「儚い」
すっかり冷え込んできたある日、
俺は学校が終わった放課後に、先輩と話していた。
すると突然、先輩が「ねえ枕木君、僕って儚い?」と聞いてきた。
急になんでそんなことを聞いてくるのかもよく分からないし、
本当に儚い人は、儚いかを自分で聞かないと思う。
「急にどうしたんですか先輩」
「儚いか気になっただけさ。ほら、YESかNOかで答えてほしいな」
先輩が俺の近くに来て、答えを待っている。
普段の先輩はすぐ俺の顔を見てくるくせに、
こういう時だけは顔を見ずに俺の答えを待ってくる。
仕方ないので、俺は答えた。
「まあ……どちらかといえばYES、じゃないですか。先輩って、顔は儚げだし」
「ふうん、顔『は』ってことは、他は儚げじゃないんだ」
「だって結構グイグイ来ますし……顔は儚げでも接してみると儚げとは遠い存在ですよ。ていうか、急にそんなこと聞いてきて、もしかして儚げになりたいんですか?」
「ん? ほら、儚いのが今の流行りだろう? だから僕が儚いか聞いてみたかったのさ」
「流行ったのは少し前ですよ……」
先輩はいつもよく分からないが、今日は特に分からない。
そもそも儚いからなんだというのだろうか。
確かに儚いヒロインは魅力的だが、俺は、そんな一夏の思い出を残してどこかへ消えてしまいそうな人より、
いつもそばにいてくれる人の方が好きだ。
「はあ……まあ、顔は儚いってことでこの話は終わりですね。じゃあ俺は帰り……」
俺が帰ろうとすると、先輩が俺の腕を掴んでくる。
「なんですか」
「まだ早いんじゃないかな」
「はい?」
「儚いといえば夏に白ワンピースを着ているイメージだよね。君はそれを着ている僕を見てから、僕を儚いか判断するべきだと思わないかい?」
「いや別に……夏も終わってますし」
「夏はまだ終わっていないさ、ほら、僕のお家に行こうか。僕が白ワンピースを着るから、それで判断してね」
「……もしかして家に俺を呼びたかっただけなんじゃ」
「ほら、行くよ」
先輩は俺の質問を無視したあと、手を握ってきて、自分の家まで歩き始めた。
もう儚いとは遠く離れている気がするが、
先輩の家に行けるなら儚い儚くないなんてどうでもいいのかもしれない。
そして先輩の家に着き──。
「そしたら枕木君、リビングで待っていてね。着替えたら行くから」
「はあ」
家に入って手洗いなどを済ませて早々、先輩はそう言って自分の部屋に向かって行った。
……しかし、本当に白ワンピを着てくるのだろうか。
先輩がワンピースを着ている記憶はないので、もし本当に見れるなら少し嬉しい。
そんなことを思いながら待っていると、先輩の部屋の方向から「行くよ、枕木君」という声が聞こえてきて、ドアが開いた。
──そこには、白鳥の羽毛のような美しい白いワンピースを着た先輩が立っている。
ワンピースと先輩の髪やまつ毛などの白色が合わさり、透き通るようで、それでいて消え入るような、
美しくも儚さを感じさせる姿が、そこにはあった。
さらに、花があしらわれた麦わら帽子もかぶっていて、
家の中だというのに、周りがひまわり畑に見えてきてしまう。
「どうかな、枕木君? 似合っているかい?」
「に……に、似合ってます」
予想以上の先輩の綺麗さに、言葉が詰まってしまう。
「ふふふ、夏っぽいだろう? それで、どうかな? 儚いかい?」
「そ、それは……」
正直、服装のせいか、さっきまでよりかなり儚くなっている。
もし、初めて会った時に先輩がこの服装だったら、
突然いなくなって、その後二度と会えることはない……という気持ちを感じてしまうだろう。
事実、俺は今それを感じてしまっている。
「儚い……です」
「ふふ、ならよかったよ。これで僕は儚い女の子……もとい儚い男の子になれたわけだね」
「そ、そうですか……」
この姿の先輩を見てから、俺はなぜか少し不安になっていた。
その理由を少し考え、俺はなぜ不安なのかに気づいた。
「もし、先輩が本当に俺の前から姿を消したらどうしよう」ということだろう。
(それっぽい格好してるから、こう思っちゃうのかな。でも、もし先輩が本当にいなくなったら……)
思えば、最近は先輩と一緒に過ごすのが当たり前になっていて、
特別感などは、あまり感じなくなってきていた。
だが、その当たり前は先輩のおかげで、先輩の気分が変わってしまえば、
先輩はいつ消えてもおかしくないのだ。
(……本当に先輩がいなくなったり、しないよね)
「ふう〜、ワンピースを着るのは久しぶりだよ。でも枕木君に見せられてよか……ん」
俺は思わず、先輩の手を握ってしまった。
「どうかしたかい? 枕木君」
「ほ、本当に、いなくなったりしませんよね……」
「…………そっか」
俺の言葉でなにかを察したのか、先輩が俺の顔を見つめてくる。
けれど、俺はなぜか視界がぼやけて、よく見えない。
「ごめんよ、君を悲しませてしまって」
「せ、先輩は悪くないです。たっ、ただ……今まで学校を楽しく過ごせたのは先輩のおかげで、も、もし先輩がいなくなっちゃうって思ったら、この先楽しく過ごしていける自信がなくって……」
「……大丈夫だよ。僕は君から離れたりしないさ。ほら、落ち着いて」
先輩が俺を優しく抱き寄せてくれる。
そのまま、俺はしばらく先輩と抱き合っていた──。
「ん、そろそろ落ち着いたかい?」
「……はい」
「そっか、ならよかったよ」
「……ごめんなさい、こんな取り乱しちゃって」
「ふふ、君は相変わらず変なことを気にしてすぐに謝るね。僕は気にしていないよ」
「ありがとうございます……そろそろ、俺は帰ります」
「そしたら、家まで着いて行ってあげるよ」
「え?」
突然の申し出に、驚いてしまう。
「だ、大丈夫ですよ」
「ん〜、でも僕が離れてしまうか心配なんだろう? だから、一緒にいた方が君が安心できると思ってね」
「先輩……」
「ふふ、そしたら暗くなる前に早く行こうか」
そして、俺たちは一緒に先輩の家を出て、俺の家へ向かった。
道中、先輩は俺が不安がらないようにか、ずっと腕を握りながら俺にくっついてきた。
……先輩は優しくて、あったかい。
そうこうしていると俺の家に着き──。
「今日は、ありがとうございました先輩」
「君が落ち着いてくれてよかったよ」
「そ、それは……」
「ふふ、それじゃあ『またね』枕木君」
「……『また』ですね、先輩」
「ふふっ」
先輩は軽く笑ったあと、手を振りながら帰っていった。
……儚いかはともかく、先輩はいつか俺の前から姿を消してしまうかもしれない。
けれど「僕は君から離れたりしない」今はその言葉だけで、満足なのかもしれない──。
後日、先輩からメールが届いた──。
【先輩】 「寒いのにワンピースなんかで外に出たから風邪をひいてしまったよ」
【まくらぎ】 「ご、ごめんなさい〜っ」
風邪のせいで先輩は一日だけ、俺の学校生活から姿を消した──。
「ハロウィン」
学校が終わり、俺が家へ帰ってくつろいでいると、
突然先輩から電話がかかってきた。
「やあ、枕木君。突然だけど君の家に行ってもいいかな?」
「……本当に突然ですね。なんの用事ですか」
「それは言えないな」
突然家に来たいと言ってくる上に、なんの用かも言ってくれないなんて、
普通だったらだいぶ迷惑だが、先輩だから許してしまう。
というか、来て欲しい。
「まあ……いいですよ。待ってますね」
「ありがとうね、枕木君。あとで行くよ」
電話が終わり、そのあと申し訳程度に家の掃除をして待っていると、
チャイムが鳴り、俺は「先輩が来た」と思い、ウキウキでドアを開けに行った。
……先輩がいるが、隣に竜崎もいる。
こんなの聞いていないっ、先輩と二人きりだと思っていたのに……。
しかも、二人とも変な格好をしている。
「やあ、今日は突然すまなかったね、枕木君」
「ええ、お邪魔いたしますわ」
「別にいいですけど、な、なんですかその格好……」
「ん? 今日はハロウィンだからね」
「そうですわ」
「えっ?」
スマホを見ると、そこには「10月31日」と表示されている。
「も、もうそんな時期でしたか。俺忘れてましたよ……」
「まあ学校ではハロウィン関係のイベントとかは、特になにもなかったからね」
「ですね……それで、二人の仮装はなにモチーフなんですか?」
「それは家の中で話したいな〜」
「あっ、そうでした……どうぞ入ってください」
俺は先輩と、正直、あまり入れたくはないが竜崎を家に入れて、
リビングで話し始めた。
「それで、なんの仮装なんですか? とりあえず先輩から教えてください」
「ふふ、それはね……僕の名前がヒントだよ」
「名前がヒントォ……?」
先輩の名前は真央……だが、それのなにがヒントなのか分からない。
俺は一応、服装と関係があるかもしれないと思い、先輩の服装を改めてじっと見た。
今日の先輩の服は全体的に中世風の黒い服で、マントもつけており、
肩の部分には触り心地のよさそうなファーがあしらわれていて、
とても似合っている……が、なにモチーフかは分からない。
「分かんないですよ、答え教えてください〜」
「もお〜しょうがないね、答えは『魔王』さ。ほら、僕の名前は真央、つまり『マオ』だからね」
「なんですかそのダジャレみたいなヒント……そもそも魔王もいろいろな姿がありますから分かんないですよ。なんの魔王なんですか」
「第二形態で人外になるタイプの魔王さ」
「あ、そうですか……」
本当にその格好が魔王っぽいのかは分からないが、
先輩は似合ってるし、それでいいや。
「それじゃあ、竜崎のはなんなんだ?」
竜崎を見ると、貴族のような服装に、襟の高いマントを着ている。
「ハロウィンといえば、吸血鬼のコスプレがマストですわ」
「あ、そう」
正直、竜崎の仮装はどうでもいい……なんてことを思っていると、
竜崎が突然俺のそばに近づいてくる。
「なんか、先輩と比べて雑ですわね」
「い、いやそんなことは……」
「お仕置きですわ」
そう言うと、竜崎が俺の肩を掴み、口を開けて襲ってきた。
その口の中には、人間よりも大きく発達した犬歯が見え、
肩を掴んでくる万力のような力も合わさり、俺は死を覚悟した。
「い、いやあああああああああ」
「なーんて、冗談ですわ。ただこの歯を見せたかっただけです」
「お、脅かすなよ……」
「でも雑だと思ったのは本当ですわ」
「うぐ……」
俺が言い返せずにいると、先輩が俺に近づいてきた。
「な、なんですか先輩、もしかして助けて……」
「いや、君は仮装しないのかな〜って」
「はい?」
「りゅりゅも僕も仮装しているんだから、君もしないかな〜って」
そんなことを言われても、俺はハロウィンを忘れていたくらい、
準備もなにもしていなかったわけで、当然仮装の衣装なんてものもない。
「まあしたくないわけじゃないですけど……なにもないし……」
「ふふ、まあそれも仕方ないね。でも、そう言うと思っていたから、僕は用意をしてあるよ」
「え?」
「はい、これ」
先輩がどこからか包帯を取り出し、俺に渡してきた。
「えっと……これは……」
「包帯だよ。使ったことがなくて新鮮だから安心して」
「あんま包帯のこと新鮮って言わないですよ……」
「そういうこともあるさ、それじゃいくよ〜」
「えっ……ちょ、うああああ」
突然、先輩が包帯を巻きつけてきて、気づいた時には──。
「完成だよ、枕木君。りゅりゅ、手鏡をお願いするよ」
「はい、先輩」
竜崎の持っている鏡を見ると、俺は全身に包帯を巻きつけられ、
ミイラ男のようになっていた。
ところどころ包帯が垂れていて、いい感じになっている。
「これで枕木も仮装完了だね」
「はあ……」
「さて、そろそろハロウィンのメインイベントへ移ろうか」
そう言うと、先輩と竜崎が小さめのバスケットを取り出してくる。
ま、まさか……。
嫌な予感がしてくる。
「枕木君、トリックオアトリートだよ」
「ですわ」
やはり、俺の予感は当たってしまった。
なにがトリックオアトリートだ。
こんなのお菓子を渡さないといたずらしてくるなんて、ただのカツアゲだっ。
「いい返答……つまり僕たちはお菓子を待っているよ、枕木君」
「ですわ」
「まさかこれ目的だったとは……はあ、探してくるから待っててくださいよ」
俺は普段、お菓子を収納しているボックスを調べに行った。
そこには昨日、いっぱい食べたいと思って買ったポテチ二袋があった。
(これ渡したくないな……でも、他に渡すものないし、あの二人にいたずらされたらどんなことになるか分からないし、これを渡すしか……)
そして、俺はそれを持って、先輩たちに渡した。
「はい……どうぞ」
「わあ、ありがとうね、枕木君」
「ですわ」
どうやら、喜んでくれたみたいだ。
「……まあ、喜んでくれたなら良かったですけど、もう急に来てお菓子ねだったりしないでくださいよ」
「ふふ、ごめんね」
「ですわ」
「竜崎、それしか言わないな……あっ、そうだ、俺もお菓子欲しいです。あっ、でも今は持ってないですよね……」
「うん、今は持っていないんだ。ごめんね」
「ですわ」
お菓子が欲しいが、今は持っていない。
そこで、俺はいい案を考えた。
「その、今日はなくていいけど、あとで俺がそれぞれの家にトリックオアトリートしにいくのはどうですか」
「おや、それはいい案だね」
「ですわ」
「ふふん、その時はお菓子をくださいよ──」
そして後日、先輩の家へ行くと──。
「先輩、トリックオアトリート」
「ふうん」
「……あの、お菓子は」
「僕はトリックを待っているよ、枕木君」
「………………」
結局、先輩はなにもくれなかったので、
お望み通り、いたずらとして頬をつねってやって俺は帰った。
先輩のケチっ。
そして、どうせ竜崎の家でもお菓子は貰えないんだろうな、と、
半ば諦めながら竜崎の家へ向かうと──。
「おや、お待ちしておりましたわ。なにやら落ち込んでいますわね」
「ん、いや気にしなくていいよ、それよりトリックオアトリート」
「はい、お菓子ですわ」
竜崎がデパートに売っていそうな高級お菓子をたくさん渡してくる。
「え、あっ、こんなにい、いいのか?」
「ええ、急にお邪魔したお詫びもありますので」
「りゅ、竜崎〜ッ」
「うげっ、急にひっつかないでくださいッ」
──今年のハロウィンで分かったのは、竜崎はとっても優しくて美しい人だということと、
先輩はケチでケチなケチな人だということだ。
先輩のケチ、お菓子をよこせ──。
「ハロウィン」のおまけ
ハロウィンから数日が経ったあと、
先輩が俺の家にやってきた。
「先輩、どうかしましたか?」
「はい、これ。開けてみてほしいな」
先輩が小さい袋を渡してきた。
先輩の指示通り、開けてみると、中にはかぼちゃの形をしたクッキーが入っていた。
「先輩、これって……」
「ほら、僕はお菓子をあげなかっただろう? でも、申し訳ないと思ったからトリートを持ってきたのさ」
「先輩……ありがとうございます」
「ふふっ、あ、それともう一つお返しがあるんだ。少ししゃがんでほしいな」
「え、な、なんですか〜仕方ないな〜」
そして、俺がお返しにワクワクしながらしゃがむと、
先輩は俺の頬をつねってきた。
「いだだっ、なにずるんでずかっ」
「お返しだよ。痛かったからね」
「ぞ、ぞのお返じはいらないでずうっ──」
しばらく頬をつねられたあと、
俺は叫んだりしたせいかお腹が空いてきたので、先輩のクッキーを食べた。
「お、おいしいっ。サクサクでほんのりかぼちゃの味がして……」
「ふふ、頑張って作ったからね」
先輩は根に持つタイプだったが、お菓子はとても美味しく、
それだけで許せてしまう。
……やっぱ、痛かったから許せない──。
「11月10日締め切り」第1回人気投票 どのキャラが一番好きですか?
-
月城真央(真央先輩)
-
枕木遊星
-
竜崎竜奈(りゅりゅ)
-
月城理央(リオさん)
-
先輩のお母さん(フレイヤさん)