「百合って聞くと間に挟みたくなるよねw」「分かる〜w」 作:超かぐや姫!沼から抜け出せない人
今回は、感想で真実との話を気にしていた方がいらっしゃったので真実回です。
正直そこは飛ばしてもいいかなーとか思っていたのですが、見たそうな方が一定数いそうな感じだったので書きました。
『どうもー清純系ビッチサキュバスライバーの
清純系がビッチとサキュバスの二つにかかってるから二重否定だぞ(意味不明
今日は何人くらい男食べた?
『今日?今日は三人くらいかな。控えめだねー』
どこがやねん
お前は清純の意味を辞書で調べてこい
『いやいや、サキュバス界隈じゃこのくらいなら十分控えめだよー』
聞いたことない界隈出てきて草
その存在を確かめに、我々はアマゾンの奥地へと向かったーー
『まーウチも他のサキュバスとか聞いたことないけど。でも逆に言えばウチがサキュバス代表、基準なんだよー。だからウチが清純系って言えばそれは清純なサキュバスってわけ』
何という横暴
他のサキュバスから苦情きても知らんぞ
UMA2って男と恋愛できなさそう
『男と恋愛できなさそう?いや、ウチにとって男って食べ物だからさー。逆に聞くけど、皆も食材とか料理に対して恋愛感情とか抱かないでしょ?おんなじだよー』
本当に俺らのこと養分としてしか見てないんだなって思って興奮する
コメ欄がキモすぎる…
「真実ちゃん、何見てんのー?」
「
「ちょ、見ないでってばー!恥ずいっつの」
「照れてる夢魔は珍しいねーかわい〜」
「もう…」
海水浴も無事に終わり数日後。真実は夢魔を誘って普段一人では行きづらい店に来ていた。
今回来たのは、駅から少し離れたところにある、しかも表通りから外れた串焼きの店だ。お世辞にも綺麗とは言えない外装で、内部もカウンター席のみ。店主も悪い人間ではないが愛想が良くなく、女性一人では入りにくい雰囲気をこれでもかと醸し出している。
「それよりいいの? 今日は真実ちゃんの奢りってさー」
「うん、海に行ったときはお世話になったから。普段は彩葉もお世話になってるみたいだし?」
「あは、保護者?」
「気分はそんな感じー。半端な輩に娘はやらん!みたいな?」
「何それ、うけるね」
今日真実が夢魔を誘ったのは、夢魔が海で男を引き受けてくれたことと、あとは共通の友人である彩葉を普段から何かと気にかけてくれていることへの礼のためだ。
もちろんそれだけではない。単純にここの串焼きが絶品なのでたまに食べたくなるのだ。ただ、一人ではあまりにも来づらく、良い機会ということで夢魔を誘ってきた。
「お待ち。もも、ハツ、ぼんじり。こっちはしそチーズベーコン、豚レタス、いかマヨ七味。あとジンジャーエール二つ」
「おー来た来た。シェアしよー」
「おっけー。じゃあウチが半分こにしちゃうね」
目の前で店主が焼いてくれた焼きたての串が二人の前に出される。
女子高生二人がテンションを上げてはしゃぎ始めるが、平日の昼過ぎということもあって店内は貸切状態で文句を言って来る者はいなかった。
真実が夢魔から分けられたぼんじりを齧ると、じゅわっと鶏の脂の旨みが口の中に広がる。人によっては脂が重たいと言われるほどの部位だが、若い女子である真実は何のその。
しっかりと味わって堪能した後、自家製ジンジャーエールを流し込んで口の中をサッパリさせた。
「相変わらずいい食べっぷりだねー。ウチもいただきまーす」
「どんどん食べて〜。私ももっと注文するからさ」
夢魔はしそチーズベーコンに手を伸ばし、一口食べては美味しそうに目を細めている。真実はそんな夢魔を横目に追加で別の串焼きを注文し始めた。
「しかし…ここの串焼きといえば、真実ちゃんとここで会ってからちょうど一年くらい?」
「そうかも。前は夢魔に邪険な態度とってたなー。ごめんね?」
「あは、気にしてないよー。今は仲良いんだしノーカンノーカン」
真実が夢魔に謝る。その口調は軽かったが、言葉に乗った感情は決して茶化していなかった。夢魔もそれが分かっていて、ジンジャーエールを飲みながら笑顔で手を横に振る。
夢魔が許しているとはいえ、当時真実が夢魔をよく思っていなかったのは事実だ。豚レタスを飲み込んだ真実が神妙な表情で顎に手を添えた。
「噂を丸呑みにしちゃダメだっていう良い教訓になったよ」
「まぁウチの男に関する噂はほぼ本当だけどねー」
一年前も今も、夢魔に関する噂は最悪の一言だ。学校にいる男子生徒を残らず食べているだとか、教師が金を払って夢魔に相手を頼んでいるだとか、夢魔の人格を否定するような噂だって多くある。
真実も一年位前はその噂をほとんど信じていた。しかし、今は分かっている。男に関する噂が事実であることと、夢魔がいい子であることは相反することではないのだと。
「私の彼氏に手ー出したら許さんぞー」
「あは、流石に友達の男に手を出したりしないよー。本人から誘われてもこればっかりはお断りだってー」
「逆にもし彼氏が夢魔に手を出そうとしたら私に言ってね〜。そんときは彼氏と縁切るから〜」
「こわー笑」
笑いながら夢魔が追加で来た焼きプチトマト串をぱくつく。
口の中で飛び出したトマトの熱い中身にあたふたする夢魔を見て真実も笑い、一年前にもこんなことがあったなと思い返していた。
「うーん…」
駅から少し離れたところにある表通りの一角で、真実は一人悩んでいた。
今日ここに来た目的は、当然ながらいつものグルメ探訪。グルメ系インフルエンサーである真実は、毎日のように色々なところに出かけては美味しい店を探している。
この辺りに美味しい串焼きの店があると聞いて、先日から付き合い始めた彼氏と一緒に来ようという話になったのだが…彼氏の方は急用で来られなくなってしまったのだ。
真実としても今日は取りやめて、帰るか別のところに行こうかと思っていたのだが、既に串焼きの口になってしまっている。別の串焼きの店にすることも考えたが、せっかくならば新しい場所を開拓したい。
「で、来たはいいんだけど…この先かぁ」
SNSで知り合った別のグルメ友達が紹介してくれた地図は、店が目の前の路地裏の突き当たりにあることを示している。
確かにこれならば知る人ぞ知る、という立地だ。しかし、女子高生が一人で立ち入るにはハードルが高すぎた。
さらに駅から離れていることもあって人通りも多くなく、周辺の壁には落書きも見える。治安がいいとはお世辞にも言えなかった。
「女は度胸、とも言うけど、これは流石に…」
いくらマイペースな真実とはいえ、年頃の少女。相応に危機感はあるし、こういう場所では性犯罪が多いということも知っている。
(やっぱり帰るか…?)
「あれ、諌山ちゃん? 奇遇だねー、どしたのこんなところで」
「げっ…」
どうするべきかとうろうろしていた真実に、後ろから聞き覚えのある声がかかった。
真実が振り向くとそこにいたのは、都立武蔵川高校友達にしたくない女子ランキング堂々一位の女、
「百合中 夢魔……さん」
「あは、めっちゃしかめ面じゃん。見たくもない顔って感じ? まぁそりゃそうだよねー」
(分かってるなら話しかけないでほしいな…)
真実は夢魔のことが相変わらず好きではなかった。夏前に彩葉のアパートの前で出会ってから暫く経つが、その悪名は止まるどころか拡大の一途を辿っている。
彼氏がいる真実としては他人事ではなく、いつか自分の彼氏も夢魔の被害に遭うのではないかと恐れてもいた。様々な噂があるとはいえ、夢魔は絶世の美人だ。女としての魅力では勝てる気がしなかった。
一応、彩葉が言うには男の噂でも寝取り疑惑部分に関しては事実と異なるらしい。とはいえ、それ以外でも普通に不快だし彩葉も仲良くしなくていいと言っている。言われても仲良くするつもりはなかったが。
ただ、最近は彩葉だけでなく、芦花も夢魔と仲良くしていそうな雰囲気があることを真実は察していた。二人でカフェで勉強していたという話も耳にしたことがある。
つい先日初めて出会ったときは芦花も嫌そうな感じだったのに、ここ一ヶ月で一体何があったのか、もしかして脅されてるのかも…と真実は訝しんでいた。
「まー何でもいいんだけどさ。ちょっとそこどいてくんない? ウチ、その先に用事があるんだよねー」
「え、もしかして百合中さんも串焼き食べにきたの?」
「そういう聞き方するってことは諌山ちゃんも? そうなんだよー、あそこの串焼き美味しくてさー」
串焼きの味を思い出したのか、夢魔の頬が少し上気してメシの顔になる。その顔を見て、帰る方に向かっていた真実の考えが変わり始める。
(このまま串焼き屋さんに行くと、一緒にご飯って流れになりそうだったから正直帰ろうかと思ってたんだけど…そんな顔されたら私も食べてみたくなっちゃうじゃん……!!)
罠だ。これは悪魔の罠。真実の心理状態を利用した夢魔の一手。しかし、回避不可能…!
そんな馬鹿みたいなことを考えつつ、しかし食欲には勝てなかった真実は夢魔に一緒に串焼きを食べに行くことを提案した。
「百合中さん、一緒に食べに行かない?」
「え? あー…あのさ、無理しなくていいよ? もしあれだったら、ウチが帰るし」
「そんなこと言ったら私が悪者みたいになるじゃん。それに…正直に言うと、一人で行く勇気なかったから」
「ああ、言われてみれば確かに女子高生が一人で行くのは厳しいかもね。そんじゃ、行こっか」
グルメインフルエンサーも大変だねー、などと軽口を叩く夢魔の後について真実も歩いて行った。どうせなら芦花との関係も聞き出してやろう、と頭に考えを巡らせながら。
「…らっしゃい。なんだ、嬢ちゃんか」
「おひさー」
「え、常連なの?」
「言ってもまだ五回目くらいだけどー」
夢魔は慣れた様子で狭い店内の奥へと歩いていく。そしてカウンターしかない席の一番奥に陣取ると、ポンポンと隣の椅子を叩いて真実を誘導した。
五回目くらいとは言っているが、夢魔が東京に来てからまだ三ヶ月くらいしか経っていないことは彩葉情報で知っている。それを考えれば月一以上のペースでこの店に来ていることは明らかだった。
「はい、これメニュー。おじさーん、ウチはしそチーズベーコンと豚レタス、あとホタテマヨ七味で。飲み物はジンジャーエールねー」
「…いつものな」
真実が夢魔からメニューを渡されると同時に、夢魔はメニューを見もせずに注文した。
店構えにしては若者向けの小洒落た串焼きが揃ってるな、と真実が感心しながらメニューを見てみると、夢魔が注文したような品が一切書かれていないことに気づく。
「あの、百合中さん? 百合中さんが言ったやつ、メニューのどこにもないんだけど…」
「え? うん。だってウチが勝手に言ってるやつだし」
「ええ…」
あっけらかんと答える夢魔に真実が困惑する。裏メニュー的なやつなんだろうかと店主に視線をやると、それに気づいた店主が少しため息を吐きながら答えてくれた。
「…その嬢ちゃんが最初に来たときに、『もっとこういうのないの?』と言われてな…。そんときは何言ってんだこいつ、と思ったんだが、二回目に来たときに出してやったら大喜びされちまって。周りにいた客も面白がって注文して、いつの間にか人気になってたんだ」
「なんか漫画みたいなこと起きてるね」
「メニューには載せてないんだが、その嬢ちゃんとかその話を聞いた客が注文するようになったから、材料はあるんだよ」
「ほえー…あ、私はももとハツ、ぼんじりも。飲み物は百合中さんと同じで」
「あいよ」
真実に事情を話してくれた店主が奥へと入っていき、ジンジャーエールを持って戻ってくる。夢魔がそれを受け取り、片方を真実に渡した。
「ほい、諌山ちゃん。ここのジンジャーエール、シロップ手作りだからめちゃ美味しくておすすめなんよ」
「ありがとう。…ん! ほんとだ、美味しい!」
「でしょー?」
自分が作ったわけでもないのに夢魔がドヤ顔で自慢する。おすすめしてくるだけのことはあり、市販のものよりも生姜の風味がきちんと効いていて、辛口で爽やかな美味しさだった。これなら脂が重くなりやすい串焼きにぴったりだろう。
そうこうしているうちに串焼きができて二人の前に運ばれてくる。
真実は早速自分の分であるもも串に齧り付き、強烈な鶏の旨みと炭火のいい香りに目を輝かせた。
「おいしー!!」
「ね、いいよねここ。ほら、こっちもちょっとあげるよー」
夢魔がしそチーズベーコン串を一口切り分けて真実の取り皿に寄越してくる。溶けたチーズが固まらないうちに口の中に放り込むと、チーズの濃厚な味とベーコンの塩辛さ、そしてそれを包む紫蘇のすっきりとした爽やかな香りが、三位一体の美味しさを真実の舌に伝えてくる。
真実はゆっくりと噛んで味わい、ひとしきり口の中で楽しんだ後に飲み込んで、店主に向けてサムズアップした。店主もそれを受けて無言で同じポーズを返してくる。
引き続き食事を再開するが、注文したどの串も非常に美味で、真実は可能な限りの種類を追加することになった。夢魔から分けてもらった串を自分でも改めて注文してしまった程だ。
メニューに載っている種類をあらかた食べ終え、夢魔のおねだりで作られた裏メニューも制覇した真実は串焼きの味に大満足だった。
そして横でとっくの昔に自分の串を食べ終わってデザートのアイスを食べている夢魔を見やる。
「百合中さん、やるね」
「え、何が? てかそれを言うなら諌山ちゃんのほうが『やる』でしょ。その量の串どこに入ったの?」
真実が夢魔を誉めると、夢魔から困惑気味の声が返ってくる。その視線は明らかに、真実の前に置かれた串捨てに向かっていた。買ったばかりの
真実は夢魔の質問を無視した。食事中は体重のことを考えないようにしているのだ。代わりに更なる質問を返す。
「私は知り合いから教えてもらってこの店を知ったんだけど…百合中さんはどこで知ったの?」
「ウチ? ウチは別に教えてもらったとかないよ。ふらっと歩いてて見つけただけー」
夢魔の言葉に真実は驚いた。こんな辺鄙なところにある店に、情報も無しに一人で入るなど、普通の女子高生はやろうとしない。
おそらく、普段から食事のために色々な店に入っているのだろうということが分かる。その食に対する行動力を真実は素直に尊敬した。
実際には精エネルギーを探して裏路地等の人が寄りつかないところによく行くので、隠れた店を見つけやすいというだけの話である。それに、夢魔は元が男性であることで心理的なハードルが低く、さらに現状は男性に対して無敵なので、普通の女子高生のように躊躇う理由も無かった。
ごく普通の女子高生である真実はそんなことを知る由もないので、勝手に理由を想像していた。
そして同時に気づく。もしかしたら、夢魔はこういうあまり人に知られていない美味しい店を他にも知っているかもしれない、と。
色々と間違った想像だったが、その点に関しては合っていた。
「なるほど…ね、百合中さん。もしかして、こういうお店、他にも知ってる?」
「ん? あーまぁ、知ってるっちゃ知ってるけど。行きたいの?」
「ぜひ!!」
グルメ系インフルエンサーとして、そしてただ美味しいものが大好きな女子高生として、それを知る機会が増えるのは大歓迎だった。数十分前まで夢魔のことをよく思っていなかったことなど都合よく忘れて真実は目を輝かせる。
しかし、夢魔はそれらの店を紹介することに対してあまり積極的にはなれなかった。立地の関係上、治安が良くないところがほとんどなのだ。美少女の真実にそんなところを紹介して行かせれば、どうなるかなど火を見るよりも明らかだ。
「あのさ、言っちゃ悪いけど、諌山ちゃんにそういう店を紹介して、無事に帰って来れるとは思えないんだよね…」
「え?」
「諌山ちゃん可愛いから、悪いお兄さんとかにお持ち帰りされちゃうよ」
「でも、百合中さんは一人で行ってるんでしょ?」
「ウチはほら、知ってるっしょ? そういうことになっても問題ないっていうか」
「あー…」
ここで真実は少し正気に戻った。夢魔も行っているから平気だと考えていたのだが、そういう訳ではなく、夢魔は何かあっても平気だから行っているのだ。
(彼氏と一緒に…いや…どうだろう……)
夢魔に店だけ教えてもらって彼氏と一緒に行くというのも考えたが、夢魔が治安が良くないと明言するほどだ。
一般男子高校生である真実の彼氏は、別に格闘技経験者とかそういうわけでもないし、夢魔の言うような『悪いお兄さん』に対抗できるとは思えない。そもそも彼氏を危険な目に合わせたいというわけでもない。
真実が眉根を寄せて真剣に考えていると、それを見ていた夢魔が軽く笑い、提案を持ちかけてくる。
「あは、悩みすぎでしょ。それなら…諌山ちゃんが良ければ、ウチが一緒に行くよー?」
「…へ?」
予想外のところから予想外の提案が飛んできて、真実は困惑で目を白黒させる。
「自慢になっちゃうけど、ウチを見た男って大抵他にいる女の子が目に入らなくなるんだよね。だから、一緒に行けば諌山ちゃんは安心してご飯食べられるよ?」
「…その、私としてはありがたいけど…なんで?」
夢魔の提案は、真実からすればほとんどメリットしかない。夢魔の言う通りで、いくら真実が女子高生の中で可愛い方に入るとはいえ、彩葉や芦花の美貌すらも上回る夢魔が一緒にいれば、男はそちらに目が行ってしまうだろう。
デメリットといえば、学校で評判が最悪な夢魔と一緒にいるところを他の人に見られる可能性があることだが、夢魔に紹介してもらうような店はおそらくここと同じような、立地も治安も良くない店。店の近くで待ち合わせすれば、学校の知り合いに見られることもないだろう。
しかしだからこそ、夢魔には何のメリットもないはずだった。
「百合中さんにメリットないよね?」
「んーそうでもないんだよね」
真実の予想に反して、夢魔は自身にも関係があると言う。夢魔は食べ終わったデザートに使用していたスプーンを軽く回しながら話し始めた。
「こういうお店ってさー、味は美味しいのにあんま繁盛してないこと多くて。潰れちゃいそうなとこもあるんだよねー」
「まぁ、そうかもね」
「で、諌山ちゃんってグルメ系インフルエンサーじゃん? だから、そこで宣伝してもらえれば人も集まるかなーって。素人考えだけどね」
「…なるほど」
味が良くても店側の工夫が足りなかったり、宣伝が下手で潰れてしまうという店を真実は山ほど知っている。確かにそういった店も、高い影響力があるわけではないとはいえ、自分が宣伝すれば状況が改善する可能性もある。
夢魔の論理は筋が通っていて、少なくとも真実をある程度納得させるくらいの説得力はあった。しかし、それだけではなさそうだと女の勘が告げていた。まだ本当の理由があると。
真実の予想を肯定するように夢魔が言葉を続ける。
「それに…」
「それに?」
おそらくこちらが本命。何を言い出すのか、真実は夢魔の評判を改めて思い出しつつ、少し警戒しながら言葉を待った。
「その……何回もご飯に一緒に行けば、諌山ちゃんとも仲良くなれるかなーって……」
「………」
夢魔が少し照れながら放つその言葉に、真実は無言で固まってしまった。
「彩葉ちゃんとは前から友達だったんだけど、最近は芦花とも仲良くなる機会があってさー。諌山ちゃんたちは結構一緒にいること多いし、できればみんなと仲良くなりたくてー…」
「なんだこの可愛い生き物」
「へ?」
「なんでもない」
身構えていたにも関わらず全然警戒していなかった方向から奇襲を受けた真実は、悪い噂で固まった夢魔への印象が一瞬で揺らいでしまった。
(誰だよこの子を悪女とか言ったの…いやある意味悪女なのか)
これは男にモテる。真実は確信した。
勘でしかないが、このあざとい態度もわざとやっているわけではなく、おそらく天然。そりゃモテるだろうし、女子に嫌われそうだと真実は思った。
彩葉が言うように、男に関する噂はほぼ全て本当なのかもしれないが……少なくとも、そこまで悪い子ではないのだろう、と。
彩葉が夢魔と友人を続けている理由が少しだけ分かったような気がした。
「で、どうする?」
「うん、そういうことなら、百合中さんに一緒に来てもらいたいな」
「ほんと? それなら、案内させてもらおうかなー?」
まだ夢魔に対する情報は足りないし、こうだと判断するには早いだろう。
ただ、これから何回も一緒にご飯に行って、少しずつ理解していったらいい。真実はそう考えることにした。
そうして二人は時々一緒にご飯に行くようになり。
「これは…新しいかも」
「でしょ? 無くなっちゃうのはもったいなくない??」
「確かに。動画で宣伝しておくよ」
新しい店を探索したり。
「これおいしくない…」
「だーから言ったじゃーんそっちはハズレだって。ほら、ウチのやつ半分あげるし。そっちのやつ半分もらうよ?」
「うん…」
出会う料理に一喜一憂し。
「そんときたまたま通りがかってさー」
「なるほどねー」
「芦花ももっと彩葉ちゃんにアタック掛ければいいのに…」
「まぁそこは性格だからさー」
「もどかしいよー」
芦花に対する誤解を解いて、そのまま本人もいないのに芦花の恋愛談義に発展したり。
「全く、ご飯食べてるときに不味いもん飲ませんなって話だよー」
「夢魔…大丈夫?」
「平気平気ー、慣れてるし」
「そっか…ごめんね」
「真実ちゃんも謝んなくていいってー」
そうしているうちに段々距離が縮まり、いつの間にか名前で呼び合うようになっていた。
芦花のときのように劇的な出来事があったとか、かぐやのように生まれたときから近くにいたとか。
そういうことは無く。強いて言えば彩葉と同じように、少しずつ友情を積み重ねていっただけ。
そして一年が経ち…真実と夢魔は、他の二人と同じように親友の一員になっていた。
「ふーお腹いっぱい。ごちそうさま、真実ちゃん」
「夢魔は足りたの? それで。五本くらいしか食べてなくない?」
「いや、それは真実ちゃんが食べ過ぎなだけだから…」
初めてこの店に来たときと同じ様に、真実ちゃんの前にある串捨ては新品の爪楊枝の様にぎっしりと串が詰まっていた。真実ちゃんにお礼を言いつつも、その数の串を涼しい顔で食べてることに対しては正直ドン引きっす…
「ん?」
さらにデザートを注文した真実ちゃんから目を逸らしていると、スマホにSNSからの通知が来る。ロックを解除して中身を見てみると…
「…ふーん」
「どしたの? 夢魔」
「ううん、なんでも。ちょっと夜に用事ができただけー」
「そうなんだ。私も今日の夜はかぐやちゃんに誘われてKASSENやるから早めに帰らなきゃ。夢魔はやらないの? コラボKASSEN」
「KASSENね…。ウチは、パスかな」
「…ま、気が向いたらやればいいんじゃない?」
「そうさせてもらうよー」
KASSENか。KASSENなー…PvEとか、あとは知り合いだけのカスタムとかならいいんだけどね。ランクマに潜るのはちょっとな。
だって俺みたいなチーターが参戦したら、真剣にプレイしてる人たちに失礼だろう?
だから辞めたんだ。再戦したがってた帝アキラには悪いけどさ。相手が男である限り、俺が負けることなんてない。それが現実でも、ゲームでも。
俺はサキュバスとして、男にはより強く淫魔センサーが働く。ツクヨミを介していれば遠距離でも、何をすれば悦ぶかとか、今何をしているかとかが分かる。
ゲームで相手が次に何をしてくるかが分かってしまう、なんて
確かに何も検出はされないだろう。でも、だから何だ? それはチートと何が違うんだ?
皆が真剣に努力して強くなっているのに、一人だけ何の努力もせず、ただ相手のやることが分かるから勝てる。何だそりゃ。面白くも何ともない。手加減して負けることもできるが、結局それも八百長じゃん。
だいたい、対戦相手に失礼だろ。俺だったら絶対ぶん殴ってる。
「夢魔?」
「なに?」
「あ、いや…なんかつまんなそうな顔してたから」
「真実ちゃんは鋭いなー。ちょっと気分良くないこと思い出してただけ」
いかんいかん、今は楽しいタダ飯の時間だ。やっぱ奢ってもらうときの飯が一番美味いわ。もう関わることもないだろうKASSENのことはいいんだよ。
さて、真実ちゃんを駅まで送って、あとは帰るだけだが…さっき、夜中の予定が入ってしまったからな。その時間に備えて仮眠でもしておくか。
【yachi8000:@百合中 夢魔
夢魔! 今日の夜二時くらいに、彩葉のアパートが襲撃されそうだから対処よろしく〜! カラオケとかいう公共の場で襲撃の相談するとかwwww情報セキュリティーがなっていませんなwwww馬鹿どもの集合場所はここURL:〜だから、先制してもいいと思うよ〜。あとはよしなに^ ^】
というわけである。この人マジで怖いわ…もうネット環境から切り離された状況以外で内緒話できないじゃん……
ま、まぁそれは置いておいて。
彩葉ちゃんを襲撃しようなんて、なんて不逞な輩なんだー(棒)。最近遠征行けてなかったから助かります(本音)。
いやーどのくらい集まってくれるかなー! できればたくさん来てくれると嬉しい。わざわざこっちに御足労いただいたお礼として、一年間なにも出なくなるくらいで許してやるよ! いやー俺って優しいな。
じゃ…狩ろうか♠︎
「…あれ、夢魔? いない…」
深夜二時頃。
彩葉は夢魔の部屋で目を覚ました。昨晩はかぐやが芦花と真実と一緒にKASSENで騒いでいてうるさかったので、寝るために夢魔の部屋に避難してきた形だ。
いつも通り、いつの間にかかぐやも隣でぐーすか寝ている。夢魔のベッドはかなり大きく、三人で寝ていても余裕がある。他に横長の机くらいしか物がない夢魔の部屋で、異様な存在感を放っていた。
普段なら、彩葉を挟んで左右を夢魔とかぐやが寝ている。しかし、今日は夢魔がいない。トイレかと思ったが、そもそも部屋にいないようだった。
(…そういえば、エナドリがもう無かったな…起きたついでにコンビニで買ってこようかな。夢魔の冷蔵庫に一時的に置かせてもらおう)
普段ならそのまま寝てしまうのだが、今日は彩葉の目が冴えてしまっていた。このまま寝ようにも眠れそうに無かった彩葉は、夢魔の部屋に置いてあった着替えを着て夢魔の部屋の合鍵を持ち、夜中の街に繰り出すことにした。
ただ、コンビニでエナドリを買うという目的は、外に出るために無意識に考えた後付けの理由だった。
本当は、夢魔が部屋にいなかったことに何となく胸騒ぎがしただけ。
コンビニに向かおうと思いつつも、彩葉は普段見もしないようなところまでキョロキョロと視線を動かしながら歩いていた。
そして。
「…夢魔?」
とある空き地にて。
三十人ほどの男に囲まれた夢魔が、いつも通りへらへらと笑いながら立っているのを見つけた。
オリ主くんちゃんは百合に挟まる男になりたいと思っていると同時に、百合に挟まる男がクズであることも分かっています。なので、センサーが自分を対象にしないとか以前に、「百合に挟まって百合を食おうとか考えてる男と恋愛したい女の子なんておらんやろ」と考えており、そのせいで自身に対する好意に気づきません。
そう、自分が未だに男だと思っているのです。自身が百合のターゲットであることにも気付かずに。
可愛いね。