盤 外 戦 術 っ て 知 っ て る か ?   作:匿名YP

1 / 1
「いち、にー、さん、四回目……っと───」


エ ア ニ ビ ル っ て 知 っ て る か ?

───よくあるタイプだ。転生したら、カードゲームが社会の軸となっている世界だった。そうして闇のカードだの、精霊だのの騒ぎに巻き込まれるやつ。

 

 不幸中の幸いなのはこの世界が現代遊戯王ベースなこと……馴染みのあるルールに馴染みのあるカードをぶん回せるのは安心感がある。

 

 とはいえ、この世界はアニメや漫画版の遊戯王が原作というわけじゃなさそうだ。

 そんで、更に言うのなら、この世界は前世以上に環境やルールの整備が進んでいないクソ環境だった。

 

 前年度の世界大会準決勝で、ヴィクトリードラゴン入りのシンクロ青眼をぶん回していた人間がいたことからも明らかだ。ちなみにそいつはメタバースからの魔鍾洞をケアできず、バーンダメージで殴り殺されていた。可哀想に……。

 とまあ、そんな感じのデュエル世紀末な世界に転生して早28年。

 俺は───立派な無職になっていた。

 

 

 非採用通知───俺の手の中にある通知書には実技試験で2-0で負けたことが理由だと記されている。

 実技試験……言い換えれば、デュエルだ。

 Bo3の二本先取でストレート負け。

 

───とはいっても、そりゃあそうなるとしか言えない。

 遊戯王というカードの立ち回りや構築……それらが研究されている年月も、研究に携わったプレイヤーの母数も前世と今世じゃ、まるっきり違う。

 前世の知識があるからなんなんだ?

 ただの一遊戯王プレイヤーが培った経験や知識如きでまともに戦って勝てるわけがないだろう。

 

 なにせ相手はカードゲームを『仕事』でやっている連中だ。よく二次創作なんかでありがちな相手には運命を引き寄せるドロー力があり、それがこっちには無いから負ける……なんてものじゃない。

───相手との間にあるのは、純然たるプレイングの差だった。

 

 

「……そろそろ金が尽きるな」

 

 

 両親は四年前に交通事故で死んだ。それからは親の遺産を食い潰しながら就職活動をしてきたが、色々と限界を感じている。

 金銭面も、精神面もだ。一応、手段を選ばなければ、勝つこと自体は恐らくできる。

 

 道のりは二つ───愛するカードを売って食い繋ぎ、受かるかも分からない試験面接を受け続けるか。

 デュエリストとしての誇りを捨てるか。

 

───その2択になった時点で、俺の心は既に決まっていた。

 

 


 Side.無もなきデュエリスト

 

「あー、まぁ薄々察してましたけどVドラ征竜っすか。あっ、すいません。偶然腕当たってデッキ崩しちゃいました。自分、1負けでいいです」

 

 

───ちっ……うぜぇ。なんなんだこいつは。

 

 

「あっ、シャッフルミスった……」

 

「あぁ?……ニビルか……めんどくせぇな」

 

 

 第二試合、相手が後攻を選び俺の先行で試合がスタートした。

 今思えばここでニビルを見せたのもコイツの仕込みだったか……。

 

 

一、二、三、四回目の特殊召喚か……あー此処で、展開止めるんですね。了解です、俺のターン───」

 

「ドロー、スタンバイフェイズ。何も無いですか?……じゃあ、メインフェイズ移行、ジョウゲン出して5枚セット、エンドです」

 

「はぁ?……あぁ、なるほどな。さっきのはブラフかよ、クソが。舐めた真似してくれやがってよ……。俺のターンだ、手札から地征竜を出す───」

 

「……そのスタンバイフェイズにマインドクラッシュ使いたかったんですけど、そっち、フェイズの宣言してませんよね?そちら側の過失なので、ターンを巻き戻して貰っても?」

 

「はぁ?何を言って……」

 

「そちらの過失ですよね、ジャッジ呼びましょうか?おそらくジャッジキルになると思いますが……」

 

「……ちっ、勝手にしろ」

 

「じゃあ合意が取れたので、スタンバイフェイズにマインドクラッシュを発動します。宣言するのは地征竜-リアクタン。手札にある場合、それを捨ててください」

 

「……メインフェイズに移行するぞ。チェーンはねぇな?じゃあ場の極征竜の効果だ。デッキから親征竜を落とすことで親征竜の効果を発動できる。ブラスターの場合は場のモンスターの破壊だ、とっとと死ね」

 

「カードが墓地に送られたタイミングで、速攻魔法『マジックカード「死者蘇生」』発動。ジョウゲンを蘇生させます、この場合効果の発動はできません」

 

「が、特殊召喚不可の常時発動効果はあるってか?ふざけんじゃねえ、バトルフェイズ───極征竜でアタック」

 

「『光の護封壁』、7000ライフを払って発動」

 

「……ちっ生き延びやがるか」

 

「セットカードは無し……。だったら、このタイミングで───」

 

 

 パチンっと、そいつはおもむろにセットカードを裏返す。

 

 

「───セットカードオープン、『ラストバトル!』」

 

「は?なん……だと……?」

 

「ライフが1000以下の場合発動可能。俺はジョウゲンを選択する。お互いの場、手札から選択されたカード以外のカードを全て墓地に送る。そちらはデッキから特殊召喚を行い、両方のカードを戦闘させる。ターン終了時にモンスターの数が多い方が特殊勝利できる」

 

「ジョウゲンの効果で特殊召喚はできず、墓地や除外に対処札も無い。そして、召喚権はあっても、そちらの手札は0枚限り。さぁ、エンド宣言をどうぞ」

 

 

 

───一回勝利からの一回負け。

 戦績は1-1でイーブン───

 


 

 そうして、もつれ込んだ最終試合はというと───

 

 

「──戻りました、3枚セットしてターンを渡します」

 

「いくらなんでも遅すぎんだろうが!!」

 

 

 先行のコイツが『強欲な壺』からの『魔導書整理』でトップ3枚を見て、その後かなりの時間悩んだかと思えば、そのまま手札を置いて、トイレに直行しやがった。

 

 すぐに戻るかと思えば、時間ギリッギリまで戻らず、やっと帰ってきたかと思えば魔法罠を3枚セットで速攻ターンエンド。

 俺のターンに入ると同時にタイムアップとなり、そのターンの終了時までデュエルが行われる。

 

 そのターンで決着がつかなければ、対戦相手、俺、対戦相手の順番でターンを進め、最終的にライフの多かった方の勝ちとなる仕組みだ。

 

 

「そのスタンバイフェイズに『威嚇する咆哮』を発動」

 

「通す」

 

 

 『威嚇する咆哮』は相手プレイヤーはこのターン攻撃できなくなる効果。

 俺の手元にこれを無効にする札はない。

 

 つまり次の俺のターンで、俺はこいつを殺し切る、あるいは挽回不可能までライフを削る必要があるってことになる。

 俺は二素材『凶征竜』と一素材『極征竜』を立て、『禁じられた一雫』と『神の宣告』をセットする。

 

 

「───ターンエンドだ」

 

 

 エンドと同時に超再生能力の効果で手札が補充された。これでコイツをワンキルするには十分なはずだ。

 

 

「ターンをもらいます、ドローフェイズ、スタンバイフェイズ、メインフェイズ。……ジョウゲンを召喚します」

 

「……通す」

 

「一枚手札を捨てて、ジョウゲンの効果を発動」

 

 

 相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全破壊。シンプルながら一手で戦況を書き換える強大な効果だ。

 当然、ここは通すわけには行かない。

 

 

「チェーンして一雫だ。手札の罠と魔法を捨てる。そいつ一体を選んで、このターン、その効果は無効だ。この際、捨てたカードと同じ種類のカードはチェーン出来ない」

 

「通します。魔法罠ゾーンに一枚セットし、ターンエンド」

 

「手札0枚、展開は無しか?……エンドフェイズに極征竜-シャスマティスでブラスターを落とし今伏せたカードを破壊」

 

「『神の宣告』で無効、LPを半分払う」

 

「凶征竜-エクレプシスの効果で素材を二つ取り除いて無効だ」

 

「『神の通告』でさらにLP1500を払い、モンスター効果を無効にし、破壊する」

 

 

 俺は神の宣告(セットカード)に手を置き、思考を巡らせる。

 

 此処で宣告を切った場合、失うのは4000ライフ、代わりにセットカードを処理できて、3000と2800の効果無しモンスターを守れる。

 ただ、此処で切らなければ、極征竜-シャスマティスの持つ②の自壊時蘇生効果でブラスターを出して手札に回収し、ジョウゲンを処理してこっちが展開できる。

 

 逆に切った場合、デッキにあるブラスターのトップ引き以外に場のジョウゲンを処理する方法がない。

 

 アレが咆哮だった場合はライフ差で勝利できる。

 ラストバトルの可能性もあるが……どちらにせよ、神宣は残しておいてよさそうだ。

 

 

「……通すぞ」

 

「じゃあ極征竜と凶征竜は効果で無効、破壊されます」

 

「極征竜-シャスマティスの破壊時に除外ゾーンのブラスターを蘇生。相手エンドフェイズ時にブラスターの効果で手札に戻す」

 

「さて、俺のターンだ───焔征竜ブラスターと炎征竜バーナーを捨ててジョウゲンを破壊」

 

「墓穴の指名者で除外して無効に」

 

「『神の宣告』で無効だ」

 

「通ります」

 

 

……これはさすがに勝ったか。

 相手の手札は0枚、セットカード含め、フィールドリソースもゼロ。

 展開して殴れば2500のライフなんて消し飛ぶ───

 

 

「墓地からトランザクションロールバックを発動する」

 

「は?……いつの間に墓地に……ジョウゲンの手札コストか!!」

 

正解だ(ザッツライト)。この効果はLPを半分払い発動できる。墓地から除外した通常罠カードと同じ効果を持つ。俺が除外するのは『威嚇する咆哮』───」

 

「クソ……!」

 

 

 俺は展開を行いつつも、どこか嫌な予感が背筋を伝う。

 

 

「……ターンエンドだ」

 

 

 手札には灰流うららとエフェクトヴェーラー、場にはティフォン一体を出してターンを終える。

 いやだが、このライフ差とアドバンテージ差から逆転できるカードを今引きするってのは───。

 

 

「俺のターンですね。ドローフェイズ、スタンバイフェイズ。チェーンはありませんか?……メインフェイズ───俺は手札から『大逆転クイズ』を発動する。通りますか?」

 

 

───ライフポイントを入れ替えるカード。

 そう……いうことか!!

 

 

「クソったれが……お前、四十分前に魔導書整理でトップ三枚を確認したときから、これを狙ってやがったな?」

 

「いえ?偶然、お腹を壊してしまって四十分かかってしまっただけですが?」

 

「あ?そんな言い訳が通用すると思ってんのか?とっととターンを終えろよ」

 

「……エンドフェイズに移行し、ターンエンド───対戦ありがとうございました」

 

 

───そうして……俺は日本大会の試合で無様に負けた。

 後日改めてそいつへの反応を調べてみれば、案の定、ネットで叩きに叩かれていた。

 ゴキブリ以下だの何だのってな。……ま、神聖なデュエルにあんなやり方を持ち込みやがったからには当然だ。ざまぁねぇ。

 

 とはいえ、一部ではその戦術を、合理的だと評価する野郎もいたみてぇだがな。

 ま、そいつが仮に合理的だろうがなんだろうが、あんな野郎とは二度と戦いたくねぇモンだ。

 

 あ?そいつの出場名?……ああ、確か……【黒翅 屍(クロバネ カバネ)】とかいったか───

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

遊戯王ワールド(初代)で閃刀姫に愛された転生者の話(作者:ホーネットビットの残骸)(原作:遊戯王)

遊戯王DMの世界に転生した男がその時代には早すぎるテーマを持たされて四苦八苦しながら生き抜いていくお話。


総合評価:636/評価:8.5/連載:2話/更新日時:2026年04月16日(木) 12:51 小説情報

ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ(作者:塩安)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

暗殺教室の潮田渚スペックのオリ主が、よう実世界を好き勝手に楽しむ話▼アンチ・ヘイトは念の為


総合評価:8255/評価:8.69/連載:27話/更新日時:2026年05月31日(日) 18:08 小説情報

TS転生者「不死鳥は 再び墓地より 舞い戻る」(作者:ししゃしょしぇい)(原作:遊戯王)

前世で愛用していた紙(ヲー)が、なんか神(ラー)になっていた件。▼なにコレ、めっちゃ使いたいんですけど。▼でも原作には関わりたくないんですけど。▼そんな矛盾した欲求を抱えたコミュ障TS転生者が、アニメ遊戯王ZEXAL世界で「平穏な生活」を目指す話。▼なお、秒で失敗した模様。


総合評価:12866/評価:8.8/短編:4話/更新日時:2026年08月21日(金) 20:03 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>