僕のヒーローアカデミア 〜メダル使いの規格外ヒーローライフ〜 作:アルフアルフ
今年度の雄英高校ヒーロー科入学試験、すべての日程が終了した直後。
学内のモニター室には、名だたるプロヒーロー――雄英の教師陣が集まり、各演習場の録画映像を基に受験生たちの最終評価を行っていた。
「イヤァオ! 今年も豊作だぜリスナー! 特にこのA演習場の爆豪勝己! 圧倒的なセンスと火力を遺憾なく発揮して、ヴィランポイントだけで『77点』叩き出しやがった! 文句なしのトップ、怪物新人の誕生だぁ!!」
アナウンス席から戻ってきたプレゼント・マイクが、興奮冷めやらぬ様子で爆豪の戦闘映像を指さす。
画面の中では、鋭い眼光の少年が爆風を巻き散らしながら、ロボを次々と塵に変えていた。
「確かに凄まじい破壊力ね。でも、レスキューポイントは『0点』。周囲の安全や救助を完全に無視して、敵を倒すことだけに特化している危うさがあるわ」
ミッドナイトが扇子で顎を叩きながら、爆豪の採点表を見て小さく息を吐く。
教師陣の多くが爆豪の圧倒的なヴィランポイントに目を見張る中、部屋の隅のソファーで気だるげに寝袋に包まれていた相澤消太(イレイザーヘッド)が、ボソリと呟いた。
「マイク。トップがその爆豪で確定だと思っているなら、別の演習場の映像を見ろ。……それと、音量を最小限に絞っておけよ。耳が死ぬぞ」
「あ? 何言ってんだよ消太、トップは77点の爆豪で――」
スナイプが操作パネルを叩くと、別の演婚場における試験開始直後の映像が流れた。
ゲートが開いた瞬間、誰よりも早く状況を理解した鳳映二(おおとり えいじ)は、腰のベルトにメダルを装填。瞬時に脚部を獣化させると、出遅れる周囲を置き去りにして一番乗りで市街地へと跳び込んでいった。
「ほう、身軽な動きだね。彼の個性はなんだ?」
「いや、驚くのはここからだ。彼の移動軌跡を見てみろ」
相澤が指さす画面の中、映二はただ走っているわけではなかった。
ビルからビルへと四足獣のように縦横無尽に跳び回り、その驚異的なスピードを維持したまま、進路上に現れる仮想ヴィラン(ロボ)を次々と撃破していく。3ポイントの大型ロボの頭部を野生の怪力で踏み砕き、その着地の勢いを殺さずに次の2ポイントロボへと跳躍して一撃で破壊。一切足を止めることなく、流れるような移動の動作の中で、機械の肉体を効率的に粉砕し続けていた。
「無駄のない流麗な三次元機動ね。移動と攻撃が完全に一体化しているわ」
「ポイントを稼ぐためだけに立ち止まる時間が一切ねえ。これ、相当なフィジカルの地力と、個性の制御理論が頭に入ってなきゃできねえ芸当だぜ」
ヒーローたちがその洗練された戦術に舌を巻く中、映像は試験最終盤へと差し掛かる。
地鳴りのような轟音と共に現れた0ポイントの超巨大仮想ヴィラン(ギガントロボ)の姿。逃げ惑う群衆の真ん中で、一人だけ不敵に笑って足を止めた映二は、手元にあったメダルを3枚連続でスロットへと装填した。
オースキャナーを激しくスラッシュした瞬間、猛烈な野生のエネルギーが彼を包み込み、一時的に完全に獣化した咆哮の装甲(ビーストモード)へと変貌を遂げる。
『イクゾ、デカブツ……!』
開いた大口。
そして――。
『オオオオオオオーーーーーーーッッッ!!!!!!!』
音量を最小限に絞っていたにもかかわらず、モニター室のスピーカーがガガガッと激しく歪み、重低音が壁を震わせる。次の瞬間、画面の中のギガントロボは、装甲を木端微塵に粉砕され、内部回路をすべて焼き切られて一撃で大爆発を起こした。
「……は?」
プレゼント・マイクの口から、間抜けた声が漏れる。
あまりの爆音と本物の『怪獣』のような咆哮の恐ろしさに、画面の向こうの他の受験生たちがガタガタと震えてその場にへたり込む中、変身を解除した映二は「腹……減った……」と蚊の鳴くような声を出して、地面に綺麗に行き倒れた。
「おいおい! フィジカルだけじゃねえのかよ!? 0ポイントのギガントロボを……姿が変わったと思ったら、あの『声』で粉砕した、だと……!?」
マイクが自身のサングラスをずり上げ、開いた口が塞がらないといった様子で固まっている。そんな彼と同じように、周囲のプロヒーローたちもモニターの光を浴びながら驚愕に息を呑んでいた。
「何より驚くべきは、あの声の『指向性』だぞ……」
スナイプが帽子を深く被り直し、映像をコマ送りで巻き戻す。
スクリーンに映し端されたスロー映像では、映二の放った凄まじい衝撃波は、周囲のビルや避難する受験生たちを完璧に避けるように計算され、ロボの巨体だけにピンポイントで直撃していた。
「ああ、あれだけの破壊力を放ちながら、周囲の受験生が逃げる進路を確保し、かつ自分の攻撃に巻き込まないようエネルギーの方向を完璧にコントロールしてやがる。ただの暴価値じゃねえ。極めて頭脳明晰で、冷静な状況判断能力の塊だ」
相澤の言葉に、ミッドナイトや13号も深く頷いた。
凄まじい破壊力、それを一切の無駄なく制御する圧倒的な頭脳。
「うむ。鳳映二くん、だね」
根津校長が、楽しそうにティーカップを傾けながら採点表を机に置いた。
「ヴィランポイントは移動中の撃破を合わせて42点。だが、周囲の安全を瞬時に確保し、自らの身を挺して超巨大ロボの脅威を完全に排除したその行動……これぞまさに、減点要素のない完璧な人道力(レスキュー)だ。レスキューポイント『36点』を認めよう」
校長がパチリと指を鳴らす。
スクリーンに映し出された最終集計表。
『鳳映二:ヴィラン42 / レスキュー36 / 合計78ポイント』
「合計78ポイント……!」
「ああ。今年度の雄英入試、文句なしのトップ、首席合格者の誕生だ」
相澤は寝袋の中から、画面の向こうで行き倒れている映二の姿をじっと見つめ、その口元をわずかに不敵に歪めた。
鳳映二という規格外の努力家が、自身の理論とガッツを以て、雄英の頂点に君臨した瞬間だった。