『神様の手違いで死んだ社畜、異世界で《創造》の力を手に入れる』 作:やのちてぇ
森を歩き始めてから、どれくらい経っただろう。
「……疲れた」
俺は大きな木の根元に腰を下ろした。
異世界に来てから、まだ一日も経っていない。
なのに、既に色々ありすぎた。
神様の手違いで死亡。
異世界転生。
魔物との遭遇。
そして、チート能力《創造》。
「……人生、何が起こるか分からんな」
昨日まで会社員だった自分に言ってやりたい。
明日から異世界で生活するぞ、と。
たぶん信じてもらえない。
「まあ……そもそも死んでるしな」
苦笑する。
立ち上がって、再び歩き始める。
森を抜ける。
それだけを目標にして、ひたすら歩いた。
◆
しばらくすると、木々の間から光が見えた。
「……ん?」
足を速める。
そして――
「……うそだろ」
森を抜けた先。
そこには、広大な草原が広がっていた。
遠くには巨大な城壁。
その向こうに、建物がいくつも並んでいる。
煙突から煙が上がり、人々が行き交っている。
馬車まで走っていた。
「……街だ」
俺は思わず走り出した。
人がいる。
文明がある。
助けを求められる。
「やっと……!」
嬉しさのあまり、拳を握る。
森の中を一人で歩いていた時とは比べ物にならない安心感だった。
街へ向かって歩く。
近づくにつれて、その大きさに驚いた。
城壁は十メートル以上ある。
門の前には武装した兵士が立っている。
「……すげぇ」
完全にファンタジーだ。
ゲームの中で見たような光景。
いや。
ゲームよりずっとリアルだ。
「止まれ!」
「はいっ!」
門の前で兵士に声をかけられた。
「この街に入る目的は?」
「えーっと……」
困った。
何も考えていなかった。
「旅……です」
「旅?」
「はい」
兵士が俺を見る。
武器は持っている。
服装は……異世界の人間からすれば変かもしれない。
神様が用意してくれた服は普通の冒険者風だったが、それでもどこか違和感がある。
「身分証は?」
「……ないです」
兵士の眉が動く。
「身分証がない?」
「はい」
「どこから来た?」
「…………」
答えられない。
日本。
なんて言えるわけがない。
「……遠いところから」
「随分と曖昧だな」
「すみません」
兵士はしばらく俺を見つめた。
そして――
「初めて来たのか?」
「はい」
「なら、仮入街証を発行する。中に入ったら冒険者ギルドか役所で正式な身分証を作れ」
「冒険者ギルド?」
「ああ」
兵士が門の向こうを指差す。
「仕事を探しているなら、まずそこへ行くといい」
「分かりました」
門を通る。
その瞬間。
「…………」
俺は言葉を失った。
街の中は、人で溢れていた。
露店。
武器屋。
防具屋。
食堂。
宿屋。
様々な店が並んでいる。
そして――
耳の長い女性。
犬のような耳を持つ男性。
小さな身体の老人。
「…………」
俺は思わず立ち止まった。
「エルフ……?」
耳の長い女性がこちらを見る。
「獣人……?」
犬耳の男がこちらを通り過ぎる。
「ドワーフ……?」
ゲームでは何度も見た。
でも、実際に目の前にすると現実感がまるで違う。
「……すげぇ」
口から出たのは、それだけだった。
異世界だ。
本当に。
ここは俺が知っている世界じゃない。
◆
「まずは金だな」
街を歩きながら考える。
食料は《創造》で作れる。
武器も作れる。
水も作れる。
でも、ずっとそれだけで生活するわけにはいかない。
何より――
「この世界の金、持ってないし」
財布の中を確認する。
日本円。
「……使えないよな」
当然だ。
コンビニで使ってみようかとも思ったが、そもそもコンビニがない。
当たり前だけど。
「仕事探さないとな」
会社員時代の癖でそう考えてしまう。
そして、自分で笑った。
「……いや、異世界に来てまで働く必要あるか?」
自由に生きると決めたばかりだ。
できれば会社員みたいな生活は二度としたくない。
そう思いながら歩いていると――
「お兄さん、冒険者にならない?」
「……え?」
声をかけてきたのは、小さな露店のおじさんだった。
「冒険者?」
「そう。あんた、旅人だろ?」
「まあ……」
「ならギルドに行けばいい。登録料は必要だが、依頼をこなせば金になる」
「なるほど……」
冒険者。
ゲームではお馴染みの存在だ。
魔物を倒したり、護衛をしたり、素材を集めたり。
「……面白そうだな」
「だろ?」
おじさんは笑った。
「この街なら東門の近くにギルドがある。大きな建物だからすぐ分かる」
「ありがとうございます」
礼を言って歩き出す。
冒険者ギルド。
それなら、金も稼げる。
身分証も作れる。
そして何より――
「魔物と戦える」
昨日、初めて魔物を倒した。
怖かった。
でも同時に――
どこか興奮していた。
自分の力で生きている。
そんな感覚があった。
◆
街を歩いていると、宿屋を見つけた。
「……今日はここに泊まるか」
財布がないので泊まれない。
「…………」
現実は厳しい。
「金、稼がないとな」
仕方なく、《創造》で簡単な食事を作り、人気の少ない路地裏で腹を満たした。
そして夜。
俺は街の外れにある小さな丘から、街を眺めていた。
無数の明かり。
人々の声。
遠くには大きな城。
「……前世とは違うな」
スマホもない。
会社もない。
上司もいない。
だけど――
少しだけ寂しかった。
「……あいつ、今頃何してんのかな」
ゲーム友達の顔を思い浮かべる。
いつもなら、この時間にはゲームをしていた。
『今日も一戦やる?』
そんなメッセージが来る時間だ。
「……まあ」
空を見上げる。
この世界には、見たことのない星がたくさん浮かんでいる。
「俺は俺で、楽しむか」
そう呟いた。
前世でできなかったこと。
行ったことのない場所。
見たことのない景色。
やったことのないこと。
全部やってみたい。
「冒険者……か」
俺は立ち上がる。
「明日、行ってみよう」
その瞬間。
遠くの森から――
巨大な咆哮が響いた。
「…………」
街の人々が一斉に森を見る。
兵士たちが慌ただしく動き始める。
「なんだ……?」
次の瞬間。
街の鐘が鳴り響いた。
――ゴォォォン。
――ゴォォォン。
――ゴォォォン。
俺は知らなかった。
この街では、魔物による襲撃が珍しくないことを。
そして――
明日、冒険者ギルドへ向かうはずだった俺の予定が、大きく変わることになる。