男の娘な真央先輩は俺を放っておかない   作:ろあタルト大福

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第34話 R-15有り 「YES NO枕&購買&スケッチ」

 R-15有り 「YES NO枕」

 

 

 いつものように、放課後、校門のそばに立っている先輩に会い、

ちょっとした学校への愚痴などを軽く話したあと、

俺が帰ろうとすると先輩が俺の手を掴み、引き留めてきた。

 

「え、なんですか先輩」

「このあと予定はあるかな? 予定がないなら……」

「あ、もしかして俺と遊びたいんですか。予定ないし全然OKで……」

「僕の家に泊まってほしいな」

「はいっ?」

 

 突然の誘いに驚き、腰を抜かしそうになってしまう。

 

「いや急に言われても……」

「ダメかな、ご飯も僕が作るし、僕と一緒に寝れるよ」

「それは魅力的ですけど……」

「ダメなら諦めるけれど、僕は来てほしいな〜」

 

 先輩が上目遣いでこちらを見ながら、甘い声で囁いてくる。

……先輩はズルくて小悪魔のようだ。

そんなことをされたら、俺は断れなくなってしまう。

 

「はあ、分かりましたよ。ちょうど家に早く食べないといけないものもないですし」

「ふふ、嬉しいよ。さて、君の家へ行って着替えを取りに行かないとね〜」

 

 先輩は俺の手を握ったまま、俺を先導するように家まで向かい始めた。

なんにしろ一回家には戻ろうと思っていたが、どうして先輩に先導されているのだろうか。

……まあ、先輩だしいいや。

 

 そして俺の家に着き、外で待っててもらうのも申し訳ないので先輩も家に入れ、

俺は急いで持っていくものを集め、鞄に詰めた。

 

「よし、準備終わりましたよ〜先輩」

「おや、もう終わったのかい。もう少しゆっくりでもよかったのに」

 

 リビングで待っている先輩の元へ向かうと、

先輩はソファーでクッションを抱き抱えながらくつろいでいた。

 

「……楽しそうですね、先輩」

「楽しいさ。枕木君が誘いに乗ってくれた上に、枕木君の家にも来れたんだからね。はあ〜、ここは落ち着くよ」

「はいはい、行きますよ先輩」

「むぐ〜」

 

 俺はこのままだと先輩はずっと俺の家にいそうだと思ったので、

先輩をクッションから引き離し、そのまま抱えて家を出た。

 

「むう、僕はもう少し君の家でゆっくりしたかったのだけれど」

「そんなことしたら暗くなるまでいそうですからね。ほら、暗くなる前に行きましょう」

「ふふ、そうだね。じゃあ行こうか」

 

 俺は抱えていた先輩を地面に下ろし、先輩の家へ向かい始めた。

道中「なんで急にお泊まり誘ったんですか?」と聞いてみたが、

「……きっと、後で分かるよ」とはぐらかされてしまった。

そんなこんなしていると先輩のマンションへ着き、エレベーターに乗って、

最上階まで行き、先輩がドアの鍵を開けると──。

 

「あら、遊星じゃない〜いらっしゃい」

「ほんとに、遊星君だあ〜へへ」

 

 玄関では、リオさんとお母さんが待っていた。

 

「お、お邪魔します。というか、待ってたんですか?」

「そうよ、マオが朝に『今日は枕木君をお泊まりに誘うから』って言うからね。ふふふ、朝は無理だろうと思ってたけどさっきメールで『誘うのに成功したよ』って来たから待ってたのよ」

「そ、そうでしたか」

 

 朝から俺を誘おうとしていただなんて、先輩はなにか企んでいるのだろうか。

そのあと家に入り、手洗いとうがいを済ませてからリビングへ向かい、

荷物をどこへ置こうか悩んでいると先輩が話しかけてきた。

 

「荷物をどこへ置くかお悩み中のようだね」

「あ、先輩。そうなんですよ、いつもの使ってない部屋に案内されるかと思ったけど、なにも言われなくて……」

「ふふ、別にお母さんか誰かに聞けばいいのにね。まあ、そんなところも君らしいよ」

「うぐぐ……そ、それでどこに置けば……」

「こっちさ。ついておいで」

 

 先輩に案内されて歩いていくと、先輩の部屋の前に着いた。

 

「えっと……ここって……」

「そう、僕の部屋さ。君は今日、荷物をここに置くし寝るのもここだよ」

「え゛っ」

「嫌かな?」

「い、嫌じゃないですしむしろ嬉しいですけ……」

「なら大丈夫だね。ほら、入るよ」

 

 俺がまだ話している途中だというのに、先輩は俺の手を掴んできて、

そのまま部屋の中まで引きずりこまれてしまった。

……先輩の部屋の中は、いい匂いがしてくる。

大きく深呼吸をしたい気分だ。

 

「ふふっ、僕の部屋に入れて嬉しいだろう? 枕木君」

「え、あ……はい」

「そうだろうね、君は僕の部屋に入ると気持ちの悪いことを考え始める」

「なっ、勝手に顔見ないでくださいっ。あ、あと気持ち悪くないですっ」

「ふふふ、ほら荷物を置いて、なにかして遊ぼうよ、お姉ちゃんも待っているだろうし」

 

 そう言うと、先輩は俺が荷物を持っている手を優しく下ろし、床に荷物を置かせたあと、

再び手を取って、俺をリビングへと引っ張っていった。

 

 そして、リオさんと格闘ゲームをしたらボロ負けしたり、

その後お母さんとやったら、お母さんがあまりにも弱かったので、少し手加減したりしながら楽しんでいると──。

 

「ご飯が出来たよ」

 

 先輩の声がキッチンの方からしてくる。

「もうご飯が出来たんだ」と思いながらダイニングテーブルへ向かうと、

そこには牡蠣フライに牡蠣のアヒージョなど、牡蠣料理がたくさん置いてあった。

 

「す、すごいですね。これ一人で作れるものなんですか?」

「頑張ったのさ」

「頑張ったらどうにかなるものでもないような……というか、先輩って牡蠣好きなんですね。こんなに牡蠣料理作って」

「……特別好きなわけではないけれどね」

「え?」

「ほら、熱いうちにいただこうか」

 

 好きでもないのにこんなにたくさん牡蠣を食べたいなんて珍しい。

それともリオさんかお母さんが好きなんだろうか、と思い聞いてみたが、

どうやらこの牡蠣料理は先輩が作りたいと言ったらしい。

俺は「好きでもないのになんで牡蠣を……」と思っていたが、

食べ始めると美味しかったので、その疑問は薄れていった──。

 

 ──美味しかったからか、あんなにあった料理もあっという間にテーブルからなくなり、

「食べ終わった〜」と思っていると先輩からりんごジュースを渡された。

 

「なんですかこれ?」

「大事なことだからね」

「はあ、まあ好きだから飲みますけど」

 

りんごジュースを飲み、しばらく経ってからお風呂へ入った。

少し先輩が来ないかな〜と思いながら待っていたが、先輩がお風呂に来ることはなかった。

 

そのあと、お風呂上がりに再びリオさんたちとゲームをして遊んでいると、

いつのまにか寝る時間になってしまい、俺はとりあえず歯磨きをしに向かった。

すると、先輩が歯磨きをしながら、俺をじっと見つめてきた。

 

「な、なんですか」

「歯磨きの前にこれを飲んでほしいな」

 

 先輩がなにかビーズのようなものを渡してくる。

 

「これは……」

「ブレスをケアするやつさ。にんにくを食べたからね」

「なるほど」

「ちなみに今日は歯磨きのあと、うがい薬もしてもらうからね」

 

 俺はなんでそんなに……と思ったが、

よく考えたら近くで寝るので当然だと思い、

先輩と共にブレスをケアし、歯磨きとうがいを済ませた──。

 

「……さて、歯磨きも終わったし、僕の部屋に行こうか」

 

 そう言った先輩の顔はなぜか赤く見えたが、俺の勘違いだろうと思い、

なにも言わずに先輩の部屋へ入った。

 

「ねえ、枕木君。元気は出たかな?」

「え?」

「……牡蠣は元気になると言われているのさ」

「ああ、だから牡蠣料理出してたんですね、まあ、そんなすぐに効果出ないと思いますし、俺はいつも元気ですけどね。ははっ」

「……そっか」

 

 すると突然、先輩に「扉の辺りで下を向いて待っててほしいな……」と言われ、

なぜだろうと思いながらも、指示通り待っていると、先輩に「……もう見ていいよ」と言われたので先輩の方を見た。

 

 すると「YES」と書かれた赤い枕を先輩が抱き抱えている。

その先輩の顔は、枕よりも赤く染まっているように見えた。

 

「あの、そんなに顔赤くしてどうし……」

「枕木君……僕は『YES』だよ。その……準備とかもお風呂でしたから、君が嫌じゃなかったら……」

 

 先輩が消え入るような小声で話してくるが、俺には意味が分からない。

なにがYESなのか、なんの準備なのかも。

 

「あの、それはなんの『YES』なんですか」

「……僕にそれを言わせたいんだ、スケベ」

「なーんでスケベになるんですかっ。意味を教えてくださいよ」

「……本当に分からないのかい?」

 

 そう言うと、先輩は俺の顔を見つめてくる。

 

「本当に知らないんだ……」

「そうですよ、そもそもなんですかその枕」

「……知らない」

「じゃあ俺、調べますよ。えーっと赤い『YES』の枕、意味……」

 

 そして、検索ボタンを押そうとした瞬間、先輩が目にも止まらぬ速さで、

俺からスマホを奪ってきた。

 

「ちょ、ちょっとなにするんですかっ」

「調べたらダメ……」

「え?」

「し、調べたら枕木君には今日、床で寝てもらうことになるだろうね……」

 

 先輩は恥ずかしさのせいなのか、真っ赤に染まった顔でそう言った。

 

「はあ、分かりましたよ。先輩が調べてほしくないなら調べませんから。もう寝ましょう、夜も遅いですし」

「むう……」

 

 俺は先輩と一緒にベッドに入ってから、電気を消した。

……不満を表しているのか、先輩が人差し指で俺のお腹をつんつんしてくる。

しかし、なぜ不満なのか聞いても先輩は答えてくれなかった。

なぜ顔を赤くしていたのか、枕のYESの意味とは、その真相は闇の中だ──。

 

 

 

 「購買」

 

 

 それは三人で仲良くお弁当を食べようとしている時だった……。

 

「それじゃあ、そろそろいただこうか」

「ですわね」

「ですね、それじゃいただきま……」

 

 俺がいただきますを言いかけた瞬間、

視界が茶色の物体かなにかに埋め尽くされ、

その直後、風を切るような「フッ」という音と共に、茶色の物体は俺の視界から消え、

同時にお弁当も俺の手から消えてしまった。

 

「え、あっ、え?」

 

 俺が、なにが起きたのか処理しきれずにフリーズしていると、

上空から「ピーヒョロロ」という鳴き声のようなものが聞こえ、

鳴き声の方を見ると、そこには鳥が爪でお弁当箱を掴みながら飛んでいた。

そして、それを視認したことで、俺はようやくなにが起きたか理解した。

 

「俺のお弁当返せーっっっッッ」

 

 お昼ご飯のお弁当を取られた怒りで、感情にまかせて俺は叫んだ。

しかし、返ってくるのは「ピーヒョロロ」という俺を嘲笑うかのような鳴き声だけだった……。

 

「くっそお……あの鳥め……」

「枕木君、怪我とかはないかい?」

「え、ああ、お弁当をピンポイントで取られたから怪我はないですけど……お弁当……」

 

 鳥はもう、学校の屋上よりもはるかに高い場所へいる。

俺がお弁当は取り返せないだろうと思い、ぐったりしながら先輩に寄りかかっていると、

竜崎が突然ベンチから立ち上がって、地面に落ちている小石を拾った。

 

「竜崎、なにして……」

「私がなんとかしますわ」

 

 そう言うと竜崎は小石を親指で勢いよく弾き飛ばし、鳥がお弁当を掴んでいる足に命中させ、

その衝撃で鳥はお弁当を離し、フラフラと体勢を崩しながら、どこかへ飛んで行った。

 

「お、おいあの鳥大丈夫なのかよ」

「規則かなにかに引っかからない程度に加減したので大丈夫ですわ、多分」

「多分って……」

 

 多分という曖昧な言葉に少し不安になったが、

そのあと、はるか上空から落ちてくるお弁当を竜崎がなんなく受け止め、俺に渡してくれた。

 

「はい、お弁当ですわ」

「あ、ありがとう竜崎」

「すごいね、りゅりゅ」

 

 ……正直、飛んでいる鳥の足に正確に当てるのはすごいとかそういう次元でもない気がするが、

お弁当が返ってきたのでよしとする。

 

「ふう、竜崎のおかげでお弁当が返ってきたし、改めていただきま……」

「ちょっと待って枕木君」

 

 今度は先輩が急に止めてきた。

 

「な、なんですか、俺お腹空いたんですけど……」

「りゅりゅが取り返したのは凄いと思うよ。だけれど、僕は野生の鳥が触ったものを食べるのは危ないと思うんだ」

 

 その言葉に、俺はハッとした。

確かに野生動物が触ったものなんて俺は食べたくない。

いや、爪が触れてたのはお弁当の箱部分だけだが、それでも不安だ。

 

「まっ、お弁当箱が戻ってきただけ良しとするか。せっかく頑張ってくれたのにごめんな、竜崎」

「いえ、先輩の指摘はもっともですし、気にしてませんわ」

「はあ、それにしても俺のお昼ご飯が……お弁当を分けてくれたりは……」

「それは無理だね」

「無理ですわ」

 

 速攻で断られてしまった。

どうやら今日の二人は、俺を心配したり、お弁当を取り返してくれたりはするが、

お弁当を分けてくれることはないらしい。

 

「な、なんで、前には分けてくれたじゃないですかああ」

「僕は、午前最後の授業が体育でお腹が空いているのさ」

「あ〜、それはしょうがないですね。竜崎はどうなんだ?」

「私は今日はたくさん食べたい気分なので無理ですわ」

 

 ……それなら分けてくれよと言いたくなったが、

取り返してくれた恩があるので俺はなにも言わずに、その言葉をグッと胸の奥にしまい込んだ。

 

「……はあ、なら一人寂しく食堂でも行ってきますよ」

「それなら、購買に行ったらいいんじゃないかな枕木君。買ってからここへ戻ってこられるよ」

「お〜なるほど、それはいい案ですね。それじゃ俺行ってきます」

 

 そして、俺は二人に手を振りながら校舎へ入り、一応鳥の菌を洗い流すために手を洗ってから購買へ向かった。

 

(購買か、聞いたことあるけど使ったことはないな。いつもお弁当だったし。こういう機会でもないと行かなかったし、不幸中の幸いなの……か?)

 

 そんなことを思いながら、俺は購買へ行き、品揃えを見た。

 

(パンにおにぎり、あと唐揚げだったり結構売ってるんだな……よし決めた)

 

 俺はチキンカツサンドと唐揚げととり五目おにぎりを選んだ。

選んだ理由はもちろん、鳥への仕返しだ。

なんだったら今日の夜ご飯も親子丼にする。

そして、選んだ物を持ってレジに並んでいると、先輩が来た。

 

「あれ、先輩も来たんですか?」

「うん、せっかくだしなにか一品買おうかなって」

「へえ、お腹空いてるんですね。そういえば、竜崎はいないんですか? あいつも買いに来そうですけど……」

「ん? りゅりゅと一緒に来たよ」

「え?」

 

 俺は辺りを見回してみたが、竜崎の姿はどこにもない。

 

「い、いませんよ。大丈夫ですか、体育で疲れてるなら休んだ方が……」

「僕の後ろだよ」

「はあ」

 

 確かに先輩の後ろに人はいるが、そこにいるのはメガネをかけ額にバンダナを巻き、

リュックを背負ったステレオタイプのオタクみたいな格好のやつだ。

この学校はリュックなんて使わないから、とても目立っている。

しかし、よく見ると背丈が竜崎と同じような……。

 

「も、もしかして」

「気付いたようだね、枕木君。りゅりゅは目立つから変装しているのさ」

「は、はあ……」

「デュフフ、拙者は目立ってしまうので変装したのでござるよ。枕木氏」

 

 竜崎が人気者で、目立つのを避けたいのは分かるが、

変な変装したせいで逆に目立っているし、口調までオタクっぽくする意味なんてないと思うが……。

まあ、いいや。

 

 そして、俺は先にお会計を済ませ、いつもの場所へ戻って待っていると、

購買でいろいろと買った先輩と竜崎も戻ってきて、

俺たちは改めていただきますをして、食べ始めた。

 

「うーん、ここの購買の美味しいですね」

「だね、枕木君」

「確かに美味しいでござるよ。この学校の食事は美味しいと言わざるを得ないですなw」

「いやもう口調は戻していいだろ竜崎……」

 

 そのあと、俺たちは買ってきた物をあっという間に食べ終わり、

少し話したあと午後の授業に備えて教室へ戻った。

……竜崎がいつのまにか変装をやめ、いつものキリッとした姿に戻っていた。

先輩もそうだが、竜崎もよく分からないやつだ。

 

 それはともかく、お弁当を取られた時はどうなるかと思ったが、

購買へ行くきっかけもできたし、いい一日だったのかもしれない──。

 

 その日の帰り道──。

 

 俺は菌が他につかないように袋へ入れたお弁当箱を見ながら帰っていた。

 

(はあ、帰ってきてよかったよ。なんだかんだでずっと使ってるからな。しかし、仕方ないとはいえ中身がもったいな……)

 

 その瞬間、視界が茶色に埋め尽くされた。

なんと、鳥がまた俺のお弁当を盗みにきたのだ。

 

「はあっ、ざっけんなあッ、返せあほーーッ」

「ピーヒョロロ」

 

 このムカつく鳴き声は間違いない、昼の鳥だ。

 

「竜崎がいないからって舐めやがってえ……俺だってお前の足にくらい当てれるわああッ」

 

 俺は竜崎の真似をして小石を投げつけたが、ちっとも当たらず、

鳥が俺の頭上で回転しながら「ピーヒョロロ」と鳴いてくる。

結局、俺は石を当てることができず、運良く近くにいた竜崎に、また取り返してもらった。

お弁当を狙う鳥には気をつけよう──。

 

 

 

 「スケッチ」

 

 

 午前の辛い授業を終えた俺は「先輩に会えるぞ〜」とウキウキしながら、いつもの場所へ向かった。

すると、先輩がノートと鉛筆を手にベンチに座っていて、

その顔は、なにかに集中しているのか普段よりも真剣に見えた。

 

(先輩なにやってんだろ? 邪魔しない方がいいかも……)

 

 などと思いながら、俺が木陰から先輩の様子をうかがっていると、

先輩から声をかけられた。

 

「枕木君、木に隠れてどうかしたのかな?」

「えっ、バレてたんですか」

「うん、君がいつ話しかけてくれるか待っていたけれど、なかなか来ないからつい僕から話しかけてしまったよ。ほら、おいで枕木君」

「あっ、は、はい」

 

 俺は木から離れ、先輩の隣へ座った。

 

「やあ、枕木君。今日はりゅりゅは生徒会長選挙の対策のために来れないそうだよ」

「あ、ああ、そうですか」

 

 竜崎は本当に生徒会長になるつもりなのだろうか。

というか、対策ってなんなんだ……?

ただ、それより気になるのは先輩がなぜノートなどを持っているかだ。

 

「せ、先輩そのノートと鉛筆はなんのために……あとさっき真剣な表情でなにを……」

 

 そう疑問を投げかけると、先輩は俺の顔を見つめ、軽く笑いながら質問に答えた。

 

「これは『スケッチ』さ。午前の授業で美術があってね、その影響でやってみたくなったのさ」

「あ、そういうことだったんですか」

「ふふ、それにしても僕の邪魔をしないようにしてくれてたなんて、君は優しいね」

「い、いやそれは……」

「ふふっ、さてとりあえずお昼を先に食べようか」

 

 先輩はノートと鉛筆を鞄にしまい、お弁当を取り出した。

 

「ですね、食べましょうか──」

 

 俺もお弁当を取り出し、先輩と一緒に食べ始めた。

そして楽しく会話をしたりしていると、あっという間にお弁当を食べ終わった。

 

「ふう、ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした。ふふ、今日は鳥が来なくてよかったね」

「思い出させないでくださいっ」

「ふふっ、さてそれじゃあ僕はスケッチを始めようかな」

 

 先輩が再びノートと鉛筆を取り出し、風景を真剣に観察しながら、鉛筆を動かし始めた。

俺が邪魔にならないようにその様子をじっと見つめていると、先輩が話しかけてくる。

 

「枕木君」

「えっ、あっ、ご、ごめんなさい。邪魔でしたか……?」

「違うよ。そんな黙って見つめずに、話しかけてもいいよって伝えたかったんだ。僕は話しかけられても気にしないタイプだからね」

「あ、そ、そうでしたか」

 

 先輩に怒られたわけではなくて、俺は少し安心した。

 

「そ、それじゃあ質問してもいいですか」

「もちろんさ」

「美術の授業の影響でデッサンをしたくなったって言ってましたよね。授業の内容はなんだったんですか? デッサンの実技とかですか?」

「美術史だよ」

「はあ」

 

 実技ではなく歴史を学んで書きたくなるものだろうか、と俺が少し疑問に思っていると、

それを見透かされたのか、先輩が口を開いてくる。

 

「枕木君、今『なんで?』って思っただろう? 別に歴史を見てもやりたくなることはあると思うよ」

「え、あっ、なぜ俺の思考を……」

「ふふ、君の考えは顔を見てなくてもある程度分かってしまうのさ。ただ、僕も歴史を見ただけではスケッチをやろうとは思わないかな。ただ、今日学んだ歴史は少し気になってね」

「……というと?」

「カメラが登場したあたりの話だったかな。肖像画や風景画だったりが写真に置き換わっていって、新たな表現が生まれていく……という歴史でね。それを聞いた僕は、なんだか風景を描きたくなったんだ」

 

 その答えに、俺は首を傾げてしまった。

風景画が写真に置き換わっていった話を聞いて、風景を描きたくなるのだろうか?

それこそ写真でいいのでは……などと思っていると、再び先輩が見透かしたように口を開く。

 

「枕木君、今『写真でいいじゃないか』って思っただろう?」

「えっ、なぜそれを……」

「ふふ、さっきも言ったけど君の考えは分かってしまうのさ。まあ、確かに風景をそのままなら写真でいいのかもしれないね。けれど、写真は風景そのままでも人が描いたものはその人が見ている世界を写し出せると思うんだ」

「は、はあ」

「まあ少し小難しいことを言ったけれど、ただ単に僕が書きたくなっただけなんだけれどね。あ、そうだ。枕木君、向こうに立ってくれるかな?」

 

 そう言うと先輩は、先ほどまで観察していた場所を指差した。

 

「ほら、そこに立ってほしいな」

「風景を描いてたんじゃないんですか……」

「ん? 君のことも描きたいと思っただけさ。ふふ、僕が見ている世界の君を描いてあげるよ」

 

 先輩が笑いながらそう言ってくる。

 

「はあ、そういうことなら分かりましたよ。俺も先輩が描いた自分が気になりますしね」

「ふふ、ありがとうね。それじゃあそこに立って、あっポーズは取らないで自然体でね──」

 

 そして、俺は先輩に指定された場所にじっと立ち続け、

午後の授業十分前のチャイムが鳴る頃、先輩が立ち上がった。

 

「できたよ、枕木君」

「おお、ようやくですか。見せてくださいよ」

「もちろんさ。はい」

 

 先輩がノートのページをこちらに向け、描いたものを見せてくる。

そこには木々に囲まれ、木漏れ日を浴びながら佇んでいる俺が描かれていた。

なんというかとても……神々しい。

けれど、少し俺を美化しすぎのような。

 

「えっと、なんか俺すごい森に住む上位存在みたいになってるし、顔もなんかすごい耽美に描かれてますけど……」

「君は……僕にはこう見えているということさ」

 

 先輩はまぶたを軽く下げ、伏し目のまま妖しく笑いかけてきた。

その美しく、視線を吸い込まれるような笑みを、俺は息をするのも忘れて見つめ続けた──。

 

「ふふっ、さてチャイムも鳴ったし僕は教室へ行くよ枕木君」

「え、あっ、お、俺もそろそろ行かないと」

「……あ、そうだこれあげるよ枕木君」

 

 先輩は俺の描かれたページだけを綺麗に破り、俺に渡してくる。

 

「え、いいんですか」

「うん、いらなければ大丈夫だけどね」

「い、いやっ、欲しいですっ。先輩が描いたやつですし」

「……そっか。それじゃ、またね枕木君」

「さようなら、先輩」

 

 そうして、俺は先輩からノートのページを受け取ったあと教室へ向かった。

そしてその日の夜──。

 

「んしょ……おっ、いい感じだ」

 

 俺は帰りにお店に寄って額縁を買い、先輩から貰ったものを入れて家に飾った。

それにしても、先輩は俺のことをこんな風に見ていたとは知らなかった。

そして、何度も額縁の中を見ているうちにこう思った。

「俺ってイケメンだなあ──」と。

「11月10日締め切り」第1回人気投票 どのキャラが一番好きですか?

  • 月城真央(真央先輩)
  • 枕木遊星
  • 竜崎竜奈(りゅりゅ)
  • 月城理央(リオさん)
  • 先輩のお母さん(フレイヤさん)
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