第十三の主従   作:知人

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第九話 観測者

 

校門

朝。

桜が風に流れる。

第三新東京市第一中学校。

校門の前。

俺は足を止めた。

昨日と同じ場所。

白い制服。

銀色の髪。

赤い瞳。

今日は消えなかった。

少年は穏やかに笑っている。

少年:「おはよう。」

トウジ:「……誰や。」

少年:「それを今言うと、少し早い。」

トウジ:「はぐらかすな。」

少年は怒らない。

困ったようにも見えない。

ただ、本当に「早い」と思っているようだった。

少年:「君は鈴原トウジ。」

トウジ:「知っとるんか。」

「知っている。」

「どこで。」

「見ていた。」

その言葉に、背筋が冷える。

見ていた。

昨日の病院も。

一昨日の屋上も。

全部。

トウジ:「どこから。」

少年は空を見上げた。

「遠くから。」

曖昧だった。

でも。

嘘をついているようには見えない。

その時。

登校してきた生徒が二人の間を通り過ぎる。

ケンスケ:「おーい、鈴原!」

俺が振り向く。

一秒。

もう一度見る。

少年はいなかった。

トウジ:「……。」

ケンスケ:「誰かいた?」

トウジ:「いや。」

言えなかった。

三人の反応

教室。

授業中。

黒板を見ているはずなのに。

頭の奥がざわつく。

サハクィエル:『あの人。』

トウジ:(何や。)

『静か。』

バルディエル:『怖くない。』

トウジ:(使徒ちゃうんか。)

長い沈黙。

二人とも答えられなかった。

――まだ、契約していない使徒の声まで聞こえる。

その事実の方が。

俺には怖かった。

トウジ:(……何で、お前の声が聞こえるんや。)

サハクィエル:『分かりません。』

バルディエル:『私にも分からない。』

トウジ:(……)

使徒と話せる。

それ自体は、もう分かっていた。

でも。

契約していない使徒の声まで届く理由は。

まだ、誰にも分からなかった。

 

 

 

NERV・解析室

リツコは昨日の記録を見返していた。

雷。

旧封印区画。

黒いコア。

そして。

参号機の脳波。

マヤ:「赤木博士。」

リツコ:「何。」

「また三時十七分です。」

画面。

過去三日分。

同じ時刻。

同じ揺らぎ。

リツコは指で波形を重ねる。

ほぼ一致。

リツコ:「時計じゃない。」

マヤ:「え?」

「何かが、この時間に呼吸している。」

その表現は珍しかった。

リツコ自身が。

機械を生き物のように表現した。

シンジ

昼休み。

屋上。

シンジがフェンスにもたれていた。

トウジ:「またここか。」

シンジ:「落ち着くから。」

トウジ:「分かる。」

少し沈黙。

シンジ:「昨日。」

「うん。」

「初号機に乗った夢を見た。」

「どんな。」

シンジは言葉を探す。

「僕じゃなかった。」

トウジ:「?」

「誰かが。」

「僕の代わりに景色を見てた。」

俺は息を止めた。

記憶。

共有。

俺だけじゃない。

でも。

決めつけるには早い。

トウジ:「綾波に話したか。」

「まだ。」

「葛城さんには。」

「言うか迷ってる。」

トウジ:「言っとけ。」

「怖いことは一人で抱えたらあかん。」

シンジは苦笑した。

「それ、この前も言ってた。」

「何回でも言う。」

アスカの訓練

シミュレーター室。

アスカが模擬戦を終える。

汗を拭う。

アスカ:「鈴原。」

トウジ:「お疲れ。」

「ちょっと付き合いなさい。」

「何を。」

「模擬戦。」

俺は首を振る。

「今日は検査明けや。」

「だからよ。」

アスカは腕を組む。

「無理してるか見てあげる。」

相変わらず言い方は偉そうだ。

でも。

心配している。

それくらいは分かるようになった。

模擬戦

参号機シミュレーター。

開始。

アスカは速い。

蹴り。

回り込み。

連続攻撃。

俺は受け流す。

バルディエル:『左。』

トウジ:(分かっとる。)

左腕は使わない。

契約を使えば勝てるかもしれない。

でも。

訓練で使う力じゃない。

アスカ:「遅い!」

トウジ:「まだまだ!」

数分後。

終了。

結果。

引き分け。

アスカは画面を見る。

「……。」

トウジ:「何や。」

「左。」

「?」

「最後まで使わなかった。」

「使わん。」

「何で。」

「代償がある。」

アスカは少し黙った。

そして。

「それでいい。」

その一言だけだった。

旧封印区画

地下。

黒いコア。

ドクン。

昨日より。

白い筋がまた一本増えていた。

マヤ:「増殖?」

リツコ:「違う。」

「え?」

「伸びている。」

中央シャフトの壁。

黒い線が。

ほんの数センチだけ先へ進んでいる。

速くはない。

でも。

止まってもいない。

リツコ:「急がない。」

マヤ:「何がです?」

リツコ:「これ。」

「まるで。」

少し考える。

「時間を待っている。」

トウジの違和感

帰宅途中。

また。

あの感覚。

誰かに見られている。

振り返る。

誰もいない。

歩き出す。

また視線。

トウジ:(バル。)

『いる。』

(見えるか。)

『見えない。』

サハクィエル:『空にもいない。』

じゃあ。

誰だ。

その時。

電柱の影。

白い靴だけが見えた。

俺は駆け寄る。

誰もいない。

代わりに。

地面へ落ちていたもの。

白い羽。

トウジ:「羽?」

拾う。

普通の鳥の羽。

でも。

触れた瞬間。

頭へ声。

「急がなくていい。」

俺は息を呑む。

さっきの少年の声だった。

羽は。

すぐ風で飛んでいった。

ターミナルドグマ

レイは一人で歩いていた。

誰にも言われていない。

足が向いてしまう。

最深部。

リリス。

静か。

目は閉じたまま。

その時。

旧封印区画の方向から。

小さな鼓動。

ドクン。

レイ:「……。」

頬へ手を当てる。

涙ではない。

でも。

温かかった。

リリスは動かない。

ただ。

影だけが少し揺れた。

発令所・夜

ゲンドウ。

冬月。

二人だけ。

冬月:「例の少年。」

ゲンドウ:「……。」

冬月:「報告が上がっている。」

「学校。」

「病院。」

「市街地。」

ゲンドウは画面を閉じる。

「監視は続けろ。」

「排除は。」

「不要。」

冬月は少しだけ眉を動かした。

「理由は。」

ゲンドウ:「見ているだけだ。」

短い答え。

それ以上は語らない。

観測者

夜。

俺はまたベランダへ出た。

風。

星。

サハクィエル:『静か。』

バルディエル:『安心。』

俺は空を見上げる。

「おるんやろ。」

返事はない。

「出てこい。」

少しして。

屋根の上。

白い少年が座っていた。

足をぶらぶらさせながら。

星を見ている。

トウジ:「……。」

少年:「こんばんは。」

「また消えるんか。」

「今日は消えない。」

「何者や。」

少年は少し考えた。

そして。

穏やかに答えた。

「僕は。」

「見届ける役目なんだ。」

トウジ:「何を。」

少年は俺を見る。

「君が。」

一拍。

「最後まで、人間でいられるか。」

胸が止まりそうになった。

バルディエルも。

サハクィエルも。

黙った。

少年は立ち上がる。

「今日はこれだけ。」

「待て!」

風が吹く。

桜の花びら。

目を閉じる。

開く。

もう。

誰もいなかった。

残ったのは。

屋根の上に一枚だけ残った。

白い羽だった。

俺はその羽を見上げたまま。

動けなかった。

「最後まで、人間でいられるか。」

その言葉だけが。

夜空へ残っていた。

第九話 終

次回予告

ミサト:「次回!」

ミサト:「ついに謎の白い少年がトウジ君へ接触!」

ミサト:「『見届ける役目』って、一体どういう意味なの?」

ミサト:「一方NERVでは、旧封印区画の黒い筋が少しずつ伸び始める!」

ミサト:「そして三時十七分の鼓動に、新しい規則性が見つかる!」

ミサト:「次回、『第十話 境界線』!」

ミサト:「サービス、サービスぅ!」

 

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