真央先輩はおとこ♂の娘    作:ろあタルト大福

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第16話 「海」

 俺は今、海にいる。

それはなぜか……。

 

昨日──。

 

 俺はグループチャットで、

先輩と竜崎と、夏休みにやりたいことについて話していた。

 

【竜崎】 「私は夏祭りに行きたいです」

 

【先輩】 『僕は山奥のコテージに行きたいな』

 

【まくらぎ】 「俺は海がいいです」

 

【先輩】 『それもいいね、僕も行きたいよ』

 

【竜崎】 「海なら行けますわ」

 

【まくらぎ】 「え?」

 

 竜崎の話を聞くと、

竜崎の家は海沿いに別荘のようなものを持っているらしく、

そこの海へ行くのはどうか、という話だった。

 

【竜崎】 「そこなら、人も来ませんわ」

 

【先輩】 『それはいいね』

 

 そのあと、いつ行くか話し合うと、

奇跡的に三人の予定が合ったので、

明日、竜崎の家へ集合し、そこから車に乗って行くことになった。

 

 ……先輩と海に行けると思うとワクワクしてしまう。 

先輩の水着も楽しみだ。

前に買った水着を、今度こそ着てくれるだろうか。

 

 そんなことを思いながら、その日は眠った……。

 

次の日──。

 

 俺は竜崎の家へ向かい、家の門に着いた。

しかし、何度見てもデカくて立派な家だな、なんてことを思っていると、

竜崎がやってきた。

 

「あ、竜崎」

「来たわね、先輩はもう来ているから、もうすぐ出発よ」

 

 俺は約束の5分前辺りで到着したが、

先輩はもう来ているなんて、

なんて早いんだ。

 

 そして、そのまま俺は竜崎に車まで案内された。

これは……リムジンだろうか。

車体が長く、見た目も高級そうな感じだ。

 

 中へ入ると、

内装は片側に長いシート、もう片側はテーブルで、

運転席との間にしきりがあった。

 

 そしてよく見ると、先輩がすでに座っていた。

 

『やあ』

「あ、どうも先輩」

『このシートはいいね、ふかふかだよ。枕木君も早く座ってみて』

 

 そう言われ、俺も座ってみると、

確かにふわふわで気持ちがいい。

こんないいものに乗れるのは、俺の人生で今日が最初で最後だろう。

 

 そして、竜崎も座って、

俺たちは海へと向かい始めた──。

 

『海が楽しみだね』

「先輩に似合う、とても綺麗な海ですわ」

『ふふ、ますます楽しみだよ』

 

 ……竜崎と先輩が楽しそうに会話している。

俺だって先輩と会話したいのに……。

思い返せば、いつもこんな感じな気がする。

 

 竜崎は話すのが上手いし、

実際、クラスでも人気者だ。

それに比べて俺は、

ただの陰キャ野郎だ。

 

 こんなのと話しても面白いはずがない。

……まだ出発したばかりだというのに、

気分が落ちてきてしまった。

 

 すると、先輩がこちらを見てきた。

 

『君はすぐ落ち込んでしまうね』

「いや……そんなことは」

『君と話すのも楽しいよ、だから元気を出して』

「そうですわ」

「先輩……あと竜崎……ううっ」

 

 俺は嬉しくなって、

俺もいっぱい、いっぱい話した。

心なしか、二人とも愛想笑いのような表情をしていたが、

きっと気のせいだろう。

 

 そんなことを考えていると、

車が止まった。

どうやら、目的地に着いたらしい。

 

 俺たちは運転手の人にお礼を言い、

そのあと、海沿いの別荘へ入った。

……この別荘も、

とても綺麗で、とても高そうだ。

 

 内装は新しく、

竜崎の家は、歴史のありそうな感じだったが、

この別荘はモダンな感じだ。

 

『綺麗だね』

「ふふふ……」

 

 竜崎が嬉しそうな顔をしている。

先輩に褒められたのが嬉しかったのだろうか。

 

「では、こちらへ来てください。もっと綺麗なものが見えますよ」

 

 そう言われ、俺と先輩が竜崎に着いていくと、

そこは壁一面が窓で、海が見える部屋に着いた。

その海は、とても澄んでいた。

 

「この海こそ、今日の目的ですわ」

『お〜、見てるだけで感動してしまうよ』

「ですね、先輩」

「では、更衣室に案内するので、そこで着替えて海へ行きますわ」

 

 そのあと、俺は竜崎に案内され、更衣室に入った。

……ついに先輩の水着が見える。

正直、俺は海に行きたいのではなく、先輩の水着が見たいのだ。

 

 そして、着替えが終わり、海へ行くと、

竜崎がすでにいた。

 

「あれ、先輩は?」

「まだですわ」

「そっか」

 

 ……気まずい。

やはり先輩以外と二人きりだと、

俺はなにも話せない。

 

 そんなことを思っていると、

先輩がやってきた。

 

『やあ、少し遅くなってしまってごめんね』

「いや、全然気にして……」

 

 先輩をよく見ると、

それは俺が前に、先輩と一緒に買ったものだった。

肩とおへそが出ていて、パレオがついている。

何度見ても素晴らしい水着だ。

 

「その水着、とても可愛らしいですわっ」

 

 竜崎のテンションが上がっている。

まあ、それも当然だろう、

この水着は俺が先輩に似合うと思って選んだものなのだから。

 

『ふふ、これは枕木君が選んでくれたものだからね』

「え……」

 

 さっきまで高かった竜崎のテンションが、

一瞬で下がり、砂浜に手をついて倒れた。

そして、目を大きく開いて、俺を見てきた。

 

「はは、悪いな竜崎」

「そ、そんな、あいつとも水着を選んでいたなんて……」

「え?」

『枕木君だけと行くのも可哀想だからね、実はりゅりゅとも後で行っていたのさ』

「なんですかそれ!? 先輩の浮気者っ」

『まだ付き合っていないよ』

 

 それを聞いた俺は、竜崎と同じく、

砂浜に手をついて倒れた──。

 

 ──いろいろあったが、

俺たちは海で遊び始めた。

 

 ……俺が海へ入って最初に思ったことは、

とても気持ちがいいということだ。 

海水は少し温いが、真夏の温まった体を冷やしてくれる。

 

 そのあとも、俺は波打ち際で、波に当たったりして楽しんだ。

そういえば、二人はなにをしているのだろうか、

不思議に思った俺が周りを見回すと、

竜崎は浮き輪を膨らませていて、

先輩はデカい砂の城を作っていた。

 

「へー、竜崎って浮き輪使うんだな」 

「ん? 私は普段浮き輪は使いませんわ。これは複数人用の浮き輪ですわ」

 

 そう言ったあと、竜崎は大きく息を吸い込み、

一気に浮き輪を膨らませた。

 

 膨らんだ浮き輪は、三人乗っても余裕があるほどの、

大きなラウンジ型の浮き輪になった。

こんな大きさを一気に膨らませるなんて、

竜崎の肺活量はどうなっているのだろうか。

 

「これなら、先輩も一緒に三人で乗れますわ」

『お、いいね。それなら僕も乗ろうかな』

 

 さっきまで砂の城を作っていた先輩も、

この浮き輪には乗りたいようだ。

 

 そして、俺たちは三人で浮き輪に乗った。

浮き輪で海に浮かぶなんて、小学生以来だ。

海の綺麗さも相まって、リゾートに来たみたいで楽しい。

先輩も楽しそうな顔になっている。

 

『は〜、海に浮かぶのは初めてだよ。とても楽しいね』

「え、先輩って浮き輪とか使ったことないんですか?」

 

 俺が先輩にそう聞くと、

どうやら、体力がないから海自体が怖く、あまり入ったことがないらしい。

確かに、先輩が海に入ったら流されてしまいそうだ。

砂のお城を作っていたのも、海に入らなくてもできることだかららしい。

 

『でもその分、ずっと砂のお城を作ってるから、僕の砂の城は凄いよ』

 

 そう言った先輩の顔は、

とても自信に満ち溢れた表情だった。

……ドヤ顔の先輩は可愛い。

 

「それは完成品が楽しみですね」

「私も見たいですわ」

『ふふ、一通り浮き輪を楽しんだら、また作るさ』

 

 そして、しばらく浮き輪で過ごしたあと、

俺たちは砂浜へ戻った。

 

「はー、久しぶりに浮き輪乗ったけど楽しかったなあ」

『僕も楽しかったよ』

「なら、よかったですわ」

 

 ……俺は今、この夏で一番楽しい。

おそらく、俺以上にこの夏を楽しんでいる人間はいないだろう。

ただ、ずっと外で遊んでいたら喉が渇いてしまった。

 

「俺、喉乾いたから飲み物取ってきます」

「それなら、私が取ってきますわ。たしかクーラーボックスがあるはずです」

「いや、取りに行かせるなんて悪いから俺が……」

「いえ、海に誘ったのは私です。誘った側として、これくらいは当然です」

 

 そう言うと、竜崎は飲み物を家に取りに行った。

俺が「取りに行かせてしまった」という思いで、複雑な気分になっていると、

先輩が『そんなに気にしなくても大丈夫だよ』と、

言ってくれたので、俺はそのことについて考えないことにした。

 

「先輩、ありがとうございます」

『君が気にしすぎなだけさ、それより僕のお城がそろそろ完成するから見てほしいな』

 

 そして、先輩は俺の腕を持って、

俺を砂の城の近くまで引っ張った。

 

『じゃーん、これが僕の自信作さ』

 

 ……これは凄い。

先輩が作った城は、さっきまで三人で乗っていた浮き輪と同じくらい、

いや、それ以上の大きさだ。

 

 しかも、細かい装飾もよくできていて、

まるで本物の城を、ここに持ってきたかのようだ。

 

『どうかな?』

「凄いですよ先輩! これどうやって作ったんですか」

『ふふ、それはね……』

 

 そのあと、先輩はコツなんかを話し始めた。

砂には適切な水加減がある、みたいなことを言っていた気がするが、

俺はそれより、先輩の表情に釘付けになってしまった。

 

 普段は見せないような、自信がたっぷりで、

まるでオタクが早口で喋っている時のような、

そんな先輩の表情が、とても可愛かったからだ。

 

『おっと、喋りすぎてしまったよ』

「いやいや、大丈夫ですよ」

 

 すると、先輩が俺の顔を見てくる。

 

『……どうやら話より、僕の顔に夢中になっていたみたいだね』

「い、いやそんなことは」

『……まあいいさ、それより僕は最後の仕上げに取り掛かるよ』

 

 ──そう言って、先輩が作業に取り掛かろうとした。

その時だった。

高めの波が来て、俺の腰あたりまで水に浸かった。

 

 幸い、俺も先輩も流されることはなかったが、

砂の城は波によって見るも無残な姿になってしまった。

 

「ああっ、砂の城があ」

『あらら、まあしょうがないね』

 

 先輩は、意外とダメージを受けていなさそうだ。

もっと落ち込みそうなものだが、

自信満々から、いつものアンニュイな表情に戻っただけだ。

 

「……あんなに頑張って作ってたのに、意外と平気なんですね」

『波が来るような場所で作った僕が悪いしね』

 

 なぜか、俺の方がダメージを受けている気がする。

俺はなにも作っていないというのに……。

 

「まあでも、先輩が流されなくてよかった……」

 

 俺はその時、先輩の異変に気づいた。

先輩のパレオがないのだ。

これはまずい。

今の先輩はパレオがないせいで、ほぼ普通のビキニだ。

俺は、先輩の下半身をあまり見ないようにした。

 

「ちょ、ちょっと隠してください先輩」

『なにを……ああ、パレオのことだね。どうやら、さっき流されてしまったみたいだ』

 

 先輩はなぜか冷静だ。

 

「い、いやもっと恥ずかしがったりしないんですか!? ほぼ下着状態ですよ」

『下着じゃなくて水着だよ、枕木君』

「それは分かってますけど……というか恥ずかしくないんですか」

『海だからね』

 

 俺には、先輩が恥ずかしがる時と、恥ずかしがらない時の違いが分からない。

 

「まあいいや、それよりパレオは……」

 

 俺が海の方を見ると、ぷかぷかとパレオが浮いていた。

……ギリギリ取りに行けそうな距離だ。

 

「俺、取りに行ってきます」

『……危ないからやめておいたほうがいいと思うよ。僕は今の状態でも大丈夫さ』

「でも……あっ」

 

 俺は天才的なことを思いついた。

海に入るのが危ないなら、入らなければいいのだ。

俺は近くに生えていた植物で網を作り、

パレオに向かって投げた。

 

 そして……。

 

「取れましたよ、先輩」

『……ありがとう、枕木君。君は凄いね』

 

 俺は見事、パレオを海から取り返し、

先輩の下半身を守ることができた。

 

 すると、先輩が俺を抱きしめてきた。

 

「え、あ」

『お礼だよ、枕木君』

 

 ……とても気持ちいい。

水着でお互い肌の露出が多いせいか、

いつもより肌の感触を感じる。

 

「……ありがとうございます先輩」

 

 俺がそう言い、

俺も先輩を抱きしめようとすると、

飲み物を取って帰ってきた竜崎が、

俺をじっと見つめてきた。

 

 その視線は、嫉妬などの負の感情が詰まっているような、

恐ろしいものだった。

俺は、怖くなったので、

抱きしめるのをやめて、先輩を俺から離した。

 

『ん? もう終わりなのかい』

「ははは、竜崎が帰ってきたし、喉が渇いたなって……はは」

 

 俺は抱きしめられなかったことを残念に思いながら、

飲み物を飲んだ。

海のせいだろうか、しょっぱい味がする──。

 

「そういえば先輩。砂のお城はどうなったのでしょう? 私、見たいですわ」

『ああ、それはね……』

 

 先輩が竜崎に、さっきまでのことを話すと、

竜崎は膝から崩れ落ちた。

竜崎には悪いが、あの城は俺と先輩だけの思い出になったのだ──。

 

 ──そのあとも、俺たちは日が沈むまで沢山遊んだ。

先輩が倒れないか心配だったが、

体力をセーブしていたのか平気そうだ。

 

「もう夕方か」

「あら、それならそろそろ夜ご飯にしましょう」

 

 俺は竜崎のその言葉にときめいた。

なんとなく、高そうなご飯をご馳走してくれそうだからだ。

 

「ち、ちなみになんの予定なんだ……?」

 

 俺は期待で震えた声で、竜崎に聞いた。

俺の希望は、三つ星シェフの料理だ。

 

「焼きそばですわ」

「えっ」

 

 俺は思わず声が出てしまった。

焼きそばは嫌いではないが、

竜崎なら「この時のために、三つ星シェフを呼んでおきましたわ」と、

言ってきて、高い料理をご馳走してくれると思っていたせいだろう。

 

 ……いや、まだ三つ星シェフが作る焼きそばの可能性が……。

 

「それも自分たちで作りますわ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、顔に落胆が出そうになったが、

なんとか耐えた。

 

『焼きそばを作るなんて、いいアイデアだね』

「でしょう? 先輩。では、シャワーを浴びて着替えてからキッチンへ来てください』

 

 そして、竜崎は一足先に別荘へ戻って行った。

そして、俺は竜崎がいなくなったのを確認して、

落胆を顔に出した。

 

 すると先輩が、

こちらを見ながら『ふふ、枕木君は分かりやすいね。焼きそば、美味しいよ』と言ったあと、

先輩も別荘へ戻って行った。

 

 焼きそばが美味しいことなど、俺だって知っている。

ただ、竜崎ならもっとなんか凄そうなものを……。

そんなことを思いながら、俺も別荘に行ってシャワーを浴びた──。

 

 浴びたあと、キッチンへ向かうと、

すでに二人は焼きそばの準備をしていた。

 

『やあ』

「どうも、先輩」

『ねえ、これを見てみてよ』

 

 そう言うと、先輩はあるものに向かって指を差した。

 

「これは……」

 

 先輩の指先にあったものは、キッチンだった。

 

「普通のキッチンですよね?」

『違うよ、これこれ』

 

 先輩がもう一度指を差したので、よく見ると、

そこにあるのは、テレビなどでしか見ない高級なお店にあるような、

鉄板焼き用の鉄板だった。

 

「もしかして……」

「そう、これで作るんですわ」

 

 急に竜崎が出てきた。

 

「鉄板で作った焼きそばを食べれるなんて楽しみですわ」

 

 ……確かに鉄板で作る焼きそばは楽しみだ。

普段は、フライパンかホットプレートでしか作れないし……。

 

「それに、食材もこだわりのものを選びましたから、きっと美味しいですわ」

「えっ、こ、こだわりのものって……?」

 

 俺が竜崎に食材のことを聞くと、竜崎がいろいろと話してきた。

大量に話してきてよく分からなかったが、

高い食材を用意したということは分かった。

 

 ……流石竜崎だ。

俺のテンションが上がっていくのを感じる。

すると、先輩がこちらを見てきた。

 

『ふふ、枕木君は分かりやすいね〜』

「な、なにがですか」

『なんでもないさ』

 

 俺の浅ましさが先輩にバレてしまったが、

そんなことより、今は焼きそばだ。

 

俺たちは三人で役割分担を決めた。

俺が焼く係で、先輩が食材を切る係、竜崎がセッティングや盛り付けだ。

そして、先輩が食材を切り終わり、俺は焼きそばを焼き始めた。

 

 ……いい匂いだ。

匂いを嗅ぐだけで、お腹が減ってくる。

 

 そして、焼きそばを焼き終わり、

竜崎が紙の皿に焼きそばを盛り付けた。

すると、竜崎がテーブルとは違う場所に焼きそばを運んでいった。

 

「あれ? テーブルはこっちだぞ」

「ええ、知っています。ただ、今日はこちらの方がいいと思ったのです」

 

 竜崎がそう言うので気になり、ついていくと、

バルコニーに出た。

……ここは海が見えて、とても綺麗だ。

 

「もしかして」

「ええ、ここなら海を見ながら食べられますわ」

 

 確かに、海を見ながら食べる焼きそばは美味しそうだ。

そんなことを思っていると、先輩もやってきた。

 

『おお、ここはとても眺めがいいね』

「でしょう? 先輩。では、熱いうちにいただきましょう」

『ふふ、そうだね』

 

 そして、俺たちは「いただきます」をしたあと、

海を見ながら、焼きそばを食べ始めた。

……とても美味しい。

 

 今まで食べた焼きそばで、一番美味しい気がする。

もちろん、竜崎こだわりの材料のおかげもあるだろうが、

一番は、みんなで作ったからだろう。

 

 そのあと、俺たちはあっという間に焼きそばを食べ終わり、

片付けを済ませ、迎えにきたリムジンに乗った。

 

『楽しかったね』

「俺も楽しかったです」

「ふふ、ならよかったです。私も三人での、この夏最後の思い出を作れて楽しかったですわ」

 

 その言葉に、俺は驚いてしまった。

まだまだ夏休みは続くのに最後……?

 

「最後ってなんだよ竜崎」

「実は私……」

 

 話を聞くと、竜崎は夏休み中ずっと、両親と海外旅行に行くらしい。

竜崎の両親は忙しく、なかなか竜崎と会えないので、

久しぶりに取れた休みで、竜崎と一緒に過ごしたいとのことらしい。

 

『確かに、それはご両親を優先した方がいいね』

「ええ、なので夏休み中はこれでさようならです」

「そっか……」

 

 俺は、なぜか少し寂しくなった……。

夏休み中、三人で過ごすことが多かったせいだろうか。

そんなことを思っていると、俺の家に着いた。

 

 どうやら、もう外は暗くて危ないから、

家まで送ってくれたらしい。

 

 俺は車から降り、運転手の人にお礼を言った。

すると、竜崎が乗っている部分の窓ガラスが下りた。

 

「さようなら、今日は楽しかったですわ」

「……ああ、俺も楽しかったよ。また夏休み明けにな」

「では、また二学期に」

『ばいばい、枕木君。またね』

 

 そう言うと、車は走っていった。

おそらく、次は先輩の家に向かうんだろう。

 

 ……なんだか少し寂しい。

夏休みの間、竜崎とお別れだからだろう。

ずっと三人で過ごしていたし……あっ。

 

 俺はその瞬間、あることに気づいた。

 

(竜崎がいないってことは……俺、先輩と二人きりじゃん! やばっ、テンション上がってきた)

 

 さっきまでの寂しい気持ちは吹き飛んでしまった。

俺の夏休みは、先輩と二人きりのここからが本番だ──。

 

 

 

 

 

 

 

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