右側のエンジンから濃い黒煙を吐き出しながら、輸送機は廃墟と化した市街地の上空を急速に降下していた。
機体を叩きつける激しい雨音に混じって、警告装置の甲高い電子音が貨物室へ響き続けている。天井の照明は明滅を繰り返し、固定されたコンテナや武器ラックが激しく軋んでいた。被弾した右主翼はすでに正常な揚力を保てておらず、機体は何度も右へ傾いてはBの操縦によって強引に姿勢を戻されている。
『全員、衝撃に備えろ!』
操縦席からBの声が飛んだ。
『このまま前方の高速道路跡へ強制着陸する!』
「高速道路!?」
貨物室後方で、タケが窓の外を見ながら声を上げた。
そこには確かに一本の道路があった。
ただし、着陸地点と呼べるような代物ではない。
長期間放棄されていたらしく、アスファルトには無数の亀裂が走り、いたるところから雑草が生えている。放置された自動車や横転した大型トラック、崩れた道路標識まで散乱していた。
「……あれに降りるんですか?」
タケの声が若干裏返る。
『他に降ろせる場所がない!』
「いや、でもあそこ絶対何かありますよ!」
「何かどころか、いっぱいあるわね」
隣に座っていたレインが窓の外を見ながら静かに言った。
彼女もタケと同じく運び屋へ加入してからまだ日の浅い隊員だった。
整った顔立ちに、戦闘中でもほとんど乱れない落ち着いた表情。新兵という立場ではあるものの、その雰囲気だけを見れば新人らしい緊張はあまり感じられない。
「トラック、乗用車、標識……あ、あっち道路陥没してる」
「冷静に実況するな!」
向かい側に座るハヤッティが即座に突っ込んだ。
「余計怖くなるだろ!」
「確認してるだけよ」
「確認してどうすんだよ! 俺たち操縦してないだろ!」
レインは少し考えた後、小さく頷いた。
「確かに」
「今気づいたのかよ!」
タケが笑う。
「ハヤッティ、余裕あるな」
「誰のせいでこんな声出してると思ってんだ!」
三人のやり取りを見ながら、テルテルが座席にもたれて笑っていた。
「今日も新人組は元気だなぁ」
「テルテルさんは何でそんな余裕なんですか!」
ハヤッティが叫ぶ。
「もう墜落寸前ですよ!」
「墜落じゃない。着陸予定」
「この状況で言い換えに意味あります!?」
「あるだろ。気持ちの問題だ」
「何一つ解決してねぇ!」
シノンが苦笑しながら三人を見る。
「ハヤッティ、もう諦めたほうがいいよ」
「何をです?」
「テルテルに常識を求めること」
「シノンまでそれ言います!?」
「失礼だなぁ」
テルテルはそう言いながらも、まったく傷ついた様子はない。
その少し離れた場所では、ケンゾーが黙って外の状況を確認していた。
黒い戦闘服。
その上から羽織った長いロングコート。
深く被った帽子と、顔の大半を覆うマスク。
全身を黒で統一したその姿は、戦場に立つだけで異様な存在感を放つ。
世界各地の戦場で多くの人間がその姿を目撃してきた。
絶望的な戦況へ現れ、敵陣を突破し、味方の退路を開き、数え切れないほどの兵士を生還させた男。
いつしか人々は彼を――。
漆黒の英雄。
そう呼ぶようになった。
もっとも、本人はその呼び名を好んでいる様子はない。
ケンゾーの右手には一本の黒い武器が握られている。
古代兵器。
――ゲシュタルト・レーヴェ。
『接地予測まで二十五秒』
ゲシュタルトが淡々と告げた。
「それ言わないほうがいいんじゃない?」
レインが少し眉を寄せる。
『情報提供は任務遂行上有用だ』
「新人の精神衛生には有害そうだけど」
『精神状態については個人差が存在する』
「会話が成立してる……」
タケが感心したように見る。
「そこに感心するなよ」
ハヤッティが疲れた顔をする。
その時だった。
輸送機が大きく揺れた。
「きゃっ……!」
レインの身体が横へ持っていかれる。
固定ベルトが彼女を座席へ引き戻した。
『ミサイル二! まだ追ってくる!』
Bが叫んだ。
警告音が変化する。
敵性飛翔体接近。
タケの表情が強張った。
「これ、まずくないですか!?」
「まずいに決まってるだろ!」
ハヤッティが叫ぶ。
「だから何でいちいち確認するんだよ!」
その瞬間。
操縦席の奥から、低い声が聞こえた。
『ギャハハ……』
誰の声でもない。
それは人間の笑い方に似ていた。
だが、人間ではない。
『ギャハハハハハハッ! 来たなぁ! 来た来た来たァ!』
タケが目を見開いた。
「え?」
レインも操縦席の方を見る。
「今、誰が笑ったの?」
「誰じゃない」
シノンが言った。
「何、ですか?」
タケが尋ねる。
シノンが僅かに笑う。
「Bの相棒」
直後。
操縦席側の装甲ラックが開いた。
そこに固定されていた巨大な黒い物体が動き始める。
細長い柄。
幾重にも重なった黒銀色の装甲。
そして、その先端から展開する巨大な湾曲刃。
機械的な駆動音とともに完全な姿を現したそれは、銃でも剣でもなかった。
――大鎌。
人間一人を優に超えるほど巨大な刃を持った、異形の大鎌。
古代兵器。
フール・オブ・グレモリー。
『ギャハハハハッ! 獲物だァ!』
「うるさい」
Bが短く言う。
『そう言うなよぉ、B! 久々じゃねぇか! 飛んでくる鉄屑なんざ、刈り甲斐があるぜぇ!』
「ミサイルだ」
『細けぇことはいいんだよ!』
ハヤッティの表情が引きつった。
「古代兵器ってこんなのばっかりなんですか……?」
「俺を見るな」
ケンゾーが答えた。
『私はあれとは異なる』
ゲシュタルトが即座に付け加える。
「お前も結構喋るだろ!」
ハヤッティのツッコミが飛んだ。
『否定する』
「否定すんな!」
その間にもミサイルは迫っている。
Bは操縦席に座ったまま右手を伸ばした。
「フール。やれ」
『ヒャハッ! 待ってましたァ!』
大鎌の刃が紫色に発光した。
次の瞬間。
刃が振るわれた。
もちろん、物理的にミサイルへ届く距離ではない。
だが。
大鎌の軌道から紫色の斬撃が放たれた。
一閃。
さらにもう一閃。
二本の光刃が雨雲を切り裂く。
迫っていたミサイル二発がほぼ同時に切断された。
爆発。
輸送機の左右に巨大な炎が広がる。
「うわ……」
タケが窓へ顔を近づける。
「すげぇ……」
レインも小さく息を呑んでいた。
「大鎌でミサイルを切った……?」
「厳密には斬撃を飛ばしたんだろ」
ハヤッティが答えたあと、自分で首を傾げる。
「……いや、どっちにしてもおかしいだろ」
『ギャハハハハハッ!』
フールの笑い声が響く。
『雑魚! 雑魚雑魚雑魚ォ! もっと持ってこいやァ!』
「黙れ」
『冷てぇなぁ、相棒!』
その姿を見ながら、タケが尋ねた。
「だから……Bさんは……?」
「そう」
シノンが答える。
大鎌。
戦場。
そして絶えず響く、不気味な笑い声。
その巨大な鎌を携え、敵兵の中を進むBの姿は、戦場を知る者たちの間ではあまりにも有名だった。
巨大な刃が振るわれるたびに敵が倒れ。
古代兵器が狂ったように笑い。
その中心でBだけが無表情のまま戦い続ける。
いつしかBには、一つの異名がついた。
笑う死神。
「……Bさん本人が笑ってるわけじゃないのね」
レインが言った。
「ほぼフールのせいだな」
テルテルが答える。
『ギャハハハ! 良い名前だろォ!?』
「お前が気に入ってどうすんだ」
Bが呆れたように返す。
『接地まで十秒!』
ゲシュタルトが告げた。
「そっちのカウントまだ続いてたの!?」
タケが叫ぶ。
『九』
「やめろ!」
『八』
「逆に律儀すぎるだろ!」
ハヤッティも叫ぶ。
「全員固定!」
シノンの一声で、三人は即座に姿勢を戻した。
『三、二――』
「ゲシュタルト」
ケンゾーが言う。
「もういい」
『了解』
『接地するぞ!』
Bが叫んだ。
輸送機の車輪が高速道路へ叩きつけられた。
凄まじい衝撃。
「うわっ!」
「きゃっ!」
「ぐおおおっ!?」
タケ、レイン、ハヤッティの声が重なる。
車輪がアスファルトを削り、大量の火花が後方へ流れた。
機体が一度大きく跳ね上がる。
そして再び地面へ叩きつけられた。
『ギャハハハハハッ! 最高だなァ!』
「どこがだよ!」
ハヤッティが叫ぶ。
前方には大型トラック。
『障害物』
ゲシュタルトが告げる。
「見えてる!」
Bが操縦桿を切る。
輸送機が左へ滑る。
巨大な翼がトラックすれすれを通過した。
「危なっ!」
タケが声を上げた直後、反対側の翼が防音壁へ接触した。
金属を削る轟音が響く。
「これ完全に事故だろぉぉぉっ!」
ハヤッティが絶叫する。
『制御下だ!』
「それで押し通す気ですか!?」
最後に後部車輪が浮き上がり、機体全体が激しく揺れた。
それでもBは強引に姿勢を維持する。
数百メートル。
さらに数百メートル。
そしてようやく。
輸送機は停止した。
貨物室を静寂が包む。
非常灯だけが赤く明滅していた。
「…………」
タケが恐る恐る顔を上げる。
「……生きてる?」
「たぶん」
レインが答える。
彼女もさすがに少し青ざめていた。
「私、今ちょっとだけ人生について考えたわ」
「何考えたんだ?」
「地面って素敵ねって」
「基準が壊れてるぞ!」
ハヤッティが即座に突っ込む。
「今までずっと地面にいたからな!?」
テルテルが笑う。
「新人三人とも元気そうで何より」
「俺だけ疲労の原因違いません!?」
やがて操縦席からBが出てきた。
その手にはフール・オブ・グレモリーが握られている。
本来の姿である巨大な大鎌。
Bの身長より遥かに長い柄と、禍々しく湾曲した黒銀の刃。
普通の人間なら持ち歩くことすら難しそうな大きさだが、Bは当然のように肩へ担いでいる。
『ギャハハ……面白ぇ着陸だったなぁ』
「次喋ったら収納する」
『それだけは勘弁してくれ!』
「切り替え早っ!」
ハヤッティが叫んだ。
ケンゾーは立ち上がりながらBを見る。
「機体は?」
「飛行不能。ここから先は徒歩だ」
「やっぱりですか……」
タケが肩を落とす。
「目的地まで?」
「四キロ少し」
「まあ、それくらいなら歩けるわね」
レインが言う。
ハヤッティが振り向く。
「お前ら精神回復早すぎない?」
「止まったんだから、もう怖がっても意味ないでしょう?」
「時々お前が一番怖いよ!」
その瞬間。
『敵性反応』
ゲシュタルトの声が響いた。
フールも直後に笑う。
『ギャハハ……来たぜぇ』
全員の雰囲気が変わった。
ケンゾーがゲシュタルトを構える。
「数」
『二十七』
Bもフールを肩から下ろした。
「距離」
『四百五十前後。三方向から接近』
「包囲するつもりか」
テルテルが拳銃を抜いた。
「新人組」
シノンが振り返る。
「ここから実戦。遊びじゃないよ」
「了解」
タケが頷く。
レインも表情を変えた。
先ほどまでの柔らかな雰囲気が消える。
「了解」
ハヤッティも武器を構える。
「了解です」
「ケンゾー」
Bが呼ぶ。
「前どうする」
「俺が行く」
その言葉だけで十分だった。
ケンゾーが道路中央へ出る。
黒いロングコートが雨風に揺れた。
敵兵が彼を発見する。
一瞬。
向こう側で動揺が走った。
「……あいつ」
「まさか」
「黒いコート……」
そして。
「漆黒の英雄……!」
その名が漏れた。
ケンゾーは何も答えない。
ただゲシュタルトを構えた。
『防御形態』
黒い古代兵器が巨大な盾へ変形する。
銃声。
無数の弾丸がケンゾーへ集中した。
だが、全てが盾によって弾かれる。
「タケ!」
ケンゾーが叫ぶ。
「右!」
「はい!」
タケが遮蔽物から飛び出す。
ライフルを連射。
敵兵が一人倒れた。
「レイン、援護!」
「分かった!」
レインも走る。
敵兵がすぐに彼女へ照準を変更した。
「女だ! 撃て!」
三人が一斉に引き金を引く。
レインの進行方向へ大量の弾丸が飛んだ。
しかし。
一発も当たらない。
レインは大きく飛び跳ねたわけでもない。
転がって逃げたわけでもない。
ほんの半歩。
僅かに身体を傾ける。
速度を変える。
足を止める。
次の瞬間には再び加速する。
それだけだった。
銃弾が髪のすぐ横を通り過ぎる。
次の一発は肩を掠めるはずだったが、その直前にレインが身体を半歩ずらした。
さらに別方向から撃たれる。
今度はしゃがむ。
弾丸が頭上を抜けた。
ハヤッティが目を見開く。
「相変わらず意味分かんねぇ……」
タケも横目で見る。
「見えてるのか?」
「全部は見えてないわ」
走りながらレインが答える。
「何となく、来る場所が分かるだけ」
「それが意味分からねぇって言ってんだよ!」
敵兵たちの間にも動揺が広がる。
「当たらない……!」
「何なんだあの女!」
「撃て! 撃ち続けろ!」
銃火が激しくなる。
それでも被弾しない。
一発。
さらに一発。
ほんの僅かな動きだけで、レインは次々と弾丸を避けていく。
まるでそこに存在していないかのように。
捕らえたと思った瞬間には別の場所へいる。
影を追っているような錯覚すら覚える。
戦場で彼女と遭遇した者たちは、その異常な回避能力から一つの名をつけていた。
亡霊。
「……亡霊だ」
敵兵の一人が呟いた。
「運び屋の亡霊……!」
「そんな呼ばれ方してるの?」
レイン本人が一瞬だけ困ったような顔をした。
「今知ったのかよ!」
ハヤッティが叫ぶ。
「噂って本人のところには意外と来ないものよ」
「戦闘中に冷静に分析すんな!」
その直後。
敵兵の一人がハヤッティへ照準を向けた。
「ハヤッティ!」
レインが叫ぶ。
「分かってる!」
ハヤッティが遮蔽物へ滑り込む。
弾丸が壁へ突き刺さる。
「危なっ!」
「だから前見て」
「お前が弾避けまくるから見ちゃうんだろ!」
「私のせい?」
「半分くらい!」
そのやり取りを聞きながら、Bが大鎌を構えた。
「フール」
『ヒャハハハハッ!』
刃に紫色の光が走る。
『刈るかァ!』
「右側九」
『上等!』
Bが踏み込んだ。
それまで操縦席にいた男とは思えないほど鋭い動きだった。
敵兵の目前まで一気に距離を詰める。
巨大な大鎌が横薙ぎに振るわれた。
刃そのものが人体へ触れる直前、紫色の衝撃波が爆発的に広がる。
三人の敵兵がまとめて吹き飛んだ。
『ギャハハハハハッ!』
フールが歓喜する。
『もっとだァ! もっと来いやァ!』
Bは無表情だった。
笑っているのは大鎌だけ。
しかし戦場を遠くから見れば、まるでB自身が敵を刈り取りながら笑っているようにすら見える。
巨大な鎌。
倒れていく敵。
響き渡る狂笑。
笑う死神。
その異名に、これほど相応しい光景もなかった。
「やっぱ怖ぇよ!」
ハヤッティが思わず叫ぶ。
「味方なのに怖いってどういうことだよ!」
「慣れるよ」
シノンが冷静に敵を狙撃しながら答えた。
「慣れたくないです!」
テルテルが笑う。
「大丈夫。半年もいれば普通になる」
「普通の基準がおかしくなってるだけでしょう!」
一方、ケンゾーは正面を押し切っていた。
「ゲシュタルト」
『了解』
「変形」
巨大な盾が瞬時に分解される。
内部機構が組み替わり、一挺の大砲へと姿を変えた。
『出力設定』
「最低」
『了解』
一射。
衝撃が道路を突き抜けた。
敵の即席バリケードがまとめて吹き飛び、後方にいた兵士たちまで地面へ転がる。
「すげぇ……」
タケが思わず足を止めた。
彼の視線はケンゾーへ向けられている。
タケにとってケンゾーは、単なる先輩隊員ではない。
戦場における憧れ。
目標。
いつか追いつきたい存在。
漆黒の英雄。
「タケ!」
ハヤッティが叫ぶ。
「見惚れてんな!」
「分かってる!」
「分かってる奴は足止めねぇんだよ!」
レインが横から敵を一人撃ち倒す。
「でも分からなくはないわ」
「レインまで!?」
「実際すごいもの」
「お前ら二人ともファンクラブか!」
「違うわよ」
「俺は違わない!」
タケが即答した。
「認めるんかい!」
ハヤッティの声が飛ぶ。
だが、その賑やかな戦闘は突然終わった。
『――異常』
ゲシュタルトが告げた。
同時に。
フールの笑い声が止まった。
『……おい』
それまでとは明らかに違う声だった。
Bが目を細める。
「どうした」
『何かいる』
「位置」
『前』
フールの刃が僅かに震える。
『遠い。だが……嫌な感じだぜぇ』
ゲシュタルトも解析を開始する。
『高エネルギー反応を検知』
「距離」
『二・八キロ』
全員が廃墟の奥を見る。
青白い光。
それがゆっくりと立ち上がった。
テルテルの顔から、笑みが消えた。
「……まさか」
レインがその変化に気づく。
「テルテルさん?」
「伏せろ!」
テルテルの怒声。
青白い閃光が走った。
光は幾つもの建物を貫通し、その先に存在した高層ビルへ直撃する。
爆発は起こらない。
炎もない。
ただ。
ビルの中央部分だけが消滅した。
「……何?」
レインが言葉を失う。
「消えた……?」
タケも呆然とする。
ハヤッティですら、すぐには言葉が出なかった。
「いや……待てよ」
ようやく絞り出す。
「何だよ、あれ……」
Bが大鎌を構える。
「フール。解析」
『……やってる』
珍しく笑わない。
『現代兵器データベース照合』
数秒。
『該当なし』
「ヴォルテールの非公開データも含めて?」
『全部だ』
フールの声が低くなる。
『だがよぉ……』
「何だ」
『俺の中に似たデータがある』
Bの表情が僅かに変わる。
「出せるか」
『待て』
沈黙。
『……駄目だ』
「理由」
『封鎖されてる』
ケンゾーがゲシュタルトを見る。
「お前は?」
『同様』
ゲシュタルトが答えた。
『該当情報を確認。ただし記録領域へのアクセス権限が存在しない』
「古代兵器二つとも……?」
レインが呟く。
次の瞬間。
ケンゾーの頭に鋭い痛みが走った。
「ぐっ……!」
「ケンゾーさん!」
タケが反射的に駆け寄る。
シノンもすぐにケンゾーの傍へ向かった。
「大丈夫?」
「……分からない」
ケンゾーは額を押さえる。
脳裏に一瞬だけ光景が見えた。
知らない都市。
白銀の建物。
空を覆う巨大な構造物。
炎。
無数の死体。
そして。
遥か向こうに立つ――六つの人影。
「……誰だ」
次の瞬間。
すべて消えた。
「ケンゾー?」
「……何でもない」
ケンゾーはゆっくり立ち上がる。
だが。
テルテルだけは、その様子をじっと見つめていた。
ゲシュタルト。
フール。
二つの古代兵器の封印された記録。
ケンゾーの記憶に現れた異常。
そして、青白い閃光。
テルテルには分かっていた。
あれが何なのか。
どの時代の技術なのか。
そして。
なぜ自分だけが――それを覚えているのか。
「……冗談だろ」
テルテルが小さく呟いた。
「テルテルさん?」
レインが振り向く。
「今、何か言った?」
「いや」
テルテルはすぐに笑みを作った。
「今日の仕事、残業になりそうだなって」
「絶対違うでしょう」
レインが即座に返す。
「お、鋭い」
「誤魔化さないでください」
「新人が先輩を詰めるもんじゃないぞ」
「じゃあちゃんと答えてください」
「嫌です」
「即答なんですね……」
ハヤッティが横からため息を吐く。
「レイン、無駄だ。テルテルさんが素直に答えるわけない」
「ハヤッティ」
「何です?」
「お前、最近俺への扱い雑じゃない?」
「原因を自分の胸に聞いてください!」
少しだけ。
いつもの空気が戻った。
だが。
テルテルの心の中だけは違っていた。
遥か昔。
人類が世界そのものを管理しようとした時代。
人造の神を造り。
六人の人間を神へ作り替え。
そして、この世界そのものを滅亡寸前まで追い込んだ時代。
超古代文明。
終わったはずだった。
封印したはずだった。
それなのに。
古代兵器が目覚め。
失われた記憶が反応し。
そして、この時代に存在するはずのない兵器が動いている。
テルテルは廃墟の奥を見た。
先ほど青白い光が発生した方向。
その遥か地下。
目では見ることのできない場所で。
何かが自分たちを待っている。
そんな気がしてならなかった。
そして。
テルテルの予感は――間違っていなかった。