獅童正義は明智吾郎として生きることになった。 作:枝野トナナ
やはりパーソナルチェアはいい。
高い金を出して作らせただけのことはあり、最高の座り心地で深い癒しの時間をもたらしてくれる。
明智吾郎の家に置かざるを得ないのは残念だが、勉強や仕事はほとんどここで行っているからな。
ホームセキュリティも導入したし、快適――とまでは行かないが、当初よりはだいぶ過ごしやすくなった。
とても良いことだ。
――とまあ、昨日に引き続きご機嫌な一日を過ごしたかったんだがな。
残念ながらそうは問屋が卸さないらしい。
『秀尽の件で早急に話があります。
お迎えに上がってもよろしいですか?』
笹木からのメールだ。届いたのはついさっき。
あの学校の名前が出てきた時点で嫌な予感しかしない。
だが断るなどという選択肢もなく、『わかりました』と返事をした。してしまった。
……このまま座っていたいなあ。
せっかく手元に戻ってきたんだぞ?
しっとり柔らかな革に包み込まれるような心地よさ。レバーレスリクライニングだから体重移動に合わせて適切な位置に背もたれが来てくれる。
それでいて身体に負担がかかりにくい。長時間座っても腰が痛くならない。
椅子としての機能だけでも最高だ。立ち上がりたくない。
――ピンポーン。
……出なきゃダメか?
ダメか……ダメだよな……はぁ……
「――はぁ」
「も、申し訳ありません、せん……吾郎さん。
急にこのようなことになってしまって」
昼も回ってもう2時だというのにぱらぱらと降り注ぐ小雨の中、目的地を入れることなく走り始めた車の中。
不機嫌さを伝えるためにわざと吐いたため息に、笹木はハンドルから片手を離し、ハンカチで額の汗を拭く。
「私の方で処理することも考えたのですが、やはりご相談すべきだと思いまして……」
「別に笹木さんは悪くないですよ。ちゃんと話してくれるだけ有難いというものです。
まあ――どうせ秀尽学園の小早川校長が、端金で無理を言ってきたんでしょう?
大方、僕に余計なことを話すなとか、僕の捜査を打ち切らせろとか」
「……その通りです」
思い返せば金曜の昼、奴に向けて捨て台詞を吐いてやったからな。
私としては『陸上部の件でお前らの後始末をしたのが誰かは最初から知っているぞ』という牽制のつもりだったが――
大方、小早川は虎の威を借る狐の鳴き声だと思い込んだのだろう。
市井の弁護士に落ち着いたとはいえ、元を正せば獅童正義の第一秘書だった笹木経由で圧力をかけて、小生意気な探偵気取りのガキを黙らせようとしたわけだ。
「笹木さんは獅童先生の事務所と人脈を取り仕切っていた大ベテランだ。
小早川校長が頼りたくなる気持ち自体はわかりますよ。
――それで、僕の口を塞ぐ代金はお幾らだったんですか?」
「前1束、後1束です」
前金も後金も100万円ずつかよ。安く見られたものだな。
「今の僕を黙らせるには桁が足りませんね。
「は、ははは……」
笹木はひきつった愛想笑いをしているが、別にふっかけているつもりはない。
鴨志田の件を揉み消し続けるのならば億単位の資金が必要で、明智吾郎としての名誉と金を引き換えるならやはり3〜4億円はほしいというだけだ。
――本物の明智吾郎なら1束でも喜んで尻尾を振っただろうがな。
奴にとって
もちろん探偵王子としてのプロデュースという形で補填してやってはいたが――こちらが適当に決めた安値で納得し、そのまま使われていた鉄砲玉。
口を噤むだけで100万もらえると聞いたなら、おいしい話だとしか思わんだろうよ。
「――まあ、冗談はここまで。
この話が持ち込まれたのはいつです?」
「最初の相談は土曜日でしたが、その時はあくまでも『陸上部の件を吾郎さんに話さないでほしい』という頼み事止まりでした。
もっとも私が話すも何も、知ってらっしゃいますからね。何の実害もないからご報告しないでおいたのですが――
昨日になって、カネを持ち込んできたんです」
「……ほぅ?」
「吾郎さんではなく、『吾郎さんの依頼人に頼んで依頼を打ち切らせてほしい』。
それと『吾郎さんに頼んで、岡田理事に鴨志田の告発を踏みとどまらせてほしい』。
それが無理なら『鈴井志帆の両親が吾郎さんや岡田理事に接触しないよう、手を打ってほしい』とのことでした」
「いや……たかだか
しかも『それが無理なら』の部分が一番難しい可能性も高いでしょうに」
世の中、子供を愛する親のほうが多数派だろう。
ましてや全国大会に出場できるバレー部のレギュラーに抜擢されたとなれば、大抵の親は子供に期待を掛けるはずだ。
そんな矢先の新学期早々に娘が飛び降りた――そう聞かされたら、普通は『なぜそんなことになったか』を知りたがる。
そうして真実を探ろうとする両親と、実際に事件を調査している人間が、接触しないよう手を回せ……というのは中々に面倒な注文なのだがな。
まあいい。どのみち、まともに取り合う価値のない依頼だ。
それよりも――
「しかし、土曜日に相談して、火曜日に代金支払いですか。
――いかにも
200万程度なら小早川のポケットマネーからでも出せなくはない金額のはずだ。
なのにタイムラグがありすぎる。
土日月で資金調達に動き、月曜か火曜日にスポンサーが見つかったから、とりあえずすぐ出せる金額を笹木に渡した――
そう考えるのがもっとも自然だろう。
「理事会やツテから頼んだにしては遅すぎる。しかし完全な外様からカネを引っ張ってきたにしては速すぎる。
理事会以外の学校関係者……とすると、誰が一番濃厚でしょうかね」
「そ、それですと、保護者ということになりますが。
しかし秀尽学園に子供を通わせている有力者となると、それこそ奥村しか――」
「え? あいつの娘、秀尽なんです?」
奥村邦和の娘、奥村春のことは知っている。
父親に連れられて、何度か政財界のパーティに出席しているところを見かけた覚えがある。
穏やかで人格者だった奥村の先代――つまり祖父に良く似た、大人しくともどこか強い芯を感じさせる娘だった。
はっきりいって、父親が奥村邦和ということだけが欠点だ。私の評価のみならず、恐らく奥村春自身にとっても。
「秀尽学園の3年生ですよ、奥村春は。
卒業したら杉村の息子と結婚する予定だと聞いています」
「ハハハッ……そんなに急がせて大学はどうするんです? 発想が昭和ですね。実にあいつらしい。
まあ、獅童先生も子供に大学進学させる気のない親でしたけど――」
「ええ。ですから、奥村が秀尽にカネを出すとは……」
「え? 出すでしょう、あいつなら」
「……えっ?」
笹木が素っ頓狂な声を上げる。
なんだ。こいつ本当に気づいてないのか?
「あ、あの奥村ですよ? 『損は裏切ってでも取り返せ』がモットーだと公言して憚らない」
「そうですね。あの男は最終的に利益に繋がるなら、裏切りも営業妨害も殺人依頼も厭わない業突く張りです。
――ですが、奴の利益を享受する対象には
「……は? え?」
「本当にあいつは
娘は娘として愛しているし認めてもいるし守ってもいる。けれど自由意思だけは認めない。
自分が選んで与えた最上級の人生が一番だと信じ込んでいるから、娘の気持ちなど顧みない」
好感などない。所詮は奥村の娘だ。
だが、多少の哀れみはある。奥村の先代の孫娘だからだ。
先代の方ならば、その程度の交誼はあった。そうでなければ奥村邦和と付き合いなどするものか。
「実際、杉村の息子は評判がいい。見目が良く、行動力も野心もある。
議員の息子という立場に胡座をかかず、親より上を目指そうとする意思がある――と見せている。
僕からしたら外面だけ取り繕った他人の金頼みのボンボンですが。
金しか見ないせいで人を見る目のない奥村邦和が、愛娘を預けたくなるのも仕方がないというものです」
「……」
「自分1人では何も出来ないと信じ込んでいる、可愛い箱入り娘のために、頼れる夫を探してあてがってあげている。
実にやさしいお父さんじゃないですか。
娘にとっては自由を否定され続ける生き地獄、そのことにも目を向けない理想の父親ごっこを、いつまでやるつもりなんでしょうね?」
窓に反射する明智吾郎の顔が歪む。
私と奥村が鏡写しであるならば、明智吾郎と奥村春もまた鏡写しのようなものだ。
「ククッ……
我が子を愛して認めて守ってくれて、最高の人生をプレゼントしてくれる父親なんて、あいつの望み通りじゃないですか。
さぞや幸せに生きられたでしょう。
籠の鳥以下の人形として、何不自由ない代わりに自由だけがない人生を」
明智吾郎が私の前に現れさえしなければ、勝手に生きて勝手に死ぬだけの自由はくれてやっていた。
私からは会いたくもなかったし知りたくもなかったし興味もなかったからだ。
自由に生きることを放棄したのは明智吾郎自身で、血筋よりも才能よりも先に暗殺能力を売り込むことを選んだのも明智吾郎自身。
そこまで自分の人生を投げ捨てるガキなら、最初から人生そのものを敷いてくれる親の元に生まれるべきだった。
――幻覚の中で恨み言を吐き続けるのも結構だが、たまには自分の落ち度を認めたらどうだ? クソガキが。
「……では、資金源は奥村だと?」
「可能性は高いと思いますよ。正解かどうかは、探りを入れてもらわないとわかりませんけどね。
鴨志田の件で警察が学校に捜査に入って娘が嫌な思いをするのも、娘の経歴にキズがつくのも、それを理由に杉村に娘を買い叩かれるのも――
全て奥村自身の価値を下げることに繋がりますし、到底見逃せない損失のはずです。
ましてや奥村自身が政界デビューを考えている以上、秀尽学園に恩を売れば校長や理事達にコネを繋ぐこともできて一石二鳥だなんて考えもあるかもしれません」
鴨志田を庇い続けて秀尽学園を守るなど、政治家であれば全く割に合わない話だが――
奥村のような、
ビッグバン・バーガーの勢いを鑑みれば、個人資産だけで百億ぐらい軽く動かせるだろうしな。
人望を犠牲にして得た金で票田を買い、競合他社を排除し、知名度を上げて金を稼ぐ。
全く愉快な錬金術だ。
大衆どころか従業員も娘も見ない人間に政治家なんざ向いてるわけねえだろ。大人しく金稼ぎと父親ごっこだけやっていろよ。
「とりあえず、適当なコンビニに車停めてもらっていいですか?
喉が渇いたんでコーラでも買ってきますよ。
その間に電話していただけるとありがたいです」
「今からですか? それは構いませんが……
しかし探りといえども、話を聞く以上は商談になりますよ?」
「いいじゃないですか。もう少し搾り取っておきましょうよ。
なにせ小早川校長は鈴井志帆の両親相手に工作してほしいんでしょう?
「わかりました。吾郎さんが仰るならば、その通りに」
――5分ほど走った先に、トリプルセブンがあった。
駐車場に入り、予告通り車から降りて店内に入る。
軽く腹も空いている。いつも普通に食べているはずなのだが、結構な頻度で間食が欲しくなることが増えた。
何かの栄養素が不足しているのだろうか。自炊を放棄している以上、栄養バランスだけは気を使っているのだが。
まあいい。コーラとフライドチキンを買って、イートイン席で食べてしまおう。
作り置きだからかカリッと感は低いがスパイシーな衣と、柔らかな肉質。
脂っこさを炭酸で押し流せば、複雑な香りと爽やかな甘さが口の中に残る。
どう考えても健康に悪いがわかりやすく美味い、油と塩と炭酸と糖分のコンビネーションだ。
――よし。空腹も苛立ちもだいぶ治まった。
そろそろ電話も終わっただろうし、車に戻るとするか。
「――お待たせしました。どうです? 首尾は」
「さすがに名前は引き出せませんでしたが、吾郎さんの推測通りでしょうね。
あと勝手に倍額に変更してきて、追加で『今後も協力してほしい』とのことです」
え? 前600万の後800万?
どうせまともに取り合う気もない頼みだし、前金だけ貰って我々の懐に入れるだけだからと、軽めに吹っ掛ける程度にしてやったのに。
「アッハハハ! なら僕が
僕は笹木さんの邪魔にならないよう、禁止されていないところで火をつけるようにしますから。
――大宅一子の記事、通りますよね?」
「それはもちろん。
「ありがとうございます。
皆さん相変わらず優秀な方々で、本当に頼りになりますよ。――ククッ、アハハハ」
奥村の金は厄介だ。
だが連中にはツテがない。だから笹木を頼るしかない。
他に動かせるとしたら奥村経由で杉村のコネを使うぐらいだろう。
そうなる前に杉村の後ろ暗いネタを適当なマスメディアに流させよう。
わざわざオーダーメイドさせて、今日手元に戻ってきたばかりのパーソナルチェア――
アレも例によって、
都議時代から溜め込んだ裏取引の履歴がメインだが、杉村のネタもそこそこ入っていたはずだ。
後で中身を確認して使えそうなものをピックアップして……
……星野に投げればいいか。忙しいったって、チクるだけなら時間取れるだろ。
あとは――そうだな。
「そうだ。笹木さん、ウニクロに車回してもらえます?
変装の時に着る服が欲しいんですよね。いかにも量産的な感じの地味でダサめの奴」
「構いませんよ」
笹木がナビをセットする間に、スマホを開いてチャットを送る。
相手は三島だ。そろそろ放課後も近いだろう。
『よう。今日時間空いてるか?』
……なかなか既読がつかない。まだ授業中か。
車が動き出す。目的地まで10分弱。
何となく目を閉じる――と、しばらくして通知音が鳴った。
『空いてます』
『相談したいことがある。4時半に渋谷駅前のガスツ来れるか?』
『行けます』
良かった良かった。あとは服買って着替えて、髪型と眼鏡だけ田中に変えればいいな。
――と、思った矢先にまた通知が来た。何だ?
『すみません。雨宮達も一緒でもいいですか?』
……なんで?
『なんでだよ』
『告発が上手くいくのかとか、いつやるのかとか、詳しい状況が知りたいって。
雨宮と坂本と高巻さんが言ってて』
え? 高巻って、あの時の階段でうっかり言い争った女だよな?
なんで?? ……いや、まあ、当事者ではあるから気になる気持ち自体は当然……か?
『雨宮は猫連れてくるのか?』
『多分』
『場所変える。ちょっと待て』
さすがにファミレスに猫を連れ込むのはダメだろう……
私が
――さすがに怪しまれると思ったが、笹木の紹介だと言ったら無事に貸し切り予約を取れた。
三島にマップデータを――と言っても店自体が登録されていないので、地点だけ送る。
『渋谷から少し離れるがここに来い。全員分奢ってやる。
その代わり、拡散禁止の店だからお前が道案内しろ。絶対に他の奴にシェアすんな』
『わかりました』
神泉駅から少し渋谷側に戻った場所にある、地主が趣味でやっているだけの利益度外視の店だからな。
下手に知られて繁盛しようものなら、客も店主も困る。
「あの店を使うなんて、いったいどなたを呼ぶんです?」
「秀尽で知り合ったガキの集団ですよ。
ガキにはガキの情報網があるようなのでね。情報収集ついでに、頼み事でもしようかと」
まさか
何なら私だって呼びたくはない。向こうが勝手に来ると言っているだけで、断ろうにも理由が出てこないというだけだ。
あと猫のせいである。
行き先の店はそもそも猫飼いかつ看板猫として表に出す日もあるので、咎められる危険性は低い。
「高校生ですか……せん――吾郎さんも大変ですね」
「仕方ありませんよ。今の僕は高校生ですし、協力者は重要だ。
それにまあ、一人あたり数千円の出費で動いてくれますから。服より安い人材に、いちいち文句をつけてもね」
――などと会話している間に、ウニクロに着いた。
極力地味な服を探して、田中の私服姿らしく変装して行こう。
「すみません! レス……じゃない、田中先輩、遅くなりました!」
「こんにちは」「こんちわ!」「お、お邪魔しまーす」
「おう。思ったより早かったな」
コーヒーの絵柄の置き看板と釣り看板以外、店名すらない隠れ家カフェだ。
5時前に来れれば大目に見ようとさえ思っていた。4時40分前に集まったなら上等だろう。
店主を待たせるわけにはいかないため、話は後にしてメニューを渡す。
「店の人にも席を外してもらうようお願いしてるから、頼みたいものがあれば先に全部頼んでおけ。
飲み物含めて1人3つまでな。それ以上頼むなら自腹切れよ」
「え? 食いもんもいいんすか? じゃあ俺ココアとー、カツサンドとー、ショートケーキにしよっかなー!」
「すごいがっつり行くな、坂本……俺はカフェオレとたまごサンドかなぁ」
「コーヒーとみかんジュースとコーヒーゼリーで」
「うーん、悩む……紅茶は決まりとして、ショートケーキとチョコケーキ、どっちがいいかなぁ」
「時間かかりそうなら両方行っとけ。俺はいつも――じゃねえ、カフェオレとチョコケーキで」
「うにゃにゃにゃーにゃみゃみゃ!」*1
「ああ、モルガナ用のおやつもお願いしておいたから安心しろ」
「にゃー……にゃむにゃう」*2
――そんなこんなで注文を通すと、十分もしないうちに頼んだ品がテーブルに揃った。
先に代金の支払いを済ませると、店主は外へと散歩……もといパチンコに出かけていく。
貸し切り代含めて2万円。ここはモルガナのためだと思い込もう。
「モルガナ。ささみスティックだって」
「なー……にゃむにゃむ……にゃにゃん!」*3
「食いつきいいな。気に入ったのか?」
「即落ち2コマやってる」
……どういう例えだ?
まあいい。さすがにいつまでも有耶無耶にしておくと後を引きそうだし――
「あー……とりあえずその、高巻さん。
この前は悪かった。さすがに年甲斐もなく言い過ぎた」
「え? あ……い、いえ。私も、志帆や自分のことで精一杯で……」
「俺も鈴井さんのことまで考えが及んでいなかった。
鴨志田の分まで罪を着せられる謂れはないが、一因は担ってるだろう。
――だからまあ、鴨志田の告発に関しては最後まで協力するつもりだ。どこまで役に立てるかはわからないが」
「よ、よろしくお願いします」
……水に流し切れたとは思わんが、ひとまずこれでいいだろう。
それよりも、だ。
「さて。今日三島を呼んだ理由だが、割と悪いニュースがある。
――なんとあのクソ校長にスポンサーが着いちまった」
「えっ?」
「秀尽学園3年生の奥村春、その父親の奥村邦和。
お前らも知ってるだろうが、ビッグバン・バーガーのオクムラフーズの社長様だ」
「「「え、……ええええええええええ?!」」」
「……ビッグバン、バーガー?」「にゃん?」*4
おい。猫はともかく前科者の田舎者。なんでお前は首を傾げてるんだ?
まさか知らないとでもいうつもりか?
「ワイルダック・バーガーなら知ってるけど……」
「え? 蓮、マジで言ってる?」
「俺はいつでもマジだけど」
嘘だろお前? 色々な意味で。
「……誰か今度、雨宮をセントラル街に連れて行って案内してやれ。
それよりも、だ。
世界的ファーストフードチェーンの経営者にして金だけ持ってる成金親父が、娘のために秀尽の名誉を守ろうと立ち上がっちまった」
「えっと……するってぇと、どうなっちまうんだ?」
「……まさか、買収?」
「三島、正解。
理事会を金で動かして、岡田さんの解任とかお前らの退学とかの決議を通し、鴨志田の体罰を揉み消す。
もちろん理事が全員買収に応じるほど腐っちゃいねえとは思うが、そういう真っ当な人達には逆に金で雇った奴らで脅しを掛ける。
それぐらいの資金力がオクムラフーズにはある。ぶっちゃけ政治家がバックにつくより数倍厄介だ」
「え……そ、そんな、なんで?!」
「言っただろ? 3年生の娘がいるって。
卒業までに学校側で不祥事を起こされようもんなら経歴に汚点がついて、娘の人生の価値が落ちちまうってわけさ」
理解できないという顔をする坂本。逆に親父の理屈がわかってしまったらしい高巻。
顔を真っ青にしておろおろしている三島。真剣な表情でうつむきながら、モルガナにさつまいもスティックを食べさせている雨宮。
四者四様の反応なのはいいが、雨宮はわかってるのか?
「……奥村春さん、だっけ?
娘さんの方を説得して、お父さんを止めることはできないのか?」
……わかっていたようだし真面目に考えていたようだ。
いかにもガキの発想らしい案だし、奥村邦和がまともな人間だったらそれで通ったのは事実だが。
「残念だが、奥村社長はブラック経営上等のワンマン野郎だ。
娘の方はまともだし、お前らの話を聞いて協力してくれる可能性は7割強……いや、高巻さんと三島で話せば9割超えると思うがね。
親父が娘の話を聞くタイプじゃない。世間知らずの娘を守る父親ごっこが大好きな、人の話を聞かない奴だよ」
「やけに詳しいけど……田中先輩、まさか奥村って奴の身内とかなんか?」
「あ? 違えよ。逆だ逆。
俺の恩人の親父さんが、奥村の野郎に会社ぶっ潰されたからよ。ムカついて調べてたんだ」
いずれ消すつもりで金だけ搾り取っていたが、こうなるならもっと早くに消しておくべきだったな。
……まあ、秀尽学園絡みの件はだいたいそうだが。過去に図った便宜が全部裏目に出てやがる。
「というわけで、だ。
三島。お前ネット使って奥村の噂流せ」
「えっ?」
「秀尽の噂の拡散速度は異常だし、尾ひれの付き方もヤバい方向に行きがちだ。
だから『オクムラフーズの社長が娘のために校長に大金を出している』って話を流せば、愚民どもが勝手に脚色してくれる。
裏口入学だの成績を金で買うだの、その手の類の――それこそ娘の経歴の傷になりそうな噂にな」
「ちょ……そ、それはダメじゃない!?」
高巻が机を叩きながら立ち上がる。
グラス類が倒れなかったからいいが――ここ、貸し切りとはいえカフェだぞ?
「その、奥村先輩自身は何も悪くないんでしょ!?
なのにそんな噂流したら傷つくのは先輩じゃない!?」
「まあそうだな。とりあえず店内だから落ち着いてくれ。
弁償するの俺だし、ここのテーブルは多分数十万するぞ」
「…………あ、はい。すみません」
今の威勢はどこへやら、しゅん、と縮こまる。
そうやって大人しくしていればまだ可愛げがあるのだが。
「まあ、奥村春が悪くないのはその通りだが……親父が校長に金を出してるのも事実だぞ。
尾ひれが着くのを見越してるだけで、三島に流せって言った内容だけなら単なる事実の指摘だしな。
それに俺達だけで奥村邦和の動きを止めようとなれば、他に現実的な手段がない。
娘の名誉のために校長に資金提供して、それで娘の名誉が汚されるなら
「……だけど、それじゃあ」
「奥村春がかわいそうだからって何もしなかったら、理事会が買収されてもれなくゲームオーバーだ。
お前らの未来を守って鴨志田の悪行を告発するのと、奥村春1人のために鴨志田をのさばらせてみんな退学になるの、どちらがマシかって話だよ。
あるいは奥村春を含めて全部守りたいってなら、それができるプランを考えてくれ。今ならまだ時間はあるからな」
「……」
全員が口を噤む。モルガナも空気を読んだのか、おやつを食べるのを止めた。
気まずい沈黙の中、突然雨宮が右手を上げる。
「レスバ先輩。鴨志田を改心させて警察に行かせることができたら、奥村さんの悪い噂は流さずに済むのか?」
「いきなり何を言ってるんだ。お前は」
その通称にしたって、確かに三島に身内の間で呼んでいいとは言ったが、お前に呼ばれる筋合いはないが?
それに――
「そもそもだ。肝心の、改心させる方法は見つかったのか?」
どう考えてもここが一番のネックだろ。前提さえ揃っていないのに論じたって――
『――もしかしたら見つけたのかもしれませんよ?
僕がいないと何もできない獅童さんとは違って』
うるせえよ。こんなガキに見つけられるわけねえだろ。
「……まだ、確信できる手段は見つけていない」
ほら見ろ。当たり前だろ。
『どうでしょう? 僕より先にあなたを殺した雨宮くんですよ?
僕と同じ力の持ち主だって、』
「……だけど、」
『「きっと見つけて――」』
「――ふざけるなッ!
できるわけがない! こんなクソガキに!
南条も桐条も認知訶学の研究者も大江達も誰も見つけてない能力者を、都合良く――!!
「フギャギャギャギャ!?」*5
「せ、先輩……? なんですか? その、ペルソナ使いって……」
「……え? ……ッ!?」
声を荒げた私に驚いたのか毛を逆立てるモルガナと、ぽかんとした表情でつぶやく三島の声に、ようやく自分が口を滑らせた事に気づく。
まずい。……いや、落ち着け。
別にこいつらは財界とも政界とも繋がりがない、ただのガキだ。
それにまだいくらでも誤魔化しようはある。違う。誤魔化す必要すらない。味方に引き入れればいいだけだ。
「にゃうにゃにゃにゃ。にゃんみゃみゃみゃにゃにゃ」*6
猫がすごい勢いで鳴いている。
いや、そんなことはどうでもいい。頭を回せ。いざという時のためにカバーストーリーはいくつか考えておいたはずだ。
「わ、悪い、モルガナ。大声出して悪かった。
――ペルソナ使いってのは……古本で読んだ都市伝説だよ。
桐条の人体実験に、セベクスキャンダル。それと、
どれも20年前とか17年前とかの、俺らが生まれる前の事件や事故に伴うオカルト話だが……ペルソナ様とかペルソナ使いって単語が共通して出てくるんだ」
「……それと、改心に、何の関係が?」
「セベクスキャンダルの生存者が書いた本に、それっぽい前書きがあるんだ。
試しに『楽園の扉』、『心の中』、『大切な友達』、『眠る私達』で検索してみろ。
勝手に中身を引用した古いブログの書評が引っかかるはずだ」
「三島。やってみて」
「なんで俺が?! まあ良いけど…………あ、本当に出てきた。なになに……」
【私はあなたの心の中に迷い込んでいた、とお母さんは言いました。
私とお母さんを助けてくれた大切な友達と、大好きな人のために。
みんなを守ってくれたペルソナ様と、私の中に眠る私達のために、この本を捧げます】
「……うみゃみゅみゅ」*7
「う、うーん……だ、だけどよ、ペルソナ様とペルソナ使いって違うんじゃね?
それに、迷い込むのと心の中に入れるのって違う話じゃね?」
「そ、そうだよ。これだけじゃ、改心には繋がらない……んじゃないかな?」
この本――『楽園の扉』は、当時の心理学者達が認知訶学の理論を考え始めたきっかけの一つだとされているのだが……まあ、ガキからしたらそうなるか。
ダメだ。私が焦ってどうする。落ち着け。観察よりも頭を動かすほうが先だ。
「……まあ、何となくこの本のイメージが残ってたんだよ。
心の中に入って心の歪みを消せたなら、お前の言う改心もできるかもなって。机上の空論に過ぎねえのは確かだが」
「にゃーんにゃにゃん……なーご」*8
「そ、そっかぁ……そう言われたら、そうかも?」
「心の歪み……ねえ」
よし。高巻と坂本は何とかなりそうだ。
雨宮と三島は? こいつらの方が面倒くさいが……
――わからん。雨宮は表情が固くてイマイチ何を考えてるのかわからん。三島は……ひたすら困惑しているだけかな。
「……レスバ先輩。質問」
「なんだよ雨宮。」
「いや。――そもそも、
……ッ。こ、こいつ……!!
「――言っただろ。都市伝説を……」
「生まれたばかりの頃の古本なんて、自分から探そうと思わないと買わなくないか?
それにさっきの検索ワードも変だ。
ペルソナ様って単語ならブログの文章にも入っているのに、
『ペルソナ使い』で検索しても同じだ。勝手に『ペルソナ』だけで検索した結果にすり替わって、心理学のページばっかり出てくる」
こんな短時間で気づくなよクソガキ……!
ああそうだ。桐条か南条か、他の組織かはわからないが――この2つのワードは現存する全ての検索エンジンで検索対象から除外されるようになっている。
下手をすれば、検索回数や掲示板の書き込みなどを監視して、ペルソナ使いの疑いがある人間を調査しているのかもしれない。
少なくとも桐条はそういうことを平気でやる。
『あーあ。完全に見抜かれてますね。まさかあれほど僕に注意していた獅童さんが失言するとは思いませんでした』
「もしかして、先輩は
「にゃ!? にゃおん!?」*9
『なかなかやりますね、彼。さすがあなたを殺しただけのことはある』
この、クソガキどもがッ! 調子に乗って煽りやがってッ!
だいたいこいつの――
「――ムカつくぐらいいい度胸してるよなぁ、クソガキがッ!!
いつだって目障りで! 邪魔で! 消そうにも消せない場所にいやがるッ! だからお前が嫌いなんだよッ!!」
「……え?」
『そんなに嫌だったんですか? 雨宮くんに自分の失言を見破られたことが』
「当たり前だろうが! いつまで出しゃばれば気が済むんだ?! 死んでろって何回言えばわかるんだ!」
「へっ? ――せ、先輩……何の話してんだ?」
『ひどいなあ。僕は獅童さんのために命を差し出したのに』
「いつどこで誰が頼んだ!? だいたいお前がそんな事考えるタマなわけねえだろうがッ!!
クソガキの分際で恩着せがましいんだよ! 勝手に死んだくせに!」
――頭が痛い。いつものことだ。
いい加減に消えろ。話しかけるな。
『勝手に死んだなんてずいぶんな言い草ですね。そうしなければ死んでいたのはあなたですよ?』
「だったら見殺しにすれば良かっただろうが! 今更恨み言吐く資格なんかねえよ、お前にッ!
自分でそうしたんだから大人しく死ねよ! それとも死んでることにも気づかねえバカなのか?! なら何度でも死ね!!」
「先輩!? どうしたんだってんだよ!?」
『ほら、みんな心配してますよ? 騙されてることにも気づかないバカな後輩たちが』
「お前のせいだろ! 夢にも鏡にも毎日毎日性懲りもなく出てきやがって! いい加減に黙れよ!
いつもいつもいつまでも! うるさいんだよ……ッ!? がッ、あ、うぐああああッ………!?」
痛い。苦しい。目眩がする。まずい。薬……いや、ダメだ……昏倒して起きれなく……
ダメだ。息を、呼吸を、落ち着いて――吸えない、なんでだ。吸って、吸って……息、息を…………
「先輩!! 先輩!?」
「ちょ、ちょっと! まずくない?! よ、横にさせる!?」
「わーってるっての! 三島、お前反対側支えろ!」
「わかった! お、下ろすよ! せーの!」
…………
「……ど、どうしたんだろう」
「途中から……私達じゃない誰かと話して、怒ってた、よね?」
「や、やめてくれよ……幽霊とかいたら困るんだけど!?」
「私だって困るっての! ……うう。本当に怖くなってきた」
…………
「つかさ……先輩、頭の手術、してね? なんか……痕、あったよな?」
「う、うん……俺もちょっと見えた、けど……」
「幽霊とかじゃなくてさ、そのせいじゃね? だって頭だろ?」
「にゃおん……にゃーにゃんにゃー」*10
「「「……」」」
……うっすらと囁き声や鳴き声が聞こえる。
「……俺の、せいかな」
「いや……今のは、蓮にキレてたんじゃなくね?
幻覚っつか……見えない誰かにキレてたっぽくね?」
最初にキレたのは雨宮蓮のせいだが?
――そう思った途端、急速に思考が晴れていって、感覚が明瞭さを増していく。
突っ込みのせいで気がついた、というのが何とも格好が付かないが。
それにしても、いつからだ?
いつから、幻覚に気づけていなかった?
途中からずっと
ここ数日起きていた、はっきり幻だとわかっていたはずのソレを――どういうわけかそこにあるものと受け入れてしまっていた。
今は……自分がおかしいと、理解できる。
奴の声も、もう聞こえない。
頭痛はまだ、残っている……が、呼吸は……できる。
……起きても、問題は、なさそうだ。
「う、うう……わ、悪い……みっともない、真似……しちまった」
「先輩? 正気に戻った?」
「救急車とか、呼んだ方が……」
「いや……今は、多分、大丈夫だ。一度治まれば……しばらくは、出てこない。
それに病院の予約も来週だし……家に戻れば、薬もあるからな……
ふらつきやすくなるから、外に出る時に、飲まないだけで……」
そもそも他人の身体で生きるなど、現代医学が想定している状況ではないだろう。
例の手術をした月光大病院以外では、薬の処方はおろかまともな相談すらできない。
治療の目処が立たないのに救急車を呼んだり他の病院に行くなど、時間の無駄だ。
「あ――じゃない、田中先輩、そこまでひどかったんですか?
走れないとか、体調が悪いとか、色々聞いていたけど……日曜や月曜はなんともなさそうだったのに」
「さすがに、現実と幻覚の見分けもつかなくなったのは……今日が初めてだよ。
日曜は……まあ、確かに、お前と一緒にいた間は何もなかったな。
お前の先輩が怖すぎて……幻覚もビビったのかもしれねえ」
「……三島。バレー部の先輩方ってそんなに怖ぇえの? どんな人だよ?」
「あ、い、いや……波島先輩は……怖いっていうか……その、熱意がアレなだけで……」
そう納得できてしまう程度には恐怖を感じている。今でも。
幸い、例の動画のコメント欄は本当に封鎖されていたし、彼女のものと思われるペケッターアカウントは写真を削除してくれていたが。
まあいい。
今は、失言のカバーと――雨宮達に渡す情報をどうするか、だ。
奥村の資金力と真っ向から戦うのは得策ではない。
それなら……ガキどもに『明智吾郎と同じ力を持つペルソナ使い』を探させてみるのも……アリかナシかで言えば、アリに思える。
探して結果が出なければ奥村春への攻撃を認めざるを得なくなるだろうし、結果が出たら儲けものだ。
何より、こいつらと認知訶学研究グループが接触する経路は見当たらない。
私とこいつらだけで情報を独占して、第二の研究グループを作ってしまえば……以前のように優位に立てるかもしれない。
だが――こいつらにそこまでやる気があるだろうか?
所詮はガキだ。面倒くさくなって『やっぱりやーめた』と言い出しかねない。
……どうしたものか。
いや、とりあえずは……椅子に、座るか。
「……雨宮。悪かった。
別に、お前に言ったつもりはないから……正真正銘、病人の妄言だ。何とか……忘れてくれ」
最初の一言ははっきりコイツに言ったつもりだが、幻覚のせいだと押し付けてしまえば有耶無耶にできるだろう。
飲み残しのカフェオレを口にする。とっくに冷めていた。
「――それと……お前の指摘は正しいよ」
「え?」
「俺は、ペルソナ使いを知っている。実際に会ったこともある。
お前らの期待に沿う内容じゃあないが……何かの手がかりにはなるかもしれない。
ただ……俺が知ってる話の中でもダントツでヤバい。隠さないとまずいと思う程度にはな」
「や、ヤバいって……どういう風に?」
……さすがに証拠の一つでも見せた方がいいか。
ポケットからいつものタクティカルライトを取り出す。これが比較的安全でわかりやすかろう。
「雨宮と坂本には一度見せたよな、このライト。
こいつはある企業グループが開発した、
懐中電灯としてだけでなく、目潰しに使えるだけの威力がある。こんな感じで」
ガキどもの目を灼いて文句を言われないように、誰もいない方向――天井の隅に向けて最大光量を照射する。
指向性が強い光といえ、車のヘッドライトを余裕で超える明るさだ。数秒で消したが、危険性は1発で理解できるだろう。
「ま、まぶしっ……これ、こんなの当てられたら、失明しちゃうんじゃ?」
「長時間見続けたらな。その前に気絶するかぶっ倒れるかするはずだ。
――で、このライト。何が問題かって、バッテリーや乾電池で動いてねえ。USBポートも端子もなんもねえ。
嘘だと思うなら貸してやるから探ってみろ。ああ、スイッチは触るなよ」
「「「……」」」
オフにしたライトを机の上に置く。三島と坂本と高巻が顔を見合わせる中、雨宮が手を伸ばす。
一通り外装を見て、カバー類の継ぎ目がないかを探しているが……そんなものはない。
お仲間の様子に、警戒心より好奇心が勝ったのか、他の連中も代わる代わる手に取り出す――が、結果は同じだ。
「――とまあ、この明らかにどうかしてるトンチキグッズを譲ってくれたのが、俺の知ってるペルソナ使いってわけだが。
もしお前らが本気で鴨志田を改心させたくて、危険を承知でペルソナ使いを探したいっていうなら、俺が知ってることを教えてやる。
ただし明日な。今日は体調が悪すぎるし、早めに薬飲んで寝ないとまた幻覚見るかもしれねえ。
……それがキツいってなら、素直に奥村の噂流して時間稼いどけ。その方が安全で確実だ」
「――レスバ先輩から見て、ペルソナ使いは探せるということ?」
「俺の場合は全員向こうから接触してきた。
だから探し回ればそのうち相手が気づくかもしれねえ。近くにいたら、の話だが。
……とりあえず一日考えて、明日話を聞きたくなったら三島経由で俺に連絡しろ。
それと明日会う会わないに関わらず、ネットで例の言葉は二度と調べるな。掲示板にも書き込むな」
桐条に目をつけられたら最悪だからな。
これだけは先に釘を刺しておかないと、雨宮だけでなく三島も引っかかりそうだ。
「一応、ここの予約だけ今日と同じ時間で抑えておく。
来ないなら来ないで構わねえ、別の知り合いでも呼んでのんびり茶をしばくだけだからな」
「わかった。モルガナはどうする?」
「にゃんにゃー。にゃんうみゃみゃにゃにゃ」*11
「なるほど」
「にゃーにゃんにゃーみゃーみゃにゃなおなおなーご」*12
「わかった」
「……何がわかったんだ。今ので」
「モルガナは今日食べたささみスティックが好き」
「にゃん! んにゃにゃにゃん!」*13
「そ、そうか……来るなら頼んでおいてやるよ」
猫に罪はない。『可愛ければ許される』を地で行く生き物だからな。
さて……明日、どうなるか。
情報を渡すのは構わんのだが……
正直、安牌を取ってほしいところだ。
そうすれば雨宮と顔を合わせずに済む。
もちろん他にも原因は山ほどあるが――殺意を隠して自分の仇と仲良く話し続けることだって、相応の苦痛なのは間違いないからな。
Q:もしも奥村吾郎くんと明智春ちゃんになっていたらどうなっていましたか?
A:子供達が不幸なことには変わらないと思います。
奥村社長は才能溢れる跡取りをもててニコニコ、オクムラフーズも大きくなります。
その一方で奥村吾郎くんは社長令息なので発言権はありますが、会社に有用な意見以外は聞き入れてもらえず、自分がやりたいことを自ら選ぶ権利もなく、特別な能力も会社のために使われます。やがて才能と肩書きしか見られていないことに気づき、自分自身の意思や存在を認めてもらえない人生に嫌気がさすでしょう。しかし父親に復讐したくても、明らかに愛してくれてはいるので踏み出せない生き地獄に陥ります。
獅童は実子が復讐に来てくれないため、2年半前のスキャンダルに対抗できません。禊をして再選を狙うパッとしない政治家止まりです。認知訶学研究も獅童が失脚して一色若葉が生存するため、若葉が目指していた精神治療手段として発展する可能性が高いです。
明智春ちゃんは不幸な環境で育ち人間不信に陥るかもしれませんが、復讐に踏み切ることはなく、街頭演説する父親を遠目で見ては声をかけることなく立ち去ります。もし向こうが気づいてくれたら……と思うこともありますが、それが叶わぬ夢であることは理解しています。そしてある日突然特別な能力に目覚めても悪用することは考えられず、モルガナと会う日まで何もせずにいるでしょう。
奥村吾郎くんが『ゲームマスター側の駒』に選ばれたら、暗黒企業オクムラフーズを舞台にすごくペルソナ1味のペルソナ5が始まるでしょう。
明智春ちゃんが選ばれたら、初手5人パーティかつ現実世界の黒幕不在、怪盗団超有利なペルソナ5になってゲームマスターがコントローラーを投げ捨てるでしょう。なんだこのクソゲー。
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次回更新は少し間が空いてしまって11月10日火曜日の21時15分になりますが、これからも頑張って書いていきますのでよろしくお願いします!