未来の崩壊世界に転生したら、職業くじでハンターを引いたので旧文明を漁る   作:パラレル・ゲーマー

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第13話 一般探索ルートは普通に危険だった

 南第三ゲートの巨大な扉が背後で閉まり、俺とナギは崩壊世界へ足を踏み出した。

 俺は地面から二十センチほど、ナギはいつも通り三十センチほど浮いている。

 だが、俺はまだこの低空飛行に慣れておらず、姿勢制御に意識の何割かを持っていかれているため、移動速度は普段の徒歩と大差なかった。

 ナギは俺の速度に合わせ、隣をスーッと滑るように飛んでいる。

「お前、本気出せばもっと速く飛べるだろ」

「悠真と一緒」

「……そっか」

 なんだかんだで、少しだけ相棒感が育ってきている気がする。

 

 ARコンタクトに、今日の目的地への案内が表示された。

【一般探索ルート:旧東部第六物流センター】

【距離:約6.1km】

【推奨人数:2~4名】

【危険度:中】

【最終地図更新:4日前】

【警告:現地状況の保証なし】

 

 最後の二行が、新人ルートとの決定的な違いだ。

「現地状況の保証なし、か……」

 新人ルートでは、協会と警備隊が定期的に巡回していたため、ARの地図と現地の状況はほぼ一致していた。危険な崩落箇所や大型の自律機械は、あらかじめ地図上に赤くマーキングされるか、物理的に排除されていた。

 だが、一般ルートは違う。

 昨日、ルート情報を確認していた時に片桐から言われたことを思い出す。一般ルートの地図は答えではなく、あくまで最後に確認された時点の参考資料だ。

 四日前に安全だった通路が、今日も安全だという保証はどこにもないのだ。

 まだ敵の姿も見ていないのに、俺は少しだけ胃のあたりが引き締まるのを感じた。

 

 道中は、俺の飛行の練習も兼ねていた。

 低空を滑るように進む。

 アスファルトの深い亀裂、転がる瓦礫、旧車の残骸、不規則な段差。それらすべてを、足元を気にせずそのまま越えていくことができる。

「これ、かなり楽だな。足に全然疲労が溜まらない」

「飛ぶの、便利」

「念動力って、何やらせても便利すぎるな……」

 俺は少しだけ調子に乗り、意識して速度を上げてみた。

 時速十キロ弱。軽く走るくらいの速度だ。

 しかし、速度を上げた途端、上半身が前へ引かれるように傾いた。

「おっと!」

 バランスが乱れ、俺は慌てて念動力を制御し直して減速した。

「……まだ、このくらいの速度が限界だな」

 出力に余裕があっても、姿勢制御の技術が追いつかない。「飛べるようになった=いきなり万能」というわけにはいかないらしい。

 

 一時間少し進むと、遠くの景色の中に巨大な施設が見えてきた。

 《旧東部第六物流センター》。

 高層のラック棟、広大な配送ヤード、崩れた無数の搬入口、そして旧時代の物流ドローンが発着していたと思われる高い塔。

 施設の一部は、空間の継ぎ目に飲み込まれ、どこか別の地域の重工業地帯のような無骨な配管群へと物理的に融合している。一棟の奥だけは、空の色すら少し違って見えた。大転移後のこの世界では珍しくもない、既知の空間異常スポットだ。

 

 物流センターの入り口に到着した。

 新人ルートなら、入り口付近に安全を知らせる協会の青いマーカーや、簡易補修された足場、親切な警告のホログラムなどが設置されている。

 だが、ここは違った。

 雑草に埋もれた最低限の協会ビーコンが、微かに緑色の光を点滅させているだけだ。

 ARコンタクトに無機質な文字が浮かぶ。

 

【一般探索ルート開始】

【以降、安全の保証なし。自己責任で進行してください】

 

「……本当に書いてあるな」

「危ない?」

 ナギが覗き込んでくる。

「ああ。たぶんな」

「悠真、逃げる?」

「危なくなったらな」

 父さんからの教えは、一般ルートでも変わらない鉄則だ。

 

 巨大な配送ヤードに足を踏み入れた。

 薄暗い空間の中に、停止している自律搬送機が何台も放置されている。フォークリフトと無人搬送車の中間のような、無骨な四角いデザインだ。

 母機が機体を識別し、AR上に情報を表示する。

【旧文明自律搬送ユニット】

【稼働状態:不明】

 

 俺は警戒し、搬送機から数メートル離れたルートを選んで進んだ。

 だが、入って数分。

 一般ルートの洗礼は唐突に訪れた。

 一台の搬送機のセンサーランプが、突如として赤く点灯したのだ。

 

 ピィィィン!

 鋭い警告音とともに、一トン近くはありそうな鉄の塊が、俺に向かって急加速してきた。

「うわっ!」

 普通なら、慌てて横へ飛び退くか、ライフルを構える場面だ。

 しかし、俺の身体は反射的に『上』へ逃げていた。

 フワッ!

 念動力で自分自身を真上へと数メートル浮き上がらせる。

 直後、俺の足元のわずか数十センチ下を、自律搬送機が猛スピードで通過していった。

「おっとと!」

 急上昇したせいで空中で姿勢が乱れ、俺は手足をバタつかせた。

 横でナギがじっと見ている。手伝ってくれる気配はない。

 俺は自力で念動力を制御し、空中でなんとか体勢を立て直した。

「いきなり突っ込んでくるのかよ! 片桐さんの言ってた通りだ」

 

 搬送機は壁の手前で急旋回し、再び俺の真下へ向かって突進の構えを見せた。

 だが、今度は落ち着いている。

「止まれ」

 俺は右手を突き出し、念動力を解放した。

 ガッ!!

 一トン近い搬送機が、その場で完全停止した。

 駆動輪のタイヤだけが、床から数ミリ浮いた状態で虚しく空転している。

「よっ」

 俺はそのまま手首を返し、念動力で搬送機を横向きにひっくり返した。

 ドスン!

 鈍い音とともに、機械は完全にひっくり返り、タイヤが空を向いた状態で機能停止した。

 戦闘終了だ。

「上手」

 ナギが拍手をする。

「これはもう、すっかり慣れてきたな」

 あの数トン級のガーディアンに比べれば、ただ突っ込んでくるだけの搬送機はずいぶん対処しやすい。

 

 俺が先へ進もうとした時、母機がひっくり返った搬送機の型式を詳しく照合し、ARコンタクトに新しい情報を表示した。

【高出力駆動モーター】

【制御基板】

【姿勢制御ユニット】

【買い取り対象:推奨】

 

「……こいつ、売れるのか?」

 新人ルートでは、危険な自律機械は基本的に協会や警備隊が事前に破壊するか排除していたため、俺は『敵を倒して、その部品を剥ぎ取る』という発想をあまり持っていなかった。

 だが、一般ルートでは違う。

 搬送機自体が、旧文明の技術の塊なのだ。綺麗に止めれば、高価な交換部品の山になる。

 俺が工具を取り出すと、母機が簡易回収手順を呼び出し、AR上にアクセスパネルの位置と回収推奨箇所を重ねて表示した。

【回収推奨:駆動モーター】

【回収推奨:制御基板】

 俺は念動力を使い、ボルトを器用に回し、人間一人では持ち上がらないような重いモーターを安全に取り外した。そのままインベントリに収納する。

「……敵倒して金になるのか。ゲームならドロップ品みたいなものだな」

 俺は少しだけテンションが上がっていた。

「もっと倒す?」

 ナギが聞いてくる。

「言い方が物騒なんだよ。……でもまあ、そういうことなんだろうな」

 一般ルートでは、敵すら回収資源になるらしい。

 

 俺たちはさらに奥、巨大な倉庫棟の内部へと足を踏み入れた。

 天井は十五〜二十メートルほどありそうで、巨大な産業用ラックが奥の見えないところまで何列も続き、頭上には機能停止したコンベアが複雑に交差している。

 照明はほとんど死んでおり、非常用の薄暗い光が差し込んでいるだけだ。

 AR地図が、この空間が複数階層に分かれていることを示している。

 俺の目は、ラックの上段に向けられていた。

 普通なら、昇降機や高所作業用のクレーンが必要な高さだ。当然、それらはとうの昔に壊れているか錆びついている。

「ちょっと上、行ってみるか」

 俺は低空から、徐々に高度を上げていった。

 二メートル。三メートル。五メートル。

「……」

 下を見る。

「……結構、高いな」

「まだ低い」

「お前基準で語るのやめろ」

 十メートル以上は、まだ恐怖心の方が勝る。まずは五〜六メートル程度で止めておくことにした。

 

 高所ラックの上には、お宝が眠っていた。

 未開封の産業用ケース。制御モジュール。高密度電源ユニット。特殊ケーブル。

「うわ、めっちゃ残ってる!」

 理由は簡単だ。

 重い。高い。取りにくい。落下の危険がある。

 他の一般ハンターからすれば、回収効率が悪く、リスクに見合わないため後回しにされがちなのだ。

 だが、俺の念動力とは相性が抜群すぎる。

 俺は自分自身を空中に留めたまま、五つから六つの物資を同時に浮かせた。

 最初は、簡単だと思った。

「よし、このまま——あっ」

 一つの箱がバランスを崩し、傾いた。

「落ちる」

「分かってる!」

 俺は慌てて念動力を集中させ、落ちかけた箱を空中で掴み直した。

 

 ここで、俺は自分の能力の『成長の壁』に気づいた。

 出力は余裕だ。重さも問題ない。

 だが、『頭が忙しい』のだ。

 自分自身を空中に浮かせて姿勢を保つ。複数の物資をそれぞれ別々に保持する。ARの表示を確認する。周囲の警戒を怠らない。

 これらすべてのマルチタスクを同時にこなすには、俺の脳の処理能力がまだ追いついていない。念動力自体はチートだが、俺の頭のキャパシティが先に限界へ近づく。

 

「持つ?」

 ナギが横にスッと寄ってきて、浮かせていた箱の一つを抱えた。彼女が持つと、その箱も半透明化する。

「頼めるか?」

「うん」

「……それ、落とすなよ」

「落とさない」

 ナギも立派な探索要員になってきていた。

 俺は方針を変更した。飛行中は、自分自身の制御に集中するため、浮かせたまま持ち運ぶのは二〜三個に留める。地上に降りて足場を確保した時だけ、十個以上を同時に操作する。

 自分なりの安全なルールを決めた。

 

 別の通路へ出た時、話し声が聞こえた。

 三人組のハンターパーティーだった。装備の使い込み具合からして、明らかにベテランだ。リーダー格の三十代くらいの男が、俺の姿を見て眉をひそめた。

「……子供?」

「十五です」

「ここ、新人ルートじゃねえぞ」

「今日から一般ルートに上がりました」

「今日から!?」

 男が驚いたように声を上げると、横にいたメンバーがナギに気づいた。

「……おい、噂の幽霊連れか?」

「私は、幽霊じゃないと思う」

 ナギが反論する。

「その情報まで、もう回ってるんですね……」

「おまけに、ガーディアンをぶっ飛ばした念動力のガキだろ?」

「なんでそんな詳細まで広まってんだよ」

「協会であんだけ派手な騒ぎを起こせば、嫌でも広まるわ」

 リーダーの男が苦笑いした。

 

「俺は真壁。一般ルート初日なら、いくら能力が強くても調子乗るなよ」

 真壁さんの言葉は、嫌味ではなく純粋な忠告だった。

「はい。死にたくないので」

 俺が素直に頷くと、真壁さんは少し意外そうな顔をした。

「素直だな。まあ、いいことだ。……おい、そこ踏むな」

「え?」

 真壁さんが指差した先は、一見なんの変哲もないコンクリートの床だった。

「よく見ろ。細い亀裂が入ってる。埃の積もり方が不自然だ。上のラックがわずかに傾いて、荷重がこの床から逃げてる証拠だ」

 真壁さんが、少し離れた別の場所に軽く重りを投げた。

 バキッ!!

 俺が踏もうとしていた床の一部が、轟音とともに下の階へと崩れ落ちた。

「…………」

 背筋が凍った。

「地図の更新から四日だ。四日もあれば、これだけ重いラックが並んでる施設なら床の一つや二つは抜ける。一般ルートはそういう場所だ」

 念動力がどれだけ強くても、俺にはこういう『経験による危険察知』の能力が欠けている。知らないことは見抜けないのだ。

「……ありがとうございます」

「まあ、落ちてもお前なら飛べるらしいから死にはしないだろうが。落ちた先に何がいるか分からんからな」

 

 彼らの探索スタイルは、俺にとって非常に勉強になった。

 一人が索敵ドローンを飛ばし、一人が武器を構え、一人が回収と工具を担当する。角を曲がる前には必ずドローンで確認し、自律機械の駆動音に耳を澄ませ、常に退路を確保しながら動いている。

 派手な超能力はない。だが、動きに一切の無駄がなく、洗練されていた。

「大型の品は、持ち帰れない時は位置登録して一時マーキングするんだ」

 真壁さんが回収予定の大型基板へ母機を向けると、AR上に表示が浮かぶ。

【回収予約】

【登録者:真壁班】

「これ、勝手に持っていったらどうなるんですか?」

「協会で揉める。一般ルート内の慣習だ。まあ、盗賊とは別で、ハンターにはハンターの社会のルールがあるってことだ」

「勉強になります」

 

「じゃあな。一般ルート初日で無茶すんなよ」

「ありがとうございます」

「またね」

 ナギが小さく手を振る。

 真壁さんも軽く片手を上げた。

「おう。またな」

 

 俺たちは真壁さんたちと別れ、さらに奥の第二倉庫区画へと進んだ。

 

 そこからは、さらに物資の単価が上がり、敵の数も増えた。

 正面に二台、側面に一台、上層のコンベアに一台。計四台の自律搬送機。

「四台か」

 新人時代なら恐怖で足が竦んでいただろう。

 俺は一度地上に降り、姿勢制御に割いていた意識を空けた。

 その上で、念動力を展開する。四台まとめて拘束し、安全を確保してから一台ずつ丁寧に機能停止させていく。

 飛びながら全部やる必要はない。自分の能力の強みと、今の俺自身が処理できる範囲を理解して戦術を組み立てればいい。

 高出力モーター、制御基板、センサー類。

 価値は高いが、敵を解体するたびにインベントリの容量が目に見えて消費されていく。

 

 そして。

 倉庫の最奥部で、俺はそれを見つけた。

 大型冷蔵庫ほどの大きさの、無骨な金属の塊。

 母機が識別し、ARコンタクトに情報を表示する。

 

【旧文明高精度産業用サーボユニット】

【状態:良好】

【需要:極高】

 

 続いて表示された推定買い取り額を見て、俺は完全に固まった。

「……絶対、持って帰る」

「高い?」

 ナギが聞いてくる。

「めちゃくちゃ高い。これ一個で、新人ルート何十回分だ!?」

 俺は興奮しながら、念動力でそのサーボユニットをフワッと持ち上げた。重量は六百キロ以上あるはずだが、俺の力なら問題にならない。

「ほら、余裕」

「入れる?」

「…………」

 インベントリの収納口に近づける。

 

【収納不可:必要容量不足】

 

「ですよね!!」

 今の標準型では、どうやっても収まりきらない。

 

 俺は少し考えた。

「重量は問題ないんだ。このまま念動力で浮かせて、俺の後ろを追従させながら、コロニーまでの六キロを帰れば……」

「できる」

 ナギも同意する。

 俺は大型ユニットを後ろに浮かせ、歩き出した。

 最初は楽だった。

 高所で物資を運んだ時に決めた『二〜三個まで』という目安からすれば、これはたった一個だ。

 だが、大型ユニット一個を常に安定させ続けながら六キロ運ぶのと、小さな箱を短時間浮かせるのとでは、話が違った。

 

 数十メートル進んだところで、ARが警告音を鳴らした。

 二台の警備ドローンが接近してくる。

「……」

 俺は、大型ユニットを保持したまま、敵二台へ念動力を伸ばした。

 一台停止。

 もう一台も停止。

 だが、その瞬間、後ろの大型ユニットがバランスを崩して大きく傾いた。

「あっ!」

 慌ててユニットを立て直すと、今度は周囲への警戒がおろそかになる。

「悠真、忙しい?」

「……めちゃくちゃ忙しい!」

 

 俺はユニットを床に下ろし、ドローンを処理してから、改めて考えた。

 まだ物流センターの内部だ。帰路は六キロもある。途中にも敵がいるし、崩落箇所もあるし、狭い道もある。

 結論は出た。

「無理だな」

「持てるよ?」

「持てる。持てるけど、これを持ったまま六キロ移動して、敵と戦って、瓦礫を避けて帰るのは、ハンターとしてただの馬鹿だ」

 能力で可能だからといって、実務上やるべきとは限らない。

 俺は本気で悔しがりながら、母機を操作した。

 真壁さんたちに教わった通り、回収予約を登録する。

 

【回収予約】

【登録者:相馬悠真】

【対象:旧文明高精度産業用サーボユニット】

 

「……これでよし」

 俺は母機から装備カタログを開き、上位の【中容量型インベントリ】の仕様を確認した。

 入る。中容量型なら、このサーボユニットも収納できる。

「決めた」

「何?」

「俺は、中容量型インベントリを買う。買ったら、真っ先にこれを取りに戻ってくる」

 装備を買うこと自体が目的じゃない。

 良い装備を買えば、今まで持ち帰れなかった宝物を持ち帰れる。

 こういう形で、自分にできることが増えていくのはかなり楽しい。

 

 残りの探索は、大型品を完全に無視し、小型で高額な部品——制御基板、高密度電源、センサー類——に狙いを絞った。容量単価重視の戦略だ。

「これ?」

 ナギが拾ってきた普通の部品。

「それは安い」

「これは?」

「当たり。めっちゃ高い」

「これは?」

「……ただのボルト」

「そう」

 ナギは気にした様子もなく、次の棚へ漂っていった。

 

【インベントリ使用率:88%】

 俺は数字を見て、立ち止まった。

「帰るか」

「まだ入る」

 ナギが不思議そうに言う。

「一般ルート初日だ。帰路の安全余裕を確保する。欲張らない」

 真壁さんの忠告も頭に残っている。

 俺はそのまま帰還ルートへ向かった。

 

 南第三ゲートに帰還したのは、日没の少し前だった。

「おっ、無事だったか」

 警備員が声をかけてくれる。

「どうだった?」

「……新人ルートと同じ気分で来る場所じゃないですね」

 俺が苦笑すると、警備員も笑った。

「分かったなら上出来だ」

 

 協会での査定。

 カウンターに出された物資の山は、新人ルートの時とは明らかに品目も価値も違った。

 高出力モーター、制御基板、各種センサー。

「これ、全部今日の分か?」

 査定員が驚いている。

「はい」

「旧文明機械の部品が綺麗に残ってるな。敵ってのは、壊し方が綺麗ならもっと高く売れるんだよ」

 念動力なら、機械を粉砕せずに完全停止させることができる。これも俺の能力の強みだ。

 次から、壊す場所だけでなく、どう止めれば一番高く売れる状態で残せるかまで考えてみよう。

 

 端末に表示された本日の査定総額。

「……え?」

 俺はもう一度桁を見た。

「これ、一日分ですか?」

 片桐がニヤリと笑った。

「一般ルートへようこそ、だ」

「このペースで稼げたら、あの中容量型インベントリを買うまで、あと何回くらいです?」

「今日と同じくらい当たりを引けば、あと五回前後ってところだな」

「じゃあ、五回ですね」

 俺は完全にやる気になっていた。

 片桐が、少し真面目な顔で釘を刺す。

「稼げるようになった時が、ハンターは一番死ぬんだぞ」

「え?」

「装備も腕も上がって、自分が強くなったと勘違いして奥へ行く。そこで死ぬ奴が一番多いんだ。気を引き締めろ」

 

「分かりました」

「本当に分かってるか?」

「少なくとも、今日はあの一番高い大型サーボユニット、諦めて置いてきましたよ。六キロ持って帰るのは馬鹿だと思ったんで」

 片桐は、少し満足そうに頷いた。

「ちゃんと諦めたのか。それならいい」

 能力だけじゃなく、判断力を認められた気がして少し嬉しかった。

 

 自宅に帰り、夕食を終えた後。

 俺は自室のベッドに寝転がりながら、母機の画面を眺めていた。

 

【回収予約中:旧文明高精度産業用サーボユニット】

 

 その下に、装備カタログの画面を並べる。

 

【中容量型インベントリ】

 

 俺はしばらく、その二つの画面を交互に見比べた。

 あれを買えば、あれを持って帰れる。

 装備が収益を増やす。収益でさらに装備を整え、もっと深い場所へ進める。

 空中に浮かんでいたナギが、横から画面を覗き込んできた。

「欲しい?」

「ああ。欲しい」

「両方?」

「両方だ」

「じゃあ、拾う」

「そうだな」

 俺は母機の画面を閉じ、小さく笑った。

 

「……よし。あと五回だ」

「何が?」

「あの中容量型インベントリを買うまで」

 ナギがこくりと頷いた。

「じゃあ、また行こう」

「もちろん」

 

 一般探索ルートは、普通に危険だった。

 だからこそ、新人ルートよりずっと面白い。




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