エターナルクライシス〜運び屋戦記〜   作:ネオディール

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第一部:第一章その十三[運び屋]ーー15分ーー

 最初の異形が踏み込んだ瞬間、ケンゾーもほとんど同時に前へ出た。

 

 相手は四本の腕を持つ大型個体だった。上側の二本には骨と金属が融合した長い刃が形成され、下側の二本は人間の腕に近い形を残している。しかし、その表面には黒い装甲が絡みつくように張り付き、指先からは青白い生命エネルギーが漏れていた。先ほどまでの戦闘で傷つけた痕跡も残っている。それでも中央炉から供給を受け続けているためか、砕いたはずの装甲はすでに半分以上が再生していた。

 

『正面個体、生命エネルギー循環率八十二パーセントまで回復』

 

「十分すぎるな」

 

 ゲシュタルト・レーヴェの報告を聞きながら、ケンゾーは右手の黒い長剣を斜めに構えた。真正面から倒し切ろうとはしない。今の目的はテルテルたちが生命維持系統と人格統合回路を分離し終えるまで、十五分間この防衛線を破らせないことだ。相手を完全に停止させるために傷を増やせば、その分だけこちらも消耗する。ケンゾーは最初から、敵の進行能力だけを奪う戦い方へ切り替えていた。

 

 四本腕の異形が右上の刃を振り下ろす。

 

 ケンゾーはそれを剣で受けなかった。ゲシュタルトが一瞬で形状を変え、左腕側に小型の盾を形成する。刃を正面から止めるのではなく、盾面を斜めにして軌道だけを外側へ流した。

 

 巨大な骨刃が床を叩き、金属板が深く裂ける。

 

 その隙に、ケンゾーは異形の懐へ潜り込んだ。

 

「右脚を狙う」

 

『了解』

 

 長剣だったゲシュタルトの先端が細く伸び、短い槍に近い形へ変形する。ケンゾーはそのまま異形の膝裏へ突き込み、関節を内部から抉った。

 

 青白い光が傷口から噴き出す。

 

 異形の右脚が大きく沈んだ。

 

 だが、それだけで止まる相手ではない。

 

 下側の腕がケンゾーの頭部を狙って横薙ぎに振るわれる。

 

『回避を推奨』

 

「分かってる」

 

 ケンゾーは身体を低くし、拳の下を潜った。その動きだけで脇腹に鋭い痛みが走る。先ほど黒い巨人に受けた傷は、戦闘を続けるたびに確実に悪化していた。

 

『使用者の呼吸数上昇。肋骨損傷部位への負荷が危険域へ接近』

 

「まだ動ける」

 

『動けることと継続可能であることは同義ではない』

 

「最近よく喋るな」

 

『必要性が高いため』

 

「俺が無茶してるからか?」

 

『肯定』

 

 一瞬だけケンゾーの口元が緩んだ。

 

「悪いな」

 

『謝罪より休息を要求』

 

「それは後だ」

 

『予測済み』

 

 返事と同時に、ゲシュタルトが槍から鎖へ変わった。黒い金属鎖が異形の傷ついた右脚へ巻きつき、ケンゾーは身体全体を使って横へ引く。片脚の支えを失った異形は巨体を傾け、そのまま左膝を床へついた。

 

「一体、足止め」

 

『対象はなお戦闘可能』

 

「立てなきゃ十分だ」

 

 ケンゾーが次の個体へ向き直ろうとした時、背後から激しい破砕音が響いた。

 

『ギャハハハハハッ! そっちは随分地味にやってんなァ!』

 

 フール・オブ・グレモリーの笑い声だった。

 

 Bはケンゾーより数メートル右側で、三体の異形を同時に押さえていた。巨大な大鎌を横向きに構え、二体の攻撃を刃と柄の両方で受けながら、正面の一体へ蹴りを叩き込んでいる。

 

「地味でいい。時間稼ぎだ」

 

『戦場で地味とか勿体ねぇだろ!』

 

「お前が派手すぎる」

 

『褒め言葉だな!』

 

「褒めてない」

 

 Bは言葉こそ淡々としていたが、その動きはフールとは対照的に徹底して無駄がなかった。

 

 一体目が上から振り下ろした骨の槌を、大鎌の柄で受ける。そのまま力比べをすることはせず、柄を滑らせて軌道を横へ流す。槌が床へ叩きつけられた瞬間には、Bはすでに相手の側面へ移っていた。

 

「フール、脚」

 

『任せろ!』

 

 紫色の光が大鎌の刃に集まり、Bが低い位置から横薙ぎに振るう。狙ったのは胴体ではなく、異形の左膝だった。

 

 刃が装甲へ食い込み、骨と金属をまとめて断ち切る。

 

 異形が姿勢を崩したところへ、別の個体が背中から飛びかかった。

 

『後ろだ!』

 

「見えてる」

 

 Bは振り返らず、一歩だけ前へ出た。飛びかかった異形の爪がコートの背中を僅かに掠める。それと同時に大鎌を逆手へ持ち替え、石突きを後方へ突き出した。

 

 柄の端が異形の胸部へ直撃する。

 

 その一撃だけでは傷にならない。

 

 しかし相手が僅かに仰け反った瞬間、Bは身体ごと回転した。

 

 大鎌の刃が円を描く。

 

 紫色の衝撃波が二体をまとめて後方へ押し返した。

 

『ギャハハハハ! まとめて行ってこい!』

 

「カプセル側へ飛ばすな」

 

『分かってらぁ! ちゃんと手前で止めてるだろ!』

 

 実際、異形たちは保存カプセルへ衝突するより数メートル手前で床へ転がっていた。

 

「ならいい」

 

『もうちょい褒めろよ!』

 

「仕事中だ」

 

『冷てぇなァ!』

 

 フールの騒がしさとは別に、Bの視線は絶えず周囲を巡っていた。正面の怪物だけではなく、中央炉、保存対象、新人三人、そしてテルテルたちの作業位置まで視界へ入れている。

 

 その時、左側から赤い光が飛んだ。

 

 Bがわずかに顔を向ける。

 

 赤いエネルギーの鞭が異形の腕へ巻きつき、次の攻撃を途中で止めた。五人の古代兵器使いの一人である細身の女だ。

 

「今よ」

 

「助かる」

 

『おっ、素直に礼言った!』

 

「黙れ」

 

「本当にその武器、うるさいわね」

 

『ギャハハハ! 人気者で悪ぃな!』

 

「誰も人気とは言ってない」

 

 細身の女が呆れた声を返しながら、もう片方の赤い刃を別の異形へ伸ばす。敵同士だった者たちが、今だけは同じ敵を押し返すために動いている。その関係が終わった時どうなるのかは、誰にも分からない。

 

 ケンゾーはそちらへ気を取られず、前方を確認した。

 

「シノン」

 

『聞こえてる』

 

 通信越しに即座に返事が来る。

 

「前方の残り」

 

「今動けるのは十七。うち七体がこちらの正面、五体がB側、三体が五人組へ向かってる。残り二体は移動経路を探してる」

 

「迂回する気か」

 

「多分。アルマーが一体止めてるけど、もう一体が見えない」

 

「位置を探せ」

 

「やってる」

 

 その頃、中央炉の反対側では、タケ、レイン、ハヤッティの三人が目覚めた保存対象たちを相手にしていた。

 

 彼らの戦いは、ケンゾーやBの戦いとはまるで性質が違う。

 

 倒せない。

 

 殺せない。

 

 相手は本来、守るべき人間だ。

 

 しかも人格統合体によって何らかの情報を書き込まれているせいか、全員が同じ意志で動いている。

 

「前から四人。右側から二人来るわ」

 

 レインが落ち着いた声で告げる。

 

「タケは前の二人。ハヤッティは右。残りは私が見る」

 

「それ、お前が一番多いだろ!」

 

「私は避けるだけだから」

 

「それが一番簡単じゃないって何回言えば分かるんだよ!」

 

 ハヤッティは文句を言いながらも、右側から来る二人へ身体を向けた。

 

 一人目が掌を突き出し、小さな青白い光球を生み出す。

 

『射撃型エネルギー反応を確認』

 

「威力は?」

 

『直撃時、使用者の生身部分に中程度損傷の可能性』

 

「十分痛いやつじゃないか!」

 

 グシオンの前腕装甲を上げる。

 

 光弾が直撃し、腕全体に重い衝撃が走る。

 

「っ……!」

 

『右腕補助機構に負荷。出力を四十四パーセントへ低下』

 

「勝手に下げるな!」

 

『神経負荷保護を優先』

 

「いや、理屈は分かるけど!」

 

 続いて二人目が接近する。

 

 ハヤッティは拳を振り上げかけ、途中で止めた。

 

 相手は怪物ではない。

 

 普通の人間にしか見えない。

 

 全力で殴れば、グシオンの補助によって骨を砕くどころでは済まない可能性がある。

 

「やりにくいな!」

 

 代わりに両手を開き、相手の肩と腕を掴む。

 

 押し込んでくる力を受け止め、身体の向きを変えながら横へ流す。そのまま足を払うようにして床へ倒した。

 

 背中から落とさないように腕を残し、勢いだけを殺す。

 

「一人!」

 

「後ろ」

 

 レインの短い声。

 

 ハヤッティは反射的に振り返った。

 

 もう一人が至近距離まで来ている。

 

「近っ!」

 

 拳が飛ぶ。

 

 グシオンの装甲で受ける。

 

 だが相手の拳には青白い生命エネルギーがまとわりついており、見た目以上の衝撃があった。

 

 ハヤッティの身体が一歩下がる。

 

「こいつら、普通の人間より強化されてるぞ!」

 

「中央の人格を書き込まれた時に、生命エネルギーの使い方まで流し込まれてるのかもしれない」

 

 タケが前方へクライを構えたまま答える。

 

「それ、かなりまずくない?」

 

「だから今止めてるんだろ!」

 

 タケの前には三人の保存対象がいた。

 

 二人が直線的に接近し、後方の一人が掌へ光を集めている。

 

「クライ、前の二人から一秒ずつ。深く吸うな」

 

『吸収量を限定。了解』

 

 黒赤色の細い流れが一人目の胸元へ伸びる。

 

 ほんの一秒。

 

 生命エネルギーが僅かに抜かれ、足取りが鈍る。

 

 すぐに二人目へ照準を移す。

 

 こちらも一秒。

 

 タケはそれ以上吸わなかった。

 

『両対象の生命エネルギー残量は十分。追加吸収により完全無力化が可能』

 

「必要ない」

 

『効率が低い』

 

「これでいいって言ってるだろ」

 

『理解不能』

 

「理解しなくていい。俺が決める」

 

 クライはしばらく黙った。

 

『命令権限を確認』

 

「最初からそうしてくれ」

 

 接近してきた二人の動きが鈍ったところへ、レインが横から入る。

 

 一人目の腕が彼女を掴もうと伸びる。

 

 レインは半歩だけ身体をずらし、手首を軽く取った。力で引っ張るのではなく、相手の前進する勢いと足の位置を利用して身体を回す。

 

 保存対象の男が自分の勢いのまま横へ流れ、床へ膝をつく。

 

 その背後から二人目が殴りかかる。

 

 レインは振り向かない。

 

 拳が飛んでくるより先に上体を沈め、頭の上を通過させる。

 

 そのまま片脚を相手の足元へ滑らせ、重心だけを崩した。

 

 男が倒れかける。

 

 そこをハヤッティが受け止めた。

 

「危なっ! こっちに投げるなら言えよ!」

 

「投げてないわ。勝手にそっちへ倒れただけ」

 

「同じだろ!」

 

「ちゃんと受け止めたじゃない」

 

「反射だよ!」

 

「なら頼りになるわね」

 

「その言い方されたら怒りにくいな!」

 

 タケが思わず笑う。

 

「二人とも、後ろ!」

 

「分かってる!」

 

 後方の保存対象が光弾を放つ。

 

 レインはその直前に横へ動いていた。

 

 光弾が通り過ぎる。

 

 ハヤッティもグシオンの腕で受けようとしたが、その前にタケがクライを光弾へ向けた。

 

「クライ、あれ吸えるか?」

 

『生命エネルギー成分を確認。可能』

 

「半分だけ!」

 

『吸収』

 

 黒赤色の歪みが生まれ、飛来した光弾の表面が揺らぐ。完全に消すのではなく、含まれる生命エネルギーだけを一部吸い取ったことで威力が弱まり、ハヤッティの装甲へ当たる頃には勢いがかなり落ちていた。

 

「おっ、便利!」

 

「便利で済ませるなよ! こっちは神経使ってんだから!」

 

「褒めたんだよ!」

 

「だったらもっと言い方あるだろ!」

 

 レインは二人の会話を聞きながら、次の保存対象へ視線を向ける。

 

 だが、その瞬間だった。

 

 背筋に冷たい感覚が走った。

 

「……止まって」

 

 声が低くなる。

 

 タケがすぐに反応する。

 

「何?」

 

「何か変」

 

 レインは正面ではなく、自分たちの左側にある保存カプセルの列を見た。

 

 誰もいない。

 

 少なくとも、目には見えない。

 

 それでも。

 

 嫌な感覚が消えない。

 

「そこに何かいる」

 

 ハヤッティも見る。

 

「見えないぞ」

 

「私にも見えない。でも、来る」

 

 タケがクライを向ける。

 

『敵性反応――』

 

 クライの音声が途中で止まった。

 

「どうした」

 

『反応消失』

 

「は?」

 

 次の瞬間。

 

 何もなかった空間から黒い腕が現れた。

 

「タケ!」

 

 レインがタケの襟を掴み、思い切り後方へ引く。

 

 鋭い爪がタケの胸元を掠める。

 

「うわっ!」

 

 黒い輪郭が徐々に姿を現した。

 

 先ほどシノンが見失った異形だった。

 

 表面の装甲が周囲の光景を歪ませ、背景へ溶け込むように姿を隠していたらしい。

 

『光学迷彩及び生命反応抑制機構を確認』

 

 ゲシュタルトの声が通信越しに飛ぶ。

 

「今言う!?」

 

『再検出に時間を要した』

 

 タケが慌てて距離を取る。

 

 しかし異形は彼ではなく、黒髪の少女の方へ顔を向けた。

 

 少女は救出された女性の近くにいる。

 

 まだ増幅コアが完全に安定していない。

 

「狙い、あの子!」

 

 レインが叫んだ。

 

 異形が再び輪郭を薄くする。

 

「させるか!」

 

 ハヤッティが走る。

 

 グシオンの脚部から警告音が鳴る。

 

『神経負荷七十一パーセント。急加速を非推奨』

 

「今止めなきゃもっとまずい!」

 

『出力制限を維持』

 

「せめて五十まで上げろ!」

 

『一時的に許可』

 

 ハヤッティの身体が加速する。

 

 迷彩状態へ入りかけた異形の進行方向へ先回りし、両腕を広げた。

 

「見えなくても、通る場所が分かってりゃ止められる!」

 

 次の瞬間、何もない空間から衝撃が来た。

 

「ぐっ!」

 

 グシオンの胸部装甲へ異形の肩がぶつかる。

 

 ハヤッティの足元が大きく滑った。

 

「重っ……!」

 

『胸部装甲損傷。右脚補助機構へ負荷』

 

「まだいける!」

 

「無茶しないで!」

 

 レインが叫ぶ。

 

「お前に言われたくない!」

 

 見えない異形の腕がハヤッティを振り払おうと動く。

 

 レインはその攻撃が成立するより先に動いていた。

 

 銃口を空間へ向ける。

 

 何も見えない。

 

 だが。

 

 彼女には、そこへ撃てば当たるという妙な確信があった。

 

 三発。

 

 銃声が響く。

 

 空間から火花が散る。

 

 異形の迷彩が一瞬だけ乱れ、肩と首の輪郭が現れた。

 

「タケ!」

 

「見えた!」

 

 クライを向ける。

 

「二秒だけ吸え!」

 

『接続』

 

 黒赤色の光が異形へ伸びる。

 

 迷彩装甲の内側から青白い生命エネルギーが抜け、姿がさらに明確になる。

 

「ハヤッティ、今!」

 

「分かってる!」

 

 ハヤッティは異形を押し返すのではなく、腰を落として片脚を相手の進行方向へ差し込んだ。

 

 グシオンの補助で上半身を捻る。

 

 異形の巨体が横へ崩れる。

 

 そのまま床へ投げるように倒した。

 

 凄まじい音が響く。

 

「倒した!」

 

「まだ!」

 

 レインが即座に言う。

 

「今度は分かってる!」

 

 ハヤッティは倒れた異形の背中へ片膝をつき、グシオンの両腕で肩を押さえ込んだ。

 

「タケ、脚だけ削れ!」

 

「了解!」

 

 クライによる吸収を一秒だけ行い、異形の脚部に流れていた生命エネルギーを低下させる。

 

 迷彩個体は身体を震わせたが、立ち上がれなくなった。

 

「これでしばらく動けない」

 

 レインが確認する。

 

 ハヤッティは大きく息を吐いた。

 

「なあ、俺今日一日で寿命縮んでない?」

 

『神経系への長期的影響は現段階で評価不能』

 

「聞いてない!」

 

 タケが笑う。

 

「グシオン真面目だな」

 

「お前のクライよりはマシだと思う!」

 

『比較に意味なし』

 

「そっちまで反応するのかよ!」

 

 三人が短く笑い合った。

 

 その瞬間だった。

 

 中央炉から、再び声が響いた。

 

「興味深い」

 

 今度の声は数千人の声を重ねたものではなかった。

 

 一人の女性の声に近い。

 

 しかし、その声音を聞いた途端。

 

 テルテルの手が止まった。

 

 救出された女性も。

 

 アルマーも。

 

 同時に中央炉を見る。

 

「何が興味深い」

 

 テルテルが低く尋ねる。

 

「彼らは、あなたたちが想定したより適応しています」

 

「誰の話だ」

 

「新しい者たちです」

 

 色のない瞳がタケ、レイン、ハヤッティへ向けられる。

 

 タケの背筋に寒気が走った。

 

「……俺たち?」

 

「はい」

 

 中央炉の中の人影が、少しだけ首を傾けた。

 

「生命エネルギー兵装との接続。未来結果への先行反応。強化外骨格との神経適応。いずれも予測値を上回っています」

 

 ハヤッティが顔をしかめる。

 

「何で俺らのことそこまで分かるんだよ」

 

「観察しているからです」

 

「勝手に観察すんな」

 

 レインは中央炉から目を離さなかった。

 

「未来結果への先行反応って、私のこと?」

 

「はい」

 

「私は未来なんて見てないわ」

 

「自覚がないだけです」

 

 その一言に。

 

 アルマーが僅かに眉を動かした。

 

 レインはすぐにそちらへ気づく。

 

「アルマー。あなたも似たこと言ってたわね」

 

「言った」

 

「本当に私が未来を見てると思ってる?」

 

「未来そのものとは限らない」

 

「どういう意味?」

 

 アルマーは答える前に、一度中央炉を見た。

 

「攻撃が成立した結果だけを、身体が先に拾っている可能性もある。未来を映像として見るのとは違う」

 

「それって結局、未来が分かってるってことじゃない?」

 

 ハヤッティが言う。

 

「厳密には違う」

 

「俺には同じに聞こえるんだけど」

 

「今は説明しても分からないだろう」

 

「腹立つ言い方するな!」

 

 レインはそれ以上聞かなかった。

 

「後で考えるわ」

 

「怖くないの?」

 

 タケが小声で尋ねる。

 

「少しは怖い。でも今考えても仕方ないでしょう」

 

「……レインらしいな」

 

「そう?」

 

「うん」

 

 その会話を中央炉の存在は静かに見ていた。

 

「やはり」

 

 女性に近い声。

 

「選択は正しかったのですね」

 

 テルテルの表情が変わる。

 

「何の選択だ」

 

 返事はない。

 

「おい」

 

「彼らがここへ来たこと」

 

「それは偶然だ」

 

「いいえ」

 

 中央炉の人影は首を横へ振った。

 

「偶然ではありません」

 

 ケンゾーが異形の攻撃を受け流しながら、わずかに視線を中央へ向けた。

 

「何を知ってる」

 

「あなたたちは戻ってきました」

 

「さっきからそればかりだな」

 

「戻る必要があったからです」

 

「誰が決めた」

 

 人影の色のない瞳がケンゾーへ向く。

 

「あなた自身が」

 

 ケンゾーの動きが一瞬だけ鈍る。

 

 テルテルが即座に叫んだ。

 

「ケンゾー、聞くな!」

 

「分かってる」

 

 返事はした。

 

 だが、頭の奥で何かが軋む。

 

 また記憶が触れようとしている。

 

 白い部屋。

 

 巨大な端末。

 

 自分の手。

 

 何かを入力している。

 

 隣に誰かがいる。

 

『本当にこれでいいのか?』

 

 声。

 

 誰のものか分からない。

 

 ケンゾー自身が答える。

 

『戻る必要がある』

 

 そこまでだった。

 

「っ……!」

 

 頭痛と共に視界が揺れる。

 

『警告。記憶封鎖領域への干渉を検出』

 

 ゲシュタルトが即座に支援へ入る。

 

『認知負荷抑制を開始』

 

「できるのか」

 

『完全ではない』

 

「それでもいい」

 

 ケンゾーは歯を食いしばり、目の前の異形の攻撃を受け止めた。

 

 Bが横から一体を押し戻しながら叫ぶ。

 

「無理するな」

 

「お前に言われるとは思わなかった」

 

「倒れられると面倒だ」

 

『素直に心配って言えよ!』

 

「フール」

 

『何だ!』

 

「黙れ」

 

『今いいところだっただろ!』

 

 ほんの僅かなやり取りが、ケンゾーの意識を現実へ戻した。

 

 後方では、テルテルとシノンの作業が進んでいる。

 

『生命維持系統分離率、三十九パーセント』

 

「あと六割以上か」

 

 シノンが端末を睨む。

 

「速度上げられない?」

 

「これ以上は危ない」

 

「理由は」

 

「切り替え前の安定確認を飛ばすことになる。一個でも失敗したら、その系統に繋がってる保存対象がまとめて死ぬ可能性がある」

 

「なら今の速度で続ける」

 

「助かる」

 

「礼は終わってから」

 

「厳しいなぁ」

 

「あなたが軽すぎるの」

 

 テルテルは苦笑した。

 

 しかし、その直後。

 

 端末の一角に赤い表示が出る。

 

「……待て」

 

「何?」

 

「第三補助系統の反応がおかしい」

 

 テルテルが急いで表示を開く。

 

 数値が不規則に上下している。

 

「外部から接続されてる」

 

「中央炉?」

 

「違う」

 

 シノンの表情が険しくなる。

 

「じゃあどこから」

 

 テルテルが答えるより早く。

 

 EVE\-SEVENTHが告げた。

 

『新規接続を検出』

 

「発行元は」

 

『地下第七区画外部』

 

 テルテルの目が見開かれる。

 

「外部?」

 

『肯定』

 

「この施設の外から誰かが繋いでるのか?」

 

『可能性高』

 

 アルマーが反応する。

 

「位置は」

 

『地表ではありません』

 

「じゃあどこだ」

 

『地下深度、推定千八百四十メートル』

 

 その場にいた何人かが言葉を失った。

 

 現在いる中央炉区画より、さらに遥か下。

 

 テルテルは端末の地図を呼び出そうとした。

 

 しかし表示されたのは空白だった。

 

「地図にない」

 

「この施設の下にまだ何かあるの?」

 

 シノンが尋ねる。

 

「……俺も知らない」

 

「本当に?」

 

「今度は本当」

 

 テルテルの声に冗談はなかった。

 

 救出された女性も青ざめていた。

 

「そんな深度まで施設を造る計画なんて……少なくとも私は知らない」

 

 アルマーも珍しく黙っている。

 

 ケンゾーが前線から声を飛ばした。

 

「何が起きてる」

 

 テルテルはすぐに答える。

 

「下から別の何かが中央炉へ接続しようとしてる!」

 

「人格統合体とは別か」

 

「分からない!」

 

 中央炉の人影が。

 

 その時初めて。

 

 明確に反応した。

 

 色のない瞳が。

 

 下。

 

 床のさらに奥へ。

 

 向く。

 

「……来る」

 

 女性に近い声が小さく漏れた。

 

 テルテルが中央炉を睨む。

 

「何が」

 

 人影は答えない。

 

 代わりに。

 

 巨大な中央炉の下部から、今までとは違う低い振動が響き始めた。

 

 それは機械の駆動音ではなかった。

 

 もっと深い場所で、何か巨大なものが動いたような振動だった。

 

 床に細い亀裂が走る。

 

 保存カプセルのガラスが僅かに震える。

 

「まずい」

 

 レインが小さく言った。

 

 タケが振り向く。

 

「分かる?」

 

「さっきまでとは違う」

 

「どんな感じ?」

 

 レインはすぐに答えなかった。

 

 自分でも説明しづらい。

 

 怪物の攻撃を避ける前に感じる危険とは違う。

 

 あれは「そこにいれば攻撃が当たる」という感覚だった。

 

 今は。

 

 どこへ動いても。

 

 危ない。

 

「逃げる場所がない感じ」

 

 その言葉を聞いたアルマーの顔が変わる。

 

「全員、中央炉から距離を取れ」

 

「また空間か?」

 

 ケンゾーが尋ねる。

 

「違う」

 

 アルマーの声には、明確な緊張があった。

 

「空間じゃない」

 

「じゃあ何だ」

 

「下から――」

 

 言いかけた瞬間。

 

 中央炉の床面が大きく隆起した。

 

 金属板が内側から持ち上げられ、巨大なリング全体が軋む。

 

 人格を書き込まれた保存対象たちも一斉に動きを止めた。

 

 異形たちまで。

 

 初めて。

 

 中央炉の下を見た。

 

 フールの笑い声が消える。

 

『……おい、B』

 

「聞こえてる」

 

『下にいるぞ』

 

「何が」

 

『分からねぇ』

 

 フールの声が低い。

 

『でも一つだけ分かる』

 

「何だ」

 

『あれは俺らを見てる』

 

 ゲシュタルトも同時に警告を出す。

 

『大規模生命エネルギー反応を検出』

 

「一体か」

 

『判定不能』

 

「また重なってるのか」

 

『否定』

 

 ゲシュタルトの返答に、ケンゾーは僅かに目を細めた。

 

『反応規模が大きすぎます。単一、複数の識別が成立しません』

 

 中央炉の人影が、初めてケンゾーたちではなく。

 

 床の下へ向かって。

 

 声を発した。

 

「まだ早い」

 

 テルテルの表情が固まる。

 

「誰に言った」

 

「まだ起きてはいけません」

 

「だから誰に言ってる!」

 

 人影は答えなかった。

 

 代わりに。

 

 中央炉の出力が一気に変動する。

 

『主炉出力、七十二パーセントから八十一パーセントへ上昇』

 

「また上がってる!」

 

 シノンが叫ぶ。

 

 テルテルが端末を見る。

 

「俺じゃない!」

 

『上位制御命令を確認』

 

「発行元!」

 

 数秒。

 

 EVE\-SEVENTHの声が僅かに乱れる。

 

『照合不能』

 

「UNKNOWNか?」

 

『否定』

 

 テルテルが顔を上げた。

 

「じゃあ何だよ」

 

 施設音声が続く。

 

『権限体系そのものが登録されていません』

 

 沈黙。

 

 アルマーの目が鋭くなる。

 

 救出された女性は、ほとんど息をするのも忘れたように中央炉の下を見ていた。

 

「……そんな」

 

 テルテルが振り向く。

 

「何か知ってるのか」

 

「違う」

 

「じゃあ何だ」

 

 女性は小さく首を振った。

 

「権限がないんじゃない」

 

「何?」

 

「この施設が作られた時より、古いものなのかもしれない」

 

 テルテルの顔から表情が消えた。

 

「それはありえない」

 

「でも、それなら登録されてない理由が説明できる」

 

「この施設より古い管理系統なんて……」

 

 言いかけて。

 

 テルテルが止まる。

 

 何かを思い出しかけた。

 

 しかし。

 

 すぐに口を閉じた。

 

 ケンゾーはその反応を見た。

 

 だが今は問い詰めない。

 

「テルテル」

 

「……分かってる」

 

「作業を止めるな」

 

「ああ」

 

「今起きてることは」

 

「分離が終わってから考える」

 

「そうしろ」

 

 ケンゾーは再び正面へ向き直る。

 

 異形たちも、一瞬の停止から戻り始めていた。

 

 その動きを見て。

 

 Bが大鎌を構える。

 

『ギャハハ……ったく、次から次へと面倒が増えるなァ』

 

「笑えるならまだ大丈夫だな」

 

『ああ?』

 

「さっき黙ってた」

 

 一瞬。

 

 フールが止まる。

 

『……気のせいだ』

 

「そうか」

 

『そうだ!』

 

 Bは何も追及しなかった。

 

 フールが本当に恐怖を感じたことを。

 

 分かっていても。

 

 前方では、四体の異形が再び動き始める。

 

 その一方で、人格を書き込まれた保存対象たちも前進を再開していた。

 

「タケ!」

 

 シノンの声が飛ぶ。

 

「新人組、そっちの人数増えてる!」

 

 タケが周囲を見る。

 

 開いた保存カプセルはさらに増え、最初は三十人程度だった人数が五十人近くになっていた。

 

「うわ、増えてる!」

 

「言われなくても見えるわ」

 

 レインは落ち着いていたが、視線は忙しく動いている。

 

「正面十二人。右から八人。左側はまだ動いてない」

 

「全部止めるの無理じゃない?」

 

 ハヤッティが言う。

 

「全員を相手にしなければいい」

 

「どうする?」

 

 レインは少しだけ後ろを見る。

 

 保存対象たちの目的は。

 

 こちらを倒すことではない。

 

 中央炉へ。

 

 戻ろうとしている。

 

「中央へ行かせなければいいのよ」

 

「さっきからそうしてるだろ」

 

「もっと狭くする」

 

 レインがタケを見る。

 

「クライで床の生命エネルギー管を一時的に吸える?」

 

「床?」

 

 タケも視線を落とす。

 

 保存対象たちが歩いている周辺には、中央炉から伸びる細い青白い光のラインが走っている。

 

『外部供給路を確認』

 

 クライが答えた。

 

『局所吸収は可能』

 

「それ止めたらカプセル側に影響ない?」

 

 タケがテルテルへ尋ねる。

 

「どのラインだ!」

 

「新人組の足元! 中央炉から外側へ伸びてる細いやつ!」

 

 テルテルは端末を確認する。

 

「それは覚醒個体への補助供給! 生命維持本体じゃない!」

 

「じゃあ吸っていい?」

 

「切りすぎるな! 倒れる程度ならいいけど、生命活動まで落とすなよ!」

 

「了解!」

 

 タケはクライを床へ向けた。

 

「広くじゃない。俺たちの前だけ吸うぞ」

 

『局所吸収範囲を指定』

 

 黒赤色の歪みが床へ広がる。

 

 中央炉から流れていた青白い光が少しずつ弱くなる。

 

 前進してきた保存対象たちの足取りが目に見えて鈍った。

 

「効いてる!」

 

 ハヤッティが声を上げる。

 

「でもタケ、大丈夫?」

 

 レインがすぐに確認する。

 

「さっきの中央炉ほどじゃない。流れも細い!」

 

『保有エネルギー九十二パーセント』

 

「増えてる!」

 

「大丈夫じゃないじゃない!」

 

「いや、身体は大丈夫!」

 

『保有上限へ接近』

 

「上限って何パーセントだよ!」

 

『百』

 

「それは分かる!」

 

 ハヤッティが思わず笑う。

 

「クライ、そこだけ妙に普通だな!」

 

「笑ってないで押し戻して!」

 

「はいはい!」

 

 供給を一時的に弱められた保存対象たちは、先ほどより動きが明らかに遅くなっていた。

 

 ハヤッティがその隙に前へ入り、グシオンの腕で二人ずつ押し返す。

 

 レインは彼の死角へ回り込む者だけを狙い、手首や足首を取って転倒させる。

 

 タケは吸収量を細かく調整しながら、自分の前方へ生命エネルギーが流れ込みすぎないようクライへ命令を続ける。

 

「吸いすぎるな」

 

『保有上限到達時、自動排出を推奨』

 

「排出って射撃か?」

 

『肯定』

 

「人に撃つなよ」

 

『無駄』

 

「いいから!」

 

 その時。

 

 レインが急に顔を上げた。

 

「タケ」

 

「何?」

 

「クライの中、何か変じゃない?」

 

「え?」

 

「さっきから嫌な感じがする」

 

 タケは武器を見る。

 

 赤黒い線。

 

 普段より。

 

 かなり明るい。

 

「クライ?」

 

『……』

 

「おい」

 

『内部記録領域に干渉を検出』

 

 タケの表情が変わる。

 

「中央炉の奴?」

 

『否定』

 

「じゃあ何だ」

 

『地下深部からの反応』

 

 三人の動きが一瞬止まった。

 

「下?」

 

 クライの声が。

 

 少し。

 

 乱れる。

 

『識別情報……一致せず』

 

「何と照合してる」

 

『封鎖記録』

 

 タケは眉を寄せた。

 

「またそれか」

 

『警告』

 

 クライの赤い光が。

 

 脈打つ。

 

『当機の吸収機構が対象反応へ自動接続を試行』

 

「は?」

 

 タケがすぐに銃口を上げた。

 

「止めろ!」

 

『停止処理』

 

 一瞬。

 

『拒否』

 

「またかよ!」

 

 レインがタケの腕を掴む。

 

「離して!」

 

「クライ、切れ!」

 

『内部命令競合』

 

 黒赤色の光が。

 

 床へ。

 

 勝手に伸び始める。

 

 先ほど吸っていた補助供給ラインとは違う。

 

 もっと深い場所。

 

 床の向こう。

 

 地下。

 

 その先へ。

 

 まるで何かに引かれていく。

 

「テルテルさん!」

 

 タケの声に。

 

 テルテルが振り返る。

 

「今度は何!」

 

「クライが下の何かに勝手に繋がろうとしてる!」

 

 テルテルの顔が変わる。

 

「切れ!」

 

「やってます!」

 

 クライ自身が。

 

 苦しそうな。

 

 今までにない音声を出す。

 

『……接続……不可』

 

『命令……不明』

 

『吸収……対象……』

 

 そして。

 

 突然。

 

 完全に沈黙した。

 

 赤い光も。

 

 消える。

 

「クライ?」

 

 タケが呼ぶ。

 

 返事はない。

 

「おい、クライ!」

 

 その瞬間。

 

 地下深くから。

 

 声がした。

 

 機械音ではない。

 

 人間の声でもない。

 

 それでも。

 

 確かに。

 

 言葉だった。

 

「――サタン」

 

 タケの背筋が凍る。

 

 クライ・オブ・サタン。

 

 その名。

 

 誰にも。

 

 説明していない。

 

 少なくとも。

 

 地下の何かへは。

 

 知られるはずがない。

 

 中央炉の人格統合体が、初めて明確に動揺した。

 

「駄目」

 

 色のない瞳が見開かれる。

 

「それを呼んではいけない」

 

 テルテルが中央炉を見る。

 

「何を知ってる!」

 

 答えはない。

 

 代わりに。

 

 床の下から。

 

 再び。

 

 声。

 

「――返せ」

 

 タケの手の中で。

 

 沈黙していたクライ・オブ・サタンが。

 

 激しく震えた。

 

 今度は。

 

 タケの命令とは関係なく。

 

 銃身全体へ。

 

 黒赤色の光が。

 

 戻る。

 

『……接続要求を受信』

 

 クライの声。

 

 今までで一番低い。

 

『発行元――不明』

 

 タケは。

 

 思わず。

 

 武器を握る手へ。

 

 力を込めた。

 

「絶対に応じるな」

 

 短い命令。

 

 だけど。

 

 はっきり。

 

 クライへ。

 

 届く。

 

 数秒。

 

 沈黙。

 

 そして。

 

『……了解』

 

 今度は。

 

 拒否しなかった。

 

 タケは小さく息を吐いた。

 

 レインも。

 

 横で。

 

 僅かに安堵する。

 

「今回は聞いたわね」

 

「聞かせた」

 

 タケは。

 

 クライを。

 

 握り直す。

 

「こいつは俺の武器だ」

 

 その言葉に。

 

 クライは何も返さない。

 

 ただ。

 

 赤黒い光だけが。

 

 ゆっくりと。

 

 落ち着いていく。

 

 一方。

 

 テルテルは。

 

 地下深部の表示を。

 

 見つめていた。

 

「……サタン」

 

 小さく。

 

 呟く。

 

 救出された女性が。

 

 その言葉。

 

 聞く。

 

「テルテル」

 

「何」

 

「その名前」

 

「今は言うな」

 

 女性は。

 

 何か。

 

 言おうとする。

 

 だが。

 

 テルテル。

 

 顔。

 

 見て。

 

 止める。

 

 また。

 

 秘密。

 

 増える。

 

 シノンが。

 

 隣。

 

 冷静。

 

「後で全部聞くから」

 

「……はい」

 

 テルテル。

 

 苦笑。

 

「素直ね」

 

「諦めただけ」

 

 そして。

 

『生命維持系統分離率、四十六パーセント』

 

 施設音声が響く。

 

 半分が、まだ時間が必要…

 

 ケンゾーは前線で異形を切る!

 

 Bは大鎌を振るう

 

 タケ。

 

 クライ。

 

 構える。

 

 レイン。

 

 保存対象。

 

 見る。

 

 ハヤッティ。

 

 グシオン。

 

 息。

 

 整える。

 

 誰も。

 

 まだ。

 

 終わってない。

 

 地下。

 

 さらに何かが、起きようとしている。

 

 それでも今

 

 やるべきことは一つ。

 

 十五分間を守る。

 

 その選択は変わらない。

 

 ケンゾーは傷ついた身体を支えながら、再びこちらへ走り込んでくる異形へ黒い剣を向けた。

 

「前を見ろ」

 

 それは仲間へ向けた言葉でもあり、自分自身へ言い聞かせた言葉でもあった。

 

「過去は後でいい。今は、ここを守る」

 

 Bが隣で大鎌を構える。

 

「了解」

 

『ギャハハハハハッ! そういう単純なのは嫌いじゃねぇ!』

 

 今度こそフールの笑い声には、いつもの勢いが戻っていた。

 

 その声を背に受けながら、ケンゾーは踏み込んだ。

 

 そして防衛戦は、まだ終わらない。

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