『神様の手違いで死んだ社畜、異世界で《創造》の力を手に入れる』   作:やのちてぇ

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第六話  初めてのクエスト

 

 

冒険者ギルドを出た俺は、掲示板の前でもらった依頼書を片手に立っていた。

 

依頼内容は――薬草採取。

 

報酬は、一束につき銅貨数枚。

 

……地味だ。

 

昨日、グレイブウルフとかいう化け物と戦った人間が、今日は薬草を探している。

 

なんだこの落差。

 

「まあ、最初の仕事なんてこんなもんか」

 

俺は依頼書をポケットにしまい、街の外へ向かった。

 

昨日と同じ門を抜ける。

 

門番のおじさんが俺を見るなり、少し驚いた顔をした。

 

「おう。昨日の兄ちゃんか」

 

「……昨日の?」

 

「グレイブウルフを一人で倒したっていう」

 

「あー……」

 

やっぱり噂になってる。

 

「薬草採取か?」

 

「はい。初クエストなんで」

 

「そうか。気をつけろよ」

 

「ありがとうございます」

 

門を抜ける。

 

昨日はただ街を探して歩いていた。

 

でも今日は違う。

 

俺は今――

 

冒険者として、この世界を歩いている。

 

「……なんか、ちょっとだけ実感湧いてきたな」

 

そう呟きながら、森へ入っていく。

 

しばらく歩くと、依頼書に書かれていた薬草を見つけた。

 

緑色の小さな葉。

 

見た目はそこまで珍しくない。

 

「これか?」

 

俺はしゃがみ込み、薬草を確認する。

 

すると――

 

頭の中に、あの感覚が走った。

 

《創造》

 

……。

 

俺は周囲を見渡した。

 

誰もいない。

 

「試してみるか」

 

目の前の薬草を見つめる。

 

そして頭の中で、

 

――これと同じものを作る。

 

そうイメージした。

 

瞬間。

 

手のひらに光が集まった。

 

「……お?」

 

光が消える。

 

そこには――

 

さっき見つけたものと全く同じ薬草があった。

 

「…………」

 

俺は固まった。

 

「……できた」

 

もう一度。

 

今度は二本。

 

すると、手の中に二本の薬草が現れる。

 

「…………これ、やっぱり何でも作れるんじゃ?」

 

昨日は水。

 

食べ物。

 

武器。

 

そして炎。

 

今日は薬草。

 

俺の《創造》は、思っていた以上に何でもありらしい。

 

「いや……待てよ」

 

俺は作った薬草をじっと見る。

 

見た目は完全に本物。

 

匂いも同じ。

 

触った感触も同じ。

 

「じゃあ、これを依頼品として持っていったら……?」

 

考えてみる。

 

薬草を作る。

 

ギルドへ持っていく。

 

依頼達成。

 

報酬をもらう。

 

「…………」

 

俺は自分の手を見る。

 

「めちゃくちゃ楽じゃん」

 

思わず笑ってしまった。

 

だが――

 

その瞬間だった。

 

手の中の薬草が、ふっと消えた。

 

「え?」

 

俺は目を見開く。

 

消えた。

 

確かにそこにあったはずなのに。

 

「……なんで?」

 

もう一度作る。

 

今度は消えない。

 

数秒。

 

十秒。

 

一分。

 

「……」

 

突然、頭の中に一つの感覚が浮かんだ。

 

――理解しているものしか、作れない。

 

そんな気がした。

 

「理解……?」

 

俺は薬草を見る。

 

名前は知らない。

 

効果も知らない。

 

ただ、見た目を真似して作っただけだ。

 

「じゃあ……」

 

俺は薬草を一枚摘んで、口に入れた。

 

「苦っ……!」

 

思わず顔をしかめる。

 

だが、少し待つ。

 

「……?」

 

体に変化はない。

 

少なくとも毒ではなさそうだ。

 

俺は依頼書を確認する。

 

薬草は傷の治療や簡単な回復薬に使われるらしい。

 

「なるほど……」

 

つまり俺は、見た目だけなら作れる。

 

でも、その物がどういうものなのか。

 

どういう性質を持っているのか。

 

そこまで理解していないと、完全なものは作れない。

 

「……たぶん」

 

まだ確信はない。

 

でも、これまでの《創造》を考えれば、なんとなく分かる。

 

俺が作った剣。

 

あれも「剣」というものを知っていたから作れた。

 

水も。

 

食べ物も。

 

炎も。

 

全部、俺の中にある知識やイメージを形にしたものだ。

 

「ってことは……」

 

俺は空を見上げる。

 

「知識が増えれば増えるほど、作れるものも増えるってことか?」

 

もしそうなら。

 

この能力は――

 

とんでもない。

 

「……まあ、今考えても分からんか」

 

俺は薬草を採取する。

 

作ったものではなく、ちゃんと地面から採った本物を。

 

依頼書には必要数が書かれている。

 

「よし。とりあえず十本」

 

一つずつ丁寧に採取していく。

 

採取している途中、森の奥から物音がした。

 

ガサッ。

 

「……」

 

俺は動きを止める。

 

ガサッ。

 

まただ。

 

「昨日みたいなのじゃないよな……?」

 

腰に手を伸ばす。

 

何もない。

 

そういえば、街に入る前に作った剣は消していた。

 

「《創造》」

 

手の中に剣を作り出す。

 

昨日よりも自然に出せるようになっている。

 

剣を構える。

 

森の奥から――

 

一匹の小さな魔物が姿を現した。

 

「……なんだ、お前」

 

見た目は大きなネズミ。

 

赤い目。

 

鋭い牙。

 

でも、昨日のグレイブウルフとは比べ物にならない。

 

魔物も俺を見つける。

 

「キィッ!」

 

飛びかかってくる。

 

俺は横へ避けた。

 

そして――

 

「よっと!」

 

剣を振る。

 

ズバッ。

 

魔物は地面に落ちた。

 

「……」

 

俺は自分でも驚いた。

 

昨日までなら、こんな動きはできなかった。

 

「ちょっと慣れてきた……?」

 

戦うことに慣れた。

 

というより――

 

死ぬかもしれない、という恐怖が少し薄れている。

 

それが良いことなのかは分からない。

 

でも。

 

「……冒険者っぽくなってきたな」

 

俺は魔物を見下ろして笑った。

 

その後、薬草を必要数集め、街へ戻る。

 

夕方。

 

冒険者ギルドに入ると、昨日の受付――

 

リリアさんがこちらに気づいた。

 

「あ、レイさん」

 

「こんにちは」

 

「お疲れ様です。今日は……」

 

リリアさんの視線が、俺の手元へ移る。

 

「薬草採取ですね」

 

「はい。初クエスト、終わりました」

 

「おお……!」

 

リリアさんが嬉しそうに笑う。

 

「初クエスト達成、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「では、確認しますね」

 

薬草を一つずつ確認していく。

 

「……はい。問題ありません」

 

リリアさんが依頼達成の処理をする。

 

「報酬はこちらです」

 

手渡されたのは、数枚の銅貨。

 

「……これが冒険者として初めて稼いだ金か」

 

俺は銅貨を眺める。

 

たった数枚。

 

でも。

 

なんだか妙に嬉しかった。

 

会社員だった頃。

 

給料日に振り込まれる金額を見ても、こんな気持ちにはならなかった。

 

自分で選んで。

 

自分で動いて。

 

自分で手に入れた。

 

「……悪くないな」

 

「ふふ」

 

リリアさんが笑う。

 

「嬉しそうですね」

 

「まあ、初めてなんで」

 

「レイさんって、案外こういうところは普通なんですね」

 

「案外ってなんですか」

 

「昨日、グレイブウルフを一人で倒した人には見えません」

 

「俺もそう思います」

 

「そこは否定してくださいよ」

 

リリアさんが少し困ったように笑う。

 

俺も笑った。

 

――この世界に来て。

 

まだ数日。

 

何も知らない。

 

知り合いもいない。

 

それでも。

 

少しずつ。

 

この世界での自分の居場所ができている気がした。

 

「じゃあ、次の依頼でも探してみます」

 

「はい。ですが、無理はしないでくださいね」

 

「分かりました」

 

掲示板へ向かう。

 

その背中を、リリアはじっと見ていた。

 

「……本当に、不思議な人ですね」

 

そして。

 

俺が次の依頼書を手に取った瞬間――

 

ギルドの入口が、勢いよく開いた。

 

「大変だ!!」

 

男が息を切らして飛び込んでくる。

 

ギルド中の視線が集まった。

 

「森の北側で――」

 

男は叫ぶ。

 

「巨大な魔物が出た!!」

 

――その瞬間。

 

俺の中で。

 

昨日と同じ感覚が、微かに疼いた。

 

《創造》が。

 

何かを待っているように。

 

「…………え?」

 

俺は、自分の手を見る。

 

そして――

 

まだ俺は知らなかった。

 

この世界で初めて受ける本格的な依頼が。

 

俺の《創造》の秘密に――

 

少しずつ繋がっていくことを。

 

 




薬草ってそのまま食べるもんなの?
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