未来の崩壊世界に転生したら、職業くじでハンターを引いたので旧文明を漁る 作:パラレル・ゲーマー
地響きとともに南第三ゲートが閉まり、コロニーの喧騒が分厚い壁の向こう側へと遮断された。
視界に広がるのは、いつもの崩壊した世界。見慣れた旧日本の住宅街の残骸と、空間の歪みによって継ぎ接ぎされた異国の道路だ。
俺はライフルを肩に掛け直し、ARコンタクトに表示されている青いルートラインを確認した。
【第87新人周回ルート】
【目的地:旧家電量販店】
【距離:約3.5km(徒歩40分)】
【危険度:低】
よし。
俺が歩き出すと、隣でナギが音もなくついてきた。
昨日、俺が彼女を連れ帰った時は、ただ一緒にコロニーへ帰還するだけだった。だから、最初からこうして横に並んで『探索』に出るのは今日が初めてだ。
彼女は俺の横、地面から三十センチほど浮いた高さを、スーッと滑るように移動している。
アスファルトのひび割れも、散乱する瓦礫も、彼女の半透明の足元をすり抜けていくため、一切の障害になっていない。
「……便利だな、お前」
「なにが?」
ナギが不思議そうに首を傾げる。
「歩かなくていいだろ。足、疲れないし」
「悠真も浮けばいい」
「俺はまだ浮けねえよ」
と返しつつ、俺は一瞬だけ足を止めた。
……待てよ。念動力。
俺が昨日得た力は、物体を持ち上げ、空中に浮かせることができる。
だったら、自分自身を対象にすれば飛べるんじゃないか?
頭の中で、自分の身体がフワリと浮き上がる光景を想像する。
数トンの物体を動かせるのだから、体重程度なら出力そのものは足りるはずだ。
問題は制御である。
「…………」
俺は静かに首を横に振った。
「いや、やめとこう」
「どうして?」
「初めて試す飛行で操作ミスって、自分を頭から地面に叩きつけたくないからな」
「悠真、丈夫じゃない?」
「普通の十五歳だからな!」
飛行実験をするなら、せめて安全な場所でやるべきだ。
俺は将来の課題として頭の隅に放り込み、再び歩き始めた。
道中、ナギは周囲の景色を興味深そうに眺めていた。
日本のボロボロになった木造家屋が並んでいるかと思えば、交差点を越えた瞬間に英語の道路標識が現れ、その奥には赤茶色のレンガ造りの建物が並んでいる。
高架道路は途中で空間ごと断ち切られ、本来なら絶対に繋がるはずのない別地域の道路へ続いていた。
「変」
ナギがポツリと呟いた。
「何が?」
「場所が、合ってない」
「まあ、《大転移》で世界中が滅茶苦茶になったらしいからな」
俺がそう言うと、ナギは特に驚く様子もなく「そう」とだけ答えた。
昨夜の夢が一瞬だけ頭をよぎる。
その《大転移》を起こす《恐怖の大王》だと予言されていた少女が、今は自分の作った世界を見て「変」と言っている。
もちろん、あの夢が本当に過去の記憶だったという確証はまだない。
俺はそれ以上考えず、ARの青線を追った。
少し歩くと、前方から三人組のハンターがやってきた。
装備の使い込み具合を見る限り、少なくとも新人ではない。
彼らは俺の姿を見るなり、何やら小声で話し始めた。
「おい、あれ……第十四区画のイカれガキじゃねえか?」
「六日連続で周回してたって噂の?」
俺は心の中でため息をついた。
もうそんな呼び名が定着しかけているのか。
そして当然、彼らの視線は俺の横を浮いているナギへ移った。
「……昨日噂になってた幽霊もいるぞ」
「私は、幽霊じゃないと思う」
ナギが即座に訂正する。
男たちは一瞬黙り、そのうち一人が苦笑した。
「本当に喋るんだな」
「普通に喋りますよ」
「お前、昨日の騒ぎの新人だろ?」
「そうです」
「次から次へと面白いこと起こすなあ、お前」
「俺も好きで起こしてるわけじゃないんですけどね……」
軽く会釈してその場を離れる。
背後から「あいつ絶対また何か拾ってくるぞ」と聞こえた気がしたが、聞かなかったことにした。
*
四十分ほど歩き、目的地の《旧家電量販店》に到着した。
かつては大型の四階建て店舗だったらしいが、上階は崩落の危険が高く、新人ルートとして開放されているのは一階と二階の一部だけだ。
色褪せた巨大看板は半分ほど文字が抜け落ち、正面のガラスもほとんど割れている。
外から見れば完全な廃墟だった。
しかし、中へ足を踏み入れると奇妙な光景が広がっている。
床には埃が積もり、天井の一部は崩れ、壁には大きな亀裂が入っている。
それなのに、特定の商品棚だけが不自然なほど整っていた。
乾電池のパック。充電ケーブル。小型工具。記録媒体。
それらの商品だけが、新品同然の状態で棚に並んでいる。
「戻ってる」
ナギがピタリと動きを止めた。
「分かるか? この辺、一週間くらいで時間が巻き戻って、物資が復活するらしいんだ」
俺が説明すると、ナギは返事をせず、商品棚をじっと見つめた。
「……変」
「何が?」
「時間が、戻ってる」
「だから、そういう現象なんだって」
「でも、変」
「だから何がだよ」
ナギは商品棚の周囲をゆっくり漂い、首を傾げた。
「……戻し方」
「戻し方?」
「……下手?」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
昨夜の夢の中で見た少女は、世界規模で時間そのものを巻き戻していた。
人間の記憶も、記録も、物理状態も、一切の痕跡を残さず元の時間へ戻す。
あの夢が本物なら、こいつは時間操作の出来に文句を付けられる側だったことになる。
「何と比べて下手なんだよ」
「分からない」
「だと思ったよ」
俺は苦笑して、改めて周囲を観察した。
確かに奇妙ではある。
商品は戻っているのに、割れた窓は割れたまま。天井の崩落も、壁の亀裂も直っていない。
少なくとも見た限りでは、建物全体の時間が巻き戻るのではなく、棚の商品や一部の物だけが以前の状態へ戻っているように見える。
「建物全部が戻るわけじゃないんだな」
「うん」
「だから下手?」
「たぶん」
「……まあいいか」
考えても答えは出そうにない。
俺は母機で今日のルートを確認し、仕事を始めた。
まずは一階。
電池、ケーブル、照明器具、小型工具。
新人ルートなので他のハンターも頻繁に訪れるが、リポップしたばかりの棚には十分な物資が残っている。
「よし。まずは容量単価のいいやつから集めるか」
「容量単価?」
「インベントリキューブの中身は無限じゃないからな。なるべく小さくて、高く売れる物を優先する」
「なるほど」
俺は棚の最上段にある箱入りの高性能バッテリーへ目を向けた。
普通なら踏み台か脚立が必要な高さだ。
だが今は。
——来い。
フワッ。
箱が棚から浮き上がり、綺麗な軌道を描いて俺の手元へ飛んできた。
パシッ。
「……便利」
「便利」
俺とナギの声が綺麗に重なった。
「これ、一個ずつやる必要もないな」
俺は次に、棚に並んでいる乾電池のパック十個と、横の棚の充電ケーブル五個へ意識を広げた。
十五個の商品が一斉に浮き上がり、空中で整列しながら俺のところまで移動してくる。
俺はインベントリキューブを操作し、飛んできた物資を次々と収納していった。
今までなら、棚まで歩く。商品を取る。戻る。収納する。
その繰り返しだった。
今は通路の中央に立ったまま、必要な商品だけをこちらへ呼び寄せられる。
「……これ、探索に便利すぎないか?」
数トンのガーディアンをぶっ飛ばした時は、単純に戦闘能力として恐ろしい力だと思った。
でも廃墟探索では、数十キロ程度の物を正確に、しかも複数同時に動かせる能力の方がよほど使い道が多い。
さらに奥へ進む。
通路の先では、大型のスチール製陳列棚が横倒しになり、青い推奨ルートを完全に塞いでいた。
ARには、
【迂回推奨】
と表示されている。
普通なら素直に迂回するところだが、俺は倒れた棚を見た。
数百キロ程度。
今朝の検査で三トン近い重量物を安定して浮かせられたことを考えれば、問題にもならない。
棚へ意識を向ける。
ググッ……。
巨大な棚が床を離れ、そのままゆっくりと横へ移動する。
空いている場所へ運び、倒れないよう静かに下ろした。
ドスン。
青いルートが再び開通する。
「こういう障害物までどうにかできるのか……」
自分で使っておいて、少し呆れる。
その先では、床が崩落して大きな穴が空いていた。
穴の向こうには、未開封の小型バッテリーが数箱残っている。
これまでなら危険を冒して渡るか、諦めるかの二択だった。
俺は安全な場所からバッテリーへ意識を向けた。
フワッ。
箱が穴の上を飛び越えてこちらへやってくる。
一歩も危険地帯へ踏み込むことなく、回収完了。
「……なるほどな」
戦闘で強いのもありがたい。
だが、そもそも危険な場所へ近づかずに済むというのは、ハンターにとってそれ以上に大きいかもしれない。
さらに、大型の非常用電源装置や業務用バッテリーも見つけた。
こういった機器は高値で売れる一方、重すぎるため新人ハンターには扱いづらい。
俺には関係ない。
大型電源装置がフワリと浮き、俺の後ろをついてくる。
「重い?」
ナギが尋ねる。
「念動力だと、あんまり重さを感じないな。ただ、大型のやつはインベントリの場所を食う」
重量という制限を突破した結果、今度はインベントリキューブの容積そのものが問題になる。
「大きくすればいい」
「何を?」
「中」
「できねえよ! 空間収納の中身を勝手に広げられたら苦労しねえんだよ!」
「そう?」
ナギは本当に不思議そうだった。
あの夢が本物なら、昔のナギなら実際に「広くなればいい」と思うだけで済んだのかもしれない。
今の彼女にそれができるのかどうかは、分からない。
「とりあえず、キューブは壊すなよ」
「壊さない」
「広げようともするなよ」
「……分かった」
一瞬だけ間があったのが怖い。
同じフロアの少し離れた場所で、別の二人組のハンターがこちらを見ていた。
彼らの視線の先には、俺の後ろを空中移動している大型電源装置がある。
「…………」
「こんにちは」
俺が挨拶すると、二人は引き攣った顔で返してきた。
「……お前、それ何やってんだ?」
「念動力です」
「昨日まで普通の新人だったよな?」
「はい」
「…………」
ナギが横で俺と大型機器を見比べる。
「悠真、上手」
二人の視線が今度はナギへ移った。
「幽霊まで連れてる……」
「幽霊じゃないと思う」
「あ、そこは否定するんだ……」
二人は何とも言えない顔で俺たちを見送り、別の通路へ消えていった。
また余計な噂が増えそうだ。
*
二階へ上がると、ARコンタクトに警告が表示された。
【旧文明小型警備機械反応】
通路の奥から、ソフトボールほどの大きさの小型ドローンが二機、赤いセンサーを光らせながらこちらへ向かってくる。
危険度は低い。
新人でも、落ち着いて支給ライフルを使えば処理できる程度の相手だ。
昨日のガーディアン戦でかなり弾を使ったが、今朝、協会を出る前に規定分まで補充してもらっている。
弾薬に問題はない。
俺も条件反射でライフルを構えかけた。
だが。
待てよ。
銃を少し下ろし、飛んでくるドローンへ意識を向けた。
ピタッ。
一機が空中で完全に停止した。
モーターが甲高い音を立て、前進しようとしているのに、一ミリも進めない。
そのまま二機目へ意識を広げる。
ピタリ。
二機とも、空中で拘束された。
「…………」
俺は一機を床へ押さえつけ、そのままライフルの照準をセンサー部へ合わせる。
パンッ!
機能停止。
もう一機も同じように処理する。
パンッ!
終了。
「上手」
ナギが言った。
「ほんとにお前、それ気に入ったな」
「上手だから」
「まあ、ありがとう」
念動力だけで握り潰すことも、そのうちできるのかもしれない。
だが今のところ、確実に壊せるライフルがある以上、わざわざ未知の方法を試す必要もない。
そこで、ふと思いついた。
撃つ瞬間、ライフルそのものへ念動力をかけたらどうなる?
安全な方向へ銃口を向け、引き金を引く瞬間だけ、跳ね上がろうとする銃を逆方向から押さえ込む。
パンッ!
「お?」
肩へ返ってくる衝撃が明らかに弱い。
もう一度。
パンッ!
今度は銃口の跳ね上がりまでほとんど消えた。
「これ、反動まで抑えられるのか……」
そこから発想が一気に広がる。
落とした銃を手元へ引き戻す。
相手の武器を奪う。
離れた場所からマガジンを交換する。
遮蔽物に隠れたまま、銃だけを横から出して射撃する。
さらに慣れれば、複数の銃を宙に浮かべて――。
「…………」
そこで俺は考えるのをやめた。
最後の方、完全に人間の戦い方じゃなくなってないか?
「どうしたの?」
ナギが首を傾げる。
「いや……将来の自分が、ちょっと怖くなってきた」
「?」
「気にするな」
*
二階の奥。
色褪せた『ゲーム・映像・記録媒体』という看板が目に入った。
廃墟になったゲーム売場。
古いゲーム機本体。パッケージ。コントローラー。周辺機器。
前世の記憶を持つ俺には、妙に懐かしい空間だった。
この世界にも現在のゲームはある。
だが、ここにあるのは《大転移》より遥か昔の旧文明製品だ。
大半はすでに回収されたか、リポップの対象外らしい。
それでも棚の奥を念動力で探っていると、未開封の旧ゲーム機が数台残っているのを見つけた。
AR評価。
【旧文明娯楽端末】
【市場需要:高】
【買い取り推奨】
「うわ……」
外箱のデザイン。
前世で見た何かに似ているような、全く違うような。
少なくとも俺が知っていた二十一世紀のゲーム機より新しそうだ。
売れば高い。
だが、動くなら一度くらい遊んでみたい。
「…………」
「欲しい?」
気づけばナギが俺の顔を覗き込んでいた。
「……ちょっと」
「持って帰ればいい」
「売ったら金になるんだよ」
「欲しいなら、持って帰れば?」
「お前、こういう時だけやたら正論だよな……」
インベントリの残り容量と相談し、とりあえず一台だけ自分用として確保することにした。
仕事の物資とは別に、自分が欲しい物を探す。
こういう楽しみ方もあるのか。
ハンターという仕事が、少しずつ本当に宝探しへ変わっていく。
俺がゲーム機を眺めている間に、ナギは修理カウンターの奥へ漂っていった。
「悠真」
「ん?」
「これ」
彼女が持ってきたのは、小さな黒い部品だった。
見た目だけなら、地味な金属と樹脂の塊にしか見えない。
「何それ?」
ARでスキャンする。
【高密度記憶素子】
【旧文明規格】
【状態:良好】
【希少度:高】
【買い取り推奨】
「……これ、かなり高く売れるぞ」
「そう?」
「なんでこんなの見つけた?」
「気になった」
「なんで?」
「分からない」
俺は黒い部品を見る。
そしてナギを見る。
昔の記憶が何か残っているのか。
それとも単に、他の物より目についただけなのか。
「綺麗だった」
ナギが言う。
「真っ黒だけどな」
「中」
「中?」
何が見えているのかは分からない。
ナギ自身にも、それ以上説明することはできないようだった。
しかも、この部品はリポップしている商品棚から拾った物ではない。
修理カウンターの奥に残されていた一点物だ。
つまり、登録済みの周回ルートだからといって、既知の物資しか残っていないわけではない。
誰も価値に気づかず放置している物だって、まだある。
「ナギ、ナイス」
「ナイス?」
「いい物見つけたってこと」
ナギは少し考える。
「私、上手?」
「……上手」
ナギの目元が、ほんの少しだけ嬉しそうに緩んだ。
*
安全が確認されている旧従業員休憩室で、昼休憩を取ることにした。
俺はインベントリから保存パンと栄養バー、水筒を取り出し、ナギにも渡す。
ナギは空中に浮いたままパンを囓り、水筒から水を飲んだ。
しばらく黙って食べていたが。
「……昨日の方が、おいしい」
「保存食と、できたての炒飯を比べんな」
「悠真、ごはん作れる」
「外の廃墟で炒飯作れってか?」
「うん」
「無茶言うなよ」
窓の外には、崩壊した街並みが広がっている。
途中から別の国へ変わっている道路。その向こうには、半分崩れた高層建築。
俺は壁を背にして座り、栄養バーを囓った。
「悠真」
「ん?」
「毎日、外に来る?」
「毎日は分かんないけど。……来たいな」
「どうして?」
「面白いから」
するとナギは、何の迷いもなく答えた。
「じゃあ、私も来る」
「勝手に決めんなよ」
「嫌?」
俺は一瞬だけ、考えるふりをした。
「……別に」
「じゃあ、来る」
「もう決定事項なのかよ」
ナギは満足そうにパンの残りを食べ始めた。
俺も、それ以上は何も言わなかった。
*
昼休憩を終え、後半の探索を始める。
念動力の扱いにも少しずつ慣れてきた。
通路の中央に立ち、ARで価値の高そうな物を選別し、複数の棚から必要な物資だけをまとめて引き寄せる。
しばらくして、表示。
【インベントリ使用率:72%】
さらに探索。
【インベントリ使用率:85%】
大型の電源装置は容量を食いすぎる。
途中から小型の電子部品や記録媒体を優先するように切り替えた。
【インベントリ使用率:96%】
「早っ」
まだ滞在時間は二時間ちょっとだ。
これまでなら半日近く使っていた。
「もう帰る?」
ナギが尋ねる。
「そろそろな。残り容量で、高い物だけ入れる」
目の前には大型の高額バッテリー。
隣には、小型だがそれなりに値段のつく電子部品。
今までなら高額バッテリーへ飛びついていたかもしれない。
だが、残り容量を考えるなら小型部品の方が効率がいい。
俺は電子部品の束を選んで収納した。
最後に、自分用の旧ゲーム機一台を入れる。
【警告:インベントリ容量上限接近】
【インベントリ使用率:98%】
「よし。これで終わり」
ここから先は欲張る必要はない。
容量限界を超えてエラーでも起こしたら目も当てられない。
俺たちは、そのまま帰路についた。
日没までは、まだかなり余裕がある。
「二時間ちょいで満杯になったな……」
「早い?」
「今まではもっとかかったよ。半日仕事だった」
念動力による回収効率。
危険箇所を無視できる安全性。
そしてナギが見つけた一点物。
すべてが噛み合っていた。
南第三ゲートへ戻ると、警備員が俺たちを見て驚いた。
「おい、もう帰ってきたのか? 何かあったのか?」
「満杯です」
「何が?」
「インベントリが」
「……早くないか?」
「俺もそう思います」
*
ハンター協会へ戻ると、片桐が時計を見て、俺を見て、ナギを見た。
「…………」
「ただいま戻りました」
「早くねえか?」
「満杯になったので」
「何時間いたんだ?」
「移動時間除いたら、二時間ちょいですね」
「…………」
査定カウンターに回収品を並べていく。
バッテリー、ケーブル、電子部品、工具、記録媒体。
通常の新人周回とは思えない量らしい。
最後に、ナギが見つけた黒い記憶素子を出した。
査定員の目の色が変わる。
「……これ、どこで見つけた?」
「修理カウンターの奥です」
「誰が?」
「ナギが」
「私」
ナギが一歩前へ出る。
査定員は端末で何度か確認し、感心したように黒い部品を眺めた。
「ルートの定番回収品じゃないぞ、これ。よく見つけたな」
ナギが俺を見る。
「上手?」
「ああ。上手」
ナギは満足そうに頷いた。
提示された買い取り額は、通常の新人周回一回分を明らかに上回っていた。
インベントリの容量自体はこれまでと大きく変わらない。
だが、念動力のおかげで高所や危険箇所、重量物を無視して価値の高い物資を優先できたことと、ナギが見つけた記憶素子が大きいらしい。
「新人周回で、この額かよ……」
片桐が呆れたように呟く。
「念動力のおかげですね」
「……お前、その能力、ハンターに向きすぎじゃないか?」
「ですよね?」
ガーディアンをぶっ飛ばした時にも、強い能力だとは思った。
でも実際に一日周回してみて、ようやく実感した。
もしかして俺、職業くじでハンターを引いたの、外れじゃなかったんじゃないか?
「明日は休めよ」
片桐が釘を刺す。
「えー」
「えーじゃねえ!」
「明日も、行く?」
ナギが俺に聞いてくる。
「……」
「答えるな!」
片桐の怒号が協会に響いた。
俺は心の中で、小さく笑った。
この力。
念動力、探索に便利すぎる。
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