真央先輩はおとこ♂の娘    作:ろあタルト大福

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第17話 「二人きり&クーラー」

 「二人きり」

 

 竜崎が両親との海外旅行で、

夏休み中いなくなってしまった……。

つまり、ここからの夏休みは俺と先輩の二人きりだ。

 

 いろんな所に二人で出かけたり、

お泊まりしたり……デートしたり……。

そんなことを妄想するだけで、

胸が躍ってしまう。

 

 ……そうだ。

俺から先輩を誘ってみよう。

先輩からの誘いを待っているだけではダメだ。

夏休みを先輩と二人きりでいっぱい過ごすために、

俺から誘うのだ。

 

 そして、俺は先輩にメールを送った。

 

【まくらぎ】 「先輩……俺とどこか遊びに行きませんか?」

 

 すると、すぐに返信が来た。

 

【先輩】 『それはいいね、じゃあいつ行こうか』

 

 俺は先輩からの返信にテンションが上がり、

ウキウキで予定を明日に決め、

10時に俺の家に集合したあと、出かけることにし、

どこに行くかは、俺が決めることになった。

 

 そして明日──。

 

『やあ、待ったかな』

「いや、全然待ってないですよっ」

 

 思わず、声に嬉しさが出てしまった。

なんて言ったって二人きりなのだ。

先輩が、俺一人のものなのだから、

テンションが上がるのも仕方ない。

 

『ふふ、楽しそうだね枕木君』

「へへへ、そ、そう見えますか?」

『うん。楽しそうでいいね。まあ、僕は君一人のものではないけれどね』

 

 先輩に俺の考えていることがバレたが、

そんなことはどうだっていい。

だって先輩と二人きりなのだから。

 

「まあ、そろそろ行きますか」

『そうだね、そういえば、今日はどこに行くのかな? 君が決めてくれるんだったよね』

「どこって、それはあの……」

 

 ここで俺はあることに気づいた。

どこに行くか、なにも決めていなかったのだ。

俺がどこへ行くか決めるはずだったというのに、

先輩と二人きりであることに浮かれすぎて、

忘れてしまっていた。

 

『……もしかして決めてないのかな?』

「そ、そんなわけないじゃないですかっ。ほ、ほら行きますよ」

 

 俺は、目的地を決めるのを忘れていたのを、

先輩にバレたくないので、

強引に出発し、先輩に顔を見られないように先輩の前を歩いた。

 

 ……しかし、どうしよう。

予定もないのに歩き始めたせいで、

俺もどこへ向かっているのか分からない。

そんなことを考えていると、先輩が話しかけてきた。

 

『これはどこへ向かっているのかな?』

「そ、それは秘密ですよ」

『ふうん……それより、今日の君はいつもより歩くのが速いね』

 

 その言葉を聞いた俺は、

顔を見られないように、一瞬だけ後ろを振り向いた。

すると、先輩は、俺より三歩ほど後ろにいた。 

 

 先輩に顔を見られるのが嫌で、

体が自然と速めに歩いてしまったのだろうが、これは良くない。

俺はいつも、先輩と横並びになるくらいで歩いている。

それが今日だけ、先輩を置いて歩くなんて、

先輩が悲しんでしまうかもしれない。

 

 だが、顔だけは見られたくない。

ここでいつものように横並びで歩いてしまうと、

先輩に顔を見られた瞬間、予定を決めていなかったことがバレてしまう。

 

 どうしようか悩みながら、先輩の前を歩いていると、先輩が話しかけてきた。

 

『僕に顔を見られるのが嫌なのかな』

「えっ」

『そして顔を見られたくないのは、今日の予定関係のことじゃないかな』

 

 顔を見られなくても、俺の考えていることがバレてしまった。

 

『僕は予定がなくてもいいよ。それより、一緒に歩きたいな』

 

 先輩は、俺と一緒に歩きたがっていたのに、

俺は先輩よりも、自分が恥をかかないことを優先してしまった。

なんて最低な男だろう。

 

 俺は一旦歩くのをやめて、先輩を待った。

そして、先輩と横並びになってから、また歩き始めた。

 

「ごめんなさい先輩……俺、浮かれて予定とか決めてなくて……それがバレるのが嫌だから先輩をおいて歩いて……」

 

 俺がそう言うと、先輩は周りに人がいないか確認したあと、

俺の肩口をグイッと下に引っ張り、

それによって位置が下がった俺の唇に、

人差し指を当てた。

 

 先輩の細くて綺麗な指が唇に当たって、

ドキドキする。

 

『反省はこれで終わりね。このままだと空気が重くなってしまうからね』

「でも……」

『でもじゃないよ。……そうだ、お詫びとして僕と手を繋いで歩こうよ。これで、今日のことはチャラということさ』

 

 これでチャラになるという先輩の話はよく分からないが、

俺が断る理由もないので、俺は先輩と手を繋いで歩き始めた。

 

 ……先輩の手は柔らかい。

ずっと握っていたくなる。

そんなことを思っていると、先輩が話しかけてきた。

 

『僕と手を繋ぐのは楽しいかな?』

「なんですか急に……」

『楽しいか気になっただけさ』

「まあ……はい」

『ふふ、よかったよ。ちなみに、僕も楽しいよ』

 

 先輩の顔を見ると、

いつもより嬉しそうな顔だ。

そんなに、俺と手を繋ぎたかったのだろうか。

 

そのあと、俺たちは目的地もなく、

ただただ手を繋いで歩いた──。

 

 そして日が暮れてきたので、

俺は先輩を家まで送って、その日は別れることにした。

 

「今日はその、すいませんでした」

『反省はあれで終わりって言ったのに。まあ、それも枕木君らしいね』

「す、すいません」

『ふふ、僕は今日楽しかったよ。たまにはこういう日があってもいいと思うんだ』

 

 ……先輩がそう言ってくれてよかった。

確かに、たまには、予定もなくただ歩く日があってもいいのかもしれない──。

 

後日──。

 

 俺は先輩と電話で話していた。

 

『そうだ、枕木君。明日、よかったら遊ばないかい?』

「お、いいですね。予定はどうしま……」

 

 そう、俺が言いかけると、

先輩が食い気味に『あっ、予定は僕が決めるから大丈夫さ。君が考えなくても大丈夫だよ』

と言ってきた。

 

 ……俺は、もう先輩との予定を決めることはできなさそうだ──。

 

 

 

 「クーラー」

 

 

 ある日の朝、俺は急に目が覚めてしまった。

 

 そして、少し経ったあと、俺はなぜ目が覚めてしまったのかが分かった。

部屋が暑いのだ。

そのせいか、パジャマも汗で濡れてしまっている。

 

 ……だが、これはおかしい。

俺は昨日、クーラーをつけて寝たはずだ。

なのに、目が覚めてしまうほど暑くなることがあるだろうか?

 

 そう思い、クーラーを見ると、

なんとクーラーが作動していなかったのだ。

 

(あれ、昨日クーラーつけ忘れてたのか……? いや、昨日の夜も暑いからつけた気がするんだけどな……)

 

 そう思いながら、

俺は部屋を冷やそうと、クーラーの電源をつけた。

だが、まったく動かない。

……嫌な予感がしてくる。

 

 その後も、俺はクーラーの状態を薄々察しつつ、

それでも、それが嘘であってくれと祈りながら、

電源ボタンを押したり、いろいろ試してみたが、

クーラーが動くことはなかった。

 

 そこで俺はようやく現実を受け入れた。

このクーラーは壊れている──と。

 

(ま、まあ最悪、直るまで別の部屋で寝ればいいしな……。てか、業者さん今から頼んだらいつ来るかな……)

 

 そんなことを考えつつ、俺は自分の部屋を出て、

リビングのクーラーをつけようとした。

 

 ……動かない。

何度押しても、返ってくるのはリモコンの「ぴっ」という音だけだ。

 

 これはまずい。

俺は自分の部屋のクーラーが直るまで、

リビングで寝ようと思っていたが、これでは無理だ。

真夏にクーラーなしでは、

俺は死んでしまう。

 

(こうなったら、あそこへ行くか)

 

 そう思い、俺は親の部屋へ向かった。

あまり入りたくはないが、背に腹は代えられない。

エアコンが直るまでここで過ごすしかない。

 

 だが、ここでも悲劇的なことが起きた。

この部屋のクーラーも壊れている──。

真夏に家のクーラー全てが壊れるなんて、こんなことがあるだろうか?

 

 そのあと、俺はショックで倒れそうになったが、

なんとか耐え、水分補給しながらどうすればいいかを考えた。

 

(業者さんに連絡するか。ああ、なんかの奇跡で今連絡すれば、業者さんが明日くらいに来てくれないかな……)

 

 そして、俺は祈りながらエアコン業者さんに連絡した。

 

「お世話になります。クーラーの修理をお願いしたいのですが……」

「お電話ありがとうございます。クーラーの修理でございますね」

「はい。それと、あの、今から最短の日程となるといつ頃になりますかね……」

「そうですね……。今からですと、大体、二週間後になります。」

 

 終わった。

普通に考えて、真夏に二週間もクーラーなしで過ごせるわけがない。

一応、他の業者さんにも電話してみたが、どれも同じくらいの時間がかかるそうだ。

 

 (もうダメだ……。俺はもうこの家で干からびるしか道はないのか……)

 

 そんなことを思っていると、

突然、先輩から電話がかかってきた。

 

『やあ、枕木君。今度、どこかへ遊びに……』

「先輩っ、助けてください〜っ」

 

 俺は先輩の話を遮って、助けを求めた。

 

『……どうやら困っているようだね。話してごらん』

 

 俺は話を遮ったというのに、先輩は優しい。

そして俺は、今の現状を伝えた。

 

『……それは大変だね。クーラーなしでは、熱中症になってしまうよ』

「そうなんですよお……でも修理も全然来なくて、俺もうどうしたら……」

 

 すると、先輩は少し間を置いてからこう言った。

 

『そしたら、僕の家に来るかい?』

「えっ」

 

 その提案に、俺は思わず声が出てしまった。

 

『君がそんな状況では放っておけないよ。修理が来るまで僕の家で泊まっていいよ』

「い、いや、気持ちはありがたいですけど、そっちは大丈夫なんですか……?」

『……そしたら、ちょっと待っててね枕木君』

 

 そして、時間にして約一分ほど待つと、

先輩が戻ってきた。

 

『いいよって』

「誰に聞いたんですか?」

『お母さんだよ。枕木君なら、泊まってもいいよ〜ってさ』

「い、いやでも……」

 

 先輩の提案はありがたいが、俺は少し悩んでしまった。

一日か二日程度ならともかく、

二週間も人の家に泊まるのは申し訳ない気持ちが強い。

 

『君が嫌なら無理強いはできないけど、そしたら枕木君は直るまで、どうやって過ごすのかな?』

「うぐ……確かに……」

 

そして俺が悩んでいると、先輩が悪魔のように囁いてきた。

 

『……僕の家に泊まったら、毎日僕と会えるよ』

「行きまぁすッ」

 

 俺はその一言で、先輩の家に泊まるのを決めた。

 

『ふふ、枕木君はわかりやすいね』

「だって先輩が……」

『ふふふ、それより後でお母さんと君の家まで向かうから、持っていく服とかをまとめておいてね。それじゃあ』

 

 そう言うと、先輩は電話を切った。

──先輩の家に泊まることになってしまった。

だが、先輩に毎日会えると言われてしまったのだから仕方ない。

俺は胸を高鳴らせながら、準備をした。

 

 そして準備が終わったころ、

先輩が来た──。

 

『やあ、枕木君。準備は大丈夫かな? 忘れ物はない?』

「は、はい大丈夫です」

『ふふっ、じゃあ行こうか。お母さんが車で待っているからね』

 

 俺が家を出ると、家の前に車が停まっていた。

その車の運転席を見ると、先輩のお母さんが見える。

 

 ……少し緊張してしまう。

そんなことを思っていると、

先輩に『ほら、早く荷物を後ろに乗せて』と言われてしまった。

そして荷物を乗せたあと、俺は車に乗った。

 

 俺が車に乗ると、先輩のお母さんが話しかけてきた。

 

「あら〜遊星君、久しぶりね」

「あっ、お久しぶりです……すいません泊めてもらっちゃって……」

「いいのよ〜、遊星君が熱中症で倒れたりなんかしたら、マオが悲しんじゃうしね〜」

『そうだよ、だから気にしなくていいよ枕木君』

「ははは……」

 

 そして、車は先輩の家に向かって走り始めた。

……先輩の家に泊まれて、しかも毎日先輩に会えるだなんて、

俺はこの先、平気でいられるだろうか──。

 

 

 

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