第十三の主従   作:知人

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第三話 四号機の亡霊

 

――午前六時。

NERV本部。

発令所に警報が鳴り響いていた。

マヤ:「未確認反応、再び出現!」

ミサト:「場所は?」

マヤ:「第三新東京市上空。昨日と同じです」

リツコ:「大きさは?」

マヤ:「観測できません」

ミサト:「また?」

マヤ:「はい」

青葉:「ATフィールド、確認できません」

日向:「光学観測にも何も映ってないぞ」

ミサト:「なのに生体反応だけはある?」

マヤ:「……はい」

発令所に沈黙が落ちる。

リツコはモニターを見つめていた。

昨日から。

何度も同じ反応が出ている。

空間の歪み。

微弱な生体反応。

しかし。

姿はない。

リツコ:「これは使徒じゃないわ」

ミサト:「じゃあ何?」

リツコ:「分からない」

短い答えだった。

それ以上。

リツコは説明しなかった。

そのとき。

ゲンドウ:「鈴原を呼べ」

ミサトが振り返る。

ミサト:「鈴原君を?」

ゲンドウ:「そうだ」

ミサト:「この反応と、あの子に何か関係があると?」

ゲンドウ:「……」

ゲンドウは答えない。

ただ。

モニターに映る波形を見る。

一瞬。

波形が乱れた。

ゲンドウ:「関係がある」

それだけだった。

 

学校

朝。

教室。

俺は席に座っていた。

いつも通り。

……とは言えない。

クラスメイトの視線が痛い。

ケンスケ:「鈴原」

トウジ:「なんや」

ケンスケ:「昨日の検査って何だったんだ?」

トウジ:「普通の検査や」

ケンスケ:「本当に?」

トウジ:「本当や」

ケンスケ:「左腕、見せてくれよ」

トウジ:「嫌や」

ケンスケ:「なんで?」

トウジ:「見せもんちゃうからな」

ケンスケ:「ちぇっ」

隣で。

シンジが苦笑する。

シンジ:「ケンスケ、やめた方がいいよ」

ケンスケ:「だって気になるじゃん」

シンジ:「……まあ」

シンジも。

気になっている。

昨日。

俺の中にいる使徒を見たわけじゃない。

でも。

知ってしまった。

俺の中には。

人間ではない存在がいる。

それを。

シンジはまだ完全には受け入れられていない。

それでいい。

無理に受け入れる必要はない。

俺だって。

まだ怖い。

そのとき。

教室の扉が開いた。

アスカ:「ちょっと、転校生!」

トウジ:「なんや」

アスカ:「先生が呼んでるわよ」

トウジ:「俺を?」

アスカ:「そう」

トウジ:「分かった」

立ち上がる。

アスカが小声で続ける。

アスカ:「……昨日のこと」

トウジ:「ん?」

アスカ:「誰にも言わないでおく」

トウジ:「何を?」

アスカ:「アンタが使徒と話せること」

トウジ:「……ありがとうな」

アスカ:「勘違いしないで」

トウジ:「?」

アスカ:「信用したわけじゃないから」

トウジ:「分かっとる」

アスカ:「……ならいい」

俺は教室を出た。

背後で。

シンジがアスカを見る。

シンジ:「アスカ」

アスカ:「何よ」

シンジ:「少し優しくなったね」

アスカ:「なってない!」

 

NERV

俺が発令所へ入ると。

ミサトが待っていた。

ミサト:「来たわね」

トウジ:「何かあったんですか?」

ミサト:「昨日から、空に妙な反応が出てる」

トウジ:「使徒ですか?」

リツコ:「違う」

トウジ:「……」

リツコ:「ATフィールドがない」

トウジ:「でも、生体反応はある」

リツコ:「そう」

俺はモニターを見る。

何もない空。

ただ。

データだけが表示されている。

UNKNOWN BIOPATTERN

俺は眉をひそめた。

トウジ:「バルディエル」

バルディエル:『……違う』

トウジ:(使徒ちゃうんか?)

バルディエル:『……分からない』

トウジ:(珍しいな)

バルディエル:『……でも』

トウジ:(でも?)

バルディエル:『……知っている』

トウジ:(何を?)

バルディエル:『……匂い』

トウジ:(匂い?)

バルディエル:『……同じ』

俺は黙った。

リツコ:「何か聞こえた?」

トウジ:「……ああ」

ミサト:「何て?」

トウジ:「こいつは、昨日の使徒とは違う」

リツコ:「それだけ?」

トウジ:「でも」

俺は画面を見る。

トウジ:「バルディエルは、知ってるみたいです」

リツコ:「……」

リツコが画面を拡大する。

そこに。

古い記録が表示された。

トウジ:「これは?」

リツコ:「過去のエヴァ関連記録」

ミサト:「四号機の資料ね」

俺の背筋が冷たくなった。

トウジ:(四号機……)

知っている。

原作。

アメリカ。

エヴァンゲリオン四号機。

S²機関。

実験中に消滅。

そして。

その後。

弐号機と量産機へ繋がる計画。

だが。

ここは俺が知っている原作とは違う。

参号機がまだ壊れていない。

俺が生きている。

なら。

四号機も。

同じ運命とは限らない。

リツコ:「四号機の実験データは、ほとんど残っていない」

ミサト:「事故で消えたからね」

トウジ:「……事故?」

リツコ:「そう」

トウジ:「本当に?」

リツコが俺を見る。

リツコ:「何か知っているの?」

トウジ:「いや」

嘘だった。

俺は。

知っている。

でも。

この世界の四号機がどうなったのかは。

知らない。

 

第四格納庫

俺は格納庫へ案内された。

巨大な扉。

開く。

中には。

何もない。

ただ。

一つの台座。

そして。

そこに残された記録装置。

ミサト:「ここが?」

リツコ:「四号機関連の隔離区画」

トウジ:「エヴァは?」

リツコ:「ない」

トウジ:「……」

リツコ:「正確には」

リツコがモニターを見る。

リツコ:「存在しない」

トウジ:「どういう意味です?」

リツコ:「四号機は、記録上」

一拍。

リツコ:「消えた」

トウジ:「事故で?」

リツコ:「そう」

俺は台座を見る。

何もない。

それなのに。

胸が。

ドクン。

バルディエル:『……近い』

トウジ:(どこに?)

バルディエル:『……ここ』

トウジ:(四号機が?)

バルディエル:『……違う』

トウジ:(じゃあ?)

バルディエル:『……残ったもの』

俺は台座へ近づく。

その瞬間。

左腕が痛んだ。

トウジ:「……っ!」

ミサト:「鈴原君?」

トウジ:「大丈夫です」

リツコ:「左腕?」

トウジ:「ちょっと痛んだだけです」

バルディエル:『……触るな』

トウジ:(何や?)

バルディエル:『……痛い』

トウジ:(お前が?)

バルディエル:『……記憶』

トウジ:(記憶?)

その瞬間。

視界が暗転した。

 

精神世界

赤い海。

俺は立っている。

だが。

今までとは違った。

目の前に。

巨大な白い腕が落ちている。

焼けている。

崩れている。

そして。

その奥に。

巨大な影。

バルディエルだった。

トウジ:「……これ」

バルディエル:『……残骸』

トウジ:「何の?」

バルディエル:『……仲間』

トウジ:「仲間?」

バルディエル:『……近い』

赤い海に。

映像が浮かぶ。

巨大なエヴァ。

白い装甲。

四号機。

実験施設。

警報。

人間たちが逃げている。

そして。

突然。

空間が歪む。

四号機の周囲に。

黒い影が広がる。

トウジ:「……原作と違う」

バルディエル:『……?』

トウジ:「いや」

映像の中。

四号機が消える。

爆発ではない。

溶けたわけでもない。

ただ。

空間そのものに。

飲み込まれる。

トウジ:「……何やこれ」

バルディエル:『……扉』

トウジ:「扉?」

バルディエル:『……向こう側』

トウジ:「どこへ繋がっとる?」

バルディエル:『……知らない』

俺は映像を見る。

最後。

四号機のコアだけが。

空間の裂け目に残される。

そのコアへ。

何かが触れる。

小さな影。

人間の子供くらい。

だが。

顔はない。

俺は息を呑む。

トウジ:「……誰や」

影は。

俺を見る。

???:『……』

声はない。

トウジ:「お前」

???:『……』

バルディエルが前へ出る。

バルディエル:『……帰れ』

影は動かない。

トウジ:「知り合いなんか?」

バルディエル:『……違う』

トウジ:「じゃあ何や」

バルディエル:『……欠片』

その言葉と同時に。

影が消えた。

 

現実

トウジ:「……!」

目を開ける。

格納庫。

ミサトが肩を掴んでいる。

ミサト:「鈴原君!」

トウジ:「……大丈夫です」

ミサト:「急に倒れたのよ!」

リツコ:「精神接続ね」

トウジ:「……はい」

リツコ:「何を見たの?」

俺は迷った。

全部話すべきか。

それとも。

黙るべきか。

トウジ:「四号機」

リツコ:「……」

トウジ:「あれは事故やない」

リツコ:「どういう意味?」

トウジ:「消えたんです」

ミサト:「消えた?」

トウジ:「空間に」

リツコの表情が変わる。

トウジ:「それから」

俺は左腕を見る。

トウジ:「何かが残った」

リツコ:「何か?」

トウジ:「バルディエルは、それを『欠片』って」

リツコ:「……」

リツコはしばらく考え。

リツコ:「その名前を記録する」

マヤ:「はい」

端末。

新しい項目が追加される。

UNKNOWN BIOPATTERN

分類。

――FRAGMENT。

 

夕方

NERV本部。

俺は帰ろうとしていた。

ミサト:「鈴原君」

トウジ:「はい?」

ミサト:「今日は一人で帰らないで」

トウジ:「なんでです?」

ミサト:「念のため」

トウジ:「使徒が来るんですか?」

ミサト:「分からない」

トウジ:「……」

ミサト:「でも」

ミサトは少しだけ笑う。

ミサト:「嫌な予感はするの」

トウジ:「葛城さん」

ミサト:「何?」

トウジ:「俺、戦えます」

ミサト:「知ってる」

トウジ:「バルディエルも」

ミサト:「でも」

ミサトは真剣な顔になる。

ミサト:「戦えることと、戦っていいことは別よ」

トウジ:「……」

ミサト:「忘れないで」

トウジ:「はい」

 

夜道

俺は一人だった。

結局。

途中まで送ってもらったあと。

自宅まで歩く。

静かな街。

トウジ:(……欠片)

頭の中に。

あの影が残っている。

顔のない子供。

四号機のコア。

空間の裂け目。

そして。

バルディエルの反応。

トウジ:(何やねん)

ドクン。

トウジ:(バルディエル)

バルディエル:『……怖い』

トウジ:(またか)

バルディエル:『……あれは』

トウジ:(何や?)

バルディエル:『……使徒ではない』

トウジ:(じゃあ?)

バルディエル:『……使徒の一部』

俺は立ち止まった。

トウジ:(欠片……)

バルディエル:『……生まれる前』

トウジ:(生まれる前?)

バルディエル:『……形がない』

そのとき。

街灯が。

一つ。

消えた。

トウジ:「……」

二つ目。

消える。

三つ目。

消える。

俺の前だけ。

暗闇になる。

そして。

その暗闇の奥。

誰かが立っている。

小さい。

人間の子供くらい。

顔がない。

トウジ:「……お前」

影が。

一歩近づく。

トウジ:「四号機の……」

影は。

首を傾げる。

そして。

初めて。

声を出した。

???:「……おとうさん」

トウジ:「……は?」

影:「……おとうさん」

トウジ:「誰がや!」

影:「……」

影が。

俺の左腕を見る。

そして。

微笑んだ。

顔がないはずなのに。

俺には。

笑ったように見えた。

???:「……見つけた」

その瞬間。

左腕に。

黒い線が一本。

走った。

トウジ:「……っ!」

バルディエル:『……逃げろ』

トウジ:(なんで!?)

バルディエル:『……違う』

トウジ:(何が!?)

バルディエル:『……あれは』

長い沈黙。

そして。

初めて。

バルディエルが震えた。

バルディエル:『……俺より古い』

影が。

もう一歩。

近づく。

俺は。

動けなかった。

 

NERV発令所

同時刻。

警報。

マヤ:「未確認反応!」

ミサト:「場所!」

マヤ:「第三新東京市!」

ミサト:「また?」

マヤ:「……違います!」

ミサト:「何が違うの?」

マヤ:「反応が……二つあります!」

リツコ:「二つ?」

マヤ:「一つは鈴原君!」

ミサト:「もう一つは!?」

マヤ:「分かりません!」

画面。

UNKNOWN BIOPATTERN。

一つ。

そして。

その下。

UNKNOWN BIOPATTERN。

二つ目。

リツコ:「……」

ゲンドウ:「……」

冬月:「碇」

ゲンドウは。

モニターを見たまま。

一言だけ。

ゲンドウ:「始まったか」

 

夜道

影が。

俺の目の前に立つ。

トウジ:「……お前」

影:「……」

トウジ:「何者や」

影は。

答えない。

代わりに。

俺の胸へ。

手を伸ばす。

触れた瞬間。

――ドクン。

俺の鼓動。

――ドクン。

バルディエル。

そして。

――ドクン。

三つ目。

俺は目を見開いた。

トウジ:「……第三?」

影が。

初めて。

言葉を発した。

???:「……まだ」

トウジ:「何が?」

???:「……ひとつ」

トウジ:「……」

???:「……足りない」

その瞬間。

空が。

一瞬だけ。

赤く染まった。

そして。

影は消えた。

残ったのは。

俺と。

二つの鼓動。

そして。

遠くから響く。

NERVの警報だけだった。

 

第三話 終

次回予告

ミサト:「次回!」

ミサト:「四号機は事故で消えたんじゃなかった!」

ミサト:「空間の向こう側に残された、謎の『欠片』!」

ミサト:「しかも鈴原君を『おとうさん』と呼ぶなんて、一体どういうこと!?」

ミサト:「シンジ君は、ますますトウジ君のことが心配になる!」

ミサト:「アスカは……当然、全力で疑ってます!」

ミサト:「そしてNERVでは、参号機の中にあるバルディエルとは別の反応が確認される!」

ミサト:「まだ契約は一つ!」

ミサト:「光輪も、まだ四枚!」

ミサト:「でも、何かが始まろうとしている!」

ミサト:「次回!」

ミサト:「『第四話 欠片』」

ミサト:「使徒と人間の間に生まれたもの――それは敵? それとも……」

ミサト:「サービス、サービスぅ!」

――まだ。

誰も知らない。

「契約」が増えることの。

本当の意味を。

 

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