「百合って聞くと間に挟みたくなるよねw」「分かる〜w」 作:超かぐや姫!沼から抜け出せない人
で、その反動ですが今回ネタが思いつかなかったので幕間です!ちょっと雑です!
あと、私事で申し訳ないのですがシルバーウィーク中はリアルが結構多忙なのであんま更新できないです。すみません……
でもリバイバル上映やってるし問題ないですね!みなさんこの機会に原作をもう一回見て感動してきてください!!
映画館で見てないよって人はぜひ!劇場の音圧はマジでやばいので!絶対損はさせないので見てください!!
9/19 19時:最後の方に設定の矛盾を見つけたため表現を変更しました。流れは変わってないです。
彩葉ちゃんへの襲撃を無事に殲滅してから数日。
これまでも結構凄かったが、直近ではそれにも増してかぐやちゃんの勢いが止まらない。
芦花と真実ちゃんと組んでのKASSEN配信も大人気だし、つい昨日にはソロライブもやった。俺は関係者ということでめっちゃ良い席を貰ったのだが、周囲を見渡すと満員御礼状態。彩葉ちゃんも狐の着ぐるみを着て伴奏で参加していた。
いやもう…凄かったです(小並感)。こういうライブとか初めて来たんだが、ハマる人の気持ちが少しは分かった気がする。今まで興味なかったけど、俺も今度月見ヤチヨのライブとか応募してみるかな。毎回倍率やばいし当たるとは思えんが。
そういえば、かぐやちゃんには竿役襲撃のことは伝えていない。彩葉ちゃんも、ライブ前にわざわざかぐやちゃんに心配をかけたくないとのことでその日のことは二人の秘密になった。
それにこう言っては悪いが、彩葉ちゃんへ竿役たちが群がるのは今回が初めてではない。彩葉ちゃんが知ったのが初めてというだけだ。流石にここまで大人数で来ることは少ないが、言うて半年に一回くらいはあるしな。
あと、心配かけるのもそうだし、どうやって切り抜けたかを話すには俺の秘密も話す必要がある。俺としては別にどうしても知られたくないってわけじゃないが、知らしめる意味も特にない。彩葉ちゃんも積極的に言わないほうがいいって言ってたし。
まぁもう芦花は先に知ってるんだけど、とか言ったら軽く叩かれた。なぜに。
で、それはさておき。かぐやちゃんの最高のソロライブも見て翌日の今日、俺が一体何をしているかといえば…
「いらっしゃいませ〜♡何名様でしょうかー?」
「あっ、そっ、ふ、二人です!」
「二名様ですねー、こちらへどうぞ〜」
「は、はひっ!」
バイトです。
正確に言えば、彩葉ちゃんが普段勤めているBAMBOO cafeの代打である。もちろん彩葉ちゃんの代打だ。
なぜこんなことになっているか。それはついに今朝彩葉ちゃんが過労で体調を崩したからである。無茶しやがって…
いくら俺が多少手伝っているとはいえ、彩葉ちゃんは元々進学のための勉強と生活費と学費のためのバイトでギリギリのスケジュールを組んでおり、超多忙である。
そこにかぐやちゃんの配信のための無茶ぶりが加わり、さらに芦花や真実ちゃんと遊ぶ時間を作るために睡眠時間を削り、挙げ句の果てにかぐやちゃんのソロライブの準備に練習に伴奏。そりゃ倒れるに決まっとるわ。
朝起きたら、隣で寝ている彩葉ちゃんの顔が赤いんだよ。で、起きてぼーっとしている彩葉ちゃんを少し触ってみたら案の定熱い。
俺の部屋には体温計が無い(人外だから風邪ひかない)のでかぐやちゃんに彩葉ちゃんの部屋から持ってきて貰い、38℃もあったので強制的に休養させた。寝てろ。
それで、勉強はともかくバイトは他の人に迷惑がかかってしまうと言うので、看病をかぐやちゃんに任せて、俺が急遽シフトに入ったというわけである。
今日は開店から十八時ごろまでシフトらしいので、連絡だけ彩葉ちゃんにして貰ってさっさと向かった。バイト先は何度か彩葉ちゃんを冷やかしに行ったことがある関係で知っているので迷う要素はなかった。そこそこ近いしな。
店長からある程度仕事を教わり、カフェの制服に着替えて仕事を開始した。彩葉ちゃんの制服を借りようかと思ったのだが、ちょっと一部がキツくて入らなかったのでゲスト用のやつを借りた。やっぱデカいと邪魔なだけだな…
「ご注文はいかがなさいますかー?」
「ブレンドホットショート、あとアイスラテトール」
「かしこまりました〜♡」
「うおでっっっ」
仕事自体は普通の飲食店という感じだ。今世では
何で金に困ってないんだろうね。不思議。なんかキモい自称養分のコメントが頭に浮かんだが、気のせいだろう。
「なぁあの店員さん…」
「めちゃくちゃえっちだよな…」
「デカすぎんだろ…」
ここの利用者は男性も女性も半々くらいのようで、俺に刺さる視線の種類も半々くらいだ。もちろん半分は性的な、もう半分は嫌悪の視線だ。
「ちょっと、どこ見てんのよ!」
「いでっ、ごめん!」
カップルに関しては普通にごめん。別にサキュバスの能力を使っているわけではないのだが、単純に俺の顔と体が基準よりだいぶ上のせいで喧嘩に発展しそうになることがある。ま、まぁ今日だけだから許して。
俺以外の店員さんは皆忙しさに慣れっこのようで、テキパキと仕事を進めている。当たり前だが俺が一番仕事が遅いな。申し訳ないけど、彩葉ちゃんの代わりと言うには力不足か。
と思ったのだが、後から聞いてみたら今日はいつもより忙しくなっていて、俺も十分戦力になっていたらしい。どうも俺のせいで男性客が増えていた模様。自分で仕事増やしてちゃ世話ねーな。
SNSで『エロすぎるカフェ店員』とかタグつけられて拡散されてたらしい。ウケる。そいつ今日限定だよ。
ただ、それ普通に盗撮だからね? 俺はともかく、彩葉ちゃんとかにやったらyachi8000氏に出てきてもらうのも吝かじゃないからね? お覚悟を。
「みおちゃんセンパーイ。ウチがお料理持ってくんで注文取りお願いしまーす!」
「おっけーです!」
彩葉ちゃんから話を聞いていたみおちゃんという子だが、別に仕事ができないわけじゃない。ただドジってとんでもないことをやらかすことがあるので注意してという話だった。
で、超人の彩葉ちゃんならともかく、新人の俺にはフォローとかできないので、出来るだけドジをやっても大事にならないことを担当していただいた。新人が口出して申し訳ないけど、俺のフォローのためということで勘弁してください。
そんな感じで仕事を回していたが、俺にも得意分野が一つある。これに関しては他の追随を許さないと思う。
「ねー店員さーん、ハンバーグに爪楊枝が入ってたんだけどー?」
「え、ええ? このお店では爪楊枝を置いてないんですが…」
「ああ?!」
「ヒィ」
そう、クレーム対応(男限定)である。クレームと言っても色々あり、ガチでこっちが悪いような事例から、話せば分かる事例、そして今回のようにくっそ迷惑な
ただ、俺なら相手が男である限りどんな内容でも対処できる。
今回は一番楽な部類だな。奥でちょーっとお話しすればいい。
「みおちゃんセンパーイ、交代、交代。ウチが殺っとくから、別のとこお願いしまーす」
「あ、うん…」
「なに、キミがお詫びしてくれんの?」
「ヒュー、可愛いじゃん、期待していいよね?」
「まーご想像にお任せしまーす。じゃ、ちょっとこっちまで来てくださーい」
「いいねーどこ連れてってくれるのかなァ?」
三分後、裏から出てきた男たちは全員顔色を真っ青にし、目を虚ろにして出てきた。で、みおちゃんセンパイに土下座して謝った後、注文したものを十回買えるくらいの金を置いて帰って行った。けっ、早漏のゴミどもが。どうせなら有金全部置いてけや。
「もう二度とくるなよー」
「百合中さん、すごい…!」
「ウチ、ああいう輩の相手得意だからさー。他の仕事で助けられてる分、そっちは頼ってー」
「うん、ありがとう!」
いい子だね、みおちゃんセンパイ。歳は下だけど。
この後も無難に仕事をしていったが、クレーマーが来たときは俺に対処を任せるという流れが出来上がっていた。女性はサキュバスの力効かないからやめて欲しかったが…そこは前世の経験でなんとかした。
てかこの店クレーマー来すぎだろ。彩葉ちゃんかわいそう(かわいそう)。こんなところで激務してたら体も壊すだろ。
夜のピーク時間が来る前には終業となり、どうにか彩葉ちゃんの代打を終えられた。いや大変だなこれ。話に聞くのと実際にやってみるのは大分違うというか…もっと彩葉ちゃんを甘やかさなきゃと思った(使命感)。
帰ったら彩葉ちゃんもすっかり良くなったようで、顔色が戻っていた。良かった良かった。
途中で芦花や真実ちゃんもお見舞いに来たらしく、そこそこ楽しく過ごせたらしい。リフレッシュもできたなら幸いである。
で、寝て休んでる間にかぐやちゃんと二人で色々と話したらしいのだが、引越ししたいという話がかぐやちゃんから出たとのこと。
いいんじゃね? ここ、かぐやちゃんと二人で住むには狭いだろうし。
彩葉ちゃんもいつまでも俺の部屋で勉強したり寝たりするの嫌でしょ多分。かぐやちゃんの配信道具を置く場所も要る。
しかもここ住所バレしかけてるし、セキュリティーもカスだしな。お金の問題はあるが、かぐやちゃんがふじゅ〜投げられまくってるから多分大丈夫だろう。
てなわけで、俺としては引越しに賛成。今までは資金の問題があって出来なかったけど、本来なら安全第一だからね。
あ、保証人の問題があるか。…ま、そこは彩葉ちゃんが頼ることを覚えれば選択肢はあるでしょ。
最悪、俺が孤児院の院長を昔のことで脅してもいいしな。
そんなこと考えてたら、かぐやちゃんが俺も一緒に住もうとか言ってきた。そうはならんやろ笑。
目覚ましが鳴る前に彩葉がスマホに手を伸ばしてアラームを止める。
時間を確認すると午前六時五十分。今日は夏期講習もなく十時からバイトのため、朝は勉強してから向かおうと思っていた。
(あれ…?)
そう考えていたはずなのだが、何故か体がうまく動かない。頭も寝起きだというだけでは説明がつかないほどぼんやりしている。
「ん…? 彩葉ちゃん、おはよ」
(
彩葉の身動ぎに反応したのか、隣で寝ていた夢魔が起きたようだ。彩葉も挨拶を返そうとしたが、口から出てきたのは掠れた吐息のみ。
「んん〜? なんか、顔が赤いねー」
夢魔が片手を彩葉の首筋に当ててくる。体温の高い夢魔の手は触れたら温かいはずなのだが、彩葉は少し冷たく感じて、それが気持ちよかった。
彩葉の体温がじんわりと夢魔の掌を温め、その温度が彩葉と同じくらいになったところで夢魔は手をどけた。そしていつものようにへらりと笑う。
「彩葉ちゃん…風邪だね、これは」
「えっ」
今日の彩葉の行動計画が全て崩れた瞬間だった。
「彩葉ぁ、死んじゃったらやだ〜!」
「し、死にやしないよ大袈裟な…」
「そうそう、ちょっと疲れが溜まっちゃっただけだと思うよー。でも、だからこそここから無理しちゃダメだからね」
「はい…」
夢魔がかぐやを起こし、慌てふためくかぐやを宥めて彩葉の部屋に体温計を取りに行かせた。
体温計で測った彩葉の体温は38℃。これならと起きあがろうとする彩葉を、夢魔が威圧感を感じる笑顔で押し留めた。
「でも、流石に悪いって…」
「あは、これでも飲食店バイトの経験あるから大丈夫だってー」
夢魔に無理をしてはいけないと止められたが、彩葉としてもバイトを休むのは店に迷惑がかかってしまうので出来れば休みたくない。
そこで、今日は夢魔が彩葉の代わりにシフトに入ると言い出したのだ。
「かぐやもやってみたい!」
「あんたはダメ」
「何でー!?」
「当たり前でしょ……まぁ、夢魔が大丈夫って言うならそうかもしれないけど…ほんと、ごめん。今度なんか埋め合わせするね」
「期待しないで待ってるよー」
社会経験のない宇宙人の戯言を一蹴した彩葉は、結局夢魔の提案を受け入れた。
夢魔はくだらない見栄を張る人間ではないので、経験があるのはおそらく本当のことだろうと彩葉は判断した。それならば、バイトを休んで確実に迷惑をかけてしまうよりも、友人であり埋め合わせも融通が効く夢魔に一時的に凌いでもらったほうがいい。
「こんなとこかな?」
「うん、後は店長から聞いて」
「じゃー行ってくるね、彩葉ちゃん」
「お願いね」
「かぐやちゃんは、彩葉ちゃんのこと看病してあげてねー」
「まかせんしゃい!!」
「彩葉ちゃんが寝られるように、静かにね」
「あ、うん」
BAMBOO cafe特有の注意事項をいくつか彩葉から聞いた夢魔は、軽くかぐやに注意してからバイトへと向かっていった。
夢魔が立ち去った後、彩葉が大きなため息をつく。
「はぁ…」
「どしたの彩葉? しんどい?」
「体もしんどいけど…精神的に、ね」
彩葉が感じたのは、「また夢魔に頼ってしまった」という罪悪感に近いものだった。
普段から部屋を貸してもらったりかぐやの面倒を見てもらったりと世話になっている。それに、夢魔は彩葉のボディーガードじみたこともやっていたと先日判明していた。
それに加えて、今回の助力。母に知られたらまた説教が飛んでくるに違いなかった。
体調を崩してメンタルも弱くなってしまっているのか、自分の悪いところばかりが目につく。頭に母の言葉が浮かんだ。
『この世で頼れるんは自分一人や言うたよな? もう忘れてしもたん?』
『体調管理は全ての基本や。ここで躓くやつはどんな阿呆よりも下や』
(お母さんは、正しいよ)
彩葉の母である酒寄紅葉は、彩葉にとって完璧な人間だった。目標でもあった。そうなりたくて、でも足りないところだらけで。だから、彩葉は家を出て、母の足跡をなぞることにした。母と対等に向き合いたかった。
しかし現実は甘くなく、彩葉の持てる力を出し尽くして、さらには夢魔の力も借りているというのに、この始末。自分が情けなかった。
「何で彩葉は、そんなに一人で頑張らないといけないの?」
そう問いかけてくるかぐやに、彩葉はぽつぽつと話し始めた。幼い頃に亡くした父の話、彩葉よりも先に家を出た兄の話、変わってしまった母の話、押しつぶされそうになった彩葉自身の話。
「宇宙人調べでも、そのお母さん激ヤバだよー」
「…っふ」
「どしたの?」
「いや…なんか言い方が夢魔っぽかったなって」
「激ヤバー! 宇宙人じゃない夢魔でも同じこと言うって!!」
「ふふ…」
ヤバいを連呼するかぐやに、夢魔はそもそも人間じゃないけどね、と言うのは流石に飲み込んだ彩葉だった。それに、他所から見たら自分もおかしいと言っていただろうなと彩葉も思った。
「かぐやには…」
「え?」
続きは言葉に出さなかった。出したくなかった。
ご飯持ってくるね、と返したかぐやが台所へと駆けていき、慎重にお盆を持って帰ってくる。自分では絶対に作らない手の込んだ卵おじやを美味しくいただくと、すぐに眠気が襲ってきた。
眠る寸前、自分の代打でバイトに向かっていった友人の顔が浮かぶ。
(もし夢魔に同じことを話したら…なんて言ったかな)
彩葉の脳裏に、激ヤバじゃん、とドン引きする夢魔を思い描いて、かぐやと反応一緒だなと苦笑しながら彩葉は眠りについた。
彩葉が昼過ぎに起きたときには、熱も下がってすっかり復調していた。
ちょうどかぐやは買い物に出ていたようで、お見舞いに来た芦花と真実に合流して一緒に帰ってきた。そしてもう勉強を始めていた彩葉に仰天し、芦花たちと協力して強制的に机から引き剥がして布団に寝かせた。
「ってことがあってね…」
「あは、そりゃそうなるよー。彩葉ちゃんが悪いねー」
「まぁそうなんだけどさ」
彩葉が元気になったことを確認した芦花たちは既に帰り、代わりにバイトを終えた夢魔が戻ってきたところだった。かぐやは彩葉に配慮し、夢魔の部屋で配信をしている。
「配慮するならそもそも一日くらい配信やめればいいのに…夢魔にも迷惑かけてるし」
「いいよーそんなこと。かぐやちゃんも今大事な時期だしねー」
実際、かぐやはソロライブを経てまた順位が伸びている。集まったファンを確実に自分のものにするため、また集まっただけの人をファンにするためにも、今は動かなければいけない。彩葉にもそれが分かっているから、強く反対はしていなかった。
「しっかし、彩葉ちゃんはいつもよくあんなお客さんたちを捌けるねー。ウチはいっぱいいっぱいだったよ」
「でも、さっき店長たちから凄い助かったってメッセ来てたし、よく動けてたんじゃないの?」
「えー? 嬉しいなー。ま、でもお世辞だと思うよ。ウチに出来たことなんて、せいぜいクレーマー対応くらいだしー」
(それが一番大変だから店長たちも褒めてるんだと思うんだけど…)
彩葉のバイト先のチャットグループには、彩葉への気遣いの言葉と、夢魔が非常によく頑張ってくれたことへの礼が書かれていた。何なら夢魔も雇いたいくらいだと割と本気で書かれていて、彩葉はやんわりとお断りの返事を書いていた。
「でも、彩葉ちゃんも元気になって良かったよ。凄く酷い熱ってわけじゃなかったけど、やっぱ心配だからさー」
「この度はご心配をおかけして誠に…迷惑も…」
「ダッツ奢ってもらったし、ウチはこれでいいよー」
今回のお詫びとしてかぐやが買ってきた高級アイスを頬張りながら夢魔が笑う。どう考えても今日一日のバイト代と釣り合っていないが、夢魔がこれでいいと譲らなかったのだ。
「自分だと買わないしね高いアイス」
「それは分かるけど…」
「おいしー! やっぱダッツはストロベリーが至高……あ」
夢魔の声に彩葉が視線を向けると、スプーンから滑り落ちたアイスが夢魔の胸元に落ちたところだった。
薄い部屋着は首元が大きく開いており、落ちたアイスは夢魔の豊かな谷間を白く汚した。それが妙に艶かしく、彩葉はサッと視線を逸らした。
「うひゃー冷たっ。彩葉ちゃん、ティッシュない?」
「あ、ああ、これ」
「ありがとー。ん? 彩葉ちゃん、なんか顔赤くない? 熱ぶり返した?」
「いやそんなことは…」
ない、と言おうとした彩葉の目の前が夢魔の顔で埋まる。夢魔が眼前まで近づいてきたのだ。元々彩葉の顔が赤くなったのは色っぽい夢魔の姿を見たせいだったので、余計に頬に血が昇っていく。
「ん…」
「!?」
「熱はないみたいだねー」
こちん、と夢魔の額が彩葉の額と合わさる。夢魔は額の温度に感覚を集中するために目を閉じているが、彩葉の方は夢魔の綺麗な顔が眼前いっぱいに広がったことで混乱していた。彩葉が咄嗟に後ずさって距離を取ろうとする。
「ゆ、夢魔?!」
「あ、ちょっと危ないってー?」
「きゃっ!?」
しかし狭い室内で距離を取れるはずもなく、彩葉はあえなくバランスを崩した。幸い後ろは布団だし、元々座っている体勢だったのでそこまで痛くはないだろうと彩葉が衝撃に備える。
だが、想定していたような衝撃は訪れず、代わりに柔らかいものに頭が包まれた。
「セーフ。彩葉ちゃん大丈夫?」
「…!?」
彩葉の下から夢魔の声が聞こえる。
真っ暗な視界で自分が何を下敷きにしていたか理解し、彩葉は床に両手をついて急いで体を起こした。すると、ちょうど彩葉が夢魔を布団に押し倒しているような構図になってしまった。
「な…えっと、その!これは違くて…!」
「え?」
焦りが極まった彩葉が言い訳をしようとするも、夢魔は何も分かっていなさそうな表情でポカンとしている。同性の友人とはいえ、押し倒されているというのに。
一人で意識しているような気がして彩葉は恥ずかしくなった。同時に、謎の怒りを感じた。
(この子…私に何かされるとか思ってないんだろうか。思ってないんだろうな)
「彩葉ちゃん? どしたの?」
少しイタズラしてやろうか。彩葉の心にそんな子供のような感情が湧いてくる。その行動の源にあるのが何なのかを全く理解しないうちに、彩葉は夢魔に手を伸ばそうとして…
「たっだいまー!! あれ、彩葉何してんの? もしかして二人で遊んでた? かぐやもまぜろー!!!」
「ぐえー!?」
「おわー」
夢魔の部屋から戻ってきたかぐやが上から二人を押しつぶしてきたことで全て有耶無耶になった。
一応さっきまで病人だったんだけど、という彩葉の文句は、直前の自分自身の行動を思い返して喉奥に飲み込んだ。
「へー、引越し? いいんじゃない」
「だよねー! ここ狭いし!」
「喧嘩売ってんのか…」
三人で夕食を食べた後、話題は彩葉たちの引越しに移っていた。元々かぐやと彩葉が二人で生活するのは無理があったし、最近彩葉たちを目的とした襲撃未遂があったばかりである。ここに住み続けるのは難しかった。
以前は資金という壁があったが、それもかぐやの稼ぎにより解決し、引越しは現実的な選択肢になっていた。
「かぐやはねー、ここがいいなーって思ってんの!」
「どれどれ…タワマンじゃん。家賃三十五万円だってー。ここの十倍くらい? ウケるね」
「今のかぐやならヨユーですから!」
「あのね…こんなとこ住んだら人間おかしくなるって」
「いやー、ウチはいいと思うよ? 少なくともここに住んでるよりは」
「ぐ…」
彩葉がかぐやに反論するが、夢魔はかぐやの意見に賛同する。その目はキッチンと部屋が隔たれてすらいないこの狭いワンルームを見渡していて、あまりの正論に彩葉は言葉に詰まった。
「そ、それをいうなら夢魔だって同じでしょ」
「それはそうなんだけど…ウチはほら、
「う…」
「?」
その色々というのが夢魔の秘密を指しているのは明白だった。彩葉は既に聞いているが、夢魔は精エネルギーさえあれば食事も睡眠も必要ない。極論、部屋がなくても生きていけるのだ。人間として生きるための様々な手続きのために住所が必要なので部屋を借りているだけとも言える。
「ま、彩葉ちゃんもずっとウチの部屋借りてるの、ちょっと良く思ってなかったっしょ? ちょうどいい機会なんじゃない?」
「…あ」
「あ! そうじゃん、引っ越したら夢魔に手伝って貰えなくなる!」
「あは、別に凄い遠くに行くわけじゃないだろうし、言ってくれればウチが行くよー?」
「でもやっぱ今までどおりとはいかないし! どうしよー」
そこまで言われて初めて、彩葉は引越ししたら夢魔と離れることになることに気づいた。
彩葉は夢魔に迷惑をかけていた自覚があるので、本来ならもう夢魔の手を煩わせずに済むことに喜ぶべき場面だ。
(なんでだろ…夢魔が隣にいなくなるの、やだな)
だが、夢魔に迷惑をかけなくなることを喜ぶよりも、彩葉の内心は夢魔が隣にいなくなることを悲しんでいた。
最近ではもうかぐやと夢魔が隣で寝ていることが常態化していて、それを嫌に思っていなかった。
それがなくなって今まで通りになることに、彩葉はむしろ息苦しさを感じていた。
「あ、いいこと思いついた!」
「あんまいい予感はしないけど…言うだけ言ってみな」
彩葉が自分の感情に困惑している横でギャーギャー騒いでいたかぐやが何かを閃いたようだ。こういうときのかぐやがまともなことを言い出したためしはないのだが、自分の心から一旦目を背けるために、彩葉は無意識にかぐやの話の続きを促した。
しかし、かぐやの提案は珍しく彩葉にとっても良いと思えるものだった。
「夢魔も一緒に引っ越せば良いんだよ! 夢魔、かぐやたちと一緒に暮らそ?」
「そうはならんでしょ笑」
「…!!」
彩葉は天啓を得た気分だった。自分では絶対に思いつかなかった意見を聞いて、彩葉は素直にこいつ天才だな…と思った。
夢魔は冗談だと思って笑っているが、かぐやは大抵の場合いつも本気だ。そしてあまりそういう事態になることはないが、夢魔が彩葉の押しに弱いというのは感覚的に分かっていた。
それを好機と見た彩葉が夢魔にたたみかける。
「…いいかもね」
「彩葉ちゃん?」
「いちいちかぐやが夢魔を呼びつけるのもおかしな話だし。近くにいた方がやりやすいでしょ、
「まー…それはそうかも?」
色々、の部分に彩葉は含みを持たせた。かぐやには配信のサポートという意味で伝わっただろうし、夢魔には彩葉たちのガードのやりやすさという意味で伝わっただろう。
当然ながらそれを察知した夢魔は、曖昧ながらも頷く。実際近くにいた方が夢魔にも都合がいいことは間違いないからだ。
かぐやは夢魔の返事を聞いて即座に話を進める。
「なら決まり! 引っ越すときは夢魔も一緒にいこ!」
「うーん…二人がそれで良いならウチはいいけどー」
「まぁ、保証人とか見つかってからの話だけど。あ、家賃は折半ね」
「そりゃもちろんだよー」
彩葉が何とも思っていなさそうなのを見て、夢魔も不思議そうにしながら納得した。
夢魔的には、まだ二人の関係構築の時間ではないか? と考えて間に割り込むのを遠慮しようとしたのだが、邪魔しなければいいかと思い承諾していた。
夢魔の淫魔センサーが、女性から自身へと向けられる感情にも反応すれば、また違った対応になったかもしれない。
しかし、夢魔の淫魔センサーは女性から向けられる感情には反応しない。そのため、夢魔もかぐやの純粋な好意だけを感じて了承した。彩葉の微妙な感情の機微までは見えなかった。
ただ、センサーが機能していたとしても、彩葉が自身の感情をまだ明確に出来ていないような現状では反応したかはわからないが。
「よろしくね! 夢魔!」
「今後ともよろしく〜」
近くにいれば魂の形すら見える淫魔センサーを信じ切っている夢魔は、何も疑わずにかぐやに笑い返していたのだった。
その隣でじっと夢魔を見つめる彩葉の視線に気づかずに。
オリ主くんちゃんの淫魔センサーは色々と読み取れますが、対男の方が感度が高いです。また、距離によっても減衰します。目の前にいれば魂の形まで見えるみたいな感じですね。
ネット上でも男相手なら自分に向かう感情がある程度わかります。KASSENとかのゲームなら、見える範囲にいる相手ならほぼ何してくるか分かります。なので、対戦ゲームでも男が相手ならほぼ無敵です。