「遅刻」
目覚まし時計が鳴っている──。
小鳥も囀っていて、気分のいい朝だ。
……あの時までは、そう思っていた。
「さてと、朝ご飯食べて学校行かないと……ん?」
目覚まし時計を見ると、針が指している時刻は、
普段の起床時間を30分も過ぎていた。
「や、やべっ」
思わず、声が出てしまった。
俺は急いで歯を磨き、服を着替え、
朝ご飯を食べずに、急いで学校へ向かった。
が、急いでいたせいか、
俺は足元の石に気が付かなかった。
気づいた時には、俺は地面に倒れ、
全身がじわじわとした痛みに覆われていた。
だが俺は遅刻だけは避けねばならないと、
なんとか、校門まで辿り着いた。
「やあ、枕木く……」
校門で俺のことを待っていた先輩が、
俺の姿を見て、こちらへ近づいてきた。
『大丈夫?血が出ているよ。頭は打ってないかい?』
心配してくれているのだろうか、
その声はいつもより、優しく感じた。
「大丈夫です、ちょっと擦りむいただけですよ。今日ちょっと遅れて焦っちゃって。ほ……ほら、先輩も教室に行かないと遅刻しちゃいますよ」
「ならいいけれど、僕は保健室に行った方がいいと思うよ」
「こんくらい……なんてことないです。じゃあ、俺行きますね」
そして俺は先輩と別れ、急ぎながらも転ばないように教室へ向かい、
ギリギリ遅刻せずに済んだ。
一応、土などは払っておいたが、
まだ少し制服が汚れている。
擦りむいた部分は、持っていたタオルを巻いて、
目立たないようにした。
誰かに、なにか言われるか心配だったが、
俺はクラスで一番影が薄かったので、
触れられずに済んだ。
そしてお昼休み──。
「あら、あなた怪我してましたのね」
「ははっ、そうなんだよ竜崎。気づかなかっただろ」
「言ってくれれば、保健室へ連れていきましたのに」
「いやまあ、あんまり触れられたくなかったし、遅刻したくなかったからさ」
お昼休みに、俺たちはいつものように三人で集まっていた。
だが今日はいつもより先輩の口数が少ない気がする。
「大丈夫ですか、先輩」
「君が心配だっただけだよ」
どうやら先輩は朝からずっと、
俺のことを心配してくれていたらしい。
「……もう、急いで転ぶなんてことがないようにね」
「ははは……気をつけます」
次の日──。
「やっべえええっ」
俺はまたもや、遅刻しそうになってしまった。
寝坊しないように昨日はいつもより早く寝たはずなのに…。
だがもうそんなことは言ってられない。
俺はスピーディーに歯を磨き、着替えて、
学校へ向かった。
俺は急ごうとしたが、途中で昨日の会話を思い出した。
(先輩は昨日、もう急いで転ばないでねって言ってたな……)
(今日もまた怪我しちゃったら、先輩に心配をかけちゃうな)
そう思い、今日は急がずに、冷静に学校へ向かった。
……が、怪我を気にするあまり、慎重に歩きすぎた。
急がずに登校した結果、俺は遅刻してしまったのだ。
昼休み──。
「はあ……」
「どうしたのかな、枕木君」
「今日遅刻しちゃったんですよ……」
「目覚ましはつけなかったんですの?」
「つけてたよお……でもそれでもなぜか起きれなかったんだよ」
「まあでも、怪我するよりいいんじゃないかな」
「それはそうですけど……」
そのあとも、俺は遅刻したことを引きずり、
いつのまにか放課後になっていた。
「はあ……」
俺がため息をつきながら、
家へ帰ろうと校門へ向かっていると、
先輩が話しかけてきた。
「やあ」
「なんですか先輩……俺今日、元気ないんです……また明日も遅刻するかもしれないし……」
「そうだね、だから僕は解決策を持ってきたよ」
「えっ」
どうやら先輩は解決策を思いついたらしい。
「で、解決策ってなんですか」
「僕の家に泊まる」
「……はい??」
「僕の家に泊まって、朝になったら僕が君を起こして一緒に登校するんだ。これなら、起きれないなんてことはないはずさ。どうかな? いい作戦だと思わないかい?」
どうやら先輩は真面目にこの作戦を考えたらしい。
表情もいつも通り、なにを考えているか分からない、
ミステリアスなものだった。
「い、いや俺はいいですけど。急に行くとリオさ……お姉さんとか親御さんに迷惑が……」
「お姉ちゃんは、枕木君ならいつでも来ていいよって。お母さんはしばらく帰ってこないしね」
「はあ……」
そんなこんなで、俺は先輩の家に泊まることになった。
俺も最初は困惑したが、先輩の家に泊まるのは全然嫌ではない。
むしろありがたいくらいだ。
そして俺は先輩の家で、夜ご飯を食べ、
リオさんと先輩と三人で遊んだあと、
お風呂に入った。
今回こそ、先輩が一緒にお風呂に入ってこないだろうかと期待したが、
結局、誰も来ることはなかった。
お風呂上がり、先輩に「ふふっ、入ってくると思ったかな?」と
からかわれてしまった。
そのあと、また三人で遊んでいると、寝る時間になった。
「ふわあ…お…やすみ遊星くん、マオ」
「おやすみ、お姉ちゃん」
「おやすみなさい、リオさん」
そしてリオさんは自分の部屋へ行った。
「あ……あれリオさんって呼んだけど先輩が怒らない……?」
「別に怒ってないよ、ただお姉ちゃんには名前で呼ぶのに、僕は呼ばないんだって思ってただけさ。それに……もう名前で呼んでくれたからね」
「はあ」
「そんなことより、僕たちも寝ようか枕木君」
「そうですね、そういえば俺はどの部屋で寝ればいいですか」
「ん?僕の部屋だよ」
「はえ?」
思わず変な声が出てしまった。
先輩の部屋で寝る……?
考えただけで胸がドキドキしてしまう。
「そ……そしたら先輩はどこで寝るんですか」
「それはもちろん僕の部屋だけど」
「それって……」
「うん、一緒のベッドで寝るよ」
「い、いやそれは刺激が強すぎるというか……」
「もう一緒に寝たことがあるじゃないか、それにどうせ起こすんだから近い方がいいよ」
別にそんなに近くなくていいような気がするが……。
そんなことを思いながら、俺は先輩の部屋で一緒に寝ることになった。
部屋に入ると、先輩の匂いがして、
先輩に包まれたようだ。
「ほら、おいで」
いつのまにか、先輩が布団の中で俺を待っている。
俺は誘われるように布団へ入った。
とても……温かい。
隣にいる先輩の柔らかい感触も伝わってきて……。
変な気持ちになってくる。
そう思っていると。
「枕木君、興奮したらダメだよ」
「なっ、し……してませんよ!?」
「ほら、今日ここに来た理由を思い出して」
「それは……先輩に誘われて」
「どうして僕が誘ったのかな?」
「遅刻しないように……?」
「そう、だから寝ないと」
だったら添い寝せず、別々の部屋で寝かせてほしいと思ったが、
俺は言えなかった。
先輩が添い寝してくれるのは嬉しいからだ。
「まあ、このままだと君も眠れないだろうし、歌を歌ってあげるよ」
「はあ、子守り歌的なことですか?」
「そう、さあ目を瞑って」
俺が目を瞑ると、先輩は静かな声で歌い出した。
その声は透き通っていて、それでいて母親のように、
全身を包み込んでくれるような、落ち着く歌声だった。
「おやすみ、枕木君」
気がつくと俺は眠ってしまっていた……。
そして──。
「起きて、枕木君。朝だよ」
「あっ、お……おはようございます」
「ふふっ、これで起きられたね」
「……ですね、ありがとうございます先輩」
「ところで今、何時ですか?」
「8時20分だね」
「……登校時間は……?」
「8時30分までだね」
「遅刻じゃないですかあっ!??」
「目覚ましをかけ忘れてしまってね」
その後、俺は先輩と急いで支度をしたが、時間には間に合わなかった。
俺はいったいなんのために先輩の家へ泊まったのだろうか──。
「新たな自分」
俺は今、先輩に誘われて、
先輩の家に来ている。
なにか聞きたいことがあるらしい。
「で、なんですか聞きたいことって」
「そのことなんだけどね」
そう言うと先輩は、段ボールを持ってきて、開けた。
「これ、いるかな?」
「こ……これは……」
そこに入っていたのは女子の制服だった。
だが、先輩が着るには大きいサイズだ。
「なんですかこれ」
「昨日、掃除していたらこれが出てきてね。入学前に、一回サイズを間違えて買ってしまったんだ」
「はあ」
「ずっとしまっておくのもあれだし、サイズも君にちょうどよさそうだと思ってね」
俺は驚いてしまった。
なぜ俺に渡すんだ……。
「まあ、君がいらないなら大丈夫だよ」
「うーん……」
悩んでしまう。
タダで貰えるなら、貰ってもいいような。
別にいらないような。
先輩の着用済みなら喜んで貰ったのに……。
「というか俺が貰ってもどう使うんですか」
「女装とかかな」
「はあ」
「よかったら今、試着してみたらいいんじゃないかな。新たな自分が見つかるかもしれないよ」
なんだそれ、と思いながら
俺は先輩に言われるがまま、
試着してみることになった。
そして数分後──。
「似合ってるね」
俺は女子の制服を着てしまった。
スカートのせいで下はすーすーして、
落ち着かない。
「……いやお世辞ですよね」
「そんなことないよ、鏡を見てごらん」
鏡を見ると、女子の制服を着た自分がいる。
その顔は、恥ずかしさで少し赤く、
それを見ていると、変な気持ちになってくる。
「可愛いよ、枕木君」
「や……やめてくださいよ」
「ふふ、本当だよ」
そう言われた瞬間、なぜだろう、
俺は心の中で嬉しく感じた。
これはまずい、新たな扉が開いてしまう。
「じゃ、じゃあもう着替えますね」
「え〜、可愛いのに残念だね。ねえ、どうせならもっと可愛くなってみないかい?」
「えっ」
『僕がメイクしてあげるよ。まあ、君が嫌なら無理強いはしないけどね』
どうせここまできたなら、行くところまで行ってみたい。
それに……もっと可愛くなってみたい。
「や……やります……」
俺は小声でそう言った。
それを聞いた先輩は、小悪魔のような表情で微笑んだ。
これは先輩にハメられているかも…、
そう思ったが、もう自分の気持ちに抗えない。
「じゃあ目を瞑っててね」
「はい……」
そしてしばらく経ち──。
「できたよ、枕木君。ほら、鏡だよ」
そして俺が鏡を見ると、
そこにいたのは、可愛い女の子だった。
まるで俺の要素をそのままに女子になったような……。
「どうかな」
「か、可愛いです」
「ならよかったよ」
俺はそのあと、その場で小躍りしたり、
仕草を女の子っぽくしてみたりした。
自分の身体なのに、自分ではないような感覚。
その時にはもう、俺は新たな自分に出会っていた。
「これ、いいですね」
「ふふっ、制服はあげるよ」
もうずっとこの姿でいたい。
だって今の俺……いや、私はこんなに可愛いんだから。
そんなことを考えていると、リオさんの声が聞こえてきた。
(やばっ、リオさんに女装してるのバレたくないな……)
「おはよう、お姉ちゃん」
「おはよ、マオ。遊星君が来るのに寝過ぎちゃった……」
「ふふふっ」
「というかマオ、そこにいる女の子は誰?遊星君に似てるね」
(ま、まずい……リオさんにバレてしまう)
「……この子は、枕木君のお姉さんだよ」
(えっ?)
先輩の嘘が炸裂した。
リオさんも口を開けて止まってしまっている。
さすがにこんな嘘は……。
「だから似てたんだね」
「そうだよ、お姉ちゃん」
(バレなかったーっ)
俺は衝撃でずっこけそうになったが、
なんとか耐えた。
「あ……あの……そのお名前はなんて言うんですか」
(まずい)
「枕木星羅《まくらぎ せいら》さんだよ」
また先輩が嘘をついた。
よくもまあ、こんなに嘘をつけるものだ。
「星羅さん……わ、私はリオです。よろしくね」
声を出すと男とバレるので、
俺は微笑みながら、握手をした。
「へへへ……遊星君のお姉さんだからかな、手も遊星君みたい」
(ぎくっ)
「……そうだ、お姉ちゃん冷蔵庫にプリンがあるから食べていいよ」
「えっ、そうなのマオ。じゃあ食べてくるね」
そう言うと、リオさんは走って冷蔵庫へ向かっていった。
「よかったね、バレなくて」
「助かりました先輩……」
「ふふっ、じゃあ今のうちに着替えようか」
「……」
「どうかしたのかな?」
「あっ、いやなんでもないです」
そして俺は急いでメイクを落とし、制服も脱いで、着替えた。
だがなぜだろう、大きな喪失感がある。
いつもの姿に戻っただけだというのに……。
鏡を見ても、そこにいるのはさっきまでの女の子ではない。
ただの……いつもの俺だ。
「先輩、戻っちゃいました」
「うん」
「俺……本当は女の子に生まれたかったのかも……女装してる時、星羅でいる時は、なんか満たされてたような……」
俺がそんなことを言うと、先輩が口を開いた。
「僕はいつもの枕木君の方が好きだよ」
「えっ」
「いつもの枕木君はカッコいいからね」
そう言われた瞬間、心の霧が綺麗に吹き飛んだ。
「先輩……俺やっぱいつもの俺が好きです」
「ふふ、枕木君は分かりやすいね」
「……今なんか言いましたか?」
「いや、なにも言ってないよ」
そのあと、先輩と話していると、
プリンを食べ終わったリオさんが来た。
「あっ、遊星君だ」
「こんにちは、リオさん」
「遊星君にお姉さんがいたなんて知らなかったよ〜」
「ははは……」
その後、先輩にこの制服を貰って帰るか聞かれ、
悩んだ末に貰うことにした。
「ふうん、貰っていくんだね」
「なんか……いつかまた着たいなって…」
「……じゃあこれはあげるね」
「ありがとうございます」
そして俺は段ボールを抱えながら、家へ帰った。
(……ふふっ、枕木君の女装を見る作戦は成功だったね)
(わざわざ枕木君に合う大きさの制服を買っておいてよかったよ)
先輩の手のひらで踊っていたことを、俺はまだ知らない──。
「プール」
日差しが強くなり、蝉が鳴き始めている。
夏だ。
そして学校の夏といえば……プールの授業だろう。
だが俺はプールの授業は好きではな……。
「もう分かったよ、枕木君」
俺は朝、校門で会った先輩にプールのことを愚痴ろうとして、
途中で止められてしまった。
「いや、なんで嫌いなのかを今から説明しようと……」
「どうせ人の視線とかが気になるんだろう? 君は嫌いな授業ばかりだね、好きな授業とかないのかい?」
「だって……」
「僕はプールの授業、好きだけどね」
「はあ」
「暑いなか、泳ぐのは気持ちいいよ。まあ、頑張ってね枕木君」
そう言って、先輩が教室へ向かった。
今日の先輩は対応が適当な気がする。
だが、何度も何度も愚痴られていれば、
こうなるのも仕方ないのかもしれない……。
俺も少し落ち込みながら、自分の教室へと向かった。
そして時間が経ち、プールの時間になってしまった。
帰りたい。
俺は負の感情を抱えながら、
悪夢のような時間を過ごした。
そして昼休み──。
「どうだったかな、プールは?」
「楽しくないです……」
「私は気持ちよかったですわ」
「竜崎は泳げるから楽しいんだあっ」
俺は昼休み、プールのことを愚痴っていた。
先輩も竜崎も「またか……」という表情で、
俺を見つめている。
「君は暗いね、枕木君」
「だって、だって……」
「……」
すると先輩が、急に俺に近づいてきて、
俺の頭を両手で持ったあと、
自分の胸に押さえつけた。
「な……なんふぇふか、ふぇんぱい」
胸に押さえつけられているせいで、
思うように声が出ない。
「君が愚痴ばかりだから、口を塞いだんだ」
「なっ、ずるいですわ、私もされたいです」
「ふふっ、じゃあ今度してあげるよ」
先輩と竜崎が楽しそうに会話をしているが、
俺はそれどころではない。
先輩の感触や匂い、それと息苦しさでおかしくなりそうだ。
すると先輩が、手を離してくれた。
「ぷはっ、はあ……はあ……」
「どうだったかな」
「どうって……キツかったですよ」
「お仕置きだからね」
先輩のお仕置きは恐ろしい。
だが、先輩の胸に顔を埋められるなら、
もう一度くらいやられてもいいかもしれない。
「でも君が抵抗しないのは意外だったよ。僕の力なら、君は抜けられたはずだからね」
確かに、先輩の力なら俺が抵抗すれば、
すぐに抜けられただろう。
もしかして俺は心の中で、
先輩にお仕置きされたがっていたのだろうか。
「まあいいや、それより僕もプールのことを考えないとね」
「先輩も今日、プールあるんですか」
「うん」
「先輩の体力で泳げるんですか?」
「多分、大丈夫だよ」
そのあとも、三人でプールのことを話した。
そして俺は話しているうちに、疑問が生まれてきた。
「あれ、先輩、今日プールがあるんですよね」
「そうだよ」
「プールってことは水着に着替えますよね」
「うん」
「……他の男子と一緒に……?」
その瞬間、俺は脳が壊れるような衝撃を受けた。
他の男子がいる中で先輩も着替える…?
そんなの嫌だ。
俺だって先輩の着替えは見たことないのにいっ。
「先生に頼んでいるから、着替えはいつも個室だけどね」
「ふう……」
俺は一安心した。
「あれっ、そういえば前、三人でプール施設に行きましたよね」
「そういえばそんなこともあったね」
「あ……あの時はま……まさか他の男とい、一緒の……」
「あそこも個室で着替えたよ」
「私が先輩のリクエストで、個室で着替えられる施設を選んだんですわ」
「あっ、そうでしたか……」
知らなかった。
先輩と竜崎がそんなやりとりをしていたなんて……。
嫉妬でおかしくなりそうだ。
「おや、そろそろ昼休みも終わりだね。僕はそろそろ行くよ、二人とも、またね」
先輩は教室へ行ってしまった。
そして俺たちも自分たちの教室へと向かった。
午後の授業が始まったが、頭に入ってこない。
授業中、俺はずっと先輩の水着姿を考えていた。
この学校はジェンダーレス水着を採用していて、
俺はそれを着た先輩を想像していた。
先輩の水着を何回も見れるなんて……、
先輩のクラスの男子は羨ましい。
今からでも頑張って飛び級して二年生になりたいくらいだ。
そんなことを思っていると、午後の授業が終わってしまった。
俺はほとんど授業が頭に入らなかったが、
成績が落ちると先輩に怒られてしまうので、
なんとかノートだけは取ることができた。
そして俺が帰ろうとすると、
先輩が校門に立っていた。
「待ってたんですか先輩」
「そうだね」
「まさか、プールで疲れたから一緒に帰ってほしいなんて言わないですよね」
「僕だって学習するからね、体力を残しながらやったのさ」
一緒に帰れると少し期待していた俺は、
ガッカリした。
「じゃあなんで待ってたんですか」
「君が元気かなって」
「なんですかそれ……」
「僕が他の子とプールに入っているから、嫉妬で血涙を流してないかと思ったんだ」
先輩は俺のことをなんだと思っているのだろうか。
「まあ、いつも通り元気そうでよかったよ。じゃあ、僕は帰ろうかな」
「あっ、待ってください」
「ん? どうかしたのかな」
「先輩、こっちに来てもらってもいいですか」
「別にいいけれど」
そして、俺は近づいてきた先輩を、抱きしめ、
先輩の顔を俺の胸に当てた。
「……ふふっ、お昼の仕返しかな。やっぱり君は面白いね、枕木君」
そしてしばらくしたあと、俺は先輩を離した。
「君がこんなに大胆にくるとは思わなかったよ」
「す……すいません」
「いいよ。じゃあ、またね」
そう言うと、先輩は帰っていった。
やっぱり先輩と話していると楽しい。
嫌いな授業も多いが先輩がいるならやっていける気がする──。
後日──。
「プール嫌です、先輩。帰りたい〜っ」
「……」
先輩がいても嫌なものは嫌なのだった──。
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