第14話 「夏休み開幕!&本当に男?&映画」
「夏休み開幕!」
「えー、ではこれで一学期が終わりです。あまりはしゃぎすぎないようにして、充実した夏休みを過ごしてください」
俺は先生のその言葉を聞いた瞬間、
体の奥からなにかが湧き上がってくるのを感じた。
(ついに……ついに夏休みだあっ)
ついに一学期が終わったという達成感と、
夏休みがやってくるという事実で、
テンションが上がって、叫びたくなってしまう。
一応、まだ教室なので叫びたい衝動をグッと堪えたが、
代わりに、俺の頭の中で、
ガラスが割れるような大声で叫んでおいた。
とにかく、夏休みのことを考えただけで胸が弾んでくる。
先輩と海へ行ったり、山へ行ったり、
バーベキューや、夏祭りなんかして……。
まだなにも先輩との予定が決まっていないのに、
先輩との夏休みイベントの映像が、
俺の頭の中に大量に湧き出てくる。
俺はまず、この初日から先輩をなにかに誘って、
夏休みのスタートダッシュを決めようと思った。
そして、俺は校門へ向かって、
先輩を待った。
そして、少し待っていると、先輩がやってきた。
『おや、珍しいね。僕より早く君がいるなんて』
「へへへ、夏休みですから。それより先輩、このあと予定ありますか? ないなら俺と……」
『ごめんね、今日は予定があるんだ』
「……えっ?」
それを聞いた瞬間、俺は全身から力が抜けて倒れた。
スタートダッシュを決めるはずが、
スタート地点で足を捻ってしまった気分だ。
「そ、そんな……」
『ごめんね、枕木君』
先輩は、倒れた俺の手を取って、立たせてくれた。
『大丈夫かな?』
「だ、大丈夫です。ちょっとショックを受けただけですよ。い、いいんです、急に誘った俺が悪いんですから……」
『……ごめんね。また今度、遊ぼう、枕木君』
そして、先輩は俺の頭を撫でて慰めてくれたあと、
帰ってしまった。
先輩に慰めてもらったが、もうダメだ。
スタートが悪ければ全て終わりなのだ。
この夏休みはもう最悪になってしまった。
そもそも予定ってなんだろうか?
もしかしたら単純に俺のことが嫌いで、
予定はないけど嘘をつかれたんじゃ……。
そんな邪推をして、校門近くでうなだれていると、
竜崎がやってきた。
そういえば、校門で竜崎に会うのは初めてだ。
竜崎はクラス委員の仕事でいつも帰りが少し遅いからだろう。
「あら、まだ帰ってなかったのね」
「なんだよお、俺は今落ち込んでるんだよ……」
「そう、話して落ち着くなら聞いてあげるわ」
そう言われたので、俺は竜崎にさっきまでのことを話した。
「……急に誘ったらそうなるのは当然では?」
「ぐっ……」
俺は竜崎に正論で殴られてしまった。
「話してみて」みたいなことを言ってきたくせに、
こんなことをしてくるなんて、
こいつはカウンセラーには向いていないタイプだろう。
「そもそも、最初につまずいただけで夏休み全体がダメにはならないですわ」
その言葉で、俺はハッとした。
確かにそうだ。一つくらいつまずいたからなんだというのだろうか。
「そうだな……元気出たよ。ありがとな、竜崎」
「いえ、これくらい大したことではありませんわ」
すると、竜崎がこちらを見つめてきた。
(こいつ、あんなことで落ち込むくせに、少し言っただけで立ち直るなんて……浮き沈みが激しいですわね)
「ん? どうしたんだ、俺の顔になんか付いてるのか?」
「いえ、なんでもありません。私もそろそろ失礼いたしますわ」
そして、竜崎も帰っていった。
──確かに、あんなことで落ち込む必要はない。
だって、まだ夏休みは始まったばかりなのだから──。
後日──。
俺は三人のグループにメッセージを送ってみた。
【まくらぎ】 「今日、遊びませんか?」
【先輩】 『ごめんね、僕は行けないや』
【竜崎】 「私もですわ」
誰とも予定が合わなかった……。
俺は、また落ち込んでしまった──。
「本当に男?」
俺は夏休みのお昼、誰とも予定が合わず、
仕方なく宿題を進めていた。
だが、あまり集中できない。
そもそも俺はあまり集中力がある方ではないし、
宿題も嫌々やっているせいだろう。
先輩と遊びたいという気持ちが、
俺の中でどんどん高まっていく。
なので、俺はその気持ちを抑えるために、
先輩のことを考えながら宿題をすることにした。
(先輩は綺麗で……そして可愛い。それでいて不思議な感じだったり、嘘を平気でついたりする。でもそれも可愛くて、あと実は男で……ん? 男?)
そうだ、先輩は男だった。
最近、そのことを忘れてしまっていた。
まあ、俺は男でも先輩は綺麗で可愛いからいいのだが……。
だが、ここで俺は余計なことを考えてしまう。
「実は男じゃないんじゃないか?」と。
本当は女の子だけど、
俺をからかうために男のふりをしているのではないかと。
そんなことを考えてしまい、
勉強に集中できなくなってしまった。
このままでは思考を先輩に支配されてしまう。
それはまずい。
なので、俺は疑念を取り除くために、
先輩に電話をかけてみることにした。
……が、先輩が電話に出ることはなかった。
──よく考えれば、予定が合わないから遊んでいないわけで、
そんな時に電話をしても、
予定があるかもしれないし、出なくてもおかしくない。
だが、その日はもう勉強に取り掛かることはなかった。
先輩のことだけが頭の中にあり、
まったく内容が入ってこなくなったからだ。
そんなことがあり、
寝る前に「今度会った時に本当に男なのか聞いてみようかな?」
なんてことを考えながら、布団へ入ろうとすると、
先輩から電話がかかってきた。
『ごめんね、こんな夜に。君がお昼に電話をかけてきたから、なにかあったのかと思ってね』
「先輩……そうなんです。先輩のせいで宿題が進まなかったんです」
『ええ〜』
そのあと、俺は先輩に思っていたことを話した。
先輩が実は女の子で、俺を騙しているんじゃないのかということ。
それと、宿題が進まなかったことを、全て。
『……相変わらず、君はよく分からないところで引っかかるんだね』
「す、すいません」
『そもそも、一緒にプールへ行ったりしたのに、どうして疑うのか分からないのだけれど』
「でも……」
『まあ、君がよく分からないことを考えたり、他責する癖があるのは知っているからいいさ』
どうやら、先輩に俺は他責癖があると思われていたらしい。
だが、当たっているので言い返せなかった。
『そうだ、明日、君の家へ行ってもいいかな?』
「え? いいですけど……」
『ふふ、そしたら明日、僕が男だって教えてあげるよ』
そう言うと、先輩は電話を切った。
男だと教えるって、いったいなんなのだろうか。
……想像しても、いやらしいことしか思いつかない。
その日、俺は変な気持ちになって、
ほぼ眠れなかった──。
次の日──。
『やあ、枕木君』
先輩が俺の家にやってきた。
相変わらず、綺麗だ。
スカートを穿いていて、
それもまた素晴らしい。
だが、どうやって男だと教えてくれるのだろうか?
それを考えるだけで、ドキドキして、
頭が沸騰してしまいそうだ。
そして、俺は先輩を部屋へ案内した。
『はあ、枕木君の部屋はなぜだか落ち着くよ。なんでだろうね』
「そ、それより先輩。どう男だって教えてくれるんですか……」
『ふふ、そうだったね。じゃあ教えてあげるよ』
すると、先輩は自分の上の服をまくり上げようとした。
「ちょっ、ちょちょちょ、教えるってそういう感じのやつですか!? わ…分かりました。でもそれなら、先にシャワーを……」
『違うよ』
その言葉で、俺は戸惑った。
ここまできて、それ以外があるのだろうか?
『枕木君はスケベだね』
「お、俺はスケベじゃ……」
俺がスケベに対して反論しようとすると、
先輩は少しだけ服をまくり上げて、お腹を見せてきた。
『ほら、これが男だって証拠だよ』
「はい?」
先輩のお腹は細いが、ガリガリではなく、
健康的で柔らかそうな、触りたくなるようなお腹だった。
綺麗なへそも見えて、俺の情欲を煽ってきているような、
見ているだけで、興奮してしまうものだった。
しかし、これがどう男の証拠になるのだろうか?
「せ、先輩これのどこが男の証拠なんですか……?」
『くびれの位置さ』
「はい?」
先輩の話によると、性別によってくびれの位置が違うらしく、
男性はくびれがへそと同じ位置。
女性はくびれがへそより上にあるらしい。
そして、先輩はくびれがへそと大体同じ位置にあった。
『どうかな?これで僕が男だと分かってくれたかな?』
確かにその話を信じるなら先輩は男ということになるが、
俺は信じられない。
あと、俺はもっといやらしいことになるかと思って期待していたが、
そんなことはなかったことによる落胆もあって、
余計に信じられない。
もう少し粘れば、いやらしいことが起きるかもしれないので、
俺は粘ることにした。
「そ、そもそも、それって個人差がありますよね? だから、先輩はたまたまくびれがへそと同じ位置の女の子なんじゃないですか!?」
『……確かにそうだね。これは僕が悪かったよ』
やった、俺は先輩に勝った。
『というか、君はどうしてそんなに僕が男かどうか気になるのかな?』
「だって……出会った時に男って言われたのに女の子だったらガッカリするっていうか……」
『ふうん、そっか……じゃあ、僕も最終手段に出るしかないね』
すると、先輩は俺の腕を掴んで、自分のスカートに近づけた。
「な、なにするんですか」
『君が信じてくれないからね』
そして、先輩は俺の腕を先輩のスカートの中に入れた。
これは俺が望んでいた、いやらしい展開になった……だが、
俺は驚いて、先輩の手を払ってしまった。
『おや?僕は恥ずかしいけど頑張って男だと証明しようとしたのだけれど』
「い、いやいいです。も、もう男だって分かりましたから」
『ふうん、そっか、残念だね。君がスケベなことを考えてたから望み通りにしてあげたのに』
どうやら、俺の邪な考えは全て見通されていたらしい。
『まあ、とりあえず僕が男だと信じてくれたということでいいかな?』
「……まあ、はい」
『ふふ、よかった。なら、僕は帰るよ』
そして、俺は先輩を玄関まで見送り、先輩は帰っていった。
夏休みに、先輩と会えてよかった。
だが、よく考えたら男かどうか分かっていない。
もしかしたら、スカートに手を入れさせたのも、
俺が途中で止めるのを読んでいたのかもしれない。
その日の夜、俺はあのままスカートに手を入れておけば良かったと後悔した。
後日──。
先輩が普通に身分証明書の性別の部分だけを写真で送ってくれた。
そこには男と書いてある。
……よく考えたら、最初からこうしてもらえばよかったのかもしれない──。
「映画」
俺は今、喜びに震えている。
なぜなら……。
【先輩】 『明日、みんなで映画を見に行かないかい?』
……と先輩からメールが届いたからだ。
ついに、夏休みに先輩と遊べるなんて嬉しすぎる。
俺はテンションが最高潮に達し、部屋で飛び跳ねた。
そして俺が息が切れるほど飛び跳ねたあと、
先輩のメールに返信しようとすると、
さらにメールが届いた。
明日の集合時間だろうか?
なんだろうと思い、俺はそのメールを見た。
【竜崎】 「いいですね、私も行きますわ」
それを見た瞬間、俺の最高潮だったテンションが、
いつも通りまでに落ち着いた。
そうだ、てっきり二人きりだと思っていたが、
竜崎もいるんだった。
だが、この誘いに乗らない理由はない。
俺は少しガッカリしながら、
メールに返信し、
三人で三日後、映画に行くことになった。
そして、ワクワクしたり、竜崎がいることにガッカリしたり、
暇だから勉強したりしていると、あっという間に、
約束の日になった。
俺が朝、待ち合わせ場所のショッピングモールに行くと、
すでに二人が待っていた。
『やあ、枕木君』
「すいません、待たせちゃいましたか?」
「いえ、私達もさっき来たところですわ」
「ならよかったです」
少し話したあと、俺たちは映画館へ移動した。
映画館は夏休みのせいか、人がとても多い。
ポップコーンなどを買おうと思っていたが、
これでは買えなさそうだ。
「すごい混雑してますね、先輩」
『そうだね、早くチケットを取ろうか』
そして、先輩は三人分のチケットを発行した。
どうやら、事前に予約してくれていたらしい。
『はい、これが枕木君ので、こっちがりゅりゅのだよ』
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます先輩。っていうか、予約してたんですね」
『ふふっ、だってきっと混むだろうと思ってから。それに、予約なら三人横並びで座れる可能性も高いしね』
そのまま、俺たち三人は上映時間まで楽しく話したあと、
スクリーンへ入った。
俺たちの席は、端っこのちょうど三個だけ席がある場所で、
通路側に竜崎、真ん中が先輩で、壁側に俺が座った。
しかし、なんだかんだで三人で映画を見るのは楽しみだ。
最初は先輩と二人きりじゃなくて残念だったが、
三人で映画を見るのも、
俺が求めていた青春の一つなのかもしれない──。
『楽しみだね』
「私も楽しみです」
「お、俺も楽しみです」
『ふふ、そうだね。おっと、もう予告が始まるみたいだね』
そう言うと、先輩は口に人差し指を当てた。
静かにということだろうか。
今のポーズの先輩は可愛い。
そして、本編が始まる前の、予告編が始まり、
様々な映画の予告が流れている。
普段触れないような、さまざまなジャンルの映画が見られるこの時間は、
結構好きだ。
そんな予告の時間も終わり、
今度は映画の盗撮に対する注意喚起や、
映画鑑賞のマナームービーを流す時間になった。
……映画館以外の飲食物持ち込み禁止の部分を見ていると、
口が寂しくなって来てしまった。
混んでいなければポップコーンとコーラを買ったというのに。
そして、マナームービーが終わり、
スクリーン内から、映像の音が消えると、
ポップコーンの音や、コーラを飲む音が聞こえてくる。
俺は買えなかったというのに、なんて羨ましい。
いや、妬ましい。
だが、そんなことはもうどうだっていい、
なぜなら、もう本編が始まるから──。
……そういえば、俺は今日なんの映画を見るか覚えていない、
先輩が『二人はなにか見たい映画とかがあるかい?』
と言っていた気がするが、俺はなんでもいいと言った気がする。
先輩と映画に行けるのが嬉しくて、それ以外はあまり考えていなかったのだ。
最終的に竜崎と先輩が話して決めて、
その時も、先輩と竜崎に「本当にこの映画でもいい?」と、
聞かれた気がするが、嬉しさのあまり、なにも考えずにてきとーに返事をした気がする。
チケットに印刷されている文字を見ようにも、暗くて見えない。
まあ少なくとも、俺が嫌な映画ではなかったはずだ……多分。
そんな気持ちを抱えながら、俺は映画を見た──。
──なんだこの映画は?なんてつまらないんだろう。
全ての展開が急だし、登場人物が考えていることもよく分からない。
しかも、飛び抜けてつまらない訳ではなく、
そのせいで、つまらなすぎて逆に面白くなってくるようなこともない。
この映画はとても苦痛だ。
正直、先輩たちと来ていなかったら、途中で帰りたいレベルだ。
どうして、先輩と竜崎はこんな映画を選んだんだ……。
そして、俺は二時間近く耐えきり、
ようやく映画が終わった。
とても……とても長い二時間だった。
映画館から出たあと、
俺たちは映画について話し始めた。
つまらなかったが、なんて言えばいいのだろうか。
『どうだったかな?』
「え、あ、まあよかったんじゃないですか」
俺は当たり障りのないことを言った。
すると、先輩がこちらの顔を見てきた。
まずい、内心つまらないと思っていることがバレてしまう。
「い、いや違うんですよ、これは……」
『ふふっ、隠さなくてもいいよ。あんまり面白くなかっただろう?』
「えっ」
俺は先輩の一言に戸惑った。
『あえて、評価が低い映画に行ったからね』
「えっ」
「私と先輩はあまりにもこの映画の評価が低く、それが気になったので、この映画を選んだんですわ」
「はあ」
『てっきり、枕木君が別の映画がいいと言ったら変えるつもりだったけど、君も見たかったと聞いた時は驚いたよ』
そうだったのか。
俺がなにも考えずに返事をしてしまったせいで、
あんな映画を見させられることになってしまったらしい。
『……もしかして、枕木君は適当に返信してたのかな?』
先輩がこちらを見てきている。
俺は急いで先輩から顔を隠した。
「い、いやそんなことは」
『ふふ、まあいいや。お腹も空いたし、フードコートへ行こうよ』
確かにポップコーンもなにも食べれなかったから、
俺もお腹が空いてきた。
「それ、いいですね」
「私も賛成ですわ」
『ふふ、なら行こうか』
そして、俺たちはフードコートへ行き、
料理を待っている間、映画について話した。
……映画はつまらなかったが、
こうして話している時間は楽しい。
これもまた、俺が求めていた青春なのかも──?