『神様の手違いで死んだ社畜、異世界で《創造》の力を手に入れる』   作:やのちてぇ

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第十話 初めての昇格

 

 

翌朝。

 

目を覚ました瞬間。

 

「……身体、痛ぇ」

 

全身が悲鳴を上げた。

 

特に腕。

 

昨日、あの巨大な魔物――アイアンホーンと戦った時の疲れが、見事に残っている。

 

「異世界でも筋肉痛ってあるんだな……」

 

当たり前か。

 

ベッドの上で身体を起こす。

 

宿の小さな窓から朝日が差し込んでいた。

 

この世界に来てから。

 

朝、目を覚ますたびに少しだけ不思議な気持ちになる。

 

会社に行かなくていい。

 

上司から連絡も来ない。

 

満員電車もない。

 

今日何をするか。

 

自分で決められる。

 

「……最高かよ」

 

俺はベッドから降りた。

 

身体は痛いけど。

 

会社に行く朝より百倍気分がいい。

 

◇

 

朝食を済ませ。

 

俺は冒険者ギルドへ向かった。

 

昨日。

 

リリアさんから言われている。

 

――今回の功績について、ギルド内で検討します。

 

つまり。

 

ランクが上がるかもしれない。

 

「ゲームだったらレベルアップの瞬間なんだけどな」

 

少しだけ楽しみにしながら扉を開ける。

 

「おはようございま――」

 

「おっ!」

 

「来たぞ!」

 

「アイアンホーンの新人だ!」

 

「……」

 

帰りたい。

 

昨日まで。

 

俺なんて誰も知らなかった。

 

なのに。

 

今はギルドに入っただけで何人かがこっちを見る。

 

「お前、レイっていうんだろ?」

 

知らない冒険者が声をかけてくる。

 

「そうですけど」

 

「本当に一人でアイアンホーン倒したのか?」

 

「まあ……」

 

「マジかよ!」

 

別の男も寄ってくる。

 

「武器は!?」

 

「剣です」

 

「どこの鍛冶屋だ!?」

 

「えっと……」

 

消えました。

 

なんて言ったら。

 

また変な顔をされる。

 

「秘密です」

 

「おお……!」

 

なぜか感心された。

 

「やっぱ冒険者って切り札は隠すもんだよな!」

 

「……そういうことにしとこう」

 

その時。

 

「レイさん」

 

聞き慣れた声。

 

振り返る。

 

受付にリリアさんがいた。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます」

 

助かった。

 

俺は冒険者たちの間を抜けて受付へ向かう。

 

「人気者ですね」

 

「勘弁してください」

 

「ふふ」

 

リリアさんが笑う。

 

いつも通りだ。

 

……と思ったけど。

 

「……?」

 

少し。

 

疲れている?

 

「リリアさん」

 

「はい?」

 

「昨日、ちゃんと寝ました?」

 

一瞬。

 

リリアさんの動きが止まった。

 

「……寝ましたよ?」

 

「その間はなんですか」

 

「気のせいです」

 

怪しい。

 

「もしかして夜更かし?」

 

「女性の生活を詮索するのは感心しませんね」

 

「そういう話じゃないでしょ」

 

「冗談です」

 

さらっとかわされた。

 

まあ。

 

本人が言いたくないなら仕方ない。

 

「それより」

 

リリアさんが一枚の書類を取り出す。

 

「レイさんにお知らせがあります」

 

「お」

 

来た。

 

「昨日のアイアンホーン討伐を含め、これまでの功績について審査が行われました」

 

「はい」

 

ちょっと緊張する。

 

リリアさんが俺のギルド証を差し出した。

 

「本日付で――」

 

少し笑って。

 

「レイ・アストレアさんを、Dランク冒険者として認定します」

 

「……おお」

 

ギルド証を見る。

 

昨日まで刻まれていた『E』が。

 

『D』に変わっている。

 

「上がった……」

 

「おめでとうございます」

 

「ありがとうございます!」

 

なんだろう。

 

嬉しい。

 

会社で昇進したことなんてないけど。

 

たぶん。

 

もし昇進していたとしても。

 

今ほど嬉しくはなかったと思う。

 

「ちなみに」

 

リリアさんが続ける。

 

「これはかなり異例です」

 

「ですよね」

 

「通常、EランクからDランクへ上がるには複数の依頼実績と、一定期間の活動が必要です」

 

「俺、昨日登録したばっかですもんね」

 

「はい」

 

リリアさんが笑顔で言う。

 

「ギルド史上でも相当な問題児です」

 

「褒めてないですよね?」

 

「もちろん」

 

「ですよね」

 

◇

 

Dランクになると。

 

受けられる依頼が増えるらしい。

 

護衛。

 

魔物討伐。

 

危険地域での採取。

 

簡単な遺跡探索。

 

「遺跡……」

 

掲示板を見ながら呟く。

 

いいな。

 

めちゃくちゃ異世界っぽい。

 

「これとか――」

 

依頼書へ手を伸ばす。

 

その瞬間。

 

横から別の手が伸びてきた。

 

「あ」

 

「あ?」

 

同時に。

 

同じ依頼書を掴んだ。

 

俺は横を見る。

 

そこにいたのは。

 

俺と同じくらいの年齢の男だった。

 

明るい茶色の髪。

 

使い込まれた革鎧。

 

腰には片手剣。

 

背中には小さな盾。

 

いかにも。

 

冒険者。

 

そんな格好だ。

 

「……」

 

「……」

 

しばらく見つめ合う。

 

男が言った。

 

「俺が先だった」

 

「いや、俺だったと思うけど」

 

「俺だ」

 

「俺です」

 

「……」

 

「……」

 

男が依頼書を見る。

 

俺も見る。

 

そして。

 

「じゃんけんするか?」

 

「この世界にもじゃんけんあるの?」

 

「は?」

 

しまった。

 

「いや、なんでもない」

 

男が怪訝そうな顔をする。

 

「変な奴だな」

 

最近よく言われる。

 

「じゃあどうします?」

 

「決まってる」

 

男が依頼書を離した。

 

「お前が持ってけ」

 

「え?」

 

「俺は別の探す」

 

「いいんですか?」

 

「ああ」

 

意外だ。

 

もっと揉めるのかと思った。

 

「ありがとうございます」

 

「その代わり」

 

男が俺を見る。

 

「帰ってきたら話を聞かせろ」

 

「話?」

 

「その遺跡、俺も気になってたんだ」

 

ニッと笑う。

 

「面白いもんがあったら教えてくれ」

 

「ああ。分かった」

 

「俺はガイル」

 

男が手を差し出す。

 

「Dランク冒険者だ」

 

俺も手を出す。

 

「レイ。今日からDランク」

 

握手。

 

その瞬間。

 

ガイルの表情が止まった。

 

「……今日から?」

 

「うん」

 

「お前、昨日Eランクじゃなかったか?」

 

「よく知ってるな」

 

「お前がアイアンホーン引きずってきた奴かよ!?」

 

声がデカい。

 

「ちょ、静かに!」

 

「マジか!」

 

「だから声!」

 

周囲の冒険者がまたこっちを見る。

 

ガイルが笑う。

 

「面白ぇ奴じゃねぇか!」

 

「俺は静かに暮らしたいんだけど」

 

「無理だろ」

 

「なんで」

 

「昨日登録してアイアンホーン倒す奴が言う台詞じゃねぇ」

 

何も言い返せない。

 

「まあ、よろしくな。レイ」

 

「ああ」

 

ガイルは別の掲示板へ向かっていった。

 

俺はその背中を見る。

 

この世界に来て。

 

初めて。

 

同じ冒険者として知り合った人間。

 

「……ガイルか」

 

悪い奴ではなさそうだ。

 

◇

 

受付へ戻る。

 

「これ、受けます」

 

依頼書をリリアさんへ渡す。

 

「確認しますね」

 

リリアさんが内容を見る。

 

その瞬間。

 

「……」

 

表情が変わった。

 

「どうしました?」

 

「この依頼……」

 

依頼内容。

 

街から北西。

 

森の外れにある古い遺跡。

 

最近。

 

その周辺で妙な音が聞こえるため、内部を確認してほしい。

 

危険があれば即撤退。

 

「Dランク向けの調査依頼ですね」

 

「面白そうじゃないですか?」

 

「レイさん」

 

「はい」

 

「昨日も調査依頼でしたよね?」

 

「そうですね」

 

「結果は?」

 

「魔物を倒しました」

 

「……」

 

「あ」

 

リリアさんが頭を抱える。

 

「今回は本当に調査だけにしてください」

 

「分かってますって」

 

「昨日もそう言ってました」

 

「……」

 

信用がない。

 

「とにかく」

 

リリアさんは依頼書へ受領印を押す。

 

「古い遺跡です。崩落している場所もあるので気をつけてください」

 

「はい」

 

「それと」

 

リリアさんが少しだけ声を落とす。

 

「もし」

 

「?」

 

「黒い傷のようなものを見つけたら」

 

俺を見る。

 

「触らずに戻ってきてください」

 

「……昨日の?」

 

アイアンホーン。

 

首元にあった。

 

あの黒い傷。

 

「何か分かったんですか?」

 

「まだ分かりません」

 

リリアさんは答える。

 

でも。

 

何かを知っている。

 

そんな顔だった。

 

「……分かりました」

 

俺はそれ以上聞かなかった。

 

依頼書を受け取る。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「はい」

 

数歩歩いて。

 

「レイさん」

 

呼び止められる。

 

振り返る。

 

「本当に」

 

リリアさんが念を押す。

 

「無茶しないでくださいね」

 

「分かってます」

 

「……信用できません」

 

「ひどいな!」

 

笑いながら。

 

俺はギルドを出た。

 

◇

 

その日の昼。

 

街から北西へ。

 

森を抜けた先。

 

俺は。

 

その場所に立っていた。

 

「……これか」

 

崩れかけた石造りの建物。

 

蔦に覆われ。

 

半分は地面に埋まっている。

 

入口には。

 

見たことのない文字が刻まれていた。

 

「読めないな……」

 

俺は中へ入る。

 

暗い。

 

「光……作れるかな」

 

手を出す。

 

イメージ。

 

小さな光。

 

すると。

 

ふわり。

 

手のひらの上に白い光が浮かんだ。

 

「……便利すぎる」

 

光を前へ飛ばす。

 

遺跡の奥が照らされる。

 

石の壁。

 

崩れた柱。

 

古い彫刻。

 

「何年前の建物なんだろ」

 

進む。

 

その時。

 

足が止まった。

 

「……え?」

 

壁に。

 

何かが描かれている。

 

古い壁画。

 

人。

 

街。

 

山。

 

そして。

 

その中心に。

 

一人の人間。

 

両手を広げている。

 

その手から。

 

剣。

 

炎。

 

水。

 

建物。

 

植物。

 

様々なものが――

 

生み出されていた。

 

「…………」

 

俺は。

 

動けなかった。

 

「……これ」

 

見間違えるはずがない。

 

俺が。

 

この世界に来てから。

 

何度も使ってきた力。

 

「《創造》……?」

 

その瞬間。

 

遺跡の奥から。

 

――ドクン。

 

音がした。

 

「……?」

 

ドクン。

 

心臓のような。

 

低い音。

 

そして。

 

俺の頭の中で。

 

あの声が響いた。

 

《――確認》

 

「……え?」

 

《適合個体を確認》

 

背筋が凍る。

 

今までとは。

 

違う。

 

《創造》を使った時の声じゃない。

 

別の。

 

何か。

 

《封印領域――起動》

 

「ちょっと待て」

 

遺跡全体が。

 

震え始める。

 

「調査だけって言ったじゃん……!」

 

天井から砂埃が落ちる。

 

奥の闇。

 

その中で。

 

一つ。

 

また一つ。

 

青白い光が灯っていく。

 

俺は剣を創り出す。

 

「……」

 

そして。

 

思った。

 

帰ったら。

 

絶対。

 

リリアさんに怒られる。

 

 

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