男の娘な真央先輩は俺を放っておかない   作:ろあタルト大福

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第9話 「遅刻&新たな自分&プール」

 「遅刻」

 

 

 

 目覚まし時計が鳴っている──。

小鳥も囀っていて、気分のいい朝だ。

……あの時までは、そう思っていた。

 

「さてと、朝ご飯食べて学校行かないと……ん?」

 

 目覚まし時計を見ると、針が指している時刻は、

普段の起床時間を30分も過ぎていた。

 

「や、やべっ」

 

 思わず、声が出てしまった。

俺は急いで歯を磨き、服を着替え、

朝ご飯を食べずに、急いで学校へ向かった。

 

 が、急いでいたせいか、

俺は足元の石に気が付かなかった。

 

 気づいた時には、俺は地面に倒れ、

全身がじわじわとした痛みに覆われていた。

 

 だが俺は遅刻だけは避けねばならないと、

なんとか、校門まで辿り着いた。

 

「やあ、枕木く……」

 

 校門で俺のことを待っていた先輩が、

俺の姿を見て、こちらへ近づいてきた。

 

『大丈夫?血が出ているよ。頭は打ってないかい?』

 

 心配してくれているのだろうか、

その声はいつもより、優しく感じた。

 

「大丈夫です、ちょっと擦りむいただけですよ。今日ちょっと遅れて焦っちゃって。ほ……ほら、先輩も教室に行かないと遅刻しちゃいますよ」

「ならいいけれど、僕は保健室に行った方がいいと思うよ」

「こんくらい……なんてことないです。じゃあ、俺行きますね」

 

 そして俺は先輩と別れ、急ぎながらも転ばないように教室へ向かい、

ギリギリ遅刻せずに済んだ。

 

 一応、土などは払っておいたが、

まだ少し制服が汚れている。

擦りむいた部分は、持っていたタオルを巻いて、

目立たないようにした。

 

 誰かに、なにか言われるか心配だったが、

俺はクラスで一番影が薄かったので、

触れられずに済んだ。

 

 そしてお昼休み──。

 

「あら、あなた怪我してましたのね」

「ははっ、そうなんだよ竜崎。気づかなかっただろ」

「言ってくれれば、保健室へ連れていきましたのに」

「いやまあ、あんまり触れられたくなかったし、遅刻したくなかったからさ」

 

 お昼休みに、俺たちはいつものように三人で集まっていた。

だが今日はいつもより先輩の口数が少ない気がする。

 

「大丈夫ですか、先輩」

「君が心配だっただけだよ」

 

 どうやら先輩は朝からずっと、

俺のことを心配してくれていたらしい。

 

「……もう、急いで転ぶなんてことがないようにね」

「ははは……気をつけます」

 

次の日──。

 

「やっべえええっ」

 

 俺はまたもや、遅刻しそうになってしまった。

寝坊しないように昨日はいつもより早く寝たはずなのに…。

だがもうそんなことは言ってられない。

俺はスピーディーに歯を磨き、着替えて、

学校へ向かった。

 

 俺は急ごうとしたが、途中で昨日の会話を思い出した。

 

(先輩は昨日、もう急いで転ばないでねって言ってたな……)

(今日もまた怪我しちゃったら、先輩に心配をかけちゃうな)

 

 そう思い、今日は急がずに、冷静に学校へ向かった。

……が、怪我を気にするあまり、慎重に歩きすぎた。

急がずに登校した結果、俺は遅刻してしまったのだ。

 

 昼休み──。

 

「はあ……」

「どうしたのかな、枕木君」

「今日遅刻しちゃったんですよ……」

「目覚ましはつけなかったんですの?」

「つけてたよお……でもそれでもなぜか起きれなかったんだよ」

「まあでも、怪我するよりいいんじゃないかな」

「それはそうですけど……」

 

 そのあとも、俺は遅刻したことを引きずり、

いつのまにか放課後になっていた。

 

「はあ……」

 

 俺がため息をつきながら、

家へ帰ろうと校門へ向かっていると、

先輩が話しかけてきた。

 

「やあ」

「なんですか先輩……俺今日、元気ないんです……また明日も遅刻するかもしれないし……」

「そうだね、だから僕は解決策を持ってきたよ」

「えっ」

 

 どうやら先輩は解決策を思いついたらしい。

 

「で、解決策ってなんですか」

「僕の家に泊まる」

「……はい??」

「僕の家に泊まって、朝になったら僕が君を起こして一緒に登校するんだ。これなら、起きれないなんてことはないはずさ。どうかな? いい作戦だと思わないかい?」

 

 どうやら先輩は真面目にこの作戦を考えたらしい。

表情もいつも通り、なにを考えているか分からない、

ミステリアスなものだった。

 

「い、いや俺はいいですけど。急に行くとリオさ……お姉さんとか親御さんに迷惑が……」

「お姉ちゃんは、枕木君ならいつでも来ていいよって。お母さんはしばらく帰ってこないしね」

「はあ……」

 

 そんなこんなで、俺は先輩の家に泊まることになった。

俺も最初は困惑したが、先輩の家に泊まるのは全然嫌ではない。

むしろありがたいくらいだ。

 

 そして俺は先輩の家で、夜ご飯を食べ、

リオさんと先輩と三人で遊んだあと、

お風呂に入った。

 

 今回こそ、先輩が一緒にお風呂に入ってこないだろうかと期待したが、

結局、誰も来ることはなかった。

お風呂上がり、先輩に「ふふっ、入ってくると思ったかな?」と

からかわれてしまった。

 

 そのあと、また三人で遊んでいると、寝る時間になった。

 

「ふわあ…お…やすみ遊星くん、マオ」

「おやすみ、お姉ちゃん」

「おやすみなさい、リオさん」

 

 そしてリオさんは自分の部屋へ行った。

 

「あ……あれリオさんって呼んだけど先輩が怒らない……?」

「別に怒ってないよ、ただお姉ちゃんには名前で呼ぶのに、僕は呼ばないんだって思ってただけさ。それに……もう名前で呼んでくれたからね」

「はあ」

「そんなことより、僕たちも寝ようか枕木君」

「そうですね、そういえば俺はどの部屋で寝ればいいですか」

「ん?僕の部屋だよ」

「はえ?」

 

思わず変な声が出てしまった。

先輩の部屋で寝る……?

考えただけで胸がドキドキしてしまう。

 

「そ……そしたら先輩はどこで寝るんですか」

「それはもちろん僕の部屋だけど」

「それって……」

「うん、一緒のベッドで寝るよ」

「い、いやそれは刺激が強すぎるというか……」

「もう一緒に寝たことがあるじゃないか、それにどうせ起こすんだから近い方がいいよ」

 

 別にそんなに近くなくていいような気がするが……。

そんなことを思いながら、俺は先輩の部屋で一緒に寝ることになった。

 

 部屋に入ると、先輩の匂いがして、

先輩に包まれたようだ。

 

「ほら、おいで」

 

 いつのまにか、先輩が布団の中で俺を待っている。

俺は誘われるように布団へ入った。

とても……温かい。

 

 隣にいる先輩の柔らかい感触も伝わってきて……。

変な気持ちになってくる。

そう思っていると。

 

「枕木君、興奮したらダメだよ」

「なっ、し……してませんよ!?」

「ほら、今日ここに来た理由を思い出して」

「それは……先輩に誘われて」

「どうして僕が誘ったのかな?」

「遅刻しないように……?」

「そう、だから寝ないと」

 

 だったら添い寝せず、別々の部屋で寝かせてほしいと思ったが、

俺は言えなかった。

先輩が添い寝してくれるのは嬉しいからだ。

 

「まあ、このままだと君も眠れないだろうし、歌を歌ってあげるよ」

「はあ、子守り歌的なことですか?」

「そう、さあ目を瞑って」

 

 俺が目を瞑ると、先輩は静かな声で歌い出した。

その声は透き通っていて、それでいて母親のように、

全身を包み込んでくれるような、落ち着く歌声だった。

 

「おやすみ、枕木君」

 

気がつくと俺は眠ってしまっていた……。

そして──。

 

「起きて、枕木君。朝だよ」

「あっ、お……おはようございます」

「ふふっ、これで起きられたね」

「……ですね、ありがとうございます先輩」

「ところで今、何時ですか?」

「8時20分だね」

「……登校時間は……?」

「8時30分までだね」

「遅刻じゃないですかあっ!??」

「目覚ましをかけ忘れてしまってね」

 

 その後、俺は先輩と急いで支度をしたが、時間には間に合わなかった。

俺はいったいなんのために先輩の家へ泊まったのだろうか──。

 

 

 

 「新たな自分」

 

 

 俺は今、先輩に誘われて、

先輩の家に来ている。

なにか聞きたいことがあるらしい。

 

「で、なんですか聞きたいことって」

「そのことなんだけどね」

 

 そう言うと先輩は、段ボールを持ってきて、開けた。

 

「これ、いるかな?」

「こ……これは……」

 

 そこに入っていたのは女子の制服だった。

だが、先輩が着るには大きいサイズだ。

 

「なんですかこれ」

「昨日、掃除していたらこれが出てきてね。入学前に、一回サイズを間違えて買ってしまったんだ」

「はあ」

「ずっとしまっておくのもあれだし、サイズも君にちょうどよさそうだと思ってね」

 

 俺は驚いてしまった。

なぜ俺に渡すんだ……。

 

「まあ、君がいらないなら大丈夫だよ」

「うーん……」

 

 悩んでしまう。

タダで貰えるなら、貰ってもいいような。

別にいらないような。

先輩の着用済みなら喜んで貰ったのに……。

 

「というか俺が貰ってもどう使うんですか」

「女装とかかな」

「はあ」

「よかったら今、試着してみたらいいんじゃないかな。新たな自分が見つかるかもしれないよ」

 

 なんだそれ、と思いながら

俺は先輩に言われるがまま、

試着してみることになった。

 

 そして数分後──。

 

「似合ってるね」

 

 俺は女子の制服を着てしまった。

スカートのせいで下はすーすーして、

落ち着かない。

 

「……いやお世辞ですよね」

「そんなことないよ、鏡を見てごらん」

 

 鏡を見ると、女子の制服を着た自分がいる。

その顔は、恥ずかしさで少し赤く、

それを見ていると、変な気持ちになってくる。

 

「可愛いよ、枕木君」

「や……やめてくださいよ」

「ふふ、本当だよ」

 

 そう言われた瞬間、なぜだろう、

俺は心の中で嬉しく感じた。

これはまずい、新たな扉が開いてしまう。

 

「じゃ、じゃあもう着替えますね」

「え〜、可愛いのに残念だね。ねえ、どうせならもっと可愛くなってみないかい?」

「えっ」

『僕がメイクしてあげるよ。まあ、君が嫌なら無理強いはしないけどね』

 

どうせここまできたなら、行くところまで行ってみたい。

それに……もっと可愛くなってみたい。

 

「や……やります……」

 

 俺は小声でそう言った。

それを聞いた先輩は、小悪魔のような表情で微笑んだ。

これは先輩にハメられているかも…、

そう思ったが、もう自分の気持ちに抗えない。

 

「じゃあ目を瞑っててね」

「はい……」

 

そしてしばらく経ち──。

 

「できたよ、枕木君。ほら、鏡だよ」

 

 そして俺が鏡を見ると、

そこにいたのは、可愛い女の子だった。

まるで俺の要素をそのままに女子になったような……。

 

「どうかな」

「か、可愛いです」

「ならよかったよ」

 

 俺はそのあと、その場で小躍りしたり、

仕草を女の子っぽくしてみたりした。

自分の身体なのに、自分ではないような感覚。

その時にはもう、俺は新たな自分に出会っていた。

 

「これ、いいですね」

「ふふっ、制服はあげるよ」

 

 もうずっとこの姿でいたい。

だって今の俺……いや、私はこんなに可愛いんだから。

そんなことを考えていると、リオさんの声が聞こえてきた。

 

(やばっ、リオさんに女装してるのバレたくないな……)

「おはよう、お姉ちゃん」

「おはよ、マオ。遊星君が来るのに寝過ぎちゃった……」

「ふふふっ」

「というかマオ、そこにいる女の子は誰?遊星君に似てるね」

(ま、まずい……リオさんにバレてしまう)

「……この子は、枕木君のお姉さんだよ」

(えっ?)

 

 先輩の嘘が炸裂した。

リオさんも口を開けて止まってしまっている。

さすがにこんな嘘は……。

 

「だから似てたんだね」

「そうだよ、お姉ちゃん」

(バレなかったーっ)

 

 俺は衝撃でずっこけそうになったが、

なんとか耐えた。

 

「あ……あの……そのお名前はなんて言うんですか」

(まずい)

「枕木星羅《まくらぎ せいら》さんだよ」

 

 また先輩が嘘をついた。

よくもまあ、こんなに嘘をつけるものだ。

 

「星羅さん……わ、私はリオです。よろしくね」

 

 声を出すと男とバレるので、

俺は微笑みながら、握手をした。

 

「へへへ……遊星君のお姉さんだからかな、手も遊星君みたい」

(ぎくっ)

「……そうだ、お姉ちゃん冷蔵庫にプリンがあるから食べていいよ」

「えっ、そうなのマオ。じゃあ食べてくるね」

 

 そう言うと、リオさんは走って冷蔵庫へ向かっていった。

 

「よかったね、バレなくて」

「助かりました先輩……」

「ふふっ、じゃあ今のうちに着替えようか」

「……」

「どうかしたのかな?」

「あっ、いやなんでもないです」

 

 そして俺は急いでメイクを落とし、制服も脱いで、着替えた。

だがなぜだろう、大きな喪失感がある。

いつもの姿に戻っただけだというのに……。

 

鏡を見ても、そこにいるのはさっきまでの女の子ではない。

ただの……いつもの俺だ。

 

「先輩、戻っちゃいました」

「うん」

「俺……本当は女の子に生まれたかったのかも……女装してる時、星羅でいる時は、なんか満たされてたような……」

 

 俺がそんなことを言うと、先輩が口を開いた。

 

「僕はいつもの枕木君の方が好きだよ」

「えっ」

「いつもの枕木君はカッコいいからね」

 

 そう言われた瞬間、心の霧が綺麗に吹き飛んだ。

 

「先輩……俺やっぱいつもの俺が好きです」

「ふふ、枕木君は分かりやすいね」

「……今なんか言いましたか?」

「いや、なにも言ってないよ」

 

 そのあと、先輩と話していると、

プリンを食べ終わったリオさんが来た。

 

「あっ、遊星君だ」

「こんにちは、リオさん」

「遊星君にお姉さんがいたなんて知らなかったよ〜」

「ははは……」

 

 その後、先輩にこの制服を貰って帰るか聞かれ、

悩んだ末に貰うことにした。

 

「ふうん、貰っていくんだね」

「なんか……いつかまた着たいなって…」

「……じゃあこれはあげるね」

「ありがとうございます」

 

 そして俺は段ボールを抱えながら、家へ帰った。

 

(……ふふっ、枕木君の女装を見る作戦は成功だったね)

(わざわざ枕木君に合う大きさの制服を買っておいてよかったよ)

 

先輩の手のひらで踊っていたことを、俺はまだ知らない──。

 

 

 

 「プール」

 

 

 日差しが強くなり、蝉が鳴き始めている。

夏だ。

そして学校の夏といえば……プールの授業だろう。

だが俺はプールの授業は好きではな……。

 

「もう分かったよ、枕木君」

 

 俺は朝、校門で会った先輩にプールのことを愚痴ろうとして、

途中で止められてしまった。

 

「いや、なんで嫌いなのかを今から説明しようと……」

「どうせ人の視線とかが気になるんだろう? 君は嫌いな授業ばかりだね、好きな授業とかないのかい?」

「だって……」

「僕はプールの授業、好きだけどね」

「はあ」

「暑いなか、泳ぐのは気持ちいいよ。まあ、頑張ってね枕木君」

 

 そう言って、先輩が教室へ向かった。

今日の先輩は対応が適当な気がする。

 

 だが、何度も何度も愚痴られていれば、

こうなるのも仕方ないのかもしれない……。

俺も少し落ち込みながら、自分の教室へと向かった。

 

 そして時間が経ち、プールの時間になってしまった。

帰りたい。

俺は負の感情を抱えながら、

悪夢のような時間を過ごした。

 

 そして昼休み──。

 

「どうだったかな、プールは?」

「楽しくないです……」

「私は気持ちよかったですわ」

「竜崎は泳げるから楽しいんだあっ」

 

 俺は昼休み、プールのことを愚痴っていた。

先輩も竜崎も「またか……」という表情で、

俺を見つめている。

 

「君は暗いね、枕木君」

「だって、だって……」

「……」

 

 すると先輩が、急に俺に近づいてきて、

俺の頭を両手で持ったあと、

自分の胸に押さえつけた。

 

「な……なんふぇふか、ふぇんぱい」

 

 胸に押さえつけられているせいで、

思うように声が出ない。

 

「君が愚痴ばかりだから、口を塞いだんだ」

「なっ、ずるいですわ、私もされたいです」

「ふふっ、じゃあ今度してあげるよ」

 

 先輩と竜崎が楽しそうに会話をしているが、

俺はそれどころではない。

先輩の感触や匂い、それと息苦しさでおかしくなりそうだ。

 

すると先輩が、手を離してくれた。

 

「ぷはっ、はあ……はあ……」

「どうだったかな」

「どうって……キツかったですよ」

「お仕置きだからね」

 

 先輩のお仕置きは恐ろしい。

だが、先輩の胸に顔を埋められるなら、

もう一度くらいやられてもいいかもしれない。

 

「でも君が抵抗しないのは意外だったよ。僕の力なら、君は抜けられたはずだからね」

 

 確かに、先輩の力なら俺が抵抗すれば、

すぐに抜けられただろう。

もしかして俺は心の中で、

先輩にお仕置きされたがっていたのだろうか。

 

「まあいいや、それより僕もプールのことを考えないとね」

「先輩も今日、プールあるんですか」

「うん」

「先輩の体力で泳げるんですか?」

「多分、大丈夫だよ」

 

 そのあとも、三人でプールのことを話した。

そして俺は話しているうちに、疑問が生まれてきた。

 

「あれ、先輩、今日プールがあるんですよね」

「そうだよ」

「プールってことは水着に着替えますよね」

「うん」

「……他の男子と一緒に……?」

 

 その瞬間、俺は脳が壊れるような衝撃を受けた。

他の男子がいる中で先輩も着替える…?

そんなの嫌だ。

俺だって先輩の着替えは見たことないのにいっ。

 

「先生に頼んでいるから、着替えはいつも個室だけどね」

「ふう……」

 

 俺は一安心した。

 

「あれっ、そういえば前、三人でプール施設に行きましたよね」

「そういえばそんなこともあったね」

「あ……あの時はま……まさか他の男とい、一緒の……」

「あそこも個室で着替えたよ」

「私が先輩のリクエストで、個室で着替えられる施設を選んだんですわ」

「あっ、そうでしたか……」

 

 知らなかった。

先輩と竜崎がそんなやりとりをしていたなんて……。

嫉妬でおかしくなりそうだ。

 

「おや、そろそろ昼休みも終わりだね。僕はそろそろ行くよ、二人とも、またね」

 

 先輩は教室へ行ってしまった。

そして俺たちも自分たちの教室へと向かった。

 

 午後の授業が始まったが、頭に入ってこない。

授業中、俺はずっと先輩の水着姿を考えていた。

この学校はジェンダーレス水着を採用していて、

俺はそれを着た先輩を想像していた。

 

 先輩の水着を何回も見れるなんて……、

先輩のクラスの男子は羨ましい。

今からでも頑張って飛び級して二年生になりたいくらいだ。

 

 そんなことを思っていると、午後の授業が終わってしまった。

俺はほとんど授業が頭に入らなかったが、

成績が落ちると先輩に怒られてしまうので、

なんとかノートだけは取ることができた。

 

 そして俺が帰ろうとすると、

先輩が校門に立っていた。

 

「待ってたんですか先輩」

「そうだね」

「まさか、プールで疲れたから一緒に帰ってほしいなんて言わないですよね」

「僕だって学習するからね、体力を残しながらやったのさ」

 

 一緒に帰れると少し期待していた俺は、

ガッカリした。

 

「じゃあなんで待ってたんですか」

「君が元気かなって」

「なんですかそれ……」

「僕が他の子とプールに入っているから、嫉妬で血涙を流してないかと思ったんだ」

 

 先輩は俺のことをなんだと思っているのだろうか。

 

「まあ、いつも通り元気そうでよかったよ。じゃあ、僕は帰ろうかな」

「あっ、待ってください」

「ん? どうかしたのかな」

「先輩、こっちに来てもらってもいいですか」

「別にいいけれど」

 

 そして、俺は近づいてきた先輩を、抱きしめ、

先輩の顔を俺の胸に当てた。

 

「……ふふっ、お昼の仕返しかな。やっぱり君は面白いね、枕木君」

 

 そしてしばらくしたあと、俺は先輩を離した。

 

「君がこんなに大胆にくるとは思わなかったよ」

「す……すいません」

「いいよ。じゃあ、またね」

 

 そう言うと、先輩は帰っていった。

やっぱり先輩と話していると楽しい。

嫌いな授業も多いが先輩がいるならやっていける気がする──。

 

後日──。

 

「プール嫌です、先輩。帰りたい〜っ」

「……」

 

先輩がいても嫌なものは嫌なのだった──。

 

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