――朝。
第三新東京市。
いつもと変わらない朝だった。
鳥が鳴いている。
雲が流れている。
街には人がいる。
コンビニのシャッターが開き、学校へ向かう学生が歩いている。
昨日。
この街で。
エヴァンゲリオン三号機が使徒に侵食された。
そして。
パイロットは生き残った。
その事実を知っている人間は、ほとんどいない。
俺も。
昨日までは。
その「ほとんどいない側」だった。
けれど今は。
自分の左腕を見る。
普通の腕。
皮膚もある。
爪もある。
昨日、使徒化したとは思えない。
だが。
俺には分かる。
トウジ:(……いる)
胸の奥。
ほんの少しだけ。
自分とは違う鼓動。
ドクン。
トウジ:(バルディエル)
返事はない。
トウジ:(寝とるんか?)
数秒。
何もない。
俺は苦笑した。
トウジ:(まあええか)
学校へ向かう。
その途中。
携帯端末が鳴った。
『NERVより呼び出し』
俺は足を止めた。
トウジ:(……早速か)
昨日の今日だ。
当然だろう。
自分でも分かっている。
NERVからすれば。
俺は「使徒に侵食されたのに死ななかったパイロット」。
しかも。
侵食率100%を越えている。
普通じゃない。
俺は端末を閉じた。
トウジ:(しゃあない)
学校へ向かう足を。
NERVへ向けた。
NERV本部
エレベーター。
地下へ。
地下へ。
さらに地下へ。
俺は一人で立っていた。
壁にはNERVのマーク。
昨日までなら。
「エヴァの世界に来たんやな」
くらいにしか思わなかっただろう。
でも。
今は違う。
自分自身が。
その世界の一部になっている。
エレベーターが止まる。
扉が開く。
目の前に葛城さんがいた。
ミサト:「おはよう、鈴原君」
トウジ:「おはようございます」
ミサト:「……普通ね」
トウジ:「何がです?」
ミサト:「昨日、あんなことになったのに」
トウジ:「俺も普通やと思いたいです」
ミサト:「そう」
ミサトは少しだけ笑った。
だが。
目は笑っていない。
ミサト:「検査、受けてもらうわ」
トウジ:「分かってます」
ミサト:「怖くない?」
トウジ:「怖いですよ」
ミサト:「……正直ね」
トウジ:「嘘ついても仕方ないですから」
ミサトは少し黙った。
そして。
ミサト:「じゃあ、行きましょう」
生体検査室
ベッドに横になる。
機械が身体中をスキャンする。
マヤ:「心拍正常」
マヤ:「血圧正常」
マヤ:「血中酸素正常」
リツコ:「神経系は?」
マヤ:「……異常ありません」
リツコ:「異常なし?」
マヤ:「はい」
リツコは画面を見る。
眉を寄せる。
リツコ:「昨日、侵食された人間とは思えないわね」
トウジ:「俺もそう思います」
リツコ:「左腕」
トウジ:「はい」
リツコ:「使ってみて」
トウジ:「ここで?」
リツコ:「少しだけ」
俺は左腕を見る。
トウジ:(バルディエル)
返事。
バルディエル:『……いる』
トウジ:(ちょっとだけ借りるで)
バルディエル:『……痛い』
トウジ:(俺もや)
バルディエル:『……それでも?』
トウジ:(それでも)
左腕に。
黒い線が浮かぶ。
皮膚の下を。
何かが走る。
マヤ:「生体反応上昇!」
リツコ:「記録して」
黒い線が増える。
そして。
左腕の一部が白く変わった。
人間の筋肉ではない。
使徒の組織。
だが。
完全な使徒の腕でもない。
エヴァの細胞と。
使徒の細胞が。
混ざっている。
リツコ:「……」
トウジ:「どうです?」
リツコ:「興味深いわ」
トウジ:「怖いこと言わんといてください」
リツコ:「ごめんなさい」
少し間。
リツコ:「痛みは?」
トウジ:「あります」
リツコ:「どの程度?」
トウジ:「腕を焼かれてる感じです」
マヤ:「……」
リツコ:「戻して」
トウジ:(バルディエル)
バルディエル:『……戻す』
腕が元に戻る。
しかし。
トウジ:「……っ」
胸を押さえた。
ミサト:「鈴原君?」
トウジ:「大丈夫です」
リツコ:「大丈夫じゃないわね」
トウジ:「……」
リツコ:「使徒化した部位を戻すたびに、負荷がかかっている」
トウジ:「分かるんですか?」
リツコ:「心拍が上がった」
マヤ:「さっきより12%増加しています」
リツコ:「つまり」
リツコは画面を見る。
リツコ:「力を使うほど、身体への負担が蓄積する」
トウジ:「……」
リツコ:「無理に使えば危険よ」
トウジ:「分かりました」
リツコ:「本当に?」
トウジ:「はい」
リツコ:「ならいいわ」
そこで。
リツコが俺を見る。
リツコ:「もう一つ」
トウジ:「何です?」
リツコ:「その声」
俺は固まった。
リツコ:「昨日、話していたでしょう?」
トウジ:「……はい」
リツコ:「聞かせて」
トウジ:「無理です」
リツコ:「なぜ?」
トウジ:「あいつが嫌がる」
リツコ:「……」
リツコは黙った。
そして。
端末を閉じた。
リツコ:「分かったわ」
ミサト:「赤木博士?」
リツコ:「本人の意思を確認する必要がある」
ミサト:「本人って……」
リツコ:「鈴原君だけじゃない」
その言葉に。
室内が静かになった。
精神接続
検査が終わったあと。
俺は一人になった。
椅子に座る。
トウジ:(……本人、か)
バルディエル。
使徒。
敵。
原作では。
俺を殺す存在。
でも。
今は。
胸の奥にいる。
トウジ:(お前)
バルディエル:『……?』
トウジ:(俺の身体、好きに使えるんか?)
長い沈黙。
バルディエル:『……使わない』
トウジ:(なんで)
バルディエル:『……契約』
トウジ:(契約したから?)
バルディエル:『……選んだ』
トウジ:(何を?)
バルディエル:『……お前』
俺は黙った。
トウジ:(そうか)
バルディエル:『……』
トウジ:(じゃあ俺も、お前を選ぶ)
その瞬間。
視界が変わった。
赤い海。
また。
ここだ。
俺の目の前にバルディエルがいる。
巨大な影。
今回は。
少しだけ姿が見える。
長い腕。
異様な身体。
人間には理解できない形。
けれど。
以前ほど怖くない。
トウジ:「ここは?」
バルディエル:『……内側』
トウジ:「俺の?」
バルディエル:『……二人』
トウジ:「俺と、お前」
バルディエル:『……』
俺は海を見る。
トウジ:「お前、ここにずっとおったんか?」
バルディエル:『……違う』
トウジ:「違う?」
バルディエル:『……外』
トウジ:「外?」
バルディエル:『……呼ばれた』
トウジ:「誰に?」
沈黙。
バルディエル:『……』
トウジ:「バルディエル?」
バルディエル:『……分からない』
トウジ:「そうか」
バルディエル:『……でも』
トウジ:「?」
バルディエル:『……怖い』
トウジ:「何が?」
バルディエルは。
初めて。
俺の後ろを見た。
俺も振り返る。
何もない。
ただ。
赤い海。
トウジ:「何もないで」
バルディエル:『……いる』
トウジ:「誰が?」
バルディエル:『……見てる』
俺は背筋が冷たくなった。
トウジ:(誰かが、俺たちを見てる?)
その瞬間。
赤い海に。
小さな波紋が広がった。
一つ。
二つ。
三つ。
そして。
波紋の中心から。
黒い線が一本。
伸びてきた。
俺は後ずさる。
バルディエルが俺の前に立った。
トウジ:「おい」
バルディエル:『……近づくな』
トウジ:「誰や」
バルディエル:『……知らない』
黒い線が。
ゆっくり消える。
そして。
俺は現実へ戻った。
病室
目を開ける。
天井。
俺は息を荒くしていた。
トウジ:「……はぁ」
誰かがいる。
シンジだった。
シンジ:「トウジ!」
トウジ:「シンジ?」
シンジ:「大丈夫?」
トウジ:「……たぶん」
シンジ:「急に倒れたって」
トウジ:「精神接続してた」
シンジ:「精神……?」
トウジ:「バルディエルと話してた」
シンジは黙った。
トウジ:「どうした?」
シンジ:「……怖い」
トウジ:「そうか」
シンジ:「ごめん」
トウジ:「謝らんでええ」
シンジ:「でも」
トウジ:「怖いのは普通や」
シンジ:「……」
トウジ:「俺だって怖い」
シンジは顔を上げた。
トウジ:「昨日からずっと怖い」
シンジ:「トウジでも?」
トウジ:「俺でもや」
シンジ:「……」
トウジ:「だから」
俺は笑った。
トウジ:「怖いまま一緒におればええ」
シンジ:「……うん」
でも。
シンジの目には。
まだ不安が残っていた。
当然だ。
俺の中には。
使徒がいる。
シンジにとって使徒は。
母親を奪った存在。
友達を傷つける存在。
世界を壊す存在。
そんなものを。
簡単に受け入れられるわけがない。
俺は。
それを責めなかった。
アスカ
その日の昼。
屋上。
俺が弁当を食べていると。
アスカが来た。
アスカ:「鈴原」
トウジ:「なんや」
アスカ:「シンジから聞いた」
トウジ:「何を?」
アスカ:「アンタの中の使徒」
トウジ:「……ああ」
アスカ:「本当に喋るの?」
トウジ:「喋る」
アスカ:「アンタの身体を乗っ取ったりしない?」
トウジ:「今のところは」
アスカ:「今のところ?」
トウジ:「契約やから」
アスカ:「契約ねぇ」
アスカは腕を組んだ。
アスカ:「信用できない」
トウジ:「そらそうや」
アスカ:「……またそれ」
トウジ:「何が?」
アスカ:「アンタ、否定しないわね」
トウジ:「否定しても信用されんやろ」
アスカ:「……」
トウジ:「なら、行動で見せるしかない」
アスカ:「使徒を?」
トウジ:「俺自身を」
アスカはしばらく黙っていた。
そして。
アスカ:「じゃあ一つ聞く」
トウジ:「なんや」
アスカ:「もし、そいつが暴走したら?」
トウジ:「俺が止める」
アスカ:「止められなかったら?」
トウジ:「……」
俺は答えられなかった。
アスカ:「ほら」
アスカは少しだけ目を細める。
アスカ:「アンタ自身にも分からないんじゃない」
トウジ:「……そうや」
アスカ:「なら」
アスカは立ち上がる。
アスカ:「私はアンタを信用しない」
トウジ:「分かった」
アスカ:「でも」
少し間。
アスカ:「昨日、シンジがアンタを殺さなかったのは」
トウジ:「……」
アスカ:「たぶん、正解だったと思う」
それだけ言って。
アスカは去った。
トウジ:(……十分やな)
今は。
それでいい。
初号機格納庫
その頃。
シンジは一人で初号機を見上げていた。
巨大な紫色の巨人。
シンジ:(……使徒)
昨日まで。
使徒は。
倒すものだった。
戦うものだった。
なのに。
トウジは。
その使徒と話した。
友達になった。
シンジ:(そんなこと、できるのかな)
初号機の胸部。
そこに。
微かな反応がある。
シンジは見上げた。
シンジ:「……綾波?」
レイ:「碇君」
いつの間にか。
レイがいた。
シンジ:「綾波」
レイ:「どうしたの?」
シンジ:「トウジのこと」
レイ:「……」
シンジ:「怖くない?」
レイ:「怖い」
シンジは驚いた。
シンジ:「綾波でも?」
レイ:「怖いものは、怖い」
シンジ:「……そっか」
レイ:「でも」
シンジ:「?」
レイ:「あの人の中にいるものは」
レイは初号機を見る。
レイ:「殺意だけではない」
シンジ:「どういうこと?」
レイ:「分からない」
シンジ:「……」
レイ:「でも」
レイは小さく目を伏せた。
レイ:「昨日、聞こえた」
シンジ:「何が?」
レイ:「声」
シンジ:「バルディエル?」
レイ:「……たぶん」
シンジ:「何て?」
レイ:「『生きたい』」
シンジは黙った。
司令室
ゲンドウ:「三号機の解析は」
リツコ:「進めています」
ゲンドウ:「結果は」
リツコ:「鈴原君とバルディエルは、完全に分離しているわけではない」
ゲンドウ:「……」
リツコ:「けれど、融合とも違う」
冬月:「では何だ?」
リツコ:「まだ分からないわ」
ゲンドウ:「そうか」
リツコ:「それと」
ゲンドウ:「?」
リツコ:「精神接続時、未知の反応が出た」
ゲンドウ:「数は」
リツコ:「一つ」
ゲンドウは画面を見る。
波形。
一瞬だけ。
未知の反応。
しかし。
すぐに消えている。
ゲンドウ:「記録しておけ」
リツコ:「ええ」
冬月:「碇」
ゲンドウ:「何だ」
冬月:「鈴原を危険視しないのか」
ゲンドウ:「する」
冬月:「ならば」
ゲンドウ:「観察する」
冬月:「……」
ゲンドウ:「まだ使える」
それだけだった。
夕方
学校から帰る。
俺は一人で歩いていた。
夕日。
長い影。
トウジ:(今日一日、何も起こらんかったな)
そう思った瞬間。
胸が痛んだ。
トウジ:「……っ」
膝をつく。
ドクン。
バルディエル:『……痛い』
トウジ:(お前もか?)
バルディエル:『……近い』
トウジ:(何が?)
バルディエル:『……同じ』
トウジ:(同じ?)
周囲を見る。
誰もいない。
街も静か。
でも。
空気がおかしい。
トウジ:(何か来るんか?)
バルディエル:『……違う』
トウジ:(じゃあ何や)
バルディエル:『……呼んでる』
トウジ:(誰が?)
答えが返る前に。
一瞬だけ。
空が歪んだ。
トウジ:「……?」
何もない。
ただの夕空。
けれど。
俺には見えた。
遠く。
空の向こう。
巨大な輪郭。
まだ。
こちらへ来ていない。
でも。
確かに。
何かがいる。
バルディエル:『……使徒』
トウジ:(……次か?)
俺は拳を握った。
だが。
バルディエル:『……違う』
トウジ:(何が?)
バルディエル:『……まだ』
トウジ:(まだ?)
空は元に戻った。
トウジ:「……なんやったんや」
夜
葛城家。
ミサト:「ただいまー」
ペンペンが鳴く。
ミサトは冷蔵庫を開ける。
ミサト:「ビール……」
一瞬。
止まる。
ミサト:「……今日はやめとこう」
冷蔵庫を閉める。
珍しい。
ミサトは机に座る。
目の前には。
三号機の資料。
侵食率。
100.1%。
ミサト:「……鈴原君」
そこへ。
電話。
ミサト:「はい、葛城です」
マヤの声。
マヤ:『葛城さん』
ミサト:「どうしたの?」
マヤ:『鈴原君の生体データなんですが』
ミサト:「何かあった?」
マヤ:『今日の検査後から、微妙な変化が』
ミサト:「変化?」
マヤ:『心拍です』
ミサト:「正常じゃないの?」
マヤ:『正常なんです』
ミサト:「ならいいじゃない」
マヤ:『……でも』
ミサト:「?」
マヤ:『一人分じゃないんです』
ミサトの表情が変わる。
ミサト:「どういうこと?」
マヤ:『二つの波形が、ほぼ完全に同期しています』
ミサト:「バルディエル?」
マヤ:『はい』
ミサト:「それなら」
マヤ:『問題は』
一拍。
マヤ:『二つ目の波形が、鈴原君の心拍そのものではないことです』
ミサト:「……」
電話の向こう。
マヤ:『鈴原君とバルディエルの間に』
マヤ:『もう一つ、何かがいる可能性があります』
ミサト:「……赤木博士には?」
マヤ:『まだです』
ミサト:「黙ってて」
マヤ:『え?』
ミサト:「私から話す」
電話を切る。
ミサトは資料を見る。
そして。
小さく呟いた。
ミサト:「……何なのよ、アンタ」
深夜
俺は眠っていた。
夢。
また赤い海。
でも。
今度は違った。
バルディエルがいる。
その隣。
俺がいる。
そして。
遠く。
何かが立っている。
姿は見えない。
声も聞こえない。
ただ。
こちらを見ている。
俺は問いかける。
トウジ:「お前、誰や」
返事はない。
バルディエルが俺の腕を掴む。
バルディエル:『……行く』
トウジ:「どこへ?」
バルディエル:『……ここから』
トウジ:「なんで?」
バルディエル:『……まだ早い』
トウジ:「何が?」
バルディエル:『……名前』
トウジ:「名前?」
バルディエル:『……まだ、ない』
その瞬間。
遠くの存在が。
一歩。
こちらへ近づいた。
俺は息を呑む。
トウジ:「……!」
目を覚ます。
汗。
息が荒い。
時計。
午前3時17分。
トウジ:「……夢」
だと思った。
だが。
左腕を見る。
黒い線が一本。
皮膚の下に浮かんでいる。
俺は触れる。
すると。
頭の中で。
バルディエル:『……夢ではない』
トウジ:「……」
バルディエル:『……見つかった』
トウジ:(誰に?)
返事はない。
ただ。
窓の外。
夜空に。
一瞬だけ。
赤い光が走った。
翌日
NERV。
MAGI。
警告音。
マヤ:「微弱な未確認反応!」
リツコ:「場所は?」
マヤ:「第三新東京市上空!」
リツコ:「使徒?」
マヤ:「……判定できません」
ミサト:「判定できない?」
マヤ:「ATフィールドはありません」
リツコ:「なら使徒ではない」
マヤ:「ですが」
画面。
空の一部に。
ほんの僅かな歪み。
マヤ:「生体反応があります」
ミサト:「規模は?」
マヤ:「……不明」
リツコは画面を見つめる。
そして。
静かに言った。
リツコ:「まだ、来ていない」
ミサト:「え?」
リツコ:「これは侵入じゃない」
一拍。
リツコ:「観測されている」
屋上
俺は空を見ていた。
シンジ:「トウジ」
トウジ:「おう」
シンジ:「何を見てるの?」
トウジ:「分からん」
シンジ:「……怖い?」
トウジ:「ああ」
シンジ:「僕も」
二人で空を見る。
少し離れた場所。
アスカがいる。
アスカ:「ちょっと!」
トウジ:「なんや」
アスカ:「二人で何やってんのよ!」
シンジ:「空を見てる」
アスカ:「見れば分かるわよ!」
トウジ:「まあええやん」
アスカ:「よくない!」
アスカは空を見る。
そして。
少し黙る。
アスカ:「……何もないじゃない」
トウジ:「せやな」
アスカ:「なのに」
トウジ:「?」
アスカ:「なんで、そんな顔してるの?」
俺は答えられなかった。
そのとき。
レイが屋上へ来た。
レイ:「……来る」
三人が振り返る。
シンジ:「綾波?」
レイ:「まだ」
アスカ:「何よ、それ」
レイ:「でも」
レイは空を見る。
レイ:「遠くない」
風が吹く。
四人の髪が揺れる。
誰も。
何も言わない。
そして。
俺の胸で。
二つの鼓動が鳴った。
ドクン。
ドクン。
俺は左腕を握った。
トウジ:(……バルディエル)
バルディエル:『……戦う?』
トウジ:(まだや)
バルディエル:『……なぜ』
トウジ:(まだ敵やと決まってへん)
バルディエル:『……』
トウジ:(俺たちが最初にされたこと、覚えとるか?)
バルディエル:『……侵食』
トウジ:(そうや)
トウジ:(せやから、俺は同じことはせん)
バルディエル:『……分かった』
俺は空を見上げた。
トウジ:(戦う前に)
トウジ:(話す)
だが。
その決意を。
まだ誰も知らない。
そして。
遠い空の彼方。
巨大な何かが。
ゆっくりと。
この世界へ近づいていた。
第二話 終
次回予告
ミサト:「次回!」
ミサト:「鈴原君の中にいるバルディエルとの共存が始まった……と思ったら!」
ミサト:「第三新東京市上空に、正体不明の生体反応!」
ミサト:「まだ姿は見えない。でも、確実に近づいている!」
ミサト:「一方、シンジ君は鈴原君を信じたい気持ちと、使徒への恐怖の間で揺れ始める!」
ミサト:「そしてアスカは、もちろん素直じゃありません!」
ミサト:「次回!」
ミサト:「『第三話 四号機の亡霊』」
ミサト:「今度は、エヴァそのものにまつわる秘密が動き出す!」
ミサト:「サービス、サービスぅ!」
――空から来るもの。
それは。
まだ。
敵とは決まっていなかった。