未来の崩壊世界に転生したら、職業くじでハンターを引いたので旧文明を漁る 作:パラレル・ゲーマー
強制休日の翌朝。
俺とナギは、約束通り第十四区画のハンター協会支部へと足を運んでいた。
ナギは、昨日商業区で買った淡い青系の服を着ている。本人が「これは自分の服だ」と認識しているため、服自体も彼女の身体と同じようにうっすらと半透明化し、足元は地面から三十センチほど浮いていた。
俺はいつも通りの仕事着に、ライフル、母機、ARコンタクト、インベントリキューブというフル装備だ。
ただし、今日はいつものような廃墟での物資周回ではない。未登録空間とガーディアンが出現した《ハーモニーモール》における、週次リセットの観測立会いだ。
協会の中に足を踏み入れると、すでに物々しい空気が漂っていた。
何人もの職員が忙しなく動き回り、耐衝撃ケースに入った観測機材、小型の空間センサー、記録用のドローンなどを次々と搬出している。
その中心で、片桐が鋭い声で指示を飛ばしていた。
「おはようございます」
俺が声をかけると、片桐が振り返った。
「来たか。昨日はちゃんと休んだか?」
「ええ、まあ。しっかり休みましたよ」
俺が答えると、横からナギがフワリと前に出て言った。
「デートした」
ピタリ。
片桐の動きが停止し、周囲で機材を運んでいた職員たちも一斉にこちらを見た。
「…………」
「お前、それ今ここで言う必要ある!?」
「昨日、デートだった」
ナギは一歩も引かずに断言する。
片桐が、ジト目で俺を睨んだ。
「休めとは言ったが、随分とエンジョイしてんじゃねえか。新人のお守りだと思ってた俺の気苦労を返せ」
「違うんです! 母さんが勝手にそういうことにしただけで、ただ服買って飯食っただけですから!」
「嫌だった?」
ナギが小首を傾げて追撃してくる。昨日から学習した最強の殺し文句だ。
「今それ聞くな!」
これ以上長引かせると俺の精神的ライフがゼロになるので、俺は強引に話を打ち切った。
本日の調査メンバーは、片桐を筆頭に、協会の専属調査班が数名、そしてコロニー警備隊の専門班が数名。それに俺とナギを加えた編成だ。
研究者だけでなく、重武装の警備隊が同行しているのは、危険が起きれば即座に制圧するための現場対応チームだからだ。
「いいか悠真。今日はいつものお気楽な周回じゃねえ。俺の指示なしで勝手に動くなよ」
「分かってます」
片桐は、次にナギを指差した。
「特にお前だ」
「私?」
「お前も、勝手にあちこち触ったり飛んでいったりするなよ」
「分かった」
ナギは素直に頷いた。
「俺より聞き分けいいな」
「お前が問題児すぎるだけだ」
出発の直前、俺はふと疑問に思っていたことを口にした。
「でも、片桐さん。俺まで呼ばれた理由って何なんですか? 俺はもう発見の報告は全部済ませましたし、調査の邪魔になるだけじゃ……」
「必要だから呼んだんだよ」
片桐が真顔で答える。
「理由の一つは、お前があの『白い空間』へ実際に入り、ガーディアンと戦った唯一の人間だからだ。現場での証言がいる。……だが、今はもう一つ理由がある」
「何ですか?」
「お前、一昨日うちの倉庫で三トン近い資材を平然と浮かせただろ」
「あー」
「もし今回のリセットで、あのガーディアンが無傷で復元された場合、お前はそれを止めるための『保険』として非常に有用なんだよ。最初はただの当事者として呼ぶ予定だったが、今は完全に戦力として数えてる」
「俺を戦力として数えるんですか?」
「三トン近い資材を浮かせる奴を、ただの参考人扱いできるか」
片桐の極めて合理的な判断に、俺は反論を諦めた。
*
南第三ゲートから外へ出る。
今日は徒歩ではない。協会と警備隊の機材輸送があるため、小型の装甲輸送車に乗り込んでの移動だ。
ガタガタと揺れる車内で、俺は少しだけ感動していた。普段なら四十五分近くかけて歩く崩壊した道を、エアコンの効いた車内で移動できるなんて。この世界でも、車輪の力は偉大だ。
ただし、外の地形は《大転移》の影響で歪んでおり、道路が突然切れたり瓦礫で塞がったりしているため、車両での移動は万能ではない。目的地の少し手前で車を降り、そこからは徒歩で進むことになった。
ナギは相変わらず、地面から三十センチほど浮いて音もなく移動している。
《ハーモニーモール》に到着した。
周辺はまだ完全に封鎖中だ。簡易バリケードが張られ、警備隊員が周囲を警戒し、立入禁止のホログラムが明滅している。一般のハンターの姿はどこにもない。
たった数日前、俺が一人でビクビクしながら入った場所が、今では完全な調査現場と化している。
「……数日前は、ただの平和な新人ルートだったのにな」
俺が感慨深げに呟くと、片桐が鼻で笑った。
モール内部の一階、通常店舗部分へ入る。
商品の棚は、すでに前周期のハンターたちや俺に漁られ、空白が目立っている。破れた包装、棚から落ちて床に散らばった乾電池、移動させられた日用品。
それらの『変化した状態』のすべてに、調査班によって細かく観測用のマーキングが施されていた。壁や床には無数の小型センサーが貼り付けられ、天井付近では観測ドローンが静かにホバリングしている。
「リセット現象そのものは、この世界じゃ珍しくもなんともねえ。日常茶飯事だ」
片桐が説明する。
「ですよね。別の場所でリポップ直後の棚を見ましたし」(見たのが昨日だとデートと被って矛盾するため)
「ただし今回は、未登録空間の出現と、自律型ガーディアンというイレギュラーが絡んでる。だから大掛かりにやるんだ」
調査班の担当者が、本日の実験内容を手短に説明してくれた。
「今周期では、条件を変えた物資を複数用意してある。A:棚に置いたままの商品。B:棚から別の場所へ移動させた商品。C:モール外まで持ち出した商品。D:我々調査員が現在携行している商品。E:密閉された収納容器へ入れた商品だ」
「なるほど」
「さらに、ガーディアンの残骸にも識別タグを取り付けてある。一部の破片はその場に放置し、一部は別室に隔離し、一部はすでに協会側へと持ち出し済みだ。通常の復元地点では結果が分かっている基本的な対照実験だが、今回はこのモールでも同じ法則が通用するのか確認する」
俺は少し引っかかっていた疑問を口にした。
「あの、持ち出した方の物は、消えないんですよね?」
「ああ。通常のリポップ地点ならな」
「じゃあ、同じ物が二つに増えるってことですか?」
調査員は頷いた。
「通常地点では、そう見える。今回はそれも含めて確認する」
人類は、この世界で生きていくためにリポップという現象を都合よく利用しているが、その理屈を完全に理解しているわけではないのだ。
調査員の説明を聞きながら、ナギは商品棚をじっと見つめていた。
昨日の旧家電量販店では、復元現象を見て「戻し方が下手」と評した。
だが今日は何も言わず、ただ観察している。
「どうした?」
俺が聞いても、ナギは商品棚から視線を外さなかった。
「見てる」
「何を?」
「分からない」
結局そこは、いつも通りだった。
*
俺たちは、本題の地下通路へと降りていった。
そこには、俺が破壊したガーディアンの巨大な金属の残骸が、無惨に転がっていた。
壁の大きな凹み、床の砕けたコンクリート、俺が撃ったライフルの弾痕。あの時の死闘の痕跡が、今も生々しく残っている。
そして。
通路の奥の行き止まり。
ナギがいた『白い空間』へ通じていたはずの場所。
今はただの、冷たいコンクリートの壁がそびえ立っているだけだ。
「相馬。もう一度、確認するぞ」
調査員に促され、俺はその壁の前の位置を指差した。
「ここです。この先に滑らかな通路があって、その二十〜三十メートル奥が白い空間でした」
「……現在の構造計測では、この壁の向こうは完全に地盤と別の地下構造物で埋まっている。お前が言ったような広大な空間は、絶対に物理的に入らない」
「分かってます。だから、あの時は別の空間へ繋がってたんじゃないかって」
調査員は、次にナギへ向き直った。
「ナギ。君は、ここにいた記憶はあるか?」
「ない」
「この壁の向こうに、何か感じるか?」
ナギは無表情のまま壁へ近づき、すっと手を伸ばした。
彼女の半透明の手が、コンクリートの壁をすり抜けて中へと入る。少しだけ中を探るような仕草をした後、すぐに手を引いた。
「何もない」
リセット予定時刻まで、残り十数分。
調査チームがそれぞれの配置につき、警備隊はガーディアンの残骸を囲むように銃を構えた。
俺とナギ、片桐は少し後方に待機する。
俺は、床に転がるガーディアンの残骸を見つめながら、あの時の恐怖を思い出していた。
巨大な機械に追い詰められ、逃げ場を失い、死を覚悟した。
ほんの数日前のことなのに、ずいぶん昔の出来事のようにも感じる。
俺がそんなことを考えていると、調査班の担当者が歩み寄ってきた。
「相馬。これを念動力で空中に浮かせたままにしておいてくれ」
渡されたのは、ガーディアンの装甲の破片の一つだった。大人の拳くらいの大きさで、識別用のセンサーが取り付けられている。
「俺がですか?」
「リセット中、お前の念動力で保持された状態の物体がどういう挙動を示すか、観察したい」
「分かりました」
俺は破片に意識を向け、空中に静止させた。
残り一分。
周囲は水を打ったように静まり返っている。観測機器の警告音も鳴らない。
残り三十秒。
これ、本当に決まった時刻にぴったり来るのか?
「前後数分のズレはある」と調査員は言っていたが。
まだ計器に何の変化もない。
その時。
横にいたナギが、不意に顔を上げた。
「……来る」
「え?」
「何がだ?」
片桐が反応する。
「戻る」
次の瞬間だった。
ピピピピピッ!!
配置されていた全ての観測機器が一斉に警告音を鳴らし始めた。
空間ノイズの増大。だが、温度変動はほぼなく、電磁的な異常も極めて小さい。
ただ、『物』だけが変化する。
一階の店舗側に設置されたカメラからのリアルタイム映像が、手元の端末に映し出された。
空っぽだった乾電池の棚。
瞬きをする間もなく、そこに商品が『存在』した。
破れた包装が新品の状態に戻り、床に散らばっていた商品が消え、元の棚の定位置に同一の品が再出現している。
『外部班より報告。持ち出し品、変化なし』
通信が入る。調査員が手元に持っている商品も、密閉容器の中の商品も、消えずに残っている。
それなのに、棚には同じ商品が復元されている。
「……やっぱり、増えてるんだな」
「少なくとも、このモールでも通常地点と同じ挙動だ」
調査員が答える。
単純な『時間の巻き戻し』なら、外へ運んだ商品まで元の棚に戻ってしまうはずだ。そうはならない。
「時間、戻ってない」
ナギが静かに言った。
全員が彼女を見た。
「前は『戻ってるように見える』って言ってなかったか?」
「うん。見える。でも、違う」
「じゃあ何なんだ?」
「分からない」
ナギには、これが普通の時間逆行ではないと分かるらしい。それ以上の説明は、本人にもできなかった。
その時。
「っ!」
俺の念動力で浮かせているガーディアンの破片に、突如として妙な力がかかった。
「何か引っ張ってる!」
「念動力を維持しろ!」
俺は破片をその場に留めようと抵抗した。破片が空中で激しく震える。
磁力とも、何かに物理的に引っ張られている感覚とも違う。
ただ、その破片の『あるべき位置』だけが決められていて、そこへ戻されようとしているような奇妙な感触だった。
戻れ、と、場所そのものに命令されているような。
だが、その不自然な力は、数秒でフッと消え去った。
直後。
「来るぞ!」
警備隊長が怒鳴った。
地下通路の床に転がっていたガーディアンの巨大な残骸が、ガシャガシャと音を立てて動き始めたのだ。
散らばった金属片、千切れた配線、ひしゃげた装甲。
それらが、まるで逆再生の映像を見ているかのような猛烈な勢いで、元の形へと組み上がっていく。
俺が空中に保持している破片は、そのまま残っている。
それなのに、ガーディアンの本体側では、その破片が本来あったはずの場所に、真新しい装甲部品が『形成』されていた。
「……俺、まだこれ持ってるぞ」
「確認している!」
凹んだ装甲が滑らかに復元され、破断した脚部が繋がり、センサーが形成される。
数十秒後。
数日前、俺が完全にスクラップにしたはずの、数トン級の巨大なガーディアンが、新品同然の姿で立ち上がった。
頭部のセンサーが、不気味な赤い光を点灯させる。
警備隊が一斉にアサルトライフルの安全装置を外した。
ガーディアンの太い腕が、駆動音を立てて持ち上がる。俺たちを侵入者と認識したのだ。
俺は一歩前に出た。
「止まれ!」
右手を前に突き出し、反射的に念動力を解放する。
——ギギッ!!
ガーディアンの全身が、見えない巨大な万力に挟まれたかのように、その場で完全に硬直した。
一ミリも動かない。
モーターが悲鳴のような唸りを上げ、脚部が床を踏み抜こうと出力を上げている。だが、腕も脚も胴体も、すべてが完全に固定されていた。
俺は、手のひらに少しだけ力を込めるだけで、数トンの巨体を完璧に押さえ込んでいた。
あの時は、恐怖で必死になり、ただ力を叩きつけることしかできなかった。
今は、動かさないように押さえているだけだ。
「…………」
「どうした?」
片桐が聞いてくる。
「いや……前は、こいつ相手に死ぬかと思ったんですけど」
ガーディアンの装甲がミシミシと鳴る。
「今、全然動かないなと思って」
「お前の方がおかしくなってんだよ」
片桐が呆れたように吐き捨てた。
「悠真、上手」
横でナギが平然と褒めてくる。
「はいはい」
専門班が接近し、完全に身動きが取れないガーディアンの電源系と制御部に、物理的な停止措置と拘束具を取り付けていく。
作業完了の合図を受け、俺は念動力をスッと解除した。
ガーディアンは、完全に機能を停止してその場に崩れ落ちた。
「……ガーディアン対策で、お前呼んで大正解だったな」
片桐が安堵の息を吐く。
「俺、最初の発見当事者として呼ばれたはずじゃ?」
「完全に主力戦力に昇格した」
「俺、まだ新人なんですけど」
「だから、それもう言うな」
調査員たちは、俺が浮かせていた破片と復元された本体をすぐに比較し始めた。
「……完全一致だ。内部の識別コードまで同じだぞ」
「同じ物が、二つある」
「コピーってことですか?」
「分からん」
調査員が首を振る。
「単純な物質複製なのか、以前の状態から再生成しているのか、それとも別の時間軸から同じ物が持ち込まれているのか。現象だけ見ればいくらでも仮説は立てられるが、決め手がない」
少なくとも、この地点で起きる復元現象は、ガーディアンまで『元に戻す対象』として扱っているらしい。
「じゃあ、俺が今日こいつをまた壊しても、一週間後にまた新品が復活するんですか?」
「少なくとも、今回と同じ現象が繰り返されるならな」
「面倒くせえ」
片桐が頭を掻きむしった。
*
だが、最大の問題はそこではなかった。
全員が、問題の行き止まりの壁の前に集まる。
商品は戻った。ガーディアンも戻った。地下通路の破損箇所も元通りだ。
なら。
あの『白い空間』への接続は?
壁に向けて、空間歪曲センサー、距離測定器、重力計、電磁波測定器など、ありとあらゆる計器が向けられている。
因果律そのものを直接測れるわけではないが、空間歪曲や重力、電磁的な異常なら高い精度で観測できる。
しかし。
何も、起きない。
「……戻らないですね」
俺が呟くと、片桐が無言で頷いた。
数分が経過し、通常のリセット現象が完全に終了したと宣告されても。
目の前にあるのは、冷たいコンクリートの壁だけだ。
白い空間への入り口は、どこにも現れなかった。
「復元反応なし」
「空間接続、検出されず」
「外部空間への接続反応も、一切検出されません」
調査員たちの落胆した声が響く。
俺は強い違和感を覚えていた。
商品は戻った。ガーディアンも戻った。
なのに、ナギのいたあの空間だけがない。
なら、あれは一体どこにあったんだ?
その時。
ナギが一人、フワリと壁の前へ近づいていった。
「ナギ?」
彼女は返事をせず、壁をじっと見つめた。
手を伸ばし、そのまま自分の半透明の身体を、壁の中へと少しだけ沈み込ませた。
そして、すぐに戻ってきた。
「ここは、戻ってない」
ナギが静かに言った。
「何がだ?」
片桐が尋ねる。
「みんな、戻った」
ナギは店舗の方向を指し、次にガーディアンを指した。
「でも、ここだけ、戻らない」
「どうしてだ?」
俺が聞くと、ナギは少しだけ考え込み、そして、核心を突く言葉を口にした。
「……違う」
「何が違うんだ?」
「戻る場所が、ない」
その言葉に、地下通路にいた全員が静まり返った。
「戻る場所が……ない?」
「うん」
「どういう意味だ?」
片桐が問いかけるが、ナギはいつものように首を横に振った。
「分からない」
いつもの答えだ。でも、今回ばかりはひどく重く響いた。
「この場所の過去の状態に、あの白い空間が『登録』されていないということか……?」
調査員の一人が、必死に解釈しようと呟く。
「待て。勝手に意味を決めるな。証拠がない」
別の調査員が制止した。
ナギ自身にも分かっていないのだ。ただ、通常のリセットが参照している『戻り先』の中に、あの白い空間が存在しないのではないか、という仮説が一つ増えただけだ。
俺は、初めてこの地下へ迷い込んだ時の光景を思い出していた。
あの真っ白で、広大な空間。明らかにこのモールの地下には収まらない広さ。
もしかして、あの空間は。
最初から、このモールの中の施設じゃなかったのではないか?
だが、それだと別の謎が残る。もし白い空間が全く別の場所なら、なぜあのガーディアンは『モール側のリセット対象』として復元されたのだ?
ガーディアンは白い空間の番人ではなかったのか? あるいは、あの接続部分にいたことでモール側の復元に巻き込まれたのか。
分からないことだらけだ。
「少なくとも、一つだけ言えるな」
片桐が、重い沈黙を破った。
「何ですか?」
「お前がナギを見つけたあの場所を、『ハーモニーモールの地下室』として扱うのは、もうやめた方がよさそうだ」
「確かに」
今後はあれを、単独の《白い空間》と呼ぶべきだろう。
調査はここで一旦終了となった。
だが、ハーモニーモールの封鎖解除は見送られた。ガーディアンが毎周期復活することが判明し、リセットの挙動が未解明で、白い空間への接続が再発する可能性もゼロではないからだ。
「じゃあ、この新人ルートにはしばらく戻れないんですね」
「当分な」
「結構稼げる、いいルートだったんですけど」
「諦めろ。金より命の方が高い」
片桐が呆れたように言い、少しだけ重かった空気が緩んだ。
帰り際。
俺は、ナギが機能停止したガーディアンをじっと見つめているのに気づいた。
「知ってるか?」
「分からない」
「見覚えは?」
「ない」
彼女の記憶には何も引っかからないようだった。俺はそれ以上聞くのをやめた。
*
帰り道。
「お前、あのリセットが始まる前、何かが『来る』って分かったよな?」
「うん」
「なんで分かったんだ?」
「分からない」
「便利な言葉だな、それ」
「本当に分からない」
「責めてるわけじゃないって」
俺は、あの夢を思い出していた。
夢の中のナギは、自分の意思で世界全体の時間を戻していた。
そして今日、彼女はリセット現象を事前に感知し、さらに「時間が戻っているわけではない」と言った。
偶然とは思いにくい。ナギと『時間』という概念に、何か深い関係がある可能性は高くなってきた。
だが、それだけで夢が真実だという確証にはならない。俺はまだ、慎重に物事を見るつもりだった。
「おなかすいた」
ナギが不意に言った。
「お前は本当にブレないな」
「昨日の店、行く?」
「毎日外食する気かよ。ハンターの稼ぎが吹き飛ぶぞ」
「悠真のでもいい」
「帰ったら炒飯作ってやるよ」
俺の中で、今日分かったことを整理する。
普通の物資は復元する。外へ持ち出した物資は消えずに残る。同一の物が、新たに現れる。
ガーディアンも同じように復活する。
白い空間だけは戻らない。
ナギはリセットを事前察知し、「時間が戻っているわけではない」と感じている。
答えはまだ、何一つ出ていない。
「戻る場所が、ない」
ナギのその言葉だけが、帰り道になっても、ずっと俺の頭の奥から離れなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!