第十三の主従   作:知人

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第七話 3人の鼓動

 

午前三時十七分

眠れなかった。

病室の時計は、三時十七分を指している。

不思議なことに。

この時間になると、胸の鼓動が少しだけ速くなる。

ドクン。

俺。

ドクン。

バルディエル。

ドクン。

サハクィエル。

三つ。

もう聞き間違えない。

トウジ:「……寝ぇへんのか。」

バルディエル:『眠らない。』

サハクィエル:『星を見ている。』

トウジ:「窓閉まっとるで。」

サハクィエル:『見える。』

空しか知らなかった使徒は。

地上から見る星を「近い」と表現した。

その感覚が。

少しだけ俺にも流れ込んでくる。

(……ほんまに近い。)

窓の向こう。

夜空が手の届きそうな距離に見えた。

その瞬間。

頭がズキリと痛む。

トウジ:「っ……。」

サハクィエル:『ごめん。』

トウジ:「謝るな。」

バルディエル:『混ざる。』

トウジ:「記憶か。」

『うん。』

昨日まで。

頭痛だと思っていた。

違う。

これは。

他人の記憶を、自分の脳が整理しようとしている痛みだった。

医務室

朝。

リツコが端末を見ていた。

リツコ:「昨夜の脳波。」

マヤ:「三時十七分です。」

リツコ:「また。」

マヤ:「毎日同じ時間に同期率が上がっています。」

画面。

三本の波形。

完全には重ならない。

だが。

三時十七分だけ。

ほぼ同じリズムになる。

リツコ:「理由は。」

マヤ:「分かりません。」

リツコは端末を閉じた。

「まだ。」

それ以上は言わない。

仮説を口にするには。

証拠が足りない。

検査

トウジはベッドへ座る。

リツコ:「体調は。」

トウジ:「頭痛。」

「左腕。」

「今は平気です。」

リツコ:「使って。」

トウジ:「少しだけ。」

深呼吸。

バルディエル。

『いる。』

左腕に黒い線が浮かぶ。

白い組織が皮膚の下で脈打つ。

昨日と同じ。

それ以上は変わらない。

リツコ:「止めて。」

すぐ戻す。

トウジ:「……っ。」

胸が苦しくなる。

マヤ:「心拍上昇。」

リツコ:「回復。」

数秒。

元へ戻る。

リツコは短く頷いた。

「変化なし。」

トウジ:「良かった。」

リツコ:「いいえ。」

トウジ:「?」

「悪化していないだけ。」

その言葉は。

妙に現実的だった。

シンジ

廊下。

シンジが待っていた。

シンジ:「終わった?」

トウジ:「おう。」

シンジ:「大丈夫?」

トウジ:「頭痛だけ。」

シンジは少し黙る。

シンジ:「昨日さ。」

トウジ:「うん。」

シンジ:「サハクィエル、本当に止まりたかったの?」

トウジ:「ああ。」

シンジ:「……。」

トウジ:「信じられへんか?」

シンジは首を振った。

「違う。」

「信じたい。」

その言葉に。

俺は少し安心した。

シンジ:「でも。」

「もし、次の使徒が話を聞いてくれなかったら?」

俺は答えられなかった。

バルディエルも。

サハクィエルも。

孤独だった。

だから話せた。

全部がそうとは限らない。

トウジ:「その時は。」

少し考える。

「その時考える。」

シンジは苦笑した。

「トウジらしい。」

アスカ

格納庫。

弐号機の整備を眺めている。

アスカ:「鈴原。」

トウジ:「何や。」

アスカ:「昨日。」

「ありがと。」

トウジ:「え?」

アスカ:「街。」

「潰れなかった。」

トウジ:「俺一人ちゃう。」

アスカ:「知ってる。」

腕を組む。

「でも。」

「アンタが飛び込まなかったら終わってた。」

トウジ:「……。」

アスカはすぐ目を逸らす。

「だから勘違いしないで。」

「まだ信用してない。」

トウジ:「分かっとる。」

アスカ:「……。」

少し間。

アスカ:「でも。」

「背中くらいなら預けてもいい。」

その言葉は。

アスカなりの最大限だった。

レイ

格納庫の出口。

綾波レイが立っていた。

レイ:「鈴原君。」

トウジ:「何や。」

レイ:「昨日。」

「空が静かだった。」

トウジ:「うん。」

レイ:「あなたが触れた後。」

トウジは息を止める。

レイ:「あの時。」

「泣き声が消えた。」

トウジ:「聞こえたんか。」

レイ:「聞こえた。」

少し沈黙。

レイ:「ありがとう。」

それだけ言って。

レイは去っていった。

葛城家

夜。

久しぶりに。

ミサトの家へ呼ばれた。

ペンペンが迎える。

ミサト:「今日は退院祝い!」

机の上には。

カレー。

サラダ。

缶ビール。

シンジ:「いただきます。」

トウジ:「いただきます。」

アスカ:「いただきます。」

珍しく。

静かな食卓だった。

ミサト:「そういえば。」

「参号機のこと。」

トウジ:「はい。」

「怖くない?」

箸が止まる。

トウジ:「怖いですよ。」

ミサト:「それでも乗る?」

トウジ:「乗ります。」

「何で?」

俺は少し考えた。

「俺が乗らんかったら。」

「誰かが死ぬかもしれへん。」

ミサトは何も言わなかった。

ただ。

缶ビールを開ける音だけが響いた。

夜更け

皆が寝静まった後。

俺だけ起きていた。

ベランダ。

風。

サハクィエル:『風。』

トウジ:「そうや。」

『初めて触った。』

バルディエル:『柔らかい。』

二人とも。

人間なら当たり前のことに驚いている。

少し笑った。

その時。

頭へ映像が流れた。

青空。

白い雲。

そして。

一羽の鳥。

サハクィエル:『あれは。』

トウジ:「カラス。」

『飛べる。』

トウジ:「せや。」

『羨ましい。』

トウジ:「お前も飛んどったやろ。」

『違う。』

一拍。

『落ちていた。』

その言葉が。

胸へ刺さる。

発令所

同じ頃。

MAGIが微かな異常を検知していた。

マヤ:「赤木博士。」

リツコ:「何。」

「参号機の記録です。」

画面。

戦闘ログ。

サハクィエル接触時。

一瞬だけ現れた光。

リツコ:「止めて。」

映像を拡大する。

輪。

五つ。

半透明。

一秒にも満たない。

マヤ:「レンズフレアでしょうか。」

リツコ:「違う。」

「何です?」

リツコは少し考え。

首を振る。

「まだ分からない。」

記録だけ保存する。

名前は付けない。

今は。

早すぎる。

屋上の少年

翌日。

学校。

昼休み。

屋上。

風が強い。

シンジ:「今日は誰もいないね。」

トウジ:「静かやな。」

アスカ:「珍しい。」

その時。

屋上の反対側。

白い制服。

銀色の髪。

一瞬だけ。

少年が立っていた。

トウジは目を凝らす。

次の瞬間。

誰もいない。

トウジ:「……。」

シンジ:「どうしたの?」

「いや。」

言わなかった。

確信がない。

でも。

あの笑顔。

病院で見た。

同じだった。

(また会おう。)

その言葉だけが。

耳に残る。

ターミナルドグマ

地下最深部。

リリス。

静かだった。

目は閉じたまま。

動かない。

その足元。

旧封印区画の黒いコア。

ドクン。

一度だけ鳴る。

誰も聞かない。

誰も知らない。

その鼓動へ。

遠くから。

欠片の声だけが届いた。

「まだ。」

「足りない。」

リリスは何も答えない。

ただ。

頬を一筋だけ。

赤い雫が伝った。

ラスト

夜。

帰り道。

トウジ:「バル。」

『いる。』

「サハ。」

『いる。』

三人。

同じ空を見上げる。

トウジ:「なあ。」

「次に使徒が来たら。」

バルディエル:『戦う。』

サハクィエル:『話す。』

二人の答えは違った。

俺は苦笑する。

「そうやな。」

「それでええ。」

三人の鼓動は。

まだ完全には重ならない。

だからこそ。

俺たちは。

一緒に歩いていける。

そう思った。

その瞬間。

遠くの空で。

雷が鳴った。

青空なのに。

雷だけが響く。

サハクィエルが。

小さく呟く。

『あれは。』

『知らない空だ。』

俺はまだ知らない。

その雷が。

次の使徒ではなく。

もっと別の「異常」の始まりだったことを。

第七話 終

次回予告

ミサト:「次回!」

ミサト:「トウジ君の中で暮らす三人の鼓動!」

ミサト:「でも、平和は長く続かない!」

ミサト:「参号機の戦闘記録に残った謎の五つの光!」

ミサト:「そして、ターミナルドグマでは欠片がまた動き始める!」

ミサト:「次回、『第八話 静かな雷』!」

ミサト:「サービス、サービスぅ!」

 

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