第十三の主従   作:知人

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第四話 欠片

 

――午前四時。

第三新東京市。

街灯が、一つずつ消えていく。

暗闇の中。

鈴原トウジは立っていた。

目の前には。

あの「欠片」。

人間の子供ほどの大きさ。

輪郭だけがある。

顔はない。

なのに。

こちらを見ていることだけは分かる。

トウジ:「……お前」

返事はない。

トウジ:「昨日、俺のことを『おとうさん』って呼んだよな。」

沈黙。

トウジ:「どういう意味や。」

欠片:「……」

トウジ:「バルディエル。」

バルディエル:『……分からない。』

トウジ:「お前も分からんのか。」

バルディエル:『……知らない。』

欠片が一歩近づく。

トウジは反射的に下がった。

トウジ:「近づくな。」

欠片は止まる。

(……従った?)

その時。

遠くからエンジン音。

ヘッドライトが闇を切り裂く。

ミサト:「鈴原君!」

車から飛び降りたミサトが拳銃を構える。

ミサト:「離れて!」

トウジ:「待ってください!」

ミサト:「下がりなさい!」

欠片はミサトを見る。

いや。

その向こう――NERV本部の方角を見ていた。

欠片:「……おかあさん。」

ミサト:「……は?」

トウジ:(母親?)

バルディエル:『違う。』

トウジ:(またか。)

バルディエル:『母ではない。』

トウジ:(じゃあ。)

バルディエル:『母の気配だ。』

トウジは息を呑む。

(リリス……。)

欠片は何かを誤認している。

トウジ:「葛城さん。こいつ、誰かを母親と間違えてます。」

ミサト:「……赤木博士に繋ぐ。」

その瞬間。

欠片が地面へ手をついた。

ミサト:「伏せて!」

黒い線が道路を走る。

一本。

二本。

三本。

まるで地下へ潜るように、NERVの方角へ伸びていった。

トウジ:「何や、これ。」

バルディエル:『呼んでいる。』

トウジ:(誰を。)

バルディエル:『仲間。』

NERV本部・発令所

警報。

マヤ:「地下構造物に異常反応!」

ミサト:「場所!」

マヤ:「ターミナルドグマ手前、旧封印区画です!」

リツコの指が止まる。

「旧封印区画。」

端末を開く。

地下深く。

中央シャフト。

ターミナルドグマへ至る途中。

普段は表示されない赤い区画が浮かび上がる。

リツコ:「……封鎖記録しか残ってない。」

ミサト:「誰が?」

リツコ:「消されてる。」

沈黙。

ゲンドウ:「開けろ。」

リツコ:「危険よ。」

ゲンドウ:「構わん。」

重い隔壁が動く。

長年開かなかった扉が。

軋みながら開いた。

旧封印区画

誰も使っていない。

そんな空気だった。

中央に円形の台座。

その上に。

黒いコア。

小さく脈打っている。

ドクン。

マヤ:「生体反応上昇!」

リツコ:「……。」

冬月:「何だ。」

リツコ:「エヴァのコアに似ている。」

ゲンドウ:「似ている、か。」

その瞬間。

コアが一度だけ鼓動した。

ドクン。

照明が落ちる。

マヤ:「停電!」

青葉:「電源異常なし!」

モニター。

一斉に同じ表示。

UNKNOWN BIOPATTERN

その下。

二本の波形。

リツコ:「……二つ。」

マヤ:「数が増えました。」

リツコ:「違う。」

マヤ:「え?」

リツコ:「最初から二つあった。」

誰も喋らなくなった。

旧封印区画・内部

ゲンドウと冬月だけが中へ入る。

黒いコア。

ゲンドウは見つめる。

冬月:「知っていたのか。」

ゲンドウ:「……昔、一度だけ見た。」

冬月:「南極か。」

ゲンドウは答えない。

冬月:「これは何だ。」

ゲンドウ:「欠片。」

それだけだった。

ゲンドウが近づく。

その時。

コアから声。

???:「……おとうさん。」

ゲンドウの足が止まる。

冬月:「聞こえたな。」

ゲンドウ:「ああ。」

沈黙。

ゲンドウ:「誰だ。」

返事はない。

ただ。

黒いコアだけが静かに脈打っていた。

ドクン。

その鼓動だけが。

部屋に残った。

葛城邸

朝。

眠れなかった。

左腕を見る。

黒い線は消えている。

トウジ:(欠片。)

バルディエル:『眠れ。』

トウジ:(お前は寝るんか。)

バルディエル:『寝ない。』

トウジ:(何や、それ。)

バルディエル:『夢を見る。』

トウジ:(夢?)

長い沈黙。

バルディエル:『昔。』

トウジ:(昔?)

バルディエル:『人間を見た。』

トウジは黙る。

バルディエル:『泣いていた。』

トウジ:(それで。)

バルディエル:『近づいた。』

トウジ:(そしたら。)

バルディエル:『殺された。』

胸が締め付けられた。

トウジ:「……そうか。」

バルディエル:『人間は怖い。』

トウジ:「せやな。」

少し笑う。

トウジ:「でも、俺は人間や。」

バルディエル:『……。』

トウジ:「たぶん。」

学校

シンジ:「トウジ。」

トウジ:「何や。」

シンジ:「昨日、NERVから呼ばれたって。」

トウジ:「ああ。」

シンジ:「また何かあった?」

トウジ:「欠片。」

シンジ:「……怖い。」

トウジ:「うん。」

シンジ:「ごめん。」

トウジ:「謝らんでええ。」

トウジ:「怖いままでええ。」

シンジは小さく頷いた。

少し離れた席。

アスカが二人を見ていた。

(……本当に使徒なの。)

屋上

昼休み。

アスカ:「鈴原。」

トウジ:「なんや。」

アスカ:「欠片。」

トウジ:「何か。」

アスカ:「見せて。」

トウジ:「嫌や。」

アスカ:「は?」

トウジ:「危ない。」

アスカ:「アンタが言う?」

トウジ:「俺も怖い。」

沈黙。

アスカ:「……変わったわね。」

トウジ:「何が。」

アスカ:「前はもっと単純だった。」

トウジ:「失礼や。」

アスカ:「でも。」

空を見る。

アスカ:「今のアンタ。」

一拍。

「自分を怖がってる。」

トウジは答えなかった。

医務室

検査。

リツコ:「同期率。」

マヤ:「74%。」

リツコ:「高い。」

マヤ:「ただ。」

画面。

第三の波形。

0.7%。

トウジ:「ほとんどない。」

リツコ:「昨日は0.2%。」

トウジ:「……。」

増えている。

その時。

バルディエル:『来る。』

トウジ:(何が。)

バルディエル:『外。』

警報。

マヤ:「上空反応!」

リツコ:「映像。」

発令所

空。

雲。

その中央。

巨大な影。

輪が幾重にも重なる。

マヤ:「ATフィールド確認!」

ミサト:「番号!」

数秒。

MAGIが判定を出す。

第10使徒。

サハクィエル。

ミサト:「第10使徒、サハクィエル。」

リツコ:「予定より早い。」

迎撃準備が始まる。

トウジは画面を見る。

胸の奥。

バルディエル:『知っている。』

トウジ:(サハクィエルを?)

バルディエル:『違う。』

一拍。

『あの中に。』

トウジ:「……!」

サハクィエル。

巨大なコア。

その奥。

ほんの一瞬。

黒い影。

欠片。

そして。

声。

『……おとうさん。』

トウジは息を呑んだ。

トウジ:「あいつ。」

ミサト:「何。」

トウジ:「サハクィエルの中に。」

静寂。

トウジ:「欠片がいます。」

バルディエルは震えていた。

『来る。』

トウジ:(契約か。)

『二つ目。』

俺は拳を握る。

(殺さない。)

(まず、話す。)

その決意を嘲笑うように。

サハクィエルは。

ゆっくりと。

第三新東京市へ向かって落下を始めた。

第四話 終

次回予告

ミサト:「次回!」

ミサト:「空から落ちてくる第10使徒サハクィエル!」

ミサト:「でも鈴原君は『あいつの中に欠片がいる』って言うの!」

ミサト:「戦う? それとも話す?」

ミサト:「二つ目の契約、その代償は左腕だけじゃ済まないかもしれない!」

ミサト:「次回、『第五話 落下する天使』!」

ミサト:「サービス、サービスぅ!」

 

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