『……日本政府は本日午前零時をもって、国外との物品の輸出入を全面的に停止すると発表しました』
ダイナーの片隅にある古いテレビから聞こえてくるニュース。
男は顔を上げた。
「日本?」
「金融機関についても、外国との取引を停止。国内に保有されている外国企業の口座については凍結措置が――」
「やっぱりな」
隣で新聞を読んでいた男が顔を上げる。
「何が?」
「日本だよ」
「日本がどうした?」
「閉じこもったんだろ」
「まあ……そうらしいな」
「危険なんだよ、あそこは」
男は知った顔で頷いた。
「昔もそうだった」
「昔?」
「日本がアメリカに核爆弾を落としたんだ」
新聞の男が眉をひそめる。
「……日本が?」
「ああ」
「いつ?」
「戦争の前だ」
「戦争って、第二次大戦?」
「そうだ」
「日本がアメリカに核爆弾を落としたから、アメリカが戦争したって?」
「そうだよ」
男は自信満々だった。
「だから俺たちは日本と戦ったんだ」
新聞の男は何か言いかけたが、やめた。
テレビが続ける。
『現在日本はのインターネット接続を含めあらゆる通信がが遮断され――』
「ほら」
男が指を立てる。
「これだよ」
「何が?」
「またやる気だ」
「何を?」
「核だよ」
「……」
「インターネットを切って、外国から何も買わない。外国の会社の金も凍結する。つまり、誰にも邪魔されずに核爆弾を作るんだ」
新聞の男が新聞を畳む。
「ずいぶん詳しいな」
「俺は歴史を知ってる」
男は胸を張った。
「日本人はな、昔からそうなんだ」
そして、少し考える。
「……たしか、東京っていうところが核爆弾だったんだ」
「それは都市だ」
「そうか?」
「都市だよ」
「じゃあ大阪か」
「それも都市だ」
「じゃあ広島?」
「……」
新聞の男が黙る。
男は満足そうに頷いた。
「ほらな。やっぱり日本は危険なんだ」
一か月後。
男はいつもの場所に座って、テレビのニュースを見ていた。
『……全米各地で企業倒産と大規模な失業が相次いでいます。株式市場は暴落を続け、金融機関にも深刻な影響が――』
男は頷いた。
「やっぱりな」
隣にいた男が聞いた。
「何が?」
「日本だよ」
「……まだ言ってるのか」
「日本がアメリカを攻撃してるんだ」
「日本は何もしてないだろ」
「鎖国してる」
「それだけだろ」
「それが攻撃なんだよ」
男は真顔だった。
テレビは淡々と続ける。
『日本との貿易停止による部品・原材料の供給途絶に加え、日本国内に保有されていた外国企業の資産凍結が金融市場を直撃。さらに通信遮断によって、日本関連の決済・通信・物流情報の多くが途絶しており――』
男は満足そうに笑った。
「ほらな」
「……」
「日本は怖い国なんだ」
その日の午後。
男がいつものように酒を探して街を歩いていると、閉店した店が目についた。
銀行にも長い列ができている。
失業者が増え、街には怒鳴り声が増えていた。
そして夜。
テレビから、またニュースが流れる。
『政府は本日、経済危機への対応として追加の緊急対策を発表しました。専門家は、今回の不況が戦後最大級のものになる可能性を――』
男は黙って聞いていた。
そして、小さく呟いた。
「……戦争になったら、また日本を倒さなきゃな」
隣の男が聞く。
「何で?」
男は当然のように答えた。
「だって、日本がアメリカを核攻撃したから」
テレビのニュースは、その言葉とは無関係に続いていた。
そして画面の隅には、
『日本との経済・通信関係、再開の見通し立たず』
という字幕が出ていた。