初夏の空から、窓越しに太陽の光が入り図書館を明るく照らしていた。
図書館は年季の入った建物で時折、壁が軋んだ。それなりに綺麗にしているが、戸棚に入りきらなかった本が、カウンターの隅に山積みになっている。
窓を背にして、青いソファーに仲良く座る少女と男が二人。
時計の針がカチカチと鳴る、静かな室内にパラリと、
少女の名はアメ。
服装は、白いシャツと青いズボン、首にお気に入りの赤いスカーフを巻いている。
少女の隣に座る男の名はナゴ。
年齢は三十代前半。無造作に整えられたミディアムウルフカットに、黒ぶちのメガネを掛け。服装は白いワイシャツの上に黒のベストを着て、黒いスラックスを履いていた。
ナゴは先程まで読んでいた夏野菜全集をパラパラとめくり、さまざまな野菜の写真が掲載されている目次を開く。
「アメさん、どの野菜を育てるか決まりましたか?」
アメの目線に合わせ、顔を下げたナゴが聞いた。
アメはうんと頷き、トマトの写真を指差す。
そうですかとナゴは言い、頑張って下さいと後に続ける。
アメはソファーから立ち上がりナゴに向け、ありがとうと礼を言って、
どういたしましてと返事が返ってきた。
*
月は雲に覆われ、小雨の降る深夜一時過ぎ。
首にライトをぶら下げ、黄色い子供用レインコートを羽織るアメが走っていた。
両手に金の
その背後を、黒い目玉のお化け達が、ワシャワシャと付いてきていた。
アメはアスファルトの赤い水たまりをパシャリと踏み込み、駆け抜ける。
水たまりから白い腕がアメに向かって伸びるが、掠りもしなかった。
深夜徘徊するアメには目的がある。
それはトバリが言っていた噂話の祟られ野菜が芽吹く、泥の種だった。
アメは、目の前で逃げる泥のお化けを鍬で叩けば貰えると、後を追って行く。
なぜこんなことをしてるのかと言えば、毎月27日に開催される品評会にて。
村長のリンにアメ、あなたの作る野菜はブランド化できる出来では無いわと、言われたのだ。
ならば次の品評会では、祟られ野菜でリンの度肝を抜くのだと。
農奴の誇りを胸に秘め、アメは夜の彼ヶ津村を探索していった。
*
アスファルトに、月明かりが反射する雨上がり。
泥の種をたくさん集め、的当て柄の目玉のお化けを頭に乗せるアメが、トコトコと歩いていた。
村外れのボロ屋に戻るためにサザンカの家の前を通ろうとして、
「おい、ガキ。何か買ってけや」
空き地で露店を開く店主に、声をかけられる。
店主は茶色の小袖を着て、ボサボサの白髪をした、還暦を超える年齢の老婆だった。
自らを山の神と名乗り、ごく稀にしか会えない存在でもある。
アメは金の鍬を道路に置き、レインコートの下に着ていたズボンのポケットから、がま口の財布を取り出し所持金を確認する。
中には1800円。
それでも、商品の何個かは買える手持ちだった。
アメはしゃがみ込み、赤と黒の縞々模様をした風呂敷の商品を眺めた。
一律200円で子どもの勾玉、ふたごの勾玉、雨の勾玉、勾玉が売られている。
アメは手持ちのお金を全て使おうとして、
「イヒヒ、合計5個までだよ」
老婆に釘を刺された。
アメは悩みに悩み、子どもの勾玉一つと雨の勾玉四つを買うことにした。
お金を払い、勾玉をポケットに詰め込んで立ちあがろうとしたアメに店主が、
「ちょい待ち。アンタはこれで三回目だねぇ。これをやるよ」
小袖に手を突っ込み、一枚の栞を取り出し手渡す。
アメは貰った栞をライトで照らし、マジマジと見つめる。
表に桃の花の金印、その裏には達筆な、いろはにほへとの文字が書かれた
「また買いに来な」
老婆はそう言うとバサァと崩れ、空き地には、落ち葉とアメと目玉のお化けだけが残された。
*
アメのボロ屋と彼ヶ津村を繋ぐ道に置かれた辻の祠の前。
目玉のお化けと別れた彼女は、先程買った全ての勾玉を供え、パンッと一回音が鳴る。
そして、
勾玉が薄く輝き始め、アメの目線まで登りながら、螺旋を描き混ざり合う。
空気に溶けるように形を失い、アメの中に光が吸い込まれていった。