『神様の手違いで死んだ社畜、異世界で《創造》の力を手に入れる』   作:やのちてぇ

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第十話 初めての昇格

 

 

翌朝。

 

目を覚ました瞬間。

 

「……身体、痛ぇ」

 

全身が悲鳴を上げた。

 

特に腕。

 

昨日、あの巨大な魔物――アイアンホーンと戦った時の疲れが、見事に残っている。

 

「異世界でも筋肉痛ってあるんだな……」

 

当たり前か。

 

ベッドの上で身体を起こす。

 

宿の小さな窓から朝日が差し込んでいた。

 

この世界に来てから。

 

朝、目を覚ますたびに少しだけ不思議な気持ちになる。

 

会社に行かなくていい。

 

上司から連絡も来ない。

 

満員電車もない。

 

今日何をするか。

 

自分で決められる。

 

「……最高かよ」

 

俺はベッドから降りた。

 

身体は痛いけど。

 

会社に行く朝より百倍気分がいい。

 

 

朝食を済ませ。

 

俺は冒険者ギルドへ向かった。

 

昨日。

 

リリアさんから言われている。

 

――今回の功績について、ギルド内で検討します。

 

つまり。

 

ランクが上がるかもしれない。

 

「ゲームだったらレベルアップの瞬間なんだけどな」

 

少しだけ楽しみにしながら扉を開ける。

 

「おはようございま――」

 

「おっ!」

 

「来たぞ!」

 

「アイアンホーンの新人だ!」

 

「……」

 

帰りたい。

 

昨日まで。

 

俺なんて誰も知らなかった。

 

なのに。

 

今はギルドに入っただけで何人かがこっちを見る。

 

「お前、レイっていうんだろ?」

 

知らない冒険者が声をかけてくる。

 

「そうですけど」

 

「本当に一人でアイアンホーン倒したのか?」

 

「まあ……」

 

「マジかよ!」

 

別の男も寄ってくる。

 

「武器は!?」

 

「剣です」

 

「どこの鍛冶屋だ!?」

 

「えっと……」

 

消えました。

 

なんて言ったら。

 

また変な顔をされる。

 

「秘密です」

 

「おお……!」

 

なぜか感心された。

 

「やっぱ冒険者って切り札は隠すもんだよな!」

 

「……そういうことにしとこう」

 

その時。

 

「レイさん」

 

聞き慣れた声。

 

振り返る。

 

受付にリリアさんがいた。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます」

 

助かった。

 

俺は冒険者たちの間を抜けて受付へ向かう。

 

「人気者ですね」

 

「勘弁してください」

 

「ふふ」

 

リリアさんが笑う。

 

いつも通りだ。

 

……と思ったけど。

 

「……?」

 

少し。

 

疲れている?

 

「リリアさん」

 

「はい?」

 

「昨日、ちゃんと寝ました?」

 

一瞬。

 

リリアさんの動きが止まった。

 

「……寝ましたよ?」

 

「その間はなんですか」

 

「気のせいです」

 

怪しい。

 

「もしかして夜更かし?」

 

「女性の生活を詮索するのは感心しませんね」

 

「そういう話じゃないでしょ」

 

「冗談です」

 

さらっとかわされた。

 

まあ。

 

本人が言いたくないなら仕方ない。

 

「それより」

 

リリアさんが一枚の書類を取り出す。

 

「レイさんにお知らせがあります」

 

「お」

 

来た。

 

「昨日のアイアンホーン討伐を含め、これまでの功績について審査が行われました」

 

「はい」

 

ちょっと緊張する。

 

リリアさんが俺のギルド証を差し出した。

 

「本日付で――」

 

少し笑って。

 

「レイ・アストレアさんを、Dランク冒険者として認定します」

 

「……おお」

 

ギルド証を見る。

 

昨日まで刻まれていた『E』が。

 

『D』に変わっている。

 

「上がった……」

 

「おめでとうございます」

 

「ありがとうございます!」

 

なんだろう。

 

嬉しい。

 

会社で昇進したことなんてないけど。

 

たぶん。

 

もし昇進していたとしても。

 

今ほど嬉しくはなかったと思う。

 

「ちなみに」

 

リリアさんが続ける。

 

「これはかなり異例です」

 

「ですよね」

 

「通常、EランクからDランクへ上がるには複数の依頼実績と、一定期間の活動が必要です」

 

「俺、昨日登録したばっかですもんね」

 

「はい」

 

リリアさんが笑顔で言う。

 

「ギルド史上でも相当な問題児です」

 

「褒めてないですよね?」

 

「もちろん」

 

「ですよね」

 

 

Dランクになると。

 

受けられる依頼が増えるらしい。

 

護衛。

 

魔物討伐。

 

危険地域での採取。

 

簡単な遺跡探索。

 

「遺跡……」

 

掲示板を見ながら呟く。

 

いいな。

 

めちゃくちゃ異世界っぽい。

 

「これとか――」

 

依頼書へ手を伸ばす。

 

その瞬間。

 

横から別の手が伸びてきた。

 

「あ」

 

「あ?」

 

同時に。

 

同じ依頼書を掴んだ。

 

俺は横を見る。

 

そこにいたのは。

 

俺と同じくらいの年齢の男だった。

 

明るい茶色の髪。

 

使い込まれた革鎧。

 

腰には片手剣。

 

背中には小さな盾。

 

いかにも。

 

冒険者。

 

そんな格好だ。

 

「……」

 

「……」

 

しばらく見つめ合う。

 

男が言った。

 

「俺が先だった」

 

「いや、俺だったと思うけど」

 

「俺だ」

 

「俺です」

 

「……」

 

「……」

 

男が依頼書を見る。

 

俺も見る。

 

そして。

 

「じゃんけんするか?」

 

「この世界にもじゃんけんあるの?」

 

「は?」

 

しまった。

 

「いや、なんでもない」

 

男が怪訝そうな顔をする。

 

「変な奴だな」

 

最近よく言われる。

 

「じゃあどうします?」

 

「決まってる」

 

男が依頼書を離した。

 

「お前が持ってけ」

 

「え?」

 

「俺は別の探す」

 

「いいんですか?」

 

「ああ」

 

意外だ。

 

もっと揉めるのかと思った。

 

「ありがとうございます」

 

「その代わり」

 

男が俺を見る。

 

「帰ってきたら話を聞かせろ」

 

「話?」

 

「その遺跡、俺も気になってたんだ」

 

ニッと笑う。

 

「面白いもんがあったら教えてくれ」

 

「ああ。分かった」

 

「俺はガイル」

 

男が手を差し出す。

 

「Dランク冒険者だ」

 

俺も手を出す。

 

「レイ。今日からDランク」

 

握手。

 

その瞬間。

 

ガイルの表情が止まった。

 

「……今日から?」

 

「うん」

 

「お前、昨日Eランクじゃなかったか?」

 

「よく知ってるな」

 

「お前がアイアンホーン引きずってきた奴かよ!?」

 

声がデカい。

 

「ちょ、静かに!」

 

「マジか!」

 

「だから声!」

 

周囲の冒険者がまたこっちを見る。

 

ガイルが笑う。

 

「面白ぇ奴じゃねぇか!」

 

「俺は静かに暮らしたいんだけど」

 

「無理だろ」

 

「なんで」

 

「昨日登録してアイアンホーン倒す奴が言う台詞じゃねぇ」

 

何も言い返せない。

 

「まあ、よろしくな。レイ」

 

「ああ」

 

ガイルは別の掲示板へ向かっていった。

 

俺はその背中を見る。

 

この世界に来て。

 

初めて。

 

同じ冒険者として知り合った人間。

 

「……ガイルか」

 

悪い奴ではなさそうだ。

 

 

受付へ戻る。

 

「これ、受けます」

 

依頼書をリリアさんへ渡す。

 

「確認しますね」

 

リリアさんが内容を見る。

 

その瞬間。

 

「……」

 

表情が変わった。

 

「どうしました?」

 

「この依頼……」

 

依頼内容。

 

街から北西。

 

森の外れにある古い遺跡。

 

最近。

 

その周辺で妙な音が聞こえるため、内部を確認してほしい。

 

危険があれば即撤退。

 

「Dランク向けの調査依頼ですね」

 

「面白そうじゃないですか?」

 

「レイさん」

 

「はい」

 

「昨日も調査依頼でしたよね?」

 

「そうですね」

 

「結果は?」

 

「魔物を倒しました」

 

「……」

 

「あ」

 

リリアさんが頭を抱える。

 

「今回は本当に調査だけにしてください」

 

「分かってますって」

 

「昨日もそう言ってました」

 

「……」

 

信用がない。

 

「とにかく」

 

リリアさんは依頼書へ受領印を押す。

 

「古い遺跡です。崩落している場所もあるので気をつけてください」

 

「はい」

 

「それと」

 

リリアさんが少しだけ声を落とす。

 

「もし」

 

「?」

 

「黒い傷のようなものを見つけたら」

 

俺を見る。

 

「触らずに戻ってきてください」

 

「……昨日の?」

 

アイアンホーン。

 

首元にあった。

 

あの黒い傷。

 

「何か分かったんですか?」

 

「まだ分かりません」

 

リリアさんは答える。

 

でも。

 

何かを知っている。

 

そんな顔だった。

 

「……分かりました」

 

俺はそれ以上聞かなかった。

 

依頼書を受け取る。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「はい」

 

数歩歩いて。

 

「レイさん」

 

呼び止められる。

 

振り返る。

 

「本当に」

 

リリアさんが念を押す。

 

「無茶しないでくださいね」

 

「分かってます」

 

「……信用できません」

 

「ひどいな!」

 

笑いながら。

 

俺はギルドを出た。

 

 

その日の昼。

 

街から北西へ。

 

森を抜けた先。

 

俺は。

 

その場所に立っていた。

 

「……これか」

 

崩れかけた石造りの建物。

 

蔦に覆われ。

 

半分は地面に埋まっている。

 

入口には。

 

見たことのない文字が刻まれていた。

 

「読めないな……」

 

俺は中へ入る。

 

暗い。

 

「光……作れるかな」

 

手を出す。

 

イメージ。

 

小さな光。

 

すると。

 

ふわり。

 

手のひらの上に白い光が浮かんだ。

 

「……便利すぎる」

 

光を前へ飛ばす。

 

遺跡の奥が照らされる。

 

石の壁。

 

崩れた柱。

 

古い彫刻。

 

「何年前の建物なんだろ」

 

進む。

 

その時。

 

足が止まった。

 

「……え?」

 

壁に。

 

何かが描かれている。

 

古い壁画。

 

人。

 

街。

 

山。

 

そして。

 

その中心に。

 

一人の人間。

 

両手を広げている。

 

その手から。

 

剣。

 

炎。

 

水。

 

建物。

 

植物。

 

様々なものが――

 

生み出されていた。

 

「…………」

 

俺は。

 

動けなかった。

 

「……これ」

 

見間違えるはずがない。

 

俺が。

 

この世界に来てから。

 

何度も使ってきた力。

 

「《創造》……?」

 

その瞬間。

 

遺跡の奥から。

 

――ドクン。

 

音がした。

 

「……?」

 

ドクン。

 

心臓のような。

 

低い音。

 

そして。

 

俺の頭の中で。

 

あの声が響いた。

 

《――確認》

 

「……え?」

 

《適合個体を確認》

 

背筋が凍る。

 

今までとは。

 

違う。

 

《創造》を使った時の声じゃない。

 

別の。

 

何か。

 

《封印領域――起動》

 

「ちょっと待て」

 

遺跡全体が。

 

震え始める。

 

「調査だけって言ったじゃん……!」

 

天井から砂埃が落ちる。

 

奥の闇。

 

その中で。

 

一つ。

 

また一つ。

 

青白い光が灯っていく。

 

俺は剣を創り出す。

 

「……」

 

そして。

 

思った。

 

帰ったら。

 

絶対。

 

リリアさんに怒られる。

 

 

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