僕のヒーローアカデミア 〜メダル使いの規格外ヒーローライフ〜 作:アルフアルフ
体操服に着替えた1年A組の生徒たちが、ぞろぞろと雄英高校のグラウンドへと集まってくる。
その先頭付近には、鳳映二、峰田実、飯田天哉、あるいは緑谷出久や麗日お茶子たちの姿があった。
グラウンドの中央では、すでに担任の相澤消太が気怠げな様子で佇み、生徒たちが集まるのを待っていた。全員が白線の前に整列したのを見届けると、相澤は前髪の隙間から冷徹な視線を走らせる。
「揃ったな。個性把握テストを始める」
相澤の口から告げられた、入学式もガイダンスもすっ飛ばして行われる謎のテスト。
さらに「最下位は除籍」という非情なルールが突きつけられ、グラウンドの空気は一瞬にして凍りついた。
「除籍……!? 入学初日なのに理不尽すぎる!」
麗日がたまらず声を上げるが、相澤は表情を変えない。
「自然災害、大事故、あるいは身勝手な敵(ヴィラン)。いつどこからやってくるか分からない理不尽を覆していくのがヒーローだ。雄英は3年間、君たちに苦難を与え続ける。……さて」
相澤は手元のタブレットに視線を落とし、淡々と一人の生徒の名を呼んだ。
「鳳。お前、中学のソフトボール投げ、何メートルだ」
「あ、普通に投げて67メートルです」
「じゃあ、個性を使ってやってみろ。円からでなきゃ何してもいい。早よ」
「了解」
映二は白線の前で一度足を止め、気怠げな様子で佇む担任へと視線を向けた。
「先生、確認なんですけど。事前に申請してあるサポートアイテム、ここで使ってもいいすか?」
「……円から出なきゃ何してもいいと言ったはずだ。合理的な範囲なら好きにしろ」
「あざす」
相澤の許可を取り付けると、映二は制服のズボンの下に装着していたベルトへと手を伸ばした。
(さて、この後も種目が続く。ただでさえ俺の個性は燃費が最悪だ。一発目から全開でバテるわけにはいかねぇ。後の事を考えて、ここは力を温存する。……最低限、文句のつけようがない記録を出して逃げ切るぞ)
映二はホルダーから鈍く輝くメダルの中から1枚を選び出す。
「とりあえず1枚でいいかな」
口元に笑みを浮かべ、彼がベルトのスロットに装填したのは、父親から受け継いだ熊の如き獰猛な膂力を秘めた【ビーストメダル】だ。
3枚揃えて一挙に使うフルコンボの威力は入試で証明済みだが、今の段階で使えば一瞬でエネルギー切れを起こして行き倒れる。
カシャリ、とメダルが嵌まると同時に個性の力が全身へと巡った。
1枚だけの使用のため変化は限定的で、体格が微かに一回り大きくなり、全身に力強さが増す。
(フルコンボは負担が重すぎる。1枚のビーストで全身を強化して……あとは俺自身の純粋な腕力と、気合だけで持っていく!)
映二の肉体から放たれたのは、1枚の使用ながらも芯の通った、獣の持つ確かな強靭さの気配だった。
しっかりと安定した体幹から生み出される筋肉の連動をすべて右腕へと乗せ、映二は腹の底から気合の咆哮を上げながら、純粋な腕力だけでボールをぶん投げた。
ドンッ!!!!
凄まじい衝撃波が巻き起こる。
グラウンドの砂煙が文字通り円状に吹き飛び、強烈な突風がクラスメイトたちの髪やジャージを激しく揺らした。
ボールは肉眼で追えないほどの速度で、音を置き去りにして遥か大空の彼方へと消し飛んでいく。
「…………っ!?」
静寂。
あまりの光景に、1年A組の全員が言葉を失って硬直した。
爆豪も、緑谷も、飯田も、麗日も――誰も声を漏らすことすらできない。しかしただ圧倒的な獣の気配の残響に、本能的な恐怖で身体を震わせ、喉を鳴らすことしかできなかった。あの爆豪すら、これがたった1枚で温存された一撃であることにも気づけぬほどの規格外の質量に言葉を失い、ただ奥歯をガチガチと鳴らして映二を凝視している。
ピピピッ、と相澤の手元のインジケーターが電子音を鳴らす。
相澤はそこに表示された、常識を遥かに超越したデジタル数値を一瞥した。
その目が、驚きに微かに見開かれる。
(……!)
しかし、相澤はこの時点では一切声を出さない。
ただ無言のまま、鋭い眼光で映二の後ろ姿をじっと見つめていた。
手元のインジケーターに表示された数字は、驚異の【750メートル】。
入試のビデオでも見たが、実物はそれ以上だ。あのベルトのアイテムを鍵にして発動する、高出力な身体能力の強化個性。何より、その暴力的とも言える破壊力を、完全にコントロールしてセーブしている。相澤は不気味な合理性の笑みを微かに浮かべ、画面をクラスメイトたちへと向けた。
「まずは基準だ。自分の『現在地』を把握しろ」
「な、750メートル……!?」
「バケモノかよ……!」
その数値を皮切りに、グラウンドにようやくどよめきが走る。
個性把握テストはそのまま淡々と進んでいった。
50メートル走、握力、立ち幅跳び。映二は父親から授かった【ビーストメダル1枚】を使い、全身強化の出力を効率よくコントロールしながら各種目をこなしていく。過剰に力を誇示することはせず、ただ計算通りに、淡々と上位 of 記録を重ねていった。
放置すればすぐにエネルギー切れを起こす。その自分の弱点と冷静に向き合いながら、映二はすべてのテストを乗り切った。
正式な結果がホログラムで発表され、1位の八百万に次いで、計画的に力を配分した映二が「2位」に名を連ねた。相澤は静かにタブレットを閉じる。
「以上だ。除籍はハッパをかけるための合理的な虚偽。レポートの類いはないから、早く着替えて教室へ戻れ」
相澤がそう告げてグラウンドを去った瞬間、1年A組に大きな安堵の溜息が広がった。
しかし、その安堵の中心で映二はすでに限界を迎えていた。
出力をセーブしていたとはいえ、個性を使い続けた代償はあまりにも大きい。
「あ、頭がクラクラする……。ガチで……ガチでエネルギー切れだ……」
フラフラとよろめく映二の身体を、峰田が慌てて支える。
「鳳ーーっ!? しっかりしろ鳳! 死ぬなよマブダチ!」
「おい鳳くん! 起き給え! やはり個性の反動か!? 保健室へ連れて行くべきか!?」
飯田も直角に腕を激しく振りながら、大慌てで映二の顔を覗き込むのだった。