その名が口から零れた瞬間、テルテル自身が最も強く後悔していた。
イヴ。
長い時間をかけて封じ込め、歴史から消し去り、二度と現在の人類へ届かせてはならないと決めた名だった。だからこそ、それを口にした時点で、もう誤魔化しは利かない。
巨大スクリーンに浮かぶ金色の瞳は、しばらく何も言わなかった。ただ、こちらを観察するように細められている。その視線には人間的な温度がない。それでもテルテルには分かった。かつて自分たちが造り上げた存在は、人間の感情を模倣する術を知っている。その微笑みに意味がないわけではなかった。
「……今、イヴって言ったよな」
ケンゾーが低い声で尋ねた。
頭痛はまだ続いているらしく、左手でこめかみを押さえながらも、右手からゲシュタルト・レーヴェを離してはいない。顔の大半をマスクで隠しているため表情は読み取りにくいが、その視線だけは真っ直ぐテルテルへ向けられていた。
「テルテル。知ってる名前なんだな」
「……ああ」
これ以上、知らないとは言えなかった。
シノンも壁へ片手をつきながら呼吸を整えている。ほんの少し前まで、彼女にもケンゾーと似た異常が起きていた。しかし本人には、その原因が分からない。ただ「イヴ」という名を聞いた瞬間、胸の奥へ何かが突き刺さったような不快感だけが残っている。
「私も……その名前、聞いたことがある気がする」
シノンが眉を寄せた。
「でも、どこで聞いたのか思い出せない」
「俺もです」
タケが周囲を見回した。
「いや、俺の場合は今テルテルさんが言ったのを聞いただけですけど……何か、嫌な感じがします」
「それはこの状況のせいじゃない?」
レインが答えた。
彼女は倒れ込んだ女性とスクリーンを交互に見ている。銃口はまだ下げていない。相手が何者なのか分からない以上、警戒を解く理由はなかった。
「でも、ケンゾーさんとシノンさんの反応は普通じゃないわね」
「Bさんもな」
ハヤッティが言った。
Bは黙ったままだった。
ただ、肩へ担いだフール・オブ・グレモリーの大鎌が、先ほどから微かな振動を繰り返している。普段なら敵が現れれば真っ先に笑い出す古代兵器が、今は妙に静かだった。
『……気に食わねぇ』
やがてフールが低く呟いた。
いつもの「ギャハハ」という笑い方ではない。
『あの声、俺は嫌いだ』
Bが大鎌へ目を向ける。
「知ってるのか」
『知らねぇ。……いや、違うな。知ってるはずなのに思い出せねぇ』
「また封印か」
『多分な』
フールの刃に走っていた紫色の光が、まるで苛立ちを表すように一度だけ強く明滅した。
『頭ん中を引っ掻かれてるみてぇでムカつくぜ。ギャハハって笑う気にもならねぇ』
「お前が笑わない方が怖いんですけど」
ハヤッティが思わず口を挟む。
『あァ?』
「いや、今のはこっちの話です」
「そこ気にするところなの?」
レインが小さく呆れた。
「だってフールが黙るって相当でしょう!?」
「確かに」
「納得するのかよ!」
新兵三人のやり取りがほんの一瞬だけ緊張を和らげた。
だが、スクリーンの向こうにいる存在は、それを許すつもりがないらしい。
『観察結果を更新します』
冷たい女性の声がホールへ響いた。
『旧文明兵装二基。識別不能個体複数。記憶封鎖処理に部分的な破損を確認』
テルテルの顔色が変わった。
「黙れ」
『命令権限を照合』
短い沈黙。
『拒否します』
「……だろうな」
テルテルは女性を抱き起こしながら、奥歯を噛んだ。
女性の身体は異常なほど冷えていた。長期間にわたりカプセル内で保存されていた影響なのか、それとも別の理由があるのかまでは分からない。それでも脈はある。呼吸も弱いながら続いていた。
「シノン」
「分かった」
シノンがすぐに近づき、女性の状態を確認する。
「タケ、医療キット」
「はい!」
タケが背負っていた装備から応急処置用のキットを取り出し、シノンへ渡した。レインもしゃがみ込み、女性の身体へ接続されたままの細いコードを慎重に確認する。
「無理に抜かない方がいいかも」
「そうね。何に繋がってるか分からない」
「俺が見る」
Bが一歩近づいた。
「フール。解析」
『……やる』
大鎌の刃から細い紫光が伸び、女性の身体をなぞるように走った。
『生命活動低下。だが死にかけってほどじゃねぇ。代謝そのものを落とされてたみてぇだ』
「薬物?」
『違う』
「機械制御?」
『それに近ぇ』
レインが女性の顔を見る。
「テルテルさん。この人も知ってるんですか?」
テルテルは答えなかった。
いや、答えられなかった。
知っている。
それだけは確かだった。
ただ、カプセルの中にいるはずのない人物だった。
この女性がここにいるという事実そのものが、テルテルの記憶と噛み合っていない。
「名前は?」
シノンが尋ねる。
「……今は言えない」
「またそれ?」
ハヤッティが思わず声を上げる。
「いや、テルテルさん。さすがにここまで来て全部『言えない』で通すの無理ですよ?」
「分かってる」
「じゃあ言ってくださいよ!」
「言ったら、お前らの記憶に何が起きるか分からないんだ」
その言葉に、全員が黙った。
テルテル自身も、言うつもりのなかったことを口にしてしまったと気づいた。
ケンゾーがゆっくりと顔を向ける。
「俺たちの記憶に?」
「……」
「どういう意味だ」
テルテルは答えない。
それを見たケンゾーの声がさらに低くなる。
「お前は俺たちが何かを忘れてるって知ってるのか」
沈黙。
今回はテルテルも軽口を叩かなかった。
その反応だけで十分だった。
「……やっぱり」
ケンゾーが小さく呟いた。
胸の奥にあった違和感。
ゲシュタルト・レーヴェを初めて手にした時から感じていた、説明できない既視感。
古代兵器を見た時に浮かぶ懐かしさ。
先ほど見えた白い都市。
六つの影。
そして、イヴという名前を聞いた瞬間に襲った強烈な頭痛。
「何を忘れてる」
「今は思い出そうとするな」
「理由を言え」
「思い出したら壊れるかもしれない」
テルテルの声には冗談がなかった。
「記憶だけじゃない。下手したら、お前自身が」
タケが息を呑む。
「そんな……」
ハヤッティも、いつもの調子で突っ込むことができなかった。
レインだけが静かにテルテルを見ていた。
「だから、テルテルさんだけ覚えてるんですね」
テルテルの目が僅かに動く。
「私たちは忘れていて、あなたは忘れてない」
「……鋭いな」
「褒められても嬉しくないです」
レインは視線をスクリーンへ向ける。
「じゃあ、あれもそれを知ってる」
『正確です』
イヴの声が反応した。
金色の瞳が細められる。
『対象レイン。現状分析能力、良好』
「評価されても困るわ」
『あなたには直接的な記憶処理痕跡は確認されません』
「……私には?」
レインの表情が僅かに変わった。
『肯定します』
テルテルが鋭くスクリーンを睨む。
「それ以上喋るな」
『拒否します』
「お前は――」
『ただし訂正が必要です』
巨大スクリーンの映像が揺らいだ。
金色の瞳が一度消え、無数の文字列へ変わる。
『私はイヴではありません』
ホール全体が静まり返った。
テルテルが眉を寄せる。
「何?」
『私はEVE基幹人格より分離された管理残響。第七生命保存管理区画用補助人格――EVE-SEVENTH』
「……分離人格」
シノンが呟く。
『本体は封印状態を維持しています』
その言葉に、テルテルは僅かに息を吐いた。
だが安心するには早い。
本体が眠っている。
それは逆に言えば。
この施設は、今も本体との繋がりを保持しているということだ。
「本体の封印位置は」
テルテルが尋ねる。
『開示権限なし』
「俺にも?」
『あなたの管理権限は失効処理済みです』
「さっき有効って言ってただろ」
『この施設内に限定された局所権限です』
「面倒くせぇ……」
テルテルが頭を抱える。
ハヤッティが反射的に呟いた。
「そこだけ普通に困るんですね」
「俺を何だと思ってる?」
「謎の多い胡散臭い先輩」
「評価ひどくない?」
「だいたい合ってる」
Bが淡々と言う。
「Bまで乗ってくるのやめてくれる?」
『ギャハハ……』
フールが久しぶりに小さく笑った。
それを聞き、ハヤッティが思わず胸を撫で下ろす。
「何かちょっと安心した……」
「笑う大鎌で安心する感覚、もう毒されてない?」
レインが呟く。
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
「私は何もしてないわよ」
「お前も大概だからな!?」
しかし、そんなやり取りの最中。
突然、ホールの奥で巨大な金属音が響いた。
床の下から何かが動き始める。
「全員、構えろ」
ケンゾーの一声で空気が変わった。
タケはすぐに銃を構え、レインはテルテルと女性の前へ出る。ハヤッティも爆発物を腰へ戻し、自分の武器へ手をかけた。
Bはフール・オブ・グレモリーを両手で構える。
『ギャハハ……今度は何だァ?』
「笑える相手ならいいな」
『そうこなくちゃな、相棒!』
「誰が相棒だ」
『そこまだ認めねぇのかよ!』
床中央の円形装甲が左右へ開いた。
その下から上昇してきたのは。
機械兵ではなかった。
巨大な台座。
その上に。
一振りの剣が突き立っている。
「……剣?」
タケが目を細める。
全長は通常の長剣よりやや長い程度。
だが、形状は明らかに古代兵器と同じ系統だった。
白銀色の刀身。
中央に青い線。
鍔には六枚の翼を模した意匠。
『旧文明認証兵装を確認』
ゲシュタルトが反応する。
「誰の武器だ」
『不明』
フールも刃を震わせる。
『……これも知ってる気がするな』
「お前、今日そればっかりだな」
『仕方ねぇだろ! 覚えてねぇんだからよ!』
テルテルは剣を見た瞬間、表情を変えた。
「……それまで残ってたのか」
「やっぱり知ってるんですね」
レインがすぐに反応する。
「……うん」
テルテルは今回は否定しなかった。
「誰のですか?」
「持ち主は――」
そこまで言いかけた時。
スクリーン上のEVE-SEVENTHが割り込んだ。
『兵装名――アーク・ノクティス』
テルテルが険しい目を向ける。
『旧文明対神戦争期に製造された高位兵装』
「対神……?」
タケが聞き返す。
ハヤッティも眉を寄せる。
「神って……比喩ですよね?」
誰も答えなかった。
その沈黙が、かえって不気味だった。
『正式使用者――』
「言うな!」
テルテルが叫んだ。
だが遅かった。
『ケンゾー』
ホール全体が凍りついた。
ケンゾー自身も動かなかった。
「……俺?」
タケが目を見開いてケンゾーを見る。
シノンも。
Bも。
レインも。
ハヤッティも。
全員が同じ反応をしていた。
「待ってください」
タケが剣とケンゾーを交互に見る。
「でも、これ……ずっと昔の武器ですよね?」
『肯定』
「じゃあ、何でケンゾーさんの名前が?」
『登録情報に基づく回答です』
「同姓同名とか」
ハヤッティが言う。
『否定』
「何で即答なんだよ!」
『遺伝識別情報、生命波形、神経位相、全て一致』
ケンゾーの頭痛が再び強くなる。
「ぐっ……!」
「ケンゾーさん!」
タケが駆け寄る。
しかしケンゾーは手で制した。
「来るな」
視界が揺れていた。
剣を見る。
白銀の刃。
青い線。
知らない。
知らないはずなのに。
右手が。
勝手に反応している。
「……俺は」
指が震えた。
ゲシュタルト・レーヴェが警告を発する。
『神経活動急上昇』
「分かってる」
『記憶封鎖領域に異常』
「止められるか」
『不能』
「役に立たないな」
『申し訳ない』
その返答に、タケが一瞬だけ驚く。
ゲシュタルトが謝った。
普段の機械的な応答とは少し違う。
まるで。
過去の何かを知っているように。
ケンゾーはゆっくり剣へ近づいた。
「ケンゾー」
テルテルが呼び止める。
「触るな」
「理由は」
「今のお前が触ったら、封印が崩れるかもしれない」
「俺の記憶の?」
「……それだけじゃない」
テルテルの声が震えている。
ハヤッティが珍しく何も言えなかった。
レインはテルテルの横顔を見る。
彼は本気で恐れている。
これまで何が起きても冗談で流してきた男が。
ケンゾーが剣に触れることだけを。
明確に恐れている。
「なら聞く」
ケンゾーが振り返る。
「俺は何者だ」
「ケンゾーだ」
「そういう話じゃない」
「分かってる」
「なら答えろ」
「答えられない」
「またか」
「違う」
テルテルが珍しく声を荒らげた。
「言いたくないんじゃない。今ここで言っちゃ駄目なんだ!」
その迫力に、タケたちが息を呑む。
「記憶封鎖は意味なくやったんじゃない。俺たちが選んだんだ。お前らを守るために必要だった!」
言った後。
テルテル自身が言葉を止めた。
ケンゾーの目が細くなる。
「……俺たち?」
しまった。
遅かった。
「お前も関わってるんだな」
テルテルは何も言えない。
「俺の記憶を消したのは、お前か」
「……直接は違う」
「じゃあ誰だ」
「それは――」
施設全体が大きく揺れた。
爆発ではない。
もっと深い場所で、巨大な何かが動いた。
『警告』
EVE-SEVENTHの声が響く。
『封印層第三層に亀裂』
テルテルの顔色が変わる。
「何だと」
『封印対象活動率上昇』
スクリーンへ数字が表示される。
二十一。
二十三。
二十六。
「上がってる!」
タケが叫ぶ。
「何が起きてるんですか!」
『外部より封印解除信号を受信』
シノンがすぐに端末を操作する。
「外部? 誰かがこの施設にアクセスしてるってこと?」
『肯定』
「位置は?」
『第三区画中央部』
Bがフールを構え直す。
「地上か」
『いや』
フールが先に答えた。
『もっと下だ』
「地下?」
『俺らとは別ルートで誰かが入ってやがる』
レインが銃口を奥の通路へ向ける。
「さっきの武装勢力?」
『連中じゃねぇ』
「どうして分かるの?」
『生命反応が違う』
フールの声が少し楽しそうになる。
『ギャハハ……こいつら、強ぇぞ』
「どれくらい」
『今までの雑魚とは比べもんにならねぇ』
Bが無表情のまま大鎌を肩から下ろした。
「数」
『五』
「少ないな」
『だからヤベぇんだよ』
ゲシュタルトも解析を開始する。
『五対象全て、高密度生命エネルギー反応』
ケンゾーの視線が鋭くなる。
「生命エネルギー?」
テルテルの身体が固まった。
また。
知っている言葉。
なのに。
ケンゾー本人は初めて聞いたような反応をしている。
その事実が、何よりも記憶封鎖の深さを証明していた。
「テルテル」
ケンゾーが振り返る。
「今のも知ってるな」
「……ああ」
「説明は後でいい」
ケンゾーはゲシュタルトを構え直した。
「敵かどうかだけ答えろ」
テルテルは少しだけ考えた。
「分からない」
「正直で結構」
「ただし」
テルテルの目が奥の通路へ向く。
「この施設の封印を壊してるなら、少なくとも味方じゃない」
「十分だ」
ケンゾーは一歩前へ出た。
タケも後へ続こうとする。
「俺も行きます」
「当たり前だ」
「え?」
「任務中だぞ」
ケンゾーが振り返る。
「ただし俺より前には出るな」
「……はい!」
タケの表情が明るくなる。
「何で嬉しそうなんだよ」
ハヤッティが呆れる。
「ケンゾーさんに認められた気がするから!」
「単純すぎるだろ!」
「いいじゃない」
レインが小さく笑う。
「分かりやすい方が」
「お前まで甘やかすな!」
「甘やかしてないわよ」
「タケ」
レインが呼ぶ。
「敵が五人なら、逆に一人ひとりが相当強い可能性が高い。油断しないで」
「ああ」
「ハヤッティも」
「俺は最初から油断してねぇよ!」
「それなら安心」
「その言い方だと俺だけ信用されてないみたいだな!?」
「安心してるって言ったでしょう?」
「微妙に納得いかない!」
シノンがライフルの残弾を確認する。
「新人三人、会話はそこまで。ここからは本気で危ないよ」
三人が一斉に頷いた。
Bはフールを構えたまま、奥の暗い通路を見据えている。
『ギャハハハハ……』
今度の笑いには。
いつもの調子が戻っていた。
『五人か。いいねぇ。やっと刈り甲斐のある連中が出てきそうじゃねぇか!』
「フール」
『何だァ?』
「勝手に突っ込むな」
『お前が突っ込むから俺は振られてるんだろうが!』
「なら黙って振られろ」
『ギャハハハハハ! 相変わらず酷ぇ相棒だぜ!』
「だから相棒とは言ってない」
「もう認めてあげたらどうですか」
レインが思わず言った。
「無理だ」
『聞いたか亡霊の姉ちゃん! 冷てぇだろォ!?』
「私に振らないで」
「亡霊って呼ばせてるじゃん」
ハヤッティが言う。
「呼ばせてないわよ」
その時。
奥の通路から。
足音が聞こえた。
一つ。
二つ。
三つ。
ゆっくり。
近づいてくる。
全員が黙った。
ケンゾーが前へ出る。
黒いロングコートが青白い照明の中で揺れる。
漆黒の英雄。
その背後で。
笑う死神が大鎌を構える。
亡霊と呼ばれる女が銃を握る。
そして、その間にタケ、ハヤッティ、シノン、テルテル。
七人がそれぞれの位置へ散開した。
通路の奥に。
五つの影。
最初に現れたのは。
全身を灰色の装甲で覆った大男だった。
その右肩にはヴォルテールとも武装勢力とも異なる紋章が刻まれている。
続いて。
細身の女性。
フードを被った男。
巨大な盾を持つ男。
そして最後に。
白い仮面をつけた人物が歩いてくる。
その五人がホールへ足を踏み入れた瞬間。
ゲシュタルトが警告を発した。
『危険』
フールが大声で笑う。
『ギャハハハハハ!』
「どうした」
Bが尋ねる。
『こいつら全員――』
大鎌の刃に紫光が迸った。
『古代兵器持ちだぜ』
タケの表情が強張る。
ケンゾーは黙ったまま五人を見る。
そして。
白い仮面の人物が一歩前へ出た。
「やっと会えた」
その声は男とも女とも判断しにくい。
「漆黒の英雄、ケンゾー」
続いて。
仮面の向こうの視線がBへ向く。
「笑う死神、B」
さらに。
レイン。
「そして――亡霊」
レインの目が細くなる。
「私たちを知ってるのね」
「有名人だからな」
ハヤッティが小さく言う。
だが。
白仮面は最後にテルテルへ顔を向けた。
そこで声の調子が変わった。
「そして、何より」
一歩。
前へ出る。
「旧時代の生き残り」
テルテルの顔から。
完全に笑みが消えた。
「テルテル」
その名を呼ばれた瞬間。
ホールの空気が。
再び凍りついた。