第十三の主従   作:知人

2 / 16
第二話 使徒従属

 

――朝。

第三新東京市。

いつもと変わらない朝だった。

鳥が鳴いている。

雲が流れている。

街には人がいる。

コンビニのシャッターが開き、学校へ向かう学生が歩いている。

昨日。

この街で。

エヴァンゲリオン三号機が使徒に侵食された。

そして。

パイロットは生き残った。

その事実を知っている人間は、ほとんどいない。

俺も。

昨日までは。

その「ほとんどいない側」だった。

けれど今は。

自分の左腕を見る。

普通の腕。

皮膚もある。

爪もある。

昨日、使徒化したとは思えない。

だが。

俺には分かる。

トウジ:(……いる)

胸の奥。

ほんの少しだけ。

自分とは違う鼓動。

ドクン。

トウジ:(バルディエル)

返事はない。

トウジ:(寝とるんか?)

数秒。

何もない。

俺は苦笑した。

トウジ:(まあええか)

学校へ向かう。

その途中。

携帯端末が鳴った。

『NERVより呼び出し』

俺は足を止めた。

トウジ:(……早速か)

昨日の今日だ。

当然だろう。

自分でも分かっている。

NERVからすれば。

俺は「使徒に侵食されたのに死ななかったパイロット」。

しかも。

侵食率100%を越えている。

普通じゃない。

俺は端末を閉じた。

トウジ:(しゃあない)

学校へ向かう足を。

NERVへ向けた。

 

NERV本部

エレベーター。

地下へ。

地下へ。

さらに地下へ。

俺は一人で立っていた。

壁にはNERVのマーク。

昨日までなら。

「エヴァの世界に来たんやな」

くらいにしか思わなかっただろう。

でも。

今は違う。

自分自身が。

その世界の一部になっている。

エレベーターが止まる。

扉が開く。

目の前に葛城さんがいた。

ミサト:「おはよう、鈴原君」

トウジ:「おはようございます」

ミサト:「……普通ね」

トウジ:「何がです?」

ミサト:「昨日、あんなことになったのに」

トウジ:「俺も普通やと思いたいです」

ミサト:「そう」

ミサトは少しだけ笑った。

だが。

目は笑っていない。

ミサト:「検査、受けてもらうわ」

トウジ:「分かってます」

ミサト:「怖くない?」

トウジ:「怖いですよ」

ミサト:「……正直ね」

トウジ:「嘘ついても仕方ないですから」

ミサトは少し黙った。

そして。

ミサト:「じゃあ、行きましょう」

 

生体検査室

ベッドに横になる。

機械が身体中をスキャンする。

マヤ:「心拍正常」

マヤ:「血圧正常」

マヤ:「血中酸素正常」

リツコ:「神経系は?」

マヤ:「……異常ありません」

リツコ:「異常なし?」

マヤ:「はい」

リツコは画面を見る。

眉を寄せる。

リツコ:「昨日、侵食された人間とは思えないわね」

トウジ:「俺もそう思います」

リツコ:「左腕」

トウジ:「はい」

リツコ:「使ってみて」

トウジ:「ここで?」

リツコ:「少しだけ」

俺は左腕を見る。

トウジ:(バルディエル)

返事。

バルディエル:『……いる』

トウジ:(ちょっとだけ借りるで)

バルディエル:『……痛い』

トウジ:(俺もや)

バルディエル:『……それでも?』

トウジ:(それでも)

左腕に。

黒い線が浮かぶ。

皮膚の下を。

何かが走る。

マヤ:「生体反応上昇!」

リツコ:「記録して」

黒い線が増える。

そして。

左腕の一部が白く変わった。

人間の筋肉ではない。

使徒の組織。

だが。

完全な使徒の腕でもない。

エヴァの細胞と。

使徒の細胞が。

混ざっている。

リツコ:「……」

トウジ:「どうです?」

リツコ:「興味深いわ」

トウジ:「怖いこと言わんといてください」

リツコ:「ごめんなさい」

少し間。

リツコ:「痛みは?」

トウジ:「あります」

リツコ:「どの程度?」

トウジ:「腕を焼かれてる感じです」

マヤ:「……」

リツコ:「戻して」

トウジ:(バルディエル)

バルディエル:『……戻す』

腕が元に戻る。

しかし。

トウジ:「……っ」

胸を押さえた。

ミサト:「鈴原君?」

トウジ:「大丈夫です」

リツコ:「大丈夫じゃないわね」

トウジ:「……」

リツコ:「使徒化した部位を戻すたびに、負荷がかかっている」

トウジ:「分かるんですか?」

リツコ:「心拍が上がった」

マヤ:「さっきより12%増加しています」

リツコ:「つまり」

リツコは画面を見る。

リツコ:「力を使うほど、身体への負担が蓄積する」

トウジ:「……」

リツコ:「無理に使えば危険よ」

トウジ:「分かりました」

リツコ:「本当に?」

トウジ:「はい」

リツコ:「ならいいわ」

そこで。

リツコが俺を見る。

リツコ:「もう一つ」

トウジ:「何です?」

リツコ:「その声」

俺は固まった。

リツコ:「昨日、話していたでしょう?」

トウジ:「……はい」

リツコ:「聞かせて」

トウジ:「無理です」

リツコ:「なぜ?」

トウジ:「あいつが嫌がる」

リツコ:「……」

リツコは黙った。

そして。

端末を閉じた。

リツコ:「分かったわ」

ミサト:「赤木博士?」

リツコ:「本人の意思を確認する必要がある」

ミサト:「本人って……」

リツコ:「鈴原君だけじゃない」

その言葉に。

室内が静かになった。

 

精神接続

検査が終わったあと。

俺は一人になった。

椅子に座る。

トウジ:(……本人、か)

バルディエル。

使徒。

敵。

原作では。

俺を殺す存在。

でも。

今は。

胸の奥にいる。

トウジ:(お前)

バルディエル:『……?』

トウジ:(俺の身体、好きに使えるんか?)

長い沈黙。

バルディエル:『……使わない』

トウジ:(なんで)

バルディエル:『……契約』

トウジ:(契約したから?)

バルディエル:『……選んだ』

トウジ:(何を?)

バルディエル:『……お前』

俺は黙った。

トウジ:(そうか)

バルディエル:『……』

トウジ:(じゃあ俺も、お前を選ぶ)

その瞬間。

視界が変わった。

 

赤い海。

また。

ここだ。

俺の目の前にバルディエルがいる。

巨大な影。

今回は。

少しだけ姿が見える。

長い腕。

異様な身体。

人間には理解できない形。

けれど。

以前ほど怖くない。

トウジ:「ここは?」

バルディエル:『……内側』

トウジ:「俺の?」

バルディエル:『……二人』

トウジ:「俺と、お前」

バルディエル:『……』

俺は海を見る。

トウジ:「お前、ここにずっとおったんか?」

バルディエル:『……違う』

トウジ:「違う?」

バルディエル:『……外』

トウジ:「外?」

バルディエル:『……呼ばれた』

トウジ:「誰に?」

沈黙。

バルディエル:『……』

トウジ:「バルディエル?」

バルディエル:『……分からない』

トウジ:「そうか」

バルディエル:『……でも』

トウジ:「?」

バルディエル:『……怖い』

トウジ:「何が?」

バルディエルは。

初めて。

俺の後ろを見た。

俺も振り返る。

何もない。

ただ。

赤い海。

トウジ:「何もないで」

バルディエル:『……いる』

トウジ:「誰が?」

バルディエル:『……見てる』

俺は背筋が冷たくなった。

トウジ:(誰かが、俺たちを見てる?)

その瞬間。

赤い海に。

小さな波紋が広がった。

一つ。

二つ。

三つ。

そして。

波紋の中心から。

黒い線が一本。

伸びてきた。

俺は後ずさる。

バルディエルが俺の前に立った。

トウジ:「おい」

バルディエル:『……近づくな』

トウジ:「誰や」

バルディエル:『……知らない』

黒い線が。

ゆっくり消える。

そして。

俺は現実へ戻った。

 

病室

目を開ける。

天井。

俺は息を荒くしていた。

トウジ:「……はぁ」

誰かがいる。

シンジだった。

シンジ:「トウジ!」

トウジ:「シンジ?」

シンジ:「大丈夫?」

トウジ:「……たぶん」

シンジ:「急に倒れたって」

トウジ:「精神接続してた」

シンジ:「精神……?」

トウジ:「バルディエルと話してた」

シンジは黙った。

トウジ:「どうした?」

シンジ:「……怖い」

トウジ:「そうか」

シンジ:「ごめん」

トウジ:「謝らんでええ」

シンジ:「でも」

トウジ:「怖いのは普通や」

シンジ:「……」

トウジ:「俺だって怖い」

シンジは顔を上げた。

トウジ:「昨日からずっと怖い」

シンジ:「トウジでも?」

トウジ:「俺でもや」

シンジ:「……」

トウジ:「だから」

俺は笑った。

トウジ:「怖いまま一緒におればええ」

シンジ:「……うん」

でも。

シンジの目には。

まだ不安が残っていた。

当然だ。

俺の中には。

使徒がいる。

シンジにとって使徒は。

母親を奪った存在。

友達を傷つける存在。

世界を壊す存在。

そんなものを。

簡単に受け入れられるわけがない。

俺は。

それを責めなかった。

 

アスカ

その日の昼。

屋上。

俺が弁当を食べていると。

アスカが来た。

アスカ:「鈴原」

トウジ:「なんや」

アスカ:「シンジから聞いた」

トウジ:「何を?」

アスカ:「アンタの中の使徒」

トウジ:「……ああ」

アスカ:「本当に喋るの?」

トウジ:「喋る」

アスカ:「アンタの身体を乗っ取ったりしない?」

トウジ:「今のところは」

アスカ:「今のところ?」

トウジ:「契約やから」

アスカ:「契約ねぇ」

アスカは腕を組んだ。

アスカ:「信用できない」

トウジ:「そらそうや」

アスカ:「……またそれ」

トウジ:「何が?」

アスカ:「アンタ、否定しないわね」

トウジ:「否定しても信用されんやろ」

アスカ:「……」

トウジ:「なら、行動で見せるしかない」

アスカ:「使徒を?」

トウジ:「俺自身を」

アスカはしばらく黙っていた。

そして。

アスカ:「じゃあ一つ聞く」

トウジ:「なんや」

アスカ:「もし、そいつが暴走したら?」

トウジ:「俺が止める」

アスカ:「止められなかったら?」

トウジ:「……」

俺は答えられなかった。

アスカ:「ほら」

アスカは少しだけ目を細める。

アスカ:「アンタ自身にも分からないんじゃない」

トウジ:「……そうや」

アスカ:「なら」

アスカは立ち上がる。

アスカ:「私はアンタを信用しない」

トウジ:「分かった」

アスカ:「でも」

少し間。

アスカ:「昨日、シンジがアンタを殺さなかったのは」

トウジ:「……」

アスカ:「たぶん、正解だったと思う」

それだけ言って。

アスカは去った。

トウジ:(……十分やな)

今は。

それでいい。

 

初号機格納庫

その頃。

シンジは一人で初号機を見上げていた。

巨大な紫色の巨人。

シンジ:(……使徒)

昨日まで。

使徒は。

倒すものだった。

戦うものだった。

なのに。

トウジは。

その使徒と話した。

友達になった。

シンジ:(そんなこと、できるのかな)

初号機の胸部。

そこに。

微かな反応がある。

シンジは見上げた。

シンジ:「……綾波?」

レイ:「碇君」

いつの間にか。

レイがいた。

シンジ:「綾波」

レイ:「どうしたの?」

シンジ:「トウジのこと」

レイ:「……」

シンジ:「怖くない?」

レイ:「怖い」

シンジは驚いた。

シンジ:「綾波でも?」

レイ:「怖いものは、怖い」

シンジ:「……そっか」

レイ:「でも」

シンジ:「?」

レイ:「あの人の中にいるものは」

レイは初号機を見る。

レイ:「殺意だけではない」

シンジ:「どういうこと?」

レイ:「分からない」

シンジ:「……」

レイ:「でも」

レイは小さく目を伏せた。

レイ:「昨日、聞こえた」

シンジ:「何が?」

レイ:「声」

シンジ:「バルディエル?」

レイ:「……たぶん」

シンジ:「何て?」

レイ:「『生きたい』」

シンジは黙った。

 

司令室

ゲンドウ:「三号機の解析は」

リツコ:「進めています」

ゲンドウ:「結果は」

リツコ:「鈴原君とバルディエルは、完全に分離しているわけではない」

ゲンドウ:「……」

リツコ:「けれど、融合とも違う」

冬月:「では何だ?」

リツコ:「まだ分からないわ」

ゲンドウ:「そうか」

リツコ:「それと」

ゲンドウ:「?」

リツコ:「精神接続時、未知の反応が出た」

ゲンドウ:「数は」

リツコ:「一つ」

ゲンドウは画面を見る。

波形。

一瞬だけ。

未知の反応。

しかし。

すぐに消えている。

ゲンドウ:「記録しておけ」

リツコ:「ええ」

冬月:「碇」

ゲンドウ:「何だ」

冬月:「鈴原を危険視しないのか」

ゲンドウ:「する」

冬月:「ならば」

ゲンドウ:「観察する」

冬月:「……」

ゲンドウ:「まだ使える」

それだけだった。

 

夕方

学校から帰る。

俺は一人で歩いていた。

夕日。

長い影。

トウジ:(今日一日、何も起こらんかったな)

そう思った瞬間。

胸が痛んだ。

トウジ:「……っ」

膝をつく。

ドクン。

バルディエル:『……痛い』

トウジ:(お前もか?)

バルディエル:『……近い』

トウジ:(何が?)

バルディエル:『……同じ』

トウジ:(同じ?)

周囲を見る。

誰もいない。

街も静か。

でも。

空気がおかしい。

トウジ:(何か来るんか?)

バルディエル:『……違う』

トウジ:(じゃあ何や)

バルディエル:『……呼んでる』

トウジ:(誰が?)

答えが返る前に。

一瞬だけ。

空が歪んだ。

トウジ:「……?」

何もない。

ただの夕空。

けれど。

俺には見えた。

遠く。

空の向こう。

巨大な輪郭。

まだ。

こちらへ来ていない。

でも。

確かに。

何かがいる。

バルディエル:『……使徒』

トウジ:(……次か?)

俺は拳を握った。

だが。

バルディエル:『……違う』

トウジ:(何が?)

バルディエル:『……まだ』

トウジ:(まだ?)

空は元に戻った。

トウジ:「……なんやったんや」

 

葛城家。

ミサト:「ただいまー」

ペンペンが鳴く。

ミサトは冷蔵庫を開ける。

ミサト:「ビール……」

一瞬。

止まる。

ミサト:「……今日はやめとこう」

冷蔵庫を閉める。

珍しい。

ミサトは机に座る。

目の前には。

三号機の資料。

侵食率。

100.1%。

ミサト:「……鈴原君」

そこへ。

電話。

ミサト:「はい、葛城です」

マヤの声。

マヤ:『葛城さん』

ミサト:「どうしたの?」

マヤ:『鈴原君の生体データなんですが』

ミサト:「何かあった?」

マヤ:『今日の検査後から、微妙な変化が』

ミサト:「変化?」

マヤ:『心拍です』

ミサト:「正常じゃないの?」

マヤ:『正常なんです』

ミサト:「ならいいじゃない」

マヤ:『……でも』

ミサト:「?」

マヤ:『一人分じゃないんです』

ミサトの表情が変わる。

ミサト:「どういうこと?」

マヤ:『二つの波形が、ほぼ完全に同期しています』

ミサト:「バルディエル?」

マヤ:『はい』

ミサト:「それなら」

マヤ:『問題は』

一拍。

マヤ:『二つ目の波形が、鈴原君の心拍そのものではないことです』

ミサト:「……」

電話の向こう。

マヤ:『鈴原君とバルディエルの間に』

マヤ:『もう一つ、何かがいる可能性があります』

ミサト:「……赤木博士には?」

マヤ:『まだです』

ミサト:「黙ってて」

マヤ:『え?』

ミサト:「私から話す」

電話を切る。

ミサトは資料を見る。

そして。

小さく呟いた。

ミサト:「……何なのよ、アンタ」

 

深夜

俺は眠っていた。

夢。

また赤い海。

でも。

今度は違った。

バルディエルがいる。

その隣。

俺がいる。

そして。

遠く。

何かが立っている。

姿は見えない。

声も聞こえない。

ただ。

こちらを見ている。

俺は問いかける。

トウジ:「お前、誰や」

返事はない。

バルディエルが俺の腕を掴む。

バルディエル:『……行く』

トウジ:「どこへ?」

バルディエル:『……ここから』

トウジ:「なんで?」

バルディエル:『……まだ早い』

トウジ:「何が?」

バルディエル:『……名前』

トウジ:「名前?」

バルディエル:『……まだ、ない』

その瞬間。

遠くの存在が。

一歩。

こちらへ近づいた。

俺は息を呑む。

トウジ:「……!」

目を覚ます。

汗。

息が荒い。

時計。

午前3時17分。

トウジ:「……夢」

だと思った。

だが。

左腕を見る。

黒い線が一本。

皮膚の下に浮かんでいる。

俺は触れる。

すると。

頭の中で。

バルディエル:『……夢ではない』

トウジ:「……」

バルディエル:『……見つかった』

トウジ:(誰に?)

返事はない。

ただ。

窓の外。

夜空に。

一瞬だけ。

赤い光が走った。

 

翌日

NERV。

MAGI。

警告音。

マヤ:「微弱な未確認反応!」

リツコ:「場所は?」

マヤ:「第三新東京市上空!」

リツコ:「使徒?」

マヤ:「……判定できません」

ミサト:「判定できない?」

マヤ:「ATフィールドはありません」

リツコ:「なら使徒ではない」

マヤ:「ですが」

画面。

空の一部に。

ほんの僅かな歪み。

マヤ:「生体反応があります」

ミサト:「規模は?」

マヤ:「……不明」

リツコは画面を見つめる。

そして。

静かに言った。

リツコ:「まだ、来ていない」

ミサト:「え?」

リツコ:「これは侵入じゃない」

一拍。

リツコ:「観測されている」

 

屋上

俺は空を見ていた。

シンジ:「トウジ」

トウジ:「おう」

シンジ:「何を見てるの?」

トウジ:「分からん」

シンジ:「……怖い?」

トウジ:「ああ」

シンジ:「僕も」

二人で空を見る。

少し離れた場所。

アスカがいる。

アスカ:「ちょっと!」

トウジ:「なんや」

アスカ:「二人で何やってんのよ!」

シンジ:「空を見てる」

アスカ:「見れば分かるわよ!」

トウジ:「まあええやん」

アスカ:「よくない!」

アスカは空を見る。

そして。

少し黙る。

アスカ:「……何もないじゃない」

トウジ:「せやな」

アスカ:「なのに」

トウジ:「?」

アスカ:「なんで、そんな顔してるの?」

俺は答えられなかった。

そのとき。

レイが屋上へ来た。

レイ:「……来る」

三人が振り返る。

シンジ:「綾波?」

レイ:「まだ」

アスカ:「何よ、それ」

レイ:「でも」

レイは空を見る。

レイ:「遠くない」

風が吹く。

四人の髪が揺れる。

誰も。

何も言わない。

そして。

俺の胸で。

二つの鼓動が鳴った。

ドクン。

ドクン。

俺は左腕を握った。

トウジ:(……バルディエル)

バルディエル:『……戦う?』

トウジ:(まだや)

バルディエル:『……なぜ』

トウジ:(まだ敵やと決まってへん)

バルディエル:『……』

トウジ:(俺たちが最初にされたこと、覚えとるか?)

バルディエル:『……侵食』

トウジ:(そうや)

トウジ:(せやから、俺は同じことはせん)

バルディエル:『……分かった』

俺は空を見上げた。

トウジ:(戦う前に)

トウジ:(話す)

だが。

その決意を。

まだ誰も知らない。

そして。

遠い空の彼方。

巨大な何かが。

ゆっくりと。

この世界へ近づいていた。

 

第二話 終

次回予告

ミサト:「次回!」

ミサト:「鈴原君の中にいるバルディエルとの共存が始まった……と思ったら!」

ミサト:「第三新東京市上空に、正体不明の生体反応!」

ミサト:「まだ姿は見えない。でも、確実に近づいている!」

ミサト:「一方、シンジ君は鈴原君を信じたい気持ちと、使徒への恐怖の間で揺れ始める!」

ミサト:「そしてアスカは、もちろん素直じゃありません!」

ミサト:「次回!」

ミサト:「『第三話 四号機の亡霊』」

ミサト:「今度は、エヴァそのものにまつわる秘密が動き出す!」

ミサト:「サービス、サービスぅ!」

――空から来るもの。

それは。

まだ。

敵とは決まっていなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。