真央先輩はおとこ♂の娘    作:ろあタルト大福

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第6話 「カラオケ&姉」

 「カラオケ」

 

 俺たちは今、三人でカラオケにいる。

近くに新しくカラオケができたらしいので来てみたが、かなりワクワクする。

 

 学校の先輩や同級生とカラオケ…まさに俺が望んでいた学生生活だ。

……が、現在俺たちはポテトをつまんでいるだけで、

誰も、一曲も歌っていない。

カラオケボックスの中は気まずい空気が流れている──。

 

「……そろそろなんか歌いませんか」

『じゃあ、最初は君に譲るよ』

「私も先輩と同意見です」

「なんでそんな押し付ける感じなんですか!?」

『人前で歌うのはあまり経験がなくてね』

「私も先輩と同意見です」

「お前それしか言わないな……」

 

そんなこんなでしぶしぶ俺が最初に歌うことになった。

 

(しかし何を歌おう……)

 

何を歌えばいいのか悩んでしまう。もし俺が選んだ曲を二人が知らなかったら、

間違いなく今より気まずい空気が流れてしまうだろう。

俺はとりあえず、二人も知っていそうな有名な曲を歌った──。

 

「ふう」

『いい歌唱力だったよ』

「私も先輩と同意見です」

「あのなあ竜崎……」

 

そう言った瞬間、画面に点数が表示された。

そこには88点と出ている。

 

『枕木君は88点だって』

「……そうだ、せっかくなら点数を競いませんか?」

『それは名案だね、負けた人にはカラオケ代を払ってもらおうかな』

「私も先輩と同……」

「もう分かったよ!」

 

 順番を決めるために先輩と竜崎がじゃんけんをし、

先に竜崎が歌うことになった。

曲は俺が最初に歌ったものだ。

 

『いい歌声だったよ、りゅりゅ』

 

 確かに竜崎の歌声は素晴らしかった。

実は歌手ですと言われても驚かないほどに。

 

「お褒めの言葉ありがとうございます、さて私は何点でしょうか」

 

モニターには95点と表示されている。

 

「おお」

『これはすごいね、さて次は僕の番だね』

 

 ついに先輩の番だ。

そういえば、俺は先輩が歌うのを見るのは初めてだ。

 

 先輩は上手いのだろうか?俺的にはカラオケ代を払いたくないから、

あまり上手くない方が嬉しい。

だが先輩には歌が上手くあってほしいというのもあって、

内心、複雑な気持ちだ。

 

『悪いけど、今日の代金は枕木君が払うことになるだろうね』

 

 そう言うと先輩は歌い始めた。

先輩の声は綺麗で、それでいて引き込まれるようだ。

気づくと、いつのまにか曲が終わっていた。

 

『どうだったかな?』

「やはり真央先輩は素晴らしいです」

「な……なんかすごかったです」

『ふふっ、ならよかったよ』

 

 モニターには100点と表示されている。

 

『これで今日の支払いは枕木君になったわけだね』

「あっ」

 

 先輩の素晴らしさですっかり忘れていた。

どうして点数勝負なんてしてしまったのだろうと後悔していると、

先輩がこちらの顔を覗き込んできた。

 

『まあでも、負けた人が払うっていうのは僕が言い出したことだし』

『君に全部払わせるのも悪いから、僕も半分払うよ』

「先輩…・」

「私は払いません」

「竜崎い!!」

 

 なんだかんだで、今日もいい一日だった──。

 

 

 

 「姉」

 

 

 俺は今、人生で一番気分が良い。

それはなぜか……昨日の夜、先輩からこんなメールが来たからだ。

 

【先輩】 『明日は暇かな?もしよかったら僕の家においでよ』

 

と誘われたからだ。

人の家に遊びに行くのは、生まれて初めてだ。

竜崎の家は勉強のためだったのでノーカウントとする。

 

 それはともかく、先輩の家に誘われるなんて、

しかもどうやら竜崎は来れないらしく、二人きりらしい。

竜崎には悪いが、正直嬉しい。

 

 そして俺は、いつも以上に身だしなみを整えて、

先輩の家へと向かった。

道中、先輩と二人きりということは、

あんなことやこんなことがあるかもしれない…などと邪な妄想を膨らませていると、

ようやく先輩の家に着いた。

 

 先輩の家は、高層マンションの最上階らしい。

竜崎といい、俺の知り合いは金持ちばかりなのだろうか?

エントランスを見回すと、先輩が待っていた。

 

『やあ』

「あっ、どうも……」

『ふふっ、じゃあ行こうか』

 

 俺は先輩に連れられ、エレベーターに乗って移動した。

 

『ここが僕の家だよ』

「おお……」

 

 どうやら、最上階の1フロア全てが先輩の家らしい。

俺は住んでる世界の違いに息を呑んだ。

玄関を通り、リビングへ行くと、テレビでしか見たことがないような、

おしゃれで広い部屋が見えた。

 

「……すごいですね」

『でしょ』

『じゃあ僕の部屋へ案内するよ』

 

 先輩に案内されている途中、俺は気になる部屋を見つけた。

その部屋のドアには「リオのへや」というプレートがかかっている。

そういえば、先輩にはお姉さんがいるんだったか。

 

 おそらくその部屋はお姉さんの部屋なのだろう。

そんなことを考えていると、先輩の部屋に着いた。

 

『僕は飲み物と、お菓子を持ってくるから先に入ってて』

「あっ、はい」

『それと…あんまり僕の部屋から出たらダメだよ』

「……わかりました」

 

 そう言うと先輩はキッチンの方へと行った。

俺はなんで部屋から出たらダメなんだ?と思いながら、先輩の部屋へと入った。

部屋の中はとても良い匂いがする。先輩が住んでるからだろう。

 

 俺はめいっぱい空気を吸い込もうとしたが、

さすがにそれは気持ちが悪いのでやめておいた。

俺が先輩の部屋にドキドキしていると、

先輩が戻ってきた。

 

『おまたせ、なにして遊ぼうか?』

 

 そうして、俺は先輩とポーカーで遊んでボロ負けしたり、

レースゲームで甲羅をぶつけられてボロ負けしたり、

格闘ゲームでボロ負けしたりした。

 

「ちょっと手加減してくださいよ!」

『ふふっ、ごめんね、でも君は手加減されたら気にするかなって』

「まあ、確かに……」

『でも負けっぱなしもあれだろうし、次は君がなにやるかを決めていいよ』

「うーん……」

 

 俺は先輩に勝てそうなものを思いついた。

 

「腕相撲をやります」

 

 俺がそう言うと、先輩は少し目を丸くしたあと、

口角を上げながら『……勝ちに来たね』と言ってきた。

 

「そりゃ勝ちたいですもん」

『ふふっ、いいよ、さあやろうか』

 

 そして俺は先輩と腕を組み、勝負を始めた。

 

「じゃあ俺が合図だしますから、それで始めますよ」

『うん、さあやろうか』

「行きますよ……レディ……ファイト!」

『うぐっ』

 

 

 圧勝してしまった。

俺が勝ちたさで、力がいつも以上に入ったのもあるだろうが、

思ったよりも先輩の力が弱かった。

 

「だ、大丈夫ですか」

『か……構わないよ、僕はあまり力勝負は得意じゃなくてね。それより、勝者にはご褒美で、僕がなにか一つ言うことを聞いてあげるよ』

「急になんですか」

『気にしないで、ほら言ってみてごらん』

「そう言われても悩みますよ……」

 

 なんで先輩は急にこんなことを言い出したかは分からないが、

せっかくなら何かしてもらおう。

 

「俺と抱き合うとかどうですか」

『……』

「あっ、いや冗談ですよ、いやほんとに」

『いいよ』

「えっ」

『ほら、おいで』

 

 いつのまにか主導権が先輩に握られている気がするが、

そんなことはもはやどうでもいい。

先輩が腕を広げて待っている。

 

 これはもう行くしかない。

俺が先輩へ向かっていったその時だった。

ドアの向こうから「まお〜」と声が聞こえてきた。

それを聞いた先輩は、ガッカリした表情になったあと、

扉の向こうへ行った。

 

 俺もガッカリしてしまった。

せっかく先輩と抱き合えると思ったのに…。

そう思っているとドアの向こうから話し声が聞こえてきた。

 

『どうかしたの、お姉ちゃん』

(さっきの声は先輩のお姉さんだったのか)

「だって、その……落ち着かなくて……知らない人が家にいるから……」

 

 どうやら俺は不審者扱いされているらしい。

 

『昨日言ったじゃないか、僕の友達を連れてくるって』

「知ってるけどお……だってぇ……」

 

 お姉さんの声は小さくてよく聞こえないので、

俺はドアに耳を当てて聞くことにした。

 

『はあ、しょうがないね、枕木君に今日はお開きだって伝えるよ』

 

 そう言うと先輩はドアを開けた。

だがドアに耳をすませていた俺は、急にドアを開けられたことで体勢を崩し、

部屋の外に倒れてしまった。

 

『あ、枕木君だ』

「あ……ど、どうも」

「びええ……」

 

お姉さんはパジャマ姿で見た目は先輩と瓜二つだった。

だが、髪の色は金色で、目元には少しクマがあり、先輩よりなんというか、幼く見えた。

 

『ここまできたらせっかくだし紹介するよお姉ちゃん。この子が枕木君だよ』

「先輩にはいつもお世話になってます……あはは」

『お姉ちゃんもせっかくなら、自己紹介してみたらいいんじゃないかな』

「……理央《りお》です……」

「あっ、どうも……」

 

気まずい空気が流れている──。

 

 

 先輩の家に遊びに行っていた俺は、ひょんなことから先輩のお姉さんと出会ってしまい、

そのせいで気まずい空気が流れているのだった──。

 

「じゃ……じゃあ俺はそろそろ帰りますね」

『えー、もう帰ってしまうのかい?』

「いや先輩が、さっきお開きって言ってたじゃないですか……」

『そうだけど、まあいいかなと思って』

「いやいや、お姉さん……リオさんに迷惑かなと……」

「わ……私は顔見られたからもうなんでもいい……」

「あっ、そうですか……」

『じゃあもう少し遊ぼうか』

 

 そして俺は先輩と部屋へ戻った。

だがさっきのことが気になって遊びに集中できないし、

なによりお姉さんがドアから、こちらを覗いてきているのが気になる。

 

『どうかしたのかな?』

「えあ…別に……なんでも……」

『もしかして……お姉ちゃんも一緒に遊びたいのかな?』

「びえっ」

 

 どうやらお姉さんは図星だったようだ。

 

『枕木君もいいかな?』

「自分はぜんぜんいいですよ」

『じゃあおいで、お姉ちゃん』

「うん……」

 

 そう言うと、お姉さんは先輩の膝の上に座った。

先輩の膝の上は落ち着くのだろうか、さっきまでより表情が明るい気がする。

俺も座ってみたい。

 

『ふふっ、今度、枕木君も座らせてあげるよ』

「な、なんで分かったんですか」

『顔に出てるからね』

「ま……マオの膝上は私の場所だぞ」

『別にお姉ちゃんの場所ではないよ』

 

 俺はもっとギスギスしているのかと思っていたが……、

先輩とお姉さんは意外と仲が良さそうだ。

だが、さっきから先輩に甘えてばかりで、お姉さんというよりは妹に見える。

 

 それはともかく俺たちは、三人でいろいろなゲームをした。

そこで分かったのは、お姉さんはゲームが上手いということだ。

レースゲームでも格闘ゲームでも、ボコボコにされてしまった。

 

「リオさん強いですね」

「うへへ……私ずっと家にいて暇だからさ……」

『……ふふ、お姉ちゃん楽しそうだね』

「そ、そんなことないよ」

『本当かな?おや、もうこんな時間だね』

 

俺が時計を見ると、いつのまにか18時になっていた。

 

「ほんとだ、もうこんな時間ですか。ご飯の時間なんでしたよね」

『うん、あっそうだ、もし君がよかったら一緒にご飯を食べていかないかい?』

「えっ、いいんですか」

『僕はいいよ、お姉ちゃんはどうかな?』

「わ……私もいいよ」

『ふふっ、だってさ』

 

 ということで、俺は先輩の家で夜ご飯をごちそうになることにした。

先輩がキッチンで料理をしている間、

俺とお姉さんはリビングで待っている。

 

 だがやはり、二人きりだとまだ少し気まずい。

そうして会話もなにもない時間を過ごしていると、

お姉さんがこちらをチラチラ見てきた。

 

「俺の顔なんかついてますか……?」

「え、あ、君のな……名前が気になって……」

「俺は枕木遊星です」

「枕木遊星……あ、あの遊星くんって呼んでもいいかな……」

「別にいいですよ」

 

 俺がそう言うと、お姉さんは俺の膝の上に乗ってきた。

急に乗ってきたので思わず、驚いてしまった。

 

「えっ」

「あえ、ご、ごめんね、私あんまり人との距離感が分からなくて……」

「いやまあ、座りたいなら座ってもらっても……」

(なんか先輩もそうだけどこの姉弟、初対面からの距離の詰め方がすごいな……)

 

 そんなことを俺が考えていると、先輩がこちらへやってきた。

どうやらご飯ができたらしい。

 

『おや、ずいぶんと仲が良くなったみたいだね。僕もまだ枕木君の膝には座ったことがないのにね』

「いや先輩、これは違くて……」

『まあいいよ、ご飯にしようか』

 

 そしてテーブルへ移動すると、そこには美味しそうな料理があった。

なんの料理か気になったので聞いてみると、これはアクアパッツァというらしい。

 

『それじゃあ、いただこうか』

 

 そうして俺たちは夜ご飯を食べ始めた。

先輩の手料理だからだろうか、とても美味しい。

先輩を俺の家に呼んで、毎日作ってほしいくらいだ。

 

 お姉さんも美味しそうにバクバク食べている。

そして、あっという間になくなってしまった。

 

「やっぱりマオの料理は美味しいな〜」

『ふふっ、ならよかったよ。枕木君はどうだったかな?』

「あっ、ほんとにもう、人生で一番美味しかったです」

『君はオーバーな表現をするね、でも嬉しいよ』

 

 そして食後少し、三人で談笑したあと、

俺はそろそろ家に帰ることにした。

 

「じゃあ俺はそろそろ帰りますね」

『枕木君、今日は楽しかったよ、またね』

 

 そして俺が帰ろうとすると、お姉さんが俺の手を握ってきた。

 

「な……なんですかリオさん」

「……また来てね遊星くん」

「久しぶりに家族以外と話したけど……遊星くんは落ち着くの」

「……また来ますよ、さようなら」

 

 そして、リオさんは嬉しそうな顔をして、

自分の部屋へ戻っていった。

 

 だが帰ろうとすると先輩が玄関で立っていた。

その表情はにこやかだが、その裏に暗い感情が見え隠れしている。

 

「ど、どうしましたか先輩」

『さっきからずいぶんとお姉ちゃんと仲が良さそうだね』

「えっ、まあはい」

『しかもお姉ちゃんのことは名前で呼ぶんだね』

(あっ……これはまずい)

『僕もお姉ちゃんに言う時みたいに、マオと呼んでもらいたいものだね』

 

俺はどう切り抜けるか悩んだ末に、

ある手段に出ることにした。

 

「先輩……」

『ん〜?』

「腕相撲の時、勝者の言うことを一つ聞くって言いましたよね」

『うん』

「そして抱き合う直前だったから、まだその権利は使ってませんね?」

『そうだね』

「だからその権利を今使って、今日は帰ります!さようなら!」

『ダメだよ』

 

ダメだった。

 

『でも君を引き止め続けてもあれだし、さっきの続きをしようか』

「え?続き?」

 

そう言うと先輩は俺の方へ来て、抱きしめてきた。

 

『ほら、君も僕を抱きしめていいんだよ』

 

言われるがまま、俺も先輩を抱きしめた。

先輩と密着したからか、いつもより先輩の匂いを感じる。

まるで花のような……とてもいい匂いだ。

服越しに感じる先輩の感触も、俺を惑わせる。

すると、先輩が顔を上げて、こちらを見ながら、

『これで、約束は終わりだね』と誘惑的で妖艶な表情で言った。

俺はまた、先輩の沼へと沈んだ──。

 

 

 

 

 

 

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