第十三の主従   作:知人

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第八話 静かな雷

 

昼なのに。

雷が鳴った。

青空だった。

雲は薄い。

雨も降っていない。

それでも。

空だけが震えた。

ゴォン――。

音は遅れて届く。

いや。

違う。

耳ではなく。

胸の奥で鳴った。

ドクン。

バルディエル:『聞こえる。』

サハクィエル:『空が痛い。』

俺は立ち止まる。

シンジ:「トウジ?」

トウジ:「……聞こえた?」

シンジ:「雷。」

アスカ:「変な天気ね。」

レイだけが空を見たまま動かなかった。

レイ:「雷じゃない。」

誰も返事をしない。

その一言だけが残った。

MAGI

発令所。

マヤ:「上空電磁異常!」

青葉:「落雷地点なし!」

日向:「送電網異常なし!」

リツコは画面を見つめる。

雷ではない。

電圧も正常。

気圧も正常。

異常なのは。

空間そのものだった。

マヤ:「発生源を逆算します。」

数秒。

計算が止まる。

マヤ:「……。」

リツコ:「結果は?」

マヤ:「地下です。」

発令所が静まり返る。

「場所。」

「中央シャフト。」

「旧封印区画。」

リツコは短く頷く。

「行く。」

医務室

俺も呼ばれた。

ミサト:「鈴原君。」

トウジ:「はい。」

「また頭痛?」

「少し。」

リツコが脳波を見る。

三本。

俺。

バルディエル。

サハクィエル。

そして。

今日は少し違う。

三時十七分ではない。

昼なのに。

波形が揺れている。

リツコ:「同期率。」

マヤ:「変動しています。」

「どのくらい。」

「五十二から六十一。」

トウジ:「上がったり下がったり。」

リツコ:「ええ。」

原因は。

俺じゃない。

外から引っ張られている。

そんな波だった。

中央シャフト

ジオフロント最深部。

巨大な縦穴。

その途中。

旧封印区画。

昨日まで閉じていた隔壁は。

今も閉じている。

だが。

壁面に黒い筋が走っていた。

焼け跡ではない。

亀裂でもない。

まるで。

何かが内側から伸びた跡。

トウジ:(バル。)

『嫌だ。』

珍しく。

即答だった。

トウジ:(何が。)

『近い。』

サハクィエルも反応する。

『空じゃない。』

『重い。』

二人とも。

ここを嫌がっている。

旧封印区画

隔壁が開く。

低い音。

冷たい空気。

中央。

黒いコア。

昨日より。

少しだけ大きく見えた。

マヤ:「生体反応、維持。」

リツコ:「増加は?」

「ありません。」

「減少も?」

「ありません。」

つまり。

生きている。

止まってもいない。

進んでもいない。

リツコは近づく。

トウジも一歩前へ出る。

その瞬間。

コアが脈打った。

ドクン。

トウジ:「!」

視界が揺れる。

記憶の混線

病院。

知らない廊下。

白い壁。

小さな手。

誰かが泣いている。

トウジ:(俺の記憶ちゃう。)

サハクィエル:『違う。』

バルディエル:『違う。』

三人とも否定した。

じゃあ。

誰の記憶だ。

廊下の先。

白い服。

誰かが立っている。

顔は見えない。

でも。

その人物は。

小さな子供へ手を伸ばした。

そこで映像が切れた。

現実

トウジ:「はぁ……。」

膝をつく。

ミサト:「鈴原君!」

リツコ:「何を見た。」

トウジ:「病院。」

「誰の?」

「分かりません。」

リツコは黙る。

質問を重ねない。

代わりに。

コアを見る。

黒い表面へ。

細い白い筋が浮かんでいた。

昨日はなかった。

レイ

ターミナルドグマへ続く通路。

レイが立っていた。

誰にも呼ばれていない。

ただ。

そこにいる。

ミサト:「綾波?」

レイ:「聞こえた。」

「何が。」

「泣き声。」

トウジと目が合う。

レイ:「鈴原君。」

「うん。」

「あなたも。」

「聞いた。」

「うん。」

レイは小さく頷いた。

それ以上は言わない。

説明できないものを。

無理に言葉へしなかった。

シンジの違和感

夕方。

学校。

シンジは初号機シミュレーターから戻ってきた。

珍しく。

元気がない。

トウジ:「どうした。」

シンジ:「変なんだ。」

「何が。」

「エヴァ。」

少し考える。

「初号機が。」

「参号機を見る。」

トウジ:「?」

「見られてる気がする。」

俺は黙る。

原作でも。

初号機にはユイがいる。

なら。

参号機の中にいる二体を。

何か感じていても不思議じゃない。

でも。

決めつけない。

トウジ:「気のせいかもしれん。」

シンジ:「うん。」

「でも。」

「怖い。」

トウジ:「怖いなら。」

「一人で抱えんな。」

シンジは少し笑った。

「ありがとう。」

アスカの観察

放課後。

アスカが俺を呼び止めた。

アスカ:「歩き方。」

トウジ:「何。」

「変。」

「どこが。」

「左。」

俺は止まる。

無意識だった。

左腕をかばって歩いている。

痛くない。

でも。

身体が覚えている。

アスカ:「無理してる。」

トウジ:「してへん。」

「嘘。」

一拍。

「痛いんでしょ。」

俺は少し笑った。

「たまに。」

アスカは舌打ちした。

「バカ。」

でも。

その日は。

「気持ち悪い。」

とは言わなかった。

夜・葛城家

食卓。

ペンペンが魚をくわえる。

少しだけ平和だった。

ミサト:「ねえ。」

トウジ:「はい。」

「昨日から気になってる。」

「何です。」

「契約って。」

箸が止まる。

ミサトは続ける。

「命令できるの?」

俺は首を振った。

「できません。」

「じゃあ。」

「お願いする。」

「聞いてくれる。」

「全部?」

「全部やない。」

「嫌って言われることもある。」

ミサトは少し考える。

「対等なのね。」

その言葉が。

妙に嬉しかった。

三人の約束

夜。

ベランダ。

星空。

トウジ:「なあ。」

バルディエル:『いる。』

サハクィエル:『いる。』

「約束せえへん?」

『何。』

「俺。」

「勝手に契約せえへん。」

沈黙。

トウジ:「二人に相談する。」

バルディエル:『うん。』

サハクィエル:『約束。』

俺も頷く。

これで。

勝手に力が増えることはない。

少なくとも。

俺たち三人の間では。

そう決めた。

旧封印区画

その頃。

誰もいないはずの部屋。

黒いコア。

ドクン。

表面の白い筋が一本増える。

壁へ伸びる。

その先。

中央シャフト。

さらに。

ターミナルドグマ。

リリスの方向。

そして。

コアの中。

欠片が小さく呟く。

「まだ。」

「届かない。」

その声へ。

返事が返った。

誰の声でもない。

低い。

深い。

聞いたことのない声。

『待て。』

欠片は黙る。

『時はまだだ。』

コアは静かになる。

その声を。

ゲンドウも。

冬月も。

誰一人聞いていなかった。

ラスト

翌朝。

登校中。

トウジは空を見上げる。

雷は鳴っていない。

青空だった。

サハクィエル:『静か。』

バルディエル:『昨日より。』

俺は息を吐く。

「今日は平和やな。」

その言葉の直後。

校門の前。

白い制服の少年が立っていた。

銀色の髪。

赤い瞳。

昨日と同じ笑顔。

今度は。

消えなかった。

少年:「おはよう。」

トウジは立ち止まる。

「……誰や。」

少年は少し考えるように空を見て。

穏やかに答えた。

「まだ、名前は言えない。」

風が吹く。

次の瞬間。

教師が通り過ぎる。

振り返ると。

少年の姿はもうなかった。

残ったのは。

校門の桜が一枚。

ゆっくり舞い落ちる景色だけだった。

トウジ:(……何者や。)

バルディエルも。

サハクィエルも。

珍しく。

何も答えなかった。

第八話 終

次回予告

ミサト:「次回!」

ミサト:「静かな雷の正体は、旧封印区画から伸びる黒い筋だった!」

ミサト:「しかも、トウジ君は知らない誰かの記憶まで見始めちゃう!」

ミサト:「そして校門に現れた謎の白い少年!」

ミサト:「敵? 味方? それとも……」

ミサト:「次回、『第九話 観測者』!」

ミサト:「サービス、サービスぅ!」

 

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