「前を見ろ。過去は後でいい。今は、ここを守る」
ケンゾーがそう言い切った直後、正面から二体の異形がほぼ同時に飛び込んできた。一体は両肩から長い骨刃を伸ばした人型で、もう一体は四足に近い姿勢で床を駆ける獣型だった。どちらも中央炉から生命エネルギーを供給されているため傷の再生が進んでおり、先ほどまでの損傷が嘘のように動きが戻りつつある。
ケンゾーは獣型を先に見る。
「ゲシュタルト、低い方を止めろ」
『了解』
黒い長剣だったゲシュタルト・レーヴェが瞬時に形を変え、先端から複数の鎖を射出した。鎖は床すれすれを滑りながら獣型の前脚へ絡みつき、そのまま強く締め上げる。勢いを殺し切ることはできなかったが、進行方向を僅かにずらすには十分だった。獣型はケンゾーの横を掠めるように通過し、そのまま床へ肩から転がる。
その隙に人型の骨刃が頭上から振り下ろされた。
ケンゾーは右へ半歩移動し、刃を避ける。同時にゲシュタルトの鎖を解いて短い黒槍へ変形させ、異形の脇腹にある発光部分へ深く突き込んだ。
青白い光が噴き出し、異形の身体が一瞬だけ硬直する。
『循環効率低下』
「十分だ」
ケンゾーは槍を抜かず、そのまま体重を乗せて異形を横へ押し流した。正面から倒すのではなく、前線の外側へ追い出す。目的は一貫している。倒し切らなくていい。この場を通さなければいい。
しかし身体は確実に限界へ近づいていた。右脇腹へ鈍い痛みが走り、呼吸を深くすると胸の奥で何かが引っかかる。ゲシュタルトもそれを見逃さない。
『使用者の損傷、進行』
「分かってる」
『継続戦闘可能時間の推定値を更新』
「聞きたくないな」
『約九分』
ケンゾーの目が僅かに細くなる。
「テルテルたちの作業が先に終われば問題ない」
『楽観的判断』
「そうかもな」
『しかし現状では、それ以外の選択肢を確認できません』
「なら付き合え」
『了解』
短いやり取りの後、ケンゾーはもう一度前を向く。
少し離れた場所では、Bとフールが相変わらず派手な戦い方で異形を押し返していた。Bの動き自体は極めて冷静だが、フールの巨大な大鎌が振るわれるたびに紫色の光が走り、そのたびに笑い声が空間へ響く。
『ギャハハハハハッ! その腕は邪魔だ! 置いていけ!』
「切りすぎるな」
『腕一本だろ!』
「再生される」
『じゃあもう一本切っとくか?』
「意味がない」
『冷静すぎんだろお前!』
Bは返事をしながら、大鎌の柄を横へ突き出した。飛び込んできた異形の胸部に石突きが当たり、その姿勢が崩れる。そこへ刃を振り下ろすのではなく、今度は柄の中央を使って首元を押さえ込み、そのまま床へ押し倒した。
異形は抵抗しようと四肢を動かしたが、Bはフールを梃子のように使い、起き上がる動きだけを封じる。
「そっち、まだ動けるか」
ケンゾーが通信越しに尋ねる。
「問題ない」
『問題大ありだ! 俺が退屈してる!』
「黙ってろ」
『戦闘中に退屈って相当だぞ!』
「なら周囲を見ろ」
Bの視線が前から右へ動く。
その瞬間だった。
先ほどまで倒れていた一体の異形が、急に床へ両手をついた。
「何だ」
『生命エネルギー上昇!』
背中の装甲が大きく開き、中から細い管状器官が何本も伸びる。それらは周囲の床へ突き刺さり、中央炉へ繋がる生命エネルギー供給ラインへ強引に接続された。
「テルテル!」
Bが声を上げる。
「見えてる!」
端末の前にいたテルテルの表情が変わった。
「こいつら、供給ラインを直接食い始めた!」
シノンが即座に表示を見る。
「それで再生速度が上がってる?」
「それだけじゃない。中央炉側の出力も引っ張られてる。このままじゃ分離処理の安定値が崩れる!」
「切れる?」
「物理的に止めるしかない!」
その言葉を聞いたケンゾーは、床へ管を伸ばした異形を見た。
「B、一本切れるか」
「やる」
『ギャハハ! やっと切っていいやつ来たな!』
Bが大鎌を持ち上げる。
だがフールの刃が振り下ろされるより先に、別の異形が横から飛び込んだ。
Bは反射的に防御へ切り替える。
その僅かな遅れ。
床へ伸びた管の一本がさらに深く食い込み、周囲の青白い光が一気に強まった。
『主炉出力、八十一パーセントから八十四パーセントへ上昇』
「上がった!」
シノンの声が響く。
「人格統合率は?」
『八パーセント』
「さっきより進み方が早い!」
テルテルが舌打ちする。
「不味い。怪物側が供給を吸うせいで、中央炉が不足分を補おうとして出力を上げてる!」
「じゃあ管を全部切ればいいんだな」
ケンゾーが言う。
「できればそうして!」
テルテルが返す。
「でも床の本線まで切らないで! あれは保存カプセル側にも繋がってる!」
「注文多いな」
「命かかってるんだから我慢して!」
ケンゾーは短く頷いた。
「シノン、接続してる個体を優先して教えろ」
「今確認中。正面に三、B側に二、五人組側に一。合計六体」
「新人組の方は」
「今のところない」
「なら前線だけで処理する」
その頃、タケたち三人は人格を書き込まれた保存対象を押さえながら、先ほどクライに起きた異常を気にしていた。
クライ・オブ・サタンは今は沈黙を保っている。赤黒い光も落ち着いており、タケの命令には再び従うようになっていた。しかし地下深部から聞こえた「サタン」という声が頭から離れない。
クライの名を知っていた何か。
しかも、その何かは自分たちのさらに下にいる。
それを考えるだけで、背中に嫌な汗が滲む。
「タケ、集中」
レインが言った。
「分かってる」
「今、下のこと考えてたでしょう」
「顔に出てた?」
「かなり」
「みんな顔見て分かりすぎじゃない?」
ハヤッティが横から笑う。
「お前、思ったより分かりやすいぞ」
「そういうお前は余裕あるのか?」
「ない。グシオンにずっと負荷下げろって怒られてる」
『正確には警告』
「同じだろ!」
『異なる』
「細かいな!」
その会話の最中にも、保存対象たちは前へ出てくる。人格統合体の影響で動きは統一されているものの、身体能力そのものは個体差があるらしい。動けない老人もいれば、明らかに訓練経験のある動きを見せる者もいる。
レインはその差を見ながら前へ出た。
「右側の三人は速い。多分、身体が覚えてる」
タケが照準を向ける。
「軍人だったとか?」
「分からない。でも普通の動きじゃないわ」
最前列の男が一気に距離を詰める。
拳がレインの顔面へ飛ぶ。
レインは僅かに頭を傾けて避け、そのまま相手の腕の外側へ回り込む。次の攻撃が来るより先に肘を押さえ、足を引っかける。
男は勢いを失い、床へ片膝をついた。
しかし。
そこからの反応が早かった。
倒れた姿勢のまま身体を捻り、レインの足首を狙って手を伸ばす。
「っ」
レインはそれすら予測していたように足を引いた。
男の指が空を掴む。
「この人、強い」
「助ける?」
タケが聞く。
「まだいい。別の方見て」
「分かった」
レインは男を押さえ込むのではなく、その場で何度か攻撃を誘っては避けた。相手の注意を自分へ集中させることで、タケとハヤッティへ向かわせない。
しかし、その動きを中央炉の人格統合体も見ている。
「やはり」
女性に近い声が響く。
「あなたは結果を先に受け取っている」
レインは返事をしない。
「それを否定する必要はありません」
「今忙しいの」
「理解は重要です」
「後で考えるって言ったでしょう」
人格統合体は一瞬沈黙した。
レインはその間に男の拳を避け、肩へ掌を当てて身体を横へ流す。相手を傷つけず、進ませず、こちらも捕まらない。そうした動きを何度も繰り返す。
タケは別方向から来る二人へクライを向けた。
「一秒ずつ吸って止める」
『了解』
細い黒赤色の光が一人目へ繋がる。
すぐに切る。
二人目も同じ。
その間にハヤッティが入り、両腕で一人ずつ押し戻す。
「今日俺、人押してばっかりだな!」
「壊すよりいいでしょう」
レインが返す。
「俺、もうちょい格好いい戦い方期待してたんだけど!」
「守れてるなら十分格好いいよ」
タケが言う。
ハヤッティが一瞬黙る。
「……それ急に言うのずるくない?」
「何が?」
「なんか反応困る!」
「じゃあ黙って押して」
「レイン、お前はもうちょい優しくしろ!」
そんなやり取りの最中。
黒髪の少女が急に胸を押さえた。
「っ……!」
救出された女性が支える。
「大丈夫?」
「また……来る……」
「何が?」
少女は苦しそうに中央炉ではなく床の下を見た。
「下から……引っ張られる……」
タケが反応する。
「クライが感じたのと同じ?」
少女は首を振る。
「分からない。でも……私の中のこれが……」
胸元。
強制増幅コア。
青白い光が先ほどより強くなっている。
救出された女性の顔が険しくなる。
「増幅コアが地下反応に共鳴してる」
「中央炉じゃなくて?」
タケが聞く。
「違う。方向が下」
テルテルもその会話を聞いていた。
「こっちの端末でも拾ってる! 増幅コアの周波数が変わってる!」
シノンが尋ねる。
「危険?」
「このまま上がるとまた暴走するかもしれない!」
タケは一瞬だけクライを見る。
さっきは吸えた。
だが今は保有エネルギーが高すぎる。
『保有エネルギー九十三パーセント』
「……これ以上入れるのはまずいな」
レインがすぐに言う。
「だったら撃って減らす?」
「でも人には撃ちたくない」
「床とか壁は?」
ハヤッティが聞く。
「適当に撃ったら何壊すか分からないだろ」
そこでシノンが通信へ割り込んだ。
「タケ、上!」
「上?」
「天井中央。空いてる空間がある。設備もカプセルもない」
タケは見上げた。
中央炉上部の天井。
確かに巨大な吹き抜けになっており、その中心だけは何もない。
「クライ、高出力射撃で保有量落とせるか」
『可能』
「出力どれくらいなら安全に減らせる」
『十パーセント分の排出を推奨』
「天井抜かない?」
『照射角度及び出力を調整すれば可能性低』
「可能性低って言い方怖いな……」
シノンが言う。
「私が角度見る。撃つなら今」
タケは迷った。
少女は苦しそうにしている。
そしてクライの保有上限も近い。
「やる」
タケは銃口を天井へ向ける。
「クライ、十パーセント排出。シノンさんの指示角度に合わせろ」
『了解』
「タケ、もう少し左。そこから三度だけ右」
「ここ?」
「そこでいい」
「撃つぞ」
引き金。
黒赤色の光線が一気に天井へ伸びた。
先ほどの低出力射撃とは比較にならない太さだったが、クライが出力を絞ったため爆発は起きない。光線は吹き抜けの中央を通り抜け、天井付近で粒子状に拡散した。
『保有エネルギー八十三パーセント』
「よし」
タケはすぐに少女へ銃口を向ける。
「余分な分だけ吸う。前と同じだ」
少女が不安そうに見る。
「怖くない?」
「怖いよ」
タケは正直に答える。
「でも前よりはやり方分かってる」
レインが横から補足する。
「危なくなったら私が止めるわ」
ハヤッティも頷く。
「俺もいる」
少女は三人を順番に見て、少しだけ表情を緩めた。
「……お願い」
「クライ」
『接続準備』
「一パーセントから。増やすなよ」
『了解』
吸収が始まる。
少女の胸元から余分な青白い光だけが細く引き出され、クライへ流れ込む。
今回は急激な反応はない。
タケは呼吸を整えながら、少女の表情を見続けた。
「痛い?」
「少し。でも、さっきより楽」
「ならそのまま」
レインが見ている。
ハヤッティも周囲を警戒しながら、すぐ動ける位置にいる。
タケはほんの数秒だけ吸収を続けた。
「止めろ」
『吸収停止』
今度は即座に切れた。
少女の胸元の光も少し落ち着く。
「大丈夫?」
「うん……ありがとう」
タケは小さく息を吐いた。
「よかった」
その瞬間。
床全体が大きく揺れた。
これまでとは違う。
縦に突き上げるような振動。
中央炉の巨大リングが一斉に震え、壁面の保存カプセルから警告音が響く。
「来る!」
レインが叫んだ。
何が来るのか。
彼女自身にも分からない。
しかし、全身が危険を訴えている。
アルマーも同時に右手を上げた。
「全員、足元から離れろ!」
「どこへ!」
ハヤッティが叫ぶ。
「高い場所へ!」
床の中央。
先ほどから隆起していた部分。
そこへ巨大な亀裂が走る。
最初は数センチ。
すぐに数十センチへ広がる。
金属板が歪み、内部から赤黒い光が漏れ出した。
『地下深部反応、急上昇』
EVE-SEVENTHの声が乱れる。
『深度千八百四十メートルから上昇中』
テルテルが端末へ顔を近づける。
「上昇ってどういう意味だ!」
『反応位置そのものが移動しています』
「速度は!」
『算出中……推定、毎秒三十八メートル』
シノンが目を見開く。
「速すぎる!」
単純計算でも一分かからない。
しかもすでに動き始めてから時間が経っている。
ケンゾーが前線から離れずに叫ぶ。
「どこから出る!」
『予測不能』
「テルテル!」
「俺に聞くな! こんなの知らない!」
その声には本気の焦りがあった。
アルマーは床の亀裂を見ながら低く言う。
「中央炉の真下ではない」
「分かるのか」
Bが聞く。
「反応が途中で横へ動いている」
「どこへ向かってる」
アルマーの金色の瞳が動く。
右。
左。
そして。
止まる。
「……タケ」
タケが顔を上げる。
「え?」
「お前だ」
その場の空気が変わった。
「何が?」
「下の反応。お前の位置へ寄っている」
タケの顔が強張る。
クライ・オブ・サタン。
手の中。
微かに震える。
『接続要求を再受信』
「またか!」
『発行元、不明』
「拒否しろ!」
『拒否処理』
一拍。
『成功』
「今度は通った……」
しかし安心する間もない。
床の亀裂がタケのいる方向へ伸びてくる。
「タケ、離れて!」
レインが彼の腕を引く。
ハヤッティも少女を抱えるようにして移動させる。
「こっち!」
三人が数メートル下がる。
亀裂も。
曲がる。
追う。
「うそだろ……」
タケの顔から血の気が引く。
床の下の何かは、クライを追っている。
「タケ、クライを置け!」
ケンゾーが叫ぶ。
タケは反射的に武器を見る。
「でも――」
「いいから離せ!」
その声に従い、タケはクライを床へ置いた。
すぐに数メートル下がる。
亀裂。
止まる。
全員が息を呑む。
やはり。
狙われているのはクライだ。
「……マジか」
ハヤッティが呟く。
タケも武器を見つめる。
「こいつを……返せって言ってた」
レインが言う。
「誰が返せって?」
「下の何か」
「持ち主?」
その言葉に。
テルテルの表情が変わった。
「違う」
全員が彼を見る。
テルテルは言ってから、自分が余計なことを言ったと気づいたように口を閉じた。
「今のどういう意味?」
シノンが即座に聞く。
「いや」
「言って」
「違う。クライには元々ちゃんと使用者が――」
そこで止まる。
タケが目を細める。
「元々?」
テルテルは答えない。
中央炉の人格統合体が代わりに言った。
「その兵器は、返還されるべきではありません」
テルテルが振り向く。
「黙ってろ!」
「返してはいけません」
「だから黙れ!」
タケが中央炉を見る。
「理由は?」
「タケ!」
テルテルが止めようとする。
だがタケは視線を逸らさない。
「俺が持ってる武器の話だ。理由くらい聞く」
人格統合体の色のない瞳がタケへ向く。
「クライ・オブ・サタンは、兵器であると同時に鍵です」
静寂。
ケンゾーの表情が変わる。
シノンも。
Bも。
そしてテルテルは、完全に顔色を失った。
「何の鍵だ」
タケが聞く。
中央炉の存在は少し間を置いた。
「封じるための鍵」
「何を?」
返事の代わりに。
床の下から。
低い音。
響く。
それは笑い声に近かった。
しかしフールの笑いとはまるで違う。
もっと重い。
もっと古い。
大地そのものが声を出しているような音だった。
クライが震える。
『封鎖記録へ強制反応』
「クライ!」
『警告』
銃身の赤黒い線が一気に明るくなる。
『当機名称に関連する記録断片を検出』
タケは息を呑む。
「見せられる?」
『不可能』
「少しも?」
『単語のみ』
「何がある」
一瞬。
ノイズ。
『……門』
さらに。
『……捕食』
そして。
『……第一封鎖』
テルテルが叫んだ。
「それ以上読むな!」
タケが振り向く。
「知ってるんですか!」
「今は読むなって言ってる!」
「何で!」
「理由を説明したら、もっとまずいものまで繋がる!」
その声に。
ケンゾーの頭が。
一瞬だけ痛む。
白い部屋。
巨大な黒い扉。
その前。
自分。
誰か。
『これを鍵にする』
『本気か?』
『他に方法がない』
そして。
黒赤い銃。
クライ。
同じ形。
記憶。
断片。
「っ……!」
ケンゾーが額を押さえる。
『記憶封鎖領域への反応!』
ゲシュタルトが警告する。
テルテルが気づいた。
「ケンゾー、考えるな!」
「分かってる……」
だが。
もう一つ。
声。
『持って逃げろ』
『絶対に戻すな』
そこで切れる。
ケンゾーは荒い息を吐いた。
タケを見る。
そして。
床に置かれたクライを見る。
「……拾え」
タケが驚く。
「いいんですか」
「そこへ置いておく方が危ない」
「でも下の奴が」
「だから持て」
ケンゾーの声は強かった。
「奪わせるな」
タケは数秒迷う。
そしてクライを拾い上げた。
その瞬間。
床の亀裂が再びタケを追い始める。
「やっぱり来る!」
ハヤッティが叫ぶ。
「走れ!」
ケンゾーの指示。
タケが走る。
レインとハヤッティも並ぶ。
亀裂が追う。
しかし。
今度はアルマーが動いた。
右手を上げ。
指を。
僅かに曲げる。
タケと亀裂の間。
見えない空間。
伸びる。
数メートル。
数十メートル。
距離。
引き延ばされる。
亀裂の進行。
遅くなる。
アルマーの額。
汗。
にじむ。
「長くは持たない」
テルテルが見る。
「何秒」
「二十」
「十分!」
テルテルは端末へ戻る。
「シノン! 分離処理を進める!」
「今何パーセント?」
『五十三パーセント』
「半分超えた!」
シノンが息を吐く。
「あとどれくらい」
「十数分!」
「さっき十五分だった」
「地下の干渉で遅れた!」
「じゃあ縮んでないじゃない!」
「俺に言うな!」
その間にも異形は前線へ迫る。
保存対象たちも進んでくる。
クライを狙う地下の何かも上昇を続けている。
状況は確実に悪化していた。
しかし。
それでも。
誰も持ち場を離れない。
ケンゾーは再び正面へ向き直った。
「B」
「聞いてる」
「地下の奴は後回しだ」
「同感」
『ギャハハ……普通なら後回しにする大きさじゃねぇけどな』
「今止められない」
『分かってる』
ケンゾーはゲシュタルトを大盾へ変える。
「まず二十分を終わらせる」
Bが大鎌を構える。
「もう十五分だろ」
「延びた」
「面倒だな」
『ギャハハハハ! 延長戦か!』
「喜ぶな」
そのやり取りを聞きながら。
タケ。
走る。
クライ。
抱える。
レイン。
横。
危険を読む。
ハヤッティ。
少女。
守る。
そして。
床の下。
何か。
追う。
だが。
誰も。
止まらない。
ケンゾーが正面の異形へ踏み込む。
今度は。
過去を追うためではない。
今を守るために。
剣を振るう。