男の使命だ。
「だれか、たすけて…」
「前から気になってはいたけど…やっぱ幻聴じゃないみたいだねー」
この前…正確には、ここに引っ越したときくらいから、誰かに呼ばれているような感覚を覚えることはあった。でも、その反応も微かなものだったし、最初は俺の気のせいだろうと思っていた。誰かに呼ばれたのを聞き逃したか、性能の良すぎる俺の淫魔イヤーが勘違いしているんだろうと。
でも、勘違いなんかじゃなかった。微かだったものは、段々とその存在感を増していっていた。
「だれか、たすけて…」
「気づくのが遅れちゃって、ごめんねー」
これは、声だ。それも、助けを求める声。俺だけに向けられたものじゃないのだろう。でも、その中には確かに俺が含まれている。
俺のサキュバスの能力は制限が多い。感覚的なものだが、サキュバスにできそうなことはできるし、できなそうなものはできない。そして、俺はサキュバスに攻撃能力があるとか、転移能力があるとは考えていないので、そういった能力は使えない。
だが、サキュバスは悪魔の一種。そして悪魔というのは、『
「三十八万キロだっけ?」
ここまで声がはっきり聞こえれば分かる。俺を呼んでいるが誰かなんてことはな。遠すぎてマーキングしていてもその位置がはっきりしないが…それでも、これまで集めたエネルギーをありったけ注ぎ込む。
このエネルギー量を再び集め切るにはまた数年かかってしまうだろう。まぁ、安いものだ。それで百合が成立するのなら、俺の数年くらいくれてやるよ。
「だれか、たすけて…」
「もちろん、おっけー」
いくぜ、唸れ俺のサキュバスパワー!!
ん? あれ、なんか想像よりエネルギー持ってかれるな? やばい、これ足りないかも! こんなにかっこつけといて!? で、でも途中でやめることもできないし…!
あ、なんか急にエネルギーが溢れて…?! ▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああああ!!!!!
かぐやが月へと帰った翌日、彩葉が目を覚ますと既に夢魔の姿はなかった。
しかしそのことに対して疑問はない。夢魔が彩葉より先に行動し始めることは今までにもあったし、何より昨日話していた通りだ。おそらくサキュバスとして夢魔にできることをやりに行ったのだろう。彩葉も気を引き締め、行動を開始した。
『彩葉、大好き』
それを最後の言葉として今後生きていけるほど、彩葉は強くなかった。かぐやがいない人生が考えられないほど、生活を侵食されていた。でもそれが嫌ではなかった。
(これでエンディングなんて、それで終われるわけないっしょ!!)
まず、学校に休みの連絡。体調不良で通したが、かぐやがいなくなって心身ともに好調とはとても言えなかったのであながち間違いではない。
芦花や真実にもしばらく引きこもると連絡を入れた。バイト先にも欠かさず休みの連絡をする。休みの間は任せて欲しいという頼もしい返事がみおちゃんから来た。
次に母親との交渉。彩葉が電話しようとしたタイミングで電話がかかってくる。とはいえ、予想できたことだ。何せ毎日のように何度も不在着信が来るのだから。
「もしも──」
「ああ、やっとではったね、この根性なしが」
そこから始まったのは怒涛のような勢いの説教。反論を許さない、暴言一歩手前の理詰めの言葉の数々に、しかし彩葉は引かなかった。
自分はお母さんのようにはなれないこと、それでも自分が本当にやりたいことを見つけたいこと、そのための時間が欲しいこと。それらを丁寧に、伝わるように、だが押し負けないように強気で話していった。
そして数時間にも及ぶ喧嘩のような話し合いの結果。
「ええよ。やってみ」
という許可の言葉を引き出せたのだった。
「そういえば、あの子は近くにおるんやろね?」
「あの子…?」
「夢魔ちゃんに決まっとるやろ」
「そりゃ…おるけど」
「ならええわ。あの子がおらんかったら、あんたなんて三日で男に食われて終わりや」
「お母さん、夢魔の異常性知ってん…?」
「当たり前やろ。でなかったら、あんたのこと東京に行かせんかったわ」
紅葉が夢魔を認知していたということには流石に彩葉も驚いたが。
それから何度か月が昇り、彩葉はかぐやのための曲を完成させた。
数日前までは一音も続きを書けなかった、しかし私生活の全てを擲ったことで完成した曲。風のない夜、バルコニーに出た彩葉は、かぐやがいるであろう月に向かってその歌を口ずさむ。
『そんならかぐや、もう一回!』
彩葉の耳に、確かにかぐやの声が聞こえた。そして同時に、自分とかぐやと、もう一人の声が聞こえたような気がした。
「ヤチヨ…?」
ヤチヨを探しにツクヨミにログインした彩葉は、そこで見つけたFUSHIの案内によって、現実世界にあるツクヨミのサーバールームへと辿り着いた。
アパートの一室からログインした先は、豪華絢爛な天守閣の最上階。長い髪を床に広げ、彩葉に背を向けて座っているのは、このツクヨミの管理人である月見ヤチヨだった。
「ヤチヨは、かぐやなの? …変なこと言ってるのは分かってる。でも…」
しかし、その姿が彩葉にはかぐやと重なって見えた。ヤチヨは一瞬だけ驚いたような表情を見せ、静かに語り始めた。
「今は昔──」
そうして語られたのは、かぐやが月に帰ってからの話。
彩葉の歌を聞いて仕事を爆速で終わらせ、引き継ぎまでしたかぐやは、それでも間に合わなかった時間を埋めるためにタイムスリップした。しかしそれに失敗して、八千年も前の地球に不時着し──そして今に至ると。
彩葉といたかぐやは、今も同じ輪廻を巡っていると。ヤチヨは静かに話した。
「しっかし、彩葉はよく気づいたね〜? 自分で言うのもなんだけど、結構変わってたっしょ?」
(やっぱ、かぐやだ)
そのヤチヨの中に、彩葉はかぐやを見出していた。
八千年の時を超えても、かぐやは、彩葉の知るかぐやを残していた。
「ヤチヨ!!」
「んえ?! びびったぁ…なに? 彩葉」
彩葉の突然の大声に驚いたヤチヨは、少し慄きながらも彩葉の言葉を待つ。見た目も声も違うのに、その反応はかぐやそのものだった。
八千年の時を経て、かぐやは確かに変わってしまった。でも、全部変わったわけじゃない。なら、自分はその変化全てを知らなければならない。
「八千年、あったこと全部聞かせてよ! 私、寝ないから!!」
「…無茶言うねぇ」
周囲の景色を以前住んでいたボロアパートのものへと変えた後、彩葉の要望通り、ヤチヨは八千年間あったことを話し始めた。縄文時代から始まり、平安、戦国、江戸。丸二日間もぶっ通しで、止まることなく話し続けていた。
そして先に限界が来たのはヤチヨの方だった。FUSHIのアラームとほぼ同時に、倒れるようにその場で眠り始めてしまう。
「ヤチヨの活動限界は五十二時間だ。充電とアップデートと記憶の整理のために定期的にスリープ状態になる必要がある」
それまでちゃぶ台の上で黙っていたFUSHIがヤチヨの代わりに話し始めた。慈愛に溢れたつぶらな瞳はヤチヨの方を向いている。
彩葉も眠気で重い頭を振り払い、ヤチヨの側に座った。眠りながらも笑っているヤチヨの髪を、優しく労るように撫でる。その手に感覚はなくとも。
「ねぇ、FUSHI」
「なんだ?」
「ヤチヨが隠してること、あるよね」
ヤチヨのことを変わらず撫で続けながら、彩葉はFUSHIに疑問を投げかけた。
違和感があったのだ。
ヤチヨは所々を端折りながらも、ここまで彩葉に七千年以上の歴史を語ってきた。しかし、どう考えてもおかしいことがいくつもあった。
犬DOGEの体を作り出してそこに意識を乗せて各地を旅し、時に縄文人と一緒に漁をして、時に平安の歌人と歌を詠み、戦国の世、矢の雨のなかを駆け抜けて、吉原の妓楼で花魁の生き様を見て…
「ヤチヨは、本当に一人だったの?」
「……」
その隣に、誰かの影が見えた。
黙り込むFUSHIに、彩葉は追い打ちをかけるかのように告げる。
「見せてよ。ヤチヨの隠してること、全部」
「…人間に耐えられるか、分からない」
「問答無用」
彩葉の考えが変わらないことを察して、FUSHIも覚悟を決めた。元より、彩葉が気づいたのならヤチヨ/FUSHIの記憶を見せようと思っていたのだ。
だから、この沈黙はヤチヨも知らないFUSHIだけの葛藤だった。本当に彩葉に見せていいのか。
しかしFUSHIは約束よりも、不安定な未来を取った。そもそも、FUSHIはあの約束に否定的だったのだ。自分がどう思われているか全然分かっていない朴念仁女なんて知ったことではなかった。
これでダメなら、彩葉もヤチヨも悲しむだろう。だが、上手くいけばみんなで笑える未来が来る。賭けない理由は無かった。
「…そうだな。彩葉は、気づくよな」
「FUSHI?」
「ああ、そうだとも。ヤチヨも僕も、そう思ってた。
「あの子?」
「なぁ、彩葉」
様子が変わったFUSHIを少し不気味に思った彩葉が話しかけようとするが、FUSHIは彩葉の疑問を遮り、質問には答えずに続けた。
「彩葉は、ヤチヨに助けられて、そしてかぐやを助けてくれた。かぐやは、彩葉に助けられて、今度はヤチヨとなって彩葉のことを助けた。そうだろ?」
「う、うん」
「なら」
FUSHIは小さな体で彩葉を見上げる。その瞳には、大粒の雫がいくつも湛えられていた。
「なら、彩葉のこともかぐやのことも、両方とも救ってくれたあの子のことは…一体、誰が助けてくれるんだ?」
「それは、どういう…」
「見れば、分かる! いくぞぉ!!」
「ちょっと!?」
ウミウシの目が赤く光り、レーザー光線のようなものが飛び出して部屋を積み木を崩すようにバラバラにしていく。FUSHIに文句を言おうとしていた彩葉の意識もそれに巻き込まれていった。
『ヤチヨ、どっかにいるんでしょ? 出てきてよ…』
「かぐや!!」
彩葉はあっという間にかぐやの意識と同化して、八千年前の地球へと飛んでいった。
「頼む、彩葉。僕だけじゃ何もできないんだ。全てを知って…あの子を救ってくれ」
気が付くと、かぐやは誰もいない砂浜にいた。
彩葉の歌が聞こえて、地球であったことを全て思い出して、夢魔との約束を守るべく、仕事に邁進して…でも遅刻してしまったから、元気な彩葉のいる時代へとタイムスリップしたはずだった。
しかし、時間旅行は失敗に終わった。隕石とぶつかって故障した宇宙船は誤作動を起こし、どことも、いつともしれない地球へと不時着した。
(誰かいないの?)
声を出そうとしても、体が存在しない。思念体である月人は体を持たない。体を作る機能は宇宙船である『もと光る竹』の機能であり、それが故障している今、かぐやの地球人としての肉体を作り出すことはできない。
(『もと光る竹』、応答して)
反応はない。
(失敗しちゃったな〜。『もと光る竹』、応答して)
反応はない。
かぐやは『もと光る竹』の制作段階で、考えうるありとあらゆるパターンをシミュレーションしたが、超巨大隕石にぶつかって『もと光る竹』の魂保護機能以外の全てが失われていることは流石に想定外だった。
(『もと光る竹』、応答して!!)
反応はなかった。
(そっか。かぐや、消えることもできずにずっとこのままなんだ)
この船のプログラムの設計者はかぐや自身だ。できること、できないこと、故障した今の機能でできること、それら全てを完全に把握していた。
(どうして、なんでこんなことに…彩葉、どうしよう。ドジっちゃった)
その結果として、何もできないことが分かっていた。
(ああ…誰か、誰かいないの…? 彩葉、かぐやはここだよ。ヤチヨ、八千年前から生きてるんでしょ? 出てきてよ…)
かぐやが状況を理解するたび、思考が明瞭になるたび、最悪の事態が起きているということを自覚していく。それに対して何の手立ても打てないということも。
(彩葉、ヤチヨ、夢魔、芦花、真実…)
最後にかぐやに出来たのは──願うことだけだった。
(だれか、たすけて…)
「おっけー」
バチリ、と。
静電気が弾けるような音がして、かぐやの収納されている『もと光る竹』の、目の前の空間が裂けていく。そこから聞き慣れた、しかし聞こえるはずのない声がする。
空間の裂け目から現れた存在が、浅瀬を掻き分け、かぐやの目の前まで歩いてきた。
(え?)
「そんな驚かないでよー。約束したじゃん?」
かぐやにはその人物に見覚えがなかった。
桃色の長髪に、褐色の肌。白目と黒目が逆転した瞳に、人外を表す巻き角と、蝙蝠の羽に矢のような形の尻尾。
見たことがないはずだった。
しかし、かぐやはその人物を知っていた。
「ウチのこと呼んでくれたら、かぐやちゃんのこと迎えにいってあげるって」
かぐやの声に応えたのは、彩葉ではなく、ヤチヨでもなく……
「てかさー」
「なーんで、かぐやちゃんの魂がタケノコの中に入ってるのかな?」
(夢魔!!)
前回のお話では隠しメッセージ?みたいなのに多くの方が気付いたみたいで嬉しいです。感想だけじゃなくここ好きとかでも反応は見れますしね。
で、ちょっと質問なのですが、もしかして前回よりも前に気づいてた方とかいらっしゃいます?いや、ここ好き見て一人は気づいてるなというのは分かったんですが…
正直前回より前に気づかれるとは思ってなかったので戦慄してます。ありがとうございます。
何がとは言いませんが、どこで「声」に気づきました?
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13話(前前々回)
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14話(前々回)
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15話(前回)
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気づかなかった