「百合って聞くと間に挟みたくなるよねw」「分かる〜w」 作:超かぐや姫!沼から抜け出せない人
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誤字報告も助かります!いつも見直してるはずなのにどこから湧いて出てるんでしょうね…
草木も眠る丑三つ時、つまり深夜二時過ぎ。
周辺にあまり人の住む家がない場所にある空き地で、数十人はいるだろう男たちが集まっている。
中でも、一際目立つ格好をした男がカメラの前で何事か声を張り上げていた。
『どうも! 新人歓迎系配信者のタン塩ホッケ太郎です! 今日はね、最近話題のあの新人ツクヨミライバーのおウチにお邪魔したいと思います!』
『とある筋から住所の情報を頂きまして、今回凸するのは……はい! かぐやいろPチャンネルのお二人です!』
忙しない身振りは、後ほど作成する動画につけるテロップでも指さしているのだろうか。
そこに合いの手が入る。
「へー、ランキング急上昇中のあの?」
『そう、かぐやいろPチャンネルといえば、ヤチヨカップが始まってから配信を始めたにも関わらず現在ランキング68位にまで上がっているという大注目ライバーですね!!』
『皆さん思いません? 新人なのに、先輩である俺に挨拶とかないなーって! 俺、そういうのちょっとどうかと思うんだよね!!』
身勝手な言い分を振りかざす。かぐやいろPチャンネルの前に配信していた者など山ほどいるだろうに、その中の売れてない、関わりもない配信者にわざわざ挨拶することなどない。
無論ただの言いがかりであり、これから行われる凶行の前振りに過ぎない。
『そこで今日は、あの可愛らしい顔を涙でぐちゃぐちゃにして謝る様子が撮れたらなーと思います! そのために人数も揃えたんで!』
「それはそれは、面白い企画やってんねー。ウチも混ぜてくんない?」
『もちろん! それじゃ、早速お宅まで移動……え?』
お、やっと気づいたか。さっきから合いの手入れてやってたってのに。
トレードマークらしき赤い野球帽を被った馬面の男がこっちを振り返る。てか位置的にカメラには途中から映ってたと思うんだが、カメラマンの男は何も思わなかったんか?
yachi8000氏の情報で貰った住所の空き地にいたのは、いかにも視聴率が取れていなさそうな迷惑系配信者型竿役ども。
喋ってるやつがチャンネル主なんだろうな。周りの奴らは、暴力役兼おこぼれ目当てかな。そこそこ人数が多い、三十人くらい?
「こんな人数で女の子二人を襲いに行くとか、恥ずかしく…ないんだろうなー。所詮竿役だし」
「なんだお前…?」
今の話してた内容的に、普段からこんなことやってたんだろうなと察せる。表では底辺配信者、裏ではこういう非合法ポルノを撮って売り捌く犯罪者。
かぐやちゃんと彩葉ちゃんが標的になったのはたまたまだろう。強いて言えば、かぐやちゃんの顔がいいのと、彩葉ちゃんも声で女性バレしてるから上手くいけばいい
「おい、動画の邪魔すんじゃ……って、この子めっちゃ美人じゃね!?」
「かぐやいろP行く前にこいつハメときます?」
「いいねー! 景気づけに一発かましときますか!」
俺がカモだと思ったのか、テンションが上がっていく竿役ども。
当たり前といえばそうだけど、こいつらこれから自分たちが餌になるなんて考えてもいないんだろうな…かわいそう(棒)。
まぁ騒ぐのも分からんでもない。人数比一:三十は例え俺が男だったとしても負ける要素ないし。
あと自慢じゃないけど俺多分日本で一番可愛いしな。これに関しては本当に自慢にならないが。
「あのさー…あほみたいなこと考えてるのは良いけど、お前らでウチのこと満足させられんの?」
「おいおい、これじゃ人数が足んねぇってか?!」
「まー、簡単に言えばそうなるね。あと十倍…いや百倍は欲しいかなー。お前らが精の薄い雑魚じゃないことを願うよ」
「…なぁ、こいつ先に殴って黙らせたほうがいいんじゃねーのか?」
「やめろ、どうせそのうち泣き叫ぶことになるって」
「そうだよ、顔が腫れでもしたら萎えるだろ。おいお嬢ちゃん、可愛い顔してとんだビッチだな! どこまでその余裕が保てるか楽しみだよ!」
チャンネル主と思われる…えーと、名前なんだっけ。た、たん……短小包茎太郎? が周囲の馬鹿どもと一緒に爆笑している。いやそんな笑わんでも、俺としては純粋な疑問なんだが…
ちなみに、本当に俺を一度の吸精でパンクさせたいなら、普通の男だったら百倍どころか千倍は人数連れてこなきゃ無理。こっちの許容量がデカすぎて三十人くらいじゃ風呂桶にコップの水入れるようなもんだよ。
お前らが俺をパンクさせてくれるほどの規格外の精力を持ってるってこと? 期待して良いんか?? そんだけエネルギーが集まれば俺も男体化に大きく近づくから大歓迎だぞ。
そんなことを考えていると、男たちのうちの一人が俺を指さす。
「なぁ、その声もしかして…
「お?」
おっと、声で判別できるやつがいたのか。まぁ別に配信のときと普段で声変えてるとかないから気づく奴は気づくかもしれんが。
もしかして
例え養分だったところで、今度は本物の養分にするだけだが。もし本当にあいつらだったら悦ぶだろうしやっぱ問題ないな。
「え、マジで?」
「そういや、UMA2はかぐやの近所に住んでるって…まさか本物か?」
「ああ、知ってる人もいるか。そだよ、ウチがUMA2。お
「は、はは! おい、ツイてるぞ俺ら! かぐやとかいう小物じゃなくて、ファン人数三百万人越えの大人気ライバーの中身とヤってる動画だ! 大金になるぞおい!!」
「企画変更だ! 集まんなかった奴らにも声かけろ!! 神回だぞ!!」
大金に…なるか? 俺が本当に何の力もない美少女だったらそうかもしれんが、申し訳ないけど今から起こるのは性的虐殺だぞ。ある意味神回だな。
あと動画とか残すわけないじゃん。終わったら催眠してお前ら自身に全部消させるよ。
多少エネルギーは使うけど、『動画を全部消す』くらいの単純で短い行動ならどうあっても赤字にはならん。
「アンタは逆に災難だったな! かぐやいろPの近くに住んでなかったらこうしてマワされることもなかっただろうによ!」
「ん? 別にそんなことないけど。むしろ良いことづくめだよ」
短小包茎太郎が馴れ馴れしく話しかけてくる。勝ちを確信してるからだろうか。息臭いから喋んないでくれん?
災難とか言ってるけど、逆、逆。
彩葉ちゃんの近くに住んでるから、お前らみたいなのがわざわざ探しに行かなくても勝手に寄ってきてくれるんだよね。
しかも彩葉ちゃんによる百合形成を間近で見られる。
これを最高と言わずに何というんだ?
むしろお前らの方が災難なんじゃね? 撮る予定の動画は全部消えるし、多分今日から一年くらいは何にも性的興奮を覚えないくらいには俺が搾り取る予定だし、運勢最悪だろ。
まぁ言っても聞く耳は持たないだろうし言わんが。普通ならそっち有利だしな。普通なら。
「おいおい強がんなよ!」
「もう詰んでんだってUMA2ちゃーん!」
「ライバー生活も今日で終わるしな!!」
「カメラでお前のアヘ顔撮ってばら撒いてやるからよ!!」
全く、ちょっと黙ってたら好き放題言いやがって。今お前らが撮ってる動画をあとで俺が貰って切り抜いてyachi8000氏にばら撒いて貰ってもええんやで? 普通に警察にお縄だよ?
近所迷惑レベルでうるさいしさっさと搾るか…と思っていると、ヒートアップした竿役どもがとんでもなくアホみたいなことを言い始めた。
「というか、アンタすげー可愛いんだし、そもそもかぐやいろPもアンタのこと男避けに使ってたりするんじゃねーの?」
「へ?」
「うわー有り得そうw友達のふりして実は良いように使ってるだけ…ってやつ? 女って腹ん中真っ黒だしな!」
「UMA2ちゃんかわいそー笑、俺が慰めてやるよ笑」
「お前に何ができんだよ、ギャハハハハ!!」
彩葉ちゃんが、俺のこと男避けに使ってるだって?? 俺を利用してるって???
…
……ふ
ふふふふ。
「あーっはははははははは!!!!」
な、ま、マジで何言ってんだコイツら!!? やべぇ、おもしろすぎる!!! 竿役やってると脳味噌が精液になって出ていくのか?!?!
くそ、黙って聞いてりゃ死ぬほどおもろいこと言いやがって……流石に笑いが堪えられなかったじゃねーか……!!!
やばい、ツボった。ちょ、ちょっとまって! 今襲われたら手加減できない自信ある!! いつもは加減して吸ってるけど吸い尽くしちゃう!!
だ、誰か俺の笑いを止めてくれ、このままだとコイツら死んじゃうから!!!
ぎゃはははははは!!!!!
彩葉がその場所を見つけたのは偶然だった。
誰かが大人数で騒いでいるのが遠くから聞こえたので、少し覗いてみることにしたのだ。
こんな深夜に
そうして物陰から空き地を覗いた先では、想像の中でも最悪に近い事態が起こっていた。夢魔がたった一人、三十人はいるだろう男たちに囲まれているのだ。
いくら夢魔が普段男を手玉にとっているとはいえ、あの数ではどうしようもない。女子である夢魔は暴力に訴えられたらそれだけで終わりだ。
「下衆ども…!」
しかも話を盗み聞きしてみた感じでは、元々は彩葉とかぐやを襲う予定だったらしい。
夢魔に教えられて以降かぐやもネットリテラシーには気を使っているが、それでも周辺の風景が映ることはある。そこから住所を特定されてしまったのだろう。
つまり夢魔は彩葉たちに巻き込まれる形、とばっちりで被害に遭っているのだ。申し訳なさのあまり心が痛むが、今は緊急事態。それを気にしている場合ではない。
(とにかく、早く警察に通報しなきゃ…!)
幸いスマホは持ってきているし、充電もある。緊急連絡先に警察を登録していないことがもどかしい。顔認証でさっとロックを解除し──
「というか、アンタすげー可愛いんだし、そもそもかぐやいろPもアンタのこと男避けに使ってたりするんじゃねーの?」
手が止まった。
「うわー有り得そうw友達のふりして実は…ってやつ? 女って腹ん中真っ黒だしな!」
「UMA2ちゃんかわいそー笑、俺が慰めてやるよ笑」
こんな奴らの言うことなんて耳に入れなくていい。その筈なのに、彩葉の動きは止まっていた。
何のことはない。男たちの言葉が完全に図星だったからだ。
彩葉が上京した後に夢魔の近くにいたのは、自分に降りかかる難を避けるためだ。
夢魔が男を漁っていることを分かっていてそれを利用した。自分のほうに来ないように。いや、自分に来た男たちすらも夢魔に押し付けるために。
つまりこの状況は、彩葉が作り出したも同然なのだ。
この世は性犯罪が多く、高校生の女子が一人で東京で暮らすのは危険だ。それを彩葉は知っていた。知っていたからこうした。
でも危険なのは、果たして彩葉だけなのだろうか? もちろん違う。程度の差はあるが、夢魔だって同じ筈だ。
いくら夢魔が男の扱いに長けるとはいえ、ずっと無事でいられる保証なんてない。
そんな当たり前のことを、彩葉は今更のように気付かされていた。
(私は──いつかこうなるかもしれないって可能性を無視して、何も言わずに夢魔に…親友に、リスクを負わせ続けていたってこと……?)
足元が底なし沼に沈んだかのような錯覚を覚える。
夢魔は、自分から男を漁ってるから無茶なことはしない
夢魔は、男の扱いに長けてるから問題になるようなことはしない
夢魔は、自分よりもずっと可愛いから男を相手にしても大切にしてもらえる
そんな不確定な想像だけで過ごしてきた。
────本当に。
本当に夢魔は今まで大丈夫だったのだろうか?
実はそんなことはなかったんじゃないか。
彩葉に声の無い助けを求めていたんじゃないか。
既に何度も危ない目に遭って、怪我もして……それでも、彩葉に心配をかけないように笑っていただけなんじゃないか。
悪い想像ばかりが頭をよぎる。
「ぅ…」
通報することも忘れて、彩葉は自分の悪辣さに吐き気を催した。なんて害悪。なんてクズ。
最悪なのは、夢魔に押し付けた自分自身がそれらの可能性を考えてもいなかったということだ。
今のは勝手な彩葉の妄想の話。事実とは異なるかもしれない。
しかし、その全てがあり得た可能性でもあるのだ。
(止めなきゃ)
血の気の引いた頭で考える。
通報はする。しかし、警察がやってくるまで夢魔が無事でいられる保証はない。性暴行だけじゃない、あの人数が相手では最悪夢魔は死んでしまうかもしれない。
(だったら、私が身代わりになってでも時間を稼がなきゃだめだろ…!!)
この一年以上もの間、親友を傷つけ続けてきたかもしれない人間として、せめてもの償いだった。
こんなつもりじゃなかっただとか、こうなるなんて思わなかっただとか。
そういう言い訳を、怪我をした夢魔の、心に傷を負った夢魔の……あるいは、夢魔の
(そんなの、嫌に決まってる…!)
無事に帰れたら、夢魔に全てを話して謝りたい。騙すような形で利用して、危険な目に遭わせていたと。危険である自覚も無かったと。許されなくていい、でもまず謝るのが筋だ。
ただ、今はこの事態を切り抜けなければいけない。そのための一手として彩葉は再びスマホを操作しようとして──
「あーっはははははははは!!!!」
場違いなまでの、夢魔の大笑いする声で再び手が止まった。
「ひゃはは! ま、まって面白すぎる!! お、お前ら、面白いねほんと!! ひ、久しぶりに男相手に、こんなに笑わせてもらっ…あははは!!」
「…あ? なんだ、テメー!!」
「調子乗ってんじゃねーぞクソアマ!!」
夢魔があまりにも笑い続けていることに、男たちは逆に笑いが引いたのか今度は怒り出した。当然彩葉も困惑している。一体何がそこまで面白かったのか。
男たちが大きな怒声を夢魔に浴びせるが、当の夢魔は相変わらず狂ったように笑っていた。
「お、おなかいたい…! ウチの腹筋を割らせて、パーフェクトボディじゃなくするための攻撃ー?! だったら凄い効果的だけども…!! エロ動画配信者とかやめて、芸人に、いや道化になったら? まじウケるんですけど………!!」
「あ、俺らみたいなのの言うことだから信じてないとか? w」
「ビッチサキュバスさんは友情に厚いでちゅねー笑」
「てかアンタも女なら、普段から本音隠して喋ってるだろうにw利用されてんだよお前はw」
それを見た男たちは、夢魔が絶望のあまりおかしくなったと考えて、夢魔に現実を見させるように煽りながら近づいていく。遠目から見ているだけでもムカつくニヤケ面を顔に浮かべて。
「うっせーよハゲ笑。こんなことやってるとやっぱ脳の中身とか髪の毛とかも精液に変換されてる感じ笑?」
「あ゛?」
「あれ、禁句だったかなー??」
しかし、ようやく笑いがある程度治った夢魔が流れるように煽り返したことで表情を引き攣らせて歩みを止めた。代わりにその顔には青筋が浮かび、今にも殴りかかりそうになっている。
夢魔はそれを見ても変わらず笑顔で余裕綽々だった。それどころか、逆にゆっくりと男たちに一歩ずつ近づいていく。
そして、男たちの間違いを指摘する。
「ってかさー…さっきから何なの? ウチが笑ってるのは、お前らの言うことが信じられないとかじゃねーよ。そもそも論点ズレてんのー」
「はぁ? 何がだよ」
「ウチの爆笑ポイントは、お前らがアホみたいな、
何がそんなにおかしかったのか。自分たちの何が間違っていたというのか。
いつの間にか空気を支配され、聞く姿勢になってしまった男たちに対して。
夢魔は仕方がなさそうに、出来の悪い生徒に教えるように、言う。
「とっくに知ってるっつーの。彩葉…いろPちゃんがウチのこと男避けに使ってるなんて」
「────」
物陰で聞いていた彩葉の思考が白く染まる。
「いや流石に気づくってー。小中が一緒なのはともかく、上京して高校が一緒で、部屋が隣なんて。そんな偶然ありえんわ。ふつーに考えれば、いろPちゃんがウチに着いてきたって思うっしょ。で、そんなことする理由なんて一つしかないってわけ」
「な、ならお前は、お前のことを利用してたいろPたちのことを友達とは思ってないってことだろ? はっ、何だよ、仲良しごっこ演じてただけかぁ?」
何とか夢魔の余裕を崩そうと男たちが揚げ足を取ろうとするが、夢魔はそれに対して憐れむように言い放つ。
「お前らは本当に信頼できる親友がいないんだね、かわいそーに」
「はぁ!?」
「良いんだよ、利用したって。親友だから利用したらダメとか、誰が決めたの? それはね、両立することなんよ」
あは、と夢魔がいつものように笑う。笑っているのに、男たちは威圧されたかのように一歩後ろに下がった。いつの間にか、立場は逆転していた。
「てか、ウチに男が集まるのは当たり前のことなんだから、それを利用したからって何? 彩葉ちゃん人を頼るの下手だし、ウチとしてはむしろ自衛できてえらいねって感じー」
「な、何だこいつ…頭おかしいんじゃねーのか?」
「そう? 普通じゃない?」
「お前が言ってんのが本当なら、お前囮にされてたってことだぞ!?」
理解できないものを前にしたことで、男が少し恐怖しながら反論する。それに対して、夢魔は不思議そうな表情をするばかりだ。
止まったままだった彩葉の思考に、夢魔の言葉がスルスルと入ってくる。
「うん。でも、ちょうどよかったかもー?」
夢魔の言葉を聞いて、一つ、彩葉に分かったことがある。
もし本当に夢魔が彩葉の考えを全て知っていて、それでも何も言わずに彩葉と一緒にいたというのなら、それは。
「だって、ウチもいろPちゃんのこと守りたかったし」
「ぁ……」
夢魔が危険を承知で、
「いろPちゃんは、ウチのこと友達だって言ってくれるんよ。こんなクソビッチクズ女のウチのこと。そんな子のためならさー……色んなこと抜きにしても、報いてあげたくなっちゃうじゃん?」
彩葉は夢魔を利用して性被害から身を守ったつもりでいた。でも、真実は違った。
夢魔は最初からそれに気づいていて、その上で自分の意思で彩葉のことを守っていたのだ。彩葉には何も言わず、東京に来てから今までの間、ずっと。
「ぅ…」
彩葉が友達だと言ってくれる。たったそれだけのことが、夢魔にとってはどれほど大事だったのか。彩葉にも痛いほど伝わってきた。
自分はここまでのことをされるほど、夢魔に何かしてあげられていたのだろうか。少なくとも夢魔は、「してたよー」と言うに違いなかった。
「さて、もう遅いし。ちゃちゃっと終わらせますかー」
「な、何をするつもりだ…?!」
「いやお前ら人数多いし、このまま搾るのも時間かかりそうだから本気出そうかなって」
夢魔の雰囲気が本格的に変わる。今まではゆっくりと効果が増していくような威圧だったのが、ここに来て明確に上から降りかかる重圧へと変化していた。
(そうだ、通報!)
彩葉も正気を取り戻す。いつの間にか再びロックがかかっていた画面を再度表示し、迷わず電話アプリを起動した。
「これで…」
「おい、何やってんだ」
「え? きゃっ!?」
110で通話を押す寸前のことだった。物陰から様子を伺っていた彩葉のさらに後ろから野太い声がかかり、腕を引っ張られる。その衝撃でスマホを落としてしまった。
男はそのまま彩葉の腕を引っ張って集団へと近づいていく。
「ホッケ太郎さーん! なんか陰でコソコソしてたやつがいましたよー!!」
「お、お前今までどこ行ってたんだよ…! いやどうでもいい、こいつどうにかしろ!!」
男は動画を撮ろうとしていたタン塩ホッケ太郎が呼んだ用心棒兼竿役の一人だった。その中でも特に体格が優れ、格闘技経験者でもあるため重宝されていた。
「こいつ? お、すっごい可愛いじゃないすか。何すればいいんで?」
「なんでもいい、とにかく黙らせろ!!」
「普通に囲んで殴ればいいんじゃ…? あー、ま、いいや。おい嬢ちゃん。一般人に迷惑かけたくないでしょ? 大人しくしてなよ」
タン塩ホッケ太郎たちが暴力に訴えないのを少し不自然に思いつつも、なんか弱みでも握られたのだろうと考えて男は自分の役割を果たそうとする。
捕まえていた彩葉の首に腕を回し、人質にとったのだ。
「お、おい、UMA2! アンタも他の人間に危害を加えられたくなきゃ大人しくしろ!」
「え、その子UMA2なんすか? まじかよ今日来て良かったー! おら、怪我させたくなきゃその場で膝ついて手を頭に回しな」
タン塩ホッケ太郎が焦って、用心棒の男は呑気に、それぞれ夢魔を脅そうとする。
しかし。
「 は? 」
その行動は、完全に裏目だった。
「はー…」
夢魔がため息を吐くと同時に、頭をガリガリと掻く。
「ゆ、夢魔…ごめん…」
「あのさ」
情けなさのあまり謝った彩葉の言葉を夢魔が遮るが、その呼びかけ自体は彩葉に向けて言ったわけではなかった。
その証拠に、彩葉以外の全員の動きがぴたりと止まる。何か術を掛けたわけではない。
単純な怒気だった。
男たちは夢魔から溢れ出る怒りによって、恐怖で動けなくなっていた。
「ウチはここまで、色々喋って、どんだけその子を大事に思ってるかってのを話したんだけど……」
男たちは別に、捕まえた彩葉のことをいろPだと思っていたわけではない。得体の知れない雰囲気を醸し出している夢魔に対して、牽制として使えればいいと考えていただけだ。
しかし、あまりにも間が悪かった。男たちの今日の運勢は、夢魔が想像した通り最悪だった。
「その子に手を出したら、ウチの逆鱗に触れるとかさ……そういうの、考えられないのかなぁ!?」
彩葉ですら、ここまで怒っている夢魔を見たことがない。初めて聞く本気の怒声は、それが自分には向けられていないと分かっている彩葉ですら青ざめてしまうほどの迫力だった。
「気が変わった」
雰囲気だけでなく、夢魔の姿そのものが変化していく。
白い肌は末端から褐色に。
黒い髪は天辺から桃色に。
瞳は白眼と黒眼が逆転し。
頭からは大きな巻き角が生え。
そして、服を突き破って背中から蝙蝠の翼が飛び出し、腰からは黒い鏃のような先端を持つ尻尾が生えてきた。
固まっていた男たちの表情が恐怖に歪み、涙を流し、失禁する。
「ば、ばけものっ…!?」
「トラウマになるくらいで勘弁してやろうかと思ってたんだけど。やめた」
夢魔の体から薄い桃色の煙が吹き出し、あたりに充満していく。それを吸った男たちは、今の気分に関係なく体を発情させられてしまった。
「お前らは、去勢だよ。二度と性的興奮を感じられないように、そして極度の女性恐怖症になるように体と心を再構築してやる」
「そして覚えておけ」
「ウチ以外のやつが、百合の間に挟まるな」
静かだった空き地に、男たちの汚い悲鳴と嬌声が響き渡る。
しかし十分もする頃には、再び静寂が戻っていた。
「あー、まず…」
夢魔の周囲に男たちが倒れ伏す。ありとあらゆる精を吐き出させられたことで、もう二度と勃ちあがることはなくなってしまっただろう。また今回のことで彼らは女性に恐怖を感じるようになり、今回撮影した動画も過去のものも、全て自発的に消すことになる。
「夢魔!!」
「おっと。大丈夫だった? 彩葉ちゃん」
「こっちのセリフよ!!」
そんな男たちの死骸を容赦無く踏み抜きながら、彩葉が夢魔に突進するように抱きつく。体液で汚れていた夢魔はそれらを即座に吸収し、さらに自分に清浄の術を使うことで彩葉が汚くなるのを防いでいた。
「あー、汚いもん見せてごめんねー」
「そんなんどうでもいい!! ごめん、本当にごめん、夢魔…! 私、今まで、夢魔のこと良いように利用してた…」
「えー? 彩葉ちゃんも聴いてたかもだけど、気にしなくて良いってー。ウチ分かってたし」
「それでも、謝らせてよ。今まで夢魔のこと危険な目に遭わせてたんだって、ようやく分かったの…」
なんとか泣かないように食いしばりながら彩葉は夢魔に謝罪する。自分に非があるのに泣くわけにはいかなかった。
想像していた通り夢魔は気にしていなかったが、彩葉自身が自分を許せなかった。
「ま、見てたならわかるっしょ? ウチ、人間じゃなくてサキュバスなんだよー。だから生きるために人間の精が必要だし、囮もちょうど良かったんよね」
「そう…少しでも夢魔の役に立ってたなら、良かったんだけど…」
「もー役に立ちまくり。今日だって、サキュバスの力を使ったのに収支は大幅プラス! やったねー」
落ち込む彩葉を元気づけようと、夢魔が存在しない力瘤を作る。実際、今回の吸精は夢魔としてもかなりのプラスになった。
ただ今回は男たちの今後を考えず怒りに任せて死の一歩手前まで吸った結果である。いつもは再利用を考えてここまで吸わないのだ。
顔を上げた彩葉に対し、今度は夢魔は揶揄うように言う。
「てか、彩葉ちゃんこそウチが化け物だったことに驚かないの?」
「そりゃ多少は驚いてるけど…宇宙人が同居してるくらいだし」
「それはそう」
「だからそんなに心配しなくても、変わらず夢魔のこと親友だと思ってるわよ」
「んひゅっ」
「ふふ」
不意を突かれた夢魔がどこから出したか分からないような声を発する。彩葉は夢魔が少しだけ不安を覚えていることを見抜いていた。
夢魔が褐色の肌でも分かるくらいには頬を染める。
「このタラシめ。一体何人の女の子を泣かせてきたのやらー」
「それを言うなら夢魔こそ一体何人の男を泣かせてきたのよ…しょっちゅう告白されてるでしょ」
「さぁ? 興味ないしー」
「酷すぎない?」
「だってウチ、女の子が好きなんだよ? 告白されても…って感じだよ」
「え?!」
夢魔のカミングアウトに、彩葉は今日一番の衝撃を受けた。サキュバスで、人間の精を得るために男を漁っていて、でも夢魔自身は同性愛者。頭がおかしくなりそうだった。
(じゃあ、夢魔は好きで男に手を出してたわけじゃないのね……あれ)
どこか安心したように感じる自分がいた。しかしそれも一瞬のことで、すぐにその感覚は無くなってしまう。
そして同時に、彩葉はある可能性に気づく。
「もしかして、私を守ってくれるのって…?」
「いや? それは普通に彩葉ちゃんが友達でいてくれるからってだけだよー」
「あ、そうなんだ…」
もしかして夢魔が自身のことを好きだからなのでは、と考えたのは彩葉は早とちりだった。
彩葉は少しだけ安心した。もし夢魔が自身に好意を持っている、なんてことになったら、今後どう接していいか分からなくなるからだ。
(ッ──?)
ただ、何故か心に棘が刺さったようにも感じた。感覚は消えることなく、ちくちくと彩葉の中に違和感を残していく。
彩葉が不思議そうな顔をしているのを見た夢魔は、それが疲れから来ているものだと受け取った。
夢魔がサキュバス化を解いて彩葉の手を取る。
「さ、今日はもう帰ろう? 彩葉ちゃんも疲れたっしょ」
「あ、うん。そうね…あれ?」
「彩葉ちゃん?」
「ごめん、思ったより疲れてるっぽくて」
彩葉が足を踏み出そうとして、一歩目でよろけてしまう。元々寝ていたところを起きて夜更かししているのだ。そこに様々な疲労を積み重ねられて平気な訳はなかった。
「彩葉ちゃん、立てそう?」
「ちょっと休めば大丈夫だと思う。先行ってて」
「そんなことしないってー」
「ちょ?!」
自分を置いていくように言った彩葉に苦笑し、夢魔は彩葉のことをひょいと持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつである。
彩葉は突然与えられた浮遊感に動揺し、次に自分の置かれた状態を把握して顔を真っ赤にした。
「こう見えてウチ結構力持ちだからー。このまま抱えていくねー」
「は、恥ずかしいて…」
「お姫様は黙って運ばれてなさいなー」
彩葉が羞恥から顔を手で覆っているのも無視し、夢魔はスタスタと帰り道を歩いていく。その歩みに一切のブレはなく、力持ちという自称は本当のようだった。
あまりにも安定しているので、どうせそこまで距離があるわけでもなし、と彩葉は家に着くまで夢魔の好きにさせることにした。
(しかしこうして改めて顔を見ると…この子本当に顔が良いわよね…)
こうして見上げる形になっても、夢魔の顔は絶世の美少女だった。男子に狙われるのも分かるし、サキュバスだと言われればそうかもしれないと納得できるほどの洗練された造形。
その流れで先ほどの、男たちと対峙していた夢魔を思い出す。
あのとき、夢魔はいつになく真剣で、彩葉のために怒っていた。その表情は恐ろしいほどに冷たく…
(…かっこよかったかも)
「彩葉ちゃん」
「ひゃいっ!?」
「あは、何その声。着いたよ」
「あ、ああ。ありがとう」
変なことを考えていたタイミングで声をかけられたので声が上擦ってしまう。それを全力でなかったことにした彩葉は、夢魔に抱えられたまま夢魔の部屋に入る。そしてその状態でベッドまで運ばれ、丁寧に下ろされた。なお、かぐやは呑気に寝たままだった。
「じゃ、おやすみ彩葉ちゃん」
「うん、おやすみ。今日はありがとね」
「ウチのセリフですなー。あ、アレのことは内密にね」
「もちろん」
人のベッドなので先に汗を流したい気持ちもあったが、夢魔が気にしていなさそうなのと、流石に疲労が限界なのもあって、彩葉はすぐに寝ることにした。
横になると思ったよりも早く眠気が彩葉の意識を夢の中へと連れていく。
「彩葉ちゃん」
その直前、夢と現実の狭間で、夢魔の声が聞こえた。
「彩葉ちゃんを恋愛的に好きじゃないって言ったの、一応本当だよ」
言葉の意味を理解する前に彩葉の意識が落ちていく。
ただ、悪い内容ではなかったような気がした。
「今は、ね」
ちなみにオリ主くんちゃんはサキュバスの能力を使えば男相手に無双できますが、別に使わなくても普通の人間相手なら1:30でもそこそこ善戦できます。
吉◯沙織さんクラスはタイマンでも無理です。性別的にも。