「出会い」
俺は枕木遊星《まくらぎ ゆうせい》、いわゆる陰キャと呼ばれる高校生だ。友達も一人もいないし、会話も授業のグループワークなど最低限しかしない。
彼女なんて夢のまた夢だ。
友達なんて時間の無駄だし彼女はお金の無駄で一人でいる時の方が気楽で楽しい……そう思ってた。
あの「先輩」と会うまでは……。
そう……「先輩」と出会ったのは入学式が終わった後の部活勧誘の日だった。
──体育館の中で様々な部活が新入生に部活の魅力をPRする……賑やかで正直に言うと騒がしいくらいだ。
もちろん俺もいくつかの部活を見てみたが、正直どれも入ろうとは思わなかった。
元から部活に入るつもりがなかったのもあるが、一番の理由は俺の興味を惹くような、心や目を奪うような……そんな刺激的なものがなかったからだろう。
「──やっぱり見つからないか」
そう独り言を呟きながら体育館の喧騒から逃れるように校庭に出ていった…。
歩きながら俺は少し前の独り言について考えていた、元より部活なんか入るつもりがなかったのになぜ俺は落胆しているのだろう、なぜ興味を惹くようなものがなくて落ち込んでいるのだろう。
もしかして心の底では何か部活に入りたかったのではないのか?本当は友達や彼女が欲しいんじゃないのか?
友達や彼女が要らないと思っていたのも、酸っぱい葡萄のように自分が手に入らないものを下げて、悔しさを誤魔化していただけじゃないのか。
そんなことを考えながら物陰に座り、やはり体育館に戻るべきだろうかと考えていたその時だった。
『やあ、新入生の子かな?』
一瞬思考がフリーズした、まさか外で声をかけられると思っていなかったからだ。
しかもかなり綺麗な見た目をしていたので余計にフリーズしてしまった。
白色で綺麗な長い髪、まつ毛も長くて瞳も青く、その姿はまるで妖精のようだった。
『どうやら驚かせてしまったようだね』
『僕は月城 真央《つきしろ まお》二年生、君の先輩さ』
『マオと呼んでくれて構わないよ』
俺は急に話しかけてくるし、初対面なのに距離が近い人だな…そんなことを思ったがすぐに、これこそ俺が望んでいた刺激的なことなのではと思い直し、自己紹介をした。
「俺は枕木遊星、新入生です」
『枕木遊星…良い名前だね』
『──ところで、ここでなにをしてたんだい?』
『今の時間、新入生は体育館にいると思っていたけどね』
俺は言葉に詰まった、良い部活がなかったから抜け出してきましたなんて恥ずかしくて言えないからだ。
そんな事を考えていると、先輩が俺の顔を覗き込んできた。
『もしかして部活でなにか悩んでいるのかい?』
急に心を見透かされたようで、また一瞬フリーズした、そんなに顔に出ていただろうかという表情をするとまた先輩が話す。
『新入生が体育館から抜け出してるのは、部活関係かと思っただけさ』
『ふふっ、別に心を読んだわけじゃないよ』
そう言われて俺は正直に心の内を話した、初対面の相手に何を言っているのだろうと思いつつ、全部心の中を空っぽにする勢いで。
『ふーん……それなら無理して入らなくていいんじゃないのかな』
『僕もどこの部活にも入っていないしね』
そう言われて安心感と同時に少しの落胆を感じた、もしかしたらこの先輩が何かの部活の部員で、そこに誘われて色んな人と共に様々な思い出を作れる…そんな夢物語を妄想していたからだろう。
よく考えたら当然だ、部員ならPRのために体育館にいるはずだからだ。
するとまた先輩が俺の顔を覗いてきた。
『がっかりさせてしまって申し訳ないね』
「いや……いいんです、先輩は悪くない、期待した俺が悪いんです」
『でももし君が部活ではなく刺激的なものを求めているのなら……』
『僕がそのお手伝いをしてあげるよ』
先輩は艶めかしい表情で少し微笑みながらそう言った。
小中高と生きてきて、初めてだった。
自分を理解してくれる人が現れた気がした。
その時からだろう。俺が先輩に心を奪われたのは──。
まるで懺悔を聞いてくれる聖職者のような、それでいて堕落させようとする悪魔の誘惑のようなそんな先輩に──。
「ぜひお願いします!」
急に声が大きくなって自分でも少し驚いた、学校でこんな声を出すのは初めてかもしれない。
そのくらい心の底から出た声だった。
『ふふっ、元気になったみたいで嬉しいよ』
『じゃあ連絡先でも交換しようか、L◯NEやってるかい?』
「はい!……うぅ」
俺は急に涙が出てきてしまった、嬉し泣きという言葉は知っていたがそれを体験するのは初めてだった。
まさかこんな綺麗な女の子と連絡先を交換できるだなんて。
『そこまで感動しなくてもいいよ』
「グスッすいません、人と……女の子と連絡先交換するの、初めてで…嬉しくてつい……」
すると先輩が不思議そうな顔で言った。
『僕は男だよ』
その日は人生で初めてなことばかりだった。
だが俺は、また新たな“初めて”を経験することになる。
こんな綺麗で可愛い人が男……?
今日一日の出来事を全部まとめてもかなわないような衝撃が、一気に押し寄せてきた。
その新たな扉が開くようなあまりの衝撃にフリーズを通り越して気絶してしまった。
しばらくして目が覚めると頭の下が柔らかくて暖かく、保健室に運ばれたかと思ったが、周りの風景はここは部屋ではなく屋外であることを示していた。
すると急に声が聞こえてきた。
『お、ようやく起きたね。おはよう』
『隠していてごめんね、こういうことは初めに言うべきだったね』
「いや、いいですよ、こちらこそ申し訳ないです。枕まで用意してもらって……」
そんなことを言いながら起き上がろうと枕の方を見ると、
それは枕ではなく、先輩の膝枕だった。
『枕が硬いと君に申し訳ないと思ってね』
驚いている俺の顔を見ながら先輩はまた少し微笑みながらこう言った。
『それじゃあ……改めてこれからよろしくね、枕木君』
あまりの先輩の破壊力に俺はまた気絶してしまった……。
それから……その後の記憶はない。まるで夢のような時間だった……。
──キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った。
ハッと目が覚める、授業中だというのに俺はいつのまにか寝てしまっていた、なんであの時のことを……。
そんなことを思いながら帰りの準備をする。そこに一件の通知がスマホに入ってきた。
『やあ、学校も終わったことだし君がよかったらどこか行かないかい?』
そう、あの日のことは夢のようだけど夢じゃない。
こんな夢より素晴らしい現実があるなんて、
俺の学校生活はまだまだ始まったばかりだ──。
「気になること」
俺が学校に入学してしばらく経って、学校生活にも少しずつ慣れてきた。
そんな学校終わりの帰り道であった。
校舎は綺麗だし、学食も美味しい。
先生たちも優しいし、クラスメイトは…あまり合わなさそうだが別に構わない。
だって俺には先輩がいるから……。
先輩は俺に優しいし、一緒にお昼を食べてくれる。
先輩なしの学校生活なんて考えられない…。
そんなことを考えながら帰路についていた時にふと、疑問が生まれた。
(どうして先輩は俺なんかと仲良くしてくれているんだ?)
その疑問が生まれてからは意識のすべてがその疑問に持っていかれていた。
具体的には電柱に何度もぶつかり、何度も通った帰り道を間違えるほどに。
別にそんなことをここまで気にする必要はないのかもしれない、だがずっとボッチだった俺にはそれが気になって気になって仕方がなかった。
(と……とりあえず家に帰ってから考えよう……)
そんなことを考えながら、電柱にぶつかりすぎてフラフラになった頭のまま家へ帰り、部屋へと駆け込み、息を切らしたままベッドにダイブした。
少し時間が経ち、冷静さをある程度取り戻した俺は、改めて疑問について向き合うことにした。
(先輩が俺にここまで付き合ってくれる理由ってなんだろうか……?)
(俺は別になにかお金があるわけでもないし、顔が特別良いわけでもないのに……)
(先輩に直接聞いてみようか…いやそれは少し気持ち悪いか……?)
なんてくだらないことを考えているうちに夜になってしまった。
俺は急いで夕食を済ませ、風呂に入り、
湯船に浸かりながらまたあのことを考えていた。
(そもそも入学式のあの日から、距離が近かったような……)
(L◯NEで……いや明日、直接聞いてみるか)
そう決心し、歯磨きを済ませ眠ることにした…。
ただ結局また考えてしまい、寝不足のまま学校へ行くことになってしまったが、そんなことは些細な問題だった。
なぜなら先輩の顔を見たら、緊張のあまり言葉が出なくなってしまったからだ。
お昼ご飯を食べている時に言おうとしていたのに結局言えなかった。
昨日の決心はなんだったのだろうかと落ち込みつつ放課後まで時間が過ぎていった…。
(また今日もモヤモヤしながら帰ることになるのか……)
そう思った時であった。
ポンッという感触を背中で感じ、振り向くとそこには先輩が少し笑いながら立っていた。
『やあ、少し驚かせてしまったね』
「せ…先輩、驚かせないでくださいよ……」
『ごめんごめん、君と少し話をしたくてね』
そう言うと、先輩が俺の顔を見つめてきた、相変わらず綺麗な顔だ。なんてことを思っていたら──
『君は僕に何か聞きたいことがあるんじゃないかな?』
と言ってきたので自分の考えを覗かれたようで、また驚いてしまった。
「な…なんで分かったんですか」
『ふふっ、当たりかな?お昼の時から少し気になっていたんだ』
『聞きたいことがあるなら言ってくれて構わないよ』
そう言われたので思っていたことを全て言った。
なんで俺に構ってくれるのか、そもそもなんで俺に入学式の日に話しかけてくれたのか、気になっていたこと全てを。
それを聞いた先輩は驚いて少し目を丸くした後こう言った。
『ふふっ、君がそんなことを気にしているとは思わなかったよ』
『友達ってそういうものじゃないのかな、特に理由はないけど一緒にいたくなる』
『でもあえて言うなら君といたいからかな』
先輩が俺のことを友達だと思ってくれていた、その事実だけでずっと一人だった俺は嬉しかった。
「ほっ…よかったです、実は何が裏があるのかとずっと思ってて……」
『君は僕のことをなんだと思っていたのかな?』
「い…いやそれは……」
『ふふっ、別に気にしてないよ』
「よ…よかったです」
そんなことを話した後、お互いを見つめながら少し笑った後に気づいた。
「あれ? 構ってくれる理由は分かりましたけど、あの日話しかけてくれた理由はなんだったんですか?」
『おや? 聞かれないからもう忘れていたと思っていたよ』
『ふむ…改めて考えるとどう答えればいいか難しいね』
先輩がなんで話しかけてくれたのかようやく分かる……!そう思うと胸がドキドキしてくる。
心の中でもしかしたら俺がカッコよすぎて声をかけたのか?
実は先輩は俺に一目惚れしたんじゃないのか?なんて気持ち悪い妄想をしているとついに先輩が口を開いた。
『なんとなくかな』
それを聞いた俺はズッコケてしまった。
勝手に俺は先輩はもっと何か、深い理由があるんだろうと思いすぎていたのかもしれない。
『確かに話しかけたこと自体に深い理由はないけれど……』
『今は、あの時君に話しかけて良かったと思ってるよ』
『君と出会えて良かったよ』
その言葉を聞いてまた俺は、嬉しくなった。
先輩も俺といて楽しいと思ってくれていて…出会えて良かったと思ってくれていて。
そして俺も出会えて良かったですと言おうとした時だった。
『ところで……』
『君はいつ僕のことをマオと呼んでくれるのかな』
「えっ」と思わず声が出てしまった。
『僕は入学式の日からずっとマオと呼ばれるのを待っているのだけど』
確かにあの日そんなことを言われたような気がする……。
だがいきなり名前を言うのが恥ずかしく、ずっと先輩と呼んでいた。
『僕は君の質問に答えたのだから、僕のにも答えてほしいな』
「名前を呼ぶのが少し恥ずかしくて……」
『じゃあ一回だけでいいから言ってみてほしいな』
確かに自分の悩みだけ解決してもらって相手には何もしないというのは情けない。
しかも先輩は一回だけでいいからと言ってくれている。
俺は決心し、名前で呼ぶことにした。
「ま……ま……」
先輩が微笑みながらこちらを見ている、俺の恥ずかしがる姿が好きなのだろうか?それとも名前で呼ばれることがそれほど嬉しいのだろうか。
だがなんにせよここまできたら言うしかない。
「ま……ま……ま……」
『ま? なにかな? あと少しだよ』
「ま……先輩」
言えなかった。
俺の決意というのはまったく意味がないことが分かった。
なんて情けない男なのだろう。
怒っていないだろうかと恐る恐る先輩の顔を見ると笑っていた。
笑いがおさまった後に先輩が喋った。
『君がそんなに恥ずかしがるとは思っていなかったよ』
「すみません……」
『でもこれ以上無理に言わせるのも可哀想だしね』
『いつ呼んでくれるのか楽しみに待つことにするよ』
『じゃあ今日はそろそろ帰ろうかな』
先輩はそう言うと学校の外へと歩き始めた。
自分もそろそろ帰るかと思い歩いていると、先輩が引き返してきた。
『大事なことを言い忘れていたよ』
『また明日ね、枕木くん』
「また明日会いましょう、先輩」
そして先輩は俺に手を振りながら帰っていった。
俺も帰路につきながら昨日のように考えていた、ただし昨日と違うのは今回はポジティブなことだ。
(先輩も俺といて楽しいと思っていて良かった)
(先輩が声をかけてくれた理由も分かったし……)
(そういえば先輩は名前で呼んで欲しがっていたな……)
(次こそは……ちゃんと「マオ先輩」って呼ぼう)
そう決心したのであった。
2話まとめるのと3話まとめるのと、どちらがいいですか?
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2話分がいい
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3話分がいい
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そもそも分けずに1話分でいい