『神様の手違いで死んだ社畜、異世界で《創造》の力を手に入れる』   作:やのちてぇ

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第参話  初めての街

 

 

 森を歩き始めてから、どれくらい経っただろう。

 

「……疲れた」

 

 俺は大きな木の根元に腰を下ろした。

 

 異世界に来てから、まだ一日も経っていない。

 

 なのに、既に色々ありすぎた。

 

 神様の手違いで死亡。

 

 異世界転生。

 

 魔物との遭遇。

 

 そして、チート能力《創造》。

 

「……人生、何が起こるか分からんな」

 

 昨日まで会社員だった自分に言ってやりたい。

 

 明日から異世界で生活するぞ、と。

 

 たぶん信じてもらえない。

 

「まあ……そもそも死んでるしな」

 

 苦笑する。

 

 立ち上がって、再び歩き始める。

 

 森を抜ける。

 

 それだけを目標にして、ひたすら歩いた。

 

     ◆

 

 しばらくすると、木々の間から光が見えた。

 

「……ん?」

 

 足を速める。

 

 そして――

 

「……うそだろ」

 

 森を抜けた先。

 

 そこには、広大な草原が広がっていた。

 

 遠くには巨大な城壁。

 

 その向こうに、建物がいくつも並んでいる。

 

 煙突から煙が上がり、人々が行き交っている。

 

 馬車まで走っていた。

 

「……街だ」

 

 俺は思わず走り出した。

 

 人がいる。

 

 文明がある。

 

 助けを求められる。

 

「やっと……!」

 

 嬉しさのあまり、拳を握る。

 

 森の中を一人で歩いていた時とは比べ物にならない安心感だった。

 

 街へ向かって歩く。

 

 近づくにつれて、その大きさに驚いた。

 

 城壁は十メートル以上ある。

 

 門の前には武装した兵士が立っている。

 

「……すげぇ」

 

 完全にファンタジーだ。

 

 ゲームの中で見たような光景。

 

 いや。

 

 ゲームよりずっとリアルだ。

 

「止まれ!」

 

「はいっ!」

 

 門の前で兵士に声をかけられた。

 

「この街に入る目的は?」

 

「えーっと……」

 

 困った。

 

 何も考えていなかった。

 

「旅……です」

 

「旅?」

 

「はい」

 

 兵士が俺を見る。

 

 武器は持っている。

 

 服装は……異世界の人間からすれば変かもしれない。

 

 神様が用意してくれた服は普通の冒険者風だったが、それでもどこか違和感がある。

 

「身分証は?」

 

「……ないです」

 

 兵士の眉が動く。

 

「身分証がない?」

 

「はい」

 

「どこから来た?」

 

「…………」

 

 答えられない。

 

 日本。

 

 なんて言えるわけがない。

 

「……遠いところから」

 

「随分と曖昧だな」

 

「すみません」

 

 兵士はしばらく俺を見つめた。

 

 そして――

 

「初めて来たのか?」

 

「はい」

 

「なら、仮入街証を発行する。中に入ったら冒険者ギルドか役所で正式な身分証を作れ」

 

「冒険者ギルド?」

 

「ああ」

 

 兵士が門の向こうを指差す。

 

「仕事を探しているなら、まずそこへ行くといい」

 

「分かりました」

 

 門を通る。

 

 その瞬間。

 

「…………」

 

 俺は言葉を失った。

 

 街の中は、人で溢れていた。

 

 露店。

 

 武器屋。

 

 防具屋。

 

 食堂。

 

 宿屋。

 

 様々な店が並んでいる。

 

 そして――

 

 耳の長い女性。

 

 犬のような耳を持つ男性。

 

 小さな身体の老人。

 

「…………」

 

 俺は思わず立ち止まった。

 

「エルフ……?」

 

 耳の長い女性がこちらを見る。

 

「獣人……?」

 

 犬耳の男がこちらを通り過ぎる。

 

「ドワーフ……?」

 

 ゲームでは何度も見た。

 

 でも、実際に目の前にすると現実感がまるで違う。

 

「……すげぇ」

 

 口から出たのは、それだけだった。

 

 異世界だ。

 

 本当に。

 

 ここは俺が知っている世界じゃない。

 

     ◆

 

「まずは金だな」

 

 街を歩きながら考える。

 

 食料は《創造》で作れる。

 

 武器も作れる。

 

 水も作れる。

 

 でも、ずっとそれだけで生活するわけにはいかない。

 

 何より――

 

「この世界の金、持ってないし」

 

 財布の中を確認する。

 

 日本円。

 

「……使えないよな」

 

 当然だ。

 

 コンビニで使ってみようかとも思ったが、そもそもコンビニがない。

 

 当たり前だけど。

 

「仕事探さないとな」

 

 会社員時代の癖でそう考えてしまう。

 

 そして、自分で笑った。

 

「……いや、異世界に来てまで働く必要あるか?」

 

 自由に生きると決めたばかりだ。

 

 できれば会社員みたいな生活は二度としたくない。

 

 そう思いながら歩いていると――

 

「お兄さん、冒険者にならない?」

 

「……え?」

 

 声をかけてきたのは、小さな露店のおじさんだった。

 

「冒険者?」

 

「そう。あんた、旅人だろ?」

 

「まあ……」

 

「ならギルドに行けばいい。登録料は必要だが、依頼をこなせば金になる」

 

「なるほど……」

 

 冒険者。

 

 ゲームではお馴染みの存在だ。

 

 魔物を倒したり、護衛をしたり、素材を集めたり。

 

「……面白そうだな」

 

「だろ?」

 

 おじさんは笑った。

 

「この街なら東門の近くにギルドがある。大きな建物だからすぐ分かる」

 

「ありがとうございます」

 

 礼を言って歩き出す。

 

 冒険者ギルド。

 

 それなら、金も稼げる。

 

 身分証も作れる。

 

 そして何より――

 

「魔物と戦える」

 

 昨日、初めて魔物を倒した。

 

 怖かった。

 

 でも同時に――

 

 どこか興奮していた。

 

 自分の力で生きている。

 

 そんな感覚があった。

 

     ◆

 

 街を歩いていると、宿屋を見つけた。

 

「……今日はここに泊まるか」

 

 財布がないので泊まれない。

 

「…………」

 

 現実は厳しい。

 

「金、稼がないとな」

 

 仕方なく、《創造》で簡単な食事を作り、人気の少ない路地裏で腹を満たした。

 

 そして夜。

 

 俺は街の外れにある小さな丘から、街を眺めていた。

 

 無数の明かり。

 

 人々の声。

 

 遠くには大きな城。

 

「……前世とは違うな」

 

 スマホもない。

 

 会社もない。

 

 上司もいない。

 

 だけど――

 

 少しだけ寂しかった。

 

「……あいつ、今頃何してんのかな」

 

 ゲーム友達の顔を思い浮かべる。

 

 いつもなら、この時間にはゲームをしていた。

 

『今日も一戦やる?』

 

 そんなメッセージが来る時間だ。

 

「……まあ」

 

 空を見上げる。

 

 この世界には、見たことのない星がたくさん浮かんでいる。

 

「俺は俺で、楽しむか」

 

 そう呟いた。

 

 前世でできなかったこと。

 

 行ったことのない場所。

 

 見たことのない景色。

 

 やったことのないこと。

 

 全部やってみたい。

 

「冒険者……か」

 

 俺は立ち上がる。

 

「明日、行ってみよう」

 

 その瞬間。

 

 遠くの森から――

 

 巨大な咆哮が響いた。

 

「…………」

 

 街の人々が一斉に森を見る。

 

 兵士たちが慌ただしく動き始める。

 

「なんだ……?」

 

 次の瞬間。

 

 街の鐘が鳴り響いた。

 

 ――ゴォォォン。

 

 ――ゴォォォン。

 

 ――ゴォォォン。

 

 俺は知らなかった。

 

 この街では、魔物による襲撃が珍しくないことを。

 

 そして――

 

 明日、冒険者ギルドへ向かうはずだった俺の予定が、大きく変わることになる。

 

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