俺は今、海にいる。
それはなぜか……。
昨日──。
俺はグループチャットで、
先輩と竜崎と、夏休みにやりたいことについて話していた。
【竜崎】 「私は夏祭りに行きたいです」
【先輩】 『僕は山奥のコテージに行きたいな』
【まくらぎ】 「俺は海がいいです」
【先輩】 『それもいいね、僕も行きたいよ』
【竜崎】 「海なら行けますわ」
【まくらぎ】 「え?」
竜崎の話を聞くと、
竜崎の家は海沿いに別荘のようなものを持っているらしく、
そこの海へ行くのはどうか、という話だった。
【竜崎】 「そこなら、人も来ませんわ」
【先輩】 『それはいいね』
そのあと、いつ行くか話し合うと、
奇跡的に三人の予定が合ったので、
明日、竜崎の家へ集合し、そこから車に乗って行くことになった。
……先輩と海に行けると思うとワクワクしてしまう。
先輩の水着も楽しみだ。
前に買った水着を、今度こそ着てくれるだろうか。
そんなことを思いながら、その日は眠った……。
次の日──。
俺は竜崎の家へ向かい、家の門に着いた。
しかし、何度見てもデカくて立派な家だな、なんてことを思っていると、
竜崎がやってきた。
「あ、竜崎」
「来たわね、先輩はもう来ているから、もうすぐ出発よ」
俺は約束の5分前辺りで到着したが、
先輩はもう来ているなんて、
なんて早いんだ。
そして、そのまま俺は竜崎に車まで案内された。
これは……リムジンだろうか。
車体が長く、見た目も高級そうな感じだ。
中へ入ると、
内装は片側に長いシート、もう片側はテーブルで、
運転席との間にしきりがあった。
そしてよく見ると、先輩がすでに座っていた。
『やあ』
「あ、どうも先輩」
『このシートはいいね、ふかふかだよ。枕木君も早く座ってみて』
そう言われ、俺も座ってみると、
確かにふわふわで気持ちがいい。
こんないいものに乗れるのは、俺の人生で今日が最初で最後だろう。
そして、竜崎も座って、
俺たちは海へと向かい始めた──。
『海が楽しみだね』
「先輩に似合う、とても綺麗な海ですわ」
『ふふ、ますます楽しみだよ』
……竜崎と先輩が楽しそうに会話している。
俺だって先輩と会話したいのに……。
思い返せば、いつもこんな感じな気がする。
竜崎は話すのが上手いし、
実際、クラスでも人気者だ。
それに比べて俺は、
ただの陰キャ野郎だ。
こんなのと話しても面白いはずがない。
……まだ出発したばかりだというのに、
気分が落ちてきてしまった。
すると、先輩がこちらを見てきた。
『君はすぐ落ち込んでしまうね』
「いや……そんなことは」
『君と話すのも楽しいよ、だから元気を出して』
「そうですわ」
「先輩……あと竜崎……ううっ」
俺は嬉しくなって、
俺もいっぱい、いっぱい話した。
心なしか、二人とも愛想笑いのような表情をしていたが、
きっと気のせいだろう。
そんなことを考えていると、
車が止まった。
どうやら、目的地に着いたらしい。
俺たちは運転手の人にお礼を言い、
そのあと、海沿いの別荘へ入った。
……この別荘も、
とても綺麗で、とても高そうだ。
内装は新しく、
竜崎の家は、歴史のありそうな感じだったが、
この別荘はモダンな感じだ。
『綺麗だね』
「ふふふ……」
竜崎が嬉しそうな顔をしている。
先輩に褒められたのが嬉しかったのだろうか。
「では、こちらへ来てください。もっと綺麗なものが見えますよ」
そう言われ、俺と先輩が竜崎に着いていくと、
そこは壁一面が窓で、海が見える部屋に着いた。
その海は、とても澄んでいた。
「この海こそ、今日の目的ですわ」
『お〜、見てるだけで感動してしまうよ』
「ですね、先輩」
「では、更衣室に案内するので、そこで着替えて海へ行きますわ」
そのあと、俺は竜崎に案内され、更衣室に入った。
……ついに先輩の水着が見える。
正直、俺は海に行きたいのではなく、先輩の水着が見たいのだ。
そして、着替えが終わり、海へ行くと、
竜崎がすでにいた。
「あれ、先輩は?」
「まだですわ」
「そっか」
……気まずい。
やはり先輩以外と二人きりだと、
俺はなにも話せない。
そんなことを思っていると、
先輩がやってきた。
『やあ、少し遅くなってしまってごめんね』
「いや、全然気にして……」
先輩をよく見ると、
それは俺が前に、先輩と一緒に買ったものだった。
肩とおへそが出ていて、パレオがついている。
何度見ても素晴らしい水着だ。
「その水着、とても可愛らしいですわっ」
竜崎のテンションが上がっている。
まあ、それも当然だろう、
この水着は俺が先輩に似合うと思って選んだものなのだから。
『ふふ、これは枕木君が選んでくれたものだからね』
「え……」
さっきまで高かった竜崎のテンションが、
一瞬で下がり、砂浜に手をついて倒れた。
そして、目を大きく開いて、俺を見てきた。
「はは、悪いな竜崎」
「そ、そんな、あいつとも水着を選んでいたなんて……」
「え?」
『枕木君だけと行くのも可哀想だからね、実はりゅりゅとも後で行っていたのさ』
「なんですかそれ!? 先輩の浮気者っ」
『まだ付き合っていないよ』
それを聞いた俺は、竜崎と同じく、
砂浜に手をついて倒れた──。
──いろいろあったが、
俺たちは海で遊び始めた。
……俺が海へ入って最初に思ったことは、
とても気持ちがいいということだ。
海水は少し温いが、真夏の温まった体を冷やしてくれる。
そのあとも、俺は波打ち際で、波に当たったりして楽しんだ。
そういえば、二人はなにをしているのだろうか、
不思議に思った俺が周りを見回すと、
竜崎は浮き輪を膨らませていて、
先輩はデカい砂の城を作っていた。
「へー、竜崎って浮き輪使うんだな」
「ん? 私は普段浮き輪は使いませんわ。これは複数人用の浮き輪ですわ」
そう言ったあと、竜崎は大きく息を吸い込み、
一気に浮き輪を膨らませた。
膨らんだ浮き輪は、三人乗っても余裕があるほどの、
大きなラウンジ型の浮き輪になった。
こんな大きさを一気に膨らませるなんて、
竜崎の肺活量はどうなっているのだろうか。
「これなら、先輩も一緒に三人で乗れますわ」
『お、いいね。それなら僕も乗ろうかな』
さっきまで砂の城を作っていた先輩も、
この浮き輪には乗りたいようだ。
そして、俺たちは三人で浮き輪に乗った。
浮き輪で海に浮かぶなんて、小学生以来だ。
海の綺麗さも相まって、リゾートに来たみたいで楽しい。
先輩も楽しそうな顔になっている。
『は〜、海に浮かぶのは初めてだよ。とても楽しいね』
「え、先輩って浮き輪とか使ったことないんですか?」
俺が先輩にそう聞くと、
どうやら、体力がないから海自体が怖く、あまり入ったことがないらしい。
確かに、先輩が海に入ったら流されてしまいそうだ。
砂のお城を作っていたのも、海に入らなくてもできることだかららしい。
『でもその分、ずっと砂のお城を作ってるから、僕の砂の城は凄いよ』
そう言った先輩の顔は、
とても自信に満ち溢れた表情だった。
……ドヤ顔の先輩は可愛い。
「それは完成品が楽しみですね」
「私も見たいですわ」
『ふふ、一通り浮き輪を楽しんだら、また作るさ』
そして、しばらく浮き輪で過ごしたあと、
俺たちは砂浜へ戻った。
「はー、久しぶりに浮き輪乗ったけど楽しかったなあ」
『僕も楽しかったよ』
「なら、よかったですわ」
……俺は今、この夏で一番楽しい。
おそらく、俺以上にこの夏を楽しんでいる人間はいないだろう。
ただ、ずっと外で遊んでいたら喉が渇いてしまった。
「俺、喉乾いたから飲み物取ってきます」
「それなら、私が取ってきますわ。たしかクーラーボックスがあるはずです」
「いや、取りに行かせるなんて悪いから俺が……」
「いえ、海に誘ったのは私です。誘った側として、これくらいは当然です」
そう言うと、竜崎は飲み物を家に取りに行った。
俺が「取りに行かせてしまった」という思いで、複雑な気分になっていると、
先輩が『そんなに気にしなくても大丈夫だよ』と、
言ってくれたので、俺はそのことについて考えないことにした。
「先輩、ありがとうございます」
『君が気にしすぎなだけさ、それより僕のお城がそろそろ完成するから見てほしいな』
そして、先輩は俺の腕を持って、
俺を砂の城の近くまで引っ張った。
『じゃーん、これが僕の自信作さ』
……これは凄い。
先輩が作った城は、さっきまで三人で乗っていた浮き輪と同じくらい、
いや、それ以上の大きさだ。
しかも、細かい装飾もよくできていて、
まるで本物の城を、ここに持ってきたかのようだ。
『どうかな?』
「凄いですよ先輩! これどうやって作ったんですか」
『ふふ、それはね……』
そのあと、先輩はコツなんかを話し始めた。
砂には適切な水加減がある、みたいなことを言っていた気がするが、
俺はそれより、先輩の表情に釘付けになってしまった。
普段は見せないような、自信がたっぷりで、
まるでオタクが早口で喋っている時のような、
そんな先輩の表情が、とても可愛かったからだ。
『おっと、喋りすぎてしまったよ』
「いやいや、大丈夫ですよ」
すると、先輩が俺の顔を見てくる。
『……どうやら話より、僕の顔に夢中になっていたみたいだね』
「い、いやそんなことは」
『……まあいいさ、それより僕は最後の仕上げに取り掛かるよ』
──そう言って、先輩が作業に取り掛かろうとした。
その時だった。
高めの波が来て、俺の腰あたりまで水に浸かった。
幸い、俺も先輩も流されることはなかったが、
砂の城は波によって見るも無残な姿になってしまった。
「ああっ、砂の城があ」
『あらら、まあしょうがないね』
先輩は、意外とダメージを受けていなさそうだ。
もっと落ち込みそうなものだが、
自信満々から、いつものアンニュイな表情に戻っただけだ。
「……あんなに頑張って作ってたのに、意外と平気なんですね」
『波が来るような場所で作った僕が悪いしね』
なぜか、俺の方がダメージを受けている気がする。
俺はなにも作っていないというのに……。
「まあでも、先輩が流されなくてよかった……」
俺はその時、先輩の異変に気づいた。
先輩のパレオがないのだ。
これはまずい。
今の先輩はパレオがないせいで、ほぼ普通のビキニだ。
俺は、先輩の下半身をあまり見ないようにした。
「ちょ、ちょっと隠してください先輩」
『なにを……ああ、パレオのことだね。どうやら、さっき流されてしまったみたいだ』
先輩はなぜか冷静だ。
「い、いやもっと恥ずかしがったりしないんですか!? ほぼ下着状態ですよ」
『下着じゃなくて水着だよ、枕木君』
「それは分かってますけど……というか恥ずかしくないんですか」
『海だからね』
俺には、先輩が恥ずかしがる時と、恥ずかしがらない時の違いが分からない。
「まあいいや、それよりパレオは……」
俺が海の方を見ると、ぷかぷかとパレオが浮いていた。
……ギリギリ取りに行けそうな距離だ。
「俺、取りに行ってきます」
『……危ないからやめておいたほうがいいと思うよ。僕は今の状態でも大丈夫さ』
「でも……あっ」
俺は天才的なことを思いついた。
海に入るのが危ないなら、入らなければいいのだ。
俺は近くに生えていた植物で網を作り、
パレオに向かって投げた。
そして……。
「取れましたよ、先輩」
『……ありがとう、枕木君。君は凄いね』
俺は見事、パレオを海から取り返し、
先輩の下半身を守ることができた。
すると、先輩が俺を抱きしめてきた。
「え、あ」
『お礼だよ、枕木君』
……とても気持ちいい。
水着でお互い肌の露出が多いせいか、
いつもより肌の感触を感じる。
「……ありがとうございます先輩」
俺がそう言い、
俺も先輩を抱きしめようとすると、
飲み物を取って帰ってきた竜崎が、
俺をじっと見つめてきた。
その視線は、嫉妬などの負の感情が詰まっているような、
恐ろしいものだった。
俺は、怖くなったので、
抱きしめるのをやめて、先輩を俺から離した。
『ん? もう終わりなのかい』
「ははは、竜崎が帰ってきたし、喉が渇いたなって……はは」
俺は抱きしめられなかったことを残念に思いながら、
飲み物を飲んだ。
海のせいだろうか、しょっぱい味がする──。
「そういえば先輩。砂のお城はどうなったのでしょう? 私、見たいですわ」
『ああ、それはね……』
先輩が竜崎に、さっきまでのことを話すと、
竜崎は膝から崩れ落ちた。
竜崎には悪いが、あの城は俺と先輩だけの思い出になったのだ──。
──そのあとも、俺たちは日が沈むまで沢山遊んだ。
先輩が倒れないか心配だったが、
体力をセーブしていたのか平気そうだ。
「もう夕方か」
「あら、それならそろそろ夜ご飯にしましょう」
俺は竜崎のその言葉にときめいた。
なんとなく、高そうなご飯をご馳走してくれそうだからだ。
「ち、ちなみになんの予定なんだ……?」
俺は期待で震えた声で、竜崎に聞いた。
俺の希望は、三つ星シェフの料理だ。
「焼きそばですわ」
「えっ」
俺は思わず声が出てしまった。
焼きそばは嫌いではないが、
竜崎なら「この時のために、三つ星シェフを呼んでおきましたわ」と、
言ってきて、高い料理をご馳走してくれると思っていたせいだろう。
……いや、まだ三つ星シェフが作る焼きそばの可能性が……。
「それも自分たちで作りますわ」
その言葉を聞いた瞬間、顔に落胆が出そうになったが、
なんとか耐えた。
『焼きそばを作るなんて、いいアイデアだね』
「でしょう? 先輩。では、シャワーを浴びて着替えてからキッチンへ来てください』
そして、竜崎は一足先に別荘へ戻って行った。
そして、俺は竜崎がいなくなったのを確認して、
落胆を顔に出した。
すると先輩が、
こちらを見ながら『ふふ、枕木君は分かりやすいね。焼きそば、美味しいよ』と言ったあと、
先輩も別荘へ戻って行った。
焼きそばが美味しいことなど、俺だって知っている。
ただ、竜崎ならもっとなんか凄そうなものを……。
そんなことを思いながら、俺も別荘に行ってシャワーを浴びた──。
浴びたあと、キッチンへ向かうと、
すでに二人は焼きそばの準備をしていた。
『やあ』
「どうも、先輩」
『ねえ、これを見てみてよ』
そう言うと、先輩はあるものに向かって指を差した。
「これは……」
先輩の指先にあったものは、キッチンだった。
「普通のキッチンですよね?」
『違うよ、これこれ』
先輩がもう一度指を差したので、よく見ると、
そこにあるのは、テレビなどでしか見ない高級なお店にあるような、
鉄板焼き用の鉄板だった。
「もしかして……」
「そう、これで作るんですわ」
急に竜崎が出てきた。
「鉄板で作った焼きそばを食べれるなんて楽しみですわ」
……確かに鉄板で作る焼きそばは楽しみだ。
普段は、フライパンかホットプレートでしか作れないし……。
「それに、食材もこだわりのものを選びましたから、きっと美味しいですわ」
「えっ、こ、こだわりのものって……?」
俺が竜崎に食材のことを聞くと、竜崎がいろいろと話してきた。
大量に話してきてよく分からなかったが、
高い食材を用意したということは分かった。
……流石竜崎だ。
俺のテンションが上がっていくのを感じる。
すると、先輩がこちらを見てきた。
『ふふ、枕木君は分かりやすいね〜』
「な、なにがですか」
『なんでもないさ』
俺の浅ましさが先輩にバレてしまったが、
そんなことより、今は焼きそばだ。
俺たちは三人で役割分担を決めた。
俺が焼く係で、先輩が食材を切る係、竜崎がセッティングや盛り付けだ。
そして、先輩が食材を切り終わり、俺は焼きそばを焼き始めた。
……いい匂いだ。
匂いを嗅ぐだけで、お腹が減ってくる。
そして、焼きそばを焼き終わり、
竜崎が紙の皿に焼きそばを盛り付けた。
すると、竜崎がテーブルとは違う場所に焼きそばを運んでいった。
「あれ? テーブルはこっちだぞ」
「ええ、知っています。ただ、今日はこちらの方がいいと思ったのです」
竜崎がそう言うので気になり、ついていくと、
バルコニーに出た。
……ここは海が見えて、とても綺麗だ。
「もしかして」
「ええ、ここなら海を見ながら食べられますわ」
確かに、海を見ながら食べる焼きそばは美味しそうだ。
そんなことを思っていると、先輩もやってきた。
『おお、ここはとても眺めがいいね』
「でしょう? 先輩。では、熱いうちにいただきましょう」
『ふふ、そうだね』
そして、俺たちは「いただきます」をしたあと、
海を見ながら、焼きそばを食べ始めた。
……とても美味しい。
今まで食べた焼きそばで、一番美味しい気がする。
もちろん、竜崎こだわりの材料のおかげもあるだろうが、
一番は、みんなで作ったからだろう。
そのあと、俺たちはあっという間に焼きそばを食べ終わり、
片付けを済ませ、迎えにきたリムジンに乗った。
『楽しかったね』
「俺も楽しかったです」
「ふふ、ならよかったです。私も三人での、この夏最後の思い出を作れて楽しかったですわ」
その言葉に、俺は驚いてしまった。
まだまだ夏休みは続くのに最後……?
「最後ってなんだよ竜崎」
「実は私……」
話を聞くと、竜崎は夏休み中ずっと、両親と海外旅行に行くらしい。
竜崎の両親は忙しく、なかなか竜崎と会えないので、
久しぶりに取れた休みで、竜崎と一緒に過ごしたいとのことらしい。
『確かに、それはご両親を優先した方がいいね』
「ええ、なので夏休み中はこれでさようならです」
「そっか……」
俺は、なぜか少し寂しくなった……。
夏休み中、三人で過ごすことが多かったせいだろうか。
そんなことを思っていると、俺の家に着いた。
どうやら、もう外は暗くて危ないから、
家まで送ってくれたらしい。
俺は車から降り、運転手の人にお礼を言った。
すると、竜崎が乗っている部分の窓ガラスが下りた。
「さようなら、今日は楽しかったですわ」
「……ああ、俺も楽しかったよ。また夏休み明けにな」
「では、また二学期に」
『ばいばい、枕木君。またね』
そう言うと、車は走っていった。
おそらく、次は先輩の家に向かうんだろう。
……なんだか少し寂しい。
夏休みの間、竜崎とお別れだからだろう。
ずっと三人で過ごしていたし……あっ。
俺はその瞬間、あることに気づいた。
(竜崎がいないってことは……俺、先輩と二人きりじゃん! やばっ、テンション上がってきた)
さっきまでの寂しい気持ちは吹き飛んでしまった。
俺の夏休みは、先輩と二人きりのここからが本番だ──。