『神様の手違いで死んだ社畜、異世界で《創造》の力を手に入れる』   作:やのちてぇ

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第七話 初めての本格依頼

 

 

「森の北側で――巨大な魔物が出た!!」

 

ギルド内に、男の声が響いた。

 

一瞬。

 

誰も動かなかった。

 

それから、ざわざわと話し声が広がっていく。

 

「巨大な魔物って……どのくらいだ?」

 

「見たのか?」

 

「北側って、あの辺りか?」

 

男は息を整えながら答える。

 

「森の奥だ……! 木よりデカかった!」

 

「木より……?」

 

俺は思わず呟いた。

 

昨日のグレイブウルフですら、俺には十分デカかった。

 

それよりさらに大きい。

 

「……マジかよ」

 

その時。

 

受付カウンターからリリアさんが立ち上がった。

 

「詳しく聞かせてください」

 

いつもの柔らかい笑顔ではない。

 

真剣な顔だった。

 

「何人で確認しましたか?」

 

「俺を含めて三人だ。薬草を採りに行ってたんだが……途中で地面が揺れてな」

 

「怪我人は?」

 

「一人、足をやられた。今は街の治療所に運んでる」

 

リリアさんはすぐに別の職員へ指示を出す。

 

「北側の門を一時封鎖してください。それと、森へ向かう冒険者には注意を――」

 

そこまで聞いて。

 

俺は掲示板から手を離した。

 

「……俺、行きます」

 

リリアさんがこちらを見る。

 

「え?」

 

「その魔物を見に行きます」

 

「おすすめしません」

 

即答だった。

 

「ですよね」

 

「昨日のグレイブウルフとは話が違います」

 

「でも……」

 

俺は自分の手を見る。

 

《創造》。

 

剣も作れる。

 

炎も作れる。

 

防具だって作れる。

 

それに――

 

俺にはまだ、この力の全部が分かっていない。

 

だからこそ。

 

知りたい。

 

「俺の力が、どこまで通用するのか」

 

「レイさん」

 

リリアさんが真っ直ぐ俺を見る。

 

「これは遊びではありません」

 

「……はい」

 

「巨大な魔物という情報しかないんです。強さも、種類も分からない。最悪の場合、戻ってこられない可能性もあります」

 

「分かってます」

 

本当は。

 

少し怖い。

 

でも――

 

昨日もそうだった。

 

怖いからって逃げたら。

 

あの女の子は助からなかった。

 

「それでも、行きます」

 

しばらく沈黙が続いた。

 

やがて。

 

リリアさんが小さくため息をつく。

 

「……本当に、変な人ですね」

 

「昨日も言われました」

 

「褒めてませんよ」

 

そう言いながらも、リリアさんは依頼書を一枚取り出した。

 

「正式な討伐依頼ではありません。現状確認と、可能なら魔物の種類を特定する調査依頼です」

 

「それなら受けられるんですか?」

 

「はい。ただし――」

 

リリアさんは依頼書を差し出した。

 

「絶対に無理はしないこと」

 

「分かりました」

 

「危険だと思ったら、すぐ逃げてください」

 

「了解です」

 

「本当に?」

 

「……たぶん」

 

「そこは即答してください」

 

俺は笑った。

 

依頼書を受け取る。

 

報酬は薬草採取とは比べ物にならない。

 

銀貨数枚。

 

「結構もらえるんですね」

 

「危険度が違いますから」

 

「なるほど」

 

俺は剣を作り出す。

 

昨日よりもずっと自然に。

 

そして――

 

一度、消す。

 

「……?」

 

リリアさんが不思議そうに見る。

 

「どうしました?」

 

「いや……今、剣を出しましたよね?」

 

「はい」

 

「消しましたよね?」

 

「はい」

 

「……」

 

リリアさんが黙る。

 

「どうかしました?」

 

「いえ」

 

少し考えてから。

 

「やっぱり変な人ですね」

 

「また!?」

 

俺は苦笑しながらギルドを出た。

 

 

街の北門を抜ける。

 

森へ入った瞬間。

 

空気が変わった。

 

昨日まで何度か歩いた森とは違う。

 

鳥の声がない。

 

虫の音も少ない。

 

風が吹くたびに、木々がざわざわと揺れる。

 

「……静かすぎる」

 

俺は剣を作る。

 

そして、ゆっくり歩く。

 

しばらくすると。

 

地面に何かが落ちていた。

 

「……これ」

 

木の枝。

 

いや。

 

枝じゃない。

 

折れた木だ。

 

根元からではなく――

 

途中から、まるで何かに薙ぎ払われたように折れている。

 

「デカい魔物……」

 

さらに進む。

 

今度は地面に巨大な足跡を見つけた。

 

「うわ……」

 

俺の足の二倍。

 

三倍はある。

 

「こんなのが森を歩いてんのかよ……」

 

その時。

 

ドン。

 

地面が揺れた。

 

「……!」

 

ドン。

 

また揺れる。

 

俺は剣を構えた。

 

「来る……」

 

木々の向こう。

 

何かが動いた。

 

バキバキバキッ!!

 

木が倒れる。

 

そして――

 

姿を現した。

 

「…………」

 

俺は言葉を失った。

 

巨大な四足歩行の魔物。

 

全身を黒い毛が覆い。

 

頭には二本の巨大な角。

 

口からは、白い息が漏れている。

 

「……熊?」

 

いや。

 

違う。

 

熊に似ているが、明らかに別物だ。

 

そして何より――

 

デカい。

 

「……デカすぎるだろ」

 

魔物が俺を見る。

 

赤い目。

 

その瞬間。

 

空気が震えた。

 

「グオオオオオオオオッ!!」

 

咆哮。

 

耳が痛い。

 

身体が勝手に後ろへ下がる。

 

「……っ!」

 

怖い。

 

昨日とは違う。

 

こいつは――

 

明らかに格が違う。

 

魔物が地面を蹴る。

 

「来る!」

 

俺は横へ飛んだ。

 

ズドォォン!!

 

さっきまで俺がいた場所に巨大な腕が叩きつけられる。

 

土が舞う。

 

「うわっ!!」

 

転がりながら立ち上がる。

 

「……こんなの、まともに食らったら死ぬ!」

 

剣を構える。

 

どうする。

 

剣じゃ足りない。

 

なら――

 

もっと強い武器を。

 

巨大な槍。

 

いや。

 

遠距離攻撃の方がいい。

 

弓?

 

魔法?

 

炎?

 

「《創造》!」

 

手のひらに魔力が集まる。

 

炎が生まれる。

 

「これなら――!」

 

炎を魔物へ向ける。

 

放つ。

 

轟ッ!!

 

炎が魔物に直撃する。

 

「効いた!?」

 

一瞬、黒い毛が燃えた。

 

だが。

 

魔物は止まらない。

 

「嘘だろ……」

 

炎を振り払うように身体を振る。

 

そして。

 

俺へ向かって突進してきた。

 

「くっ!」

 

俺は走る。

 

木を避ける。

 

魔物の爪を避ける。

 

それでも――

 

速い。

 

「なんでデカいのにこんな速いんだよ!」

 

背後から木が倒れる。

 

ドォン!

 

俺は振り返らずに走った。

 

このままじゃまずい。

 

攻撃が通らない。

 

なら。

 

もっと強いものを作る。

 

もっと。

 

もっと――

 

「……!」

 

その瞬間。

 

頭の中に、あの感覚が走った。

 

《創造》。

 

でも今回は。

 

いつもと違う。

 

まるで。

 

《創造》の方から――

 

問いかけられているようだった。

 

――何を創る?

 

俺は立ち止まる。

 

「……何をって」

 

魔物がこちらを見る。

 

俺は剣を握り直す。

 

「決まってるだろ」

 

昨日。

 

女の子を守った時。

 

炎を纏った剣。

 

あれが頭に浮かぶ。

 

でも。

 

今回はそれじゃ足りない。

 

もっと強く。

 

もっと鋭く。

 

もっと――

 

「こいつを倒せるものを」

 

魔力が、一気に膨れ上がった。

 

「……え?」

 

自分でも分かる。

 

今までとは違う。

 

身体の奥から、何かが溢れてくる。

 

そして。

 

俺の手の中に――

 

光が集まり始めた。

 

魔物が咆哮する。

 

森が揺れる。

 

俺はその光を見つめながら。

 

初めて思った。

 

もしかすると。

 

俺がもらった《創造》は――

 

ただ「物を作る力」なんかじゃないのかもしれない。

 

光が。

 

さらに強くなる。

 

そして――

 

何かが、形を持ち始めた。

 

 

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