第十三の主従   作:知人

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第十二話 見られるということ

 

朝。

窓の外は、昨日までの雨が嘘みたいに晴れていた。

病室の窓から差し込む光が、白い床の上に細長い四角形を作っている。

トウジは、その光をぼんやり眺めていた。

目が覚めてから、もう二十分になる。

身体に痛みはない。

左腕も、見た目だけなら以前と何も変わらない。

指を握る。

開く。

もう一度握る。

普通だ。

少なくとも、目で見る限りは。

けれど。

――普通ではない。

それだけは分かっていた。

「……またやっとるな」

頭の奥から声がした。

バルディエルだった。

トウジは眉を寄せる。

「何がや」

「左腕を確認している」

「そら確認するやろ。お前がおるんやから」

「私がいることと、腕を確認することに関係があるのか?」

「大ありや」

少しだけ間が空く。

「……そうか」

バルディエルは、それ以上言わなかった。

以前なら、その沈黙を不気味に感じていた。

今は違う。

そこにいる。

それだけだ。

常に頭のどこかにいる。

声が聞こえる時もあれば、声ではなく「そこにいる」という感覚だけが残る時もある。

それが、トウジにとっての新しい日常になりつつあった。

だが。

昨日から、一つだけ違う。

誰かに見られている。

その感覚だけが消えない。

病室の扉を見る。

閉じている。

窓を見る。

誰もいない。

監視カメラ。

そこには、いつもの小さな赤いランプ。

「……あれか?」

「何がだ」

「監視カメラ」

「NERVの施設なら、監視されるのは当然だろう」

「……それは分かっとる」

トウジはベッドから足を下ろした。

床に足が触れる。

少し冷たい。

立ち上がる。

身体に異常はない。

そのまま監視カメラの正面に立った。

赤いランプが見える。

トウジは、じっとそれを見た。

「……見とるんか?」

当然、返事はない。

それでも。

ほんの一瞬。

カメラの向こう側から、何かが返ってきたような気がした。

トウジは目を細める。

「……今の」

「どうした」

「いや」

もう一度見る。

何もない。

「……気のせいや」

そう言った瞬間。

頭の奥で、バルディエルが低く呟いた。

「違う」

トウジの表情が変わる。

「……何や」

「今、こちらを見ていた」

「カメラがか?」

「違う」

バルディエルの声には、いつもとは違うものが混じっていた。

警戒。

トウジは息を止める。

「誰や」

「分からない」

「お前でも分からんのか」

「分からないから、警戒している」

トウジは黙った。

やがて、ゆっくりとカメラから視線を外す。

「……そうか」

その声は小さかった。

病室の外から、足音が近づいてくる。

トウジは反射的に振り返った。

扉が開く。

「おはよう、トウジ君」

葛城ミサトだった。

片手に紙袋を提げている。

「今日は元気そうね」

「おかげさんでな」

「それはよかった」

ミサトは笑った。

だが、その笑顔は長く続かなかった。

トウジが監視カメラを見ていたことに気づいたからだ。

「……何か気になる?」

「別に」

「そう?」

「ただのカメラやろ」

「そうね」

ミサトはそれ以上追及しなかった。

紙袋をテーブルに置く。

中から飲み物と簡単な食事を取り出した。

「朝ご飯。病院食だけじゃ足りないでしょ?」

「助かるわ」

「まだ完全復帰じゃないんだから、食べて寝て、ちゃんと休むこと」

「分かっとる」

ミサトは椅子に腰掛けた。

トウジもベッドに座り直す。

しばらく、二人の間に沈黙が落ちた。

昨日までなら、ミサトが何か質問していた。

だが今日は違う。

何も聞かない。

それが逆に気になった。

「……葛城さん」

「なに?」

「昨日の話や」

ミサトの目が少しだけ細くなる。

「観測室のこと?」

「そうや」

「何か思い出した?」

「いや」

トウジは首を横に振った。

「逆や」

「逆?」

「思い出せへんことが、増えた」

ミサトは黙った。

トウジは自分の左腕を見る。

「昨日、あの数字見たやろ」

「……3:17?」

トウジが顔を上げた。

「知っとるんか」

「あなたが気にしていたから」

「それだけか?」

ミサトは答えなかった。

その沈黙だけで十分だった。

トウジは小さく息を吐く。

「やっぱり、NERVでも分かっとらんのやな」

「分かっていることもあるわ」

「どこまでや」

「それを私が話していいかどうか、まだ決められてない」

「……なるほどな」

トウジは紙袋から飲み物を取り出した。

蓋を開ける。

一口飲む。

「ほんなら、一つだけ教えてくれ」

「何?」

「俺は……監視されとるんか?」

ミサトの手が止まった。

ほんの一瞬。

それだけだった。

だが、トウジには分かった。

「……監視されてるわ」

ミサトは嘘をつかなかった。

「NERVのパイロットだから?」

「それもある」

「他にもあるんやな」

「ええ」

ミサトはトウジを見る。

「あなたが、参号機と一緒に生き残ったから」

その言葉に、バルディエルが反応した。

トウジの頭の奥に、冷たい感覚が走る。

「……生き残ったから?」

「正確には、今までNERVが確認したどのパイロットとも違う状態になったから」

「俺は俺や」

「分かってる」

ミサトは静かに答えた。

「だから私は、あなたを普通の人間として扱いたいと思ってる」

トウジは何も言わなかった。

ミサトの声は優しい。

だからこそ、その言葉の奥にある葛藤が伝わってきた。

守りたい。

でも、監視しなければならない。

信じたい。

でも、分からない。

それは、トウジにも分かる。

自分だって同じだった。

バルディエルを信じていいのか。

この力を使っていいのか。

自分は本当に変わっていないのか。

分からないことだらけだ。

「……葛城さん」

「うん」

「俺が怖いか?」

ミサトは答えなかった。

数秒後。

「怖いわ」

正直な答えだった。

トウジは少し驚いた。

「でも」

ミサトは続けた。

「怖いからって、あなたを人間じゃないものとして扱うつもりはない」

トウジは俯いた。

胸の奥に、何かが引っかかった。

「……そら、ありがたいわ」

ミサトは笑わなかった。

「トウジ君」

「なんや」

「もし、また何か聞こえたら」

「バルディエルの声か?」

「ええ」

「言うんか?」

「言ってほしい」

「……研究材料にするため?」

ミサトは少しだけ目を伏せた。

「それもある」

そして、トウジを見る。

「でも、それだけじゃない」

「……?」

「あなた自身が、それを一人で抱え込まないため」

トウジは返事をしなかった。

だが、その言葉は残った。

しばらくして、ミサトが立ち上がる。

「午後には退院の許可が出る予定よ」

「学校は?」

「明日から」

「……マジか」

「委員長がすごく心配してる」

トウジは苦笑した。

「そうやろな」

「それと」

ミサトは扉の前で振り返った。

「今日、午後から検査があるから」

「またか」

「短時間で終わるわ」

「……了解」

扉が閉まる。

静かになった病室。

トウジは天井を見る。

「……聞いとったか?」

返事はない。

「バルディエル」

「聞いている」

「俺、怖いんやと思う」

「何が?」

「自分が何になるか」

少しの沈黙。

「私は、あなたが何になるかを決められない」

「……そうか」

「それを決めるのは、あなた自身だ」

トウジは目を閉じた。

「それ、最近よく言うようになったな」

「学習した」

「誰からや」

「あなたからだ」

トウジは小さく笑った。

「……変な奴やな」

「お互い様だ」

その答えに、トウジは笑った。

だが。

笑いが消えた瞬間。

左腕に違和感が走った。

「……っ」

左腕を押さえる。

痛みではない。

熱でもない。

何かが皮膚の下を流れている。

トウジは袖を捲った。

皮膚は普通だった。

それでも。

腕の内側に、一瞬だけ黒い線が浮かんだ。

そして消える。

「バルディエル」

「見ている」

「今の何や」

「分からない」

「お前の力やないんか?」

「私のものだけではない」

トウジは眉をひそめた。

「……どういう意味や」

返事がない。

「おい」

「……何かが、こちらに触れようとしている」

トウジは立ち上がった。

その瞬間。

病室の照明が一度だけ明滅した。

そして――

廊下の向こうから、機械音が響いた。

NERV地下。

第二発令所。

赤木リツコはモニターを睨んでいた。

画面には、数十本の波形が並んでいる。

「もう一度」

オペレーターが操作する。

「はい」

画面が切り替わる。

そこに表示されたのは、トウジの生体データだった。

脳波。

心拍。

神経活動。

そして。

契約反応。

「……また出た」

リツコが呟く。

「時刻は?」

「午前九時四十一分です」

「記録を照合して」

「はい」

別の画面に過去のデータが並ぶ。

九時四十一分。

その数字の横に、警告表示が出た。

「反応値、通常時の範囲を超えています」

「どのくらい?」

「一秒未満ですが、観測系そのものに干渉しています」

リツコは眉を寄せた。

「観測系に?」

「はい」

「トウジ君自身がデータを出したんじゃない」

「……はい」

「データを取得した側が、反応した?」

オペレーターは答えられなかった。

リツコは椅子から立つ。

画面を拡大する。

そこには、一瞬だけ現れた異常な波形があった。

六つ。

等間隔ではない。

しかし、確かに六つの反応が重なっている。

「……光輪」

小さく呟く。

だが、画面に光輪そのものが映っているわけではない。

ただ、波形の構造が似ている。

「六枚目までのデータと一致します」

「違う」

リツコは即座に否定した。

「六枚目の反応とは違う」

「では……」

「これは外から来ている」

室内が静まる。

リツコは別の画面を開いた。

そこには、以前の接続実験のデータ。

Eva-04。

正常稼働。

その記録の一部だけが、不自然に欠落している。

「……Eva-04の接続実験以降、同じ反応が断続的に出ている」

「関連性があると?」

「分からない」

リツコは画面を見つめた。

「だから調べている」

そのとき。

発令所の奥から声がした。

「赤木博士」

振り返る。

碇ゲンドウだった。

「この件はどうなっている」

「まだ判断できません」

「判断できない?」

「現段階では、トウジ君の契約反応とEva-04の接続実験、その二つを結びつけるだけの証拠がありません」

「証拠がないから調べるのだろう」

「ええ」

リツコは画面を閉じた。

「ただし、もう一つ問題があります」

「何だ」

「この反応を、誰かが観測している可能性があります」

ゲンドウの目が細くなる。

「誰か?」

「NERVの観測系ではありません」

「根拠は」

「観測データに、観測対象とは別の反応が残っている」

リツコは一枚のグラフを表示した。

「トウジ君を測定したデータの中に、トウジ君自身でも、バルディエルでもない反応が混ざっている」

ゲンドウは黙った。

「それは何だ」

「分かりません」

「使徒か」

「断定できません」

「ならば、可能性を調べろ」

「分かっています」

ゲンドウはそれ以上何も言わず、発令所を出ていった。

リツコはその背中を見送った。

そして、誰もいなくなった画面を見る。

「……観測者、ね」

彼女は昨日の記録を開いた。

時刻。

3:17。

そこに残された文字。

――観測者:在席。

「あなたは……誰を見ているの?」

答えはない。

午後。

トウジは検査室へ移動していた。

透明な壁。

白い床。

頭部にセンサーを取り付けられる。

「動かないでくださいね」

看護師が言う。

「分かっとる」

椅子に座る。

目の前のモニターに波形が映る。

リツコが少し離れた場所に立っていた。

「始めます」

機械が起動する。

低い駆動音。

トウジは目を閉じた。

最初は何もない。

ただの検査だった。

脳波。

心拍。

神経。

いつものデータ。

ところが。

「……?」

耳の奥で、何かが鳴った。

遠い音。

水の底から聞こえるような音。

トウジは目を開けた。

「今……」

「どうしたの?」

リツコが近づく。

「何か聞こえた」

「どんな音?」

「分からん」

トウジは周囲を見る。

誰もいない。

「……声やった気もする」

リツコの表情が変わる。

「何と言っていた?」

「聞き取れへん」

「バルディエル?」

「ちゃう」

即答だった。

「……あれは、お前やない」

頭の中でバルディエルが答える。

「そうだ」

「じゃあ、誰や」

「分からない」

再び音が聞こえた。

今度は少しだけ明確だった。

――……。

トウジは息を呑む。

「……何や?」

リツコが尋ねる。

トウジは答えない。

聞こえた。

確かに。

誰かが呼んだ。

自分の名前ではない。

もっと古い何か。

自分が知らないはずの言葉。

「……とう……」

途切れた。

トウジは額を押さえる。

頭の奥が痛む。

「鈴原君!」

リツコの声。

だが、それより早く。

黒い線が左腕に走った。

一筋。

二筋。

そして。

三つ。

皮膚の上に浮かんだ黒い線が、ゆっくりと脈動する。

「止めて!」

リツコが叫ぶ。

検査装置が停止する。

トウジは荒い息を吐いた。

左腕を握る。

「……今の」

「何が見えた?」

リツコの声は冷静だった。

だが、目は明らかに動揺している。

「……見えたんやない」

トウジは答えた。

「思い出しかけた」

「何を?」

「分からん」

それだけ言って、トウジは黙った。

そのとき。

モニターが一瞬だけ暗転した。

復帰。

そして画面中央に、一行だけ文字が浮かぶ。

接続確認

リツコが息を止めた。

その下。

契約者:鈴原トウジ

さらに。

使徒:第十三

リツコの表情が変わる。

「……第十三?」

その言葉を聞いた瞬間。

トウジの頭の奥で、バルディエルが初めて明確な警戒を示した。

「見るな」

「……何?」

「その文字を、これ以上見るな」

「なんでや」

「分からない」

バルディエルの声が低くなる。

「だが、これは私たちに向けた記録ではない」

「ほんなら誰にや」

沈黙。

そして。

「……向こうから、見ている」

トウジの背筋が凍った。

モニターの文字が変わる。

観測者:在席

その瞬間。

検査室の照明が落ちた。

真っ暗になる。

「何!?」

誰かの声がする。

非常灯が点く。

赤い光。

トウジはゆっくり顔を上げた。

透明な壁の向こう。

廊下。

その先に。

誰かが立っている。

白い服。

白い髪。

少年のような姿。

顔は見えない。

ただ。

こちらを見ている。

トウジの呼吸が止まる。

「……誰や」

少年は動かない。

バルディエルが、頭の中で呟く。

「……あれだ」

「何が」

「昨日から、こちらを見ているもの」

トウジは立ち上がろうとした。

だが。

少年は一歩だけ後ろへ下がった。

そして。

廊下の角へ消えた。

「待て!」

トウジが駆け出す。

「鈴原君!」

リツコの声を振り切り、扉を開ける。

廊下には誰もいない。

左。

右。

どちらにもいない。

ただ、床に白い紙が一枚落ちていた。

トウジは拾い上げる。

そこには、何も書かれていなかった。

白紙。

ただ。

紙の中央に。

指で押したような黒い跡が一つだけ残っている。

トウジはそれを見つめた。

「……なんや、これ」

黒い跡が、ほんのわずかに形を変える。

線になる。

一本。

そして。

二本。

六本。

トウジの左腕に浮かぶものと同じ形。

六つの線が、円を作る。

だが。

円は完成しない。

一箇所だけ、空いている。

「……六つ」

バルディエルが呟く。

トウジは紙を握った。

「知っとるんか?」

「知らない」

「嘘つくな」

「知らない」

バルディエルの声に、怒りはなかった。

ただ、戸惑いがあった。

「だが……」

「何や」

「六つでは、ない」

トウジが顔を上げる。

「……?」

「これは、六つを示しているのではない」

「ほんなら何を示しとる」

バルディエルは答えなかった。

トウジは紙を見る。

六つの線。

そして、一つだけ空いた場所。

その形を見ていると。

胸の奥がざわついた。

知っている。

そんな気がする。

けれど。

思い出せない。

「……なんやねん」

紙を握る手に力が入る。

「俺は……これを知っとる」

その瞬間。

頭の中に、一瞬だけ映像が流れた。

暗い場所。

小さな手。

誰かの手を握っている。

声。

聞き取れない。

そして。

白い光。

「――約束」

トウジは呟いた。

「……え?」

リツコが聞き返す。

だが、トウジ自身も驚いていた。

「今……俺、何て言うた?」

答えはない。

バルディエルも沈黙している。

ただ。

トウジの左腕。

そこに浮かんだ黒い線の一部が。

ほんの一瞬だけ。

金色に変わった。

そして消えた。

同じ頃。

NERVのどこでもない場所。

白い壁。

白い床。

白い椅子。

少年はそこに座っていた。

手元には、何もない。

目の前には、暗い画面。

そこに一つだけ数字が浮かんでいる。

3:17

少年はそれを見ていた。

やがて、静かに呟く。

「まだ、思い出していない」

声は幼い。

しかし、その響きには年齢がなかった。

画面の数字が消える。

代わりに、一つの言葉が現れる。

契約者

少年は目を細めた。

「違う」

さらに文字が変わる。

第十三

「それも、違う」

最後に。

一つの言葉だけが残る。

主従

少年はしばらくそれを見つめていた。

そして。

小さく笑った。

「まだ、決まっていない」

画面が消える。

暗闇の中で。

少年だけが呟いた。

「だから、見ている」

夕方。

トウジは病室に戻っていた。

窓の外が赤く染まっている。

ベッドに座り、今日拾った紙を見つめる。

何度見ても、ただの白い紙だ。

黒い線も消えている。

「……夢やったんかな」

「違う」

バルディエルが答える。

「そうか」

「記憶だ」

トウジは顔を上げた。

「記憶?」

「あなたが忘れているもの」

「何を」

「それは分からない」

トウジは苦笑した。

「便利な答えやな」

「事実だ」

「……まあええ」

窓を見る。

夕日が沈んでいく。

「でも、一個だけ分かった」

「何が?」

「俺は、自分が何者か分からんのが怖いんやない」

トウジは自分の左腕を見る。

「分からんまま、誰かに決められるのが怖いんや」

バルディエルは何も言わない。

トウジは続ける。

「俺が人間なんか、使徒なんか」

少し間を置く。

「何を持っとるんか」

さらに。

「誰に見られとるんか」

トウジは窓の外を見た。

「それを決めるんは、俺や」

頭の奥で。

バルディエルが答える。

「……そうだな」

その言葉は。

以前とは少し違って聞こえた。

命令ではない。

肯定でもない。

ただ。

同じ場所に立っている者同士の言葉だった。

その夜。

時計の針が進む。

3:16。

トウジは眠っている。

3:17。

病室のモニターが一瞬だけ点滅した。

心拍。

脳波。

正常。

そして。

画面の隅に、一つだけ表示される。

観測者:在席

次の瞬間。

表示は消えた。

誰も気づかない。

ただ。

トウジの左腕の皮膚の下で。

六つの黒い線が、ゆっくりと脈動していた。

その中心には。

まだ誰にも見えない。

七つ目の空白があった。

 

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