NERV本部・発令所
警報が止まらない。
赤い回転灯が天井を染める。
マヤ:「目標、高度一万七千!」
青葉:「落下速度上昇!」
日向:「予測着弾地点、第三新東京市中心部!」
ミサトはスクリーンを見上げた。
巨大な円。
幾重にも重なる輪。
その中心で脈打つコア。
第10使徒、サハクィエル。
原作通りなら。
ここから都市ごと押し潰される。
だが。
一つだけ違う。
トウジ:「あの中に欠片がおる。」
発令所が静まり返る。
リツコは短く息を吐いた。
リツコ:「確認は?」
トウジ:「見えました。」
リツコ:「確信?」
トウジ:「……あります。」
ゲンドウ:「出撃。」
その一言で全員が動いた。
発進準備
参号機格納庫。
拘束具が外れる。
金属音が地下へ響く。
トウジはエントリープラグへ乗り込んだ。
LCL。
モニター起動。
シンクロ開始。
マヤ:「シンクロ率52.4。」
昨日より高い。
トウジ:(上がっとる。)
バルディエル:『近い。』
トウジ:(サハクィエルか。)
『そう。』
左腕が疼く。
まだ変化しない。
契約を使っていないからだ。
それが救いだった。
隣の格納庫。
初号機。
シンジはヘルメットを握っていた。
シンジ:「トウジ。」
通信が開く。
トウジ:「おう。」
シンジ:「……無茶しないで。」
トウジ:「約束できへん。」
シンジ:「……。」
トウジ:「でも。」
少し笑う。
「帰る。」
シンジは小さく頷いた。
弐号機。
アスカが鼻を鳴らす。
アスカ:「アンタ。」
トウジ:「何や。」
アスカ:「勝手に死んだら承知しない。」
トウジ:「偉そうやな。」
アスカ:「当然。」
少し間。
アスカ:「……あと。」
トウジ:「?」
アスカ:「その使徒に身体を渡すな。」
トウジ:「渡さん。」
バルディエルが静かに答えた。
『渡さない。』
その声は。
俺だけに聞こえていた。
発進
ミサト:「エヴァ各機、発進!」
射出。
初号機。
弐号機。
そして。
エヴァンゲリオン参号機。
地上へ飛び出す。
眩しい空。
その遥か上。
サハクィエルが回転していた。
巨大だった。
原作以上に。
静かだった。
まるで。
落ちることだけを決めた天体。
迎撃開始
アスカ:「先に行く!」
弐号機が跳ぶ。
高層ビルを蹴る。
ライフル射撃。
光弾。
だが。
サハクィエルまで届かない。
距離が遠すぎる。
シンジ:「ATフィールド!」
初号機が展開。
都市防衛ラインを構築する。
ミサト:「いいわ、そのまま維持!」
トウジは動かなかった。
空を見続ける。
ミサト:「鈴原君!」
トウジ:「待ってください。」
ミサト:「何を!」
トウジ:「まだ。」
バルディエル:『聞こえる。』
トウジ:(何が。)
『泣いてる。』
俺は息を止めた。
サハクィエル
誰にも聞こえない。
ただ一人。
俺だけに。
声が届く。
???:『落ちる。』
低い。
遠い。
空そのものが喋っているような声。
トウジ:「サハクィエル。」
『落ちる。』
トウジ:「聞こえるか。」
返事はない。
『落ちる。』
トウジ:「死にたいんか。」
沈黙。
そして。
初めて言葉が変わる。
『止まれない。』
俺は目を見開いた。
トウジ:「止まれへん?」
『命令。』
トウジ:(命令?)
バルディエル:『違う。』
トウジ:(何が。)
『命令ではない。』
一拍。
『本能。』
作戦変更
発令所。
マヤ:「目標速度増加!」
ミサト:「迎撃ライン変更!」
リツコ:「このままでは間に合わない。」
ゲンドウ:「……。」
冬月:「碇。」
ゲンドウ:「参号機。」
ミサトが振り返る。
ミサト:「え?」
ゲンドウ:「前へ出せ。」
ミサト:「危険です!」
ゲンドウ:「構わん。」
ミサトは舌打ちした。
ミサト:「鈴原君!」
トウジ:「はい!」
ミサト:「聞こえてるなら返事!」
トウジ:「聞こえてます!」
ミサト:「アンタに任せる!」
トウジ:「了解!」
その一言に。
シンジが振り向いた。
アスカも。
二人とも。
驚いていた。
ミサトが。
トウジに判断を委ねた。
それは初めてだった。
接近
参号機が跳ぶ。
ビル。
高速道路。
送電塔。
次々蹴る。
空へ。
まだ届かない。
トウジ:(バル。)
『いる。』
トウジ:(話せる距離か。)
『もう少し。』
左腕が熱い。
変化しそうになる。
トウジ:(まだ使わへん。)
『分かった。』
痛みが少し引いた。
契約を抑えた。
代償も抑えられた。
精神接続
空。
突然。
景色が赤く染まる。
赤い海。
俺は立っていた。
今回は。
バルディエルだけじゃない。
空そのものが。
巨大な輪になっている。
サハクィエルだった。
トウジ:「聞こえるか。」
長い沈黙。
サハクィエル:『止まれない。』
トウジ:「止まる方法探そう。」
『知らない。』
トウジ:「落ちたら街が壊れる。」
『知っている。』
トウジ:「嫌か。」
沈黙。
そして。
『嫌だ。』
その一言。
バルディエルが俺を見る。
『同じだ。』
俺も頷いた。
トウジ:「お前も一人なんか。」
サハクィエル:『空。』
トウジ:「?」
『ずっと空。』
『誰も触れない。』
胸が痛んだ。
また。
孤独だ。
また。
同じだ。
欠片
その時。
サハクィエルの中心。
黒い影。
欠片。
子供ほどの姿。
顔がない。
でも。
笑っている。
欠片:「おとうさん。」
トウジ:「……。」
欠片:「帰ろ。」
トウジ:「どこへ。」
欠片:「おかあさん。」
リリス。
やはり。
あれは。
ターミナルドグマを目指している。
バルディエルが前へ出る。
『近づくな。』
欠片:「まだ。」
バルディエル:『帰れ。』
欠片:「まだ足りない。」
その瞬間。
精神世界が崩れた。
現実
参号機が落下する。
トウジ:「ぐっ!」
シンジ:「トウジ!」
初号機が受け止める。
アスカ:「何やってんの!」
トウジ:「話してた!」
アスカ:「戦闘中よ!」
ミサト:「状況!」
トウジ:「サハクィエルは止まりたい!」
発令所。
沈黙。
リツコ:「本当?」
トウジ:「嘘つく理由ない!」
ミサト:「続けて!」
トウジ:「でも。」
俺は空を見る。
「欠片が邪魔しとる。」
都市防衛
サハクィエルがさらに降下。
ビルが震える。
避難警報。
市民が走る。
シンジ:「ATフィールド!」
初号機が押し返す。
弐号機が支える。
参号機が飛ぶ。
まだ契約は使わない。
まだ。
左腕は人間のまま。
その方が。
サハクィエルへ届く気がした。
発令所
リツコ:「葛城一尉。」
ミサト:「何。」
リツコ:「一つだけ可能性がある。」
ミサト:「何。」
リツコ:「コア。」
それだけだった。
ミサトは理解した。
「コアへ届けば。」
リツコは頷く。
ミサト:「鈴原君!」
トウジ:「はい!」
ミサト:「コアまで行ける!?」
トウジは空を見上げる。
遠い。
高い。
だが。
届く。
トウジ:「行きます。」
バルディエル:『痛い。』
トウジ:(分かっとる。)
『それでも?』
トウジ:(約束した。)
『帰るって。』
バルディエルが静かに笑った気がした。
『うん。』
ラスト
参号機が跳ぶ。
都市。
空。
雲を突き抜ける。
サハクィエル。
巨大なコア。
その中心。
欠片。
二人の視線が交わる。
欠片:「来た。」
トウジ:「迎えには来てへん。」
欠片:「知ってる。」
そして。
サハクィエルの輪が。
ゆっくりと開いた。
まるで。
トウジを迎え入れるように。
第五話 終
次回予告
ミサト:「次回!」
ミサト:「ついに参号機がサハクィエルのコアへ突入!」
ミサト:「でも待ってるのは、第10使徒だけじゃない!」
ミサト:「欠片が『足りない』って言う意味は何?」
ミサト:「そしてトウジ君は、二つ目の契約を結ぶのか!」
ミサト:「次回、『第六話 空に触れる』!」
ミサト:「サービス、サービスぅ!」