真央先輩はおとこ♂の娘    作:ろあタルト大福

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第21話 「ノースリーブ&クイズ&スイーツ店」

 「ノースリーブ」

 

 

 昨日、先輩とメールをしていると「明日、君と家で遊びたいな」と言われたので、

俺は、先輩の家ばかり行っていて申し訳ない気持ちがあるのと、

先輩に、俺の家に来てもらって一緒に過ごしたいという下心があったので、

俺は勇気を出して先輩を家へ誘ってみた。

 

【まくらぎ】 「あの、俺の家で遊ぶのとかどうですか……? 嫌なら全然いいんですけど……」

 

 俺がそうメールを送ると、

先輩から驚いた顔のスタンプが返ってきた。

そして少し経つと、先輩から文章が送られてきた。

 

【先輩】 「君が僕を家に誘うなんて珍しいね。なにか下心があるのかな」

 

【まくらぎ】 「そんなのないですっ。ただ先輩に俺の家に来てほしいと思っただけで……」

 

 俺が返信すると、先輩は俺をからかうような薄笑いのスタンプを送ってきたあと、

俺の誘いに乗ってきた。

なんとなく、下心に気づかれている気がするが、

OKしてくれたので、気づかれたか気づかれていないかなんて、

俺にとってはもうどうでもいいことだ。

 

 そして次の日──。

 

「こんにちは、枕木君」

「あっ、ま、待ってましたよ先輩」

 

 先輩が家の玄関前にやってきた──。 

俺がゆっくりドアを開けると、私服の先輩が立っている。

 

 今日の先輩の格好は、下はワイドパンツを穿いていて、

上はTシャツを着て、その上に薄手のカーディガンを羽織っている。

とても涼しげで、それでいて綺麗だ。

それに、普段の先輩はスカートを穿いているから、

たまに履くズボンが特別な感じで、とてもいい……。

 

「枕木君、見すぎだよ」

「あ、す、すいません暑いですよね。な、中どうぞ」

 

 ついつい、先輩を見すぎてしまった。

そのあと、俺は先輩を家の中へ案内した。

 

「お邪魔するよ、枕木君」

「い、いいんですよ。そしたら、リビングのソファーで待っててください。俺、麦茶持ってきますから」

「ふふ、ありがとうね」

 

 そして、麦茶を持っていき、

俺は、先輩の近くに座った。

そのあと、なにをして遊ぶか悩んだ末に、

とりあえずテレビゲームで遊ぶことにした。

 

「なんのゲームにしようね」

「うーん……あっ、『大乱闘シスターズ』とかどうですか先輩」

「お、いいね。僕もそのゲームは得意だよ。でも前に、僕にボコボコに負けたというのにこれを選ぶとは意外だね」

「ふふん、俺はめちゃくちゃ練習したんですよ。どうせなら負けた方は罰ゲームとかしちゃいますか?」

 

 俺が調子に乗ってそう言うと、

先輩が、口に手を当てながら声を出さずに笑ってきた。

 

「な、なんですか先輩」

「本当に罰ゲームなんかしていいのかな、枕木君。どうなっても……僕は知らないよ」

 

 先輩のその言葉は表情も相まって、俺に不吉な未来を想像させるのには、

十分すぎるものだった。

 

「や、やっぱ罰ゲームなしでやりましょう」

「ふふ、それがいいよ」

 

 そして、俺たちは罰ゲームなどは無しで、

普通にゲームを始めた──。

 

 ──先輩が強すぎる。

前、確かリオさんと初めて会った日に、俺は先輩とこのゲームで勝負し、

ボコボコに負け、

そのあと、負けたのが悔しくてプロの動画などを見て練習したはずなのに、

先輩に手も足も出ない。

というか、手か足を出すと先輩に隙を突かれて負ける。

 

「せ、先輩のインチキっ、ずるっ、強すぎっ」

「ふふふっ」

 

 そのあとも日が暮れるまで先輩と戦ったが、

一度も俺は勝てなかった──。

 

「はあ、久しぶりに熱くなったよ枕木君」

「ああそうですか」

 

 俺はボロボロに負けて不貞腐れていた。

 

「ふう、ゲームをしていたら体も熱くなってしまったよ。上着を脱いでしまおうかな」

「お好きにどうぞ」

 

 俺が不貞腐れたままそう言うと、

先輩は少し笑ったあと、羽織っていたカーディガンを脱いだ。

 

「はあ〜涼しくなったよ枕木君。ほら、僕を見てみてよ」

「そうですか、涼しくなってよかったですね。でも、俺が見る必要なんて……」

「いいから見てほしいな」

「はあ……」

 

 そう言われて渋々、先輩の方を見ると、

そこにいたのは、ノースリーブの先輩だった。

 

「えっっ、あっ」

 

 ノースリーブの先輩の衝撃は、

先程までの不貞腐れていた俺を、吹き飛ばすほどの威力があった。

先輩の二の腕や肩が丸見えだからだ。

……先輩の肩は、ぱっと見、女の子のような肩なのに、

じっと見ていると、少しだけ、ほんの少しだけ男を感じさせるようで、

俺は思わずじっと見てしまった。

 

「ふふ、驚いたかな? 枕木君」

「そ、そりゃ驚きますよ。だって……」

「だって……なにかな?」

「それは……」

 

 俺が言えずに、先輩から顔を背けると、

先輩が俺が言えなかったことを代わりに言ってきた。

 

「ノースリーブは肌の露出が多いから……違うかな?」

 

 俺は自分が思っていたことを当てられてしまったので、

正直に話した。

 

「だ、だって先輩ノースリーブとか普段着ないじゃないですかっ。なのに急に、そんな露出多い服を見せてきたら驚きますよおっ」

「ふふ、確かに普段は着ないけれど君が驚くと思ってね。似合っているかな」

 

 これはまずい。

先輩のからかいタイムだ。

先輩は表情だけはミステリアスでアンニュイで感情が薄そうなくせに、

中身はしっかり感情豊かなのが厄介だ。

 

「似合ってますけど……なんですか、俺を驚かせるために着てきたんですか」

「そうだよ」

 

 先輩は普段はあまり肌を見せたがらないが、

俺をからかう時だけは恥ずかしくないのか、

肌を多めに露出したりしてくる。

そんなに俺をからかいたいのだろうか。

……まあ、先輩の肌が見れるのは、そんなに嫌ではない。

 

「ふふ、恥ずかしいけれどノースリーブを着てきてよかったよ」

「そうですか、まあ俺も先輩の肌を見れたのはよかったですけど……」

「ふふっ、そっか。しかし、ずっとゲームをして疲れてしまったよ」

 

 そう言うと、先輩はストレッチなのか、腕を上に伸ばした。

しかし、先輩はおそらく忘れている。

自分がノースリーブだということを。

俺は、先輩の脇が見えてしまった。

 

 先輩の脇は、とても白く綺麗で、

俺の思考は先輩の脇でいっぱいになってしまった。

そのあともずっと見つめていると、なにか新たな扉が開くような音がしてくる。

 

(い、いやそんなわけがない。俺は脇で興奮したことなんかないし……それに先輩は男だし……)

 

 だが、心でいくら否定しようと、体は正直だ。

俺の視線は先輩の脇だけを見つめている。

見ていると、なにかが体の奥からこみ上げてくる。

 

(これ以上見ていたら、先輩にバレてしまうし、なによりもう戻れない気がする……いや、よく考えたら先輩と出会った時からそんな感じだからもういいか)

 

 俺は無理矢理、心で考えるのをやめ、

自分の体に従って先輩の脇を見続けた。

だが、終わりの時はすぐに来た。

 

「枕木君、日も暮れてきたし、僕はそろそろ……」

 

 先輩が俺に話しかけながら、こちらを向いてきた。

そして、俺はその先輩と目が合ってしまった。

 

「あっ」

 

 俺は思わず、声を漏らした。

先輩と目が合う、つまりそれは、俺がなにを考えているのかバレるということだ。

そして、俺が先輩の脇を見ていたことがバレてしまった。

 

「ふうん……」

 

 先輩が、なんとも言えない眼差しで俺を見ている。

 

「い、いやこれは不可抗力というか。先輩がノースリーブなのが悪いっていうか……」

 

 俺がそう言い訳すると、

先輩は笑った。

 

「な、なんですか」

「ふふ、スケベだね枕木君」

「なっ」

 

 どうやら、腕を伸ばしていたのはわざとだったらしい。

また、先輩に負けてしまった。

 

「さて、僕はそろそろ帰るとするよ」

 

 そう言うと、先輩はカーディガンを羽織って

帰りの支度をしている。

このままではまずい。

俺はゲームでもノースリーブでも負けた上にスケベ扱いをされ、

零勝三敗で終わってしまう。

せめて一勝しなければ、俺は納得できない。

 

「ま、待ってください先輩」

「ん? どうしたのかな」

「腕相撲で勝負ですっ」

 

 俺は負けたくないあまり、

力の弱い先輩に対して、腕相撲を挑んだ。

情けないが、もうそんなのどうでもいい。

勝てばいいのだ。

 

 そして、俺と先輩はテーブルに腕を乗せた。

 

「俺の合図でいきますからねっ」

「ふふ、いいよ」

「それじゃ行きますよ……レディー……ファァイッッ」

 

 試合が始まり、俺は先輩の力の弱さに勝利を確信し、

勝ち誇った表情で先輩を見た。

……先輩の表情は、悲しそうなものだった。

その時、俺は気づいた。

今やっていることの情けなさを。

 

(……なにやってんだ俺。勝ちたいからって力の弱い先輩に腕相撲を挑んで、勝ち誇ろうとするなんて……最低だ)

 

 そして、俺は自分への情けなさと、先輩への申し訳なさで腕の力が抜けた。

すると、突然先輩の腕に力が入って、俺の腕がテーブルに着いた。

 

「……えっ?」

「ふふ、油断したね枕木君。僕の勝ちだよ」

「え、あっでも、先輩の力じゃ俺が力を抜いても負けるなんて……」

「力の使い方だよ。まあ、それでも君が油断していなかったら倒せなかったけどね。それじゃあまたね枕木君」

 

 そして、先輩は帰って行った。

そのあと、俺は今日一度も勝てなかったという情けなさに、床に倒れ、そのまま叫んだ。

 

「せ、先輩の……先輩の嘘つきいいーッッ」

 

負け犬の遠吠えが、俺の家に響き渡る。

今日の戦績、零勝四敗──。

 

 

 

 「クイズ」

 

 

 それは突然だった──。

 

「枕木君、クイズでもしようか」

 

 先輩の家で遊んでいると、

急に先輩がクイズがどうのと言い出したのだ。

 

「クイズって……なんのクイズですか」

「それはお互いについてのクイズさ。簡潔にルールを説明するよ」

 

 先輩の説明によると、

出題者側と回答者側に分かれ、

出題者は自分に関係する……例えば「好きな食べ物はなに?」などの問題を出し、

回答者はそれに答えるというものらしい。

 

「これでお互いのことを、どれだけ知っているかが分かるよ。楽しそうだろう? 枕木君」

「はあ……」

 

 まあ確かに、お互いをどこまで理解しているかが分かるというのは、

少し面白そうだ。

俺は先輩の誘いに乗って、クイズをすることにした。

 

「ふふ、じゃあ枕木君が先に出題者になっていいよ」

「えー……まあいいですよ。なんの問題にするかなあ……」

 

 俺がどんな問題を出そうか悩んでいると、

先輩がこちらを見つめてくる。

……よく考えたら、先輩に見られていては、

問題も答えもバレバレだ。

 

「先輩、こっち見ないでくださいよ」

「おっと、そうだったね。じゃあ僕は目を瞑ることにするよ」

 

 そう言うと、先輩は目を瞑った。

……本当に目を瞑っているのだろうか?

実は薄目で俺の表情を見ているのではないだろうか?

正直、俺は先輩を信用できない。

どうすればいいか少し考えたあと、俺は妙案を思いついた。

 

「先輩、俺の手で覆っていいですか?」

「……ふふ、どうやら僕は信用されていないようだね。いいよ、枕木君」

 

 俺は先輩の目の辺りを手で覆い、

先輩の視界を封じながら問題を考えた。

 

(なにがいいかな……そうだ、あれにしよう)

 

 俺は先輩の視界を封じながら、問題を出した。

 

「先輩、俺の好きな料理はなんでしょう?」

(確か先輩に俺が好きな料理を言ったことはないはずだし、これはいけるはず……)

 

 だが先輩は、俺の問いに対して、

一瞬で答えてきた。

 

「僕が作った料理じゃないかな」

「な、なんですか、その答え。こういうのって普通はハンバーグとかお寿司とかって答えるもんじゃ……」

「でも好きでしょ?」

「まあ……はい」

「ふふ、じゃあ正解だね」

 

 先輩にゴリ押されてしまった。

あまり納得していないが、俺はこれ以上そこに触れるより、

新しい問題を出した方がいいと思い、もう触れないことにした。

 

「じゃ、じゃあ先輩。俺が一番嫌いな授業ってなんだと……」

 

 俺が問題を言い切ろうとすると、

先輩は途中で答えてきた。

 

「確か美術だったよね」

「……正解です」

「ふふ、やったね。当たったよ」

 

 どうやら、俺のことは先輩に知り尽くされているらしい。

それ以降も、問題をいろいろ出してみたが、

全て速攻で答えられてしまった。

 

「ふふ、全問正解ということだね」

「うぐぐ……ほ、本当に目を瞑ってるんですか? 本当はズルして俺の表情で当ててるんじゃないんですかっ」

 

 俺は全問正解された悔しさで、

思わず負け惜しみしてしまった。

 

「君が僕の視界を手で隠しているというのに、どうやって見るのかな?」

「うぐ……」

「それに、僕は正解されるのは悔しいことではないと思うよ」

「……どういう意味ですか」

「だってこれは君に関するクイズだろう? それに僕が答えられたということは、僕が君をそれだけ理解しているということさ」

 

 先輩の言葉を聞いて、俺はハッとなった。

確かにそうだ。

これは悔しがるようなクイズではない。

むしろ正解された方が嬉しいもののはずだ。

俺はすっかり、それを忘れてしまっていた。

 

「まあ、君が負けず嫌いなのは知っているけどね」

「う、うるさいですっ」

「ふふ、それじゃあ次は僕が出題するよ。あっ、このまま手で覆ってていいよ。そっちの方が君も変に疑わなくてすむだろう?」

「わ、分かりました」

 

 そして先輩は、問題を考えているせいか少し黙ったあと、

俺に問題を出してきた。

 

「問題、僕の苦手なものはなにかな?」

「えっと……確か『苦いもの』ですよね」

 

 先輩が少し黙ったあと、口を開いた。

 

「正解だよ、枕木君」

「よかったあ……間を置くのやめてくださいよ、不正解かと思ったじゃないですか」

「ふふっ、緊張感が生まれていいじゃないか。それじゃあ、次の問題へ行くよ──」

 

 そのあとも、先輩にいろいろ問題を出されたが、

「僕の年齢はいくつでしょう?」や「僕の身長は?」など、

全て速攻で答えられるような簡単なものばかりだった。

 

「ふふ、枕木君、今のところ全問正解だね。僕のことをよく分かってくれていて嬉しいよ」

「問題が簡単だからですよ」

「ふーん、それじゃあ最後は難しめの問題にしようかな」

「ふふん、望むところです」

「じゃあいくよ、問題。僕は枕木君のどこが好きでしょう?」

「……えっ?」

 

 俺は驚いてしまった。

これは、遠回しに俺のことが好きだと言っているのだろうか?

……前も好きだと言われたことはあるが、やはり何度言われてもドキドキしてしまう。

 

だが、それはそれとして「君のどこが好きだと思う?」と言われても、

俺には分からない。

なんて答えればいいのだろうか。

 

「ほら、答えないと。制限時間がなくなってしまうよ」

「ま、前まで制限時間なんてなかったのに急につけないでくださいっ」

 

 ふと、先輩の顔を見ると口角が上がっていた。

目は手で覆っているから分からないが、

俺をからかうような目なのは、なんとなく分かる。

 

「ほらほら、早く答えてみて」

「そう言われても……」

 

 どうしても、なにを言えばいいか分からない。

それに、答えた時に違っていたら恥ずかしい。

……俺には、この問題は答えられない。

俺は、先輩の顔を覆っていた手をどけ、

降参した。

 

「す、すいません。わかんないです」

「ふうん、それは残念だね」

「その、負けたけど答えを教えてくださいよ」

 

 俺がそう言うと、

先輩は口に手を当てながらこう言った。

 

「それは……秘密だよ」

「な、なんですかそれ。教えてくださいよお〜」

「秘密は秘密さ」

 

 そのあとも何回も聞いたが、

結局教えてもらえなかった。

先輩は、俺のどこが好きだったのだろうか──。

 

 

 

 「スイーツ店」

 

 

 俺が夜寝ようとしていると、先輩から急にメールがやってきた。

 

【先輩】 「枕木君、急にメールしてごめんね。美味しいスイーツのお店があるから、明日一緒に行かないかい?」

 

【まくらぎ】 「本当に急ですね、でも気になるし行きますよ」

 

【先輩】 「それじゃあ、明日楽しみにしているよ。おやすみ枕木君」

 

そして、俺も先輩に「おやすみなさい」と返信したあと、寝て、

次の日のお昼、俺はウキウキしながら、待ち合わせ場所へ向かった。

しかし……外は暑い。

スイーツ店がどこにあるか知らないが、あまり遠いと干からびてしまいそうな暑さだ。

 

 そんなことを考えながら待ち合わせ場所へ向かうと、

日傘を差し、サングラスをつけアームカバーまでつけている、

日除けグッズの化身かと思うような人が立っていた。

 

(この人、すごい日差し対策してるな……。まあいいや、それより早く先輩来ないかなあ〜)

 

 なんてことを思いながら先輩を待っていると、

日除けグッズの人がゆっくりとこちらに近づいてきた。

俺が怖くなってその場から離れようとすると、その人に声をかけられた。

 

「待ってよ、枕木君」

「ひいっ、なんで俺の名前を……ん? この声は」

 

最初は少し怖かったが、落ち着いて聞いてみると、なにやら聞き覚えのある声だ。

 

「も、もしかして先輩ですか?」

「そうだよ」

 

 どうやら、先輩だったらしい。

……最初からよく見ていれば、身長で先輩だと気づけたかもしれない。

 

 そのあと先輩から話を聞くと、今から行くスイーツ店は人気で、

いつも行列ができていて、長時間外で待つことになるから日除け対策を徹底した結果、

こんな怪しい格好になったらしい。

 

「ごめんね、驚かせてしまって」

「本当に驚きましたよ……日傘を差すのはよく見ますけど、サングラスとか普段つけないじゃないですか」

「ふふ、それだけ外で並ぶということさ。さあ、行こうか」

 

 先輩はそう言うと、俺の隣に来て、

俺も日傘に入れてくれた。

 

「あ、あの、俺は日傘大丈夫ですよ」

「今の夏は日傘が大事なんだよ枕木君」

「はあ……まあ、そういうことなら」

 

 相合傘の状態で、俺たちはスイーツ店へ向かった。

正直、日傘があまり大きくないので日除けになっているか微妙だが、

少しは日除けになっているだろうし、なにより先輩と相合傘なのは嬉しい。

 

 そして10分ほど歩くと、

目的地が見えてきた──。

 

「先輩……あれが……」

「そう、あのお店が僕たちの今日の目的地さ」

 

 そのお店の見た目は、和風な感じで、

暖簾が風で揺れていて、古めかしい見た目だが、

内装は新そうに見え、古さと新しさが融合した、

とてもいい外見だ。

 

 ……だが、それより目に入ってくるのは、

お店に入る頃には日が沈んでいるのではないかと思うほどの、

長蛇の列だ。

 

「あの、先輩。これ並ぶんですか……? 違うお店と間違えてたりは……」

「ここだよ」

「あ、そうすか……」

 

 俺はこの後どれほど待つかを想像し、

少しうなだれたあと、先輩と列の最後尾に並んだ。

 

「これ、どれくらい待つんですかね、せんぱ……えっ」

 

 俺が先輩の方を向くと、いつのまにか先輩は日傘を閉じ、

つばの広い帽子をかぶっていた。

 

「いつのまに帽子にしてたんですか」

「列に並ぶ時さ、だって日傘を差していたら邪魔だろう?」

「まあ、確かに」

「ふふ、さて、君にこれをあげるよ」

 

  そう言うと、先輩が今つけているものと同じ帽子を、

俺に渡してくれた。

 

「えっと……これは……」

「帽子だよ、日傘がない今、君が日光に直接晒されてしまうからね。サイズ調整できるから、君もかぶれると思うよ」

「ど、どうも……」

 

 俺は先輩から帽子を受け取り、

頭にかぶった。

 

「ふふ、お揃いだね」

「……それはいいんですけど、帽子があるなら日傘の時から……」

 

 すると、先輩は流し目でこちらを見ながら、

声色を変えて話しかけてきた。

 

「君と、相合傘がしたくてね」

「……まあ、そういうことなら。そもそも俺は日焼け対策してなかったせいですしね」

「ふふっ」

 

 そのあと、俺たちは水分補給などをしながら、

三十分ほど待った。

……が、まだ入れない。

 

「あの、まだ入れないんですか」

「あと一時間くらいじゃないかな」

「えっ、まだそんなに……」

 

 俺は思わず、頭を下げ、

また、うなだれてしまった。

すると、先輩が俺の腕に、腕を絡めてきた。

 

「えっ、あっ」

 

 突然の先輩の行動に戸惑っていると、

先輩は笑いながらこう言った。

 

「あと一時間、ずっと君の隣にいられるね」

「先輩……お、俺っ」

「ふふっ」

「あ、暑いです」

「……」

 

 俺が正直に暑いと言うと、先輩は腕を絡めるのをやめた。

……だが、正直に言ったせいで俺は少し気まずい。

そのあと、あまり会話が弾まないまま一時間ほど経ち、

俺たちはお店の中に入り、席に座ることができた。

だが、気まずい。

 

「あ、あの……なに頼みましょう」

「ここは、ぜんざいと抹茶のセットがおススメだよ」

「じゃ、じゃあそれで……」

 

 そして、俺たちは「ぜんざいと抹茶のセット」を店員さんに注文し、

また、気まずい時間に戻ってきた。

このままでは、一時間半も待ったスイーツが不味くなってしまう……。

そこで、俺はある案を思いついた。

 

「あの、先輩」

「……ん?」

「手、テーブルの上に出してください」

 

 先輩が手を出した。

俺は、その手を両手で優しく握った。

 

「そ、その、前のお詫びっていうか……お店の中は涼しいですし……」

 

 俺がしどろもどろになりながら話すと、

先輩は何も言わず、もう一つの手も出して、

俺の手に乗せた。

顔を見ると、なんだか嬉しそうだ。

 

 そのまま、ずっとそうして手を合わせていると、

ぜんざいセットが来たので、俺たちは手を離し、

ぜんざいをいただきはじめた。

 

 ……とても美味しい。

そして、あまりのおいしさに、俺たちは言葉を発する暇もなく、

いつのまにか食べ終わってしまった。

 

「おいしかったね、枕木君」

「……ですね。一時間半待った甲斐がありましたよ」

「ふふ、ならよかった。そしたら、今日は僕が奢るよ」

「え、いや申し訳ないから俺も払いますよ」

「じゃあ、割り勘ね」

 

 俺が「なんだかんだ言って先輩が払ってくれる流れじゃなかったのか……」と思っていると、

先輩に顔を見られ「ふふ、枕木君は正直だね」と言われてしまった。

 

「そ、その今のは……」

「ふふっ、いいよ。ちょっとした冗談さ。くっついたお詫びも含めて僕が奢ってあげるよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 そのあと、支払いを終え、

俺たちは店を出た。

 

「ふふ、今日は楽しかったね枕木君」

「お……俺も楽しかったです」

「なら、よかったよ。そしたら帰ろうか……そうだ」

 

 先輩が、俺に腕を絡めて、

くっついてきた。

 

「君を家まで送ってあげるよ」

「そ、それは嬉しいんですけど……あ、暑いです」

「ふうん、そっか」

 

その後も、先輩に何度か暑いと言ったが、

離してくれることはなかった。

まあ、先輩とくっつけるし、これでいいのかもしれない──。

 

 

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